【解決手段】ワイパー用シートは、無機粒子と繊維との複合繊維を含む。より好ましくは、無機粒子が金属系化合物、光触媒、及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。更に、より好ましくは、金属系化合物が銅、銀、亜鉛及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<シート>
本発明の一態様に係るワイパー用シートは、繊維と無機粒子との複合繊維を含む。「ワイパー用シート」には、シートに液体が含浸されていないドライな状態で用いられるワイパー用のシートと、シートに液体が含浸されたウェットな状態で用いられるワイパー用のシートが包含され、単に「シート」という場合、ドライな状態で用いられるワイパー用のシートと、ウェットな状態で用いられるワイパー用のシートのいずれをも意味する。ウェットな状態で用いられるワイパー用のシートを「ウェットワイパー用シート」ということもある。複合繊維は、単に繊維と無機粒子とが混在しているのではなく、水素結合等によって繊維と無機粒子とが複合化したものである。これにより、無機粒子は繊維から脱落し難く、高い歩留まりでシートに配合され得る。また、凝集せずにシート内に均一に分散され得る。
【0012】
〔無機粒子〕
複合繊維を構成する無機粒子は、シートに付与する機能に応じて適宜選択すればよく、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、基本的にはシートに水又は水性溶媒を含浸させて使用するため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
【0013】
シートに付与する機能としては、例えば、抗菌・防カビ性、消臭性等が挙げられる。
【0014】
シートが抗菌・防カビ性を備えることにより、シートを保管している間等に腐敗したりカビが生えたりすることがなく、清潔な状態を維持できる。また、シートにおいては、抗菌・防腐効果のために添加されるアルコール等の有機溶剤の量を低減することが可能であり、更には、これらを添加せず水のみを含浸させた場合であっても、抗菌・防カビ性を発揮することができる。
【0015】
また、シートが消臭性を備えれば、消臭性を付与するための有機溶剤の量を低減させることができる。よって、皮膚等への影響から有機溶剤を敬遠するユーザに好適なワイパーを製造できる。また、簡易トイレを使用する際に用いれば、簡易トイレ使用後の消臭も期待できるため、お尻拭きシート等のウェットワイパーとしても、好適に使用することができる。
【0016】
無機粒子とは無機化合物の粒子を指し、例えば金属化合物が挙げられる。金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na
+、Ca
2+、Mg
2+、Al
3+、Ba
2+等)と陰イオン(例えば、O
2−、OH
−、CO
32−、PO
43−、SO
42−、NO
3−、Si
2O
32−、SiO
32−、Cl
−、F
−、S
2−等)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものをいう。無機粒子の具体例としては、例えば、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合物、シリカ/二酸化チタン複合物)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。以上に例示した無機粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0017】
また、以上に例示した無機粒子の中でも、シートの抗菌・防カビ性及び消臭性を好適に高める観点から、金属系化合物(例えば銀ゼオライト、銀リン酸ジルコニウム酸化亜鉛など)、及び光触媒(酸化チタン、酸化鉄、硫化亜鉛など)がより好ましい。中でも、層状複水酸化物の1つであるハイドロタルサイトが好ましい。
【0018】
一般に、ハイドロタルサイトは、[M
2+1−xM
3+x(OH)
2][A
n−x/n・mH
2O](式中、M
2+は2価の金属イオンを、M
3+は3価の金属イオンを表し、A
n−x/nは層間陰イオンを表す。また0<x<1であり、nはAの価数、0≦m<1である)という一般式で示される。ここで、2価の金属イオンであるM
2+は、例えば、Mg
2+、Co
2+、Ni
2+、Zn
2+、Fe
2+、Ca
2+、Ba
2+、Cu
2+、Mn
2+等、3価の金属イオンであるM
3+は、例えば、Al
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+等、層間陰イオンであるA
n−は、例えば、OH
−、Cl
−、CO
3−、SO
4−等のn価の陰イオンを挙げることができ、xは一般に0.2〜0.33の範囲である。このうち、2価の金属イオンとしては、Mg
2+、Zn
2+、Fe
2+、Cu
2+、Mn
2+が好ましく、Zn
2+、Cu
2+が特に好ましい。
【0019】
結晶構造は、正の電荷をもつ正八面体のbrucite単位が並んだ二次元基本層と負の電荷を持つ中間層からなる積層構造をとっている。
【0020】
上記ハイドロタルサイトは、複合繊維中で陰イオン交換機能を発揮して、優れた吸着性及び消臭性を示すことができ、特に亜鉛系ハイドロタルサイトは、他の無機粒子に比べ、少ない量でもより高い抗菌・防カビ・消臭効果を得ることが可能である。
【0021】
複合繊維中に占める無機粒子の比率は、10重量%以上とすることが可能であり、20重量%以上とすることもでき、好ましくは40重量%以上とすることもできる。無機粒子と繊維との複合繊維の灰分は、JIS P 8251:2003に従って測定することができる。本発明の一態様において、無機粒子と繊維との複合繊維の灰分は10重量%以上とすることが可能であり、20重量%以上とすることもでき、好ましくは40重量%以上とすることができる。
