特開2018-188034(P2018-188034A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-188034(P2018-188034A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】係留気球システム
(51)【国際特許分類】
   B64B 1/50 20060101AFI20181102BHJP
   B64B 1/34 20060101ALI20181102BHJP
   B64F 1/14 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
   B64B1/50
   B64B1/34
   B64F1/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-93230(P2017-93230)
(22)【出願日】2017年5月9日
(71)【出願人】
【識別番号】596134390
【氏名又は名称】株式会社衛星ネットワーク
(71)【出願人】
【識別番号】516287999
【氏名又は名称】日本無人機開発合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】友井 康人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】少ない係留索の本数で気球の係留位置を安定化可能な係留気球システムを提供する。
【解決手段】気球本体100と係留装置が係留索150を介して接続された係留気球システムであって、気球本体と、係留索を操出および巻取可能な張力制御装置200を有する係留装置と、前記気球本体と前記係留装置を接続する2本の係留索と、前記気球本体に設けられ、推力の向きを変更可能な推進装置110と、前記気球本体に対する風力に応じて、前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する推力制御手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気球本体と係留装置が係留索を介して接続された係留気球システムであって、
気球本体と、
係留索を操出および巻取可能な張力制御装置を有する係留装置と、
前記気球本体と前記係留装置を接続する2本の係留索と、
前記気球本体に設けられ、推力の向きを変更可能な推進装置と、
前記気球本体に対する風力に応じて、前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する推力制御手段と、
を備える、係留気球システム。
【請求項2】
前記2本の係留索の方向を左右方向とし、左右方向に垂直な水平方向を前後方向としたときに、
前記推力制御手段は、前記風力の前後方向成分および下方向成分に応じて前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する、
請求項1に記載の係留気球システム。
【請求項3】
前記推力制御手段は、前記風力の左右方向成分に応じて前記推力の左右方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する、
請求項2に記載の係留気球システム。
【請求項4】
前記張力制御装置は、前記風力の左右方向成分に応じて前記係留索の張力を制御する、
請求項2または3に記載の係留気球システム。
【請求項5】
風力が所定の閾値以下であるときは、前記推進装置をオフにして、前記係留索の張力制御によって前記気球本体の位置を保持する、
請求項4に記載の係留気球システム。
【請求項6】
前記推進装置の推力の大きさ及び向き並びに前記係留索の張力の少なくともいずれかを制御することにより、前記気球本体を目標位置に移動させる、
請求項5に記載の係留気球システム。
【請求項7】
前記推進装置は、前記気球本体に2つ設けられており、
2つの推進装置を結ぶ方向は、前記2本の係留索の方向と直交する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の係留気球システム。
【請求項8】
前記2本の係留索は、前記気球本体の内部で接続されている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の係留気球システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留気球システムに関し、特に気球の移動を抑制可能な係留気球システムに関する。
