【課題】本発明は、錠剤硬度の経時的な低下を抑制するとともに、打錠障害も抑制された、エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤(以下、エゼチミブ含有錠剤ともいう。)と、その製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のエゼチミブ含有錠剤は、エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤であって、マンニトールと、前記錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤とをさらに含有し、前記滑沢剤が少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含む。本発明によれば、錠剤硬度の経時的な低下および打錠障害がいずれも抑制されたエゼチミブ含有錠剤と、その製造方法を提供できる。
エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤であって、マンニトールと、前記錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤とをさらに含有し、前記滑沢剤が少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含む錠剤。
エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤の製造方法であって、前記錠剤が、マンニトールと、前記錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤とをさらに含有し、前記滑沢剤が少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含む、錠剤の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討により、ゼチーア(登録商標)錠は、経時的に錠剤硬度の低下が発生し、錠剤に欠けや割れが生じるという課題を有していることが判明した。
【0005】
そこで、本発明者が鋭意検討したところ、エゼチミブを含有する錠剤(以下、エゼチミブ含有錠剤ともいう。)において、賦形剤としてマンニトールを、崩壊剤として所定量のクロスカルメロースナトリウムを使用することにより、錠剤硬度の低下を抑制できることを見出した。
【0006】
ところが、その一方で、エゼチミブ含有錠剤においてマンニトールとクロスカルメロースナトリウムを添加すると、錠剤の打錠時に打錠障害が発生するという新たな課題が生じることが判明した。
ここで打錠障害とは、打錠時にスティッキング(打錠用の混合物が杵に付着する現象)、バインディング(錠剤の側面に傷ができる現象)のうち、1種以上の現象が生じることを言う。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、錠剤硬度の経時的な低下および打錠障害がいずれも抑制されたエゼチミブ含有錠剤の提供と、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、エゼチミブ含有錠剤にマンニトールと錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムを添加した場合に、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを使用することによって、錠剤硬度の経時的な低下を防ぐとともに、打錠障害を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤であって、マンニトールと、前記錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤とをさらに含有し、前記滑沢剤が少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含む錠剤。
[2]エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含有する錠剤の製造方法であって、前記錠剤が、マンニトールと、前記錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤とをさらに含有し、前記滑沢剤が少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含む、錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、錠剤硬度の経時的な低下および打錠障害がいずれも抑制されたエゼチミブ含有錠剤と、その製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔エゼチミブ含有錠剤〕
本発明のエゼチミブ含有錠剤(以下、単に錠剤ともいう。)は、エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩と、マンニトールと、錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと、滑沢剤であるフマル酸ステアリルナトリウムとを含む。
【0012】
エゼチミブの薬学的に許容される塩としては、たとえば、塩酸塩、硫酸塩や、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。
エゼチミブ含有錠剤100質量%中のエゼチミブ又はその薬学的に許容される塩の含有量は、特に制限はないが、エゼチミブとして、0.1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
【0013】
本発明の錠剤は、賦形剤としてマンニトールを含有する。
