【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度〜平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究 ERATO齊藤スピン量子整流プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】磁性体11と、磁性体11に電流を印加可能に設けられた電流印加手段12とを有している。電流印加手段12で磁性体11に電流を印加したとき、磁性体11の内部で、磁化の向きと電流の向きとの相対角度が異なる領域が複数存在するよう構成されている。
前記電流を印加したとき、前記磁性体の隣り合う領域の間で、前記磁化の向きおよび前記電流の向きのうちの少なくともいずれか一方が異なるよう構成されていることを特徴とする請求項1記載の熱電変換装置。
前記磁性体の一部または全体が磁化されるよう、前記磁性体に磁場を印加可能に設けられた磁場印加手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の熱電変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や2に記載のような従来の熱電変換装置では、ゼーベック効果やペルチェ効果を発生させるために、異なる種類の物質を接合させる必要があった。このため、応用範囲に限界が生じてしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、接合界面の無い単一の物質を用いて電子冷却や電子加熱を行うことができ、応用範囲を拡げることができる熱電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る熱電変換装置は、磁性体と、前記磁性体に電流を印加可能に設けられた電流印加手段とを有し、前記電流印加手段で前記磁性体に電流を印加したとき、前記磁性体の内部で、磁化の向きと前記電流の向きとの相対角度が異なる領域が複数存在するよう構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る熱電変換装置は、磁性体の内部で、磁化の向きと電流の向きとの相対角度が異なる領域が複数存在するよう、電流印加手段で電流を印加することにより、各領域の境界で熱の吸収や放出を発生させることができる。通常のペルチェ効果(Peltier effect)では、ペルチェ係数が異なる導電体を接合して電流を流したとき、その接合部で熱の吸収や放出が発生するのに対し、本発明に係る熱電変換装置では、磁性体が単一の物質から成っていても、各領域の境界で熱の吸収や放出を発生させることができる。
【0008】
なお、ここで、磁化の向きと電流の向きとの相対角度が異なる複数の領域を作り出すためには、非一様な磁化構造を有する磁性体に電流を流しても良く、磁化が一方向に揃っていて少なくとも一か所の曲がり・折れ形状を有する磁性体に電流を流しても良い。または、磁性体に局所的に磁場を印加して、一部のみが磁化している磁性体に電流を流しても良い。すなわち、「相対角度が異なる」場合には、2つの領域のうち、一方の領域は磁化が存在して相対角度を有し、他方の領域は磁化が存在せず相対角度が無い場合も含むものとする。
【0009】
本発明に係る熱電変換装置で、磁性体は、強磁性体やフェリ磁性体から成ることが好ましく、特に強磁性金属から成ることが好ましい。なお、以下では、本発明に係る熱電変換装置による、単一の物質から成る磁性体で熱の吸収や放出を発生させる効果を、通常のペルチェ効果に対比させて、異方性磁気ペルチェ効果(Anisotropic magneto-Peltier effect)と呼ぶ。これは、ペルチェ係数が磁化と電流との相対角度に依存する現象である。なお、原理的には、磁気秩序の方向と電流の向きとの相対角度が異なる複数の領域を作り出すことができれば、強磁性体やフェリ磁性体のみならず、正味の磁化を持たない反強磁性体を用いても、本発明に係る熱電変換装置を構成することができる。
【0010】
本発明に係る熱電変換装置は、前記電流を印加したとき、前記磁性体の隣り合う領域の間で、前記磁化の向きおよび前記電流の向きのうちの少なくともいずれか一方が異なるよう構成されていることが好ましい。この場合、異方性磁気ペルチェ効果を効果的に発生させることができる。
【0011】
本発明に係る熱電変換装置で、前記磁性体は、磁化方向が隣り合う領域の間で異なる状態を作り出すために、結晶磁気異方性や形状磁気異方性を有する材料から成っていてもよい。この場合、磁性体に対し一定方向に電流を流すだけで、異方性磁気ペルチェ効果を容易に発生させることができる。
