【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造推進事業「フッ化物ユニバーサル高誘電体極薄膜材料の創出」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】半導体層1とバッファ層2と絶縁体層3と導電体層4を有し、絶縁体層が半導体層と導電体層で挟まれたMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)型半導体構造101を有するMIS型半導体装置である。絶縁体層は、セリウムフッ化物CeF2を含む。
前記絶縁体層は真空蒸着法により形成され、前記真空蒸着を行うときの温度は20℃以上500℃以下である、請求項9または10記載のMIS型半導体装置の製造方法。
【背景技術】
【0002】
MIS(Metal−Insulator−Semiconductor)型半導体装置であるMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)の高速化に伴い、電界一定のスケーリングのためにトランジスタの微細化が進んでいる。
MISFETの性能指標の一つは電流駆動能力Gmであり、Gmは移動度μと、ゲート幅Wと、ゲート電極、ゲート絶縁膜および半導体基板とで構成されるキャパシタの静電容量(ゲート容量)Coxに比例し、ゲート長Lに反比例する。そこで、ゲート絶縁膜の薄膜化とゲート長Lの微細化によってMISFETの高速化が図られてきている。
【0003】
ゲート絶縁膜の物理的厚さを2nm以下まで薄膜化した場合、トンネルリーク電流が増加してゲート電圧印加時の絶縁耐性が著しく低下し、MISFETの消費電力が増加する。
ゲート容量Coxは比誘電率に比例し、ゲート絶縁膜の厚さに反比例する。この関係に着目して、従来、ゲート絶縁膜として主流として使用されてきたシリコン酸化膜(SiO
2膜)よりも誘電率の高い絶縁膜を用いる高誘電率絶縁膜(High−k膜)を用いたトランジスタの開発が精力的に進められている(特許文献1参照)。High−k膜を用いると、同一のゲート容量Coxを得るのに必要な物理的膜厚を厚くすることができ、トンネルリーク電流を抑制できる。なお、SiO
2膜の比誘電率εは約3.9である。このようなことから、開発が進められているHigh−k膜(High−kゲート絶縁膜)としては、ハフニウム酸化膜(HfO
2)、ジルコニウム酸化膜(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、それらのシリケートおよびアルミネート、並びに希土類酸化物膜等の酸化膜が挙げられる。
【0004】
しかしながら、酸化膜系のHigh−kゲート絶縁膜は、半導体界面に所望ではない酸化層を形成する傾向があり、その酸化層がゲート容量Coxを減らし、電流駆動能力Gmなどを低下させるという問題があった。すなわち、ゲート絶縁膜がHigh−k膜とその酸化層との積層膜となって実効的なゲート絶縁膜の誘電率を低下させ、また、実効的なゲート絶縁膜の膜厚が厚くなって、電流駆動能力Gmなどを低下させるという問題があった。
【0005】
また、シリコンなど多くの半導体では、半導体とゲート絶縁膜の界面に水素が導入されると界面準位が形成されてMIS型半導体装置の特性を劣化させるという問題が多々発生する。特に、ゲート絶縁膜として広く使用されているSiO
2は、水素を透過しやすく水素透過による界面準位の発生が問題になっている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
High−kのゲート絶縁膜として酸化膜を用いると、半導体界面も酸化されて非所望の酸化膜が半導体とHigh−kゲート絶縁膜の間に成長しやすい。例えば、High−k膜としてHfO
2、半導体としてSiを用いた場合、Siの表面にSiO
2が成長する。この場合、ゲート絶縁膜はSiO
2とHfO
2からなる2層膜となる。SiO
2の比誘電率は3.9と高くないため、HfO
2からなるHigk−k膜を用いても思うようにはゲート絶縁膜の誘電率を上げることができない。さらに、SiO
2とHfO