マンニトールの含有量は、エゼチミブ含有錠剤100質量%中、40〜99質量%が好ましく、55〜95質量%がより好ましく、70〜90質量%がさらに好ましい。この範囲であれば、所定量のクロスカルメロースナトリウムとともに錠剤に含有させることにより、経時的な錠剤硬度の低下をより抑制したエゼチミブ含有錠剤とすることができる。
【0014】
本発明の錠剤は、さらに、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含有する。クロスカルメロースナトリウムの含有量は、エゼチミブ含有錠剤100質量%中、7質量%以下であり、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。また、クロスカルメロースナトリウムの含有量は、錠剤100質量%に対して0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。エゼチミブまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤において、賦形剤としてマンニトールを用いるとともに、クロスカルメロースナトリウムを上記範囲で含有させることにより、経時的な錠剤硬度の低下を抑制したエゼチミブ含有錠剤とすることができる。
【0015】
本発明の錠剤は、さらに、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを含有する。これにより、エゼチミブ含有錠剤がマンニトールとクロスカルメロースナトリウムを含有することに起因する打錠障害が抑制されたエゼチミブ含有錠剤とすることができる。
【0016】
滑沢剤の含有量は、エゼチミブ含有錠剤100質量%中、0.1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。この範囲内で、少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを使用することにより、錠剤硬度の経時的な低下に加え打錠障害も十分に抑制されたエゼチミブ含有錠剤とすることができる。
【0017】
本発明の錠剤は、マンニトールおよびクロスカルメロースナトリウム、ならびにフマル酸ステアリルナトリウム以外の1種以上の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、たとえば賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、着色剤、流動化剤、界面活性剤等が挙げられ、医薬品分野において使用可能な添加剤であれば、いずれも使用できる。
【0018】
賦形剤としては、マンニトールに加え、たとえば、結晶セルロース、乳糖水和物、無水乳糖、精製白糖、バレイショデンプン、アルファー化デンプン、リン酸水素カルシウム等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できるが、結晶セルロースを使用すると、錠剤硬度が経時的に低下する可能性がある。よって、結晶セルロースを使用しないことが好ましい。
【0019】
崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウムに加え、たとえば、他のセルロース系崩壊剤(カルメロースカルシウム、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等。)、クロスポビドン、デンプン系崩壊剤(トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等。)等から選ばれる1種以上を使用してもよい。
【0020】
滑沢剤としては、フマル酸ステアリルナトリウムに加え、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸金属塩、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルから選ばれる1種以上を使用してもよいが、打錠障害や溶出遅延を抑制する観点からは、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸金属塩以外の滑沢剤を含有しない方が好ましい。たとえば、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等は含有しない方が好ましい。
【0021】
結合剤としては、たとえばポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ポリビニルアルコール、ステアリルアルコール、アンモニオメタクリレート・コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、デキストリン、水アメ等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できるが、溶出性の点から、ポビドンが好ましい。
結合剤の含有量は、特に制限はないが、エゼチミブ含有錠剤100質量%中、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0022】
着色剤としては、たとえば黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0023】
流動化剤としては、たとえば含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0024】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80等が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
その他の添加剤としては、酸化チタン、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。
