(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-187629(P2018-187629A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】バナジン酸塩を含む選択的触媒還元ウォールフロー型フィルター
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20181102BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20181102BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20181102BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20181102BHJP
B01J 21/16 20060101ALI20181102BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20181102BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
B01J23/888 AZAB
B01J35/04 301E
B01J35/04 301L
B01J37/02 301C
B01J37/08
B01J21/16 A
B01D53/94 222
B01D53/94 228
B01D53/94 241
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/10 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
F01N3/08 B
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-127483(P2018-127483)
(22)【出願日】2018年7月4日
(62)【分割の表示】特願2015-514612(P2015-514612)の分割
【原出願日】2013年5月31日
(31)【優先権主張番号】61/654,424
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アルールラジ, カネシャリンガム
(72)【発明者】
【氏名】ドッツェル, ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】レパート, ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ミンチ, イェルク
(72)【発明者】
【氏名】グッドウィン, アレグザンドラ ツァミ
(72)【発明者】
【氏名】スメルダー, ギュドマンド
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AB02
3G091AB05
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(57)【要約】 (修正有)
【課題】バナジン酸塩成分を含む触媒を利用することができる、SCRウォールフロー型フィルターを提供する。
【解決手段】フィルターはNO
Xガスの選択的触媒還元(SCR)及びリーンバーン内燃機関の排気ガスからのパティキュレートマターの除去のための触媒を含み、触媒は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はそれらの組合せを有するバナジン酸塩成分を含む。バナジン酸塩成分はバナジン酸鉄でありうる。フィルターはウォールフロー型フィルター上に配された担持バナジン酸塩成分を含む。フィルターの製造方法は、ウォールフロー型フィルターにウォッシュコートとして担持バナジン酸塩成分の水性混合物を塗布し、又は担持バナジン酸塩成分を含む組成物を押出すことを含む。エンジンからの排気ガスの処理方法はバナジン酸塩成分を含む触媒に排気ガスを接触させることを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォールフロー型フィルターの形である基材と前記基材の上に配されている触媒を含み、
前記触媒は担体とバナジン酸塩成分を含み、該バナジン酸塩成分は次式:
(AX)(TY)(RZ)VO4
(式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
「R」が希土類金属であり、「Z」がバナジン酸塩に対する希土類金属のモル比であり;
そして、
0≦X≦1;0≦Y≦1;0≦Z≦1;及びX+Y+Z=1である)によって定義される構造を有し;
前記バナジン酸塩成分は前記担体上に担持されている、フィルター。
【請求項2】
「A」がMg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
「T」がFe、Bi、Al、Ga、In、Cu、Zn、Mo、Cr、Sb及びMnからなる群から選択される、請求項1に記載のフィルター。
【請求項4】
「T」がFeである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項5】
「R」がErである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項6】
「Z」が0である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項7】
前記担体がTiO2、WO3及びSiO2の少なくとも一つからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項8】
前記基材が入口部と出口部を有し、前記基材が複数の入口チャンネルと複数の出口チャンネルを含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項9】
前記触媒は前記複数の入口チャンネルの表面上には配されていない、請求項8に記載のフィルター。
【請求項10】
前記触媒が前記基材の出口部で前記複数の入口チャンネルと前記複数の出口チャンネルに配されている、請求項8に記載のフィルター。
【請求項11】
前記触媒が膜の形で前記複数の入口チャンネルの表面に配されている、請求項8に記載のフィルター。
【請求項12】
前記基材の入口部に配された尿素加水分解触媒を更に具備する、請求項8に記載のフィルター。
【請求項13】
前記基材の出口部に配されたアンモニア酸化触媒を更に具備する、請求項8に記載のフィルター。
【請求項14】
a.バナジン酸塩成分を担体材料と組み合わせる工程であって、該バナジン酸塩成分が次式:
(AX)(TY)(RZ)VO4
(式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
