【解決手段】この偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板と、前記透明基板上の第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列された複数の凸部と、を備え、前記凸部は、反射層と、多層膜と、前記反射層と前記多層膜との間に位置する光学特性改善層と、を備え、前記光学特性改善層は、前記反射層を構成する構成元素を含む酸化物を含み、塩素系ガスに対する前記光学特性改善層のエッチングレートは、前記多層膜のエッチングレートの6.7倍以上15倍以下である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
「偏光板」
図1は、第1実施形態にかかる偏光板100の断面模式図である。偏光板100は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板である。偏光板100は、基板10と複数の凸部20とを備える。複数の凸部20は、平面視で第1方向に延びる。以下、基板10が延びる平面をxy平面とし、複数の凸部20の延びる方向をy方向とする。またxy平面に直交する方向をz方向とする。
図1は、偏光板100をxz平面で切断した断面図である。
【0022】
偏光板100は、凸部20が延びるy方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰し、y方向に垂直な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過する。偏光板100は、y方向が吸収軸であり、x方向が透過軸である。
【0023】
(基板)
基板10は、偏光板100の使用帯域の波長の光に対して透明性を有する。「透明性を有する」とは、使用帯域の波長の光を100%透過する必要はなく、偏光板としての機能を保持可能な程度に透過できればよい。基板10の平均厚みは、0.3mm以上1mm以下であることが好ましい。
【0024】
基板10には、屈折率1.1〜2.2の材料を用いることが好ましい。例えば、ガラス、水晶、サファイア等を用いることができる。基板10として用いられるガラス材料の成分組成は特に制限されない。
【0025】
例えばケイ酸塩ガラスは、光学ガラスとして広く流通し、安価である。また石英ガラス(屈折率1.46)、ソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)は、コストが安く、透過性に優れる。これに対し水晶、サファイアは、熱伝導性に優れる。基板10の材料は、偏光板100に求められる性能に応じて適宜選択できる。例えば、プロジェクタの光学エンジン用の偏光板は、強い光が照射されるため、耐光性及び放熱性が要求される。そのため、基板10には、水晶又はサファイアを用いることが好ましい。
【0026】
基板10の第1面10aの形状は、平坦面に限られない。目的に応じて凹凸形状等を設けてもよい。例えば、隣接する凸部20との間に溝を設けてもよい。
【0027】
(凸部)
凸部20は、y方向に延びる。凸部20は、x方向に周期的に配列している。隣接する凸部20のx方向のピッチPは、偏光板100の使用帯域の波長の光より短い。例えばピッチPは、100nm以上200nm以下であることが好ましい。ピッチPがこの範囲内であれば、凸部20の作製が容易になり、凸部20の機械的安定性、及び、光学特性の安定性が高まる。
【0028】
隣接する凸部20のピッチPは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡により平均値として計測できる。例えば、任意の4か所において隣接する凸部20のx方向の距離を測定し、その算術平均によりピッチPが求められる。複数の凸部20のうち任意の4か所の計測値を平均化する測定方法を、電子顕微鏡法と称する。
【0029】
凸部20は、基板10に対して突出する。凸部20が突出する主方向は、z方向である。凸部20のx方向の平均幅は、ピッチPの20%以上50%以下であることが好ましい。ここで凸部20の平均幅とは、凸部20をz方向に10分割した各点における幅の平均値を意味する。凸部20の高さは、250nm以上400nm以下であることが好ましい。また凸部20の高さを平均幅で割ったアスペクト比は、5以上13.3以下であることが好ましい。
【0030】
基板10が水晶等の光学活性な結晶の場合は、結晶の光学軸に対して平行又は垂直な方向と凸部20の延びる方向とを一致させることが好ましい。ここで光学軸とは、その方向に進む光の常光線(O)と異常光線(E)の屈折率の差が最小となる方向軸である。当該方向に凸部20を延在させることで、光学特性を向上させることができる。
