特開2018-185186(P2018-185186A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2018-185186磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法
<>
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000003
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000004
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000005
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000006
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000007
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000008
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000009
  • 特開2018185186-磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-185186(P2018-185186A)
(43)【公開日】2018年11月22日
(54)【発明の名称】磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/00 20060101AFI20181026BHJP
   G01N 25/18 20060101ALI20181026BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20181026BHJP
   G01J 5/48 20060101ALI20181026BHJP
【FI】
   G01N25/00 A
   G01N25/18 J
   H01F7/02 Z
   G01J5/48 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-86061(P2017-86061)
(22)【出願日】2017年4月25日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】内田 健一
(72)【発明者】
【氏名】平山 悠介
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AB08
2G040AB12
2G040BA25
2G040CA02
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA06
2G040DA15
2G066AC07
2G066BC30
2G066CA02
2G066CA14
(57)【要約】
【課題】磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上させた磁場変化に対する熱応答測定装置を提供すること。
【解決手段】測定対象物50が置かれる間隙18を有する磁気回路10と、測定対象物50に印加する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を出力する印加磁場制御部40と、周期的に温度変化する測定対象物50を連続撮影して赤外線熱画像データを取得する赤外線カメラ20と、取得した赤外線熱画像データのうち、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定された、赤外線熱画像データを抽出する熱画像システムプロセス部30と、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定される測定対象物50に印加される磁場の変化と、赤外線熱画像データから得られる測定対象物表面の温度分布の時間変化から、測定対象物50の磁場変化に対する熱応答を演算する磁場変化に対する熱応答演算部36とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に印加する磁場を変化させて、当該磁場の変化により当該測定対象物に生ずる温度変化を測定して、当該測定対象物の磁場変化に対する熱応答を測定する方法であって
前記測定対象物に印加する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を供給し、
前記測定対象物を赤外線カメラで撮像して前記測定対象物表面の複数の赤外線熱画像データを取得し、
該得られた複数の赤外線熱画像データから前記測定対象物表面の温度分布の時間変化を検出し、
前記印加磁場制御信号から、前記測定対象物に印加される磁場の変化(ΔH)に応答して発生した前記測定対象物表面の温度分布の変化(ΔT)を求め、前記測定対象物の磁場変化に対する熱応答を演算する
ことを特徴とする磁場変化に対する熱応答測定方法。
【請求項2】
前記赤外線熱画像データは、前記測定対象物から放射される赤外線の受光量に基づく温度データを含むことを特徴とする請求項1に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法。
【請求項3】
前記測定対象物の磁場変化に対する熱応答を演算する処理には、前記印加磁場制御信号に基づいてロックイン処理して赤外線熱画像データを抽出することが含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法。
