特開2018-187812(P2018-187812A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特開2018187812-筆記具 図000003
  • 特開2018187812-筆記具 図000004
  • 特開2018187812-筆記具 図000005
  • 特開2018187812-筆記具 図000006
  • 特開2018187812-筆記具 図000007
  • 特開2018187812-筆記具 図000008
  • 特開2018187812-筆記具 図000009
  • 特開2018187812-筆記具 図000010
  • 特開2018187812-筆記具 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-187812(P2018-187812A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20181102BHJP
【FI】
   B43K3/00 B
   B43K3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-90744(P2017-90744)
(22)【出願日】2017年4月28日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 玄樹
(57)【要約】
【課題】筆記時におけるバランス及び安定感を維持しつつ、使用者の好みによって把持した際の把持感触や重心位置を容易に変更可能な筆記具を提供すること。
【解決手段】 軸筒2の内部に、軸筒2の前端開口部10aから前端部が突出する筆記体(ボールペンレフィル3)を備え、軸筒2の外周面に形成した支持部(前部外周面8a)に、軸筒2を取り囲む把持部材7を配設し、把持部材7が、一方の開口端と他方の開口端の外径を同一とし、把持部材7の中央よりも一方の開口端側が、把持部材7の他の部分より外径及び肉厚が大きくなるよう形成され、把持部材7が、一方の開口端または他方の開口端のどちらからでも軸筒2の前端開口部10a側から支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成すること。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の内部に、該軸筒の前端開口部から前端部が突出する筆記体を備え、当該軸筒の外周面に形成した支持部に、当該軸筒を取り囲む把持部材が配設された筆記具であって、
前記把持部材が、一方の開口端と他方の開口端の外径を同一とし、該把持部材の中央よりも該一方の開口端側が、当該把持部材の他の部分より外径及び肉厚が大きくなるよう形成され、
前記把持部材が、前記一方の開口端または前記他方の開口端のどちらからでも前記軸筒の前端開口部側から前記支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成され、
前記把持部材の一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心が、前記他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心よりも前記軸筒の前端開口部側に位置することを特徴とした筆記具。
【請求項2】
前記把持部材が、前記軸筒の前端開口部から大径部に向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面と、前記大径部から前記把持部の中央部に向かって徐々に縮径する第2の曲面と、を有することを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記把持部材が、それぞれ異なる比重を有する複数の部材同士を固着することで一体的に構成され、
前記複数の部材のなかで、前記把持部材の一方の端部に配設された部材が、最も高比重の材料で形成された錘部を具備することを特徴とした請求項1または2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記軸筒の支持部に軸方向に沿って延びる凸状または凹状のレール部が形成され、