【0031】
凸部20は、反射層30と多層膜40と光学特性改善層50とをそれぞれ有する。
図1に示す凸部20は、外表面(基板10から遠い側)から多層膜40、光学特性改善層50、反射層30、の順に積層されている。
【0032】
<多層膜>
多層膜40は、反射層30より基板10から離れた位置にある。
図1に示す多層膜40は、基板10側から誘電体層42と、吸収層44と、第2誘電体層46を有する。誘電体層42、吸収層44及び第2誘電体層46は、反射層30で反射された偏光波(TE波(S波))を干渉により減衰する。
【0033】
「誘電体層」
図1に示す誘電体層42は、光学特性改善層50上に積層されている。誘電体層42は、必ずしも光学特性改善層50と接している必要はなく、誘電体層42と光学特性改善層50の間に別の層が存在してもよい。誘電体層42は、y方向に帯状に延びる。誘電体層42は、多層膜40の一部をなす。
【0034】
誘電体層42の膜厚は、吸収層44で反射する偏光波に応じて決定できる。吸収層44で反射した偏光波の位相と反射層30で反射した偏光波の位相とが、半波長分だけずれるように誘電体層42の膜厚を決定する。誘電体層42の膜厚は、具体的には、1nm以上500nm以下であることが好ましい。当該範囲内であれば、反射した2つの偏光波の位相の関係を調整でき、干渉効果を高めることができる。誘電体層42の膜厚は、上述の電子顕微鏡法を用いることができる。
【0035】
誘電体層42の材料には、金属酸化物、フッ化マグネシウム(MgF
2)、氷晶石、ゲルマニウム、ケイ素、窒化ボロン、炭素又はこれらの組合わせを用いることができる。金属酸化物は、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化ボロン、酸化タンタル等が挙げられる。これらの中でも、誘電体層42は、Si酸化物であることが好ましい。
【0036】
誘電体層42の屈折率は、1.0より大きく2.5以下であることが好ましい。反射層30の光学特性は、周囲の屈折率(例えば、誘電体層42の屈折率)によっても影響を受ける。誘電体層42の屈折率を調整することで、偏光特性を制御できる。
【0037】
「吸収層」
図1に示す吸収層44は、誘電体層42上に積層されている。吸収層44は、y方向に帯状に延びる。吸収層44は、多層膜40の一部をなす。
【0038】
吸収層44の膜厚は、例えば10nm以上100nm以下であることが好ましい。吸収層44の膜厚は、上述の電子顕微鏡法を用いることができる。
【0039】
吸収層44の材料には、光学定数の消衰定数が零でない光吸収作用をもつ物質を1種以上用いることができる。吸収層44には、金属材料又は半導体材料を用いることができる。吸収層44に用いる材料は、使用帯域の光の波長範囲によって適宜選択できる。
【0040】
吸収層44に金属材料が用いられる場合、金属材料は、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の単体金属又はこれらのうち1種以上の元素を含む合金であることが好ましい。また吸収層44に半導体材料が用いられる場合は、半導体材料はSi、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料であることが好ましい。シリサイド材料は、例えば、β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、TaSi等が挙げられる。これらの材料を吸収層44に用いた偏光板100は、可視光域に対して高い消光比を有する。また吸収層44は、Fe又はTaとSiとを含むことが特に好ましい。
【0041】
吸収層44に半導体材料が用いられる場合、光の吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが寄与する。そのため、半導体材料のバンドギャップエネルギーは、使用帯域の波長をエネルギー換算した値以下となる。例えば、使用帯域が可視光域の場合、波長400nm以上における吸収エネルギーにあたる3.1eV以下のバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を用いることが好ましい。
【0042】
吸収層44は、1層に限られず2層以上で構成されていてもよい。吸収層44が2層以上の場合は、それぞれの層の材料は異なるものでもよい。吸収層44は、蒸着、スパッタリング法等の方法により成膜できる。
【0043】
