特開2018-187998(P2018-187998A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-187998(P2018-187998A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20181102BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-91278(P2017-91278)
(22)【出願日】2017年5月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】山野 尚紀
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC30
3D232CC48
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DC29
3D232DC33
3D232DD17
3D232EB11
3D232EC22
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB20
3D333CB21
3D333CB32
3D333CC13
3D333CC23
3D333CE03
3D333CE15
3D333CE37
3D333CE39
(57)【要約】
【課題】操舵量又は転舵量が小さくてもクラッチの状態判定を精度良く行うことのできる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、上側変化角δθh及び下側変化角δθpのいずれか一方が第1閾値αよりも大きいか否かを判定する(ステップ104、ステップ105)。上側変化角δθh及び下側変化角δθpのいずれか一方が第1閾値αよりも大きい場合に(ステップ104:YES、ステップ105:YES)、これにより生じた角度差の変化量Dと第2閾値βとの大小比較に基づいてクラッチの状態判定を行う(ステップ106)。そして、操舵制御装置は、同演算周期で取得した上側操舵角θh_n及び下側操舵角θp_nをそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新する(ステップ108)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操舵される操舵部と、運転者による前記操舵部の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とを機械的に断接可能なクラッチを有する操舵装置を制御対象とし、
前記操舵部の操舵量を示す検出値に基づいて演算される上側操舵角の基準となる基準上側操舵角、及び前記転舵部の転舵量を示す検出値に基づいて演算される下側操舵角の基準となる基準下側操舵角を設定する基準舵角設定部と、
前記基準舵角設定部により前記基準上側操舵角が設定された演算周期よりも後の演算周期における前記上側操舵角と該基準上側操舵角との間の角度差である上側変化角、及び前記後の演算周期における前記下側操舵角と前記基準下側操舵角との間の角度差である下側変化角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きいか否かを判定する変化判定部と、
前記変化判定部により前記上側変化角及び前記下側変化角の少なくとも一方が前記第1閾値よりも大きいと判定された場合に、前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角が設定された演算周期から前記後の演算周期までの間における前記上側操舵角と前記下側操舵角との間の角度差の変化量と、第2閾値との大小比較に基づいて前記クラッチの状態判定を行う状態判定部とを備え、
前記基準舵角設定部は、前記状態判定部による前記クラッチの状態判定後に、前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角を更新する操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記第2閾値は、前記第1閾値よりも小さな値に設定される操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、
前記基準舵角設定部は、前記後の演算周期における前記上側操舵角及び前記下側操舵角に基づいて前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角を更新する操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記操舵装置は、前記操舵部に設けられる操舵側モータと、前記転舵部に設けられる転舵側モータとを含むものであって、
