【解決手段】人工衛星は、光源部と、光軸変更部と、制御部と、を具備する。光源部は、可視領域の波長のレーザを発生可能に構成されている。光軸変更部は、光源部の光軸の向きを変更可能に構成されている。制御部は、軌道上において、光源部が発生させるレーザが所定の照射領域に入射するように、光軸変更部を駆動可能に構成されている。この人工衛星では、レーザを用いることにより、特定の領域のみに光を照射することができる。
軌道上の人工衛星から所定の照射領域に可視領域の波長のレーザを照射して、前記照射領域のみから視認可能な明点を天球に表示することにより、前記照射領域のみに情報を提供する
情報提供方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者は、人工衛星から特定の領域(例えば地球上の直径1km以下の領域)のみに光を照射することができれば、新規なサービスを提供可能であることを見出した。これに対し、特許文献1,2のいずれにも、このような地球上の狭い領域などの特定領域のみに光を照射可能な技術について開示されていない。
【0006】
例えば、特許文献1に記載の技術では、反射鏡に反射された太陽光が入射する地球上の領域の大きさは、太陽の視直径(約0.5度)と人工衛星から照射領域までの距離によって決まる。一例として、人工衛星の高度が700kmである場合には、理想的な反射鏡を用いても、反射された太陽光が地球上の直径約6kmの広範にわたる領域に入射する。
【0007】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、特定の領域のみに光を照射可能な人工衛星、明点表示方法、情報提供方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る人工衛星は、光源部と、光軸変更部と、制御部と、を具備する。
光源部は、可視領域の波長のレーザを発生可能に構成されている。
光軸変更部は、光源部の光軸の向きを変更可能に構成されている。
制御部は、軌道上において、光源部が発生させるレーザが所定の照射領域に入射するように、光軸変更部を駆動可能に構成されている。
【0009】
制御部は、相対移動する上記照射領域を光源部が発生させるレーザで追尾するように、光軸変更部を駆動可能に構成されていてもよい。
【0010】
人工衛星は、光源部が発生させるレーザが入射するレンズを含む光学系を更に具備してもよい。
光学系は、光源部が発生させるレーザの発散角を拡大可能に構成されていてもよい。
光学系は、光源部が発生させるレーザの向きを変更可能に構成されていてもよい。
【0011】
光軸変更部は、ジンバル機構を含んでいてもよい。
【0012】
光源部は、複数の波長のレーザを発生可能に構成されていてもよい。
複数の波長は、赤色領域の波長、緑色領域の波長、及び青色領域の波長を含んでいてもよい。
【0013】
人工衛星は、上記照射領域に関する情報を受信可能な通信部を更に具備してもよい。
【0014】
本発明の一形態に係る明点表示方法では、軌道上の人工衛星から所定の照射領域に可視領域の波長のレーザを照射することにより、上記照射領域のみから視認可能な明点を天球に表示する。
【0015】
明点表示方法では、フォーメーションフライトする複数の人工衛星によって、明点の群を表示してもよい。
【0016】
本発明の一形態に係る情報提示方法では、軌道上の人工衛星から所定の照射領域に可視領域の波長のレーザを照射して、上記照射領域のみから視認可能な明点を天球に表示することにより、上記照射領域のみに情報を提供する。
【0017】
情報提示方法では、フォーメーションフライトする複数の人工衛星によって、特定の意味を有する形状を認識可能な明点の群を表示してもよい。
情報提示方法では、文字、記号、及び図形の少なくとも1つを認識可能な明点の群を表示してもよい。
【0018】
情報提示方法では、エンコードされた情報を明点の明滅によって提供してもよい。
エンコードされた情報は、明点の明滅を撮像した動画からデコード可能に構成されていてもよい。
【0019】
本発明の一形態に係る情報提供方法では、可視領域の波長の光によって表示される明点の明滅によって、明点の明滅を撮像した動画からデコード可能に構成されたエンコードされた情報を提供する。
エンコードされた情報は、明点の明滅を撮像した動画からデコード可能に構成されていてもよい。
【0020】