【0012】
また、本発明に係る熱電変換装置は、磁性体が結晶磁気異方性や形状磁気異方性を有していない材料の場合であっても、前記磁性体の一部または全体が磁化されるよう、前記磁性体に磁場を印加可能に設けられた磁場印加手段を有していることが好ましい。この場合、前記磁性体は、前記電流の向きが変化するよう、前記電流が流れる電流路に沿って曲がった形状を成し、前記磁場印加手段は、前記磁性体の全体が一定の方向に磁化されるよう前記磁場を印加可能に設けられていてもよい。また、前記磁場印加手段は、前記磁性体の一部が磁化されるよう前記磁場を印加可能に設けられていてもよい。これらの場合でも、異方性磁気ペルチェ効果を効果的に発生させることができる。
【0013】
このように、本発明に係る熱電変換装置は、接合界面の無い単一の物質を用いて電子冷却や電子加熱を行うことができる。このため、異なる種類の物質を接合させる場合と比べて、応用範囲を拡げることができる。そのような応用範囲としては、例えば、集積回路の配線を、本発明に係る熱電変換装置の磁性体で構成して電流を流すことにより、局所的に素子を加熱・冷却させることができる。このとき、冷却・加熱箇所の磁化の向きを、磁場印加手段で制御することにより、冷却・加熱を容易に制御することができる。また、熱電変換装置を構成する磁性体内に物理的な接合面がないため、長寿命化も期待できる。
【0014】
本発明に係る熱電変換装置で、前記磁性体は、ニッケルまたは、ニッケルを40wt%以上含むNi−Fe合金などの合金から成ることが好ましい。この場合、特に異方性磁気ペルチェ効果を効果的に発生させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接合界面の無い単一の物質を用いて電子冷却や電子加熱を行うことができ、応用範囲を拡げることができる熱電変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)本発明の実施の形態の熱電変換装置の、磁性体が非一様な磁化構造を有する材料から成る構成を示す平面図、(b)本発明の実施の形態の熱電変換装置の、磁性体がU字型であり、磁場印加手段を有する構成を示す平面図、(c)本発明の実施の形態の熱電変換装置の、磁場印加手段が磁性体の一部に磁場を印加する構成を示す平面図、(d)比較例のペルチェ効果を説明する平面図である。
【
図2】
図1(b)に示す熱電変換装置の、(a)異方性磁気ペルチェ効果を調べる実験の構成を示す平面図、(b)印加電流J
cを 1.00 A、印加磁場Hを 12.0 kOe、(c)印加電流J
cを 1.00 A、印加磁場Hを 0.0 kOe、(d)印加電流J
cを 1.00 A、印加磁場Hを -12.0 kOe としたときの、印加電流に応答して発生した磁性体の温度変化の振幅Aの像および、印加電流に対する温度変化の位相φの像である。
【
図3】(a)
図2(b)と
図2(d)とを加えて2で割った振幅A
even像、(b)
図2(b)と
図2(d)とを加えて2で割った位相φ
even像、(c)
図2(b)と
図2(d)との差をとって2で割った振幅A
odd像、(d)
図2(b)と
図2(d)との差をとって2で割った位相φ
odd像である。
【
図4】
図1(b)に示す熱電変換装置の、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 0.7 〜12.0 kOeの範囲で変化させたときの、(a)各印加磁場Hの大きさでの振幅A
even像、(b)各印加磁場Hの大きさでの位相φ
even像、(c) (a)中のLおよびRの位置での振幅A
evenと、印加磁場Hの大きさとの関係を示すグラフ、(d) (b)中のLおよびRの位置での位相φ
evenと、印加磁場Hの大きさとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図1(b)に示す熱電変換装置の、印加電流J
cの大きさを 0.16 〜1.00 Aの範囲で変化させ、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとしたときの、(a)各印加電流J
cの大きさでの振幅A
even像、(b)各印加電流J
cの大きさでの位相φ
even像、(c) (a)中のLおよびRの位置での振幅A
evenと、印加電流J
cの大きさとの関係を示すグラフ、(d) (b)中のLおよびRの位置での位相φ
evenと、印加電流J