【0025】
本発明の錠剤としては、普通錠や、唾液または少量の水で崩壊する口腔内速崩壊錠等が挙げられる。普通錠としては、素錠のみからなるものでも、フィルムコーティング錠(以下、FC錠ともいう。)でもよい。
上述の添加剤は、錠剤が、素錠と該素錠を被覆するコーティングとからなるFC錠である場合に、素錠に含まれていてもコーティングに含まれていても両方に含まれていてもよい。
【0026】
[錠剤の製造方法]
本発明の錠剤の製造方法は、エゼチミブと、マンニトールと、クロスカルメロースナトリウムと、フマル酸ステアリルナトリウムとを含む錠剤を製造できる方法であれば特に制限はないが、たとえば、エゼチミブと、マンニトールと、クロスカルメロースナトリウムとを含む混合物を打錠する、打錠工程を含む。打錠工程には、錠剤成形に一般に使用される打錠機を使用できる。混合物が、エゼチミブ、マンニトール、錠剤100質量%に対して7質量%以下のクロスカルメロースナトリウムと共に、フマル酸ステアリルナトリウムを含有することにより、錠剤硬度の経時的な低下および打錠障害が抑制されたエゼチミブ含有錠剤が得られる。
【0027】
また、本発明の製造方法としては、エゼチミブと、マンニトールと、クロスカルメロースナトリウムとを含む造粒用粉末を造粒する造粒工程と、該造粒工程で得られた造粒物と滑沢剤を含む混合物を打錠する打錠工程を有する方法であることが好ましい。
なお、造粒用粉末および打錠用の混合物には、適宜、上述した添加剤が含まれてよい。
本発明の錠剤がFC錠である場合には、打錠工程で得られた素錠にコーティングを施す被覆工程をさらに有していてよい。造粒工程および被覆工程は、それぞれ公知の方法により行える。打錠工程は、上述のとおり、錠剤成形に一般に使用される打錠機を用いて行える。
【実施例】
【0028】
[参考例1]
非特許文献1に記載のゼチーア(登録商標)錠(以下、参考例1ともいう。)は、エゼチミブと、添加剤として乳糖水和物、結晶セルロース、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムとを含む製剤である。
参考例1において、下記に示す方法で錠剤硬度と錠剤質量を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
下記の表2〜3の処方に従い、一錠あたり100mgの錠剤を製造した。
まず、表2〜3の造粒物の欄に記載の各成分を混合して造粒用粉末を得て、造粒用粉末に水を加えて造粒、乾燥、篩過を行い、造粒物を得た。得られた造粒物に対して、表2〜3の後末の欄に記載の各成分を加えて混合して、打錠用の混合物とし、この混合物をロータリー打錠機(VELA5、菊水製作所製)で打錠成形し、錠剤を得た。
得られた錠剤について、以下の項目を評価した。結果を表2〜3に示す。
【0030】
<スティッキング>
以下の基準により、上杵および下杵それぞれについて、スティッキングを評価した。
○:連続的に19200錠を打錠しても、混合物の上杵または下杵への付着による欠けのある錠剤は認められなかった。
×:連続的に19200錠を打錠する間に、混合物の上杵または下杵への付着による欠けのある錠剤が1錠以上認められた。
【0031】
<バインディング>
以下の基準により、バインディングを評価した。なお、上記スティッキングの評価でスティッキングが認められた例においては、バインディングの評価を行わず、表中では「−」と示した。
○:連続的に19200錠を打錠しても、側面に傷のある錠剤が認められなかった。
×:連続的に19200錠を打錠する間に、側面に傷のある錠剤が1錠以上認められた。
【0032】
<錠剤硬度>
錠剤について、25℃、相対湿度85%RHの条件下での保存前、および25℃、相対湿度85%RHの条件下での2週間の保存後の錠剤硬度を、錠剤硬度計(PC−30、岡田精工社製)を用いて測定した。なお、表1〜2に示した硬度は、5個の錠剤の平均値である。
【0033】
<錠剤質量>
錠剤について、25℃、相対湿度85%RHの条件下での保存前、および25℃、相対湿度85%RHの条件下での2週間の保存後の錠剤質量を、天びん(AB135−S、メトラー・トレド社製)を用いて測定した。なお、表1〜2に示した質量は、5個の錠剤の平均値である。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表1に示すように、25℃、相対湿度85%RHの条件下での2週間の保存により、参考例1では、錠剤硬度は初期値4.9kgfから、1.0kgfまで低下した。また、質量は99.9mgから104.9mgまで増加した。経時的な錠剤硬度の低下と同時に、経時的な質量増加も認められていることから、錠剤硬度の低下は吸湿に起因するものと考えられた。
一方、表2に示すように、賦形剤としてマンニトールを含み、かつ、クロスカルメロースを所定量含有する実施例1〜2では、錠剤硬度の低下が抑制されているとともに、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを使用しているために、打錠障害も生じなかった。同様に、表3の実施例3のように、フマル酸ステアリルナトリウムの含有率を増やした場合でも、打錠障害は認められなかった。また、実施例4のように、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムをフマル酸ステアリルナトリウムと併用した場合でも、打錠障害は認められなかった。
これに対して、表3の比較例1〜3では、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを使用しておらず、打錠障害が認められた。
【0038】
以上のとおり、マンニトールと錠剤100質量%に対して所定量のクロスカルメロースナトリウムと滑沢剤とを含有し、滑沢剤として少なくともフマル酸ステアリルナトリウムを含むエゼチミブ含有錠剤は、錠剤硬度の経時的な低下が抑制された上で、さらに打錠障害も抑制されることが見出された。