【請求項4】
前記測定対象物に印加する磁場を変化させることは、前記測定対象物に印加する磁場を生成する電磁石に電力を供給する電源回路に対して、前記電磁石の生成する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号によって行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法。
【請求項5】
前記測定対象物に印加する磁場を変化させることは、前記測定対象物に印加する磁場を生成する永久磁石に対して、当該永久磁石と前記測定対象物との距離を周期的に変動させる印加磁場制御信号によって行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法。
【請求項6】
測定対象物が置かれる間隙を有する磁気回路と、
前記測定対象物に印加される磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を出力する印加磁場制御部と、
周期的に温度変化する前記測定対象物を連続撮影して赤外線熱画像データを取得する赤外線カメラと、
取得した前記赤外線熱画像データのうち、前記印加磁場制御信号に基づいて決定された赤外線熱画像データを抽出する熱画像システムプロセス部と、
前記印加磁場制御信号から、前記測定対象物に印加される磁場の変化(ΔH)に応答して発生した前記測定対象物表面の温度分布の変化(ΔT)を求め、前記測定対象物の磁場変化に対する熱応答を演算する熱応答演算部と、
を備えることを特徴とする磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項7】
前記磁気回路は、電磁石を有し、
前記印加磁場制御部は、前記電磁石に対して励磁電流を供給する電源回路と、前記電源回路の励磁電流を制御する前記印加磁場制御信号を出力する励磁電流制御部とを有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項8】
前記磁気回路は、永久磁石を有し、
前記印加磁場制御部は、当該永久磁石と前記測定対象物との距離を周期的に変動させる駆動機構部と、前記駆動機構部の動作を制御して、当該永久磁石と前記測定対象物との距離を周期的に変動させる前記印加磁場制御信号を出力する駆動機構制御部とを有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項9】
前記磁気回路は、永久磁石を有し、
前記印加磁場制御部は、当該永久磁石の極性を反転させる回転機構と、前記回転機構の動作を制御して、当該永久磁石による前記測定対象物の磁場を周期的に変動させる前記印加磁場制御信号を出力する回転機構制御部とを有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項10】
前記印加磁場制御部は、前記測定対象物に印加される磁場が強い磁場状態と弱い磁場状態の2値に制御する2値制御信号であると共に、当該2値制御信号は強い磁場状態と弱い磁場状態の周波数が0.01Hzから100Hzの範囲である印加磁場制御信号を出力することを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項11】
前記印加磁場制御部は、当該2値制御信号における強い磁場状態と弱い磁場状態のデューティー比が10%乃至90%の範囲である印加磁場制御信号を出力することを特徴とする請求項10に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項12】
前記印加磁場制御部は、周期信号を発生する信号発生器を有し、前記印加磁場制御信号の成分として当該周期信号を含むと共に、
前記熱画像システムプロセス部は、前記周期信号に基づいてロックイン処理して赤外線熱画像データを抽出することを特徴とする請求項6乃至11の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項13】
さらに、前記熱画像システムプロセス部で得られた複数の熱画像から前記測定対象物表面の温度分布の時間変化を検出する温度分布変化検出部と、
該検出した前記測定対象物表面の温度分布の時間変化と、前記印加磁場制御信号から前記測定対象物に印加される磁場の変化との相関を求める印加磁場温度相関演算部と、
を備えることを特徴とする請求項6乃至12の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【請求項14】
前記測定対象物の磁場変化に対する熱応答は、磁気熱量効果であることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法、または請求項6乃至13の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場変化に対する熱応答測定装置に関し、より詳しくは、磁気冷凍材料の探索スループットと磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上させた、磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガドリニウム等の磁性材料に磁場を加えると、原子の不対電子に起因する磁気モーメントが磁力線の方向へ規則的にそろえられ、エントロピーの減少分を熱として放出する。逆に磁性体より磁場を取り去ると磁気モーメントの方向は不規則になり、エントロピーの増加分を周囲からの熱で補う。この現象は磁気熱量効果と呼ばれ、この磁場変化によって生じた吸発熱量を、熱サイクルにより低熱源および高熱源へ移動させることで、冷凍機およびヒートポンプとして作動させることが可能となる(例えば、非特許文献1)。