「R」は希土類金属であり、「Z」はバナジン酸塩に対する希土類金属のモル比であり;
そして
0≦X≦1;0≦Y≦1;0≦Z≦1;及びX+Y+Z=1である)によって定義される構造を有する工程と;
b.前記バナジン酸塩成分と前記担体材料に水を加えて水性混合物を生成させる工程と;
c.前記水性混合物を基材に塗布する工程であって、該基材がウォールフロー型フィルターの形である工程と;
d.前記水性混合物の塗布後、前記基材をか焼する工程
を含む、フィルター製造方法。
【請求項15】
「A」がMg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
「T」がFe、Bi、Al、Ga、In、Cu、Zn、Mo、Cr、Sb及びMnからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
「T」がFeである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記希土類金属がErである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
「Z」が0である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記か焼が650℃から700℃の温度でなされる、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記か焼が1から10時間なされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記担体材料がTiO2、WO3及びSiO2からなる群から選択される材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
工程bの前に、少なくとも一種の結合剤をバナジン酸塩成分と担体材料に加えて乾燥材料の混合物を提供することを更に含み、前記乾燥材料の混合物は、1%から10%の前記バナジン酸塩成分、50%から95%の前記担体材料、及び10%から25%の前記少なくとも一種の結合剤を含有し、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記乾燥材料の混合物が、65%から80%の前記担体材料を含み、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記乾燥材料の混合物が、0.5%から4%の前記バナジン酸塩成分を含み、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記乾燥材料の混合物は、3%から13%のWO3を更に含み、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記水性混合物が20%から45%固形分であり、該固形分パーセントは水性混合物の全重量当たりの乾燥材料の重量パーセンテージである、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
a.バナジン酸塩成分を担体材料と組み合わせる工程であって、該バナジン酸塩成分が次式:
(AX)(TY)(RZ)VO4
(式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
「R」は希土類金属であり、「Z」はバナジン酸塩に対する希土類金属のモル比であり;
そして
0≦X≦1;0≦Y≦1;0≦Z≦1;及びX+Y+Z=1である)によって定義される工程と;
b.前記バナジン酸塩成分と前記担体材料に水を加えて水性混合物を生成させる工程と;
c.前記水性混合物を有機薬剤と混合し、押出し可能な組成物を生成する工程と;
d.前記押出し可能な組成物を複数の平行チャンネルを有する本体中に押出す工程と;
e.前記本体のか焼前又は後に、前記複数の平行チャンネル中の各チャンネルの一端を閉塞する工程
を含む、フィルターの製造方法。
【請求項29】
前記複数の平行チャンネル中の各チャンネルの一端の閉塞が前記本体のか焼前に実施される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
工程bの前に、少なくとも一種の結合剤をバナジン酸塩成分と担体材料に加えて乾燥材料の混合物を提供することを更に含み、前記乾燥材料の混合物は、1%から10%の前記バナジン酸塩成分、65%から80%の前記担体材料、及び10%から25%の前記少なくとも一種の結合剤を含み、該パーセンテージが乾燥重量パーセンテージである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
工程bの前に、可溶性バナジウム塩を乾燥材料の混合物に、前記乾燥材料の混合物が約1%の前記可溶性バナジウム塩を更に含むように加えることを含み、ここで、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
工程bの後に、ガラス繊維を、5%から15%のガラス繊維となる量で水性混合物に加えることを更に含み、ここで該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記担体材料がTiO2とWO3の混合物であり、TiO2とWO3の重量比が4:1から99:1である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
エンジンからのNOXとパティキュレートマターを含む排気ガスを処理する方法において、前記エンジンからの前記排気ガスを請求項1に記載のフィルターと接触させて、前記NOxを減少させ、前記パティキュレートマターを収集することを含む、方法。
【請求項35】
エンジンからの排気ガスを処理するための排気システムにおいて、
a.エンジンの下流に配された請求項1に記載のフィルター;
b.前記フィルターの上流のアンモニア又は尿素の供給源;及び
c.エンジンからの排気ガスを前記フィルターに導くための排気ガス導管
を具備する、排気システム。
【請求項36】
a.エンジン;
b.エンジンの下流に配された請求項1に記載のフィルター;
c.フィルターの上流のアンモニア又は尿素の供給源;及び
d.前記エンジンからの排気ガスを前記フィルターに導くための排気ガス導管
を具備する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒が排気ガスの選択的触媒還元反応のために取り入れられているフィルターに関する。このようなフィルターは、NO
X及びパティキュレートマターの除去のため、特にリーンバーン内燃機関からの排気ガス中のNO
X及びパティキュレートマターの除去のために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
