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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-188840(P2018-188840A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】車両ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 77/06 20140101AFI20181102BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
   E05B77/06 Z
   B60J5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-90886(P2017-90886)
(22)【出願日】2017年4月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089934
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 淳一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092945
【弁理士】
【氏名又は名称】新関 千秋
(72)【発明者】
【氏名】服部 大樹
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250HH01
2E250JJ32
2E250LL01
2E250PP04
2E250PP05
2E250QQ04
(57)【要約】
【課題】ラチェットの不測の解除回転を抑制する。
【解決手段】車両ドアラッチ装置は、ドアのオープンハンドルの開扉操作によりラチェット17を解除回転させて爪部17aをラッチ15のフルラッチ係合部15cから離脱させ得るオープンレバー23と、オープンレバー23が不測の開扉回転をしたとき前記ラチェット17の解除回転を規制するラチェット保持機構39とを備える。ラチェット保持機構39には、ラチェット17の解除回転によりラチェット17の凸部17bと当接してラチェット17の解除回転を規制するラチェット保持面40aを有する慣性レバー部を設ける。ラチェット保持面40aは、慣性レバー部40がオープンハンドルの開扉操作により支持軸24を中心に回転すると、凸部17bの移動軌跡上から外れてラチェット17の解除回転を許容する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストライカ(11)と係合してアンラッチ位置からフルラッチ位置まで回転可能なラッチ(15)と;
前記ラッチ(15)のフルラッチ係合部(15c)に係合可能な爪部(17a)を有し前記フルラッチ係合部(15c)との係合により前記ラッチ(15)を前記フルラッチ位置に保持するラチェット(17)と;
ドアのオープンハンドルの開扉操作により前記ラチェット(17)を解除回転させて前記爪部(17a)を前記フルラッチ係合部(15c)から離脱させ得るオープンレバー(23)と;
前記オープンレバー(23)が不測の開扉回転をしたとき前記ラチェット(17)の解除回転を規制するラチェット保持機構(39)と、を備え;
前記ラチェット保持機構(39)には、前記ラチェット(17)の解除回転により前記ラチェット(17)の凸部(17b)と当接して前記ラチェット(17)の解除回転を規制するラチェット保持面(40a)を有する慣性レバー部(40)を設け;
前記ラチェット保持面(40a)は、前記慣性レバー部(40)が前記オープンハンドルの開扉操作により支持軸(24)を中心に回転すると、前記凸部(17b)の移動軌跡上から外れて前記ラチェット(17)の解除回転を許容する車両ドアラッチ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ラチェット保持機構(39)は、前記慣性レバー部(40)に止着ピン(41)により軸止されたブロックレバー(42)を備え、前記ブロックレバー(42)は前記オープンレバー(23)からの開扉回転力により回転力を受けると共に前記ラチェット(17)の前記凸部(17b)の移動軌跡からは逸れた位置に配置し、前記慣性レバー部(40)は前記ブロックレバー(42)を介して受ける回転力により前記支持軸(24)を中心に回転可能な車両ドアラッチ装置。
【請求項3】