【0003】
磁気冷凍法を、従来広く普及している蒸気圧縮式冷凍法と比較すると、以下に示す特徴が挙げられる。
(1)冷媒にフロン類を使用せず環境負荷が小さい。
(2)冷媒が液体であり密閉空間でもガス漏えいの心配がない。
(3)冷媒が液体であるため小型高効率化が可能である。
【0004】
そこで、従来より磁気冷凍法に用いる磁気熱量効果材料の探索が行われている(例えば、特許文献1)。このような磁気熱量効果材料の磁気熱量効果を測定するために、例えば、特許文献2、3に開示された装置が知られている。しかし、特許文献2、3に開示された装置では、測定対象物に接触させて温度を測定する方法をとっているため、温度測定できる測定対象物が限られていた。
【0005】
さらに、磁気冷凍法に用いる磁気熱量効果材料では、磁場の印加・除去による磁気エントロピー変化に伴い磁性体が発熱・吸熱する現象を用いているため、従来の磁気熱量効果測定装置のような定常状態を前提とする静的な測定では、磁場・周波数応答性特性に対する系統的な測定に多大な時間が掛るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許第101882493号B
【特許文献2】中国実用新案登録第2574065号Y
【特許文献3】中国実用新案登録第201352407号Y
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】フロンレスを実現する磁気冷凍技術、東芝レビュー Vol.62、No.9、P.76−77(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来の磁気熱量効果材料の磁気熱量効果測定における上記の問題を解決するためになされたものであり、磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上させた磁場変化に対する熱応答測定装置および測定方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
[1] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法は、測定対象物(50)に印加する磁場を変化させて、当該磁場の変化により当該測定対象物に生ずる温度変化を測定して、当該測定対象物の磁場変化に対する熱応答を測定する方法であって、前記測定対象物に印加する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を供給し、前記測定対象物を赤外線カメラ(20)で撮像して前記測定対象物表面の複数の熱画像を得、該得られた複数の熱画像から前記測定対象物表面の温度分布の変化を検出し、前記印加磁場制御信号から前記測定対象物に印加される磁場の変化(ΔH)に応答して発生した前記測定対象物表面の温度分布の変化(ΔT)を求め、前記測定対象物に印加される磁場の変化と前記測定対象物表面の温度分布の変化から、前記測定対象物の磁場変化に対する熱応答を演算することを特徴とする。
【0010】
[2] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法において、好ましくは、前記赤外線熱画像データは、前記測定対象物から放射される赤外線の受光量に基づく温度データを含むとよい。
[3] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法において、好ましくは、前記相関を求める処理には、ロックイン処理が含まれるとよい。
【0011】
[4] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法において、好ましくは、前記測定対象物に印加する磁場を変化させることは、前記測定対象物に印加する磁場を生成する電磁石に電力を供給する電源回路に対して、前記電磁石の生成する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号によって行うとよい。
[5] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法において、好ましくは、前記測定対象物に印加する磁場を変化させることは、前記測定対象物に印加する磁場を生成する永久磁石に対して、当該永久磁石と前記測定対象物との距離を周期的に変動させる印加磁場制御信号によって行うとよい。
【0012】
[6] 本発明の磁場変化に対する熱応答測定装置は、測定対象物(50)が置かれる間隙(18)を有する磁気回路(10)と、測定対象物50に印加する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を出力する印加磁場制御部(40)と、周期的に温度変化する測定対象物50を連続撮影して赤外線熱画像データを取得する赤外線カメラ(20)と、取得した赤外線熱画像データのうち、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定された、赤外線熱画像データを抽出する熱画像システムプロセス部(30)と、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定される測定対象物50に印加される磁場の変化と、赤外線熱画像データから得られる測定対象物表面の温度分布の時間変化から、測定対象物50の磁場変化に対する熱応答を演算する磁場変化に対する熱応答演算部(36)とを備えることを特徴とする。
【0013】
