【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼平成28年11月16日 http://www.aeplan.co.jp/mbsj2016/ http://www.mbsj.jp/meetings/annual/2016/program/index.html http://www.mbsj.jp/meetings/annual/patents/index.html http://www.mbsj.jp/meetings/annual/2016/program/mbsj2016_LBA.pdf https://confit.atlas.jp/guide/organizer/mbsj/mbsj2016/subject/1LBA−101/search?searchType=all&initFlg=false&query=%E5%A2%97%E6%9C%AC+%E5%8D%9A%E5%8F%B8を通じて発表 ▲2▼平成28年11月30日 第39回日本分子生物学会年会 パシフィコ横浜においてポスターにて発表 ▲3▼平成28年12月16日 HiHA第8回Workshop、広島大学 先端科学総合研究棟 3F 302S会議室において文書(スライド)をもって発表 ▲4▼平成29年2月2日 http://www.biosig.kobe−u.ac.jp/index.html http://www.biosig.kobe−u.ac.jp/lecture_meeting.htmlを通じて発表 ▲5▼平成29年2月16日 神戸大学バイオシグナル総合研究センター 学術講演会、神戸大学バイオシグナル総合研究センター 5階研修室において文書(スライド)をもって発表
該ゲノム二本鎖DNA上の該200bp以上のヌクレオチド配列と該ドナーDNAに含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列との間で相同組換えを生じさせることにより、該外来DNA配列を、ゲノム二本鎖DNAに含まれる2コピー以上の該200bp以上のヌクレオチド配列に挿入することを含み、
該相同なヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列を含み、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断した場合、該200bp以上のヌクレオチド配列を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性及び長さを有する、方法。
ヌクレアーゼが、該ドナーDNAに含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列中の標的配列を優先的に切断する、請求項1又は2記載の方法。
該ヌクレアーゼが、核酸配列認識モジュール及びDNA切断ドメインを含んでなり、核酸配列認識モジュールが、ジンクフィンガーモチーフ、TALエフェクター及びPPRモチーフから成る群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ゲノムDNA上の2以上の部位へ外来DNAを挿入する方法であって、
2コピー以上点在する、200bp以上のヌクレオチド配列を含むゲノム二本鎖DNAを有する宿主細胞内において、
該ゲノム二本鎖DNA、並びに
該200bp以上のヌクレオチド配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列、及び外来DNA配列を含むドナーDNAを、
該200bp以上のヌクレオチド配列中の選択された標的ヌクレオチド配列と特異的に結合し、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断するヌクレアーゼと接触し、
該ゲノム二本鎖DNA上の該200bp以上のヌクレオチド配列と該ドナーDNAに含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列との間で相同組換えを生じさせることにより、該外来DNA配列を、ゲノム二本鎖DNAに含まれる2コピー以上の該200bp以上のヌクレオチド配列に挿入することを含み、
該相同なヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列を含み、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断した場合、該200bp以上のヌクレオチド配列を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性及び長さを有する、方法を提供する。
【0015】
本発明の方法において使用する宿主細胞に含まれるゲノム二本鎖DNA中に含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列のコピー数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上、更により好ましくは30以上である。
【0016】
本発明の方法において使用する宿主細胞に含まれるゲノム二本鎖DNA中に含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列の長さは、例えば200bp-100kbp、好ましくは200bp-10kbであり得る。
【0017】
該200bp以上のヌクレオチド配列の相同配列は、該200bp以上のヌクレオチド配列中の選択された標的ヌクレオチド配列(後述する)を含み、本発明の方法において該標的ヌクレオチド配列内でDNA(ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)及び/又はゲノム二本鎖DNA)を切断した場合、該200bp以上のヌクレオチド配列を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性及び長さを有する配列である。
【0018】
該200bp以上のヌクレオチド配列に対する該相同配列の同一性の程度は、相同組換えを可能とする限り特に限定されない。相同組換えを可能とする同一性の程度は、ポリヌクレオチドの長さによっても異なるが、例えば少なくとも約80%以上、好ましくは少なくとも約85%以上、より好ましくは少なくとも約90%以上、最も好ましくは約95〜100%であり得る。同一性%は、自体公知の方法により決定でき、例えば、NCBIホームページで利用可能なBLASTNを初期(default)設定で用いることにより決定できる。同一性%はまた、Smith-Watermanのアルゴリズムを使用して、ギャップ・オープン・ペナルティー(gap open penalty):12、ギャップ・エクステンション・ペナルティー(gap extension penalty):1によりアフィン・ギャップ検索(affine gap search)を行うことにより決定してもよい。
【0019】
該200bp以上のヌクレオチド配列の相同配列の長さは、ゲノムDNAとの相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。しかしながら、一般論として、ゲノムDNAとの相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、細胞へのドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の導入効率によって、挿入可能なDNAの長さは一定に制限される。従って、これらを考慮すると、該相同配列の長さは、例えば0.15kb-20kb、好ましくは0.18kb-10kbであり得る。
【0020】
一態様において、該相同配列として、ゲノム中に存在する該200bp以上のヌクレオチド配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列が挙げられる。
【0021】
該相同配列は、例えば、200bp以上のヌクレオチド配列のDNA配列情報に基づいて、所望の部分(後述する標的ヌクレオチド配列含む部分)をコードする領域をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、宿主細胞より調製したゲノムDNAを鋳型として用い、PCRによって増幅することにより、クローニングすることができる。上記相同組換えを可能とする同一性の程度が保持される範囲内で、宿主細胞以外の生物種からクローニングした該200bp以上のヌクレオチド配列を用いることもできる。
【0022】