アメリカ合衆国で路上の車両によって生じる排気ガスは、現在、国のスモッグを引き起こす大気汚染の約3分の1を占める。スモッグを減らすための努力は、ガソリンエンジンと比較し、ディーゼルエンジン等のより燃料効率がよいエンジン、そして改良された排気ガス処置システムの使用を含む。
【0003】
大抵の燃焼排気ガスの大部分は、窒素(N
2)、水蒸気(H
2O)、及び二酸化炭素(CO
2)を含むが、排気ガスは、不完全燃焼による一酸化炭素(CO)、未燃焼燃料による炭化水素(HC)、過度の燃焼温度による窒素酸化物(NO
X)、及びパティキュレートマター(大部分はスート)のような、有害な及び/又は有毒な物質もまた比較的少量で含む。車両の排気ガスの最も負担となる成分の一つはNO
Xであり、これは一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、及び亜酸化窒素(N
2O)を含む。NO
Xの生成は、ディーゼルエンジン等のリーンバーンエンジンで特に問題である。排気ガス中のNO
Xの環境影響を軽減するために、好ましくは他の有害又は有毒な物質を産生しないプロセスによって、これらの望ましくない成分を除去することが望ましい。
【0004】
ディーゼルエンジンの排気ガスは、ガソリンエンジンと比べより多くのスートを含む傾向にある。スートを含む排気ガスをパティキュレートフィルターに通すことによって、スートの排出は是正され得る。しかし、フィルター上のスート粒子の蓄積は、運転中の排気システムの背圧の望ましくない増加を引き起こし、それによって効率の低下を引き起こし得る。フィルターを再生するために、蓄積された炭素系スートは、例えば、高温で受動的又は能動的な酸化でスートを定期的に燃焼させることによって、フィルターから除去されなければならない。
【0005】
ディーゼル排気ガス等のリーンバーン排気ガスでは、還元反応を実施することは一般に難しい。しかし、ディーゼル排気ガス中のNO
Xをより穏和な物質に変換する方法の一つは、一般に選択的触媒還元反応(SCR)と呼ばれる。SCRプロセスは、触媒存在下で還元剤を用いて、NO
Xを窒素(N
2)と水へ変換することを含む。SCRプロセスでは、ガス状の還元剤、典型的には無水アンモニア、アンモニア水、又は尿素が、触媒と接触する前に、排気ガス流に加えられる。該還元剤が触媒上に吸収されて、ガスがその触媒化基材中又は基材上を通過する際に、NO
X還元反応が起こる。SCRプロセスにおけるアンモニアを使用する化学量論反応についての化学反応式は、
4NO + 4NH
3 + O
2 → 4N
2 + 6H
2O
2NO
2 + 4NH
3 + O
2 → 3N
2 + 6H
2O
NO + NO
2 + 2NH
3 → 2N
2 + 3H
2O
である。
【0006】
還元剤としてNH
3を使用するNO
Xの選択的触媒還元反応において利用されている元々の触媒は、白金又は白金族金属等の金属を含む。現在のSCR触媒技術及び研究は、チタンとタングステン上に担持されたバナジウム触媒(V−Ti−W)に焦点が当てられ、いくらかの成功を示している。
【0007】
SCR触媒は一般に不均一系触媒(すなわち、ガス及び/又は液体反応物と接触する固体触媒)として働くので、該触媒は通常基材で担持される。移動用途に使用するための好適な基材は、両端が開口し一般に基材の入口面から出口面にほぼ延びる多数の近接した平行チャンネル(流路)を含むいわゆるハニカム構造を有するフロースルーモノリスを含む。各チャンネルは典型的には正方形、円形、六角形、又は三角形の断面を有する。触媒の原料は、典型的には、基材の壁面上及び/又は壁面中に具現化され得るウォッシュコートとして、基材に塗布される。
【0008】
バナジン酸塩を取り入れている多くの触媒は、所定の他のSCR触媒と比較して、300℃より低い操作温度ではNO
Xを効率的に変換しない。バナジン酸塩を取り入れている既知の多くの触媒は、600℃より上の温度に長期間さらされることでも活性を失し、その温度がフィルター再生のための操作温度である。従って、バナジン酸塩を利用することができる改善された排気ガス処理システムを開発する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一実施態様は、SCRウォールフロー型フィルターに応用するのに十分に適しているバナジン酸塩系の触媒材料を含む。本発明に取り入れられるバナジン酸塩成分は、300℃よりも下の操作温度でNO
Xを効率的に変換でき、600℃より上の温度に長期間さらされた後の活性の消失に抵抗できる。SCRウォールフロー型フィルターがこれらの温度条件下で操作されるので、その触媒材料をSCRウォールフロー型フィルターに導入することができる。
【0010】
触媒成分は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はこれらの組合せを含むバナジン酸塩成分を含む。触媒をか焼する工程に加えて金属又は金属の組合せを取り込むことが、600℃より上の温度に長期間さらされた際の触媒の活性の改善した安定性に寄与することが見出された。
【0011】
従って、発明の一態様は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はこれらの組合せを有するバナジン酸塩成分を含む触媒が基材上に配されているSCRウォールフロー型フィルターを提供する。ここで用いられる「触媒」は、担体、該担体によって担持される金属含有化合物を含み、結合剤及び助触媒等の付加的な材料を任意選択的に含み得る、組成物を言う。ここで用いられる「配される」は、基材の表面上、基材物質内、又は基材が多孔質である場合には基材の孔の表面上に、組み入れられていることを意味する。
【0012】
発明のもう一つの態様は、フィルターを製造する方法を提供する。フィルターを製造する方法は、水性混合物中に触媒材料を入れてそれをウォールフロー型フィルターに塗布すること、又は触媒材料を取り入れている組成物を押出してウォールフロー型フィルターにすることを含む。
【0013】
発明の更にもう一つの態様では、提供されるのは、NO
Xガス及びパティキュレートマターを含んでいる、ディーゼルエンジン等のリーンバーン内燃機関からの排気ガス流を処理する方法である。その方法は、排気ガス流中のNO
Xガスとパティキュレートマターのレベルを減少するのに十分な時間と温度で、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はこれらの組合せの少なくとも一つを有するバナジン酸塩成分を取り入れているSCRウォールフロー型フィルターを通して排気ガス流を処理することを含む。
【0014】
発明の更にもう一つの態様では、提供されるのは、ここに記載されている発明の方法によって製造されたフィルター;リーンバーン内燃機関からの排気ガス流をフィルターへ運ぶ導管、及びフィルターの上流にあるアンモニア若しくは尿素の供給源を具備するエンジン排気ガス処理システムであるである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明がより十分に理解され得るために、次の実施形態が例証だけのために添付の図を参照して提供される:
【
図1】本発明に係るフィルターを含むエンジン排気ガス処理システムの一実施形態の一つを概略的に表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はこれらの組合せを有するバナジン酸塩成分を取り入れるフィルターを製造する新しい方法を提供する。フィルターは、NO
Xガスの選択的触媒還元反応とリーンバーン内燃機関の排気ガス流からのパティキュレートマターの除去を同時に可能である。
【0017】
本発明のフィルターで使用されるバナジン酸塩成分は、以下の一般式で表すことができる。
(A
X)(T
Y)(R
Z)VO
4
該式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
「R」は希土類金属であり、「Z」はバナジン酸塩に対する希土類金属のモル比であり;
そして、
0≦X≦1;0≦Y≦1;0≦Z≦1;及びX+Y+Z=1である。
【0018】
本明細書と特許請求の範囲の目的のために、「アルカリ土類金属」という語句は、周期表上のII族元素の少なくとも一つを意味し、「遷移金属」という語句は、周期表上のIV−XI族元素とZnの少なくとも一つを意味する。
【0019】
本発明の好適な実施態様では、アルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択され、遷移金属はFe、Bi、Al、Ga、In、Cu、Zn、Mo、Cr、Sb及びMnからなる群から選択される。本発明の特に好適な実施態様では、遷移金属はFeである。
【0020】
本明細書と特許請求の範囲の目的のために、「希土類」という語句は、少なくとも一つの希土類元素を意味する。IUPACによると、希土類元素は、Sc、Y、及び15種類のランタノイド、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuを含む。本発明の好適な実施態様では、希土類金属はErである。
【0021】
リーンバーン内燃機関の排気ガスからのNO
X還元とパティキュレートマターの除去を可能にするフィルターを製造する本発明の方法に使用され得る適切なバナジン酸塩成分は、国際公開第2010/121280号に開示されており、その内容の全体を出典明示によりここに援用する。
【0022】
本発明に係るフィルターを製造する場合、バナジン酸塩成分が担体と組み合わされるが、担体は粉末の形態であってもよい。好適な実施態様では、担体はTiO
2である。特に好適な実施態様では、バナジン酸塩成分はTiO
2とWO
3の組合せを含む担体と組み合わされる。更に好適な実施態様では、担体はTiO
2、WO
3及びSiO
2の組合せを含む。担体材料に組み合わされたWO
3に対するTiO
2の重量比は、好ましくは4:1から99:1、更に好ましくは約5:1から33:1、最も好ましくは約7:1から19:1である。不十分な量のSiO
2が担体の安定性に負の影響を及ぼす一方で、高濃度のSiO
2は触媒の活性能に悪影響を及ぼすので、担体内のSiO
2の濃度は最適化されるのが好ましい。
【0023】
本発明の一実施態様では、バナジン酸塩成分と担体は、水中で結合剤と、好ましくはシリカ、チタニア、又はジルコニアと、組み合わされる。水性混合物又はウォッシュコートは、担体材料とバナジン酸塩成分の懸濁液として提供されうる。水が過剰であれば、過剰分は蒸発によって除去される。しかし、ウォッシュコート又は押出し加工のために許容できる粘性のスラリーをつくるために乾燥成分に加える水の量を注意深く計量することが好ましい。一般に、ウォッシュコート中の典型的な固形分割合の範囲は、約20%から約45%、より好ましくは約20%から約30%である。押出し組成物中の典型的な固形分割合の範囲は、約65%から約85%、より好ましくは約72%から約78%である。本明細書と特許請求の範囲の目的のために、「固形分割合」という語句は、水性混合物の全重量に対する水性混合物中の乾燥物質の重量である。
【0024】
本発明の好適な実施態様では、ウォッシュコートは、約0.5%から約10%、好ましくは約0.5%から約4%の、金属含有バナジン酸塩と;約50%から約95%、好ましくは約65%から約80%の、担体材料と;約10%から約50%、好ましくは約15%から約20%の、結合剤とを、組み合わせることによって調製される。前述のパーセンテージは、ウォッシュコートの組み合わせた成分の全乾燥重量に基づき、すなわち水の添加前のものである。より好適な実施態様では、ウォッシュコート調製物に対して約3%から約13%の追加のWO
3を添加することで、ウォッシュコートが塗布されるフィルターの性能を改善することが見出されている。
【0025】
ウォッシュコートは、米国特許第6599570号と米国特許出願公開第2011/0268624号に開示された方法を使用して塗布することができ、それらの全内容を出典明示によりここに援用する。基礎となる基材の表面を、少なくとも約30ミクロンの深さで、より好ましくは少なくとも約50ミクロンの深さで、ウォッシュコートが浸透することが、好ましい。
【0026】
ウォッシュコートをフィルター基材に塗布することに続き、被覆したフィルターを乾燥してか焼することで、水の存在を減少させ、フィルター基材の表面への触媒組成物の付着を促進する。フィルター基材の押出し加工又は塗布に続いて、通常使用されるよりも高い温度で、触媒をか焼することが、触媒を取り入れているフィルターの熱安定性の改善に寄与することが見出された。フィルターは、著しい活性の喪失なく、800℃までの温度にさらされてもよく、バナジン酸塩を取り入れている従来技術のフィルターと比較して、300℃より下の温度でのNO
X変換に関して大きな性能の改善を示す。本発明の好適な実施態様では、空気中500から700℃を超える温度で少なくとも1から10時間、触媒をか焼する。本発明の特に好適な実施態様では、空気中少なくとも700℃の温度で少なくとも2から5時間、触媒をか焼する。
【0027】
乾燥してか焼した後、フィルターは、好適には約0.5から2.4g/in
3の触媒負荷(充填)を有するであろう。本明細書と特許請求の範囲の目的のために、「触媒負荷(充填)」という語句は、乾燥及びか焼後の、フィルター基材の単位体積当たりの触媒成分の量である。
【0028】
本発明の好適な実施態様では、基材はウォールフロー型フィルターである。ウォールフロー型フィルターの基材は、互いにほぼ平行であり、基材の入口面から出口面まで基材を通過するガス流の軸(すなわち、入ってくる排気ガス及び出て行く浄化されたガスの方向)に沿って延びる、多数のチャンネル(流路)を有している。一般的なディーゼルエンジン用のウォールフロー型フィルターは、典型的にはコーディエライト又は炭化ケイ素のハニカム構造として提供される。チャンネルは多孔質の壁で画成され、各チャンネルは基材の入口面又は出口面にキャップを有する。多孔質の壁は、壁を通過するガス流の方向に対して、上流側及び下流側によっても画成されている。これらのような車両の排気システム用のウォールフロー型フィルターの基材は、様々な供給先から商業的に入手可能である。