2との間で準位を作ることもあり、作製したMIS半導体装置の電気特性が不安定になったり、信頼性が低下したりする。
そこで、酸化膜に替わるゲート絶縁膜を試行錯誤の上各種検討した。その結果、セリウムフッ化物がHigh−kゲート絶縁膜として好適な膜であることを見出した。なお、フッ化物をHigh−kゲート絶縁膜として用いる試みの例としてはLaF
3があり、特許文献2に記載がある。
【0012】
本発明のMIS構造101は、
図1に示すように、半導体層1上にバッファー層2、セリウムフッ化物層3および導電体層4が順次形成された構造になっている。
【0013】
ここで、半導体層1の材料としては、例えば、4族半導体(IV属半導体)であるシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、3−5族化合物半導体(III−V族化合物半導体)であるガリウムヒ素化合物(GaAs)、インジウムリン化合物(InP)、2−6族化合物半導体(II−VI属化合物半導体)である亜鉛セレン化合物(ZnSe)、カドミウム硫黄化合物(CdS)、4族化合物半導体(IV属化合物半導体)である炭化ケイ素(SiC)、シリコンゲルマ化合物(SiGe)を挙げることができる。
半導体層1にはドーパントを添加する。ドーパントは通常用いられているものでよく、例えば、SiやGeなどのIV属半導体に対して、n型半導体層とするときには、ヒ素(As)、リン(P)、アンチモン(Sb)、窒素(N)などを、またp型半導体層とするときには、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)などを用いることができる。
【0014】
セリウムフッ化物層3はCeF
3膜からなる。CeF
3膜は真空蒸着法により成膜することが好ましいが、スパッタリング法やALD(Atomic Layer Deposition)法によって成膜してもよい。スパッタリング法としては、スループットの観点からRFスパッタリング法が好ましい。ここで、スパッタリングガスとしてはアルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガスなどの貴ガスを好んで用いることができる。
なお、CeF
3膜を真空蒸着法により成膜する場合は、基板温度を20℃以上500℃以下とすることが好ましい。
【0015】
CeF
3膜は、半導体層1との結晶格子整合性などの影響を受けにくいアモルファスが汎用性に富み好ましいが、半導体がGaN、Ga
2O
3などの場合には、単結晶とすることも好ましい。その場合の結晶面は、比誘電率が高いことと誘電損失が小さいことから(001)が好ましい。CeF
3の単結晶は、アモルファスよりフェルミレベルが約1eVアモルファス膜より価電子帯側へシフトしており、半導体層1や導電体層4との組み合わせによってはバンドアライメントが取り易いという特徴がある。
CeF
3単結晶膜のC−V特性を(001)結晶面と(110)結晶面で比較した結果を
図2に示す。CeF
3単結晶膜はCZ法(Czochralski法)で作製し、その厚さは1mmである。CeF
3単結晶膜の表裏を白金(Pt)電極で挟んで両電極間に1MHzの交流を印加して比誘電率と誘電損失を測定した。ここで、誘電損失は複素誘電率の実部と虚部との比で定義される。比誘電率(誘電率)は(110)結晶が約50であり、(001)結晶が約52と高い。誘電損失は(110)結晶が約29で、(001)結晶が約18と(110)結晶より約40%低い。
【0016】
CeF
3膜の膜厚は、1nm以上100nm以下が好ましく、5nm以上10nm以下がより好ましい。膜厚が5nmを下回るとトンネルリーク電流が現れ始め、1nmを下回るとトンネル電流は顕著になる。膜厚が100nmを上回ると十分な静電容量を得るのが困難になる。
【0017】
CeF
3膜は、SiO
2膜に比べて水素の透過率も低い。CeF
3単結晶膜とSiO
2ガラス基板の水素透過率量を減圧差圧により測定した例を
図3に示す。CeF
3単結晶膜の結晶面は(001)で、その膜厚は980μmであり、SiO
