【解決手段】使用波長帯域の光に対して透明である透明基板11と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在し、反射層12と反射制御層13とを有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部14Aとを備える。これにより、透過率特性及び反射率特性を向上させることができ、優れた光学特性を得ることができる。
前記溝部の前記所定方向に直交する方向の断面の形状が、前記溝部の深さゼロのときの幅の中点を通る垂線に対して非対称である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光板。
前記溝部の深さがゼロのときの幅の中点を通る垂線と、前記溝部の最深部と前記中点とを通る直線との角度が±20°以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偏光板
使用波長帯域の光に対して透明である透明基板上に積層された反射層と反射制御層とをエッチングし、前記使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、前記格子状凸部間に凹設され、前記所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを形成する偏光板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.偏光板
2.偏光板の製造方法
3.光学機器
4.実施例
【0014】
<1.偏光板>
本実施の形態に係る偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在し、反射層と反射制御層とを有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを備える。ここで、溝部は、透明基板に凹設されてもよく、透明基板上に成膜した下地層に凹設されてもよい。下地層は、透明基板の屈折率以下の誘電体からなることが好ましく、SiO
2等のSi酸化物であることが好ましい。
【0015】
図1は、溝部の断面形状が略V字状である場合の偏光板の構造を模式的に示す断面図であり、
図2は、溝部の断面形状が略U字状である場合の偏光板の構造を模式的に示す断面図であり、
図3は、溝部の断面形状が非対称である場合の偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
【0016】
図1〜
図3に示すように、偏光板は、透明基板11と、反射層12と反射制御層13とを有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設された溝部14A,14B,14Cとを備える。
【0017】
格子状凸部は、少なくとも反射層12と反射制御層13とを有する。格子状凸部のピッチは、使用帯域の光の波長よりも小さく、具体的には、100nm以上200nm以下であることが好ましい。また、格子状凸部の高さに対するワイヤーグリッドの長手方向に平行な方向(Y方向)の長さの比は1000以上であることが好ましい。また、溝部14A,14B,14Cの深さに対するY方向の長さの比は1000以上であることが好ましい。また、格子状凸部と溝部14A,14B,14Cとは、Y方向に平行であることが好ましい。これにより、ミクロンサイズの画素で形成されている液晶素子に用いた場合でも、面内の透過率及び反射率を均一にすることができる。
【0018】
反射層12は、吸収軸であるY方向に使用波長帯域の光に対して反射性を有する光反射性材料が帯状に延在してなるものである。すなわち、反射層12は、ワイヤーグリッド型偏光子としての機能を有し、透明基板のワイヤーグリッドが形成された面に向かって入射した光のうち、ワイヤーグリッドの長手方向に平行な方向(Y方向)に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、ワイヤーグリッドの長手方向と直交する方向(X方向)に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0019】
反射制御層13は、TE波を偏光波の選択的光吸収作用によって減衰させる。反射制御層13の構成を適宜調整することによって、反射層12で反射したTE波について、反射制御層13を透過する際に一部を反射し、反射層12に戻すことができ、また、反射制御層13を通過した光を干渉により減衰させることができる。
【0020】
反射制御層13の構成としては、後述するように、例えば、使用波長帯域の光に対して吸収性を有する光吸収性材料からなる吸収層と、誘電体からなる誘電体層との多層膜であっても、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる反射抑制層であってもよい。
【0021】
溝部14A,14B,14Cは、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる。換言すれば、溝部の断面構造は、最深部から基板表面に向かうに従い基板材料に対して空気部分が大きくなる。また、所定方向に直交する方向の溝部の断面の形状、すなわち、所定方向から見たときの溝部の断面の形状は、底面を有さないことが好ましい。ここで、底面を有さないとは、所定方向に直交する方向の底部の幅が10nm以下であることをいう。
【0022】
図1に示す溝部14Aのように、所定方向に直交する方向の溝部の断面の形状は、略V字状とすることができる。これにより、緑色波長帯域(波長520−590nm)及び赤色波長帯域(波長600−680nm)において、透過軸透過率Tpを上昇させるとともに透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性を得ることができる。また、溝部の断面形状を略V字状とした場合、溝部の断面形状を四角形状とした場合に比して、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸透過率Tpの低下を抑制させることができる。
【0023】
また、断面形状を略V字状とした場合の溝部の深さは、20nm以上100nm以下であることが好ましく、60nm以上100nm以下であることがより好ましい。これにより、透過軸透過率Tpを上昇させるとともに透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性を得ることができる。