【背景技術】
【0002】
観察・広告・無線通信の中継局などを目的として係留気球が使用されている。従来の係留気球は、気球を地上からのロープ(係留索)でつなぎ止めた構成を有し、したがって、係留範囲(気球の浮遊範囲)はロープの範囲に限定される。しかしながら、風の影響により気球が流されて建物に衝突したりするなど事故の原因となることから、強風時には運用が困難であった。
【0003】
特許文献1は、スクープ(気球の姿勢安定のために気球本体下部に取り付けられる幕状部材)を透過率が高い部分と低い部分とから構成することにより、機首を風上に向けるように姿勢の安定化(風見安定)を図っている。
【0004】
都市部のような建築物が密集している場所で使う場合や、極狭い範囲の空撮を目的とする場合などは、気球の浮遊範囲をロープによって規定される範囲よりもさらに狭い範囲に限定することが必要となる。特許文献1では気球の風見安定が実現できるとしても、風の影響により気球が流されることは防止できない。特に、気球本体が地上からの1本の係留索でつなぎ止められているため、位置の安定は困難である。
【0005】
また、気球の浮遊範囲をより限定するために、多数(3本以上)の係留索を用いて気球を係留することも考えられる。しかしながら、係留索の数を増やすほど地上での専有面積が増えるという問題がある。また、係留索を増やすほど気球に大きな浮力が必要となり、気球を大型化しなければならないという問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−7899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、少ない係留索の本数で気球の係留位置を安定化可能な係留気球システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる係留気球システムは、以下の構成を有することによって、気球本体の係留位置を制御可能とする。本発明にかかる係留気球システムは、気球本体と係留装置とが2本の係留索を介して接続された係留気球システムである。
【0009】
気球本体には、推力の向きを変更可能な推進装置が設けられる。推力の向きの可変範囲は、全方位とすることが好ましいが、水平方向より上向きの範囲内(半球方向)でのみ可変としてもよいし、より狭い範囲としてもよい。また、気球本体に複数の推進装置が設けられる場合には、全体として推力の向きが上記可変範囲内に設定できればよい。また、推進装置の推力発生方法は特に限定されない。
【0010】
本発明における係留索は2本とすることが好適であるが、3本以上であってもかまわな
い。また、2本の係留索は、気球本体の内部で接続されていることが好ましい。
【0011】
本発明の係留気球システムは、推進装置を制御する制御手段を有する。この制御手段は、気球本体に対する風力に応じて、推進装置の推力の上方向成分を増加させるように制御する。制御手段は、気球本体に対して吹く風の風力をどのように取得してもよい。例えば、風向風力センサなどから直接的に取得してもよいし、気球本体の移動速度や加速度の大きさおよび向きあるいは係留索の張力の変化などから間接的に取得してもよい。
【0012】
推力の上方向成分を増加させることで、気球本体の浮力を増加させたのと同様の効果が得られる。上下を反転して考えると、このことは、おもりを2本のロープにつなげてぶら下げた振り子においておもりを重くすることに相当する。すなわち、上記の制御によって、係留索が2本であっても、気球本体の空中での位置がより安定する。
【0013】
本発明において、風が気球の前後方向(係留索の張力と直交する方向)あるいは下方向に吹いているときには、推力の上方向成分を増加させることによって気球本体の位置を保持するとよい。なお、本開示において、気球の左右方向(横方向)は2本の係留索を結ぶ方向を意味し、前後方向は左右方向に垂直な水平方向を意味する。
【0014】
また、本発明において、風が気球の左右方向に吹いているときには、推力の左右方向成分を調整することによって気球本体の位置を保持してもよい。すなわち、推力を風上方向にして風に対抗することで気球本体の位置を保持してもよい。この際、上記と同様に、推力の上方向成分も大きくしてもかまわない。
【0015】