2ガラス基板の厚さは524μmである。ベース背圧を2Pa未満として水素の圧力として300kPaかけて室温(23℃)で測定した。
その結果、水素の透過係数は、CeF
3膜が7.8×10
−12cc・cm/(cm
2・s・cmHg)、SiO
2膜が9.4×10
−12cc・cm/(cm
2・s・cmHg)で、CeF
3膜がSiO
2膜より約18%低かった。CeF
3膜は比誘電率が高いので、その膜をゲート絶縁膜として用いるときの物理的膜厚は、SiO
2膜をそれとして用いる場合より大幅に厚い。このため、CeF
3膜は良好な水素透過抑制膜となる。
【0018】
CeF
3の価電子帯をXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線電子分光法)を用いて調べたところ、
図4に示すように、約2.8eVであった。CeF
3膜のバンド幅は4.2eVであることが知られているため、CeF
3のバンド状態はGeのバンド状態と
図5に示す関係になり、CeF
3はGe半導体に対してMISとして機能する良好なバンドアライメントを有する。
【0019】
導電体層4は、金属あるいはドーパントが添加されたポリシリコンなどの導電膜からなる。金属としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)などを挙げることができる。また、AlCu、CuNiFe、NiCrなどの合金、WSi、TiSiなどのシリサイド、WN、TiN、CrN、TaNなどの金属化合物も用いることができる。導電体層4は、このような材料の中から導電率、仕事関数、加工性などを適宜勘案して適当な材料を選択すればよい。なお、集積回路として本発明のMIS半導体装置を用いる場合は、インテグレーションとしての各種熱処理が加わることから、それらの熱処理も勘案した材料の拡散を考慮の上、材料を選択する。
【0020】
バッファー層2は、Geなどの半導体層1を構成する物質のセリウムフッ化物層3への拡散抑制、界面準位生成抑制(界面制御)および応力緩和などの機能をもつ層で、フッ化物膜またはシリコン酸化膜の少なくとも何れかの1以上からなる。
【0021】
半導体層1がSiの場合、バッファー層2は、シリコン酸化膜またはシリコン酸化膜とMgF
2膜との積層膜が好ましい。この積層膜の場合は、Siに接してシリコン酸化膜が形成されていることが、Siとの界面に準位が発生しにくいことから好ましい。ここで、シリコン酸化膜としてはSiO
2が好ましい。これは、シリコン酸化膜のストイキオメトリーな状態であるSiO
2は、その膜中に準位を発生しにくいためである。
【0022】
半導体層1がGeの場合、バッファー層2は、MgF
2膜あるいはMgF
2膜とSiO
2膜の積層膜が好ましい。ここで、SiO
2膜はGeからなる半導体層1側に形成されていることが好ましい。
Geは酸素雰囲気中ではCe中に拡散しにくいが、真空中ではCe中に拡散しやすい性質をもっている。実際、Ge基板試料、Ge基板上に膜厚が10nmのCeF
3膜を形成した試料、およびGe基板上に膜厚が20nmのCeF
3膜を形成した試料を用意してXPSで分析評価を行ったところ、Geと基板CeF
3膜との間でGeがCeF
3膜に拡散する拡散層が約5nmの厚さで観察された。
真空中でのGeは、Ce>Ba(バリウム)>Mgの順に拡散しにくい。MgF
2膜は誘電率(比誘電率)も比較的大きい。フッ化物は酸化物に比べ半導体層1との界面にそのフッ化物や酸化物とは異なる層を形成しにくい。このため、MgF
2膜はバッファー層2として好適である。
【0023】
バッファー層2の膜厚は、0.1nm以上2nm以下が好ましく、0.5nm以上1nm以下が特に好ましい。バッファー層2の膜厚が0.5nmを下回ると上記拡散抑制、界面準位生成抑制(界面制御)および応力緩和などの機能が低下し、0.1nmを下回ると不十分になる。2nmを上回るとゲート絶縁膜全体としての誘電率を高くすることが難しくなって、ゲート容量Coxなどの性能が低下する。
また、バッファー層2としてのMgF
2膜の膜厚は1nm以上が好ましい。MgF
2膜の膜厚は1nm以上だと半導体層1を構成するGeなどの物質がセリウムフッ化物層3へ拡散することを十分に抑制することができる。