cの大きさとの関係を示すグラフである。
【
図6】
図1(b)に示す熱電変換装置の、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとしたときの、(a)振幅A
even像、(b)位相φ
even像、(c)印加磁場Hの方向を90度回転させたときの振幅A
even像、(d)そのときの位相φ
even像である。
【
図7】
図1(b)に示す熱電変換装置の、複数種類の磁性体を用い、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとしたときの、磁性体の種類ごとの(a)振幅A
even像、(b)位相φ
even像である。
【
図8】
図7(a)および(b)に示すNi、Fe、PB-45パーマロイ(Ni
45Fe
55)の結果から求めた、磁性体の中央部と各端部との境界位置での(a)振幅A
evenおよび(b)位相φ
evenと、Niの配合量(x)との関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態の熱電変換装置の、直線状の磁性体を用いた、(a)異方性磁気ペルチェ効果を調べる実験の構成を示す斜視図、(b)その実験結果を示す振幅A
even像および(c)位相φ
even像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図9は、本発明の実施の形態の熱電変換装置を示している。
図1(a)に示すように、熱電変換装置10は、磁性体11と電流印加手段12とを有している。
【0018】
磁性体11は、強磁性金属から成っている。磁性体11は、結晶磁気異方性や形状磁気異方性、非一様磁場などにより、隣り合う領域の間で異なる向きの磁化を有する材料から成っている。電流印加手段12は、磁性体11に電流を印加可能に設けられている。
【0019】
図1(a)に示す具体的な一例では、磁性体11は、細長く、磁化Mの向き(
図1(a)中の矢印)が異なる複数の領域が、長さ方向に沿って順に並んで配置されている。電流印加手段12は、磁性体11の長さ方向に沿って、電流J
cを流すよう構成されている。熱電変換装置10は、電流印加手段12で磁性体11に一定の方向の電流J
cを流すことにより、隣り合う領域の間で、磁化Mの向きと電流J
cの向きとの相対角度が異なるようになっている。
【0020】
次に、作用について説明する。
熱電変換装置10は、電流印加手段12で電流を流したとき、磁性体11の内部で、磁化の向きと電流の向きとの相対角度が異なる領域が複数存在しているため、各領域の境界で熱の吸収や放出を発生させることができる。通常のペルチェ効果では、
図1(d)に示すように、ペルチェ係数が異なる導電体A,Bを接合して電流を流したとき、その接合部で熱の吸収や放出が発生するのに対し、熱電変換装置10では、
図1(a)に示すように、異方性磁気ペルチェ効果により、磁性体11が単一の物質から成っていても、各領域の境界で熱の吸収や放出を発生させることができる。
【0021】
このように、熱電変換装置10は、接合界面の無い単一の物質を用いて電子冷却や電子加熱を行うことができる。このため、異なる種類の物質を接合させる場合と比べて、応用範囲を拡げることができる。例えば、従来素子の場合は、材料や構造で熱電特性が決まってしまうが、異方性磁気ペルチェ効果に基づく素子の場合は、材料の曲げ方や磁化配置を変えることで熱電特性や電子冷却・加熱を行う箇所を変更することができるため、汎用性が高い。適用方法としては、電子デバイスの配線材料を、異方性磁気ペルチェ効果を示す材料にすることなどが考えられ、材料の曲げ方や磁化配置に応じて局所的にデバイスを加熱・冷却することができる。
【0022】
なお、
図1(b)に示すように、熱電変換装置10は、磁性体11の全体に磁場を印加可能な磁場印加手段13を有し、磁性体11が磁気異方性を有する材料ではなく、電流J
cの向きが変化するよう、電流J
cが流れる電流路に沿って曲がった形状(
図1(b)ではU字型)を成していてもよい。この場合、磁場印加手段13で磁性体11に一定の方向の磁場を印加することにより、電流路の向きが異なる領域の間で、磁化Mの向きと電流J
cの向きとの相対角度が異なるようになっている。これにより、電流路の向きが変化する位置で、異方性磁気ペルチェ効果により熱の吸収や放出を発生させることができる。
【0023】
また、
図1(c)に示すように、熱電変換装置10は、磁性体11が磁気異方性を有する材料ではなく、磁場印加手段13が磁性体11の一部に磁場を印加可能に設けられていてもよい。この場合、電流印加手段12で磁性体11に一定の方向の電流J