前記把持部材の内周面に前記レール部に対して摺動自在に係合する凹状または凸状の被レール部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記複数の部材を金属材料と樹脂材料の組み合わせで構成したことを特徴とする請求項3または4に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関するものであり、特に軸筒を取り囲む把持部材を備えた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筆記具は、筆記時の疲労を軽減することや、筆記具を把持した際に滑らないよう把持部の形状や材質に工夫がなされてきた。また、実開平6−50884「筆記具における軸筒」のように、把持部に外面処理の異なる環体を複数個着脱自在に配置し、複数の環体を組み替えることにより、使用者の触感の好みに合わせて把持部を構成し、把持感触を変更することができる技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、実開平6−50884「筆記具における軸筒」では、把持感触は使用者の好みに合わせることが可能であるが筆記具の重心位置は考慮されていないため、把持はし易くとも必ずしも筆記し易い筆記具にはならない場合があった。
【0004】
一方、筆記具における重心位置については、例えば、特開2001−270281号公報「筆記具」のように、本体筒を、前部領域、中間領域、後方領域としたとき、中間領域に重心が位置することで、筆記時において安定した微小な往復回転運動ができる筆記具が開示されている。
【0005】
しかしながら、特開2001−270281号公報「筆記具」のように、中間領域を重心位置にするには、筆記具の総重量及び各筆記具用部品の重量を考慮すれば設定可能であるが、中間領域に重心位置を設定しただけでは、筆記具を把持した際のバランス及び安定感が良好であるものではなかった。これは、例えば、筆記具の先端部及び後端部に金属部品を用いた場合でも、結果的には、中間領域を重心位置とすることができるが、把持した際のバランスが悪くなり安定感がないためである。
【0006】
この問題を解決する手段として、本願出願人は、特開2004−338235号公報「筆記具」にて、筆記具における重心位置及び重量バランスを限定することにより、筆記時における筆記具のバランス及び安定感が良好であり、円滑な微小往復回転運動が可能で好適な筆記動作を可能にする筆記具を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平6−50884
【特許文献2】特開2001−270281号公報
【特許文献3】特開2004−338235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開2004−338235号公報「筆記具」では、筆記具における重心位置及び重量バランスを限定することにより、筆記時における筆記具のバランス及び安定感は得られたものの、使用者の好みは人それぞれであり、一度重心位置を決めて筆記具を製作してしまうと重心位置や把持感触を変更できなくなることから、必ずしも万人に使い易い筆記具ではなかった。
【0009】
本発明は以上の知見からなされたものであって、筆記時における筆記具のバランス及び安定感を維持しつつ、使用者の好みによって把持した際の把持感触や重心位置を容易に変更可能な筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
「1.軸筒の内部に、該軸筒の前端開口部から前端部が突出する筆記体を備え、当該軸筒の外周面に形成した支持部に、当該軸筒を取り囲む把持部材が配設された筆記具であって、
前記把持部材が、一方の開口端と他方の開口端の外径を同一とし、該把持部材の中央よりも該一方の開口端側が、当該把持部材の他の部分より外径及び肉厚が大きくなるよう形成され、
前記把持部材が、前記一方の開口端または前記他方の開口端のどちらからでも前記軸筒の前端開口部側から前記支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成され、
前記把持部材の一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心が、前記他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心よりも前記軸筒の前端開口部側に位置することを特徴とした筆記具。