該200bp以上のヌクレオチド配列は、ゲノム中に2コピー以上点在する配列であれば特に限定されないが、遺伝子間に挿入される形で存在し、その配列に変更が生じても、細胞の生存には影響を与えない配列であることが好ましい。該200bp以上のヌクレオチド配列としては、トランスポゾン(狭義のDNA型トランスポゾン)、レトロトランスポゾン、レトロウイルス、パラレトロウイルス、レトロイントロン、レトロンファージ、レトロプラスミドが挙げられる(レトロトランスポゾン、レトロウイルス、パラレトロウイルス、レトロイントロン、レトロンファージ、レトロプラスミドをレトロエレメントと総称する場合がある)。好ましくは、トランスポゾン(狭義のDNA型トランスポゾン)及びレトロトランスポゾンである。
【0023】
本明細書中、該200bp以上のヌクレオチド配列について、主にトランスポゾン配列を代表例として例示しながら説明するが、該説明がトランスポゾン配列以外の、他の該200bp以上のヌクレオチド配列に対しても同様に適用可能であることは、当業者には容易に理解できる。
【0024】
本明細書中、「トランスポゾン」は、細胞内においてゲノム上の位置を転移することのできるヌクレオチド又はその配列を指す。トランスポゾンは、DNA型トランスポゾン(狭義のトランスポゾン)及びRNA型トランスポゾン(レトロトランスポゾン)に分類される。DNA型トランスポゾンの配列内には、トランスポザーゼ(転移酵素)がコードされている。この酵素は、発現するとトランスポゾン配列の両末端にあるインバーテッドリピートを認識して、トランスポゾン配列を境界で切断して切り出し、ゲノム上の別の位置に挿入する。一方、RNA型トランスポゾンの配列内には、逆転写酵素がコードされている。内部プロモーターによってこの逆転写酵素が転写され、翻訳されると、自身の転写産物を鋳型としてcDNAを合成し、それをゲノム上の別の位置に挿入する。トランスポゾンは、進化上染色体上の遺伝子間に挿入される形で存在し、その配列に変更が生じても、細胞の生存には影響を与えない。一般的に、トランスポゾン配列は、非遺伝子領域で染色体上に複数点在し、相同組換えに必要な共通配列を有することから、本発明の方法における、ゲノム上の、外来DNAの挿入部位として好適である。
【0025】
尚、本明細書において、「トランスポゾン配列」には、トランスポゾンのプラス鎖のヌクレオチド配列、及びマイナス鎖のヌクレオチド配列が包含される。
【0026】
本発明の方法において、トランスポゾンは、好ましくはレトロトランスポゾンである。レトロトランスポゾンとしては、末端に長い反復配列が形成されているLTR (long terminal repeat) 型レトロトランスポゾン及びそれ以外の非LTR型レトロトランスポゾンが挙げられる。LTR 型レトロトランスポゾンとしては、Ty1-copia 群及びTy3-gypsy群が挙げられる。両者は、配列の類似性と、遺伝子産物コードの順番の両方に基づいて区別される。非LTR 型レトロトランスポゾンとしては、「長鎖散在反復配列」("long interspersed nuclear element" LINE) を有するものと「短鎖散在反復配列」("short interspersed nuclear element" SINE)を有するものが挙げられる。レトロトランスポゾンは、好ましくは、Ty1-copia群のレトロトランスポゾン(例、酵母においてはTy1レトロトランスポゾン、ショウジョウバエにおいてはcopiaレトロトランスポゾン)である。
【0027】
本発明の方法においては、ゲノム二本鎖DNA中に2コピー以上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)を含む宿主生物の細胞を対象とする。ゲノム二本鎖DNAを有する生物の殆どは、2コピー以上のトランスポゾン配列を有するので、本発明の方法は、ゲノム二本鎖DNAを有するほぼすべての宿主生物の細胞に適用可能である。該宿主生物としては、エシェリヒア属菌、バチルス属菌等の原核生物;酵母(出芽酵母、分裂酵母等)、昆虫、植物、脊椎動物(魚類、鳥類、哺乳類)等の真核生物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,60,160 (1968)〕,エシェリヒア・コリJM103〔Nucleic Acids Research,9,309 (1981)〕,エシェリヒア・コリJA221〔Journal of Molecular Biology,120,517 (1978)〕,エシェリヒア・コリHB101〔Journal of Molecular Biology,41,459 (1969)〕,エシェリヒア・コリC600〔Genetics,39,440 (1954)〕などが用いられる。
【0029】
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔Gene,24,255 (1983)〕,バチルス・サブチルス207-21〔Journal of Biochemistry,95,87 (1984)〕などが用いられる。
【0030】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R
-,NA87-11A,DKD-5D,20B-12,BY-4742、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036,ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
【0031】
昆虫細胞としては、例えば、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞);Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞;Trichoplusia niの卵由来のHigh Five
TM細胞;Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞;蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞);ショウジョウバエ由来の細胞などが用いられる。
【0032】
脊椎動物細胞としては、例えば、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、dhfr遺伝子欠損CHO細胞、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などの細胞株、ヒト及び他の哺乳動物のiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞、種々の組織から調製した初代培養細胞が用いられる。さらには、ゼブラフィッシュ胚、アフリカツメガエル卵母細胞なども用いることができる。
【0033】
植物細胞としては、種々の植物(例えば、イネ、コムギ、トウモロコシ等の穀物、トマト、キュウリ、ナス等の商品作物、カーネーション、トルコギキョウ等の園芸植物、タバコ、シロイヌナズナ等の実験植物など)から調製した懸濁培養細胞、カルス、プロトプラスト、葉切片、根切片などが用いられる。
【0034】
宿主生物は、好ましくは酵母であり、より好ましくは出芽酵母である。出芽酵母のゲノム二本鎖DNAには、約30コピーものTy1レトロトランスポゾンが存在し、その配列もレトロトランスポゾン間で高度に保存されている。
【0035】
本発明の方法において使用する宿主細胞に含まれるゲノム二本鎖DNA中に含まれるトランスポゾン配列のコピー数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上、更により好ましくは30以上である。
【0036】
本発明の方法において用いられるドナーDNAとしては、二本鎖DNA、一本鎖DNA(環状二本鎖DNA、直鎖状二本鎖DNA、環状一本鎖DNA、直鎖状一本鎖DNA)、一本鎖DNAを含む環状二本鎖DNAが挙げられる。なお、ドナーDNAが一本鎖DNAの場合、「200bp以上のヌクレオチド配列」等の「bp」は「b」に読み替えるものとする。
【0037】
該ドナーDNAについて、主に環状二本鎖DNAを代表例として例示しながら説明するが、該説明が環状二本鎖DNA以外の、他の該ドナーDNAに対しても同様に適用可能であることは、当業者には容易に理解できる。
【0038】
本発明の方法において用いられる環状二本鎖DNAは、好ましくは、環状二本鎖DNAプラスミドである。環状二本鎖DNAプラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例、YCplac33, pRS403, YIplac128);昆虫細胞発現プラスミド(例:pFast-Bac);動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
該環状二本鎖DNAは、宿主細胞のゲノム二本鎖DNA中に2コピー以上含まれるトランスポゾン配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列(以下、「トランスポゾン相同配列」と呼ぶ場合がある)、及び外来DNA配列を含む。
【0040】