張力と垂直な方向(前後方向)に風が吹いているときに推力の前後方向成分を調整して気球本体の位置を保持しようとすると、オーバーシュートや振動が発生して気球本体の位置制御が不安定化する恐れがある。そこで、張力と直交する方向の風に対しては、上方向の推力を増加させることによって気球本体の位置を安定化させることが望ましい。一方、係留索方向については、係留索が存在するので位置制御が不安定になる恐れは少ない。したがって、左右方向(張力方向)の風については推力制御のみで係留位置の固定を行ってもよい。
【0016】
なお、左右方向の風に対しては、推力を利用せずに、係留索の張力を制御することによって気球本体の位置を保持してもよい。あるいは、上向き推力の増加と係留索の張力増加の両方を併用して気球本体の位置を保持してもよい。
【0017】
本発明において、風力が所定の閾値以下である時には、風向きにかかわらず、推進装置をオフにして係留索の張力制御によって気球本体の位置を保持してもよい。弱風であれば張力制御だけで十分に気球本体の位置を安定化できる。
【0018】
また、本発明において、推進装置の推力の大きさ及び向き並びに前記係留索の張力の少なくともいずれかを制御することにより、前記気球本体を目標位置に移動させてもよい。このように、気球本体の移動を抑制するだけでなく、気球本体の位置を意図的に移動させることができる。さらに、係留装置の直上以外の任意の位置で気球本体の移動を抑制させることができる。
【0019】
また、本発明において、推進装置は気球本体に2つ設けられ、2つの推進装置を結ぶ方向が2本の係留索の方向と直交することが好ましい。これにより、推進装置が発生する噴流が係留索と干渉せず、係留索方向と直交する方向への推力の印加が容易となる。
【0020】
また、本発明において、2本の係留索は、前記気球本体の内部で接続されていることが
好ましい。ここで、気球本体は、外皮と外皮内部の2つの内皮から構成され、係留索は、2つの内皮の間を通って外皮を貫通するように構成することが好ましい。2本の係留索の接続は、係留索同士が直接接続されてもよいし、それぞれの係留索が共通の部材に接続されることで間接的に接続されてもよい。係留索を気球本体に接続すると、張力を大きくした場合に気球本体が破損する恐れがあるが、係留索同士を接続することにより係留索の耐久強度の限界まで張力をかけることが可能となる。
【0021】
また、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む係留気球システムとして捉えることができる。上記構成および処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、2本の係留索を用いた係留気球システムにおいて、空中での気球本体の係留位置を固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、係留気球システムの概要を示す図である。
図2図2は、係留気球システムの機能構成を示す図である。
図3図3は、気球本体(外皮を除く)の拡大図斜視図である。
図4図4は、気球本体(外皮を除く)の拡大下面図である。
図5図5は、前後方向の風が吹いているときの姿勢制御を説明する図である。
図6図6は、左右方向の風が吹いているときの姿勢制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0025】
<概要>
図1は、本発明の実施形態にかかる係留気球システムの運用時の構成を示す概要図である。図2は、係留気球システムの機能構成を示すブロック図である。図3は、気球本体100の拡大斜視図である。図4は、気球本体100の拡大下面図である。なお、図3図4は、気球本体100の外皮102を外した状態を描写している。また、図3では見やすさのために係留索150を強調して描写している。
【0026】
係留気球システムは、気球本体100、係留索用の2つのウィンチ(係留巻取装置)200、電源・通信ケーブル用のウィンチ210、制御用PC220を含んで構成される。気球本体100を例えば都市部の上空に配置し、気球本体100がカメラ121を用いて地上を撮影する。気球本体100によって撮影された画像は、制御用PC220に送られ出力装置226から出力されたり、通信装置224を介して監視センター(不図示)に送信されたりする。これにより、遠隔の監視センターにおいて気球設置位置付近の監視が行える。
【0027】
ここで、都市部の上空に気球本体100を配置する場合、風などの影響により気球本体100が大きく移動すると、気球本体100が周囲の建物にぶつかったりして危険である。そこで、本実施形態においては、気球本体100の係留索150の張力制御および推進装置110の推力制御を併用して、気球本体100が流されないように制御する。