2.前記把持部材が、前記軸筒の前端開口部から大径部に向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面と、前記大径部から前記把持部の中央部に向かって徐々に縮径する第2の曲面と、を有することを特徴とする前記1項に記載の筆記具。
3.前記把持部材が、それぞれ異なる比重を有する複数の部材同士を固着することで一体的に構成され、
前記複数の部材のなかで、前記把持部材の一方の端部に配設された部材が、最も高比重の材料で形成された錘部を具備することを特徴とした前記1項または2項に記載の筆記具。
4.前記軸筒の支持部に軸方向に沿って延びる凸状または凹状のレール部が形成され、
前記把持部材の内周部に前記レール部に対して摺動自在に係合する凹状または凸状の被レール部が形成されていることを特徴とする前記1項ないし3項の何れか1項に記載の筆記具。
5.前記複数の部材を比重の異なる金属材料と樹脂材料の組み合わせで構成したことを特徴とする前記3項または4項に記載の筆記具。」である。
【0011】
本発明によれば、把持部材が、一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側又は他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側のどちらからでも前記支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成され、前記把持部材の一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心が、前記他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心よりも前記軸筒の前端開口部側に位置する。こうしたことにより、第1に、把持部材を前後逆に付け替えることで、肉厚及び外径変化による把持感触を使用者の好みに合わせて変更することができる。第2に、把持部材を前後逆に付け替えることで、筆記具の重心位置を使用者の好みに合わせて変更することができる。
尚、回動不能とは、使用者が容易に回転させないように、把持部材を装着する構成であり、係合、圧入、挟持など特に限定されるものではない。具体的には、把持部材を回転するのに必要な力は、0.05N・m以上、より好ましくは、0.1N・m以上とすることが好ましい。また、把持部材を回転する力は、株式会社東日製作所社製のトルクメーターを用いて測定することができる。更に、各部品の作製時の寸法誤差により発生する微小な回動(がたつき)は、本発明においては回動には含まないものとする。
【0012】
また、把持部材の一方の開口端の外径と他方の開口端の外径とを同一に形成することで、把持部材を前後逆に付け替えた際の、把持部材と隣接する部品との間に段差ができなくなることから筆記具を把持した際の感触の低下を防ぐことができる。
【0013】
更に、他の発明によれば、把持部材が、軸筒の前端開口部から大径部に向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面と、大径部から把持部の中央部に向かって徐々に縮径する第2の曲面とを有することで、大径となる部分に手や指が当接しても急激に径が変化しないため、安定した把持感触を得ることができる。
【0014】
また、他の発明によれば、把持部材が、それぞれ異なる比重を有する複数の部材同士を固着することで一体的に構成され、複数の部材のなかで、把持部材の一方の端部に配設された部材が最も高比重の材料で形成された錘部を具備することで、把持部材を軸筒に対して前後逆に付け替えた際の重心位置の変化が大きくなるため、使用者が重心位置が変化したことを認識し易く、使用者の感覚に合った把持部材の方向を選択し易くなる効果を奏する。
【0015】
更に、把持部材を軸筒に対して前後逆に付け替えた際に把持感触を変化させる別の方法としては、把持部材を構成する複数の部材の表面に、それぞれ異なる凹凸部を形成することで変化させてもよく、複数の部材をそれぞれ異なる硬さの材料で形成することで変化させてもよい。
尚、把持部材を構成する複数の部材をそれぞれ固着する方法としては、一方の部材に係止部を設け、他方の部材に被係止部を設けて係止させることで固着してもよく、部材同士を接着固定することで固着してもよく、2色成形を用いて一体的に成形することで固着してもよい。
【0016】
