【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、様々な生理作用を有するイソマルトデキストリンを飲料に配合することについて鋭意検討を行ったところ、ある程度の量のイソマルトデキストリンを水に溶解させて飲用した場合に、イソマルトデキストリン特有の雑味が顕在化し、毎日飲料する飲料に求められる爽快感が損なわれてしまうという課題に直面した。
【0007】
本発明は、イソマルトデキストリンを飲料に配合した際の不快な雑味を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、飲料におけるイソマルトデキストリン特有の雑味を、ナトリウムによって効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の態様を包含する。
(1) 300〜10000mg/100gのイソマルトデキストリンと0.5〜50.0mg/100gのナトリウムとを含有する飲料。
(2) 透明飲料である、(1)に記載の飲料。
(3) イソマルトデキストリン以外の可溶性固形分が3.0以下である、(1)又は(2)に記載の飲料。
(4) 飲料のpHが5.0〜7.0である、(1)〜(3)のいずれかに記載の飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、イソマルトデキストリンに特有の雑味が効果的に抑制され、爽快感を有するイソマルトデキストリン含有飲料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、一つの態様において、イソマルトデキストリンを300〜10000mg/100g、ナトリウムを0.5〜50.0mg/100g含有する飲料である。
イソマルトデキストリン
デキストリンは、グルコースを構成単位として、α−1,4グルコシド結合の直鎖構造を形成する成分と、α−1,6グルコシド結合を含む分岐構造を形成する成分からなっている。α−1,6グルコシド結合を含む分岐構造はアミラーゼなどの消化酵素により消化(分解)を受けにくい構造であることが報告されており(J. Agric. Food Chem. 2007, 55, 4540-4547)、分岐構造の割合が高いことがイソマルトデキストリンの生理作用(例えば、腸内フローラ改善作用、免疫調節作用、血糖上昇抑制作用、脂質代謝改善作用、満腹感持続作用)を期待する飲料として重要である。
【0012】
本発明でいう「イソマルトデキストリン」とは、通常の澱粉を公知の方法で加水分解して得られる、いわゆる通常のデキストリンと比べて、α−1,6グルコシド結合の分岐構造の割合が高いデキストリンで、βグルコシド結合のグルコースを含まないデキストリンを指す。具体的には、α−1,4グルコシド結合によって連結した直鎖構造を形成する成分の少なくとも非還元末端に、グルコース又はイソマルトオリゴ糖がα−1,6グルコシド結合した構造を有し、そのα−1,6グルコシド結合で結合したグルコース「→6)−Glcp−(1→」の割合が40%以上、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは49%以上であるデキストリンをいう。ここでグルコースの割合は質量%を意味する。
【0013】
本発明のイソマルトデキストリンとしては、α−1,4グルコシド結合で結合したグルコース「→4)−Glcp−(1→」とα−1,6グルコシド結合で結合したグルコース「→6)−Glcp−(1→」の合計に占める、α−1,6グルコシド結合で結合したグルコースの割合が37%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。さらに、α−1,4グルコシド結合で結合したグルコース「→4)−Glcp−(1→」とα−1,6グルコシド結合で結合したグルコース「→6)−Glcp−(1→」の合計が、全てのグルコースに占める割合は、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
【0014】
α−1,6グルコシド結合を一定割合で有するものであれば、α−1,2グルコシド結合及び/又はα−1,3グルコシド結合を有していてもよいが、香味の観点から、好ましくはα−1,2グルコシド結合を有しないデキストリンが好適に用いられる。
【0015】