【0028】
<構成>
気球本体100は、外皮102および2つの内皮103を備える。内皮103にはヘリウムガスなどの軽量気体が充填され浮力を生じる。2つの内皮103は外皮102の内部に配される。外皮102内部は、擬似的なバロネット(空気室)としても機能する。
【0029】
気球本体100は、2本の係留索150を介して、2つのウィンチ200と接続される。2本の係留索150は、2つの内皮103の間を通って外皮102を貫通しており、気球本体100内部において互いに接続されている。なお、2本の係留索150同士が直接接続されてもよいし、それぞれの係留索150が同一の部材に接続されて間接的に接続されてもよい。また、係留索150と気球本体100(外皮102)の接触箇所の負荷を分散するために、係留索150と外皮102を接続する複数の補助索151が利用される。
【0030】
係留索150は、気球本体100の中心軸(鉛直方向)を通るように配置される。本明細書では、気球本体100内部における係留索150の方向をx方向あるいは左右方向と称し、x方向に直交する水平方向をy方向あるいは前後方向と称し、鉛直方向をz方向あるいは上下方向と称する。
【0031】
気球本体100は、地上を撮影するためのPTZカメラ121を備える。PTZカメラ121は、制御用PC220からの指令によってパン・チルト・ズーム制御(PTZ制御)が可能な可視光像を取得するカメラである。PTZカメラ151は3軸シンバル122によってカメラの姿勢が維持される。PTZカメラ151によって撮影された画像は、制御用PC220に送られる。
【0032】
気球本体100は、さらに、GPS装置123、風向風速センサ124、気圧センサ125などのセンサを有する。GPS装置123から得られる位置情報、風向風速センサ124から得られる風向風速情報、気圧センサ125から得られる気圧情報は、制御用PC220に送られ、係留索150の張力制御や推進装置110の推力制御に利用される。
【0033】
気球本体100は、防水仕様のゴンドラ120を有しており、このゴンドラの中に上記の各種のセンサやコンピュータや電源システムが格納される。ゴンドラ120内のコンピュータは気球本体100が有する各種の機器を制御する制御部130として機能する。
【0034】
気球本体100は、ゴンドラ120の前後に2つの推進装置110を有する。推進装置110は、プロペラによって空気を移動させることによって推力を発生させる。2つの推進装置110は、推力の強さや方向を独立して制御可能である。推進装置110は、ベクターシステムにより角度すなわち推力の方向を任意に変更可能である。2つの推進装置110は、係留索150の方向(x方向、左右方向)と直交する方向(y方向、前後方向)に配置される。推進装置110によって発生する空気流が係留索150と干渉するのを抑制するためである。推進装置110の推力制御(および係留索150の張力制御)によって、気球本体100を空中の係留地点に保持する。
【0035】
制御部130は、地上の制御用PC220からの指示にしたがって、推進装置110や各種センサの制御を行う。また、各種センサから得られたデータを制御用PC220に送信する制御を行う。
【0036】
気球本体に対する電力供給や、気球本体(制御部130)と制御用PC220の間の通信は、電源・通信ケーブル155を介して行われる。電源・通信ケーブル155は、電力線と通信線をまとめて被覆したケーブルである。なお、気球本体100と地上の制御用PCの間の通信を無線通信により実現したり、気球本体100への電力供給をレーザーやマイクロ波を用いた無線給電により実現したりしてもよい。
【0037】
ウィンチ(係留装置)200は、係留索150の操出・巻取を行う。ウィンチ200は、制御用PC220の張力制御部221からの指示にしたがって、係留索150にかかる張力を指定値に保ったり、あるいは操出・巻取をロックしたりする。後述するように、係留索150の張力制御(および推進装置110の推力制御)によって、気球本体100を空中の係留地点に保持する。
【0038】
係留索150の構造や材質等は特に限定されない。係留索150として一般に市販されている製品を使ってもよい。また、ウィンチ200において係留索150の送り出し距離を把握できるように、一定の間隔でタグなどのパーツが埋め込まれた係留索を利用してもよい。
【0039】
ウィンチ210は電源・通信ケーブル155の操出・巻取を行う。本実施形態では、電源・通信ケーブル155は、気球本体100の係留位置保持の目的には積極的には利用しない。
【0040】