【0024】
また、
図2に示す溝部14Bのように、所定方向に直交する方向の溝部の断面の形状は、略U字状とすることができる。これにより、溝部の断面形状を略V字状とした場合と同様に、緑色波長帯域(波長520−590nm)及び赤色波長帯域(波長600−680nm)において、透過軸透過率Tpを上昇させるとともに透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性を得ることができる。また、溝部の断面形状を略U字状とした場合、溝部の断面形状を四角形状とした場合に比して、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸透過率Tpの低下を抑制させることできる。
【0025】
断面形状を略U字状とした場合の溝部の深さは、20nm以上120nm以下であることが好ましく、60nm以上100nm以下であることがより好ましい。これにより、透過軸透過率Tpを上昇させるとともに透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性を得ることができる。
【0026】
また、
図3に示す溝部14Cのように、所定方向に直交する方向の溝部の断面の形状は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点を通る垂線に対して非対称とすることができる。すなわち、溝部の断面の形状は、溝部の最深部が深さゼロのときの幅の中点を通る垂線上になくてもよい。より具体的には、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度が±20°以下であることが好ましい。これにより、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度が0°の偏光板、すなわち、所定方向に直交する方向の溝部の断面の形状が溝部の深さゼロのときの幅の中点を通る垂線に対して対称である偏光板と同等の光学特性を得ることができる。
【0027】
また、溝部の断面の形状が非対称であることにより、少なくとも一方の傾斜が他方よりも小さくなるため、誘電体部、撥水部などの保護膜の形成を容易にすることができる。
【0028】
保護膜は、誘電体部、撥水部などの成膜によって、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の溝部の表面に設けられ、耐湿効果、撥水効果などを付与し、信頼性を向上させることができる。
【0029】
誘電体部を構成する誘電体としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、SiO
2等のSi酸化物が好ましく用いられる。
【0030】
撥水部は、撥水性化合物を用いて形成され、毛細管現象によりグリッド間に水分が入り込むのを抑制する。具体的な撥水性化合物としては、フルオロアルキル基又はアルキル基を有するシラン化合物、又はリン酸化合物が挙げられ、アルキル鎖の炭素数は、4〜20であることが好ましい。シラン化合物の具体例としては、例えば、FDTS(heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyltrichlorosilane)、PETS(pentafuorophenylpropyltrichlorosilane)、FOTS((tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl) trichlorosilane)、OTS(n-octadecyltrichlorosilane, (C18))などが挙げられる。また、リン酸化合物の具体例としては、FOPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-octylphosphonic acid)、FDPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-decylphosphonic acid)、FHPA(1H,1H,2H,2H-perfluoro-n-hexylphosphonic acid)、ODPA(octadecylphosphonic acid)などが挙げられる。溝部の断面の形状が非対称である場合、少なくとも一方の傾斜が他方よりも小さくなるため、CVD、ディップコートなどのコート方法により撥水化合物を溝部に導入することができる。
【0031】
このような構成の光学部材によれば、透過、反射、干渉、偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層の格子に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、格子に垂直な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させることができる。すなわち、TE波は、反射抑制層の偏光波の選択的光吸収作用によって減衰され、反射制御層を透過したTE波は、ワイヤーグリッドとして機能する格子状の反射層によって反射される。
【0032】
ここで、クリッド間の溝部の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなることにより、透過率特性及び反射率特性を向上させることができ、優れた光学特性を得ることができる。また、透過率特性のカスタマー要求は0.1%レベルであるため、偏光板の構造を大幅に変更せずに偏光板の作製プロセスの変更のみによって溝部構造を最適化し、光学特性の向上が達成できることは、産業上、極めて有益である。
【0033】
[具体例1]
図4は、具体例1として示す偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板21と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層22と、第1の誘電体層23Aと、吸収層23Bと、第2の誘電体層23Cとをこの順に有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを備える。すなわち、具体例1として示す偏光板は、反射制御層として、第1の誘電体層23Aと、吸収層23Bと、第2の誘電体層23Cとを有するものである。