請求項2において、前記慣性レバー部(40)は弱スプリング(43)の弾力により初期位置に保持され、前記ブロックレバー(42)の回転力は強スプリング(44)の弾力を介して前記慣性レバー部(40)に伝達される車両ドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアラッチ装置に関するもので、特に、車両ドアの不測の開扉を抑制する車両ドアラッチ装置のラチェット保持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両ドアラッチ装置では、車両事故によりドアパネルが変形したおりに、変形したパネルがラチェットに至る連結ケーブル又は連結ロッドを移動させ、ラチェットを解除方向に回転させてフルラッチ位置のラッチから外してしまうことで、不測の開扉が起きてしまうことがあった。
この対策として、不測の開扉を抑制する車両ドアラッチ装置用ラチェット保持機構が提案される。その基本は、ラチェットが解除方向に回転したとき、その回転が車両の利用者がオープンハンドルを操作したときの回転か、ドアパネルの変形による回転かを、ラチェットの回転速度により区別して、回転速度が高いときは不測の事態としてラチェットの解除回転を阻碍する構成である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016−505098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の車両ドアラッチ装置においては、ラチェットをドアのオープンハンドルの開扉操作により回転するオープンレバー(解放レバー)が、ドアパネルの変形により物理的に高速回転(加速回転)されられたときのみ、ラチェット保持機構が作動する。つまり、オープンレバーの回転が前提であり、オープンレバーに異常が認められないときには、ラチェット保持機構は作動しない。
このため、ドアパネルの変形のような物理的な圧力によらず、車両に加わった衝撃に基づく慣性モーメントによるラチェットの解除回転は、抑制できない。具体的には、ラチェットは、運転席側のドアと、助手席側のドアとでは、左右対称であるため、車両に強い衝撃が加わると、一方側のラチェットには重心位置の関係でラッチ係合方向(反解除方向)の慣性モーメントが生じ、他方側のラチェットには解除方向の慣性モーメントが生じることになるが、このような慣性モーメントによるラチェットの解除回転を抑制できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明は、ストライカ11と係合してアンラッチ位置からフルラッチ位置まで回転可能なラッチ15と;前記ラッチ15のフルラッチ係合部15cに係合可能な爪部17aを有し前記フルラッチ係合部15cとの係合により前記ラッチ15を前記フルラッチ位置に保持するラチェット17と;ドアのオープンハンドルの開扉操作により前記ラチェット17を解除回転させて前記爪部17aを前記フルラッチ係合部15cから離脱させ得るオープンレバー23と;前記オープンレバー23が不測の開扉回転をしたとき前記ラチェット17の解除回転を規制するラチェット保持機構39と、を備え;前記ラチェット保持機構39には、前記ラチェット17の解除回転により前記ラチェット17の凸部17bと当接して前記ラチェット17の解除回転を規制するラチェット保持面40aを有する慣性レバー部40を設け;前記ラチェット保持面40aは、前記慣性レバー部40が前記オープンハンドルの開扉操作により支持軸24を中心に回転すると、前記凸部17bの移動軌跡上から外れて前記ラチェット17の解除回転を許容する車両ドアラッチ装置としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の請求項1〜3に係る発明では、ラチェット17の解除回転は、通常又は不測に拘わらずドアのオープンハンドルが開扉操作されたときのみ許容されるから、ラチェット17の不測の解除回転を効果的に抑制できる。また、構造が簡素であるから、車両ドアラッチ装置自体にダメージが及んでも、ラチェット17の解除回転の抑制を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係わる車両ドアラッチ装置の斜視図である。
図2】車両ドアラッチ装置の分解斜視図である。
図3】車両ドアラッチ装置のラッチユニットの背面図である。
図4】ラッチユニット及びラチェット保持機構の背面側からの斜視図である。
図5】ラチェット保持機構の正面側からの分解斜視図である。
図6】ラッチユニットのラチェットの背面図である。
図7】ラッチユニットのラチェットレバーの背面図である。
図8】ラチェット保持機構の慣性レバーの背面図である。
図9】ラチェット保持機構のブロックレバーの背面図である。
