【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
「1.軸筒の内部に、該軸筒の前端開口部から前端部が突出する筆記体を備え、当該軸筒の外周面に形成した支持部に、当該軸筒を取り囲む把持部材が配設された筆記具であって、
前記把持部材が、一方の開口端と他方の開口端の外径を同一とし、該把持部材の中央よりも該一方の開口端側が、当該把持部材の他の部分より外径及び肉厚が大きくなるよう形成され、
前記把持部材が、前記一方の開口端または前記他方の開口端のどちらからでも前記軸筒の前端開口部側から前記支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成され、
前記把持部材の一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心が、前記他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心よりも前記軸筒の前端開口部側に位置することを特徴とした筆記具。
2.前記把持部材が、前記軸筒の前端開口部から大径部に向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面と、前記大径部から前記把持部の中央部に向かって徐々に縮径する第2の曲面と、を有することを特徴とする前記1項に記載の筆記具。
3.前記把持部材が、それぞれ異なる比重を有する複数の部材同士を固着することで一体的に構成され、
前記複数の部材のなかで、前記把持部材の一方の端部に配設された部材が、最も高比重の材料で形成された錘部を具備することを特徴とした前記1項または2項に記載の筆記具。
4.前記軸筒の支持部に軸方向に沿って延びる凸状または凹状のレール部が形成され、
前記把持部材の内周部に前記レール部に対して摺動自在に係合する凹状または凸状の被レール部が形成されていることを特徴とする前記1項ないし3項の何れか1項に記載の筆記具。
5.前記複数の部材を比重の異なる金属材料と樹脂材料の組み合わせで構成したことを特徴とする前記3項または4項に記載の筆記具。」である。
【0011】
本発明によれば、把持部材が、一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側又は他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側のどちらからでも前記支持部に対して着脱自在、且つ回動不能に構成され、前記把持部材の一方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心が、前記他方の開口端を前記軸筒の前端開口部側に配設したときの筆記具の重心よりも前記軸筒の前端開口部側に位置する。こうしたことにより、第1に、把持部材を前後逆に付け替えることで、肉厚及び外径変化による把持感触を使用者の好みに合わせて変更することができる。第2に、把持部材を前後逆に付け替えることで、筆記具の重心位置を使用者の好みに合わせて変更することができる。
尚、回動不能とは、使用者が容易に回転させないように、把持部材を装着する構成であり、係合、圧入、挟持など特に限定されるものではない。具体的には、把持部材を回転するのに必要な力は、0.05N・m以上、より好ましくは、0.1N・m以上とすることが好ましい。また、把持部材を回転する力は、株式会社東日製作所社製のトルクメーターを用いて測定することができる。更に、各部品の作製時の寸法誤差により発生する微小な回動(がたつき)は、本発明においては回動には含まないものとする。
【0012】
また、把持部材の一方の開口端の外径と他方の開口端の外径とを同一に形成することで、把持部材を前後逆に付け替えた際の、把持部材と隣接する部品との間に段差ができなくなることから筆記具を把持した際の感触の低下を防ぐことができる。
【0013】
更に、他の発明によれば、把持部材が、軸筒の前端開口部から大径部に向かって徐々に外径が大きくなる第1の曲面と、大径部から把持部の中央部に向かって徐々に縮径する第2の曲面とを有することで、大径となる部分に手や指が当接しても急激に径が変化しないため、安定した把持感触を得ることができる。
【0014】
また、他の発明によれば、把持部材が、それぞれ異なる比重を有する複数の部材同士を固着することで一体的に構成され、複数の部材のなかで、把持部材の一方の端部に配設された部材が最も高比重の材料で形成された錘部を具備することで、把持部材を軸筒に対して前後逆に付け替えた際の重心位置の変化が大きくなるため、使用者が重心位置が変化したことを認識し易く、使用者の感覚に合った把持部材の方向を選択し易くなる効果を奏する。