【0022】
無機粒子がハイドロタルサイトである場合、ハイドロタルサイトと繊維との複合繊維は、灰分中、マグネシウム、鉄、マンガンまたは亜鉛を10重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましい。灰分中のマグネシウムまたは亜鉛の含有量は、蛍光X線分析により定量することができる。
【0023】
また、複合繊維における繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されていることが好ましい。このような面積率で繊維表面が無機粒子に被覆されていると、複合繊維が無機粒子に起因する特徴を大きく生じ、例えば、消臭効果が高まる。また、複合繊維において、無機粒子による繊維の被覆率(面積率)は、25%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。また、本発明にしたがって繊維を含有する溶液中で無機粒子を合成する方法によれば、被覆率を60%以上や80%以上とすることもできる。被覆率の上限値は用途に応じて適宜設定すればよいが、例えば、100%、90%、80%である。また、前記方法によって得られる複合繊維は、好ましい態様において、無機粒子が繊維の外表面やルーメンの内側に定着するだけでなく、ミクロフィブリルの内側にも生成することが電子顕微鏡観察の結果から明らかとなっている。
【0024】
〔繊維〕
複合繊維を構成する繊維は、特に制限されないが、例えば、セルロース等の天然繊維、石油等の原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセル等の再生繊維(半合成繊維)、さらにはセラミックをはじめとする無機繊維等を制限なく使用することができる。天然繊維としては上記の他にウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維やアルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。
【0025】
セルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤ等の動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0026】
木材原料(木質原料)等の天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0027】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0028】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合繊維の物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、強度の向上並びに無機粒子の定着促進が期待できる。
【0029】
また、セルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロース等の化学変性セルロースとして使用することもできる。本発明の一態様で用いる微粉砕セルロースとしては、一般に粉末セルロースと呼ばれるものと、前記機械粉砕CNFのいずれも含む。粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを未処理のまま機械粉砕したもの、もしくは、酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製及び乾燥し、粉砕及び篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)等の市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70%〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm〜100μmである。本発明の一態様で用いる酸化セルロースは、例えばN−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。
【0030】
また、他の天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。
【0031】
合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ナイロン、アクリル、ビニロン、アラミド等が挙げられる。また、生分解性の合成繊維であってもよく、例えば、ポリ乳酸等が挙げられる。半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。
【0032】
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。
【0033】
例えば、セルロース繊維、特に木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含む繊維を用いることにより、廃棄物が自然界で分解されるため、廃棄物処理の問題が生じない点において好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
【0034】
木材パルプ等の天然繊維は、湿潤状態で長期間保管することにより、菌やカビが増殖しやすいが、本発明において無機粒子と複合体化させることにより、これらの繁殖を抑制することができる。
【0035】
好ましい態様において、複合体を構成する繊維はパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を用いてもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子等を合成することができる。