前記操舵部の操舵量を示す検出値として前記操舵側モータの回転角を用い、前記転舵部の転舵量を示す検出値として前記転舵側モータの回転角を用いる操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記操舵装置は、前記操舵部が自在継手を介して前記クラッチの入力側に連結された入力軸を含み、前記転舵部が自在継手を介して前記クラッチの出力側に連結された出力軸を含む操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と、運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とがクラッチにより機械的に断接可能なステアバイワイヤ式のものが知られている。こうした操舵装置では、制御装置からクラッチを締結又は開放する制御信号が出力された状態でも、何らかの事由により実際にはクラッチが締結又は開放されていないことがあるため、通常、クラッチの状態判定が行われる。
【0003】
クラッチの状態判定方法として、例えば特許文献1には、クラッチを開放させる制御信号の出力後に転舵部に設けられた転舵モータを駆動し、クラッチの入力軸に連結されたステアリングシャフトとクラッチの出力軸に連結されたピニオン軸との間の角度差が閾値以上となった場合に、クラッチが開放されたと判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−196242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えばクラッチの内部に存在する構造的な隙間(ガタ)等に起因して、クラッチが締結された状態であっても、ステアリングシャフトとピニオン軸との間には角度差が生じるため、該角度差に基づいてクラッチの状態を精度良く判定するためには、閾値をある程度大きな値に設定する必要がある。その結果、操舵部の操舵量又は転舵部の転舵量が大きくならないと、前記角度差に基づくクラッチの状態判定を行うことができず、この点においてなお改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、操舵量又は転舵量が小さくてもクラッチの状態判定を精度良く行うことのできる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、運転者により操舵される操舵部と、運転者による前記操舵部の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部とを機械的に断接可能なクラッチを有する操舵装置を制御対象とし、前記操舵部の操舵量を示す検出値に基づいて演算される上側操舵角の基準となる基準上側操舵角、及び前記転舵部の転舵量を示す検出値に基づいて演算される下側操舵角の基準となる基準下側操舵角を設定する基準舵角設定部と、前記基準舵角設定部により前記基準上側操舵角が設定された演算周期よりも後の演算周期における前記上側操舵角と該基準上側操舵角との間の角度差である上側変化角、及び前記後の演算周期における前記下側操舵角と前記基準下側操舵角との間の角度差である下側変化角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きいか否かを判定する変化判定部と、前記変化判定部により前記上側変化角及び前記下側変化角の少なくとも一方が前記第1閾値よりも大きいと判定された場合に、前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角が設定された演算周期から前記後の演算周期までの間における前記上側操舵角と前記下側操舵角との間の角度差の変化量と、第2閾値との大小比較に基づいて前記クラッチの状態判定を行う状態判定部とを備え、前記基準舵角設定部は、前記状態判定部による前記クラッチの状態判定後に、前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角を更新する。
【0008】
上側操舵角と下側操舵角との単なる角度差に基づいてクラッチの状態判定を精度良く行おうとすると、クラッチを締結した状態において操舵可能な全範囲の端から端まで操舵した際に構造的な隙間等に起因して生じる角度差の最大値を考慮して、第2閾値を設定することが望ましい。また、クラッチを締結した状態において、操舵可能な全範囲よりも小さい所定量だけ操舵した際にも、その操舵位置に応じて上側操舵角と下側操舵角との間に角度差が生じる。ここで、本発明者らは鋭意研究の結果、所定量だけ操舵した際に生じる角度差は操舵位置に応じて変化するものの、任意の操舵位置から所定量だけ操舵した場合に生じる角度差が操舵可能な全範囲の端から端まで操舵した際に生じる角度差の最大値よりも小さくなることを見出した。つまり、任意の操舵位置から所定量だけ操舵したことにより生じる角度差を監視することで、小さな第2閾値を用いても精度良くクラッチの状態判定を行うことができる。
【0009】
この点を踏まえ、上記構成では、上側変位角及び下側変位角の少なくとも一方が第1閾値よりも大きい場合、すなわち操舵部の操舵量又は転舵部の転舵量が予め決められた所定量を超えた場合に、これにより生じた上側操舵角と下側操舵角との間の角度差の変化量と第2閾値との大小比較に基づいてクラッチの状態判定を行い、基準上側操舵角及び基準下側操舵角を更新する。したがって、操舵量又は転舵量が小さくても、操舵量又は転舵量が所定量を超える度ごとにクラッチの状態判定を精度良く行うことができる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記第2閾値は、前記第1閾値よりも小さな値に設定されることが好ましい。