cを流すことにより、磁性体11のうち、磁場の印加により磁化した領域では、磁化Mの向きと電流J
cの向きとの相対角度が得られるのに対し、その他の領域では、磁化が存在しないため、磁化の向きと電流J
cの向きとの相対角度が得られず、各領域間で相対角度が異なるようになっている。これにより、各領域の境界で、異方性磁気ペルチェ効果により熱の吸収や放出を発生させることができる。
【実施例1】
【0024】
図1(b)に示す熱電変換装置10を用いて、異方性磁気ペルチェ効果を調べる実験を行った。実験では、ニッケル(Ni)製の磁性体11を用いた。
図1(b)および
図2(a)に示すように、磁性体11は、中央部11aに対して、両方の端部11bが同じ方向に垂直に伸びたU字型の形状を成している。実験では、磁性体11のU字の形状に沿って電流が流れるよう、磁性体11の両端に電流印加手段12を接続した。
【0025】
実験は、ロックインサーモグラフィ(Lock-in thermography)により行った。すなわち、実験中は、電流印加手段12により、1〜25Hzで電流J
cを流す方向を切り換え、その切換時間間隔よりも早い100Hzのフレームレートで磁性体11の温度を赤外線カメラで撮影し、電流変化に応答して発生した温度変化を観測した。また、実験中は、磁場印加手段13により、磁性体11の中央部11aの長さ方向に沿って、磁場Hを印加した。なお、磁場の印加方向は変更可能になっている。
【0026】
赤外線カメラで得られた複数の画像から、フーリエ変換により、振幅画像および位相画像を求めた。振幅画像が、電流変化に応答して発生した温度変化の大きさの絶対値(以下、振幅A)を示し、位相画像が電流の切り換えに対する、温度変化の遅れ(以下、位相φ)を示している。印加電流と温度変化とが同位相で変化している場合は、発熱信号を表し、逆位相で変化している場合は、吸熱信号を表す。なお、熱電効果を高感度に観測できるため、本実験ではロックインサーモグラフィ法を用いたが、異方性磁気ペルチェ効果によって発生した温度変化の観測手段は、通常のサーモグラフィ法でも良いし、磁性体に直接、熱電対や測温抵抗体などの温度センサーを取り付ける方法であっても良い。
【0027】
印加電流J
cを 1.00 A、印加磁場Hをそれぞれ、12.0 kOe、0.0 kOe、-12.0 kOe としたときの、磁性体11の振幅Aの像および位相φの像を、
図2(b)乃至(d)に示す。なお、印加磁場のプラスとマイナスは、印加方向が逆であることを表し、印加磁場の方向は、それぞれ図中に示している(以下同じ)。
図2(b)乃至(d)に示すように、磁場を印加したとき(
図2(b)および(d)のとき)に、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置で発熱・吸熱していることが確認された。
【0028】
印加磁場の方向が逆の
図2(b)の振幅像および位相像と
図2(d)の振幅像および位相像とを加えて2で割って得られた振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図3(a)および
図3(b)に示す。また、
図2(b)の振幅像および位相像と
図2(d)の振幅像および位相像との差をとって2で割って得られた振幅A
odd像および位相φ
odd像を、それぞれ
図3(c)および
図3(d)に示す。A
evenおよびφ
evenは、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化の振幅および位相のずれを示し、A
oddおよびφ
oddは、異常エッチングスハウゼン効果(Anomalous Ettingshausen effect)による温度変化の振幅および位相のずれを示している。なお、異常エッチングスハウゼン効果とは、導電性を有する強磁性体11に、磁化と直交する方向に電流を印加すると、磁化と電流の両方に直交する方向に熱流が誘起される現象であり、異常ネルンスト効果の逆の効果を示すものである。
【0029】
図3(a)および(b)に示すように、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置で、振幅A
even像および、位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化が生じていることが確認できる。ここで、電流が磁性体11の端部11bから中央部11aに向かって流れる境界位置と、磁性体11の中央部11aから端部11bに向かって流れる境界位置とでは、位相が180°異なっており、前者は異方性磁気ペルチェ効果による吸熱信号、後者は発熱信号に対応している。また、