【0034】
透明基板21としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0035】
反射層22としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えばAl、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Teなどの金属単体もしくはこれらを含む合金又は半導体材料を用いることができる。
【0036】
第1の誘電体層23Aは、例えば、吸収層23Bで反射した偏光に対して、吸収層23Bを透過し、反射層22で反射した当該偏光の位相が半波長ずれる膜厚で形成される。実用上、膜厚が最適化されていなくても、吸収層23Bが反射した光を吸収し、コントラストの向上が実現できるので、所望の偏光特性と実際の作製工程の兼ね合いで決定して構わない。
【0037】
第1の誘電体層23Aとしては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、Si酸化物が好ましく用いられる。
【0038】
吸収層23Bは、金属材料や半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ光吸収性材料からなり、使用帯域の光によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)が挙げられる。また、光吸収性材料として、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン材料を用いてもよい。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。これらの中でも、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0039】
第2の誘電体層23Cは、第1の誘電体層23Aと同様の材料を用いることができ、中でも、SiO
2等のSi酸化物が好ましく用いられる。
【0040】
[具体例2]
図5は、具体例2として示す偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板31と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層32と、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる反射抑制層33と有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを備える。すなわち、具体例2として示す偏光板は、反射制御層として、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなる反射抑制層33を有するものである。
【0041】
透明基板31及び反射層32は、それぞれ前述した具体例1に示す偏光板の透明基板21及び反射層22と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
反射抑制層33は、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなり、例えば光吸収性材料又は誘電体の濃度が層厚方向に傾斜した濃度分布を有する。
【0043】
光吸収性材料としては、金属材料、半導体材料などが挙げられ、使用帯域の光によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)が挙げられる。また、光吸収性材料として、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン材料を用いてもよい。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。これらの中でも、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0044】
誘電体としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。これらの中でも、Si酸化物が好ましく用いられる。
【0045】
[変形例]
図6は、変形例として示す偏光板の構造を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、偏光板は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板41と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列され、所定方向に延在する反射層42と、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなり、所定方向に直交する方向の幅が先端側ほど小さくなる反射抑制層43と有する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを備える。すなわち、変形例として示す偏光板は、具体例2として示す偏光板において、反射抑制層33が所定方向から見たときに、先端側ほど幅が狭くなったものである。
【0046】
透明基板41及び反射層42は、それぞれ前述した具体例2に示す偏光板の透明基板31及び反射層32と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0047】
反射抑制層43は、光吸収性材料と誘電体とが混合されてなり、例えば光吸収性材料又は誘電体の濃度が層厚方向に傾斜した濃度分布を有する。光吸収性材料及び誘電体としては、具体例2と同様のものを用いることができる。
【0048】
また、反射抑制層43は、所定方向に直交する方向の幅が先端側ほど小さくなるグリッド先端部を有する。グリッド先端部は、例えば等脚台形状を有する先細形状である。グリッド先端部を先細形状とすることにより、TM波の透過率を向上させることができる。これは、角度のばらつきを持って入射する光に対して散乱を抑制するためと考えられる。
【0049】
なお、前述した変形例は、具体例2に示す偏光板の変形例として説明したが、具体例1に示す偏光板の変形例とすることができる。具体例1に示す偏光板の変形例とする場合、グリッド先端部は、第1の誘電体層23A、吸収層23B、及び第2の誘電体層23Cで構成される。