トランスポゾン相同配列は、トランスポゾン配列中の選択された標的ヌクレオチド配列(後述する)を含み、本発明の方法において該標的ヌクレオチド配列内でDNA(ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)及び/又はゲノム二本鎖DNA)を切断した場合、該トランスポゾン配列を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性及び長さを有する配列である。一態様においては、トランスポゾン相同配列は、出芽酵母染色体上に点在するTy1tレトロトランスポゾン間で保存されている領域であり、Ty1レトロトランスポゾン配列内の約1680 bpから約2520 bpまでの間の約840 bpの塩基配列(配列番号1)である。Ty1配列(840 bp)はTy1レトロトランスポゾン配列(約5930bp)中の約1680 bpから約2520 bpの間の領域に相当する(
図14)。
【0041】
トランスポゾン配列に対するトランスポゾン相同配列の同一性の程度は、相同組換えを可能とする限り特に限定されない。相同組換えを可能とする同一性の程度は、ポリヌクレオチドの長さによっても異なるが、例えば少なくとも約80%以上、好ましくは少なくとも約85%以上、より好ましくは少なくとも約90%以上、最も好ましくは約95〜100%であり得る。同一性%は、自体公知の方法により決定でき、例えば、NCBIホームページで利用可能なBLASTNを初期(default)設定で用いることにより決定できる。同一性%はまた、Smith-Watermanのアルゴリズムを使用して、ギャップ・オープン・ペナルティー(gap open penalty):12、ギャップ・エクステンション・ペナルティー(gap extension penalty):1によりアフィン・ギャップ検索(affine gap search)を行うことにより決定してもよい。
【0042】
トランスポゾン相同配列の長さは、ゲノムDNAとの相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。しかしながら、一般論として、ゲノムDNAとの相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、細胞へのドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の導入効率によって、挿入可能なDNAの長さは一定に制限される。従って、これらを考慮すると、トランスポゾン相同配列の長さは、例えば0.5kb-20kb、好ましくは0.75kb-10kbであり得る。
【0043】
一態様において、トランスポゾン相同配列として、ゲノム中に存在するトランスポゾン配列内の構造遺伝子配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列が挙げられる。
【0044】
トランスポゾン相同配列は、例えば、トランスポゾンのDNA配列情報に基づいて、所望の部分(後述する標的ヌクレオチド配列含む部分)をコードする領域をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、宿主細胞より調製したゲノムDNAを鋳型として用い、PCRによって増幅することにより、クローニングすることができる。上記相同組換えを可能とする同一性の程度が保持される範囲内で、宿主細胞以外の生物種からクローニングしたトランスポゾン配列を用いることもできる。
【0045】
外来DNAは、本発明の方法によって該外来DNAが挿入されたゲノムを有する細胞が、該外来DNAが挿入される前には有していなかった、ゲノム中の部分のDNAを指す。例えば、本発明の方法において、外来DNAの配列は、該外来DNAが挿入されるゲノム中に存在するトランスポゾン配列又はその部分配列を含み得るが、この配列も、細胞が、該外来DNAを挿入する以前には有していなかったDNAの配列である。従って、本明細書中では、該配列も外来DNA配列として扱われる。
【0046】
外来DNA配列は、好ましくは構造遺伝子をコードする。即ち、外来DNA配列は、好ましくは、特定の機能を有するポリペプチドをコードする。該構造遺伝子の種類は、特に限定されないが、例えば、有用代謝産物の合成経路、遺伝子複製機構、DNA損傷修復機構、シグナル伝達経路、核機能等の種々の細胞機能に関与する酵素をコードする遺伝子を挙げることが出来る。該構造遺伝子は、それらのcDNA配列情報に基づいて、所望の部分をコードする領域(好ましくは、遺伝子の全長領域、ORF領域)をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、当該遺伝子を発現する細胞より調製した全RNA若しくはmRNA画分を鋳型として用い、RT-PCRによって増幅することにより、クローニングすることができる。
【0047】
該構造遺伝子は、好ましくは、宿主細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。即ち、本発明の方法により該構造遺伝子が宿主細胞のゲノムDNA中に挿入されると、該プロモーターの制御下で、該構造遺伝子が発現する。当業者であれば、宿主細胞の種類に対応して適切なプロモーターを選択することができる。
例えば、宿主細胞がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λP
Lプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主細胞がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主細胞が酵母である場合、Gal1プロモーター、Gal1/10プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主細胞が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主細胞が植物細胞である場合、CaMV35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、NOSプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主細胞が脊椎動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
【0048】
該構造遺伝子は、好ましくは、宿主細胞内で活性を発揮し得るエンハンサー、スプライシングシグナル、ターミネーター、ポリA付加シグナル等に機能的に連結されている。このような構成を有することにより、本発明の方法により該構造遺伝子が宿主細胞のゲノムDNA中に挿入されると、構造遺伝子は、宿主細胞内でより安定に転写及び翻訳される。
【0049】
該ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)は、ゲノム中に外来DNAが挿入された形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子をさらに含有することもできる。選択マーカー遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等を挙げることができるが、これらに限定されない。栄養要求性変異を相補する遺伝子としては、例えば、LEU2、URA3、URA4、LYS2、MET15、HIS3、TRP1、ADE2等が挙げられる。栄養要求性変異を相補する遺伝子は、対応する栄養要求性変異を有する宿主細胞と組み合わせて用いられる。
【0050】
本発明の方法においては、上記ゲノム二本鎖DNA及び上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)を、ゲノム二本鎖DNAに2コピー以上含まれるトランスポゾン配列中の選択された標的ヌクレオチド配列と特異的に結合し、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断するヌクレアーゼと接触させる。
【0051】
本発明において用いられる「ヌクレアーゼ」は、特定のヌクレオチド配列認識能が付与されたDNA切断活性を有する分子複合体である。該複合体は、DNA切断活性を有する核酸配列認識モジュールを含んでなるか、又はDNA切断活性を有しない核酸配列認識モジュール及びDNA切断ドメインを含んでなる。ここで「複合体」は複数の分子で構成されるものだけでなく、融合タンパク質のように、核酸配列認識モジュールとDNA切断ドメインとを単一の分子内に有するものも包含される。一態様として、本発明のヌクレアーゼは、構成因子としてタンパク質を含むか、又はタンパク質から成る。他の態様として、本発明のヌクレアーゼは、タンパク質以外の構成因子(例、核酸)を含む。
【0052】