本発明の飲料における課題は、このα−1,6グルコシド結合が極めて多い構造を有するデキストリン及び/又は分岐構造が極めて多いデキストリンを用いた場合に特異的に発現するものである。効果が顕著に発現する分岐構造の割合が高いデキストリンという観点からは、分子内部の分岐構造を有するグルコース、すなわちα−1,3,6グルコシド結合「→3,6)−Glcp−(1→」及びα−1,4,6グルコシド結合を有するグルコース「→4,6)−Glcp−(1→」の合計がを6%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、12%以上であることがさらに好ましい。これらの結合の割合は、Hakomoriのメチル化法を改変したCiucanuらの方法(Carbohydrate Research, 1984, 131, 209-217)により、確認できる。
【0016】
なお、環状の構造を有するデキストリンは、香気成分を捕捉して香り立ちが悪くなる。後述する特定量のナトリウムを配合しても香り立ちを十分に改善できないことから、本発明のイソマルトデキストリンには、環状の構造を有するデキストリンは含まれないものとする。また、水溶性食物繊維として広く知られている難消化性デキストリンはβ結合のグルコースを含んでなる点で、α結合のグルコースのみで構成される本発明の分岐デキストリンには含まれない。
【0017】
効果の顕著さから、本発明のイソマルトデキストリンのDEは10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。ここで、DEとは、デキストロース当量を意味し、デキストロース(ブドウ糖)の還元力を100とした場合の相対的な尺度を表す値である。また、イソマルトデキストリンの分子量(重量平均分子量)は、500〜10000が好ましく、3000〜7000程度であることがより好ましい。
【0018】
本発明のイソマルトデキストリンは、酵素の転移反応によりα−1,6グルコシド結合を合成して製造される。製造方法は特に限定されず、特許第4071909号公報に記載の方法等で製造することができる。また、『ファイバリクサ』(商標、株式会社林原)などの市販品を用いることもできる。
【0019】
本発明の飲料は、100gあたり300〜10000mgのイソマルトデキストリンを含有する。300mg/100g以上のイソマルトデキストリンを飲料に配合すると、イソマルトデキストリンに起因する雑味が顕在化するところ、本発明によれば、イソマルトデキストリンの雑味を効果的に抑制することができる。また、本発明に係る飲料のイソマルトデキストリン濃度は10000mg/100g以下であるが、イソマルトデキストリン濃度が高くなり過ぎると、雑味が強すぎて、本発明の解決手段をもってしても十分に解決されないことがある。好ましい態様において、本発明の飲料は、好ましくは400〜6000mg/100gのイソマルトデキストリンを含有し、より好ましくは500〜5000mg/100g、さらに好ましくは600〜4000mg/100g、特に好ましくは800〜3000mg/100gのイソマルトデキストリンを含有する。
【0020】
飲料中のイソマルトデキストリンの含有量は、AOAC公定法であるAOAC2001.03を用いて食物繊維量として測定できる。
ナトリウム
本発明のイソマルト含有飲料は、飲料100gあたり0.5〜50.0mgのナトリウムを含有することを特徴とする。このような濃度のナトリウムを飲料に配合することによって、イソマルトデキストリン含有飲料に特異的に発現する雑味を効果的に抑制することができる。ここで、本明細書でいう「雑味」とは、飲料に求められる爽快感を損なうイソマルトデキストリン由来の不快感をいい、具体的には、飲料を口に含んだ際に知覚されるぬめりのような何となく嫌な感じで、味だけでなく物理的刺激による不快感を伴うものを意味する。ナトリウム濃度が0.5mg/100mg以下であると、上記効果が十分発揮されず、50.0mg/100mg以上であるとナトリウムに由来するぬめりや異味が顕在化する場合があり、飲用に適さないことがある。
【0021】
好ましい態様において本発明の飲料におけるナトリウム濃度は、1.0〜40mg/100gであり、より好ましくは2.0〜35mg/100g、さらに好ましくは3.0〜30mg/100gである。なお、ナトリウム濃度は、ナトリウムが塩の形態にある場合は、これを遊離体(フリー体)に換算した上で算出するものとする。
【0022】
本発明においてナトリウムを飲料に配合する場合、例えば、ナトリウム塩の形態で飲料に添加することができる。ナトリウム塩としては、飲用可能な塩であればよく、例えば、塩化ナトリウム(食塩)、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム等を用いることができるが、特にこれらに限定されない。本発明では、好ましくは炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、L−アスコルビン酸ナトリウムが用いられる。
【0023】
その他成分