操舵量又は転舵量が所定量を超えた場合に、これにより生じる上側操舵角と下側操舵角との間の角度差の変化量は、通常、当該所定量よりも小さくなるため、上記構成のように第2閾値を第1閾値よりも小さな値に設定することで、好適にクラッチの状態判定を行うことができる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記基準舵角設定部は、前記後の演算周期における前記上側操舵角及び前記下側操舵角に基づいて前記基準上側操舵角及び前記基準下側操舵角を更新することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、クラッチの状態判定を行った際に既に演算してある上側操舵角及び下側操舵角に基づいて基準上側操舵角及び基準下側操舵角を更新するため、別途演算する場合に比べ、速やかに基準上側操舵角及び基準下側操舵角を更新できる。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記操舵部に設けられる操舵側モータと、前記転舵部に設けられる転舵側モータとを含むものであって、前記操舵部の操舵量を示す検出値として前記操舵側モータの回転角を用い、前記転舵部の転舵量を示す検出値として前記転舵側モータの回転角を用いることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、操舵部の操舵量を示す検出値及び転舵部の転舵量を示す検出値を検出するための特別なセンサを別途設けずともよく、操舵装置の構造が複雑化することを抑制できる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記操舵部が自在継手を介して前記クラッチの入力側に連結された入力軸を含み、前記転舵部が自在継手を介して前記クラッチの出力側に連結された出力軸を含むことが好ましい。
【0016】
自在継手を介して二部材を連結した場合、これら二部材が同軸上に配置されていないと、入力側の部材の回転量と出力側の部材の回転量とが一致せず、入力側の部材と出力側の部材との間に角度差(角速度差)が周期的に発生する。そのため、上側操舵角と下側操舵角との単なる角度差に基づいて精度良くクラッチの状態判定をする場合には、周期的に発生する角度差の振幅分を考慮して第2閾値を設定しなければならず、当該第2閾値が大きくなりやすい。したがって、上記構成のように操舵部と転舵部との間に自在継手が介在する構成において、任意の操舵位置から所定量だけ操舵したことにより生じる上側操舵角と下側操舵角との間の角度差を監視してクラッチの状態判定を行う効果は大である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、操舵量又は転舵量が小さくてもクラッチの状態判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成図。
図2】操舵制御装置によるクラッチの状態判定の処理手順を示すフローチャート。
図3】自在継手により連結された二部材間に生じる角度差を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象となるステアバイワイヤ式の操舵装置2は、運転者により操舵される操舵部3と、運転者による操舵部3の操舵に応じて転舵輪4を転舵させる転舵部5と、操舵部3と転舵部5とを機械的に断接可能なクラッチ6とを備えている。
【0020】
操舵部3は、ステアリングホイール11が固定されるステアリングシャフト12を備えている。ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11側からコラム軸13と入力軸としての入力中間軸14とを自在継手(ユニバーサルジョイント)15を介して連結することにより構成されている。なお、本実施形態の自在継手15には、フックジョイントが用いられている。入力中間軸14は、クラッチ6の入力側部材に接続されている。
【0021】
また、操舵部3には、ステアリングシャフト12に操舵力を付与可能な操舵側アクチュエータ16が設けられている。操舵側アクチュエータ16は、駆動源となる操舵側モータ17と、操舵側モータ17の回転を減速してコラム軸13に伝達する操舵側減速機18とを備えている。
【0022】
転舵部5は、第1ピニオン軸21と、第1ピニオン軸21に連結されたラック軸22とを備えている。第1ピニオン軸21には、自在継手23を介して出力軸としての出力中間軸24が連結されており、出力中間軸24は、クラッチ6の出力側部材に接続されている。なお、本実施形態の自在継手23には、フックジョイントが用いられている。第1ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第1ピニオン軸21に形成された第1ピニオン歯21aとラック軸22に形成された第1ラック歯22aとを噛合することによって第1ラックアンドピニオン機構25が構成されている。ラック軸22の両端には、タイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、転舵輪4が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0023】