本発明において「核酸配列認識モジュール」とは、DNA鎖上の特定のヌクレオチド配列(即ち、標的ヌクレオチド配列)を特異的に認識して結合する能力を有する分子又は分子複合体を意味する。核酸配列認識モジュールが標的ヌクレオチド配列に結合することにより、該モジュール又は該モジュールに連結されたDNA切断ドメインがDNAの標的化された部位に特異的に作用することを可能にする。一態様において、「核酸配列認識モジュール」はそれ自体がDNA切断活性を有する。他の態様において、「核酸配列認識モジュール」はそれ自体がDNA切断活性を有しない。
【0053】
本発明において「DNA切断ドメイン」とは、DNAを構成する2重螺旋の一方又は両方の鎖を切断する反応を触媒するポリペプチドを意味する。該ポリペプチドとしては、制限酵素FokIのポリペプチド等が挙げられる。
【0054】
核酸配列認識モジュールにより認識される、DNA中の標的ヌクレオチド配列は、該モジュールが特異的に結合し得る限り特に制限されず、DNA中の任意の配列であってよい。標的ヌクレオチド配列の長さは、核酸配列認識モジュールが特異的に結合するのに十分であればよく、例えば、酵母のゲノムDNA中の特定の部位に変異を導入する場合、そのゲノムサイズに応じて、12ヌクレオチド以上、好ましくは15ヌクレオチド以上、より好ましくは17ヌクレオチド以上である。長さの上限は特に制限されないが、好ましくは25ヌクレオチド以下、より好ましくは22ヌクレオチド以下である。
【0055】
本発明の1つの態様において、核酸配列認識モジュールとしては、CRISPR-Casシステムが挙げられる。該態様においては、核酸配列認識モジュール自体がDNA切断活性を有するため、本発明の方法のために、該核酸配列認識モジュールとDNA切断ドメインとの複合体を形成させることを必ずしも必要としない。
【0056】
上記CRISPR-Casシステムは、標的ヌクレオチド配列(但しRNA配列)を有するガイドRNAにより目的のドナーDNA(二本鎖DNA又は一本鎖DNA)の配列を認識するので、標的ヌクレオチド配列の相補配列と特異的にハイブリッド形成し得るオリゴDNAを合成するだけで、任意の配列を標的化することができる。
CRISPR/Casシステムは一本鎖DNAも基質として認識し、切断する活性を有する(Ma, E., Mol. Cell, (2015) 60 (3), 398-407)。一態様として、ドナーDNAは一本鎖DNAを含む二本鎖DNAであり得る。相同組換えではドナーDNAの切断末端がトリミングされ一本鎖DNAが露出し、その一本鎖が染色体上の相同配列部位に結合するので、より効率よく相同組換えによってドナーDNAが染色体中に組み込まれる可能性がある。
【0057】
CRISPR-Casを用いた核酸配列認識モジュールは、標的ヌクレオチド配列(但しRNA配列)、及びCasタンパク質のリクルートに必要なtracrRNAからなるRNA分子(ガイドRNA)とCasタンパク質との複合体として提供される。また、他の態様として、CRISPR-Casを用いた核酸配列認識モジュールは、標的ヌクレオチド配列と同一配列のRNAを含むcrRNA、及びtracrRNA、Casの複合体として提供される。
【0058】
本発明で使用されるCasタンパク質は、CRISPRシステムに属するものであれば特に制限はないが、好ましくはCas9である。Cas9としては、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(SpCas9)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9)等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくはSpCas9である。
【0059】
CRISPR-Casを核酸配列認識モジュールとして用いる場合、核酸配列認識モジュールは、それらをコードする核酸(発現ベクター)の形態で、宿主細胞に導入することが望ましい。即ち、ガイドRNA及びCasタンパク質をコードする発現ベクターを宿主細胞に導入し、該ガイドRNA及びCasタンパク質を発現させることにより、宿主細胞内でガイドRNAとCasタンパク質との複合体を形成する。ガイドRNA及びCasタンパク質は、同一の発現ベクター上にコードされていてもよいし、異なる発現ベクター上に、それぞれコードされていてもよい。
CasをコードするDNAは、当該技術分野で周知の方法により、Casを産生する細胞からクローニングすることができる。
得られたCasをコードするDNAは、宿主に応じた発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することができる。
一方、ガイドRNAをコードするDNAは、標的ヌクレオチド配列(但しRNA配列)と既知のtracrRNA配列(例えば、gttttagagctagaaatagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtggtgctttt; 配列番号2)とを連結したオリゴDNA配列を設計し、DNA/RNA合成機を用いて、化学的に合成することができる。ガイドRNAをコードするDNAも、宿主に応じた発現ベクターに挿入することができる。ガイドRNA及びCasは、同一の発現ベクター上にコードされていてもよいし、異なる発現ベクター上に、それぞれコードされていてもよい。好適には、CasをコードするDNAとガイドRNA及びtracrRNAをコードするDNAを、同一の発現ベクター中、別個のプロモーターの下流に挿入する。
【0060】
本発明における標的ヌクレオチド配列としては、宿主細胞ゲノムに2コピー以上含まれるトランスポゾン配列内の、PAM配列(5'-NGG)の5'側の直前に隣接している配列が選択される。
宿主細胞として出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、トランスポゾンとしてTy1レトロトランスポゾンが使用される場合、標的ヌクレオチド配列は、例えば、配列番号3で表されるヌクレオチド配列である。この場合、配列番号3で表されるヌクレオチド配列の3’側にtracrRNA配列(例えば、gttttagagctagaaatagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtggtgctttt; 配列番号2)が連結したガイドRNAが宿主細胞内で発現するように、上記発現ベクターが設計される。
【0061】
本発明において用いられるドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)中の、トランスポゾン配列又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列は、上記標的ヌクレオチド配列を含む。
【0062】
CasをコードするRNAは、例えば、上記したCasをコードするDNAを鋳型として、自体公知のインビトロ転写系にてmRNAに転写することにより調製することができる。
ガイドRNAは、標的ヌクレオチド配列(但しRNA配列)と既知のtracrRNA配列とを連結したオリゴRNA配列を設計し、DNA/RNA合成機を用いて、化学的に合成することができる。
【0063】
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、別段にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
【0064】
本発明の他の態様においては、核酸配列認識モジュールとしては、ジンクフィンガーモチーフ、TALエフェクター及びPPRモチーフ等の他、制限酵素、転写因子、RNAポリメラーゼ等のDNAと特異的に結合し得るタンパク質のDNA結合ドメインを含み、DNA二重鎖切断能を有しないフラグメント等が用いられ得る。
【0065】
ジンクフィンガーモチーフは、Cys2His2型の異なるジンクフィンガーユニット(1フィンガーが約3塩基を認識する)を3〜6個連結させたものであり、9〜18塩基の標的ヌクレオチド配列を認識することができる。ジンクフィンガーモチーフは、Modular assembly法(Nat Biotechnol (2002) 20: 135-141)、OPEN法(Mol Cell (2008) 31: 294-301)、CoDA法(Nat Methods (2011) 8: 67-69)、大腸菌one-hybrid法(Nat Biotechnol (2008) 26:695-701)等の公知の手法により作製することができる。ジンクフィンガーモチーフの作製の詳細については、特許第4968498号公報を参照することができる。
【0066】