本発明の一形態に係るプログラムは、情報処理装置に、可視領域の波長の光によって表示された明点の明滅を撮像した動画からバイナリデータを作成するステップと、バイナリデータをデコードしてテキストデータを作成するステップと、テキストデータに基づいて情報を提示するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の領域のみに光を照射可能な人工衛星、明点表示方法、情報提供方法、及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明は、下記の実施形態によって限定的に解釈されるものではない。また、各図面には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、すべての図面において共通である。
【0024】
1.人工衛星1の全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る人工衛星1の斜視図である。
図2は、人工衛星1の構成を示すブロック図である。人工衛星1は、本体部10と、レーザ照射装置20と、太陽電池パネル30と、通信部40と、自己位置認識部50と、自己姿勢認識部60と、スラスタ70と、制御部80と、を具備する。
【0025】
人工衛星1は、惑星や衛星などの軌道上を飛行可能に構成されている。以下の説明では、人工衛星1が地球周回軌道上を飛行する例について説明する。
人工衛星1が飛行する地球周回軌道は、典型的には太陽同期極軌道である。太陽同期極軌道とは、北極及び南極を通過する極軌道のうち、太陽光に対する軌道面の角度が常に一定となる軌道である。太陽同期極軌道のローカルタイムは任意に設定可能である。
【0026】
また、人工衛星1は、太陽同期極軌道上に限らず、任意の地球周回軌道上を飛行可能である。つまり、人工衛星1が飛行する地球周回軌道の高度や軌道傾斜角は、任意に決定可能である。更に、人工衛星1が飛行する地球周回軌道は、円軌道でなくてもよく、楕円軌道であってもよい。
【0027】
本体部10は、人工衛星1の本体として構成されている。なお、
図1に示す例では、本体部10が直方体状に示されているが、本体部10の形状は任意に変更可能である。
【0028】
レーザ照射装置20は、本体部10のZ軸方向下面に設けられ、本体部10の周囲の外部空間に向けてレーザを照射可能に構成されている。このため、人工衛星1は、レーザ照射装置20によって、レーザを照射可能である。レーザ照射装置20の詳細については後述する。
【0029】
太陽電池パネル30は、XY平面に沿って延びる平板状であり、本体部10のX軸方向を向いた両側面にそれぞれ取り付けられている。太陽電池パネル30は、太陽光を受けることにより発電可能に構成されている。太陽電池パネル30に用いる太陽電池としては、公知の種類から任意に選択可能である。
【0030】
人工衛星1では、太陽電池パネル30で得られる電力によって、各構成の駆動力をまかなうことができる。人工衛星1は、太陽電池パネル30によって得られる電力を蓄えるための蓄電部を更に具備することが好ましい。これにより、人工衛星1では、太陽光のあたらない位置を飛行中にも、電力を確保することができる。
【0031】
通信部40は、本体部10の外側に向けて取り付けられたアンテナ(不図示)を備え、地球E上の基地局や他の人工衛星などとの間での信号の送受信を行うことが可能なように構成されている。通信部40は、自己位置認識部50や自己姿勢認識部60や制御部80などに接続されている。
【0032】
自己位置認識部50は、人工衛星1の位置を認識可能に構成されている。例えば、自己位置認識部50は、地球E上で検出された人工衛星1の位置に関する情報を、通信部40を介して取得することができる。また、自己位置認識部50は、地球E上から提供される軌道要素などの情報から人工衛星1の位置を算出可能に構成されていてもよい。
【0033】
更に、自己位置認識部50は、ジャイロ及び加速度計を備え、慣性誘導方式で人工衛星1の位置を検出可能に構成されていてもよい。加えて、自己位置認識部50は、GPSを用いて人工衛星1の位置を検出可能に構成されていてもよい。なお、自己位置認識部50の構成は、上記の具体例に限定されない。
【0034】
自己姿勢認識部60は、人工衛星1の姿勢を認識可能に構成されている。例えば、自己姿勢認識部60は、地球E上で検出された人工衛星1の姿勢に関する情報を、通信部40を介して取得することができる。また、自己姿勢認識部60は、地球E上から提供される情報から人工衛星1の姿勢を算出可能に構成されていてもよい。
【0035】