[7] [6]の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、前記磁気回路は電磁石(10)を有し、印加磁場制御部(40)は、前記電磁石に対して励磁電流を供給する電源回路(44)と、電源回路44の励磁電流を制御する印加磁場制御信号を出力する励磁電流制御部(42)とを有するとよい。
[8] [6]の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、前記磁気回路は永久磁石を有し、印加磁場制御部(40)は、当該永久磁石と測定対象物50との距離を周期的に変動させる駆動機構部と、前記駆動機構部の動作を制御して、当該永久磁石と測定対象物50との距離を周期的に変動させる前記印加磁場制御信号を出力する駆動機構制御部とを有するとよい。
[9] [6]の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、磁気回路は永久磁石を有し、印加磁場制御部(40)は、当該永久磁石の極性を反転させる回転機構と、前記回転機構の動作を制御して、当該永久磁石による前記測定対象物の磁場を周期的に変動させる前記印加磁場制御信号を出力する回転機構制御部とを有するとよい。ここで、回転機構は、永久磁石の極性を正反転させることで、永久磁石による前記測定対象物の磁場を周期的に変動させている。
【0014】
[10] [6]乃至[9]の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、前記印加磁場制御部は、測定対象物50に印加される磁場が強い磁場状態と弱い磁場状態の2値に制御する2値制御信号であると共に、当該2値制御信号は強い磁場状態と弱い磁場状態の周波数が0.01Hzから100Hzの範囲である印加磁場制御信号を出力するとよい。2値制御信号が100Hzを超えると、赤外線カメラのフレームレートの1/4が最大ロックイン周波数となる関係で、汎用の赤外線カメラのフレームレートである100Hzからは高周波数になりすぎて追従できないためである。赤外線カメラのフレームレートとして400Hz以上の高感度カメラを使用する必要と、設備価格が高騰する。2値制御信号が0.01Hz未満では、測定に時間が掛りすぎ、実用的でない。
[11] [10]の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、前記印加磁場制御部は、当該2値制御信号における強い磁場状態と弱い磁場状態のデューティー比が10%乃至90%の範囲である印加磁場制御信号を出力するとよい。
【0015】
[12] [6]乃至[11]の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置において、好ましくは、前記励磁電流制御部は、周期信号を発生する信号発生器を有し、前記印加磁場制御信号の成分として当該周期信号を含むと共に、熱画像システムプロセス部30は、前記周期信号に基づいてロックイン処理して赤外線熱画像データを抽出するとよい。
[13] [6]乃至[12]の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置において、さらに、熱画像システムプロセス部30で得られた複数の熱画像から測定対象物50表面の温度分布の時間変化を検出する温度分布変化検出部(32)と、該検出した測定対象物50表面の温度分布の時間変化と、前記印加磁場制御信号から測定対象物50に印加される磁場の変化との相関を求める印加磁場温度相関演算部(34)とを備えるとよい。
[14] [1]乃至[5]の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定方法において、好ましくは、対象物50の磁場変化に対する熱応答は、磁気熱量効果であるとよい。また、[6]乃至[13]の何れか1項に記載の磁場変化に対する熱応答測定装置測定において、好ましくは、対象物50の磁場変化に対する熱応答は、磁気熱量効果であるとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁場変化に対する熱応答測定装置によれば、測定対象物に印加する磁場を周期的に変動させる動的な測定を行なうことで、磁場・周波数応答性特性に対する系統的な測定を迅速に行うことができ、磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上させることができる。
本発明の磁場変化に対する熱応答測定方法によれば、定常状態を前提とする静的な測定に代えて、測定対象物に印加する磁場を周期的に変動させる動的な測定を行っているので、磁場・周波数応答性特性に対する系統的な測定を迅速に行うことができ、磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例を示す磁場変化に対する熱応答測定装置の全体構成図である。
図2図1の装置における動作を説明する波形図である。
図3】磁気熱量効果の説明図である。
図4】ロックイン熱画像測定装置を説明する全体構成図である。
図5図4の装置における動作を説明する図である。
図6図1の装置で撮影されたロックイン熱画像の一例を示す図である。
図7図1の装置で測定された、測定対象物におけるロックイン周波数とΔT/ΔHの関係の一例を示すグラフである。
図8図1の装置で測定された、測定対象物におけるロックイン周波数と磁場の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を用いて、本発明を説明する。
<磁場変化に対する熱応答測定装置>
図1は、本発明の一実施例を示す磁場変化に対する熱応答測定装置の全体構成図である。図において、本発明の磁場変化に対する熱応答測定装置は、磁気回路10、赤外線カメラ20、熱画像システムプロセス部30、及び印加磁場制御部40を有すると共に、測定対象物50が測定位置に置かれる。