「第2誘電体層」
図1に示す第2誘電体層46は、吸収層44上に積層されている。第2誘電体層46は、y方向に帯状に延びる。第2誘電体層46は、多層膜40の一部をなす。
【0044】
第2誘電体層46は、上述の誘電体層42と同様の材料を用いることができる。第2誘電体層46は、誘電体層42と同一の材料からなっても、異なる材料からなってもよい。第2誘電体層46は、Si酸化物であることが好ましい。第2誘電体層46の屈折率も、上述の誘電体層42と同様の範囲であることが好ましい。第2誘電体層46の厚みは、例えば、10nm以上100nm以下であることが好ましい。第2誘電体層46の厚みは、上述の電子顕微鏡法を用いて測定できる。
【0045】
多層膜40の一例として、SiO
2/FeSi/SiO
2の組み合わせがある。誘電体層42及び第2誘電体層46としてSiO
2、吸収層44としてFeSiが用いられる。
【0046】
<光学特性改善層>
光学特性改善層50は、反射層30と多層膜40の界面に形成されている。光学特性改善層50は、y方向に帯状に延びる。
【0047】
光学特性改善層50は、反射層を構成する構成元素を含む酸化物からなる酸化層である。例えば、反射層30がAlの場合は、光学特性改善層50はAlの酸化物であり、反射層30がCuの場合は、光学特性改善層50はCuの酸化物である。
【0048】
光学特性改善層50の厚みは、0nmより大きければよく、20nm以下であることが好ましい。
【0049】
光学特性改善層50の塩素系ガスに対するエッチングレートは、多層膜40のエッチングレートより早い。塩素系ガスに対する光学特性改善層50のエッチングレートは、多層膜40のエッチングレートの6.7倍以上15倍以下である。すなわち、塩素系ガスに対する光学特性改善層50と多層膜40との間のエッチング選択比は、6.7以上15以下となる。エッチング選択比は、光学特性改善層50のエッチングレートを多層膜40のエッチングレートで割って求められる。
【0050】
塩素系ガスに対する光学特性改善層50と多層膜40との間のエッチング選択比が上記関係を満たすと、偏光板100の光学特性が向上する。光学特性改善層50及び反射層30を加工する際のエッチングにおいて、多層膜40が過度にエッチングされ、凸部20の形状が乱れることが抑制されたためと考えられる。また反射層30を加工する際のエッチングの初期は、エッチング条件が安定しにくい。光学特性改善層50が反射層30と多層膜40との間に位置することにより反射層30が所望の形状となり、偏光板100の光学特性が向上するとも考えられる。
【0051】
これに対し、光学特性改善層50のフッ素系ガスに対するエッチングレートは、多層膜40のエッチングレートより遅いことが好ましい。すなわち、光学特性改善層50は、多層膜40よりフッ素系ガスに対するエッチングレートが低い材料からなることが好ましい。具体的には、光学特性改善層50のエッチングレートを、多層膜40のエッチングレートの0.22倍以上0.39倍以下とすることが好ましい。多層膜40を加工する際のエッチングにおいて、光学特性改善層50が同時にエッチングされにくくなり、凸部20の形状を所望の形状に整えることができる。
【0052】
ここで塩素系ガスとは、構成元素に塩素を含むガスである。例えば、BCl
3とCl
2とN
2との混合ガス、Cl
2とCCl
4とN
2との混合ガス等が挙げられる。またフッ素系ガスとは、構成元素にフッ素を含むガスである。例えば、CF
4、CHF
3、C
4F
8等が挙げられる。
【0053】
<反射層>
反射層30は、基板10に対してz方向に突出し、y方向に帯状に延びる。反射層30は、基板10と多層膜40との間に位置する。基板10と反射層30との間には、別の層が挿入されていてもよい。反射層30は、TE波(S波)を反射し、TM波(P波)を透過する。
【0054】
反射層30には、使用帯域の波長の光に対して反射性を有する材料を用いることができる。例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Ta等の単体金属又はこれらの合金を用いることができる。これらの中でも、Al、Cu又はこれらの合金を用いることが好ましい。また反射層30は、金属に限られず、着色等により表面反射率を高めた無機膜又は樹脂膜を用いることができる。
【0055】
反射層30の高さは、自由に設計できる。例えば、反射層30の高さは100nm以上300nm以下であることが好ましい。反射層30の高さは、電子顕微鏡法で求めることができる。
【0056】