また、転舵部5には、ラック軸22に転舵輪4を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31が第2ピニオン軸32を介して設けられている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ33と、転舵側モータ33の回転を減速して第2ピニオン軸32に伝達する転舵側減速機34とを備えている。第2ピニオン軸32とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、第2ピニオン軸32に形成された第2ピニオン歯32aとラック軸22に形成された第2ラック歯22bとを噛合することによって第2ラックアンドピニオン機構35が構成されている。
【0024】
このように構成された操舵装置2では、クラッチ6が締結された状態(EPS(電動パワーステアリング)モード)において、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト12の回転が第1ラックアンドピニオン機構25によりラック軸22の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド26を介してナックルに伝達されることで、転舵輪4の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の少なくとも一方から運転者による操舵を補助するためのアシスト力が付与される。
【0025】
また、クラッチ6が開放された状態(SBW(ステアバイワイヤ)モード)において、運転者の操舵に応じて転舵側アクチュエータ31により第2ピニオン軸32が回転駆動され、この回転が第2ラックアンドピニオン機構35によりラック軸22の軸方向移動に変換されることで、転舵輪4の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ16からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール11に付与される。
【0026】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、クラッチ6、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、各種制御が実行される。
【0027】
操舵制御装置1には、車両の車速Vを検出する車速センサ41、及びステアリングシャフト12に付与された操舵トルクTを検出するトルクセンサ42が接続されている。なお、トルクセンサ42は、コラム軸13における操舵側アクチュエータ16(操舵側減速機18)との連結部分よりもステアリングホイール11側に設けられている。また、操舵制御装置1には、操舵部3の操舵量を示す検出値として操舵側モータ17の回転角θsを検出する操舵側回転センサ43、転舵部5の転舵量を示す検出値として転舵側モータ33の回転角θtを検出する転舵側回転センサ44が接続されている。
【0028】
操舵制御装置1は、操舵側モータ17の回転角θs及び転舵側モータ33の回転角θtを、例えばステアリング中立位置からの回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲の絶対角に換算して取得する。そして、操舵制御装置1は、操舵側回転センサ43により検出された操舵側モータ17の回転角θsに、操舵側減速機18の回転速度比に基づく換算係数Ksを乗算することにより、ステアリングホイール11の回転角である上側操舵角θhを演算する。また、転舵側回転センサ44により検出された転舵側モータ33の回転角θtに、転舵側減速機34の回転速度比、第1及び第2ラックアンドピニオン機構25,35の回転速度比に基づく換算係数Ktを乗算して下側操舵角θpを演算する。下側操舵角θpは、クラッチ6が締結状態である場合におけるステアリングホイール11の回転角度に相当する。なお、回転角θs,θt、上側操舵角θh、及び下側操舵角θpは、例えばステアリング中立位置から一方向の回転角である場合に正、他方向の回転角である場合に負とする。
【0029】
そして、操舵制御装置1は、通常時において、クラッチ6を開放状態とする制御信号をクラッチ6に出力し、SBWモードに切り替えて操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の作動を制御する。具体的には、操舵制御装置1は、SBWモードにおいて、操舵トルクTに基づき、モデル式を利用して目標操舵角を演算する。なお、モデル式として、例えばステアリングホイール11と転舵輪4とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリングホイール11の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角との関係を定めて表したものを用いることができる。そして、操舵制御装置1は、上側操舵角θhが目標操舵角に追従するように電流フィードバック制御を実行することにより、操舵側モータ17に駆動電力を供給し、操舵部3(ステアリングホイール11)に操舵反力を付与する。また、操舵制御装置1は、下側操舵角θpが目標操舵角に追従するように電流フィードバック制御を実行することにより、転舵側モータ33に駆動電力を供給し、転舵部5(第2ピニオン軸32)に転舵力を付与する。なお、下側操舵角θpが追従すべき目標操舵角として、上側操舵角θhが追従すべき目標操舵角に対して車速Vに応じて変化する伝達比を乗じたものとしてもよい。