【0036】
また、繊維の他にも、無機粒子の合成反応には直接的に関与しないが、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。例えば、パルプ繊維等の繊維を使用する態様において、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマー等を含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
【0037】
以上に例示した繊維については単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0038】
また、複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm〜15mm程度とすることができ、1μm〜12mm、100μm〜10mm、500μm〜8mm等としてもよい。
【0039】
複合化する繊維の量は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量とすることが好ましい。例えば、繊維と無機粒子との重量比を、5/95〜75/25とすることが好ましく、15/85〜60/40とすることがより好ましく、30/70〜50/50とすることがさらに好ましい。
【0040】
〔複合体を形成していない繊維〕
複合繊維含有スラリー中には、複合体を形成していない繊維が含まれていてもよい。複合体を形成していない繊維も含むことで、シートの強度を向上させることができる。ここでいう「複合体を形成していない繊維」とは、上記複合繊維とは異なり、無機粒子が複合体化されていない繊維が意図される。複合体を形成していない繊維としては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。複合体を形成していない繊維としては、例えば、上記に例示したセルロース繊維の他にも様々な、天然繊維、合成繊維、半合繊維、無機繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。
【0041】
また、合成繊維とセルロース繊維との複合繊維は、複合体を形成していない繊維として使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等とセルロース繊維との複合繊維も複合体を形成していない繊維として使用することができる。
【0042】
以上に示した例の中でも、複合体を形成していない繊維は、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組合せを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。また、繊維長が長く強度の向上に有利なことから、針葉樹クラフトパルプがさらに好ましい。
【0043】
複合繊維と複合体を形成していない繊維との重量比は、10/90〜100/0とすることが好ましく、20/80〜90/10、30/70〜80/20としてもよい。
【0044】
〔無機粒子と繊維との複合繊維の合成〕
複合繊維は、繊維の存在下で溶液中において無機粒子を合成することによって、無機粒子と繊維との複合体を製造することによって得られる。
【0045】
例えば、無機粒子がハイドロタルサイトである場合、繊維を含む溶液中でハイドロタルサイトを合成することによって、ハイドロタルサイトと繊維との複合繊維を製造することができる。
【0046】
ハイドロタルサイトの合成方法は公知の方法によることができる。例えば、反応容器内に中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウム等)に繊維を浸漬し、次いで、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンとを含む金属塩水溶液)を添加し、温度、pH等を制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成する。また、反応容器内において、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンを含む金属塩水溶液)に繊維を浸漬し、次いで、中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウム等)を滴下し、温度、pH等を制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成することもできる。常圧での反応が一般的ではるが、それ以外にも、オートクレーブ等を使用しての水熱反応により得る方法もある(特開昭60−6619号公報)。
【0047】
また、基本層を構成する二価金属イオンの供給源として、マグネシウム、亜鉛、バリウム、カルシウム、鉄、銅、銀、コバルト、ニッケル、マンガンの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。また、基本層を構成する三価金属イオンの供給源として、アルミニウム、鉄、クロム、ガリウムの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。
【0048】
また、例えば、無機粒子が他の金属化合物である場合、同様に、繊維を含む溶液中で金属化合物を合成することによって、金属化合物と繊維との複合繊維を製造することができる。
【0049】