反射層30の幅は、ピッチPの20%以上50%以下であることが好ましい。具体的には、10nm以上100nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0057】
反射層30は、塩素系ガスに対するエッチングレートが、光学特性改善層50のエッチングレートと同等である。
【0058】
反射層30と光学特性改善層50とが上記関係を満たすことで、反射層30と光学特性改善層50とを同時に加工できる。また反射層30と光学特性改善層50とのエッチング条件を一定にすることができ、反射層30に至った時点でのエッチング条件をより安定にすることができる。その結果、反射層30の形状が所望の形状となり、偏光板100の光学特性が向上する。
【0059】
また反射層30は、塩素系ガスに対するエッチングレートが、多層膜40のエッチングレートの6.7倍以上15倍以下であることが好ましい。上記関係を満たすと、反射層30を加工する際のエッチングにおいて、多層膜40が過度にエッチングされることを抑制できる。その結果、凸部20の形状が所望の形状となり、偏光板100の光学特性が向上する。
【0060】
また反射層30は、フッ素系ガスに対するエッチングレートが、多層膜40のエッチングレートの0.22倍以上0.39倍以下であることが好ましい。上記関係を満たすと、多層膜40を加工する際のエッチングにおいて、反射層30が過度にエッチングされることを抑制できる。その結果、凸部20の形状が所望の形状となり、偏光板100の光学特性が向上する。
【0061】
(その他の構成)
偏光板100は、上記の構成以外の層を有してもよい。
例えば、誘電体層42又は第2誘電体層46と吸収層44との間に、拡散バリア層を有してもよい。拡散バリア層は、吸収層44における光の拡散を防止する。拡散バリア層は、Ta、W、Nb、Ti等の金属膜を用いることができる。
【0062】
また偏光板100の光の入射側に保護膜を形成してもよい。例えば、
図1において+z方向から−z方向に向かって光が入射する場合、基板10の第1面10a及び凸部20の周囲を覆うように保護膜を形成する。保護膜は、誘電体層42と同様の材料を用いることができる。保護膜は、反射層30等の金属膜が必要以上に酸化されることを抑制する。保護膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)、ALD(Atomic Layer Deposition)等を利用して形成できる。
【0063】
また偏光板100の光の入射側に撥水膜を形成してもよい。撥水膜は、例えば、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物を用いることができる。撥水膜は、CVD、ALD等を利用して形成できる。撥水膜は、偏光板100の耐湿性を高め、信頼性を向上する。
【0064】
上述のように、本実施形態にかかる偏光板100は、反射率が低く、透過率が高い。そのため様々な光学機器に用いることができる。
【0065】
「光学機器」
第2実施形態にかかる光学機器は、上記の第1実施形態にかかる偏光板100を備える。光学機器は、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。第1実施形態にかかる偏光板100は、透過軸方向の偏光の透過率が高く、吸収軸方向の偏光の反射率が低い。そのため、種々の用途に利用可能である。また偏光板100は無機材料により構成される。有機偏光板に比べて耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等に、偏光板100は特に好適に用いられる。
【0066】
光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板のうち少なくとも一つが第1実施形態にかかる偏光板100であればよい。例えば、光学機器が液晶プロジェクタの場合は、液晶パネルの入射側及び出射側に偏光板は配置される。このうち一方の偏光板に、第1実施形態にかかる偏光板100を用いる。
【0067】
「偏光板の製造方法」
第3実施形態にかかる偏光板の製造方法は、第1積層工程と、第2積層工程と、層形成工程と、パターン形成工程と、第1加工工程と、第2加工工程と、を有する。以下、
図2〜
図8を用いて、第3実施形態にかかる偏光板の製造方法について具体的に説明する。
【0068】
図2は、第3実施形態にかかる偏光板の製造方法を説明するための断面模式図である。まず第1積層工程では、基板10に、反射層130を積層する。反射層130は、例えばAlを用いる。反射層130は、スパッタリング法又は蒸着法を用いて形成できる。反射層130は、加工後に