【0030】
一方、操舵制御装置1は、例えば転舵側モータ33の温度が所定温度以上となった場合等に、クラッチ6を締結状態とする制御信号をクラッチ6に出力し、EPSモードに切り替えて操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の作動を制御する。具体的には、操舵制御装置1は、EPSモードにおいて、操舵トルクT及び車速Vに基づいて目標アシスト力を演算する。なお、目標アシスト力は、操舵トルクが大きいほど、また車速Vが低いほど、大きなアシスト力となるように演算される。そして、操舵制御装置1は、操舵側アクチュエータ16及び転舵側アクチュエータ31の少なくとも一方を駆動して目標アシスト力を付与する。一例として、転舵側モータ33の温度が所定温度以上となってEPSモードに移行した場合には、転舵側モータ33の出力を下げ、操舵側モータ17と協動してアシスト力を付与する制御態様とすることが可能である。
【0031】
また、操舵制御装置1は、クラッチ6を締結させる制御信号を出力した状態のEPSモードにおいて、クラッチ6が実際に締結状態となっているか否かの状態判定を行う。そして、判定の結果、クラッチ6が締結状態となっていない、すなわち開放状態であると判定した場合には、例えばSBWモードに移行し、図示しないインジケータの警告ランプを点灯させる等の処理を行う。
【0032】
次に、操舵制御装置1によるクラッチ6の状態判定について説明する。
操舵制御装置1は、任意の操舵位置から所定量だけ操舵した際に生じる上側操舵角θhと下側操舵角θpとの間の角度差の変化量Dを監視することにより、クラッチ6の状態判定を行う。
【0033】
詳しくは、本実施形態の操舵制御装置1は、上側操舵角θhの基準となる基準上側操舵角θhb及び下側操舵角θpの基準となる基準下側操舵角θpbを設定する。本実施形態では、EPSモードに切り替わった直後の最初の演算周期においては、当該演算周期で取得した上側操舵角θh_0及び下側操舵角θp_0をそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして設定する。そして、基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbは、後述するようにクラッチ6の状態判定毎に更新される。
【0034】
また、操舵制御装置1は、基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbを設定した演算周期よりも後の演算周期における上側操舵角θh_nと基準上側操舵角θhbとの間の角度差である上側変化角δθhを演算する。併せて、操舵制御装置1は、前記上側操舵角θh_nを演算した後の演算周期における下側操舵角θp_nと基準下側操舵角θpbとの間の角度差である下側変化角δθpを演算する。そして、操舵制御装置1は、上側変化角δθh及び下側変化角δθpの絶対値のいずれか一方が予め設定された第1閾値(変化判定閾値)αよりも大きいか否か、すなわち操舵部3の操舵量又は転舵部5の転舵量が所定量を超えたか否かを判定する。なお、第1閾値αは、操舵装置2においてクラッチ6を締結した状態で操舵可能な全範囲よりも十分に小さな所定量(例えば3°程度)に設定される。
【0035】
続いて、操舵制御装置1は、上側変化角δθh及び下側変化角δθpの絶対値のいずれか一方が第1閾値αよりも大きいと判定された場合に、基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbを設定した演算周期から後の演算周期までの間における上側操舵角θh_nと下側操舵角θp_nとの間の角度差の変化量Dを演算する。具体的には、本実施形態の操舵制御装置1は、上側変化角δθhと下側変化角δθpとの角度差の絶対値を角度差の変化量Dとして演算する。そして、操舵制御装置1は、角度差の変化量Dと予め設定された第2閾値(状態判定閾値)βとの大小比較に基づいてクラッチ6の状態判定を行う。具体的には、操舵制御装置1は、角度差の変化量Dが第2閾値βよりも大きい場合にクラッチ6が開放状態であると判定し、角度差の変化量Dが第2閾値β以下の場合にクラッチ6が締結状態であると判定する。なお、本実施形態の第2閾値βは、任意の操舵位置から所定量だけ操舵した際に生じる上側操舵角θhと下側操舵角θpとの間の角度差の変化量よりも大きく、第1閾値αよりも小さな値(例えば2°程度)に設定されている。
【0036】
さらに、操舵制御装置1は、クラッチ6の状態判定後に、前記後の演算周期に取得した上側操舵角θh_n及び下側操舵角θp_nをそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新する。
【0037】