TALエフェクターは、約34アミノ酸を単位としたモジュールの繰り返し構造を有しており、1つのモジュールの12及び13番目のアミノ酸残基(RVDと呼ばれる)によって、結合安定性と塩基特異性が決定される。各モジュールは独立性が高いので、モジュールを繋ぎ合わせるだけで、標的ヌクレオチド配列に特異的なTALエフェクターを作製することが可能である。TALエフェクターは、オープンリソースを利用した作製方法(REAL法(Curr Protoc Mol Biol (2012) Chapter 12: Unit 12.15)、FLASH法(Nat Biotechnol (2012) 30: 460-465)、Golden Gate法(Nucleic Acids Res (2011) 39: e82)等)が確立されており、比較的簡便に標的ヌクレオチド配列に対するTALエフェクターを設計することができる。TALエフェクターの作製の詳細については、特表2013-513389号公報を参照することができる。
【0067】
PPRモチーフは、35アミノ酸からなり1つの核酸塩基を認識するPPRモチーフの連続によって、特定のヌクレオチド配列を認識するように構成されており、各モチーフの1、4及びii(-2)番目のアミノ酸のみで標的塩基を認識する。モチーフ構成に依存性はなく、両脇のモチーフからの干渉はないので、TALエフェクター同様、PPRモチーフを繋ぎ合わせるだけで、標的ヌクレオチド配列に特異的なPPRタンパク質を作製することが可能である。PPRモチーフの作製の詳細については、特開2013-128413号公報を参照することができる。
【0068】
また、制限酵素、転写因子、RNAポリメラーゼ等のフラグメントを用いる場合、これらのタンパク質のDNA結合ドメインは周知であるので、該ドメインを含み、且つDNA二重鎖切断能を有しない断片を容易に設計し、構築することができる。
【0069】
上記いずれかの核酸配列認識モジュールは、上記DNA切断ドメインとの融合タンパク質として提供することもできるし、SH3ドメイン、PDZドメイン、GKドメイン、GBドメイン等のタンパク質結合ドメインとそれらの結合パートナーとを、核酸配列認識モジュールと、DNA切断ドメインとにそれぞれ融合させ、該タンパク質結合ドメインとその結合パートナーとの相互作用を介してタンパク質複合体として提供してもよい。或いは、核酸配列認識モジュールと、DNA切断ドメインとにそれぞれインテイン(intein)を融合させ、各タンパク質合成後のライゲーションにより、両者を連結することもできる。
【0070】
上記ヌクレアーゼと、ゲノム二本鎖DNA及び上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)との接触は、宿主細胞に、上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)と共に、該ヌクレアーゼをコードする核酸を導入することにより実施され得る。
従って、核酸配列認識モジュール、又は核酸配列認識モジュール及びDNA切断ドメインは、それらの融合タンパク質をコードする核酸として、或いは、タンパク質に翻訳後、宿主細胞内で複合体形成し得るような形態で、各構成因子をコードする核酸として調製することが好ましい。ここで核酸は、DNAであってもRNAであってもよい。DNAの場合は、好ましくは二本鎖DNAであり、宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下に各構成因子を発現し得る発現ベクターの形態で提供される。RNAの場合は、好ましくは一本鎖RNAである。
【0071】
ジンクフィンガーモチーフ、TALエフェクター、PPRモチーフ等の核酸配列認識モジュールをコードするDNAは、各モジュールについて上記したいずれかの方法により取得することができる。制限酵素、転写因子、RNAポリメラーゼ等の配列認識モジュールをコードするDNAは、例えば、それらのcDNA配列情報に基づいて、当該タンパク質の所望の部分(DNA結合ドメインを含む部分)をコードする領域をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、当該タンパク質を産生する細胞より調製した全RNA若しくはmRNA画分を鋳型として用い、RT-PCR法によって増幅することにより、クローニングすることができる。
DNA切断ドメインをコードするDNAも、同様に、使用するドメインのcDNA配列情報をもとにオリゴDNAプライマーを合成し、当該ドメインを産生する細胞より調製した全RNA若しくはmRNA画分を鋳型として用い、RT-PCR法によって増幅することにより、クローニングすることができる。例えば、FokIをコードするDNAはそのcDNA配列をもとに、CDSの上流及び下流に対して適当なプライマーを設計し、Flavobacterium okeanokoites (IFO 12536)由来mRNAからRT-PCR法によりクローニングできる。
クローン化されたDNAは、そのまま、又は所望により制限酵素で消化するか、適当なリンカー及び/又は核移行シグナル(目的の二本鎖DNAがミトコンドリアや葉緑体DNAの場合は、各オルガネラ移行シグナル)を付加した後に、核酸配列認識モジュールをコードするDNAとライゲーションして、融合タンパク質をコードするDNAを調製することができる。或いは、核酸配列認識モジュールをコードするDNAと、DNA切断ドメインをコードするDNAに、それぞれ結合ドメイン若しくはその結合パートナーをコードするDNAを融合させるか、両DNAに分離インテインをコードするDNAを融合させることにより、核酸配列認識モジュールとDNA切断ドメインとが宿主細胞内で翻訳された後に複合体を形成できるようにしてもよい。これらの場合も、所望により一方若しくは両方のDNAの適当な位置に、リンカー及び/又は核移行シグナルを連結することができる。
【0072】
核酸配列認識モジュールをコードするDNA、DNA切断ドメインをコードするDNAは、化学的にDNA鎖を合成するか、若しくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法やGibson Assembly法を利用して接続することにより、その全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成又はPCR法若しくはGibson Assembly法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該DNAを導入する宿主に合わせて使用コドンをCDS全長にわたり設計できる点にある。異種DNAの発現に際し、そのDNA配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに変換することで、タンパク質発現量の増大が期待できる。使用する宿主におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(公財)かずさDNA研究所のホームページに公開されている遺伝暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/index.html)を用いることができ、又は各宿主におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよい。入手したデータと導入しようとするDNA配列を参照し、該DNA配列に用いられているコドンの中で宿主において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに変換すればよい。
【0073】
核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメインをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、該DNAを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。核酸配列認識モジュールとして、CRISPR-Casシステムを用いる場合、ガイドRNA及びCasタンパク質をコードする発現ベクターを宿主細胞に導入し、該ガイドRNA及びCasタンパク質を発現させることにより、宿主細胞内でガイドRNAとCasタンパク質との複合体を形成する。ガイドRNA及びCasタンパク質は、同一の発現ベクター上にコードされていてもよいし、異なる発現ベクター上に、それぞれコードされていてもよい。
【0074】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15);昆虫細胞発現プラスミド(例:pFast-Bac);動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージなどのバクテリオファージ;バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター(例:BmNPV、AcNPV);レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。
プロモーターとしては、宿主細胞の種類に対応して、該宿主細胞内において機能し得る適切なプロモーターを選択することができる。
例えば、宿主細胞がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λP
Lプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主が酵母(例、分裂酵母、出芽酵母)である場合、Gal1/10プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主が植物細胞である場合、CaMV35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、NOSプロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
宿主が脊椎動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられるが、これらに限定されない。
【0075】
発現ベクターは、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ターミネーター、ポリA付加シグナル、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子等の選択マーカー、複製起点などを含有していてもよい。
【0076】
核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメインをコードするRNAは、例えば、上記した核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメインをコードするDNAをコードするベクターを鋳型として、自体公知のインビトロ転写系にてmRNAに転写することにより調製することができる。
【0077】
上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)、及び、上記ヌクレアーゼの構成因子(核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメイン)をコードする発現ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養することによって、上記ヌクレアーゼが宿主細胞内において形成され、該ヌクレアーゼと、ゲノム二本鎖DNA及び上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)とを接触させることができる。
【0078】
宿主細胞へのドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)等の核酸の導入は、宿主の種類に応じ、公知の方法(例えば、リゾチーム法、コンピテント法、PEG法、CaCl共沈殿法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法など)に従って実施することができる。上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)及び上記ヌクレアーゼの構成因子(核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメイン)をコードする発現ベクターは、それらの混合物を調製して、一回の導入操作で両方を導入することが好ましい。
【0079】
導入操作に用いる上記ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の分子数は、例えば、1宿主細胞に対して、トランスポゾン相同ヌクレオチド配列のコピー数として換算する場合、例えば1x10
2分子〜1x10
8分子好ましくは4x10
3分子〜4x10
4分子である。
【0080】
導入操作に用いる、上記ヌクレアーゼの構成因子(核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメイン)をコードする発現ベクターの分子数は、例えば、1宿主細胞に対して1x10
2分子〜1x10
9分子、好ましくは4x10
4分子〜4x10
5分子である。
【0081】
核酸配列認識モジュールとしてCRISPR-Casシステムを用いる場合であって、Casタンパク質の発現ベクターとガイドRNAの発現ベクターが異なる場合、導入するそれらの発現ベクターの分子数の比は、例えば、1:0.4〜1:1.6であり、好ましくは1:0.5〜1:1.5である。
【0082】
エシェリヒア属菌は、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)やGene,17,107 (1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
バチルス属菌は、例えば、Molecular & General Genetics,168,111 (1979)などに記載の方法に従ってベクター導入することができる。
酵母は、例えば、Methods in Enzymology,194,182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,75,1929 (1978)などに記載の方法に従ってベクター導入することができる。
昆虫細胞は、例えば、Bio/Technology,6,47-55 (1988)などに記載の方法に従ってベクター導入することができる。
脊椎動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology,52,456 (1973)に記載の方法に従ってベクター導入することができる。
【0083】
外来DNA及びベクターを導入した細胞の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
以上のようにして、上記ヌクレアーゼ(核酸配列認識モジュール、又は核酸配列認識モジュールとDNA切断ドメインとの複合体)を細胞内で発現させることができる。
【0084】
核酸配列認識モジュール及び/又はDNA切断ドメインをコードするRNAの宿主細胞への導入は、マイクロインジェクション法、リポフェクション法等により行うことができる。RNA導入は1回若しくは適当な間隔をおいて複数回(例えば、2〜5回)繰り返して行うことができる。
【0085】
細胞内に導入された発現ベクター又はRNA分子から、核酸配列認識モジュール又は核酸配列認識モジュールとDNA切断ドメインとの複合体(ヌクレアーゼ)が発現すると、該核酸配列認識モジュールがドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)及び/又はゲノム二本鎖DNA内の標的ヌクレオチド配列を特異的に認識して結合し、該核酸配列認識モジュール自体又は該核酸配列認識モジュールに連結されたDNA切断ドメインの作用により、標的化された部位(標的ヌクレオチド配列の全部若しくは一部又はそれらの近傍を含む数百塩基の範囲内で適宜調節できる)で当該DNAが切断される。1態様においては、ヌクレアーゼは、該ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列中の標的配列を優先的に切断する。その後、ほぼ全ての細胞種や生物種に存在する、相同組換え(配向)型修復(HDR)として知られる修復機構により、ゲノム二本鎖DNA上のトランスポゾン配列と、ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれる、トランスポゾン相同ヌクレオチド配列との間で相同組換えが生じ、ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)中に含まれる外来DNA配列がゲノム二本鎖DNA上のトランスポゾン配列の、標的化された部位に挿入される。
【0086】
一態様において、ドナーDNAとして直鎖状二本鎖DNAを用いた場合、該直鎖状二本鎖DNAは、上記環状二本鎖DNAを標的配列で切断し、直鎖状DNAとしたものであり得る。該直鎖状のドナーDNAは、宿主細胞へ導入後、ほぼ全ての細胞種や生物種に存在する、相同組換え(配向)型修復(HDR)として知られる修復機構により、ゲノム二本鎖DNA上のトランスポゾン配列と、直鎖状二本鎖DNAのドナーDNAに含まれる、トランスポゾン相同ヌクレオチド配列との間で相同組換えが生じ、ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)中に含まれる外来DNA配列がゲノム二本鎖DNA上のトランスポゾン配列の、標的化された部位に挿入される。
【0087】
本発明の方法において、2コピー以上のトランスポゾン配列を含むゲノム二本鎖DNAを有する宿主細胞を用いることにより、ゲノムDNA上の2以上の部位(トランスポゾン配列)に、外来DNAを挿入することができる。本発明の方法において、外来DNAが挿入されるゲノムDNA上のトランスポゾン配列の数は、通常2以上であり、好ましくは、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上である。理論上は、宿主細胞のゲノムDNA中に存在するトランスポゾン配列のコピー数を上限として、ゲノムDNA上の多数の部位に、所望の外来DNAを挿入することが出来る。