図10】フルラッチ状態にあるラッチユニットの背面図である。
図11図10のラチェットの凸部とラチェット保持機構の上側部分の拡大図である。
図12】インサイド又はアウトサイドオープンハンドルの開扉操作により慣性レバーが回転し、ラチェットが解除回転して爪部がラッチのフルラッチ係合部から離脱したときのラッチユニットの背面図である。
図13図12のラチェットの凸部とラチェット保持機構の上側部分の拡大図である。
図14】ラチェット保持機構のブロックレバーがストッパーに当接してラチェットの解除回転が阻止された状態のラッチユニットの背面図である。
図15図14のラチェットの凸部とラチェット保持機構の上側部分の拡大図である。
図16】ラチェット保持機構のラチェットの凸部が慣性レバーのラチェット保持面に突き当ってラチェットの解除回転が阻止された状態のラッチユニットの背面図である。
図17図16のラチェットの凸部とラチェット保持機構の上側部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図に示した方位は、車両ドアラッチ装置10が取り付けられる車両(フロントドア)を基準に示した方位であり、車両ドアの種類に応じて方位は異なることがある。
【0009】
車両ドアラッチ装置10は、周知のように、車体側のストライカ11と噛合するラッチユニット12を備えている。ラッチユニット12の合成樹脂製のラッチボディ13の後面側には、ラッチ軸14によりラッチ15が軸止され、また、ラチェット軸16によりラチェット17(図6)が軸止される。
【0010】
ドアが閉扉移動すると、ストライカ11がラッチボディ13に形成したストライカ進入路13a内に相対的に進入して、図3において仮想線で示されたアンラッチ位置のラッチ15のストライカ係合溝15aに当接する。ストライカ11がストライカ係合溝15aに当接すると、ラッチ15はアンラッチ位置からラッチバネ18(図2)の弾力に抗してフルラッチ方向(反時計回転方向)に回転させられる。ラッチ15がハーフラッチ位置に至ると、ラチェットバネ19(図2、10参照)の弾力により反時計回転方向(ラッチ係合方向)に付勢されたラチェット17の爪部17aは、ラッチ15のハーフラッチ係合部15bと係合可能位置に押し出され、また、ラッチ15がフルラッチ位置に至ると、ラッチ15のフルラッチ係合部15cと係合可能位置に押し出される。ラチェット17の爪部17aがフルラッチ係合部15cと係合するとラッチ15はフルラッチ位置に保持され、ドアは閉扉状態に保たれる。
【0011】
ラッチボディ13の後面側は、ラッチボディ13のストライカ進入路13aを除いて金属カバープレート20(慣例的にその取付位置に拘わらず「バックプレート」ではなく「カバープレート」と呼称されている)で覆われ、カバープレート20にはストライカ進入路13aに対応する切欠通路20aが形成される。
【0012】
ラッチボディ13はボルト21(図2)により車両ドアの後端部に固定される。車両ドアが通常のスイング式ドアの場合、ラッチ軸14及びラチェット軸16の軸芯は前後方向となり、ストライカ進入路13aは水平に設定される。
【0013】
ラッチボディ13の前面側には金属バックプレート22(図2)が設けられ、バックプレート22の下部には車内外方向(ドアの幅方向)に伸びるオープンレバー23が支持軸24により軸止される。オープンレバー23の車外側端部23aはボーデンケーブル又はロッド等のオープンハンドル用連結具25を介してアウトサイドオープンハンドル26(図2)に連結される。
【0014】
ラッチボディ13の前面側の中央には、ラチェット17と一体的に回転するラチェットレバー27が設けられ、後述するように、ラチェットレバー27がオープンレバー23の開扉回転等により解除回転(ラチェット17がラッチ15から離脱する回転)すると、ラッチ15の拘束は開放され、ドアは開扉可能状態となる。ラチェット17とラチェットレバー27とは、好適には、連結ピン45で連結する。
【0015】
ラッチユニット12の前方には、操作ユニット28が設けられる。操作ユニット28のハウジング29は、ラッチボディ13の前面を覆うようにラッチボディ13に固定される。ハウジング29の内部には、周知のように、開扉機構やロック機構等が設けられる。
【0016】
開扉機構は、ラチェット17をラッチ15との係合から離脱させる機構で、オープンリンク30(図2、4参照)を備えている。オープンリンク30の下部は、オープンレバー23の車内側端部23bに連結され、アウトサイドオープンハンドル26の開扉操作により上動する。
【0017】