【0050】
<2.偏光板の製造方法>
次に、本実施形態に係る偏光板の製造方法について説明する。本実施形態に係る偏光板の製造方法は、使用波長帯域の光に対して透明である透明基板上に積層された反射層と反射制御層とをエッチングし、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列され、所定方向に延在する格子状凸部と、格子状凸部間に凹設され、所定方向に直交する方向の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部とを形成する。
【0051】
以下、偏光板の製造方法について詳細に説明する。先ず、各種膜の成膜工程において、透明基板上に、反射層と、反射制御層とを、例えばスパッタリング法により積層させる。次に、レジストとして感光性樹脂を塗布し、露光及び現像を行い、レジストによる格子状のパターンを形成する。
【0052】
次に、レジストによるグリッドパターンを下層の反射層及び反射制御層に転写させ、反射層と反射制御層とを有する格子状凸部を形成するとともに格子状凸部間に溝部を凹設する。反射層、反射制御層、及び透明基板は、それぞれ異なる物質であり、エッチング性に差があるため、材料に合わせて、エッチングガスを変えることが好ましい。例えば、反射層にアルミニウムを使用した場合、塩素系のプラズマを用いることが好ましく、反射制御層にSiO
2やFeSiを使用した場合には、フッ素系プラズマを用いることが好ましい。また、Al
2O
3を用いた場合には、BCl
3を用いることがこのましい。このようにエッチングガスを材料により使い分けることにより、材料の境界の断面形状がエッチング性の違いにより乱れるのを抑制することができ、光学特性の劣化を抑制することができる。
【0053】
本実施の形態では、エッチング条件(ガス流量、ガス圧、出力、透明基板の冷却温度など)を最適化することにより、断面形状の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部を形成する。溝部の形成には、プラズマエッチング装置を用いることが好ましい。材料がSiO
2である場合、エッチングガスは、CF系ガス(特にCF
4)とArの混合ガスを用い、ガス圧を0.5〜1.0Pa、バイアスを40〜200Wとすることが好ましい。また、SiO
2にAlが含まれる材料である場合、エッチングガスは、Cl系ガス(特にCl
2とBCl
3の混合ガス)を用い、ガス圧を0.5〜1.0Pa、バイアスを30〜50Wとすることが好ましい。これにより、断面形状の幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなる溝部が形成され、優れた光学特性を有する偏光板を得ることができる。
【0054】
また、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の溝部の表面に、誘電体部、撥水部などの保護膜を成膜してもよい。誘電体部の成膜は、物理蒸着法、化学蒸着法などを用いることができる。これらの中でも、特にALD法(Atomic Layer Deposition法、原子堆積法)を用いることが好ましい。これにより、アスペクト比の高いトレンチ構造でも、溝の細部まで均等に誘電体を付着させることができる。
【0055】
また、撥水部は、格子状凸部の表面及び格子状凸部間の溝部の表面に、撥水性化合物を塗布することにより形成することができる。撥水性化合物の塗布方法としては、ディップ塗布、スピンコート、ベーパー処理などが挙げられる。これらの中でも、特にべーパー処理を用いることが好ましい。これにより、撥水性化合物をアスペクト比の高いトレンチ構造の細部まで塗布することができる。
【0056】
<3.光学機器>
本実施の形態に係る光学機器は、前述した偏光板を搭載する。光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。本実施の形態に係る偏光板は、高い透過率を有するため、高輝度が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適である。
【0057】
本実施の形態に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本技術に係る偏光板であればよい。例えば、本実施の形態に係る光学機器が、液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本技術に係る偏光板であればよい。
【実施例】
【0058】
<4.実施例>
以下、本技術の実施例について説明する。ワイヤーグリッド型の偏光板において、格子状凸部間の基板に凹設される溝部の形状について、シミュレーションを行った。なお、本技術はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
シミュレーションは、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより行った。シミュレーションには、Grating Solver Development社製のグレーティングシミュレータ「Gsolver」を用いた。
【0060】
[溝部の断面形状が四角形状]
図7は、従来例である溝部の断面形状が四角形状である場合の偏光板の構成を模式的に示す断面図である。
図7に示す偏光板は、ガラス基板と、ガラス基板上に141nmのピッチPで配列された幅W35nmのAlからなる反射層と、反射層上に配置された第1のSiO
2層と、FeSi層と、第2のSiO
2層とを備える。反射層の厚みT
42は250nm、第1のSiO
2層の厚みT
43は5nm、第1のFeSi層の厚みT
44は25nm、第2のSiO
2層の厚みT
45は15nmとした。また、FeSi層におけるFe含有量は5atm%、Si含有量は95atm%とした。
【0061】
また、ガラス基板に形成された溝部の断面の形状を四角形とし、その深さをそれぞれ20nm、40nm、60nm、80nm、100nmとしてシミュレーションを行った。
【0062】
表1に、従来例である溝部の断面形状を四角形状としたときの偏光板の各波長帯域の透過軸透過率Tp及び透過軸反射率Rpの平均値のシミュレーション結果を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