また、他の発明によれば、軸筒の支持部にレール部を形成し、把持部材の内周面に被レール部を形成し、レール部と被レール部とを摺動自在且つ回動不能に構成することで、軸筒に対して把持部材を容易に着脱可能とすることができ、更に回動不能とすることで筆記時に把持部材が軸筒に対して回転することを防いで筆感の低下を防止できる。
尚、前記軸筒の支持部に軸方向に沿って延びるように形成するレール部は凸状でも凹状でもよく、その断面形状も三角、四角、半円形等、特に限定されることはない。そして、
持部材の内周部に形成させる被レール部は、軸方向に摺動自在且つ軸周方向に回動不能にに係合すれば凹状に形成しても凸状に形成してもよく、その断面形状もレール部に合わせて形成すればよい。
また、被レール部は把持部材を構成する複数の部材の内、最低でも1部材以上の内周面に形成されていればよく、全てに形成されていてもよい。尚、複数の部材に被レール部を形成する場合は、部材同士を固着した際に被レール部同士も軸周方向の位置が合うよう位置決め用のスリットや印等があることが好ましい。
【0017】
更に、他の発明によれば、把持部材を構成する複数の部材を黄銅、アルミ合金、ステンレス等の金属材料と、PP樹脂、ABS樹脂、PC樹脂等の樹脂材料の組み合わせで構成することが好ましく、この場合、比重の比較的高い金属材料と筆記具として汎用の樹脂材料とでは比重の違いが大きいことから、軸筒の支持部に対して把持部材を前後逆に付け替えた際の重心位置の変化を認識し易くなる。また、把持部材の一部材を金属材料で形成することで、筆記具の軸方向における中央部分付近に重量バランスが集中して筆記時の慣性モーメントを下げる効果を奏する。
尚、筆記具の前端側及び後端側の部品の重量を小さくすることで、筆記具の軸方向における中間部分付近に重量バランスが集中して筆記時の慣性モーメントを下げる効果を奏するため、筆記具の前端側及び後端側に用いる部材の材質は、金属などの比重の高いものではなく、樹脂材料とすることが好ましい。
【0018】
ここで、前記慣性モーメントについて説明すると、慣性モーメントは、物体の回転の始まりにくさ、止まりにくさを示すものであることはよく知られていて、一般的に、直棒の慣性モーメントについては、直棒の中心から回す場合と、直棒の端で回す場合において、直棒の中心で回したほうが回転によって描かれる円の直径が小さいので回し易い、従って、中心で回す場合の慣性モーメントが最も小さくなる。これは、重心位置と慣性モーメントが密接な関係にあり、重心位置と回転位置が同一であれば慣性モーメントが最も小さく、回転軸と重心位置が離間するに従って、慣性モーメントも高くなるからである。
【0019】
このため、筆記具の最小の慣性モーメントIは、筆記具の重心を回転軸とした、各筆記具用部品の慣性モーメントを求め、(部品A=dI1、部品B=dI2、部品C=dI3、・・・)これらの各部品の慣性モーメントを、下記式のように総和することによって求めることができる。
I=(dI1+dI2+dI3+・・・)
【0020】
つまり、各筆記具用部品の慣性モーメントdIは、回転軸、即ち筆記具の重心から各筆記具用部品の重心までの距離を、部品A=r1、部品B=r2、部品C=r3、・・・、各筆記具用部品の質量を、部品A=dm1、部品B=dm2、部品C=dm3、・・・、各筆記具用部品の密度:部品A=ρ1、部品B=ρ2、部品C=ρ3、・・・各筆記具用部品の体積を、部品A=dv1、部品B=dv2、部品C=dv3とすると、筆記具の回転軸に対する各筆記具用部品の慣性モーメントdIが、下記式で求めることができる。
部品Aは、dI1=r12dm1(dm1=ρ1dv1)
部品Bは、dI2=r22dm2(dm2=ρ2dv2)
部品Cは、dI3=r32dm3(dm3=ρ3dv3)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、筆記時における筆記具のバランス及び安定感を維持しつつ、使用者の好みによって把持した際の把持感触や重心位置を容易に変更可能な筆記具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1のボールペンの縦断面図である。
図2図1のA−A断面を示す拡大断面図である。
図3図1のB−B断面を示す拡大断面図である。
図4】把持部材の拡大縦断面図である。
図5図1において、ボールペンレフィルを先口の前端開口部から前方へ突出させた状態を示す縦断面図である。
図6図5において、把持部材を取り外した状態を示す説明図である。