ロック機構は、オープンリンク30をアンロック位置とロック位置とに切り替えるロックレバー31(図4)を備えている。アンロック位置のオープンリンク30は、その当接段部30aがラチェットレバー27の車内側端部27aに対して上下方向に対峙し、オープンリンク30が上動すると車内側端部27aと係合して、ラチェットレバー27を介してラチェット17を解除回転させ、ラッチ15から離脱させる。これに対して、ロックレバー31の回転によりオープンリンク30がロック位置に変位すると、当接段部30aはラチェットレバー27の車内側端部27aから逸れて、オープンリンク30が上動してもラチェットレバー27は回転せず、ラッチ15は開放されない。
【0018】
ロック機構は、ボーデンケーブル又はロッド等のロック用連結具32を介してドアキーシリンダ33に連結され、また、同様に、ボーデンケーブル又はロッド等の別のロック用連結具34を介してロックノブ35に連結される。ロック機構はハウジング29に収納させたアクチュエータ機構36によっても切り替わる。
【0019】
車両ドアのインサイドオープンハンドル37(図2)はボーデンケーブル又はロッド等の別のオープンハンドル用連結具38を介して開扉機構のオープンリンク30に連結され、オープンリンク30はインサイドオープンハンドル37の開扉操作によっても上動する。なお、所謂ワンモーション開扉機構を採用する場合は、インサイドオープンハンドル37の開扉操作は、オープンリンク30を介さずに、ラチェットレバー27に伝達される構成にする。
【0020】
本発明の要旨となるラチェット保持機構39について説明する。
ラチェット保持機構39は、図2、3に良く示されているように、ラッチボディ13の後側の下方側に配置され、ラッチ15およびラチェット17と同じように、カバープレート20で覆われている。ラチェット保持機構39は、第1の不測開扉抑制機能と、第2の不測開扉抑制機能とを備えている。
【0021】
第1の不測開扉抑制機能は、閉扉状態時(ラチェット17の爪部17aがラッチ15のフルラッチ係合部15cに係合している状態時)に、ラチェット17が不測の事態によりラチェットバネ19の弾力に抗して解除回転したときに、ラチェット17の解除回転を直ちに物理的に阻止して爪部17aがフルラッチ係合部15cから離脱するのを防止する機能である。第1の不測開扉抑制機能は極めて強力な開扉抑制機能である。
【0022】
ラチェット17の不測の解除回転は、車両事故等による車体への衝撃で発生する慣性モーメントにより起こりうる。また、不測の解除回転は、変形したドアパネルがオープンハンドル用連結具25、38等を物理的に移動させることでも発生する。
【0023】
慣性モーメントによるラチェット17の解除回転について補足する。図10において、ラチェット17(一体回転するラチェットレバー27を含むラチェット17)の重心がラチェット軸16の軸芯より上方にあると仮定し、車外側から車内側への強い外力が作用すると、上方にある重心によりラチェット17には解除方向(時計回転方向)の慣性モーメントが生じ、解除方向の慣性モーメントの強さによっては、ラチェット17の爪部17aはフルラッチ係合部15cから外れる。これが慣性モーメントによる不測の開扉となる。
【0024】
なお、ラチェット17の重心をラチェット軸16の軸芯より下方に移動させても、解除方向の慣性モーメントの発生を防止する対策にはならない。重心をラチェット軸16の下方にしても、反対側のドアのラチェットは、図10のラチェット17とは鏡対称になるため、反対側のドアのラチェットには解除方向の慣性モーメントが生じてしまう。ラチェット17の重心をラチェット軸16の軸芯に一致させれば、左右一対のラチェットに対して慣性モーメントの発生を効果的に抑制できるが、このためにはバランスウエイト等が必要となる不利が生じる。
【0025】
第1の不測開扉抑制機能を達成するための構造を説明する。ラチェット保持機構39は、支持軸24に軸止された慣性レバー部40(図8)を備える。慣性レバー部40は、図8のように、樹脂で被覆された1枚レバーである。慣性レバー部40には弱スプリング43の一端が係止され、弱スプリング43の他端はラッチボディ13に係止される。慣性レバー部40はラッチボディ13に対して図10において時計方向に付勢され、ラッチボディ13に形成した当接部13bに当接した初期状態(待機状態)に弱保持される。
【0026】
ラチェット17には爪部17aとは反対方向に突出する凸部17bを形成し、慣性レバー部40の上部外周縁には、円弧状のラチェット保持面40aを形成する。ラチェット保持面40aの円弧面の軸芯は支持軸24の軸芯に対して右方に約2mm偏心させている。閉扉状態時、凸部17bは隙間L(図11参照)を介してラチェット保持面40aと相対峙する。