図1に示す反射層30となる層である。反射層130は、上述の反射層30と同じ材料が用いられる。
【0069】
次いで、層形成工程として反射層130を空気中で加熱する。加熱により反射層130の表面が酸化され、光学特性改善層150が形成される。光学特性改善層150は、反射層130の基板10と反対側の面に形成される。加熱は、100℃以上500℃以下とすることが好ましい。光学特性改善層150の厚みは、加熱時間、加熱温度等で調整できる。
【0070】
次いで、第2積層工程として、光学特性改善層150に多層膜140を積層する。多層膜140は、光学特性改善層150の反射層130と反対側の面に形成される。基板10に、反射層130、光学特性改善層150及び多層膜140からなる積層体190が形成される。多層膜140は、誘電体層142、吸収層144及び第2誘電体層146を順次積層することで得られる。例えばSiO
2(誘電体層142)、FeSi(吸収層144)、SiO
2(第2誘電体層146)を順次積層する。これらの層は、スパッタリング法又は蒸着法を用いて形成できる。
【0071】
多層膜140は、加工後に
図1に示す多層膜40となる層である。多層膜140は、上述の多層膜40と同じ材料が用いられる。
【0072】
図3は、第3実施形態にかかる偏光板の製造方法を説明するための断面模式図である。第2積層工程では、積層体190の基板10と反対側の面に、マスク層160を積層する。
図3に示すマスク層160は、第1マスク層162、第2マスク層164、第3マスク層166の三層構造からなる。
【0073】
第1マスク層162は、多層膜140を加工するための層である。第1マスク層162と多層膜140のエッチングレート差を利用して、多層膜140を加工する。第1マスク層162は、所定のガスに対して多層膜140とエッチングレートが異なる材料により構成される。第1マスク層162は、例えば反射層130と同様の材料を用いることができる。一例として、第1マスク層162にはAlが用いられる。第1マスク層162は、スパッタリング法又は蒸着法を用いて形成できる。
【0074】
第2マスク層164は、反射防止膜である。第2マスク層164は、レジストからなる第3マスク層166を露光する光が、第1マスク層162により反射し、戻り光となるのを防ぐ。戻り光は、第3マスク層166の加工精度を低下させる。第2マスク層164は、有機物の塗布膜を利用できる。例えば、東京応化工業株式会社製のSWK−EX4PEを用いることができる。第2マスク層164は、スピンコート等によって塗布後、加熱して焼成する方法等によって形成できる。
【0075】
第3マスク層166は、レジストである。例えば、東京応化工業株式会社製のTDUR−P3262EMを用いることができる。第3マスク層166は、第1マスク層162及び第2マスク層164を加工するために形成される。第3マスク層166は、スピンコート等の公知の方法で形成できる。
【0076】
図4〜
図6は、第3実施形態にかかる偏光板の製造方法におけるパターン形成工程を説明するための断面模式図である。まず
図4に示すように、第3マスク層166に対してパターンを形成する。第3マスク層166は、フォトリソグラフィー法等を用いてパターン形成する。第3マスク層166は、第3マスクパターン166Aとなる。
【0077】
次いで、
図5に示すように、第3マスクパターン166Aをマスクとして第2マスク層164を加工する。第2マスク層164の加工は、エッチングにより行う。エッチングは、O
2とArの混合ガスを用いたドライエッチング法を用いることが好ましい。
【0078】
第2マスク層164のO
2とArの混合ガスに対するエッチングレートは、第1マスク層162のエッチングレートより10倍以上とすることが好ましい。エッチングレートは、加工する層の材料、ガス種、ガス流量、ガス圧、イオン又はラジカルを発生されるための出力電圧等を変えることで調整できる。
【0079】
第1マスク層162の形状変化を抑制しつつ、第2マスク層164のみにパターン形成できる。第2マスク層164は、第2マスクパターン164Aとなる。
【0080】
次いで、
図6に示すように、第2マスクパターン164A及び第3マスクパターン166Aをマスクとして第1マスク層162を加工する。第1マスク層162の加工は、エッチングにより行う。エッチングは、塩素系ガスを用いたドライエッチング法を用いることが好ましい。塩素系ガスはBCl
3とCl
2とN
2の混合ガスを用いることが好ましく、それぞれの流量比はBCl
3が16〜30sccm、Cl
2が8〜17sccm、N
2が2〜18sccmとすることが好ましい。