【0088】
一態様において、トランスポゾン相同ヌクレオチド配列及び外来DNA配列を含むドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)として、クローン化された1種類のドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)のみを用いる。この場合、当該ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれる特定の外来DNA配列を、2コピー以上、一括して、宿主細胞のゲノム二本鎖DNA中に挿入することができる。ゲノム二本鎖DNA中に挿入される当該外来DNAのコピー数は、通常2以上であり、好ましくは、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上である。理論上は、宿主細胞のゲノムDNA中に存在するトランスポゾン配列のコピー数を上限として、多コピー数の特定の外来DNAをゲノムDNA中に挿入することが出来る。特定の構造遺伝子をコードする外来DNAを用いた場合、該構造遺伝子の宿主細胞内での発現量を大幅に上昇させることが期待できる。
【0089】
一態様において、トランスポゾン相同ヌクレオチド配列及び外来DNA配列を含むドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)として、異なる外来DNA配列をそれぞれ含む2種以上のドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の混合物を用いる。この場合、2種以上の外来DNAを、一括して宿主細胞のゲノム二本鎖DNA中に挿入することができる。該2種以上の環状二本鎖プラスミドDNAの混合物は、好ましくは、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、14種以上、15種以上、16種以上、17種以上、18種以上、19種以上、20種以上、30種以上、40種以上、50種以上、60種以上、70種以上、80種以上、90種以上、100種以上の環状二本鎖プラスミドDNAの混合物である。理論上は、宿主細胞のゲノムDNA中に存在するトランスポゾン配列のコピー数を上限として、多種類の外来DNAを一括してゲノムDNA中に挿入することが出来る。例えば、様々な生物種の細胞機能/代謝経路を構成する多数の遺伝子群に含まれる各遺伝子をそれぞれ含むドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の混合物を用いることにより、当該遺伝子群を一括して宿主細胞のゲノムDNA中に挿入し、該宿主細胞内で細胞機能/代謝経路を再構成できる。
【0090】
異なる外来DNA配列をそれぞれ含む2種以上のドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の混合物を用いる場合、該ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)混合物を宿主細胞内に導入する際の、該混合物中の各種ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)の分子数の比は、任意の2種で比較して、例えば、1:0.4〜1:1.6であり、好ましくは1:0.5〜1:1.5である。このような混合比とすることにより、各外来DNAを同等の頻度で、ゲノム二本鎖DNA中に挿入することが期待できる。また、異なる外来DNA配列をそれぞれ含む2種以上のドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)において、各ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれるトランスポゾン相同ヌクレオチド配列は、同一であることが好ましい。これにより、各外来DNAを同等の頻度で、ゲノム二本鎖DNA中に挿入することが期待できる。
【0091】
一態様において、本発明の方法により得られた形質転換体(2以上の部位へ外来DNAが挿入された宿主細胞)を宿主細胞として、更に本発明の方法を適用することにより、ゲノムDNA上のいっそう多数の部位(該200bp以上のヌクレオチド配列、例、トランスポゾン配列)に、外来DNAを挿入することができる。本発明の方法においては、該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)における相同組換えにより、外来DNAを該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)内に挿入するが、この相同組換えにより、ゲノム二本鎖DNA上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に由来する配列の一方(DSB部位の5’側の配列)とドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に相同なヌクレオチド配列に由来する配列の一方(DSB部位の3’側の配列)とが連結し、更に、ゲノム二本鎖DNA上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に由来する配列の他方(DSB部位の3’側の配列)とドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に相同なヌクレオチド配列に由来する配列の他方(DSB部位の5’側の配列)とが連結することにより、該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)が新たに2か所生じる(即ち、該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)のコピー数が増幅される)。この新たに生じた該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)を含む形質転換体を宿主細胞として、本発明の方法を適用することにより、ゲノムDNA上のいっそう多数の部位(該200bp以上のヌクレオチド配列、例、トランスポゾン配列)に、外来DNAを挿入することができる。このように、本発明の方法を複数回繰り返して行う場合、各回において使用するドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に相同なヌクレオチド配列は同一である。また、各回において使用するドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)は、異なる選択マーカー遺伝子をそれぞれ含むことが好ましい。本発明の方法を繰り返し適用する場合の繰り返しの数の上限は、理論的にはないが、操作の簡便の観点から、通常10回以内、好ましくは5回以内、より好ましくは3回以内である。
【0092】
本発明は、遺伝子組み換え細胞の製造方法であって、
2コピー以上点在する、200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)を含むゲノム二本鎖DNAを有する宿主細胞内において、
該ゲノム二本鎖DNA、並びに
該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列、及び外来DNA配列を含むドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)を、
該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)中の選択された標的ヌクレオチド配列と特異的に結合し、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断するヌクレアーゼと接触し、
該ゲノム二本鎖DNA上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)と該ドナーDNA(例、環状二本鎖DNA)に含まれる該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)又はその部分配列と相同なヌクレオチド配列との間で相同組換えを生じさせることにより、該外来DNA配列を、ゲノム二本鎖DNAに含まれる2コピー以上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)に挿入することを含み、
該相同なヌクレオチド配列は、該標的ヌクレオチド配列を含み、該標的ヌクレオチド配列内でDNAを切断した場合、該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性及び長さを有する、方法を提供する。
【0093】