また、
図8は、従来例である断面形状を四角形状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸透過率Tpのシミュレーション結果を示すグラフであり、
図9は、従来例である断面形状を四角形状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸反射率Rpのシミュレーション結果を示すグラフである。
【0065】
これらの結果より、溝部の断面形状を四角形状とした場合、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸反射率Rpが大きく上昇し、光学特性が低下することが分かった。また、溝部の深さが60nm以上である場合、緑色波長帯域(波長520−590nm)の透過軸透過率Tpが低下し、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸透過率Tpが、溝部の深さが0nmである場合よりも低下することが分かった。
【0066】
[溝部の断面形状が略V字状]
図10は、溝部の断面形状が略V字状である場合の偏光板の構成を模式的に示す断面図である。
図10に示す偏光板は、基板に凹設される溝部の断面形状を略V字状とした以外は、
図7に示す偏光板の構成と同様とした。すなわち、この偏光板は、ガラス基板と、ガラス基板上に141nmのピッチPで配列された幅W35nmのAlからなる反射層と、反射層上に配置された第1のSiO
2層と、FeSi層と、第2のSiO
2層とを備える。反射層の厚みT
52は250nm、第1のSiO
2層の厚みT
53は5nm、第1のFeSi層の厚みT
54は25nm、第2のSiO
2層の厚みT
55は15nmとした。また、FeSi層におけるFe含有量は5atm%、Si含有量は95atm%とした。
【0067】
また、ガラス基板に形成された溝部の断面の形状を略V字状の三角形とし、その深さをそれぞれ20nm、40nm、60nm、80nm、100nmとしてシミュレーションを行った。
【0068】
表2に、溝部の断面形状を略V字状としたときの偏光板の各波長帯域の透過軸透過率Tp及び透過軸反射率Rpの平均値のシミュレーション結果を示す。
【0069】
【表2】
【0070】
また、
図11は、断面形状を略V字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸透過率Tpのシミュレーション結果を示すグラフであり、
図12は、断面形状を略V字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸反射率Rpのシミュレーション結果を示すグラフである。
【0071】
また、
図13は、従来例である断面形状を四角形状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の各波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフであり、
図14は、断面形状を略V字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の各波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0072】
これらの結果より、溝部の断面形状を略V字状とした場合、緑色波長帯域(波長520−590nm)及び赤色波長帯域(波長600−680nm)において、透過軸透過率Tpを上昇させるとともに透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性が得られることが分かった。また、溝部の断面形状を略V字状とした場合、溝部の断面形状を四角形状とした場合に比して、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸透過率Tpの低下を抑制させることが分かった。また、溝部の深さが60nm以上100nm以下である場合、青色波長帯域の透過軸透過率Tpが、溝部の深さが0nmである場合よりも大きくなり、優れた光学特性が得られることが分かった。
【0073】
[溝部の断面形状が略U字状]
図15は、溝部の断面形状が略U字状である場合の偏光板の構成を模式的に示す断面図である。
図15に示す偏光板は、基板に凹設される溝部の断面形状を略U字状とした以外は、
図7に示す偏光板の構成と同様とした。すなわち、この偏光板は、ガラス基板と、ガラス基板上に141nmのピッチPで配列された幅W35nmのAlからなる反射層と、反射層上に配置された第1のSiO
2層と、FeSi層と、第2のSiO
2層とを備える。反射層の厚みT
52は250nm、第1のSiO
2層の厚みT
53は5nm、第1のFeSi層の厚みT
54は25nm、第2のSiO
2層の厚みT
55は15nmとした。また、FeSi層におけるFe含有量は5atm%、Si含有量は95atm%とした。
【0074】
また、ガラス基板に形成された溝部の断面の形状を略U字状とし、その深さをそれぞれ20nm、40nm、60nm、80nm、100nm、120nmとしてシミュレーションを行った。
【0075】
図16は、溝部の断面形状が略U字状である場合の溝部の構成を模式的に示す断面図であり、
図17は、溝部の断面形状が略U字状である場合の溝部の断面形状の曲線を示すグラフである。
【0076】
図16及び
図17に示すように、溝部の断面形状は、溝部の深さゼロのときの幅の中点を原点(0,0)とし、グリッド間隔をW、溝の深さをDとしたとき、下記式を満たす2次曲線とした。
Y=(4D/W
2)×X
2−D
【0077】
すなわち、
図17に示すように、深さが20nm〜120nmの溝部の断面形状の曲線(a)〜(f)は、下記式とした。
(a)Y=0.007X
2−20、(b)Y=0.015X
2−40、(c)Y=0.022X
2−60、(d)Y=0.029X
2−80、(e)Y=0.036X
2−100、(f)Y=0.044X
2−120
【0078】
図18は、断面形状を略U字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸透過率Tpのシミュレーション結果を示すグラフであり、