更に、自己姿勢認識部60は、慣性計測装置(IRU)を用いて人工衛星1の姿勢を検出可能に構成されていてもよい。加えて、自己姿勢認識部60は、周囲の他の天体の相対位置から人工衛星1の姿勢を検出可能に構成されていてもよい。なお、自己姿勢認識部60の構成は、上記の具体例に限定されない。
【0036】
スラスタ70は、人工衛星1の姿勢制御や軌道修正のための推進力を生成可能に構成されている。スラスタ70の構成は、公知の構成から任意に選択可能である。また、人工衛星1におけるスラスタ70の位置及び個数は、人工衛星1に適切な推進力を付与可能なように適宜決定可能である。
【0037】
制御部80は、レーザ照射装置20やスラスタ70などの人工衛星1の各構成の制御を行う。制御部80によるレーザ照射装置20の制御については後述する。また、制御部80は、通信部40を介して信号の送受信を行うことができる。これにより、地球E上の基地局などとの情報のやり取りを行うことができる。
【0038】
制御部80は、自己位置認識部50から人工衛星1の位置に関する情報を取得することができる。そして、制御部80は、人工衛星1の位置が正しい軌道上にあるか否かを判断し、正しい軌道から外れている場合には、スラスタ70を駆動させることによって人工衛星1の軌道修正を行うことができる。
【0039】
また、制御部80は、自己姿勢認識部60から人工衛星1の姿勢に関する情報を取得することができる。そして、制御部80は、スラスタ70を駆動させることによって、人工衛星1の姿勢を変更することができる。例えば、制御部80は、太陽電池パネル30の受光面が太陽の方向を向くように、人工衛星1の姿勢を制御することができる。
【0040】
2.レーザ照射装置20の構成
図3は、
図1に示す人工衛星1のレーザ照射装置20を拡大して示す斜視図である。レーザ照射装置20は、光源部21と、光軸変更部22と、を有する。光源部21は、レーザを発生可能に構成されている。光軸変更部22は、光源部21を保持し、光源部21の光軸の向きを変更可能に構成されている。
【0041】
より詳細に、レーザ照射装置20は、光源部21として、赤色領域の波長のレーザを発生させる光源部21Rと、緑色領域の波長のレーザを発生させる光源部21Gと、青色領域の波長のレーザを発生させる光源部21Bと、を有する。これにより、人工衛星1は、あらゆる色のレーザを照射することができる。
【0042】
なお、レーザ照射装置20に設けられる光源部21の数は適宜変更可能であり、少なくとも1つの光源部21が設けられていればよい。また、各光源部21の波長領域も適宜決定可能である。
【0043】
光軸変更部22は、回転板23と、支柱24と、保持板25と、を有する。ここでは、
図3に示す状態における光軸変更部22の各構成について説明する。回転板23は、XY平面に沿って延びる円板状である。回転板23は、人工衛星1のZ軸方向下面に、Z軸に平行な軸Pを中心に回転可能に支持されている。
【0044】
回転板23のZ軸方向下面には、X軸方向に対向する2つの支柱24が設けられている。保持板25は、XY平面に沿って延びる平板状であり、2つの支柱24の間に配置され、支柱24によってZ軸に直交する軸Qを中心に回転可能に支持されている。このように、光軸変更部22は、2軸のジンバル機構として構成されている。
【0045】
光源部21は保持板25に設けられている。
図3に示す状態では、光源部21の光軸はZ軸方向を向いており、光源部21が発生させるレーザがZ軸方向下方に照射される。レーザ照射装置20では、光源部21を、軸P,Qを中心として回転させることにより、光源部21の光軸の向きを任意に変更可能である。
【0046】
つまり、制御部80は、回転板23の軸Pを中心とする回転角度と、保持板25の軸Qを中心とする回転角度と、によって光源部21が発生させるレーザを照射する方向を制御することができる。これにより、人工衛星1では、大きく姿勢を変更することなく、任意の向きにレーザを照射することができる。
【0047】
制御部80は、人工衛星1の姿勢制御のみによっても、光源部21の光軸の向きを変更可能である。しかし、光源部21の光軸の向きを迅速に変更するためには、光軸変更部22を用いることが有利である。また、人工衛星1では、光軸変更部22を用いることにより、太陽電池パネル30の受光面を太陽に向けた姿勢を維持可能となる。
【0048】
なお、光軸変更部22のジンバル機構は、
図3に示す構成でなくてもよく、例えば3軸構造であってもよい。また、光軸変更部22における光源部21の光軸の向きを変更可能とする構成は、ジンバル機構に限定されず、ジンバル機構に代えて任意の公知の構成を採用することもできる。