【0029】
本発明において有用なウォールフロー基材は、入口面、出口面、及び入口と出口間の長さを有する限り、排気システムにおける使用に適するいかなる形状をも取り得る。適切な形状の例には、円柱形、楕円柱形、角柱形が含まれる。ある好適な実施態様では、入口面と出口面とは平行する平面である。しかし、別の実施態様では、入口面と出口面とは平行ではなく、基材の長さ方向は湾曲している。
【0030】
基材は、好ましくは互いにほぼ平行である複数のチャンネルを含む。チャンネルは、好ましくは約0.002から約0.1インチの厚さ、好ましくは約0.002から約0.015インチの厚さの、薄い多孔質の壁で画成される。チャンネルの断面形状は特に制限はなく、例えば、正方形、円形、楕円形、長方形、三角形、六角形等であり得る。好ましくは平方インチ当たり約25から約750のチャンネルを、更に好ましくは平方インチ当たり約100から約400のチャンネルを、基材は含む。
【0031】
ウォールフロー基材は、一又は複数の材料の組合せで構築されてもよい。「組合せ」は、物理的又は化学的な組合せを意味し、例えば、混合物、化合物、又は複合材料を意味する。本発明の実施に特に適した材料は、コーディエライト、ムライト、粘土、タルク、ジルコン、ジルコニア、スピネル、アルミナ、シリカ、ホウ化物、アルミノケイ酸リチウム、アルミナシリカ、長石、チタニア、石英ガラス、窒化物、ホウ化物、炭化物、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、又はこれらの混合物から作製されるものである。特に好ましい材料には、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、及び炭化ケイ素が含まれる。
【0032】
好ましくは、基材は、少なくとも約50%、更に好ましくは約50−75%の多孔性と、少なくとも10ミクロンの平均細孔径を有する材料で構築されている。
【0033】
好ましくは、SCR触媒はフィルター上に配される。SCR触媒は、壁部の細孔の少なくとも一部分に、更に好ましくはフィルター壁部の細孔の表面上に、存在しうる。細孔中の触媒は細孔を塞ぎ、壁部を通過する排気ガスの流れを過度に制限することがない方法で配されるのが非常に好ましい。一よりも多くの触媒が、細孔中で互いに上下に層構造を作ってもよい。触媒は、壁の上流側と下流側の間に一又は複数の濃度勾配を形成するように、壁中に配されてもよい。異なる触媒が壁の上流側とそれに対応する下流側に添着されてもよい。
【0034】
上記のように、細孔中の触媒が細孔を閉塞しない方法で配されることが、非常に好ましい。塞がった細孔は、フィルターを通過する圧力損失を増大させ、フィルターの上流で起こる燃焼過程の効率にマイナスの影響を及ぼすであろう。発明のもう一つ実施態様では、不必要な背圧の発生に伴う問題に対処するために、米国特許出願公開第2010/0242424号に開示されたフィルム又は塗膜層と類似する触媒膜を取り入れる。
【0035】
ウォッシュコートを基材に塗布すると、ウォッシュコートは細孔の表面を覆い、か焼後、フィルター基材の壁中の細孔径を効果的に狭くする。最終的な細孔径がフィルターを通過して過度の圧損を引き起こすほど小さくならないように、最初の無被覆の細孔径は大きくすべきである。しかし、過度の多孔性はフィルターの構造上の完全性を損ない、か焼過程の間にフィルターのクラッキングを生じうる。基材の細孔を浸透するウォッシュコートの形で触媒組成物を塗布するよりもむしろ、か焼時に薄層又は薄膜が表面上に形成され、表面に浸透しないように、水性触媒組成物がフィルターの表面に塗布されてもよい。
【0036】
水性触媒組成物は、細孔変性剤(pore modifiers)を含むスラリーの形で調製される。か焼して塗布したスラリーから水を取り除いた後、結果として生じる膜は、パティキュレートマターの通過を妨げるであろう、気孔率を有し、好ましくはフィルター基材の気孔率よりも少ない。フィルター基材の気孔率は、使用中に許容可能な圧力低下を示すフィルターを得るために比例して増加されうるが、フィルター基材の構造上の完全性を損なう程度に至らないようになされる。
【0037】
本発明の好適な実施態様では、SCRウォールフロー型フィルターは押し出される。基材を除去すると、フィルターが単位体積当たりより多くの触媒を含むようにできる。触媒の押出し加工は、ウォッシュコートの塗布工程及び乾燥工程に加え、ウォッシュコートの製造工程もなくする。従って、押出し加工は、ウォッシュコートを作り塗布するために必要とされる製造過程と関連する費用を削減する。ウォールフロー型フィルターは、最初に触媒物質、結合剤、及び無機繊維を組み合わせて懸濁液にすることによって製造される。懸濁液は、出発物質を混合し、酸又はアルカリ性水性混合物中で混合及び/又は混練することによってもたらされ、有機試薬を添加して押出し加工に適した組成物を生成せしめ、その組成物を触媒本体中に押出し、該本体を乾燥させ、か焼して、固体触媒本体を生成する。
【0038】
特に好適な実施態様では、出発物質は、液体と有機試薬の添加前の乾燥固形物の全重量に基づき、約50%から約95%、好ましくは約75%から約85%の担体材料(これは、好ましくは約4:1から99:1のTiO
2とWO
3の混合物である);約0.1%から約10%、好ましくは約1%から約5%の金属含有バナジン酸塩;約0%から約45%、好ましくは約5%から約10%の少なくとも一種の結合剤;及び約0%から約20%、好ましくは約5%から約10%のガラス繊維を含む。ガラス繊維が他の乾燥固形物とは別に混合物に加えられるので、押出し加工のための組成物中に存在するガラス繊維の量は、ガラス繊維に対する乾燥材料の重量比として表わすことができ、ここで、乾燥材料の重量はガラス繊維を除いている。従って、乾燥材料とガラス繊維の比は、好ましくは約6:1から約20:1になるであろう。出発物質は、また任意選択的に約0.1%から約5%、好ましくは約1%の可溶性バナジウム塩を含んでいてもよく、これは最終的なフィルターの活性を改善することが見出されている。押出し加工されたフィルターの製造に使用するのに適した結合剤は、ベントナイトクレイ、カオリン、及びSiO
2を含む。混合物は、デンプン、小麦粉、ココナッツ繊維、セルロース、及びケイ藻土のような細孔変性剤等の、押出し加工の添加物を含んでもよい。
【0039】