制御用PC220は、張力制御部221、推力制御部222、記憶部223、通信装置224、入力装置225、出力装置226を有する。張力制御部221は、係留索150にかかる張力の強さをウィンチ200に対して指示する。推力制御部222は、推進装置110の推力の向きおよび強さを推進装置110(あるいは気球本体の110の制御部130)に対して指示する。記憶装置203には、気球内のカメラ121が撮影した画像データやその他の計測装置が計測したデータが格納される。通信装置224は、気球本体100内のコンピュータや、遠隔の監視センター内のコンピュータと通信を行う。入力装置225は、キーボードやタッチパネルやボタンなどであり、操作者からの入力を受け付けるために用いられる。出力装置226は、ディスプレイやスピーカーなどであり、操作者に対して画像や音などにより情報を提供するために用いられる。
【0041】
制御用PC220は、気球本体100のセンサから位置や風力などの情報を取得して、それに基づいて、気球本体100を空中の所定の係留位置に固定するために必要な推進装置110の推力や係留索150の張力を決定する。気球本体100の位置は、GPS装置123や気圧センサ125から取得できる。また、気球本体100に対して吹く風の強さや向きは、風向風速センサ124から取得してもよいし、気球の位置や係留索150の張力から算出してもよい。本実施形態において、気球本体100に対する風向や風速の取得方法は特に限定されない。
【0042】
<推力・張力制御>
次に、気球本体100は、空中の係留位置(定点)に固定するための制御について説明する。なお、本明細書では「定点に固定」といった文言を用いて説明をするが、これは気球本体100が完全に静止することを意味するわけではなく、気球本体100が許容範囲より外に移動しないようにすることを意味する。
【0043】
以下では、風の向きが前後方向(y方向)・左右方向(x方向)・上下方向(z方向)である場合の制御について個別に説明する。実際の風の向きは複数の方向の成分を有するので、風力の前後方向成分・左右方向成分・上下方向成分に応じてそれぞれの制御を組み合わせて利用すればよい。
【0044】
[前後方向の風に対する制御]
気球本体100の前後方向(y方向)の風が吹く場合の制御について説明する。図5(A)は、気球本体100を横方向(x方向)から見た図であり、無風時における力の釣り合いを示している。無風時には、気球本体100の浮力が、係留索150による張力および気球本体にかかる重力(不図示)と釣り合っている。
【0045】
前後方向に風が吹く場合には、制御用PC220は、図5(B)に示すように推進装置110のプロペラを下向きにして上向きの推力を得るように制御するとともに、係留索150の張力を大きくする制御を行う。気球本体100に上向きの推力を加えることで、気球本体100の浮力が大きくなったのと同様の効果が得られ、それに伴って係留索150の張力を大きくできる。上向きの浮力と推力および下向きの張力が大きくなるので、左右方向に風による力が加わっても気球本体100が安定する。これは、おもりを2本のロープにつなげてぶら下げた振り子において、おもりの重さを大きくした場合(あるいはおもりに下向きの力を加えた場合)におもりが安定するのと同じ原理による。
【0046】
推進装置110によって加える推力の大きさや、係留索150の張力は、風の前後方向の成分が大きいほど大きくすればよい。具体的な推力の大きさは、風力の大きさを少なくとも変数とするあらかじめ定められた算出式(関数またはルックアップテーブル)に基づいて決定してもよいし、シミュレーションや実機を用いて学習した制御モデルを利用して決定してもよい。
【0047】
図の例では、2つの推力を両方とも上向きとしているが、2つの推力の合力が上向きとなればよい。したがって、例えば、それぞれの推力を気球本体の鉛直中心軸を向かって傾けてもよい。この方が気球本体100をより安定化できる。
【0048】
[左右方向の風に対する制御]
気球本体100の左右方向(x方向)の風が吹く場合の制御について説明する。図6(A)は、気球本体100を前後方向(y方向)から見た図であり、無風時における力の釣り合いを示している。無風時には、気球本体100の浮力が、係留索150による張力および気球本体にかかる重力(不図示)と釣り合っている。
【0049】
前後方向に風が吹く場合には、制御用PC220は、図6(B)に示すように推進装置110のプロペラを風下に向けて、風上方向の推力を得るように制御する。これによって、風による力と推力とがバランスし、気球本体が安定する。