【0024】
次に、本発明のMISFETについて説明する。
【0025】
本発明の第1のMISFET(102)は、要部断面図である
図6に示すように、半導体層1、バッファー層にドレインおよびソース用のパターンが形成されたバッファー層パターン2a、セリウムフッ化物層にドレインおよびソース用のパターンが形成されたセリウムフッ化物層パターン3a、ゲート4a、ソース5aおよびドレイン6aからなる。
ここで、ゲート4a、ソース5aおよびドレイン6aは、金属、合金、金属化合物、シリサイド、ポリサイドまたはドーパントが添加されたポリシリコンなどの導電膜からなる。
【0026】
セリウムフッ化物層を真空蒸着法で形成する場合の温度は、良好な電気特性を得る上で、20℃以上500℃以下が好ましい。
また、セリウムフッ化物層を形成後でゲート4aを構成する導電膜を形成する前に、窒素ガス(N
2ガス)を用いた熱処理が行われることがMISFETの電気特性を改善する上で好ましい。その熱処理の条件としては、窒素ガスの圧力が1Pa以上2000hPa以下、温度が200℃以上500℃以下が好ましい。
さらに、ゲート4aを構成する導電膜を形成後に、窒素ガスと水素ガス(H
2ガス)の混合ガスを用いた熱処理が行われることがMISFETの電気特性を改善する上で好ましい。その熱処理の条件としては、窒素ガスと水素ガスの混合比率が窒素ガス1に対して水素ガスが体積比で1%以上5%以下、混合ガスの圧力が1Pa以上2000hPa以下、そして温度が200℃以上500℃以下が好ましい。
【0027】
この構造のMISFETを作製するに当たっては、ソース5aおよびドレイン6a用の開口部をもつパターンを、セリウムフッ化物層に空ける必要がある。このためのパターン形成はリソグラフィとドライエッチングによって行われるが、CeF
3などのセリウムフッ化物は反応性ドライエッチングがしにくくて、イオンミリング的な物理的衝撃を利用したドライエッチングとなる。
物理的衝撃を利用したドライエッチングは被加工物の下地にダメージを与えやすい。しかしながら、本発明の場合は、バッファー層がセリウムフッ化物層をドライエッチングする際のエッチングストッパとなるので、下地である半導体層1にドライエッチングのダメージが入りにくいという特徴がある。
【0028】
本発明の第2のMISFET(103)は、要部断面図である
図7に示すように、半導体層1、バッファー膜(バッファー層)12b、CeF
3膜13b、ゲート14b、ソース15b、ドレイン16bおよびパターン化された層間膜21bからなる。この構造では、ゲート14bは埋め込み構造をとる。ここで、ゲート14a、ソース15aおよびドレイン16aは、第1のMISFET(102)と同様に、金属、合金、金属化合物、シリサイド、ポリサイドまたはドーパントが添加されたポリシリコンなどの導電膜からなる。
【0029】
第2のMISFET(103)は、下記に示す工程により製造することができる。要部断面図を用いてその製造工程を説明した
図8を参照しながら、その製造方法を説明する。
まず、半導体層1の上に層間膜21を形成する(
図8(a)参照)。層間膜21としては、例えばプラズマCVD法によるSiO
xなどの絶縁膜を挙げることができる。
次に、層間膜21にゲートを作製するための開口をリソグラフィとドライエッチングにより形成し、層間膜パターン21aとする(
図8(b))。
その後、バッファー膜12aとCeF
3膜13aを順次成膜する(
図8(c))。これらの膜はコンフォーマルに被着されるのが好ましい。
次に、CMP(Chemical Mechanical Polishing)やエッチバックなどの方法により、層間膜パターン21aの上面上に形成されているバッファー膜12aとCeF
3膜13aを除去して、層間膜パターン21aの開口部にのみ形成されているバッファー膜12bとCeF
3膜13bを得る(
図8(d))。
しかる後、導電体膜14aを被着(
図8(e))し、引き続いてCMPやエッチバックなどの方法により層間膜パターン21aの上面上に形成されている導電体膜14aを除去して、CeF