【0081】
第1マスク層162の塩素系ガスに対するエッチングレートは、多層膜140のエッチングレートより6.7倍以上15倍以下とすることが好ましい。多層膜140の形状変化を抑制しつつ、第1マスク層162のみにパターン形成できる。第1マスク層162は、第1マスクパターン162Aとなる。
【0082】
上述のように、3段階に分けてマスク層160を加工することで、精度の高いマスクパターン160Aが形成される。
【0083】
図7は、第3実施形態にかかる偏光板の製造方法における第1加工工程を説明するための断面模式図である。第1加工工程は、形成したマスクパターン160Aを介して多層膜140を加工する。
【0084】
第1加工工程は、フッ素系ガスで行うことが好ましい。多層膜140を構成する誘電体層142、吸収層144及び第2誘電体層146はフッ素系ガスに対して同等程度のエッチングレートを示す。フッ素系ガスを用いることで、多層膜140を一度に加工できる。
【0085】
フッ素系ガスに対する光学特性改善層150及び反射層130のエッチングレートは、多層膜140のエッチングレートの0.22倍以上0.39倍以下とすることが好ましい。光学特性改善層150及び反射層130をほとんど加工せずに、多層膜140を加工できる。多層膜140は、加工により誘電体層42、吸収層44及び第2誘電体層46からなる多層膜40となる。
【0086】
マスクパターン160Aは、フッ素系ガスによるエッチングにより除去される。
図7に示すように、第1マスクパターン162Aが一部残る場合もある。第1マスクパターン162Aは次工程で除去される。
【0087】
最後に、第2加工工程を行う。第2加工工程は、多層膜40をマスクとして光学特性改善層150及び反射層130を加工する。反射層130はエッチングにより反射層30となり、
図1に示す偏光板100が得られる。
【0088】
エッチングの初期は、エッチング条件が安定しない場合がある。光学特性改善層150を設けることで、反射層130を加工する際のエッチング条件を安定化させることができる。入射した光は反射層130で反射するため、反射層130を所望の形状にすることで、偏光板100の光学特性が向上する。
【0089】
第2加工工程は、塩素系ガスを用いて行う。塩素系ガスに対する光学特性改善層150のエッチングレートは、多層膜40のエッチングレートの6.7倍以上15倍以下とすることが好ましい。また塩素系ガスに対する反射層130のエッチングレートは、多層膜40のエッチングレートの6.7倍以上15倍以下とすることが好ましい。光学特性改善層150及び反射層130の加工時に多層膜40及び光学特性改善層50が過剰にエッチングされることが避けられる。
【0090】
上述のように、本実施形態にかかる偏光板の製造方法によれば、所定の層をエッチングにより加工する際に、他の層への影響を低減できる。その結果、所望の形状の凸部20を作製することができ、光学特性に優れた偏光板100を得ることができる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0092】
「実施例1」
基板10として無アルカリガラス(イーグルXG、コーニング社製)を準備した。その上に、スパッタリング法を用いて厚み250nmのAl(反射層130)を積層した。次いで、反射層130を300℃で加熱し、光学特性改善層150を作製した(
図2参照)。光学特性改善層の厚みは、5nmであった。
【0093】
次いで、反射層の上に、SiO
2(誘電体層142)、FeSi(吸収層144)、SiO
2(第2誘電体層146)を順に積層した。これらの層の積層は、スパッタリング法を用いて行った。誘電体層142の厚みは5nm、吸収層144の厚みは35nm、第2誘電体層146の厚みは60nmとした。このようにして、基板10上に、反射層130と光学特性改善層150と多層膜140とからなる積層体190を作製した(
図2参照)。
【0094】
積層体190にマスク層160として、Al(第1マスク層162)、反射防止膜(第2マスク層164)、レジスト(第3マスク層166)を順次積層した(
図3参照)。反射防止膜は、BARCとした。第1マスク層162の厚みは60nm、第2マスク層164の厚みは30nm、第3マスク層166の厚みは130nmとした。
【0095】
フォトリソグラフィーを利用して、第3マスク層166であるレジストにパターンを形成した(
図5参照)。パターンは、ラインアンドスペースとした。隣接するライン間のピッチは140nmとし、ラインとラインとの最短距離は110nmとした。
【0096】