【0049】
また、レーザ照射装置20は、光源部21の外側に配置された光学系26(光学装置26)を更に有する。
図4A〜4Cは、光源部21及び光学系26を示す模式図である。光学系26は、光源部21が発生させるレーザが入射するレンズ26aを含む。レンズ26aの光軸の向きは、光源部21の光軸の向きと一致している。
【0050】
図4Aに示す状態では、レンズ26aの焦点位置と光源部21のレーザの出射口の位置とが一致するように、レンズ26aが配置されている。この状態では、光源部15が発生させたレーザは、レンズ26aによって変調されることなく、そのままレンズ26aを透過する。
【0051】
飛行中の人工衛星1から地球E上の照射領域Rにレーザを照射する場合、照射領域Rの径D(メートル)は、人工衛星1から照射領域Rまで距離H(メートル)と、レーザの発散角θ(ラジアン)と、を用いて以下の式(1)で表される。
D=H×θ …(1)
【0052】
また、人工衛星1から照射されるレーザの発散角θ(ラジアン)は、レーザの波長γ(メートル)と、光源部21におけるレーザの射出口の径d(メートル)と、を用いて以下の式(2)で表される。
θ=γ/d …(2)
【0053】
ここで、径dが1mmの射出口を有する光源部21によって、波長γが600nmの赤色レーザを発生させる場合を想定する。この場合、レーザの発散角θが0.6ミリラジアンとなり、人工衛星1から照射領域Rまでの距離Hを700kmとすると、照射領域Rの径Dは420mとなる。
【0054】
このように、人工衛星1では、レーザを利用することにより、地球E上の直径1km以下の狭い照射領域Rのみに光を照射することができる。なお、
図4Aに示す状態における照射領域Rの径Dは、人工衛星1によって照射されるレーザを入射させることが可能な地球E上の領域の径の下限値である。
【0055】
図4Aに示す状態から、
図4Bに示すように、レンズ26aを、光源部21に近づくように光軸に沿って移動させることにより、光源部21が発生させるレーザの発散角θを拡大させることができる。これにより、
図4Aに示す状態よりも、地球E上の照射領域Rの径Dが拡大する。
【0056】
したがって、人工衛星1では、制御部80によって、レンズ26aの光軸に沿った位置を制御することにより、照射領域Rの径Dを調整可能である。なお、制御部80は、レンズ26aの光軸に沿った位置ではなく、光源部21の光軸に沿った位置を制御可能に構成されていてもよい。
【0057】
また、
図4Aに示す状態から、
図4Cに示すように、レンズ26aを光軸に直交する方向にずらすことにより、光源部21が発生させるレーザの向きを微調整することができる。これにより、照射領域Rの位置を、
図4Aに示す状態から変更することができる。
【0058】
したがって、人工衛星1では、制御部80によって、レンズ26aの光軸に直交する方向に沿った位置を制御することにより、精密なビームステアリングが可能となる。なお、制御部80は、レンズ26aの光軸に直交する方向に沿った位置ではなく、光源部21の光軸に直交する方向に沿った位置を制御可能に構成されていてもよい。
【0059】
なお、光学系26は、レンズ26a以外の光学部材を適宜組み合わせて構成することができる。レンズ26a以外の光学部材としては、例えば、カラーフィルタや反射鏡などが挙げられる。また、レンズ26aは、
図4A〜4Cに示すような両凸レンズに限定されず、例えば、両凹レンズや平凸レンズや平凹レンズなどであってもよい。
【0060】
また、レーザ照射装置20の構成は、上記と同様の機能を発揮可能な範囲内において適宜変更可能である。また、人工衛星1には、複数のレーザ照射装置20が設けられていてもよい。これにより、人工衛星1では、地球E上の複数の照射領域Rに対して、同時にレーザを照射することが可能となる。
【0061】
3.人工衛星1の動作
図5は、人工衛星1が地球E上の照射領域Rにレーザを照射する動作のプロセスを示すフローチャートである。まず、ステップS1−1では、制御部80が、通信部40を介して、地球E上から送信される照射領域Rに関する情報を取得する、照射領域Rに関する情報には、例えば、照射領域Rの中心位置(例えば中心位置の緯度、経度)や径Dなどが含まれる。
【0062】