3膜13bが露出している溝部に導電体膜が埋め込まれた導電体膜パターンを形成し、その導電体膜パターンをゲート14bとする(
図8(f))。
その後、リソグラフィとドライエッチングを用いて、層間膜パターン21aに開口部22および23を有する層間膜パターン21bを形成する(
図8(g))。
そして、開口部22および23に導電体膜を埋め込んで、その導電体膜パターンをそれぞれソース15bとドレイン16bとして第2のMISFET(103)とする。
【0030】
第2のMISFETの製造方法によれば、CeF
3膜13bの加工をCMPやエッチバックで行っているので、半導体層へのダメージが少ないドライエッチングを行うことが容易ではないCeF
3膜においても電気的ダメージの少ないMISFETを得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明のMIS半導体装置の特性を、キャパシタ特性によって調べた実施例について説明する。当然ながら、本発明はこのような特定の形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものである。
【0032】
(実施例1)
実施例1は半導体層1としてSiを用いた場合で、
図1に示すMIS構造101の半導体装置を作製してその静電容量と誘電損失を測定した。
その半導体層1としては、ホウ素(B)がドープされた抵抗率1〜5Ω・cmのSi基板、バッファー層2としては膜厚4nmの熱酸化SiO
2膜、セリウムフッ化物層3としては膜厚10nmのアモルファスCeF
3膜、導電体層4としては膜厚150nmのPtを用い、導電体層4と半導体層1との間の静電容量および誘電損失を測定した。ここで、導電体層4からなる導電体パターンの大きさは100μmφである。
【0033】
評価試料の作製方法は下記のとおりである。
まず、上記4nmの熱酸化SiO
2膜付きSi基板をアセトン、エタノール、純水により洗浄し、その後UVオゾン洗浄を行った。
次に、真空蒸着法でCeF
3膜を10nmの厚さで成膜した。このときの真空度は5×10
−6Pa、基板温度は室温(23℃)である。SiO
2膜上で成膜することにより、CeF
3はアモルファス膜となる。
しかる後、PtをDCスパッタリングで150nmの厚さで形成した。このときの真空度は1Pa、基板温度は室温(23℃)である。ここで、このPtの形成にあたっては、マスクを用いてパターン化されたPtを形成し、これをPt電極とした。
なお、静電容量および誘電損失の測定には半導体パラメーターアナライザー(B1500A,Keysight製)を用いた。
【0034】
静電容量および誘電損失の測定結果を
図9から
図11に示す。
図9は、特段の熱処理を加えない場合である。
図10は、界面終端を目的に、フォーミングガスアニールとしてPt電極形成後に水素ガス(H
2ガス)を4%添加された窒素ガス(N
2ガス)下で300℃30分の熱処理を行った場合であり、
図11は、欠陥補償を目的に、Pt電極形成前にN
2ガス下で400℃30分の熱処理を行った場合である。ここで、熱処理は石英ランプ加熱炉を用いて行い、ガスの圧力は
図10の場合も
図11の場合も大気圧とした。
測定周波数は1MHzとし、ヒステリシス特性を表すためにバイアス電圧を正の方向に掃引印加する場合と負の方向に掃引印加する場合を合わせて載せている。
【0035】
CeF
3膜とSiO
2膜の膜厚およびPt電極の面積と
図9から
図11に示された静電容量の大きさからCeF
3膜の比誘電率を求めると、その大きさは20以上30以下となり、SiO
2バッファー層2とセリウムフッ化物層(CeF
3膜)3からなる本発明の絶縁膜は十分大きな誘電率(比誘電率)をもつ膜であることがわかる。
また、Pt電極形成の前または後に熱処理を行うと、ヒステリシスの減少、フラットバンドシフトの減少および誘電損失の減少という効果が認められる。なお、欠陥補償を目的としたPt電極形成前の高温(400℃)の熱処理では、静電容量は熱処理前に比べて有意な差とはなっていないが、Pt電極形成後の熱処理では有意に静電容量が減少している。
【0036】
(実施例2)
実施例2は、バッファー層2を半導体層1側から膜厚が4nmで熱酸化のSiO