【0027】
隙間Lは、ラチェット17の爪部17aとラッチ15のフルラッチ係合部15c(ハーフラッチ係合部5b)との噛み合い代(噛み合い長)により狭く設定される。ラチェット17に解除方向の慣性モーメントが作用して、ラチェット17(および一体連結のラチェットレバー27)が解除方向に回転しても、ラチェット17とラッチ15の係合が解除される前に凸部17bはラチェット保持面40aに当接する。
【0028】
慣性レバー部40は、凸部17bがラチェット保持面40aに突き当たると、図8図17に示したようなラチェットモーメントFを受ける。ラチェットモーメントFは、ラチェット保持面40aの偏心により慣性レバー部40の支持軸24の軸芯より右方側を通過し、慣性レバー部40を時計回転させる力として作用するように設定する。慣性レバー部40は当接部13bとの当接で時計回転がブロックされているから、ラチェットモーメントFは当接部13b(ラッチボディ13)で吸収され、ラチェット17の解除回転は規制される。従って、ラチェット17に解除回転をもたらす不測の慣性モーメントが作用しても、ラチェット保持機構39は、ラッチ15からラチェット17が外れることを防止する。これが、ラチェット保持機構39の第1の不測開扉抑制機能となる。
【0029】
第1の不測開扉抑制機能は、慣性レバー部40のラチェット保持面40aにラチェット17の凸部17bが対峙していれば、強力に機能する開扉抑制機能であり、簡素な構成であるため、ラッチユニット12自体が大きなダメージを受けても確実な機能を期待をできる。
【0030】
ラチェット保持機構39の第1の不測開扉抑制機能は、インサイドオープンハンドル37やアウトサイドオープンハンドル26を通常のように開扉操作した場合にはキャンセルされる。詳細は後述するが、インサイドオープンハンドル37やアウトサイドオープンハンドル26が通常操作されたときは、慣性レバー40は支持軸24を中心に反時計回転して、慣性レバー部40のラチェット保持面40aとラチェット17の凸部17bとの対峙は解消されて、ラチェット17の解除回転は許容される。
【0031】
ラチェット保持機構39の第2の不測開扉抑制機能は、ラチェット17がラチェットバネ19の弾力に抗して解除回転したときに、その解除回転が異常に速いときに機能して、ラチェット17の解除回転を物理的に阻止して爪部17aがラッチ15のフルラッチ係合部15cから離脱するのを防止する機能である。
【0032】
ラチェット17の高速な解除回転は、前述した慣性モーメントにより生じる場合と、ドアパネルの変形力が、オープンハンドル用連結具38やオープンハンドル用連結具25を介して、ラチェットレバー27に物理的に伝達されることにより発生する場合とがある。
【0033】
ラチェット保持機構39の第2の不測開扉抑制機能を達成するための構造を説明する。ラチェット保持機構39の慣性レバー部40には、止着ピン41によりブロックレバー42(図9)を軸止する。慣性レバー部40には強スプリング44の一端が係止され、強スプリング44の他端はブロックレバー42の係止部42aに係止される。慣性レバー部40とブロックレバー42とはバネ弾力を介して連結されると共に、ブロックレバー42は強スプリング44により止着ピン41を中心に図3図10において反時計方向へ付勢される。なお、強スプリング44の弾力は、弱スプリング43の弾力より強く設定してある。
【0034】
ブロックレバー42及び強スプリング44は、好適には、サブアッセンブリーとして、慣性レバー部40に予め組み付けられる。このサブアッセンブリーの重心は支持軸24の軸芯と極力一致させる。これにより、車体に強い外力が加わっても、慣性レバー部40に生じる慣性モーメントを抑制する。
【0035】
ブロックレバー42の回動端の下面には当接部42bが設けられ、強スプリング44により止着ピン41を中心に図3図10において反時計方向へ付勢されたブロックレバー42は、当接部42bが慣性レバー部40の前面側に設けたブロックレバー保持部40bの上端に当接した初期位置に保持される。
【0036】
ブロックレバー42の回動端の側面にはブロック面42dが設けられ、ブロック面42dはブロックレバー42が強スプリング44の強い弾力に抗して止着ピン41を中心に時計回転すると、慣性レバー部40より上方に大きく突き出る(ブロック位置への変位)。ラッチボディ13には、ブロック位置のブロック面42dに対して当接可能なストッパー13cが設けられる。
【0037】