金属化合物の合成法は特に限定されず、公知の方法により合成することができ、気液法及び液液法のいずれでもよい。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスとを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。また、水酸化カルシウムと炭酸ガスとを反応させる炭酸ガス法により、炭酸カルシウムを合成することができる。例えば、炭酸カルシウムは、可溶性塩反応法、石灰・ソーダ法、ソーダ法により合成してもよい。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸等)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸とを反応させることで硫酸バリウムを得ることができる。塩化アルミニウムまたは硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムとを反応させることで、水酸化アルミニウムを得ることができる。炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを反応させることでカルシウムとアルミニウムとが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0050】
また、2種類以上の無機粒子を繊維に複合化させる場合には、繊維の存在下で1種類の無機粒子の合成反応を行なった後、当該合成反応を止めて別の種類の無機粒子の合成反応を行なってもよく、互いに反応を邪魔しなかったり、一つの反応で目的の無機粒子が複数種類合成されたりする場合には2種類以上の無機粒子を同時に合成してもよい。
【0051】
複合繊維を製造する際には、さらに公知の各種助剤を添加することができる。このような添加剤は、無機粒子に対して、好ましくは0.001〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%の量で添加することができる。
【0052】
本発明において合成反応の温度は、例えば、30〜100℃とすることができるが、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましく、60℃程度とすると特に好ましい。温度が高すぎたり低すぎたりすると、反応効率が低下しコストが高くなる傾向がある。
【0053】
さらにまた、合成反応は、反応時間によって制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、反応槽の反応液を攪拌する事や、中和反応を多段反応とすることによって反応を制御することもできる。
【0054】
一つの好ましい態様として、無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0055】
また、無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさ及び形状を有する無機粒子を繊維と複合繊維化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0056】
また、無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させてもよく、また、粉砕によって凝集塊を細かくしてもよい。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
【0057】
〔ワイパー用シートのその他の構成〕
本発明の一態様に係るワイパー用シートは、上述した成分以外のものを含んでもよい。例えば、湿潤紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合繊維シートの強度を向上させることができる。湿潤紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;前記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。湿潤紙力剤を複合繊維にさらに加える場合には、複合繊維を製造した後に得られるスラリーに、さらに湿潤紙力剤を添加して、その後抄紙すればよい。湿潤紙力剤の含有量は、ワイパー、ウェットワイパーの用途に応じて適宜に調整することができるが、その効果をより好適に発揮させるためには、例えば、複合体の重量に対して0.1〜1.0重量%とすることが好ましく、0.3〜0.7重量%とすることがさらに好ましい。
【0058】
また、繊維の歩留まりを向上させる等のために、高分子ポリマー及び無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などを用いることができる。また歩留剤として、カチオン性またはアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留まりシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトもしくはコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留まりシステムであってもよい。特に単独または組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留まりを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上3000万ダルトン未満の前記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留まりを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0059】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤等の公知の添加剤を加えることができる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0060】
複合繊維としては、1種類のみを用いることもでき、2種類以上を混合して用いることもできる。2種類以上の複合繊維を用いる場合は、予めそれらを混合したものを用いることもできるし、それぞれを配合・乾燥・成形したものを後から混合することもできる。