2膜と膜厚が1nmのMgF
2膜からなる2層膜とし、かつセリウムフッ化物層3を構成するCeF
3膜の膜厚を実施例1の10nmから9nmに変更した場合で、それ以外に関しては実施例1と同じ構造をもち、かつ同じ方法で作製したものである。ここで、MgF
2膜は真空蒸着法により成膜したアモルファス膜であり、成膜時の真空度は5×10
−6Pa、基板温度は室温(23℃)である。また、熱処理としては、Pt電極形成前にN
2ガス下で400℃30分の熱処理を行っている。Pt電極形成後のH
2とN
2の混合ガス下での熱処理は行っていない。
【0037】
実施例2のMIS半導体装置の静電容量および誘電損失の測定結果を
図12に示すが、同図中の破線の枠内に示されるように、MgF
2膜の挿入により、空乏層側の肩が減少して良好な電気特性になることが確認された。
【0038】
(実施例3)
実施例3は半導体層1としてGeを用いた場合で、MIS構造101の半導体装置を作製してその静電容量と静電特性を測定した。
その半導体層1としては、Gaがドープされた抵抗率0.01〜0.05Ω・cmのGe基板、バッファー層2としては膜厚1nmのMgF
2膜、セリウムフッ化物層3としては膜厚13nmのアモルファスCeF
3膜、導電体層4としては膜厚150nmのPtを用いた。また、半導体層1側にもPt導電体層を配置し、表裏両面に配置されたPt導電体層で半導体層1、バッファー層2、セリウムフッ化物層3を挟んだ形にして静電容量および誘電損失の測定を行った。ここで、Pt導電体層は電極状にパターニングされていて、Pt電極となっている。そのPt電極の大きさは100μmφである。
【0039】
評価試料の作製方法は下記のとおりである。
まず、Ge層をアセトン、エタノール、純水により洗浄した後、高真空(1×10
−6Pa)下で420℃20分の熱処理を行って自然酸化膜(Ga
2O
3)を除去した。
その後、膜厚1nmのMgF
2アモルファス膜を真空蒸着法により形成した。このときの真空度は5×10
−6Pa、基板温度は室温(23℃)である。
次に、真空蒸着法でCeF
3膜を13nmの厚さで成膜した。このときの真空度は5×10
−6Pa、基板温度は室温(23℃)である。アモルファス状のMgF
2膜上で成膜することにより、CeF
3は結晶性が低下していき、MgF
2の膜厚が1nm以上で、CeF
3はアモルファス膜となる。
しかる後、PtをDCスパッタリングで150nmの厚さで形成した。このときの真空度は1Pa、基板温度は室温(23℃)である。ここで、このPtの形成にあたっては、マスクを用いてパターン化されたPtを形成し、これをPt電極とした。
なお、静電容量および誘電損失の測定には、実施例1と同様に、半導体パラメーターアナライザー(B1500A、Keysight製)を用いた。
【0040】
静電容量および誘電損失の測定結果を
図13に示す。
測定周波数は実施例1と同様に1MHzとし、ヒステリシス特性を表すためにバイアス電圧を正の方向に掃引印加する場合と負の方向に掃引印加する場合を合わせて載せている。
CeF
3膜とMgF
2膜の合計の物理膜厚は14nmであるが、
図13に示した静電容量測定を使って求めたEOT(Effective Oxide Thickness)、すなわちSiO
2換算膜厚は3.5nmであり、この膜は十分大きな誘電率(比誘電率)をもつHigh−k膜である。
このことから、CeF
3膜とMgF
2膜からなるフッ化物絶縁膜は、界面酸化とGeの拡散を抑制できる高い比誘電率の絶縁膜であることが確認された。
【0041】
(参考例1)
参考例1は、実施例3における膜厚1nmのMgF
2膜からなるバッファー層2および膜厚13nmのCeF
3膜よりなるセリウムフッ化物層3に換えて、CeF
3に3重量%のMgF
2が混入された単層のセリウムフッ化物層を用いた場合で、それ以外は実施例3と同じである。参考例1におけるセリウムフッ化物層の膜厚は14nmである。
静電容量および誘電損失の測定結果を
図14に示す。
この構造の場合、セリウムフッ化物へのGeの拡散を十分には抑制することができなくて、ヒステリシスが大きく、また静電損失も大きなものとなった。