パターン形成されたレジストをマスクとして、第2マスク層164にパターンを形成した(
図6参照)。第2マスク層164のエッチングは、ドライエッチング装置(アルバック社製(NE−5700))を用いて、APC press:0.5Pa、Bias RF Power:50Wの条件で行った。APC pressは、エッチング中の圧力であり、Bias RF Powerはバイアス側の印加電圧である。エッチングガスは、ArとO
2の混合ガスとし、ArとO
2との比率を5:1とした。この条件における第2マスク層164のエッチングレートは1nm/secであり、第1マスク層162のエッチングレートは0.1nm/secであった。すなわち、第2マスク層164のエッチングレートは、第1マスク層162のエッチングレートの10倍であった。
【0097】
第3マスクパターン166Aおよび第2マスクパターン164Aをマスクとして、第1マスク層162にパターンを形成した(
図6参照)。第1マスク層162のエッチングは、ドライエッチング装置(アルバック社製(NE−5700))を用いて、APC press:0.5PaBias RF Power:50Wの条件で行った。エッチングガスは、N
2とBCl
3とCl
2との混合ガスとし、N
2とBCl
3とCl
2と比率を2:16.5:30とした。この条件における第1マスク層162のエッチングレートは2〜3nm/secであり、第2誘電体層146のエッチングレートは0.2〜0.3nm/secであった。すなわち、第1マスク層162のエッチングレートは、第2誘電体層146のエッチングレートの6.7倍から15倍の範囲内であった。
【0098】
作製したマスクパターン160Aをマスクとして、多層膜140を加工した(
図7参照)。多層膜140のエッチングは、ドライエッチング装置(アルバック社製(NE−5700))を用いて、APC press:0.5PaBias RF Power:60Wの条件で行った。エッチングガスは、ArとCF
4との混合ガスとし、ArとCF
4との比率を1:4とした。この条件における多層膜140のエッチングレートは1.8〜2.3nm/secであり、光学特性改善層150及び反射層130のエッチングレートは0.5〜0.7nm/secであった。すなわち、光学特性改善層150及び反射層130のエッチングレートは、多層膜140のエッチングレートの0.22倍から0.39倍の範囲内であった。
【0099】
最後に、反射層130及び光学特性改善層150を加工した(
図1参照)。反射層130及び光学特性改善層150のエッチングは、ドライエッチング装置(アルバック社製(NE−5700))を用いて、APC press:0.5Pa、Bias RF Power:50Wの条件で行った。エッチングガスは、N
2とBCl
3とCl
2との混合ガスとし、N
2とBCl
3とCl
2と比率を9:4:8とした。この条件における反射層130及び光学特性改善層150のエッチングレートは2〜3nm/secであり、多層膜140のエッチングレートは0.2〜0.3nm/secであった。すなわち、反射層130及び光学特性改善層150のエッチングレートは、多層膜140及び光学特性改善層150のエッチングレートの6.7倍から15倍の範囲内であった。
【0100】
以下の表1に、実施例1の製造条件をまとめた。
【0101】
【表1】
【0102】
作製した実施例1の偏光板の構成を以下にまとめる。
【0103】
基板:無アルカリガラス(イーグルXG(コーニング社製))、表面に高さ20nmの凸部を設け、凸部は反射層の下方に存在する。
凸部:ピッチ140nm、隣接する凸部間の間隔105nm
反射層:Al、幅35nm、厚み250nm
光学特性改善層:Al
2O
3、幅35nm、厚み5nm
誘電体層:SiO
2、幅35nm、厚み5nm
吸収層:Fe(5atm%)Si(95atm%)、幅35nm、厚み35nm
第2誘電体層:SiO
2、幅35nm、厚み30nm
【0104】
「実施例2〜4及び比較例1」
実施例2〜4及び比較例1は、光学特性改善層を形成する際の条件を変えて、光学特性改善層の厚みを変えた点が実施例1と異なる。光学特性改善層の厚みは、実施例2が10nm、実施例3が20nm、実施例3が30nm、比較例1は0nmであった。
【0105】
図8は、実施例1〜4及び比較例1の偏光板の透過軸透過率及び吸収軸透過率を測定した結果である。
図8(a)は透過軸透過率の結果であり、
図8(b)は吸収軸透過率の結果である。実施例1〜4はいずれも比較例1より透過軸透過率が向上した。特に光学特性改善層の厚みが0nmより大きく20nm以下の範囲で、吸収軸反射率が低下した。