組成物を押し出すと、その結果として生じるフィルターは、好ましくは、ガスを流しパティキュレートマターの捕捉を可能にする十分な気孔率を持つ、両端が開口する多数の平行チャンネルを有するハニカム構造であろう。ウォールフロー型フィルターを製造するために、押出し加工フィルター中のチャンネルは、一端が閉塞していなければならない。上述のように、押出し加工フィルターは、500から700℃を超える温度で少なくとも1から10時間、最終的にか焼される。本発明の特に好適な実施態様では、触媒は少なくとも700℃の温度で少なくとも2から5時間、空気中でか焼される。
【0040】
典型的な処理システムでは、リーンバーン内燃機関からの排気ガスは、フィルターのチャンネル中に各チャンネルの表面に対して流入する。エンジンの運転中では、圧力差がフィルターの入口と出口の間に存在し(出口に比べ入口で圧力がより高い)、よって近接したチャンネルを隔てる壁を横切っても圧力差が存在する。壁のガス透過性と共に、この圧力差によって、入口に開口しているチャンネルに流入する排気ガスが、多孔性の壁の上流からその壁の下流側へ通過し、その後フィルターの出口に開口している近接したチャンネル中に流入することが可能になる。パティキュレートマターは、多孔性の壁を通過することができず、チャンネル内に捕捉される。チャンネルの表面に付着するか又はチャンネルの壁の中に押出されている触媒は、排気ガスと接触し、NO
XガスをN
2に還元する。
【0041】
基材の壁は、それをガス透過性にするが、ガスが壁を通過する際に、ガスからスート等のパティキュレートマターの大部分を捕捉することを可能にする気孔率と細孔径を有している。好適なウォールフロー基材は高効率フィルターである。効率は、ウォールフロー基材を通過する際に、未処理の排気ガスから除去されるパティキュレートマターの重量パーセントによって決定される。本発明で使用するためのウォールフロー型フィルターは、少なくとも70%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、又は最も好ましくは少なくとも約90%の効率を有する。ある実施態様では、効率は、約75から約99%、好ましくは約75から約90%、更に好ましくは約80から約90%、又は最も好ましくは約85から約95%になるであろう。ここで、効率は、スート及び他の同様の粒径の粒子、及び通常のディーゼル排気ガス中に典型的に見出される微粒子濃度に対するものである。例えば、ディーゼル排気中の微粒子は、0.05ミクロンから2.5ミクロンの範囲に及び得る。よって、効率は、この範囲か部分的範囲、好ましくは0.1から0.25ミクロン、より好ましくは0.25から1.25ミクロン、若しくは最も好ましくは1.25から2.5ミクロンに基づき得る。
【0042】
排気システムの通常運転の間、スートと他の微粒子は、壁の入口側に蓄積し、これが背圧の増加をもたらす。この背圧の増加を緩和するために、フィルター基材は、例えば上流の酸化触媒から発生した二酸化窒素の存在下でのものを含む既知の技術により、蓄積されたスートを燃焼させることを含む能動的又は受動的な技術によって、連続的又は定期的に再生される。しかし、排気ガス処理システムに更なる構成要素を含めることは、このシステムを取り入れる車両の重量を増加させ、燃費に負の効果を及ぼす。本発明に係るフィルターは、上流の酸化触媒の必要性を減じ又は除去しうる。
【0043】
本発明の一実施態様では、バナジン酸塩成分を含むウォッシュコートが、前述の通りに調製され、ウォールフロー型フィルターの形の基材の出口チャンネルにのみ塗布される。出口チャンネルにのみ触媒を提供することによって、排気ガス中に存在するNO
Xが、スートが収集されるウォールフロー型フィルターの入口チャンネル内での受動的な再生に利用される。このような再生トラップは、例えば、米国特許第4902487号に記載されている連続再生トラップのように当該技術分野で知られている。他の実施態様では、ウォッシュコートは出口チャンネルと入口チャンネルの両方に塗布されるが、処理された排気ガスが出て行くウォールフロー型フィルターの端部にだけ塗布される。本明細書及び特許請求の範囲で使用される「端部」は、入口面又は出口面を包含し、入口面又は出口面から測定される、ある長さ(好ましくはフィルターの全長の約半分、より好ましくは全長の約3分の1、最も好ましくは全長の約5分の1である)を有する、フィルターの軸方向部分を意味する。この代替実施態様もまた排気ガス中のNO
Xの還元を遅延させるので、ウォールフロー型フィルター内でスートを燃焼させるのに利用できる。本発明のもう一つの実施態様では、バナジン酸塩成分が、押出成形物中にのみ取り入れられているというよりむしろ、出口チャンネルのみに、又はフィルターの出口で入口チャンネルと出口チャンネルの端部に、主にウォッシュコートの形で塗布されることを除き、上述のように本発明によってフィルターが押出される。ウォッシュコートは、米国特許第6599570号及び米国特許出願公開第2011/0268624号に開示された方法を用いて、不活性な基材又は押出し加工されたフィルターに塗布されうる。
【0044】
上記のように、バナジン酸塩成分が基材の特定の領域に選択的に塗布されているフィルターは、ウォールフロー型フィルターの受動的な再生を促進する利益をもたらし、上流の酸化触媒の大きさを潜在的に減じ、又はその必要性を取り除く。本発明に係るフィルターは、バナジン酸塩に関連した硫黄に対する許容性の改善という付加的な利益もまたもたらす。硫黄に対する許容性を改善することは、触媒と接触するかもしれない硫黄酸化物を除去するため、排気ガスの上流での処理のいくつかの形態を取り入れる必要性を取り除く。
【0045】
フィルターを製造する本方法で使用される触媒は、排気ガス流中のNO
Xガスの濃度を効果的に減少させ、長期間にわたる過度の温度への曝露後も活性を失わない。従って、本発明の方法によって製造されたフィルターは、ディーゼルエンジン等のリーンバーン内燃機関からの排気ガス処理に適している。
【0046】
SCRプロセス用の還元剤(還元試薬としても知られている)は、排気ガス中のNO
Xの還元を促進する任意の化合物を広く意味する。本発明に有用な還元剤の例は、アンモニア、ヒドラジン又は任意の適切なアンモニア前駆体、例えば尿素((NH
2)
2CO)、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はギ酸アンモニウム、及びディーゼル燃料のような炭化水素等々を含む。特に好ましい還元剤は、窒素系のもので、アンモニアが最も好ましい。
【0047】
尿素が還元剤として用いられるシステムでは、加水分解触媒を含む本発明の一実施態様に係るフィルターが提供される。加水分解触媒は、水の存在下での尿素の二酸化炭素とアンモニアへの変換を促進する。加水分解触媒は、好ましくは、尿素の加水分解を促進することが知られている特定の結晶サイズを有するチタニア、又はケイ素をドープしたチタニアの形である。チタニアは、上述のようなウォッシュコート又は押出し加工用の組成物の結合剤と共に導入される。
【0048】