ステップS1−1では、制御部80が、通信部40を介して、地球E上から送信される他の情報を取得することができる。制御部80が取得する他の情報には、例えば、照射タイミング(照射開始時刻や照射終了時刻など)、照射条件(レーザの強度や色など)、照射パターン(レーザの点滅や色変化などの態様)などが含まれていてもよい。
【0063】
なお、ステップS1−1では、レトロディレクティブ方式でレーザの照射方向を決定することもできる。つまり、人工衛星1は、照射領域Rの中心位置からアップリンクされる光ビーコンを受信し、受信した光ビーコンの方向にレーザを照射すれば、照射領域Rにレーザを入射させることができる。
【0064】
次に、ステップS1−2では、制御部80が、ステップS1−1で取得した照射領域Rに関する情報に基づいて、光軸変更部22を駆動させる。つまり、制御部80は、光源部21の光軸が照射領域Rの中心位置を通るように、光軸変更部22によって光源部21の光軸の向きを変更する。
【0065】
続いて、ステップS1−3では、制御部80が、ステップS1−1で取得した照射領域Rに関する情報に基づいて、光学系26を駆動させる。つまり、制御部80は、照射領域Rの径Dに基づいてレンズ26aの光軸に沿った位置を調整し、照射領域Rの中心位置に基づいてレンズ26aの光軸に直交する方向に沿った位置を微調整する。
【0066】
そして、ステップS1−4では、制御部80が、ステップS1−1で取得した照射タイミング、照射条件、照射パターンなどの情報に基づいて、光源部21を駆動させる。これにより、人工衛星1では、地球E上の照射領域Rに、地球E上からの要求に応じたレーザを照射することができる。
【0067】
図6,7は、人工衛星1が地球E上の照射領域Rにレーザを照射している状態を示す図である。制御部80は、光軸変更部22を駆動させることにより、
図6に示すように、照射領域Rを切り替えることができる。これにより、人工衛星1は、任意の照射領域Rにレーザを良好に入射させることができる。
【0068】
また、制御部80は、
図7に示すように、人工衛星1の移動による照射領域Rの相対位置の変化に応じて、レーザを照射しながら光軸変更部22を連続的に駆動することにより、レーザで照射領域Rを追尾することができる。これにより、人工衛星1では、照射領域Rにより長い時間レーザを照射し続けることができる。
【0069】
このとき、制御部80は、人工衛星1から照射領域Rまでの距離Hの変化によって照射領域Rの径Dが変化しないように、
図4Bに示すようにレンズ26aの光軸に沿った位置を制御することができる。これにより、人工衛星1では、より長い時間照射領域Rの径Dを実質的に一定に保つことができる。
【0070】
4.人工衛星1を用いたサービスの提供方法
4.1 天球Cに明点Sを表示するサービス
人工衛星1によって地球E上の照射領域Rにレーザを照射することにより、照射領域Rのみから視認可能な明点Sを天球Cに表示することができる。人工衛星1によって天球Cに表示された明点Sは、照射領域Rのみにおいて星として認識される。つまり、人工衛星1は、照射領域Rのみからしか見えない人工星を提供することができる。
【0071】
人工衛星1は、マイナス等級の明点Sを表示可能である。例えば、照射領域Rの径Dを1kmとし、レーザの出力を3Wとすると、明点Sの明るさは−7等(金星の10倍相当)となる。更に、照射領域Rの径Dを1kmとし、レーザの出力を10Wとすると、明点Sの明るさは−10等(半月相当)となる。
【0072】
このサービスは、例えばテーマパークなどといったエンターテインメント施設で提供可能である。つまり、人工衛星1は、エンターテインメント施設の敷地を照射領域Rとしてレーザを照射することにより、エンターテインメント施設の敷地のみから視認可能な明点Sを表示することができる。
【0073】
これにより、エンターテインメント施設の敷地のみから見える人工の星を提供することができるため、エンターテインメント施設の集客力が飛躍的に向上するものと考えられる。また、パレードなどのイベントにおける音楽やキャラクタの動きなどに合わせて明点Sの明滅や色変化などを行うことができる。
【0074】
このサービスを提供可能な照射領域Rとしては、エンターテインメント施設の敷地に限定されず、地球E上の任意の領域であってよい。例えば、このような照射領域Rとしては、音楽フェスティバルなどの野外イベント会場や、結婚式などの各種セレモニー会場や、宗教的儀式を行うモスクや寺院などの敷地が挙げられる。
【0075】
4.2 フォーメーションフライトによるサービス
図8Aは、フォーメーションフライトする複数の人工衛星1が地球E上の照射領域Rにレーザを照射している状態を例示する図である。