図7】把持部材を前後逆にして付け替える状態を示す説明図である。
図8図5において、把持部材を前後逆に付け替えた状態を示す縦断面図である。
図9図8のおいて、ボールペンレフィルを先口の前端開口部から前方へ突出させた状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、図面を参照しながら本発明の筆記具1をボールペンを用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、本発明で、「前方」とは、筆記具における先口側を指し、「後方」とは、その反対側を指す。また、「内方」とは、軸筒の外周部から軸心に向かう方向を指し、「外方」とは、その反対方向を指す
【0024】
実施例1
本実施例の筆記具1は、ノック式のボールペンであり、図1に示すように、軸筒2と、軸筒2内に前後に摺動可能に収納されたボールペンレフィル3(筆記体)と、ボールペンレフィル3の後方に配設された回転カム4と、回転カム4の後方に配置され軸筒2の後部開口部2aから後方に向かって突出するノック体5と、軸筒2の側面に嵌着された金属製のクリップ6と、軸筒2の前部に軸周方向に取り囲むように配設された把持部材7と、により構成してある。
また、軸筒2は、軸筒本体8と、軸筒本体8の後部に着脱不能に嵌着された後軸部材9と、軸筒本体8の前部に着脱自在に螺着された先口10と、により構成してある。
【0025】
ボールペンレフィル3は、PP樹脂(比重:0.90)からなるインキ収容筒11に筆記具用インキ組成物を直接収容し、インキ収容筒11の前端開口部にボール(φ0.50mm)を回転自在に抱持した金属製のボールペンチップ12の後端部をインキ収容筒11の前端部に圧入嵌合して得たものである。
【0026】
軸筒本体8は、図1から図3に示すように、ABS樹脂(比重:1.04)を用いて筒状に形成され、前部外周面8a(軸筒の支持部)に雄螺子部8bと、雄螺子部8bの後方に凸状に形成され軸方向に沿って延びるレール部8cと、が形成してある。尚、レール部8cは、軸周方向に均等に4箇所形成してある。また、軸筒本体8の後部外周面8dには内外を貫通する係止孔部8eが形成してある。
【0027】
把持部材7は、図1から図4に示すように、筒状に形成されており、前後方向に貫通する内孔7aを形成してある。また、前部開口端7b(一方の開口端)から大径部7cに向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面7dと、大径部7cから中央部7eに向かって徐々に縮径する第2の曲面7fと、第2の円弧面7fと後部開口端(他方の開口端)7gを繋ぐ連結面7hと、連結面7hから後部開口端7gまで略同径で伸びるストレート部7iと、を形成してある。
尚、大径部7cは、把持部材7のなかで最も外径寸法を大きく形成してあるため、把持部材7における最大外径は後部より前部の方が大きく、更に、大径部7cは肉厚も把持部材7のなかで最大に構成してある。
【0028】
また、把持部材7の前部開口端7b(一方の開口端)の外径寸法L1と、後部開口端7g(他方の端部)の外径寸法L2は、同一の寸法で形成してある。
更に、軸筒本体8の中央外周部8fと把持部材7の後部開口端7gの外径寸法L2を略同一に形成し、先口10の後端外周部10bと把持部材7の前部開口端7bの外径寸法L1を略同一に形成することで、把持部材7の前後方向を入れ替えても先口10と把持部材7と軸筒本体8との各外周部が段差のない連続面となるよう形成してある。
【0029】
把持部材7について更に詳述すると、把持部材7は、各々筒状に形成された第一の把持部材13と第二の把持部材14の2つを嵌着することで一体に構成してある。
【0030】
第一の把持部材13は、樹脂材料であるPC樹脂(比重:1.2)を用いて筒状に形成してあり、後部内周面に軸周方向に沿って延びる凸状に形成された係止部13aと、前部内周面に軸方向に沿って延びるガイド溝部13b(被レール部)を形成してあり、ガイド溝部13b(被レール部)を軸筒本体8の側面に形成したレール部8cに挿入することで、第一の把持部材13を軸筒本体8(軸筒2)に対して前後方向に摺動自在、且つ軸周方向には回動不能に構成してある。
尚、ガイド溝部13bは、図2から図4のように、第一の把持部材の内周面に形成された複数のガイド突起13cに挟まれることで溝状に形成してあり、内周面に軸周方向に沿って均等に8箇所形成してある。また、把持部材7を軸筒2に取り付ける際、レール部8cが案内され易くなるように、ガイド溝部13bの前後端には、溝幅が大きい案内部13dを形成してある。