磁気回路10は、電磁石12、磁気回路形成用のヨーク16a、16b、及び測定対象物設置空間としての間隙18を有している。電磁石12は、間隙18を有するC字形の磁気回路10に対して、間隙18を挟んで磁気回路10の両側に設けられるヨーク16a、16bに装着されるもので、巻線14a、14bとボビン13a、13bを有している。
【0019】
印加磁場制御部40は、測定対象物50に印加する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号を出力するもので、例えばプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)やシーケンサが用いられる。印加磁場制御部40は、電磁石12に対して励磁電流を供給する電源回路44と、電源回路44の励磁電流を制御する印加磁場制御信号を出力する励磁電流制御部42とを有する。励磁電流制御部42は、ロックイン用信号発生器42としても作用する。ロックイン用信号発生器42としては、印加磁場制御信号に同期した参照信号を熱画像システムプロセス部30に送っている。この参照信号は、熱画像システムプロセス部30の選定する赤外線熱画像データにおいて、測定対象物50に生ずる磁場変化に同期した熱応答を選定するのに用いられる。
【0020】
赤外線カメラ20は、周期的に温度変化する測定対象物50を連続撮影して赤外線熱画像データを取得するもので、汎用のものでよい。赤外線カメラ20は、測定対象物設置空間としての間隙18に置かれた測定対象物50を連続撮影する。
熱画像システムプロセス部30は、例えば汎用のパーソナルコンピュータに熱画像のシステム管理ソフトウェアをインストールしたものや、熱画像システム専用の管理ソフトウェアをインストールしたコンピュータが用いられる。熱画像システムプロセス部30は、赤外線カメラ20で取得した赤外線熱画像データのうち、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定された、赤外線熱画像データを抽出する。熱画像システムプロセス部30は、さらに温度分布変化検出部32、印加磁場温度相関演算部34、熱応答演算部36を有するとよい。
【0021】
温度分布変化検出部32は、熱画像システムプロセス部30で得られた複数の熱画像から測定対象物50表面の温度分布の時間変化を検出する。
印加磁場温度相関演算部34は、該検出した測定対象物表面の温度分布の時間変化と印加磁場制御信号から測定対象物50に印加される磁場の変化との相関を求めるもので、時間的な相関を定める為に、ロックイン用信号発生器42から送られる参照信号をタイミング信号として用いる。
熱応答演算部36は、電源回路44に出力される印加磁場制御信号に基づいて決定される測定対象物50に印加される磁場の変化と、赤外線熱画像データから得られる測定対象物表面の温度分布の時間変化から、測定対象物50の磁場変化に対する熱応答を演算する。この測定対象物の磁場変化に対する熱応答は、例えば磁気熱量効果であるが、これに限定されるものではなく、例えばハイパーサーミア用磁性材料の温度変化応答でもよい。
測定対象物50は、測定対象物として安定して存在していれば足り、その物理的・化学的・機械的特性は問わない。本発明の磁場変化に対する熱応答測定装置では、測定対象物50を非接触・非配線で計測できるためである。
【0022】
図2は、図1の装置における動作を説明する波形図で、(A)は電磁石への入力電流波形、(B)は参照信号波形、(C)は磁場の変動(ΔH)を説明する波形、(D)は出力される赤外線熱画像データでの温度変動を説明する波形を示している。
電磁石12への入力電流は、電源回路44が電磁石12の巻線14a、14bに対して供給する励磁電流である。参照信号は、ロックイン用信号発生器42から熱画像システムプロセス部30や印加磁場温度相関演算部34に送られるもので、印加磁場制御信号とのロックインに必要な周波数成分や位相成分を含むものである。磁場の変化(ΔH)は測定対象物50に印加される磁場の変動を示すもので、電源回路44の励磁電流と相似の波形をしている。赤外線熱画像データでの温度変動は、測定対象物50表面の温度分布の変化(ΔT)を示している。
【0023】
<磁気熱量効果>
図3は、磁場変化に対する熱応答の一種である磁気熱量効果の説明図である。磁気熱量効果では、一対の永久磁石11a、11bとの間隙に試料50aが位置して、試料50aに強い磁場が作用している状態と、試料50bが一対の永久磁石11a、11bと離れた位置に移動して、試料50bに磁場が作用していない状態とを繰り返す。試料50aでは、強い磁場が作用しているため、試料50a内の磁性体の電子スピン方向が揃い、エントロピーが低い状態になる。他方、試料50bでは、磁場が作用していないため、試料50b内の磁性体の電子スピン方向が不揃いとなり、エントロピーが高い状態になる。高エントロピー状態から低エントロピー状態に遷移すると、放熱現象が生じる。逆に、低エントロピー状態から高エントロピー状態に遷移すると、吸熱現象が生じる。
【0024】
<ロックイン熱画像測定装置>
図4は、ロックイン熱画像測定装置を説明する全体構成図である。
ロックイン熱画像測定装置では、赤外線カメラ20、熱画像システムプロセス部30、及び電源回路38を有すると共に、測定対象物52が赤外線カメラ20の撮像位置に置かれる。
【0025】
図5は、図4の装置における動作を説明する図で、(A)は赤外線画像イメージ、(B)は電源回路38が測定対象物52に供給する駆動電流波形、(C)は赤外線画像イメージのフーリエ変換の説明図、(D)はロックイン画像の説明図で、(D1)は振幅に対するロックイン画像、(D2)は位相に対するロックイン画像を示している。