上記方法における該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)、200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)と相同な配列、外来DNA、標的ヌクレオチド配列、ヌクレアーゼ、標的化された部位に関しては、上記と同様である。
【0094】
上記方法は、細胞を培養すること、遺伝子組み換え細胞を選択することを更に含み得る。遺伝子組み換え細胞を選択することは、例えば、ゲノム上の200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)の遺伝子座に隣接する塩基配列に基づいて設計したプライマーと、プラスミド上の該200bp以上のヌクレオチド配列(例、トランスポゾン配列)と相同な配列に隣接する塩基配列に基づいて設計したプライマーにより、形質転換体株のDNAを鋳型としてPCRを行い、電気泳動の際、予想される分子量の位置にバンドが出現するか否かで、外来DNAが正確に導入されたか否かを判定し、その外来DNAが正確に導入された形質転換体株を選択することによって行われる。
【0095】
以下に、本発明を実施例により説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
[実施例1]
標的配列5’-acgtcttagaacggtctga-3’(配列番号3)(
図1)のRNA配列、5’-acgucuuagaacggucuga-3’(配列番号5)を含むガイドRNAを用いて、CRISPR/Cas9による相同組換えにより、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのゲノム上に存在するトランスポゾンTy1へ、pTy1プラスミドの挿入を行った。具体的には、Ty1レトロトランスポゾン内のTy1配列(Ty1 HR sequence)(配列番号1)をトランスポゾン相同配列として、該相同配列及び導入する遺伝子をPHM661等のプラスミドにクローニングして(
図2)pTy1プラスミドを調製した。また、iCas9及びgTy1(ガイドRNA)をコードするDNA配列を含むプラスミドを調製した。形質転換により、これらを出芽酵母に導入した。
【0097】
用いた培地の組成に関しては、以下の通りである(Methods in Yeast Genetics, 1997 Edition (Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照)。
1. YPD寒天培地
ポリペプトン 20 g
Yeast extract 10 g
Glucose 20 g
agar 20 g
イオン交換水 1 L
オートクレーブ後、100 mm diameter dishに小分けする。
2. 形質転換用試薬
4 M LiAc 5 μl
1 M DTT 10 μl
60% PEG (average MW. 4000) 67 μl
dH2O 18 μl
計 100 μl
3. アミノ酸要求性選択培地
Yeast Nitrogen Base 6.7 g
Glucose 20 g
Agar 20 g
x20 Amino acid drop (-Leu, -URA) 50 ml
10 mg/ml Leucine 4 ml
10 mg/ml Leucine 10 ml
add dH2O up to 1 L
NaOHでpHを中性付近に調整する。
オートクレーブ後、100 mm diameter dishに小分けする。
*x20 Amino acid drop (-Leu, -URA)
Adenine sulfate 400 mg
L-Tryptophan 400 mg
L-Histidine HCl 400 mg
L-Arginine HCl 400 mg
L-Methionine 400 mg
L-Tyrosine 600 mg
L-Isoleucine 600 mg
L-Lysine HCl 600 mg
L-Phenylalanine 1 g
L-Glutamic acid 2 g
L-Aspartic acid 2 g
L-Valine 3 g
L-Threonine 4 g
L-Serine 8 g
Add dH2O up to 1 L
【0098】
[実施例2]
ガイドRNAのgTy1存在下又は非存在下で、形質転換を行い、pTy1の染色体への組換え効率を算出した。pTy1の組換え効率は、コントロールの、Ty1を含まないベクターの染色体への組換え効率と同様に、gTy1有無による影響を受けなかった(
図3)。
【0099】
[実施例3]
CRISPR/Cas9によってpTy1が導入された染色体Ty1部位の塩基配列解析を行った(
図4)。形質転換体10株について解析したが、そのすべてにおいて、塩基配列に変化はなかった。このことにより、染色体上のTy1部位への、相同組換えによるpTy1の正確な導入が、高い再現性で達成されることが示された。
【0100】
[実施例4]
次に、ガイドRNAのgTy1存在下又は非存在下で形質転換を行い、pTy1が、染色体上のTy1に正確に導入された形質転換体株の頻度を算出した。ゲノム上のTy1遺伝子座に隣接する塩基配列に基づいて設計したプライマーと、プラスミド上のpTy1に隣接する塩基配列に基づいて設計したプライマーにより、形質転換体株のDNAを鋳型としてPCRを行い、電気泳動の際、予想される分子量の位置にバンドが出現するか否かで、Ty1が正確に導入されたか否かを判定した。ネガティブコントロールとして、Ty1を含まないベクターを用いた。gTy1存在下で、pTy1が出芽酵母染色体上のTy1に正確に導入されることが示された(
図5)。
【0101】
[実施例5]
形質転換体株の染色体DNAをパルスフィールド電気泳動によって分離し、マーカーとしての出芽酵母染色体及び形質転換前の親株の染色体の泳動パターンと比較した。各形質転換体株のDNAの泳動パターンは、親株のDNAの泳動パターンと同一であった。このことにより、CRITGIシステムによって、形質転換体株の染色体腕の転座などのゲノムの不安定化は起こらないことが確認された(
図6)。また、この結果により、CRISPR/Cas9はPlasmid上のTy1配列を優先的に切断しており、この切断されたplasmidが染色体上のTy1レトロトランスポゾン領域に相同組換え反応を介して挿入されていることが示唆された。
【0102】
[実施例6]
染色体中に導入されたpTy1の数を調査した(
図7)。
図7中、“Integration”はpTy1中のTy1配列をSalIでカットし、形質転換を行った。“CRISPR/Transposon”はCRITGIを使用した。染色体中のpTy1数の測定にはRT-qPCRを使用した。ACT1をリファレンスとし、pTy1中のLEU2遺伝子数を計測した。その結果、“Integration”では1コピーが、“CRISPR/Transposon”では1〜11コピーのpTy1が挿入されたことが、明らかとなった。
【0103】
[実施例7]
CRITGIにより、
図8の左上に示された構成の相同組換えを行い、得られた形質転換体株に対して、更にCRITGIにより
図8右上に示されたプラスミドによる相同組換えを行った。1回目及び2回目の相同組換えのそれぞれの段階で、得られた形質転換体株中のTy1及びAmp遺伝子座のコピー数を測定した。結果を
図8下のグラフに示す。2回目の相同組換えにより、ゲノム中に挿入される配列のコピー数が更に飛躍的に増大し得ることが判明した。
【0104】
[実施例8]
1回目のCRITGIによりLEU2マーカーを導入し、得られた形質転換体株に更に2回目のRITGIを行ってURA3マーカーを導入した。得られた形質転換体株を解析したところ、最初に導入したpTy1(LEU2)が2回目のCRITGIではpTy1(URA3)の導入部位として利用されることが判明した(
図9)。
【0105】
[実施例9]
宿主株として出芽酵母株BY4742+DpaA gene integrated(Genotype: Matαtrp1Δhis3Δleu2Δura3ΔTy1 locus:DpaA(LEU2))を用い、以下の表1、
図10、
図11に示す、大腸菌のリジン合成経路遺伝子群(DpaA、DpaB、DpaC、DpaD、DpaE、DpaF、LysA)のいずれか1つを含むプラスミド(PHM721、PHM712、PHM716、PHM703、PHM717、PHM704、PHM724)とPHM663のすべてを導入して形質転換した。PHM663はiCas9、gTy1(ガイドRNA)、URA3を含むプラスミドである。
【0106】
【表1】
【0107】
ヒスチジン、ウラシルを除去した培地で形質転換体を同定した。16株の形質転換酵母株について、導入した遺伝子をPCRで確認した。その結果、それぞれの株からは、
図12に示す通り、導入された遺伝子が検出された。多くの株において、1度の形質転換操作により、複数種の遺伝子が導入されていた(
図13)。