【0061】
〔ワイパー用シートの成形〕
本発明の一態様に係るワイパー用シートは、複合繊維と、必要に応じて加えられる上述の湿潤紙力剤等の添加剤とを含むスラリーを従来公知の方法でシート化することで、高灰分のワイパー用シートを容易に得ることができる。シート製造に用いる抄紙機(抄造機)としては、例えば長網抄紙機、丸網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄紙機などが挙げられる。
【0062】
また、本発明の一態様に係るシートは、上述した方法で成形されたシートの片面又は両面に、表面凹凸を設けたものであってよく、例えばエンボス加工等の処理を行うことができる。これにより液体を含浸させやすくなる。さらに凹凸により比表面積が大きくなるため、対象となる箇所への接触面積が大きくなる事から、消臭や抗菌などの各種機能がより発現しやすくなり得る。
【0063】
さらに、本発明の一態様に係るシートは、ワイパーの用途等に応じて、単層構造であっても、複数層を積層した多層構造であってもよく、多層構造においては各層の組成は同じであっても異なっていてもよい。
【0064】
複合繊維を用いて、ワイパー用シートを製造する際は、ポリマー等の各種有機物や顔料等の各種無機物、パルプ繊維等の各種繊維を付与しても良い。また、ワイパー用シートに後からポリマー等の各種有機物や顔料等の各種無機物、パルプ繊維等の各種繊維を付与しても良い。
【0065】
本発明の一態様に係るドライな状態で用いられるワイパー用のシートの坪量は、5g/m
2以上が好ましく、10g/m
2以上がより好ましく、12g/m
2以上としてもよい。また、取扱い性や運搬コスト等の観点から、120g/m
2以下がより好ましく、100g/m
2以下がさらに好ましく、80g/m
2以下や60g/m
2以下としてもよい。ワイパー用シートが多層構造である場合、各層の坪量が10g/m
2以上であることが、均一かつ製造時の取り扱いにおいて最低限の強度を持つシートを製造する点から好ましい。また、同様の観点から、シート厚は、30〜250μmの範囲であることが好ましく、35〜200μmや40〜150μm、さらには45〜100μmとしてもよい。ドライな状態で用いられるワイパー用のシートが多層構造である場合、各層の厚さが20μm以上であることが、均一なシートを製造する点から好ましい。不織布の密度については特に限定されない。
【0066】
本発明の一態様に係るウェットワイパー用シートの坪量は、用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、シートの強度等の観点から、坪量は20g/m
2以上がより好ましく、30g/m
2以上がさらに好ましい。また、取扱い性や運搬コスト等の観点から、100g/m
2以下がより好ましく、80g/m
2以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、シート厚は、50〜250μmの範囲であることが好ましく、さらには80〜150μmの範囲であることがより好ましい。
【0067】
さらに、各種性能を効果的に発現させるため、比表面積は3m
2/g〜200m
2/gであることが好ましく、さらには10m
2/g〜180m
2/gがより好ましい。同様の観点から、シート中の灰分は3重量%〜80重量%が好ましく、さらには10重量%以上であることがより好ましい。
【0068】
発明の一態様に係るワイパー用シートの灰分は、複合繊維に含まれる無機粒子の量、及び複合繊維と複合化している無機粒子とは別に適宜追加する填料(以下、内添填料とも称する)の量により調節することができるが、好ましくは20〜50重量%である。なお、前記の灰分は、JIS P−8251:2003に準じて測定した値である。灰分が前記の範囲内であれば、高い抗菌・防カビ性及び消臭性を備えるワイパー用シートを特に好適に提供することができる。
【0069】
シートに含まれている複合繊維の含有量は、シートの全重量に対して、10重量%以上、100重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、100重量%以下であることがより好ましい。シートに含まれている複合繊維の含有量が前記の範囲内であることにより、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0070】
〔ドライな状態で用いられるワイパー用のシートの使用〕
本発明の一態様に係るワイパー用シートのうち、ドライな状態で用いられるワイパー用のシートは、所望のサイズとし、清掃用シート、各種製品の梱包用シート等として利用することができる。
【0071】
〔ウェットワイパー用シートの使用〕
本発明の一態様に係るウェットワイパー用シートは、所望のサイズとし、液体を含浸させてウェットワイパーとして使用することができる。ウェットワイパーは、紙おしぼり、ウェットティッシュ、お手拭、お尻拭きシート等の身体表面の拭き取りや、机や床等の清掃といった種々の拭き取りに用いられる。
【0072】
含浸させる液体としては、特に制限されないが、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロピレングリコール等)、防腐剤(例えば、パラベン等)、抗生物質(例えば、ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系等)、冷涼剤(例えば、メントール等)、香料等を任意の配合比で含む液体を用いることができる。
【0073】
本発明の一態様によれば、アルコールやその他の抗菌・防腐作用を付与する有機溶剤の添加量を減らすことも可能であり、またはこれらの有機溶剤を全く添加せず、水のみを含浸させてもよい。本発明の一態様に係るウェットワイパー用シートは、水のみを含浸させた場合であっても、湿潤状態で長期にわたって保管可能であり、細菌、カビ等の微生物の繁殖を防ぐことができる。