次に、本実施形態の操舵制御装置1によるクラッチ6の状態判定にかかる処理手順を説明する。
図2のフローチャートに示すように、操舵制御装置1は、各種センサからの検出値として上側操舵角θh及び下側操舵角θpを取得すると(ステップ101)、基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbがメモリに設定されているか否かを判定する(ステップ102)。基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbが設定されていない場合には(ステップ102:NO)、ステップ101で取得した上側操舵角θh_0及び下側操舵角θp_0をそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして設定し(ステップ103)、同演算周期での状態判定を終了する。
【0038】
操舵制御装置1は、基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbが設定されている場合には(ステップ102:YES)、上側操舵角θh_nと基準上側操舵角θhbとの差分、すなわち上側変化角δθhの絶対値が第1閾値αより大きいか否かを判定する(ステップ104)。上側変化角δθhの絶対値が第1閾値α以下の場合には(ステップ104:NO)、下側操舵角θp_nと基準下側操舵角θpbとの差分、すなわち下側変化角δθpの絶対値が第1閾値αより大きいか否かを判定する(ステップ105)。そして、上側変化角δθhが第1閾値αより大きい場合(ステップ104:YES)、又は下側変化角δθpが第1閾値αより大きいか場合には(ステップ105:YES)、ステップ106に移行し、下側変化角δθpの絶対値が第1閾値α以下の場合には(ステップ105:NO)、ステップ106に移行しない。なお、ステップ104及びステップ105の処理が変化判定部51に相当する。
【0039】
ステップ106において、操舵制御装置1は、上側変化角δθhと下側変化角δθpとの差分の絶対値(角度差の変化量D)が第2閾値βよりも大きいか否かを判定する。そして、角度差の変化量Dが第2閾値βよりも大きい場合には(ステップ106:YES)、クラッチ6が開放状態であると判定し(ステップ107)、ステップ108に移行する。一方、角度差の変化量Dが第2閾値βよりも大きい場合には(ステップ106:NO)、クラッチ6が開放状態でない、すなわち締結状態であると判定し(ステップ109)、ステップ108に移行する。なお、ステップ106、ステップ107及びステップ109の処理が状態判定部52に相当する。そして、ステップ108において、操舵制御装置1は、同演算周期で取得した上側操舵角θh_n及び下側操舵角θp_nをそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新する。なお、ステップ103及びステップ108の処理が基準舵角設定部53に相当する。
【0040】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)操舵制御装置1は、上側変化角δθh及び下側変化角δθpのいずれか一方が第1閾値αよりも大きい場合に、これにより生じた角度差の変化量Dと第2閾値βとの大小比較に基づいてクラッチの状態判定を行い、さらに基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbを更新する。したがって、操舵部3の操舵量又は転舵部5の転舵量が小さくても、操舵量又は転舵量が第1閾値αを超える度ごとにクラッチ6の状態判定を精度良く行うことができる。
【0041】
(2)操舵部3の操舵量又は転舵部5の転舵量が所定量を超えた場合に、これにより生じる角度差の変化量Dは、通常、当該所定量よりも小さくなるため、本実施形態のように第2閾値βを第1閾値αよりも小さな値に設定することで、好適にクラッチ6の状態判定を行うことができる。
【0042】
(3)操舵制御装置1は、クラッチ6の状態判定を行った演算周期で取得した上側操舵角θh_n及び下側操舵角θp_nをそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新するようにした。そのため、上側操舵角θh及び下側操舵角θpを別途取得する場合に比べ、速やかに基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbを更新できる。
【0043】
(4)操舵制御装置1は、操舵側モータ17の回転角θsに基づいて上側操舵角θhを演算し、転舵側モータ33の回転角θtに基づいて下側操舵角θpを演算するため、操舵部3の操舵量を示す検出値及び転舵部5の転舵量を示す検出値を検出するためのセンサを別途設けずともよく、操舵装置2の構造が複雑化することを抑制できる。
【0044】
(5)操舵部3が自在継手15を介してクラッチ6の入力側部材に連結された入力中間軸14を含み、転舵部5が自在継手23を介してクラッチ6の出力側部材に連結された出力中間軸24を含むようにした。
【0045】