図3(c)および(d)に示すように、磁性体11の各端部11bに、振幅A
even像および位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異常エッチングスハウゼン効果による温度変化が生じていることが確認できる。
【0030】
以下の実施例では、異方性磁気ペルチェ効果について調べるため、印加磁場Hを反転させて実験を行い、A
evenおよびφ
evenを求めている。
【実施例2】
【0031】
異方性磁気ペルチェ効果の磁場依存性を調べるために、印加磁場Hの大きさを変えて実験を行った。実験は、印加電流J
cおよび印加磁場Hの大きさ以外は、実施例1と同じ条件で行った。実験では、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 0.7 〜12.0 kOeの範囲で変化させた。
【0032】
実験結果のうち、印加磁場Hの大きさを変えたときの振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図4(a)および(b)に示す。また、
図4(a)中のLおよびRの位置での振幅A
evenと、印加磁場Hの大きさとの関係を、それぞれ
図4(c)に示す。また、
図4(b)中のLおよびRの位置での位相φ
evenと、印加磁場Hの大きさとの関係を、それぞれ
図4(d)に示す。
【0033】
図4(a)乃至(d)に示すように、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置で、振幅A
even像および位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化が生じていることが確認された。
図4(a)および(c)に示すように、異方性磁気ペルチェ効果による振幅A
evenは、印加磁場Hの大きさが約5 kOe までは、印加磁場Hの増加に伴って増加するが、約5 kOe より大きくなると飽和することが確認された。これは、磁性体11の磁化過程を反映したものであり、異方性磁気ペルチェ効果の信号が磁性体11の磁化の大きさに比例していることを示している。
【実施例3】
【0034】
異方性磁気ペルチェ効果の電流依存性を調べるために、印加電流J
cの大きさを変えて実験を行った。実験は、印加電流J
cおよび印加磁場Hの大きさ以外は、実施例1と同じ条件で行った。実験では、印加電流J
cの大きさを 0.16 〜1.00 Aの範囲で変化させ、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとした。
【0035】
実験結果のうち、印加電流J
cの大きさを変えたときの振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図5(a)および(b)に示す。また、
図5(a)中のLおよびRの位置での振幅A
evenと、印加電流J
cの大きさとの関係を、それぞれ
図5(c)に示す。また、
図5(b)中のLおよびRの位置での位相φ
evenと、印加電流J
cの大きさとの関係を、それぞれ
図5(d)に示す。
【0036】
図5(a)乃至(d)に示すように、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置で、振幅A
even像および位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化が生じていることが確認された。
図5(a)および(c)に示すように、異方性磁気ペルチェ効果による振幅A
evenは、印加電流J
cに比例し、印加電流J
cが大きくなるに従って増加することが確認された。
【実施例4】
【0037】
異方性磁気ペルチェ効果の印加磁場の方向依存性を調べるために、印加磁場Hの方向を変えて実験を行った。実験は、印加電流J
cの大きさ、ならびに、印加磁場Hの大きさおよび向き以外は、実施例1と同じ条件で行った。実験では、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとした。また、印加磁場Hの方向を、磁性体11の中央部11aの長さ方向に沿った方向、および、そこから90度回転させた方向、すなわち磁性体11の両端部11bの伸長方向に沿った方向の2種類とした。
【0038】