【0074】
したがって、本発明の一態様に係るウェットワイパー用シートは、例えば、液体を含浸しない乾燥状態で販売され、消費者が使用前に水を含浸させてから、ウェットワイパーとして携帯・使用することも可能である。これにより、使用方法の幅が広がり、また、製造及び運搬コストが低減され得る。
【0075】
含浸させる液体の量としては、特に制限されないが、例えば自重の10〜250重量%の範囲で、用途に応じて適宜選択することができる。含浸させる液体の量が10重量%以下の場合、シートが液体を全て吸収するため、ウェットの状態とはならない。一方で250重量%以上の液体を含浸させた場合、液体をシートが保持できないため好ましくない。
【0076】
〔まとめ〕
本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1)無機粒子と繊維との複合繊維を含む、ワイパー用シート。
(2)前記無機粒子が金属系化合物、光触媒、及びハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、上記(1)に記載のワイパー用シート。
(3)前記金属系化合物が銅、銀、亜鉛及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含む化合物である、上記(2)に記載のワイパー用シート。
(4)前記光触媒が酸化物及び硫酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つの光触媒である、上記(2)に記載のワイパー用シート。
(5)前記無機粒子が亜鉛系ハイドロタルサイトを含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(6)前記繊維が合成繊維、再生繊維、無機繊維及び天然繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の繊維を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(7)前記繊維がセルロース繊維を含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(8)さらに湿潤紙力剤を含む、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(9)比表面積が3m
2/g〜200m
2/gである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(10)シート中に含まれる灰分が3重量%〜80重量%である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(11)前記ワイパー用シートが、ウェットワイパー用である、上記(1)〜(10)のいずれかに記載のワイパー用シート。
(12)上記(1)〜(11)のいずれかに記載のワイパー用シートに液体を含浸させてなるウェットワイパー。
【0077】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0078】
以下、具体的な実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明の一態様は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部等は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0079】
実施例1:ハイドロタルサイトと繊維との複合繊維の合成と評価
(1)アルカリ溶液と酸溶液の調製
ハイドロタルサイト(HT)を合成するための溶液を準備した。アルカリ溶液(A溶液)として、Na
2CO
3(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液を調製した。また、酸溶液(B溶液)として、ZnCl
2(和光純薬)およびAlCl
3(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na
2CO
3濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M)
・酸溶液(B溶液、ZnCl
2濃度:0.3M、AlCl
3濃度:0.1M)
【0080】
(2)ハイドロタルサイト(Zn
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O)とパルプ繊維との複合繊維の合成
複合化する繊維として、セルロース繊維を使用した。具体的には、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、日本製紙製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙製)を8:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を430mlに調整したパルプ繊維を用いた。
【0081】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:1.56%、pH:約12.4)。この水性懸濁液(パルプ固形分30g)を10L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合体を合成した。
図1に示すような装置を用いて、反応温度は60℃、滴下速度は15ml/minであり、反応液のpHが約6.5になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去した。なお、
図1中の「P」はポンプである。
【0082】
(3)複合繊維の評価