フィルターの入口端部に尿素加水分解ゾーンを導入して、アンモニアが下流でのNO
X還元中に消費される前に生成することを可能にすることが好ましい。本発明の一つの実施態様では、加水分解触媒は、ウォッシュコート中に取り入れられ、フィルターの入口端部の少なくとも一つ又は入口チャンネルに塗布される。上述のようにバナジン酸塩成分を取り入れている第2のウォッシュコートは、次に、フィルターの出口端部の少なくとも一つ又は出口チャンネルに塗布される。もう一つの実施態様では、加水分解触媒は、押出され、ウォールフロー型フィルターに成形される組成物中に、取り入れられる。バナジン酸塩成分を含むウォッシュコートは、次に、押出し加工されたフィルターの出口端部の少なくとも一つ又は出口チャンネルに塗布される。
【0049】
発明のもう一つの実施態様では、フィルターは、NO
Xの還元の間に消費されないアンモニアを酸化するための下流ゾーンを含む。NO
Xの還元は、アンモニアがまた吸着される触媒の表面上で起こる。幾らかのアンモニアは、特に過剰のアンモニアが存在する場合、吸着されないで、フィルターを通過し、排気システムを出て大気中に至る場合があり、これはアンモニアスリップとして知られている。アンモニアスリップを防止するために、アンモニアを酸化することが知られている物質を触媒中に取り入れることが好ましい。このような物質の例は既知で、その内容が出典明示によりここに援用される米国特許第8101146号に開示されている。フィルターの受動的な再生を促進するために記述されている技術と類似して、アンモニア酸化物質を含むウォッシュコートは、出口チャンネルに、又は不活性フィルター基材若しくは押出し加工基材の出口端部で入口チャンネルと出口チャンネルの両方に、塗布され得る。
【0050】
発明のもう一つの態様によると、ガス中のNO
X化合物の濃度を減少させるのに十分な時間、ガスをここで記述した触媒と接触させることを含む、ガス中のNO
X化合物の還元又はNH
3の酸化のための方法が提供される。一実施態様では、窒素酸化物は、還元試薬を用いて、少なくとも150から550℃の温度で還元される。特定の実施態様では、温度の範囲は175から650℃である。他の実施態様では、温度の範囲は175から550℃である。更に他の実施態様では、温度の範囲は250から350℃である。
【0051】
本方法は、内燃機関(移動式又は固定式)、ガスタービン、及び石炭や石油火力発電所等の燃焼プロセスに由来するガスで実施することができる。本方法はまた工業的プロセス、例えば精製、製油所の加熱器やボイラー、炉、化学プロセス工業、コークス炉、都市廃棄物プラント及び焼却炉等からのガスを処理するために用いられてもよい。特定の実施態様では、本方法は、車両のリーンバーン内燃機関、例えばディーゼルエンジン、リーンバーンガソリンエンジン、又は液化石油ガスや天然ガスによって駆動されるエンジンからの排気ガスを処理するために用いられる。
【0052】
更なる態様によれば、本発明は、流れる排気ガスを運ぶための導管、窒素系還元剤の供給源、及びここで記載したようなバナジン酸塩成分を導入した触媒を備えた、車両のリーンバーン内燃機関用の排気システムを提供する。本システムは、触媒が、例えば100℃より上、150℃より上、又は175℃よりも上の温度のような、望ましい効率以上でNO
X還元を触媒できると判定されるときにのみ、流れる排気ガス中への窒素系還元剤を計量するための制御器を含み得る。この判定は、排気ガス温度、触媒床温度、アクセル開度、システム中の排気ガスの質量流量、吸気負圧、点火時期、エンジン速度、排気ガスのラムダ値、エンジン中の燃料噴射量、排気ガス再循環(EGR)バルブの位置とそれによるEGR量及びブースト圧からなる群から選択されるエンジンの状態を示す一又は複数の適切なセンサー入力によって補助され得る。
【0053】
特定の実施態様では、計量は、(適切なNO
Xセンサーを使用して)直接的に、あるいはエンジンの状態を示す上述の入力の何れか一又は複数を排気ガスの予想NO
X含有量と相関付ける(制御手段に保存された)予め相関付けられたルックアップテーブル又はマップを使用するなどして、間接的に決定される排気ガス中の窒素酸化物の量に応じて制御される。窒素系還元剤の計量は、1:1 NH
3/NO及び4:3 NH
3/NO
2で計算して60%から200%の理論上のアンモニアがSCR触媒に入る排気ガス中に存在するように調整することができる。制御手段は、電子制御装置(ECU)等の前もってプログラムされたプロセッサを含み得る。
【0054】
更なる態様では、車両のリーンバーン内燃機関からのガスを処理するための本発明に係る排気システムが提供される。車両のリーンバーン内燃機関は、ディーゼルエンジン、リーンバーンガソリンエンジン、又は液化石油ガスや天然ガスによって駆動されるエンジンであり得る。
図1から分かるように、リーンバーン内燃機関(1)が示され、リーンバーン内燃機関(1)からの排気ガス流を金属容器又はキャニスター(4)内に保持されたフィルター(3)へ運ぶ導管(2)を有している。本発明により製造されるフィルター(3)は、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、又はそれらの組合せを有するバナジン酸塩成分を取り入れているウォールフロー型フィルターである。フィルター(3)の上流に近接して取付けられているものは、アンモニアや尿素等の還元剤が満たされている還元剤供給源(5)からの注入ポイントである。金属容器(4)を出るガス流(6)は、NO
Xガスとパティキュレートマターの濃度が減少したように、処理される。
【実施例】
【0055】
例として、以下は、本発明に係るフィルターに押出されか焼され得る組成物を製造するための好適な方法の2つの実施例である:
【0056】
実施例1
有機試薬、バナジン酸鉄(FeVO
4)、TiO
2、WO
3、及び結合剤を含む乾燥原料の混合物を表1に従った量で混練槽に入れた。
【0057】
【0058】
29℃の一定の温度で混合し、槽の内容物を約pH4.0から8.0で維持しながら、水性混合物の含水量がほぼ20%になるまで水を加えた。規定された含水量に達したところで、6μm径の約240gの4.5mm e−グラスファイバーを槽に入れた。グラスファイバー添加後に、追加の水と約15グラムの可塑剤(plastifier)を組成物の含水量が約24%になるまで加えた。組成物を、その組成物が押出しに適するまで混練した。
【0059】
実施例2
有機試薬、メタバナジン酸アンモニウム(AMV)、FeVO
4、TiO
2、WO
3、及び結合剤を含む乾燥原料の混合物を表2に従った量で混練槽に入れた。
【0060】
【0061】
29℃の一定の温度で混合し、槽の内容物を約pH8.9で維持しながら、水性混合物の含水量がほぼ23.4%になるまで水と150グラムのアンモニアを加えた。約25.8グラムのモノエタノールアミン(MEA)も加えて、AMVの可溶化を促進した。適切な含水量に達したところで、6μm径の約245gの4.5mm e−グラスファイバーを槽に入れた。グラスファイバー添加後に、12グラムの乳酸と約18グラムの可塑剤(plastifier)を組成物の含水量が約26.5%になるまで加えた。組成物を、その組成物が押出しに適するまで混練した。