図19は、断面形状を略U字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板の透過軸反射率Rpのシミュレーション結果を示すグラフである。
【0079】
また、
図20は、断面形状を略U字状とした溝部の深さに対する緑色波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフであり、
図21は、断面形状を略U字状とした溝部の深さに対する緑色波長帯域の透過軸反射率Rpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0080】
これらの結果より、溝部の断面形状を略U字状とした場合、緑色波長帯域(波長520−590nm)及び赤色波長帯域(波長600−680nm)において、透過軸透過率Tpを上昇させ、透過軸反射率Rpを低下させ、優れた光学特性が得られることが分かった。また、溝部の断面形状を略U字状とした場合、溝部の断面形状を四角形状とした場合に比して、青色波長帯域(波長430−510nm)の透過軸透過率Tpの低下を抑制させることが分かった。また、溝部の深さが60nm以上120nm以下である場合、緑色波長帯域の透過軸透過率Tpが大きく、緑色波長帯域の透過軸反射率Rpが小さいため、優れた光学特性が得られることが分かった。
【0081】
[溝部の断面形状が略U字状(非対称)]
図22は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度の関係を示すグラフである。
図22において、曲線(a)は、Y=0.036X
2−100であり、曲線(b)は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、原点と曲線(b)の最深部とを結んだ直線との角度が20°である曲線を示し、曲線(c)は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、原点と曲線(b)の最深部とを結んだ直線との角度が−20°である曲線を示す。
【0082】
図22に示すように、溝部の断面形状を曲線(a)、曲線(b)、曲線(c)としたときの偏光板について、シミュレーションを行った。偏光板は、基板に凹設される溝部の断面形状を曲線(a)、曲線(b)、曲線(c)とした以外は、
図15に示す偏光板の構成と同様とした。
【0083】
図23は、溝部の断面形状を曲線(a)、曲線(b)、曲線(c)としたときの偏光板の透過軸透過率Tpのシミュレーション結果を示すグラフであり、
図24は、溝部の断面形状を曲線(a)、曲線(b)、曲線(c)としたときの偏光板の透過軸反射率Rpのシミュレーション結果を示すグラフである。また、
図25は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度がθのときの偏光板について、緑色波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフであり、
図26は、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度がθのときの偏光板について、緑色波長帯域の透過軸反射率Rpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0084】
これらの結果より、溝部の深さがゼロのときの幅の中点(原点)を通る垂線と、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度が±20°以下であることにより、溝部の最深部と原点とを通る直線との角度が0°の偏光板と同等の光学特性が得られることが分かった。
【0085】
[溝部の断面形状の考察]
図27は、断面形状を四角形状、略V字状、又は略U字状とした溝部を所定深さにしたときの偏光板について、緑色波長帯域の透過軸透過率Tpの平均値のシミュレーション結果を示すグラフである。断面形状を四角形状、略V字状、又は略U字状とした溝部を有する偏光板は、それぞれ
図7、
図10、及び
図15に示す偏光板と同様である。
【0086】
このシミュレーション結果より、溝部の深さを60nm以上100nm以下とすることにより、断面形状を四角形状とした溝部に比して、高い透過軸透過率Tpが得られることが分かった。
【0087】
図28は、断面形状を四角形状、略V字状、又は略U字状とした溝部の深さ方向に対する屈折率のシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションにおいて、空気の屈折率を1.0、基板の屈折率を1.5とし、ピッチを200nm、グリッド間幅を100nmとした。
【0088】
深さが60nmの四角形状の溝部は、深さが0nmを超え60nm未満まで屈折率が1.25であり、深さが60nmのとき屈折率が1.5に大きく変化する変化点を有する。一方、深さが60nmの略V字状、又は略U字状の溝部は、幅が深さ方向に向かってゼロになるように小さくなるため、屈折率が1から1.5に徐々に変化し、屈折率の大きな変化点を持っていない。このように屈折率が大きな変化点を持たないように溝部を形成することにより、透過率特性及び反射率特性を向上させるものと考えられる。
【0089】
深さが60nmの略V字状の溝部の深さに対する屈折率は、y=−0.0083x+1(−60≦x≦0)で示される。また、深さが100nmの略U字状の溝部の深さに対する屈折率は、y=2E−0.8x
4+2E−06x
3+0.0001x
2−0.0004x+1.0061(−100≦x≦0)で示される。又は、深さが100nmの略U字状の溝部の深さに対する屈折率は、y=0.0005x
2+0.0791x+4.423(−100≦x≦80)、y=2E−05x
2+0.0021x+1.0026(−80≦x≦0)で示される。
【0090】
よって、溝部の深さが0nm以上60nm以下の場合、y≦−0.0083x+1(−60≦x≦0)、y≧2E−0.8x
4+2E−06x
3+0.0001x
2−0.0004x+1.0061(−60≦x≦0)を満たすように、溝部の断面の幅を深さ方向に向かってゼロになるように小さくすればよい。また、溝部の深さが60nm以上100nm以下の場合、1.5≧y≧2E−0.8x
4+2E−06x
3+0.0001x
2−0.0004x+1.0061(−100≦x≦−60)を満たすように、溝部の断面の幅を深さ方向に向かってゼロになるように小さくすればよい。