図8Aに示す状態では、9機の人工衛星1が3×3のマトリクス状に並んで飛行し、すべての人工衛星1が照射領域Rにレーザを照射している。人工衛星1の間隔は、例えば10km程度とすることができる。
【0076】
図8Bは、
図8Aに示す9機の人工衛星1によって天球Cに表示される明点Sの群を示す図である。地球E上の照射領域Rでは、天球Cに3×3のマトリクス状に並んだ明点Sが表示されている。このように、複数の人工衛星1を用いることにより、明点Sの群を天球Cに表示することができる。
【0077】
また、
図9Aに示すように、複数の人工衛星1の一部のみからレーザを照射することにより、明点Sの群によってドットマトリクス方式で特定の形状を表現することができる。
図9Aに示す例では、
図9Bに示すように、地球E上の照射領域Rでは、天球Cにアルファベットの「L」の文字を表示することができる。
【0078】
また、天球Cに表示する文字を変化させることによって、メッセージなどの文字列を表現することもできる。人工衛星1の数を増加させることにより、明点Sの群によって表現可能な形状の自由度が向上する。これにより、天球Cに、メッセージなどの文字列や、キャラクタなどのドット絵などを表示することも可能である。
【0079】
更に、地球E上の照射領域Rのみから視認可能な明点Sの群によって、天球Cに文字や記号や図形やこれらの組み合わせを表示することにより、照射領域Rのみに情報を提供することができる。これにより、地球E上の照射領域R内の利用者のみに対して、一斉に情報を伝達することができる。
【0080】
4.3 明点Sの明滅による情報提供サービス
人工衛星1から照射領域Rへのレーザの照射のオン・オフを切り替えることで、天球Cに明点Sを明滅させることにより、照射領域Rのみから取得可能なエンコードされた情報を提供することができる。例えば、明点Sが表示されている状態を「1」とし、明点Sが表示されていない状態を「0」とすることができる。
【0081】
図10は、人工衛星1によって天球Cに表示された明点Sの明滅から、照射領域R内の利用者が情報を取得するためのプロセスを示すフローチャートである。まず、ステップS2−1では、利用者が、天球Cにおける明点Sの明滅の動画を撮像する。撮像する動画のフレームレートは、明点Sの明滅のビットレートよりも高く設定される。
【0082】
ステップS2−2〜S2−4は、情報処理装置により実行される。ステップS2−2では、ステップS2−1で撮像された動画から、明点Sの明滅のタイミングを読み取ることにより、バイナリデータを作成する。ステップS2−3では、ステップS2−2で作成されたバイナリデータをデコードすることにより、テキストデータを作成する。
【0083】
そして、ステップS2−4では、ステップS2−3で作成されたテキストデータに基づいて、利用者が認識可能なように情報を提示する。利用者への情報の提示は、画面などによって視覚的に表示することや、スピーカなどによって聴覚的に表示することなどによって実行可能である。
【0084】
ステップS2−4で利用者に提示する情報は、テキストデータ自体であっても、テキストデータに基づいた情報であってもよい。例えば、テキストデータがURLである場合には、ウェブブラウザなどでこのURLを表示してもよい。また、テキストデータが楽曲のタイトルである場合には、この楽曲を再生してもよい。
【0085】
ステップS2−2〜S2−4は、情報処理装置に格納されたプログラムによって自動で実行可能である。特に、スマートフォンなどの携帯端末装置を用いて明点Sの明滅を撮像する場合には、ステップS2−1の終了とともにステップS2−2〜S2−4を実行することにより、利用者は即座に情報を得ることができる。
【0086】
なお、一般的な携帯端末装置のカメラを用いて動画を撮像する場合には、明点Sの明滅のビットレートを充分に低くする必要がある。例えば、60fpsの動画を撮像可能な携帯端末装置のカメラを用いる場合には、1つの光源部21あたりの明点Sの明滅のビットレートを8〜10bps程度に留めることが好ましい。例えば、
図3に示す3色の光源部21R,21G,21Bを同時に用いれば、24〜30bpsの伝送速度が得られる。
【0087】
また、明点Sの明滅による情報提供サービスは、上記の人工衛星1からレーザを照射する方法以外にも広く応用可能である。つまり、任意の可視領域の波長の光によって表示される明点Sの明滅によって、明点Sの明滅を撮像した動画からデコード可能に構成されたエンコードされた情報を提供することができる。