JIS P 8222に基づいて、合成した複合繊維からシートを製造した(坪量:約100g/m
2)。具体的には、複合繊維の水性スラリー(約0.5%)をろ紙(JIS P3801、定量分析用、5種B)を用いてろ過し、得られたサンプルを1MPaで5分間圧力をかけて脱水した後、50℃で2時間緊張乾燥させて、約200cm
2の大きさの複合繊維シートを製造した。
【0083】
得られた複合繊維について、X線回折にて分析し、ハイドロタルサイト由来のピークを確認した。
【0084】
また、電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られた複合繊維を観察し、パルプ繊維表面に粒子が複合化されていることを確認した。複合繊維は、微粒子によるパルプ繊維の被覆率が50〜80%(微粒子の一次粒子径:100〜900nm、平均一次粒子径:400nm程度)であった。
【0085】
さらにまた、複合繊維の灰分を測定したところ、49.5重量%であり、原料(パルプ・塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの各種薬品)の仕込み比から計算された理論値(50重量%)とほぼ一致した。なお、複合体の灰分は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から算出した(JIS P 8251:2003)。ただし、525℃での灰化処理によって、ハイドロタルサイトの脱炭酸や層間水の離脱による重量減少が生じるため(約30%)、灰化処理後の実測重量から重量減少分を踏まえて灰分を算出した。
【0086】
実施例2:ウェットワイパー用シートの製造と評価
JIS P 8222に基づいて、上記で合成した複合繊維からウェットワイパー用シート(坪量100g/m
2)を製造した。具体的には、湿潤紙力剤(製品名:WS4024、星光PMC社製)5000ppm、アニオン歩留剤(製品名:FA230、ハイモ社製)100pm、カチオン歩留り剤(製品名:ND300、ハイモ社製)100ppmを含む複合繊維の水性スラリー(濃度:約0.5%)をろ紙(JIS P3801、定量分析用、5種B)を用いてろ過し、得られたサンプルを1MPaで5分間圧力をかけて脱水した後、50℃で2時間緊張乾燥させて、ウェットワイパー用シートを製造した。
【0087】
得られたウェットワイパー用シートについて、灰分を測定したところ、49.0重量%であり、高灰分のウェットワイパー用シートを得ることができた。
【0088】
また、このウェットワイパー用シートに、自重の250重量%となるように水を含浸させて、良好な強度を有するウェットワイパーを得ることができた。
【0089】
比較例1:
比較例として、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を390mlに調整したパルプ繊維(LBKP:NBKP=8:2)から、JIS P 8222に基づいてウェットワイパー用シート(坪量100g/m
2)を製造した。
【0090】
また、このウェットワイパー用シートに、自重の250重量%となるように水を含浸させて、ウェットワイパーを製造した。
【0091】
<消臭特性の評価>
実施例2及び比較例1で製造したウェットワイパー用シートのそれぞれについて、水を含まないドライ条件、及び水を含浸させたウェット条件で、以下の消臭試験により消臭特性を評価した。
【0092】
実施例2及び比較例1で製造したウェットワイパー用シートから10cm×10cmの試験片を2枚ずつ作成し、1枚は水を含まないドライ条件で、もう1枚は水を含浸させたウェット条件で、試験に供した。
【0093】
コック付きガスバッグに試験片1枚を入れ、アンモニア水溶液の飽和ガスを注射器で挿入し、さらにエアーポンプにて空気を充填した。上記飽和ガスは、アンモニア水溶液が入っている密閉容器の気相から採取し、充填後のガスバッグ中のアンモニアガス濃度は最終的に100ppmになるよう調製した。
【0094】
次に、検知管に吸引器及びゴムチューブを繋ぎ、ゴムチューブをガスバッグに繋いだ。そして、空気を充填してから120分経過後のガスバッグ内のアンモニアガス濃度を測定した。また、硫化水素についても同様に試験を実施した。アンモニアガス及び硫化水素ガスについて、初期濃度と残存濃度との比較から、シートの消臭特性を評価した。結果を以下の表1に示す。評価基準は、以下のとおりである。
○:非常に良い 残存濃度が初期の1/3未満
△:普通 残存濃度が初期の1/3以上、1/2未満
×:悪い 残存濃度が初期の1/2以上
【0095】
<抗菌特性の評価>
実施例2及び比較例1で製造したウェットワイパー用シートのそれぞれについて、水を含まないドライ条件、及び水を含浸させたウェット条件で、以下のJIS L 1902で定める菌液吸収法により、抗菌特性を評価した。
【0096】
実施例2及び比較例1で製造したウェットワイパー用シートから試験片を2枚ずつ作成し、1枚は水を含まないドライ条件で、もう1枚は水を含浸させたウェット条件で、試験に供した。
【0097】
大腸菌(Escherichia coil NBRC 3301)を含んだ寒天培地上に各試験片を載せ、37℃で24時間培養後の生菌数を混釈平版培養法にて測定した。結果を以下の表1に示す。評価基準は、以下のとおりである。
○:抗菌活性値が2.0以上で抗菌性を有する。
×:抗菌活性値が2.0未満で抗菌性を認めない。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、実施例のウェットワイパー用シートは、ドライ及びウェットのいずれの条件下でも、高い消臭及び抗菌機能を有する事がわかった。一方で、比較例のウェットワイパー用シートは、ウェット条件下でのアンモニアの消臭性能は確認されたが、硫化水素への消臭性能及び抗菌効果は確認できなかった。また、ドライ条件化では、消臭性能及び抗菌効果のいずれも、十分な効果は見られなかった。