【0031】
第二の把持部材14は、金属材料である黄銅(比重:8.4)を切削加工後、表面にクロムメッキを施してあり、前部外周面の段部14aに形成した軸周方向に沿って凸状に伸びる被係止部14bを第一の把持部材13の係止部13aに落とし込み嵌合させることで嵌着し、一体化してある。
また、第二の把持部材14は、第一の把持部材13より比重の高い金属材料で形成してあるため、把持部材7のなかで重量が集中する錘部となり、把持部材7の前後を入れ替えた際に、第二の把持部材14が位置する方へ重心位置が移動するよう構成してある。
【0032】
尚、本実施例では、把持部材を2部品で構成した場合を例示したが、3部品以上の部品を各々を連結させて1体的に構成してもよく、1部品で把持部材を構成してもよい。そして、1部品で構成する場合は把持部材における大径部とストレート部(他端の外径部)との径差及び肉厚の差により重心位置を変化させるため、比重の高い材料で把持部材を形成、及び/又は、径差及び肉厚差を大きくすることが好ましい。
【0033】
先口10は、PC樹脂(比重:1.2)を用いて形成し、図1に示すように、前部にボールペンレフィル3のボールペンチップ12が前方に向かって突出可能な前端開口部10aを形成してある。尚、前端開口部10aの内径寸法は、ボールペンレフィル3が軸筒2内で前後に摺動可能になるように、ボールペンチップ12の外径寸法より若干大きく形成してある。
また、先口10の後部内面には、軸筒本体8の雄螺子部8bと着脱自在に螺合する雌螺子部10cが形成してあり、更に、先口10の内面に形成された内段部10dとボールペンレフィル3の外段部3aとの間にコイルスプリング15を配設することで、コイルスプリング15によりボールペンレフィル3を後方に弾発してある。
【0034】
更に、先口10の雌螺子部10cと軸筒本体8の雄螺子部8bとを螺着する際、把持部材7は、ガイド溝部13b(被レール部)と軸筒本体8の側面に形成したレール部8cに合わせた状態で後部開口端7g側から挿入し、把持部材7を先口10の後端面10eと軸筒本体8の外段部8gとで狭持することで、軸筒2に対して回動不能に固定してある。
尚、本実施例では、軸筒2に対して把持部材7を回転させる際に必要な力は、0.5N・m以上となるため、使用時に軸筒2に対して把持部材7が回転することはない。
【0035】
後軸部材9は、PC樹脂(比重:1.2)を用いて形成し、図1に示すように、前筒部9aと後筒部9bで構成されており、前筒部9aは後筒部9bより小径で形成してある。そして、前筒部には外方に突出する係止突部9cが形成してあり、係止突部9cと軸筒本体8の係止孔部8eとを係着することで、軸筒本体8に後軸部材9を着脱不能に嵌着してある。
また、後筒部9bの外周面には外方に突出する突起部9dを形成してあり、突起部9dにクリップ6を嵌着し固定してある。
【0036】
更に、後軸部材9の内部には、ノック操作によりボールペンレフィル3の前端を先口10の前端開口部10aから出没させる公知の回転カム機構16を形成してある。
【0037】
回転カム機構16には、軸筒2の内部に配設したボールペンレフィル3の出没切替のための回転カム4と、後軸部材9の内周面に回転カム4に係合するカム溝9eと、を設けてある。そして、ボールペンレフィル3の前端が軸筒2内に没入した状態(図1参照)でノック体5が前方へ押圧操作(ノック操作)されると、回転カム4がカム溝9eに沿って前方へ摺動し、回転カム4に押されたボールペンレフィル3の前端が先口10の前端開口部10aから前方へ突出され、更に、回転カム機構16の作用により回転カム4が回転されることによって、回転カム4は軸筒本体8の内段に当接して軸方向後方への相対移動が禁止され、押圧操作の終了後もボールペンレフィル3の前端の突出状態が維持される状態となる図5の状態となる。
また、図5のボールペンレフィル3の前端が突出した状態で、再度ノック体5が前方へ押圧操作(ノック操作)されると、回転カム機構16の作用によって回転カム4の軸方向後方への相対移動が許容され、コイルスプリング15の弾発力によってボールペンレフィル3及びノック体5が軸方向後方に押し戻されて初期状態(図1の状態)に復帰するようになっている。
尚、ノック体5はABS樹脂(比重:1.04)を用いて形成し、回転カム4はPOM樹脂(比重:1.56)を用いて形成してある。