飲料形態で生じるイソマルトデキストリン特有の雑味は、イソマルトデキストリン以外の成分が少ない場合に顕著に知覚される。これは、雑味をマスキングする成分が少ないためと推測される。イソマルトデキストリン以外の成分が少ない飲料としては、透明飲料や可溶性固形分が低い飲料を例示できる。飲料に濁りがある場合、その濁りの原因となる粒子(例えば、不溶性固形分や乳化粒子等)の存在によりイソマルトデキストリンに由来する雑味が感じられにくくなる。他方、飲料が透明である場合、すなわち、飲料に濁りがない場合は、そのような粒子が存在しないためにイソマルトデキストリンに由来する雑味が感じられやすくなる。したがって、本発明の技術は、透明飲料において有用である。透明飲料とは、具体的には、本発明の飲料が茶飲料又は穀物茶飲料の場合、波長680nmの吸光度が0.2以下、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.06以下である飲料をいう。本発明の飲料がコーヒー飲料である場合、波長680nmの吸光度が0.7以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である飲料をいう。ここで、吸光度は分光光度計で測定することができる。
【0024】
また、飲料中の可溶性固形分についても同様である。可溶性成分が多く存在する場合には、それらの有する香味によりイソマルトデキストリンに由来する雑味が感じられにくくなるが、可溶性固形分が低い場合は、イソマルトデキストリンに由来する雑味が感じられやすくなる。したがって、本発明の技術は、イソマルトデキストリン以外の可溶性固形分が低い飲料において有用である。具体的には、イソマルトデキストリン以外の可溶性固形分が3.0以下であり、好ましくは0.1〜3.0であり、より好ましくは0.3〜2.0である飲料が挙げられる。特に、ここで、可溶性固形分は、糖度計や屈折計などを用いて得られるブリックス値によってあらわされる数値であり、ブリックス値は20℃で測定された屈折率をICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値である。単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される。本発明の飲料が茶飲料である場合、茶葉由来の可溶性固形分の濃度は0.10〜0.40%程度、好ましくは0.15〜0.35%程度である。本発明の飲料が穀物茶である場合、穀物類由来の可溶性固形分の濃度は0.20〜1.00%程度、好ましくは0.30〜0.90%程度である。本発明の飲料がコーヒー飲料である場合、コーヒー豆類由来の可溶性固形分の濃度は0.60〜2.00%、好ましくは0.70〜1.80%程度である。これら可溶性固形分量を調整するには、抽出原料の量と抽出条件で適宜調整できる。
【0025】
本発明の技術は、可溶性固形分が低い飲料の中でも、特に中性飲料において有用である。酸性飲料の場合、酸味成分がイソマルトデキストリンに由来する雑味を効果的にマスキングするが、中性飲料の場合、そのような酸味成分が存在しないためイソマルトデキストリンに由来する雑味が顕著となる。したがって、効果の顕著さから、本発明の飲料の好ましいpH(20℃)は、5.0〜7.0であり、より好ましくは5.5〜6.5である。飲料のpH調整は、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いて適宜行うことができる。
【0026】
その他、本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様に、各種添加剤などを配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、酸味料、香料、ビタミン類、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、増粘剤、品質安定剤などを挙げることができる。
【実施例】
【0027】
以下、具体的な実験によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0028】
実験1:分岐デキストリン含有飲料の製造と評価
分岐デキストリンに由来する雑味の違いを調べるために、以下の7つの飲料サンプルを調製した。
・試料1:水(pH7のイオン交換水)
・試料2:水にイソマルトデキストリンを10mg/100gの濃度で溶かした溶液
・試料3:水にイソマルトデキストリンを300mg/100gの濃度で溶かした溶液
・試料4:水にイソマルトデキストリンを1000mg/100gの濃度で溶かした溶液
・試料5:水に難消化性デキストリンを300mg/100gの濃度で溶かした溶液
・試料6:水に難消化性デキストリンを1000mg/100gの濃度で溶かした溶液