【0050】
この際、推力に上方向の成分を持たせてもよい。すなわち、風が水平に左右方向に吹いている場合に、推力を風上方向かつ鉛直上方の向きとしてもよい。気球本体に鉛直上方の力が加わるので、制御用PC220は係留索の張力を大きくできる。
【0051】
あるいは、左右方向の風については、推進装置110による推力を利用せずに、係留索150の張力制御のみによって気球本体100を安定させてもよい。
【0052】
[上下方向の風に対する制御]
気球本体100に対して下向きの風が吹く場合には、推進装置110の推力を上向きとすればよい。また、気球本体に対して上向きの風が吹く場合には、係留索150の張力を大きくすればよい。推力または張力が風による力とバランスし、気球本体100が安定する。
【0053】
[弱風時]
風が弱いとき(風力が所定の閾値以下のとき)には、推進装置110の推力を利用せずに、係留索150の張力制御のみによって気球本体100の位置を安定させてもよい。上述の閾値は、風力がそれよりも小さければ張力制御のみによって気球本体を固定できる程度の値として、事前に決定された値である。このようにすれば、弱風時には推進装置110をオフにでき、電力消費を抑制できる。
【0054】
<気球本体の移動>
上記の説明では、気球本体100を所定の位置に固定することを述べた。しかしながら、本実施形態において、気球本体100を目標とする位置に移動させることができる。例えば、推進装置110の推力の大きさや向きあるいは係留索150の張力の少なくともいずれかを制御することによって、気球本体を目標位置に移動させてもよい。また、気球本体100が目標位置に移動した後は、この目標位置に留まるように推力や張力を制御してもよい。
【0055】
<緊急時の処理>
突風時や緊急時には特別な制御を行うことも好ましい。例えば、突風時には、許容される範囲内で気球本体100を泳がせ、風が弱くなった時点で係留索を巻き取ったり、気球本体100を移動させたりして、気球本体100を定点(係留位置)に戻す制御を行ってもよい。また、緊急時(非常時)には、ウィンチ200は係留索の強制巻取をおこない緊急帰着させることが好ましい。
【0056】
<本実施形態の有利な効果>
本実施形態によれば、2本のみの係留索によって気球本体を係留する場合であっても、推進装置による推力を利用することで空中に安定して固定することができる。特に本実施形態では、前後方向の風(係留索によって張られる面に垂直な方向の風)が吹いている場合に、上向きの推力を印加することで安定させている。推力を風上方向とするとオーバーシュートさらには振動が発生して制御が不安定化する恐れがあるが、本実施形態の手法であればオーバーシュートを発生させることなく気球本体の位置を安定させることができる。
【0057】
また、係留索を2本のみとすることで、地上の専有面積を小さくできる。また、浮力がそれほど必要なくなるので、気球本体の大きさを小さくできる。これらの要因によって、本実施形態にかかる係留気球システムは、都市部などのような混雑した地域であっても利用が容易となる。
【0058】
また、気球本体100のゴンドラ120には地上から電力線が接続されており、気球に搭載された機器に対して常時電力を供給することができる。したがって、バッテリー切れによる運行時間の制約がなく、長時間の監視が可能となる。
【0059】
<変形例>
上記の実施形態は、本発明の実施するための例示的な一実施例であり、本発明を上記の実施形態に限定するものではない。
【0060】
上記の実施形態では、推進装置110の推力制御や係留索150の張力制御を、気球本体の直下の地面に設置された制御PC220で行っているが、これらの制御を行う装置の設置場所は時に限定されない。例えば、気球の設置位置から離れた位置にある装置で行ってもよいし、一部または全部の処理を気球本体100内の装置で実行してもかまわない。
【0061】
また、気球本体100に対する電力供給を電力線により行っているが、無線送電によって電力を供給してもよい。制御用PC220と気球本体100内の各種装置との間の通信も、有線通信で行わずに無線通信によって行ってもよい。
【0062】
気球本体100の形状は球形の場合を例示したが、気球本体の形状は特に限定されず、回転楕円体形状や飛行船形状などであってもよい。ただし、球形に近いほど、表面積に対する体積比率を大きくでき、すなわち浮力を大きくすることができるので有利である。
【0063】