【0038】
ここで、図1から図3及び図6から図8を用いて把持部材7を前後方向を入れ替え、軸筒本体8(軸筒2)の前部外周面8a(支持部)に取り付けることで把持感触及び重心位置が変化することを説明する。
図1から図3に示すように、把持部材7は、第一の把持部材13の内面に形成されたガイド溝部13b(被レール部)により軸筒本体8のレール部8cに着脱自在に装着されており、把持部材7または軸筒本体8を把持して先口10を回転し、螺合を解除して先口10を軸筒本体8から取り外すことで、図6のようにレール部8cに沿って引き抜くことができる。
この状態で、図7ように把持部材7の前後方向を逆にしてレール部8cに再挿入することで、把持部材7を前後を逆にした状態で取り付けることができる。(図8の状態)
この時、錘部である金属製の第二の把持部材14が把持部材7における前方側から後方側に移動することで筆記具1の重心位置が軸筒2の中央側へ移動するため、筆記時の慣性モーメントIが小さくなるなり、更に、把持部材7を手で把持する位置も大径部7cからストレート部7i付近の小径部に移るため、軽く握って筆記したい場合に使用し易いものとなる。逆に、錘部である第二の把持部材14が前方側にある図1の状態では、慣性モーメントIは若干大きくなるが錘部が前方側に位置しているため筆記先端のブレが小さくなることで筆記動作が安定し、更に、大径部7cが指で把持する位置にくるため強く握ってしっかり筆記したい場合に使用し易いものとなる。
【0039】
次に、把持部材7の前後方向を逆にして付け替えた状態で筆記した際に発生する慣性モーメントIについて具体的に説明する。
筆記具1の総重量は計測により10.5gであり、図1及び図8の状態からノック体5をノック動作し、ボールペンレフィル3の前端が先口10の前端開口部10aから突出した状態(筆記時)での筆記具の全長が146.7mmであった。
ここで、図5のように、金属製の第二の把持部材14が前方側にある場合の重心位置は、筆記先端から58.1mmに位置し、重心位置を回転軸として計算した慣性モーメントIは、I≒1.72×10−5kg・mであった。
また、図9のように、金属製の第二の把持部材14が後方側にある場合の重心位置は、筆記先端から67.3mmに位置し、重心位置を回転軸として計算した慣性モーメントIは、I≒1.31×10−5kg・mであった。
【0040】
このため、把持部材7の前後方向を入れ替えても、重心位置は筆記具1を把持した際の把持位置となる筆記具先端から約20mmの位置から筆記具全長の1/2の位置(73.35mm)の間に位置しているため、重心と把持する部位が一致し、筆記時の重量バランス及び安定感を維持しつつ、好みに合わせて把持感触や重心位置を容易に変更可能な筆記具を提供できるものとなった。
【0041】
尚、本実施の形態では、便宜上、回転カムを用いたノック式ボールペンを例示してあるが、他の構造を有するノック式筆記具やキャップ式筆記具にも実施することができる。但し、キャップ式筆記具に実施する場合には、キャップを外し、後軸にキャップを嵌合(後ろ差し)した状態で筆記することを考慮し、後軸にキャップを嵌合した状態で、重心位置を算出するものとする。
【符号の説明】
【0042】
1…筆記具、
2…軸筒、2a…後部開口部、
3…ボールペンレフィル、3a…外段部、
4…回転カム、
5…ノック体、
6…クリップ、
7…把持部材、7a…内孔、7b…前部開口端(一方の開口端)、7c…大径部、
7d…第一の曲面、7e…中央部、7f…第2の曲面、
7g…後部開口端(他方の開口端)、7h…連結面、7i…ストレート部、
8…軸筒本体、8a…前部外周面(支持部)、8b…雄螺子部、8c…レール部、
8d…後部外周面、8e…係止孔部、8f…中央外周部、8g…外段部、
9…後軸部材、9a…前筒部、9b…後筒部、9c…係止突部、9d…突起部、
9e…カム溝、
10…先口、10a…前端開口部、10b…後端外周部、10c…雌螺子部、
10d…内段部、10e…後端面、
11インキ収容筒、
12…ボールペンチップ、
13…第一の把持部材、13a…係止部、13b…ガイド溝部(被レール部)、
13c…ガイド突起、13d…案内部、
14…第二の把持部材、14a…段部、14b…被係止部、
15…コイルスプリング、
16…回転カム機構。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9