ラチェットレバー27の車外側端部には押圧部27bが設けられ、押圧部27bはブロックレバー42に設けた段部42cに隙間Lよりも小さい隙間L1を介して対峙する。隙間L1は実質的にゼロであっても良い。ラチェットレバー27がオープンリンク30を介して解除回転すると、押圧部27bはブロックレバー42の段部42cに当接して、ブロックレバー42を時計回転方向に押圧する。なお、ブロックレバー42はラチェット17とは異なる回転面に配置され、ラチェット17は回転してもブロックレバー42には当接しない。
【0038】
ラチェットレバー27によるブロックレバー42への押圧速度が通常の速度範囲であるとき、即ち、インサイドオープンハンドル37やアウトサイドオープンハンドル26の手動開扉操作による最大速度限度内の押圧であるときは、ブロックレバー42への押圧力は強スプリング44の強い弾力を介して慣性レバー部40に伝達される。
【0039】
このとき、慣性レバー部40は弱スプリング43により時計回転方向に付勢され、ラッチボディ13の当接部13bに当接した待機状態に弱保持されているが、強スプリング44を介した押圧力により、慣性レバー部40は支持軸24を中心に反時計回転する(キャンセル回転)。これにより、慣性レバー部40のラチェット保持面40aとラチェット17の凸部17bとの対峙状態は解消されて(図12図13参照)、ラチェット保持機構39の第1の不測開扉抑制機能はキャンセルされ、ラチェット17は解除回転が可能になり、開扉可能となる。また、慣性レバー部40がキャンセル回転するときは、ブロックレバー42は止着ピン41に対してほとんど回転しないため、ブロック位置へは変位しない。
【0040】
これに対して、ラチェットレバー27によるブロックレバー42への押圧速度が手動開扉操作による最大速度限度を超えたときは、ブロックレバー42には瞬間的に不測の押圧力が作用する。この不測の押圧力は、強スプリング44の強い弾力に抗して、ブロックレバー42を止着ピン41を中心に時計回転させブロック位置に変位させる。ブロック位置のブロック面42dは、ラッチボディ13のストッパー13cと係合可能に対峙するため、慣性レバー部40の支持軸24を中心とした反時計回転を規制する(図14、15参照)。
【0041】
図14、15のように、慣性レバー部40の支持軸24を中心とした反時計回転が規制されると、ラチェット17の凸部17bは慣性レバー部40のラチェット保持面40aに対して対峙状態に保持されるため、ラチェット17の解除回転は阻止される。
【0042】
なお、ラチェットレバー27によるブロックレバー42への押圧速度が更に速いときは、ブロックレバー42が時計回転するだけ、慣性レバー部40はそのまま回転しないこともある。この状態は、機能的には、ラチェット保持機構39の第1の不測開扉抑制機能と同じ状態で、ラチェット17の凸部17bは慣性レバー部40のラチェット保持面40aに対して対峙状態に保持されるから、ラチェット17の解除回転は阻止される。
【0043】
以上のように、本発明によるラチェット保持機構39は、ドアパネルの変形により不測にラチェット17が解除回転した場合、および車体への衝撃による慣性モーメントによりラチェット17が解除回転した場合のいずれにおいても、ラチェット17の解除回転を素早く阻止して、不測の開扉を抑制する。
【符号の説明】
【0044】
10…車両ドアラッチ装置、11…ストライカ、12…ラッチユニット、13…ラッチボディ、13a…ストライカ進入路、13b…当接部、13c…ストッパー、14…ラッチ軸、15…ラッチ、15a…ストライカ係合溝、15b…ハーフラッチ係合部、15c…フルラッチ係合部、16…ラチェット軸、17…ラチェット、17a…爪部、17b…凸部、18…ラッチバネ、19…ラチェットバネ、20…カバープレート、20a…切欠通路、21…ボルト、22…バックプレート、23…オープンレバー、23a…車外側端部、23b…車内側端部、24…支持軸、25…オープンハンドル用連結具、26…アウトサイドオープンハンドル、27…ラチェットレバー、27a…車内側端部、27b…押圧部、28…操作ユニット、29…ハウジング、30…オープンリンク、30a…当接段部、31…ロックレバー、32…ロック用連結具、33…ドアキーシリンダ、34…ロック用連結具、35…ロックノブ、36…アクチュエータ機構、37…インサイドオープンハンドル、38…オープンハンドル用連結具、39…ラチェット保持機構、40…慣性レバー部、40a…ラチェット保持面、40b…ブロックレバー保持部、41…止着ピン、42…ブロックレバー、42a…係止部、42b…当接部、42c…段部、42d…ブロック面、43…弱スプリング、44…強スプリング、45…連結ピン。
図1
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