上記の実施形態では、係留索を2本のみ用いており、また、2本のみの係留索で気球本体を固定できることを説明した。しかしながら、本発明は、3本以上の係留索を用いることを排除するものではない。3本以上の係留索を用いる場合であっても、気球に対する作用する風の力が大きいほど上向きの推力を大きくすることで気球本体をより安定させることができる。
【0064】
上記の実施形態では、推進装置110を2つ利用しているが、推進装置110の数は特に限定されず、1つであっても3つ以上であってもよい。また、推進装置110はそれぞれ推力方向を変更可能であるが、複数の推進装置全体として推力方向を変化可能であれば個々の推進装置は推力方向を変化できなくてもよい。
【0065】
推進装置110は、前後方向の風や下向きの風が吹いているときに上向きの推力を発生しているが、通常時から上向きの推力を発生させてもよい。この場合には、前後方向の風や下向きの風が吹いているときに、上向きの推力をさらに大きくすればよい。
【0066】
また、上記の説明では風向きが前後方向であるか左右方向であるかに応じて制御を異ならせているが、風向きにかかわらず風が強いほど上向きの推力を増加させることで気球本体を安定させてもかまわない。
【0067】
上記の実施形態における係留気球システムは、カメラを用いた地上監視システムであるが、計測システム、中継用の無線基地局、広告・ディスプレイなど、その利用用途は特に限定されない。
【符号の説明】
【0068】
100:気球本体
110:推進装置
120:ゴンドラ
150:係留索
155:電源・通信ケーブル
200:ウィンチ
210:ウィンチ
220:制御用PC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2018年8月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気球本体と係留装置が係留索を介して接続された係留気球システムであって、
外皮と複数の内皮を含む気球本体と、
係留索を操出および巻取可能な張力制御装置を有する係留装置と、
前記気球本体と前記係留装置を接続する2本の係留索であって、前記気球本体の外皮を貫通して、前記複数の内皮の間を通って、直接または間接的に互いに接続される2本の係留索と、
前記気球本体に設けられ、推力の向きを変更可能な推進装置と、
前記気球本体に対する風力に応じて、前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する推力制御手段と、
を備える、係留気球システム。
【請求項2】
前記2本の係留索の方向を左右方向とし、左右方向に垂直な水平方向を前後方向としたときに、
前記推力制御手段は、前記風力の前後方向成分および下方向成分に応じて前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する、
請求項1に記載の係留気球システム。
【請求項3】
前記推力制御手段は、前記風力の左右方向成分に応じて前記推力の左右方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する、
請求項2に記載の係留気球システム。
【請求項4】
前記張力制御装置は、前記風力の左右方向成分に応じて前記係留索の張力を制御する、
請求項2または3に記載の係留気球システム。
【請求項5】
風力が所定の閾値以下であるときは、前記推進装置をオフにして、前記係留索の張力制御によって前記気球本体の位置を保持する、
請求項4に記載の係留気球システム。
【請求項6】
前記推進装置の推力の大きさ及び向き並びに前記係留索の張力の少なくともいずれかを制御することにより、前記気球本体を目標位置に移動させる、
請求項5に記載の係留気球システム。
【請求項7】
前記推進装置は、前記気球本体に2つ設けられており、
2つの推進装置を結ぶ方向は、前記2本の係留索の方向と直交する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の係留気球システム。
【請求項8】
気球本体と係留装置が係留索を介して接続された係留気球システムであって、
気球本体と、
係留索を操出および巻取可能な張力制御装置を有する係留装置と、
前記気球本体と前記係留装置を接続する2本の係留索と、
前記気球本体に設けられ、推力の向きを変更可能な推進装置と、
前記気球本体に対する風力に応じて、前記推力の上方向成分を増加させるように前記推進装置を制御する推力制御手段と、
を備え、
前記推進装置は、前記気球本体に2つ設けられており、
2つの推進装置を結ぶ方向は、前記2本の係留索の方向と直交する、
係留気球システム。