実験結果のうち、磁性体11の中央部11aの長さ方向に沿った方向に磁場Hを印加したときの振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図6(a)および(b)に示す。また、磁性体11の両端部11bの伸長方向に沿った方向に磁場Hを印加したときの振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図6(c)および(d)に示す。
【0039】
図6(a)乃至(d)に示すように、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置で、振幅A
even像および位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化が生じていることが確認された。
図6(a)および(c)に示すように、印加磁場Hの方向を90度回転させても、異方性磁気ペルチェ効果による振幅A
evenはほとんど変化しないが、
図6(b)および(d)に示すように、印加磁場Hの方向を90度回転させることにより、異方性磁気ペルチェ効果による位相φ
evenが180°変化することが確認された。これは、印加磁場Hの方向を90度回転させると、磁性体11の中央部11aにおける電流と磁化の相対角度と、両端部11bにおける電流と磁化の相対角度とが入れ替わり、温度変化の符号が反転するためである。
【実施例5】
【0040】
異方性磁気ペルチェ効果の磁性体11の材質依存性を調べるために、複数種類の磁性体11に対して実験を行った。実験は、印加電流J
cおよび印加磁場Hの大きさ以外は、実施例1と同じ条件で行った。実験では、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとし、印加磁場Hの大きさを 12.0 kOeとした。また、磁性体11の材質として、Ni、Fe、Co、PC-78パーマロイ(PC-78 permalloy)、PB-45パーマロイ(PB-45 permalloy)、42アロイ(42-alloy)、スーパーインバー(Super invar)の7種類とした。
【0041】
実験結果のうち、磁性体11の種類ごとの振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図7(a)および(b)に示す。
図7に示すように、異方性磁気ペルチェ効果は、Niでは顕著に認められるのに対し、FeやCoではほとんど認められないことが確認された。また、Fe−Ni合金では、Niほどではないが、PB-45パーマロイの方がPC-78パーマロイよりも、異方性磁気ペルチェ効果が大きいことが確認された。また、42アロイとスーパーインバーでは、不規則な振幅や位相のパターンとなっており、異方性磁気ペルチェ効果は明瞭には認められなかった。
【0042】
図7に示すNi、Fe、PB-45パーマロイの結果から、磁性体11の中央部11aと各端部11bとの境界位置での振幅A
evenおよび位相φ
evenと、Niの配合量(x)との関係を求め、それぞれ
図8(a)および(b)に示す。
図8に示すように、Fe−Ni合金では、Niの配合量が大きくなるほど、振幅A
evenが大きくなり、異方性磁気ペルチェ効果が効果的に現れることが確認された。また、Niの配合量が40%以上のときに、異方性磁気ペルチェ効果が認められることが確認された。
【実施例6】
【0043】
図1(c)に示すように、磁性体11に局所的に磁場を印加できれば、磁性体11の形状は必ずしも曲げ・折れ構造を有している必要はない。そこで、
図9(a)に示すように、直線状のNi製の磁性体11を用いて、異方性磁気ペルチェ効果を調べる実験を行った。実験では、磁性体11の一端から他端に向かって電流が流れるよう、磁性体11の両端に電流印加手段12を接続した。また、磁性体11の中央部11aのみに磁場を印加するよう、永久磁石から成る磁場印加手段13を磁性体11の中央部11aに接触させて配置した。実験は、印加電流J
cおよび印加磁場H以外は、実施例1と同じ条件で行った。実験では、印加電流J
cの大きさを 1.00 Aとした。なお、磁場印加手段13である永久磁石の表面での磁場強度Hは、約 5 kOeである。
【0044】
実験結果のうち、振幅A
even像および位相φ
even像を、それぞれ
図9(b)および(c)に示す。
図9(b)および(c)に示すように、磁場印加手段13である永久磁石の境界位置で、振幅A
even像および位相φ
even像に温度変化信号が認められ、異方性磁気ペルチェ効果による温度変化が生じていることが確認された。