熱画像システムプロセス部30では、例えばフーリエ変換を用いて、駆動電流波形と測定対象物52の赤外線画像イメージとの時間的な相関により、画像抽出を行っている。ロックイン解析によって抽出した熱画像は、周期的な駆動電流に応答して発生した測定対象物52の温度変化の大きさを表す振幅像と、周期的な駆動電流に応答して発生した測定対象物52の温度変化の時間遅れや符号を表す位相像によって構成される。
【0026】
<磁場変化に対する熱応答測定装置での測定結果>
図6は、図1の装置で撮影されたロックイン熱画像の一例を示す図で、(A)は振幅に対するロックイン画像、(B)は位相に対するロックイン画像を示している。
【0027】
図7(A)は、図1の装置で測定された、測定対象物におけるロックイン周波数とΔT/ΔHの関係の一例を示すグラフで、横軸はロックイン周波数で対数表示をしており、縦軸は磁場変化に対する熱応答を示すΔT/ΔH(K/T)である。
図7(A)の右欄中、『■1015.5』、『▲957』、『●756.5』等の表示は、印加磁場(mT)を表している。磁場を変化させる振幅は、例えば30〜66(mT)となっている。印加磁場が、例えば−9、19(mT)のように、磁場を変化させる振幅と比較して小さい領域では、ΔT/ΔH(K/T)の値が0.2(K/T)、0.4(K/T)等となっており、その絶対値自体は、指標となる極大値である1.6(K/T)と比較して低いものの、当該印加磁場の増大と共に、ΔT/ΔH(K/T)が増大する。これに対して、印加磁場が、磁場を変化させる振幅と比較し大きい領域では、ロックイン周波数1Hzで、印加磁場が200〜250(mT)で、ΔT/ΔH(K/T)の極大値をとり、約1.6(K/T)となっている。ロックイン周波数が1Hzよりも低い周波数の領域や、1Hzよりも高い周波数の領域では、ΔT/ΔH(K/T)は極大値よりも小さくなっている。
【0028】
図7(B)は、図1の装置で測定された、測定対象物における印加磁場とΔT/ΔHの関係の一例を示すグラフで、横軸は印加磁場(mT)、縦軸は磁場変化に対する熱応答を示すΔT/ΔH(K/T)である。
図7(B)の右欄中、『■25Hz』、『◆2Hz』、『1Hz』等の表示は、磁場を変化させる周波数を表している。磁場を変化させる周波数が、1Hz程度の周波数領域では、ΔT/ΔH(K/T)の値が中間最高値を示す。これに対して、磁場を変化させる周波数が、1Hzより高い25Hz程度迄の高周波数領域では、周波数の増大と共に、ΔT/ΔH(K/T)が低下する。他方、磁場を変化させる周波数が、1Hzより低い0.1Hz程度迄の低周波数領域では、周波数の低下と共に、ΔT/ΔH(K/T)が低下する。
【0029】
図8は、図1の装置で測定された、測定対象物におけるロックイン周波数と磁場の関係の一例を示すグラフで、(A)は印加磁場とロックイン周波数、(B)は印加磁場と温度変化(ΔT)を示している。
図8(A)において、横軸はロックイン周波数で線型表示をしており、縦軸は印加磁場(mT)、図8(A)の右欄中の無彩色の明度は、変化に対する熱応答を示すΔT/ΔH(K/T)の値に対応している。ΔT/ΔH(K/T)の極大値は、ロックイン周波数が0.8〜1.5Hz付近、印加磁場が150〜400(mT)程度の領域で、ΔT/ΔH(K/T)の極大値1.6程度をとる。印加磁場が20(mT)以下程度で、ロックイン周波数が25Hz以下の領域では、ΔT/ΔH(K/T)は0.2以下の低い値となっている。印加磁場が300〜700(mT)で、ロックイン周波数が22Hz以上の領域でも、ΔT/ΔH(K/T)は0.2程度の低い値となっている。
【0030】
図8(B)は、横軸は印加磁場(mT)、縦軸は温度変化(ΔT)、複数の曲線はロックイン周波数毎に表されている。ロックイン周波数が1Hzよりも高い周波数の領域では、印加磁場(mT)の増大と共に、温度変化(ΔT)が増大しているが、その曲線の有する傾斜角度は、ロックイン周波数が高くなるほど、小さくなっている。
【0031】
なお、本発明の磁場変化に対する熱応答測定装置は、測定対象物に印加する磁場を変化させる構成として、測定対象物に印加する磁場を生成する電磁石に電力を供給する電源回路に対して、電磁石の生成する磁場を周期的に変動させる印加磁場制御信号によって行う実施形態を示している。しかし、本発明はこの実施形態に限定して解釈されるべきではなく、例えば測定対象物に印加する磁場を変化させることは、測定対象物に印加する磁場を生成する永久磁石に対して、永久磁石と測定対象物との距離を周期的に変動させる駆動機構を設け、この駆動機構に印加磁場制御信号を供給して行う構成としてもよいし、あるいは永久磁石の極性を反転させる回転機構を設け、この回転機構に印加磁場制御信号を供給して行う構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の磁場変化に対する熱応答の測定装置は、測定対象物に印加する磁場を周期的に変動させる動的な測定を行なうことで、磁場・周波数応答性特性に対する系統的な測定を迅速に行うことができ、磁場・周波数応答性特性の系統的評価の効率を向上させることができる。そこで、例えば磁気熱量効果材料の探索に有益である。
【符号の説明】
【0033】
10 磁気回路
12 電磁石
16a、16b ヨーク(磁気回路形成用ヨーク)
18 間隙(測定対象物設置空間)
20 赤外線カメラ
30 熱画像システムプロセス部
32 温度分布変化検出部
34 印加磁場温度相関演算部
36 熱応答演算部
40 印加磁場制御部
42 励磁電流制御部(ロックイン用信号発生器)
44 電源回路
50 測定対象物
ΔH 磁場の変化
ΔT 温度分布の変化
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8