【0015】
更に、把持部材を軸筒に対して前後逆に付け替えた際に把持感触を変化させる別の方法としては、把持部材を構成する複数の部材の表面に、それぞれ異なる凹凸部を形成することで変化させてもよく、複数の部材をそれぞれ異なる硬さの材料で形成することで変化させてもよい。
尚、把持部材を構成する複数の部材をそれぞれ固着する方法としては、一方の部材に係止部を設け、他方の部材に被係止部を設けて係止させることで固着してもよく、部材同士を接着固定することで固着してもよく、2色成形を用いて一体的に成形することで固着してもよい。
【0016】
また、他の発明によれば、軸筒の支持部にレール部を形成し、把持部材の内周面に被レール部を形成し、レール部と被レール部とを摺動自在且つ回動不能に構成することで、軸筒に対して把持部材を容易に着脱可能とすることができ、更に回動不能とすることで筆記時に把持部材が軸筒に対して回転することを防いで筆感の低下を防止できる。
尚、前記軸筒の支持部に軸方向に沿って延びるように形成するレール部は凸状でも凹状でもよく、その断面形状も三角、四角、半円形等、特に限定されることはない。そして、
持部材の内周部に形成させる被レール部は、軸方向に摺動自在且つ軸周方向に回動不能にに係合すれば凹状に形成しても凸状に形成してもよく、その断面形状もレール部に合わせて形成すればよい。
また、被レール部は把持部材を構成する複数の部材の内、最低でも1部材以上の内周面に形成されていればよく、全てに形成されていてもよい。尚、複数の部材に被レール部を形成する場合は、部材同士を固着した際に被レール部同士も軸周方向の位置が合うよう位置決め用のスリットや印等があることが好ましい。
【0017】
更に、他の発明によれば、把持部材を構成する複数の部材を黄銅、アルミ合金、ステンレス等の金属材料と、PP樹脂、ABS樹脂、PC樹脂等の樹脂材料の組み合わせで構成することが好ましく、この場合、比重の比較的高い金属材料と筆記具として汎用の樹脂材料とでは比重の違いが大きいことから、軸筒の支持部に対して把持部材を前後逆に付け替えた際の重心位置の変化を認識し易くなる。また、把持部材の一部材を金属材料で形成することで、筆記具の軸方向における中央部分付近に重量バランスが集中して筆記時の慣性モーメントを下げる効果を奏する。
尚、筆記具の前端側及び後端側の部品の重量を小さくすることで、筆記具の軸方向における中間部分付近に重量バランスが集中して筆記時の慣性モーメントを下げる効果を奏するため、筆記具の前端側及び後端側に用いる部材の材質は、金属などの比重の高いものではなく、樹脂材料とすることが好ましい。
【0018】
ここで、前記慣性モーメントについて説明すると、慣性モーメントは、物体の回転の始まりにくさ、止まりにくさを示すものであることはよく知られていて、一般的に、直棒の慣性モーメントについては、直棒の中心から回す場合と、直棒の端で回す場合において、直棒の中心で回したほうが回転によって描かれる円の直径が小さいので回し易い、従って、中心で回す場合の慣性モーメントが最も小さくなる。これは、重心位置と慣性モーメントが密接な関係にあり、重心位置と回転位置が同一であれば慣性モーメントが最も小さく、回転軸と重心位置が離間するに従って、慣性モーメントも高くなるからである。
【0019】
このため、筆記具の最小の慣性モーメントIは、筆記具の重心を回転軸とした、各筆記具用部品の慣性モーメントを求め、(部品A=dI1、部品B=dI2、部品C=dI3、・・・)これらの各部品の慣性モーメントを、下記式のように総和することによって求めることができる。
I=(dI1+dI2+dI3+・・・)
【0020】
つまり、各筆記具用部品の慣性モーメントdIは、回転軸、即ち筆記具の重心から各筆記具用部品の重心までの距離を、部品A=r1、部品B=r2、部品C=r3、・・・、各筆記具用部品の質量を、部品A=dm1、部品B=dm2、部品C=dm3、・・・、各筆記具用部品の密度:部品A=ρ1、部品B=ρ2、部品C=ρ3、・・・各筆記具用部品の体積を、部品A=dv1、部品B=dv2、部品C=dv3とすると、筆記具の回転軸に対する各筆記具用部品の慣性モーメントdIが、下記式で求めることができる。
部品Aは、dI1=r12dm1(dm1=ρ1dv1)
部品Bは、dI2=r22dm2(dm2=ρ2dv2)
部品Cは、dI3=r32dm3(dm3=ρ3dv3)