【0062】
例として、以下は、本発明に係るフィルター上に塗布されか焼され得るウォッシュコートを製造する好適な方法の実施例である:
【0063】
実施例3
バナジン酸鉄(FeVO
4)、TiO
2、WO
3、及び結合剤を含む乾燥原料の混合物を表3に従った量で組み合わせた。
【0064】
【0065】
乾燥原料を槽中で1885gの水と合わせ、その水性混合物のpHを、アンモニア溶液を使用して、約7.5に調整した。混合物の粘度もキサンタンガムを加えることによって調整した。混合物の最終固形分割合が約35%になり、最終キサンタンガム含量が0.3%になるように、追加の水を加えた。得られた混合物はウォッシュコートとしての使用に適していた。
【0066】
本発明の好適な実施態様がここに示され記述されたが、そのような実施態様が例証として提供されているだけであることは理解されよう。多数の変形例、変更例、及び置換は、本発明の精神を逸脱しない範囲で、当業者に思い浮かぶであろう。従って、添付した特許請求の範囲がそのような全ての変形例を本発明の精神及び範囲に入るものとして包含することが意図される。
【手続補正書】
【提出日】2018年8月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口端部及び出口端部を有し、複数の入口チャネル及び複数の出口チャネルから構成される、ウォールフロー型フィルターの形態である基材と、担体及びバナジン酸塩成分を含む、前記基材の上に配されている触媒とを含むフィルターであって、
前記バナジン酸塩成分は次式:
(AX)(TY)VO4
(式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
そして、
0≦X≦1;0≦Y≦1;及びX+Y=1である)によって定義される構造を有し;
前記バナジン酸塩成分が、フィルターの出口における入口及び出口チャネルの端部のみに対するウォッシュコートの形態で前記基材上に配され、前記入口及び出口チャネルの端部が、入口面又は出口面を包含し、かつ最大で前記フィルターの全長の約半分である前記入口面又は出口面から測定される長さを有する、フィルターの軸方向部分であり、「A」がMg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択され、「T」がFe、Cu、Zn、Mo、Cr及びMnからなる群から選択され、前記基材が、少なくとも50%の多孔度及び少なくとも10ミクロンの平均細孔経を有する材料で構築され、前記基材は、0.05ミクロンから2.5ミクロンの範囲の粒子について少なくとも70%の効率を有し、前記触媒が、前記フィルターの細孔の表面上に配される、フィルター。
【請求項2】
前記入口面又は出口面から測定される長さが、前記フィルターの全長の約3分の1である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記入口面又は出口面から測定される長さが、前記フィルターの全長の約5分の1である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項4】
「T」がFeである、請求項1に記載のフィルター。
【請求項5】
「Y」が1である、請求項4に記載のフィルター。
【請求項6】
前記担体がTiO2、WO3及びSiO2の少なくとも一つからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項7】
前記基材の入口端部に配された尿素加水分解触媒を更に具備する、請求項1に記載のフィルター。
【請求項8】
前記基材の出口端部に配されたアンモニア酸化触媒を更に具備する、請求項1に記載のフィルター。
【請求項9】
a.バナジン酸塩成分を担体材料と組み合わせる工程であって、前記バナジン酸塩成分が次式:
(AX)(TY)VO4
(式中、「A」はアルカリ土類金属であり、「X」はバナジン酸塩に対するアルカリ土類金属のモル比であり;
「T」は遷移金属であり、「Y」はバナジン酸塩に対する遷移金属のモル比であり;
0≦X≦1;0≦Y≦1;及びX+Y=1であり;
「A」がMg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択され、「T」がFe、Cu、Zn、Mo、Cr及びMnからなる群から選択される)によって定義される構造を有する工程と;
b.前記バナジン酸塩成分及び前記担体材料に水を加えて水性混合物を形成させる工程と;
c.前記水性混合物を基材に塗布する工程であって、前記基材が、前記基材を通るガス流の軸に沿って、前記基材の入口面から前記基材の出口面に伸びる、互いに概ね平行な複数のチャネルを有するウォールフロー型フィルターの形態であり、各チャネルが、前記基材の前記入口面又は出口面のいずれかにおけるキャップと、前記入口面又は出口面を包含し、かつ前記入口面又は出口面のいずれかから測定される長さを有する端部とを有し、前記水性混合物が、前記フィルターの出口における前記入口および出口チャネルの端部のみに塗布され、前記入口及び出口チャネルの端部が、前記入口面又は出口面を包含し、かつ前記フィルターの全長の約半分である前記入口面又は出口面のいずれかから測定される長さを有する、前記フィルターの軸方向部分である、工程と;
d.前記水性混合物の塗布後、前記基材をか焼する工程
を含む、請求項1に記載のフィルターを製造する方法。
【請求項10】
「T」がFeである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
「Y」が1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記か焼が650℃から700℃の温度でなされる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記か焼が1から10時間なされる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記担体材料がTiO2、WO3及びSiO2からなる群から選択される材料を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
工程bの前に、少なくとも一種の結合剤を前記バナジン酸塩成分及び前記担体材料に加えて乾燥材料の混合物を提供することを更に含み、前記乾燥材料の混合物は、0.5%から10%の前記バナジン酸塩成分、50%から95%の前記担体材料、及び10%から25%の前記少なくとも一種の結合剤を含有し、該パーセンテージは乾燥重量パーセンテージである、請求項9に記載の方法。
【外国語明細書】