ここで、自在継手を介して二部材を連結した場合、これら二部材が同軸上に配置されていないと、入力側の部材の回転量と出力側の部材の回転量とが一致せず、図3に示すように、入力側の部材と出力側の部材との間に角度差(角速度差)が周期的に発生する。そのため、従来の用に上側操舵角θhと下側操舵角θpとの単なる角度差に基づいて精度良くクラッチ6の状態判定をする場合には、周期的に生じる角度差の振幅分を考慮して第2閾値βを設定しなければならず、当該第2閾値βが大きくなりやすい。したがって、本実施形態のように操舵部3と転舵部5との間に自在継手15,23が介在する構成において、任意の操舵位置から所定量だけ操舵したことにより生じる角度差の変化量Dを監視してクラッチ6の状態判定を行う効果は大である。
【0046】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、上側変化角δθhと下側変化角δθpとの角度差の絶対値を角度差の変化量Dとして演算したが、これに限らない。例えば基準上側操舵角θhbと基準下側操舵角θpbとの間の角度差を演算するとともに、上側操舵角θhと下側操舵角θpとの間の角度差を演算し、これら角度差間の角度差の絶対値を変化量Dとして演算してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、EPSモードに切り替わった直後の最初の演算周期に、当該演算周期で取得した上側操舵角θh_0及び下側操舵角θp_0を基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして設定したが、これに限らない。例えば予め基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbを設定しておいてもよく、その初期設定は適宜変更可能である。
【0048】
・上記実施形態では、クラッチ6の状態判定を行った演算周期で取得した上側操舵角θh_n及び下側操舵角θp_nをそれぞれ基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新した。しかし、これに限らず、例えば状態判定後の別の演算周期で取得した上側操舵角θh及び下側操舵角θpを基準上側操舵角θhb及び基準下側操舵角θpbとして更新してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、上側変化角δθh及び下側変化角δθpの絶対値のいずれか一方が第1閾値αよりも大きいと判定された場合に、クラッチ6の状態判定を行ったが、これに限らない。例えば上側変化角δθh及び下側変化角δθpの絶対値の双方が第1閾値αよりも大きいと判定された場合にクラッチ6の状態判定を行うようにしてもよい。また、上側変化角δθhと下側変化角δθpとで、大小比較する第1閾値αの値が互いに異なっていてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、第2閾値βを第1閾値αよりも小さな値に設定したが、これに限らず、第2閾値βを第1閾値α以上の値に設定してもよい。
・上記実施形態では、操舵側モータ17の回転角θsに基づいて上側操舵角θhを演算し、転舵側モータ33の回転角θtに基づいて下側操舵角θpを演算したが、これに限らない。例えばステアリングシャフト12の回転角を検出する回転角センサを設け、該回転角センサにより検出される回転角に基づいて上側操舵角θhを演算してもよい。また、例えばラック軸22の軸方向位置を検出するストロークセンサを設け、該ストロークセンサにより検出される軸方向位置に基づいて下側操舵角θpを演算してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、クラッチ6を締結させる制御信号が出力されたEPSモードにおいて、クラッチ6が誤って開放されているか否かを判定したが、これに限らず、例えばクラッチ6を開放させる制御信号が出力された状態において、クラッチ6が確実に開放されているか否かを判定してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、操舵部3と転舵部5との間に自在継手15,23が介在する操舵装置2を制御対象としたが、これに限らず、例えば操舵部3と転舵部5との間に等速ジョイントが介在する操舵装置等、自在継手が介在しない操舵装置を制御対象としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…操舵制御装置、2…操舵装置、3…操舵部、4…転舵輪、5…転舵部、6…クラッチ、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、13…コラム軸、14…入力中間軸(入力軸)、15,23…自在継手、16…操舵側アクチュエータ、17…操舵側モータ、22…ラック軸、24…出力中間軸(出力軸)、31…転舵側アクチュエータ、33…転舵側モータ、41…車速センサ、42…トルクセンサ、43…操舵側回転センサ、44…転舵側回転センサ、D…変化量、θh,θh_0,θh_n…上側操舵角、θp,θp_0,θp_n…下側操舵角、θs…回転角、θt…回転角、δθh…上側変化角、δθp…下側変化角、θhb…基準上側操舵角、θpb…基準下側操舵角、α…第1閾値、β…第2閾値。
図1
図2
図3