・試料7:水にイソマルトオリゴ糖を3000mg/100gの濃度で溶かした溶液
なお、イソマルトデキストリンには株式会社林原社製のファイバリクサ(商標、グルコースの平均重合度:30、DE:約7)を、難消化性デキストリンには松谷化学工業株式会社製のファイバーゾル2(商品名)を、イソマルトオリゴ糖にはアースシップス株式会社製のものを使用した。なお、試料1〜7のpHは7であった。
【0029】
上記試料1〜7について、口に含んだ際に知覚される雑味の有無を評価した。表1に結果を示す。イソマルトデキストリンを300mg/100g以上の濃度で含有する飲料が、特異的に雑味を有することが明らかになった。
【0030】
【表1】
【0031】
実験2:分岐デキストリン含有飲料におけるナトリウム濃度の影響
実験1と同様にして、水にイソマルトデキストリンを800mg/100gの濃度で溶かした溶液を調製した(試料2−1)。この飲料サンプルに、ナトリウムイオン濃度が表2の値となるように炭酸水素ナトリウムを適宜添加して混合、溶解してナトリウム濃度の異なる溶液を調製した(試料2−2〜試料2−7)。表2中、ナトリウム1mgとは炭酸水素ナトリウムを3.65mg配合したことを意味する。
【0032】
得られた7種類のナトリウム濃度が異なる溶液について、5名のパネラーにより飲料の雑味の強さと飲用適性について評価した。評価は、以下の基準に基づいて各自が実施し、その後協議して評価点を決定した。
・5点:雑味等がなく違和感なく飲用できる
・4点:雑味等がほとんどなく違和感なく飲用できる
・3点:雑味等がやや感じられるが飲用できるレベルである
・2点:雑味があり飲用時に違和感を覚えるレベルである
・1点:雑味があり飲用に適さない。
【0033】
結果を表2に示す。0.5〜50.0mg/100gの濃度のナトリウムを配合することによって、イソマルトデキストリンに由来する雑味を効果的に抑制することができた。100mg/100g以上のナトリウムを配合すると、ナトリウムに起因するぬめりや異味が生じ飲用に適さなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
実験3:イソマルトデキストリン含有飲料の製造と評価
イソマルトデキストリン濃度及びナトリウムイオン濃度が表3の値となるように、イソマルトデキストリン及び炭酸水素ナトリウムを適宜添加して混合、溶解してイソマルトデキストリン及びナトリウム濃度の異なる溶液を調製した(試料3−1〜3−11)。得られた溶液について、5名のパネラーにより実験2と同様に雑味の強さと飲用適性を評価した。
【0036】
結果を表3に示す。イソマルトデキストリンが300〜10000mg/100gの濃度範囲では、0.5〜50.0mg/100gの濃度のナトリウムを配合することによって、イソマルトデキストリンに由来する雑味を効果的に抑制することができた。
【0037】
【表3】
【0038】
実験4:緑茶飲料の製造と評価
熱水(70〜80℃)1000mlに対し10gの緑茶葉を用いて抽出処理を行い、得られた抽出液を茶固形分(茶葉由来の可溶性固形分)としてBrix0.3となるように水で希釈して茶飲料のベース液とした。このベース液にイソマルトデキストリンを800mg/100gの濃度で溶かし、試料4−1を調製した。さらに、これにナトリウム炭酸水素ナトリウムを適宜添加して混合、溶解して、イソマルトデキストリン濃度及びナトリウムイオン濃度が表4の値となるように、茶飲料を調製した(試料4−2〜4−3)。得られた溶液について、5名のパネラーにより実験2と同様に雑味の強さと飲用適性を評価した。
【0039】
結果を表4に示す。茶飲料において顕在化するイソマルトデキストリン含有飲料の雑味を特定量のナトリウムを配合することによって効果的に抑制することができた。
【0040】
【表4】
【0041】
実験5:コーヒー飲料の製造と評価
熱水(90〜98℃)1000mlに対し110gの焙煎粉砕コーヒー豆を用いて抽出処理を行い、得られた抽出液をコーヒー固形分(コーヒー豆由来の可溶性固形分)としてBrix1.0となるように水で希釈してコーヒー飲料のベース液とした。このベース液にイソマルトデキストリンを800mg/100gの濃度で溶かした溶液(試料5−1)を調製した。また、イソマルトデキストリン濃度及びナトリウムイオン濃度が表5の値となるように、イソマルトデキストリン及び/又は炭酸水素ナトリウムを適宜添加して混合、溶解してコーヒー飲料を調製した(試料5−2〜5−3)。得られた溶液について、5名のパネラーにより実験2と同様に雑味の強さと飲用適性を評価した。
【0042】
結果を表5に示す。コーヒー飲料において顕在化するイソマルトデキストリン含有飲料の雑味を特定量のナトリウムを配合することによって効果的に抑制することができた。
【0043】
【表5】