【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、イヌリンはポリデキストロースと比較して、酸味、苦渋みがなく呈味を改良できることが知られている。しかしながら、本発明者らはイヌリンを高濃度で含有する飲料を比較的大量に摂取する際にイヌリン特有の雑味を感じること、特に加熱殺菌を行うと雑味を供し飲みにくいことを見出した。
【0008】
本発明の目的は、整腸作用を有するイヌリンを高濃度に含み、かつイヌリン特有の雑味が抑制された容器詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、イヌリン高濃度条件においてイヌリンの雑味抑制効果を有する方法を鋭意検討し、カフェイン量を一定の範囲に制御することで、イヌリン特有の雑味を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下に関する。
1)イヌリンの含有量が1〜7g/100mlであり、
カフェインの含有量が1〜250mg/100mlである、
容器詰飲料。
2)イヌリンの含有量が1.5〜6.0g/100mlである、1)に記載の飲料。
3)イヌリンの含有量が2.0〜5.5g/100mlである、1)に記載の飲料。
4)カフェインの含有量が10〜200mg/100mlである、1)〜3)のいずれかに記載の飲料。
5)カフェインの含有量が10〜150mg/100mlである、1)〜3)のいずれかに記載の飲料。
6)Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧1.8Xを満たす、1)〜5)のいずれかに記載の飲料。
7)Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧3.6Xを満たす、1)〜5)のいずれかに記載の飲料。
8)整腸作用を有する、1)〜7)のいずれかに記載の飲料。
9)500ml以上の容器詰飲料である、1)〜8)のいずれかに記載の飲料。
10)容器詰飲料の製造方法であって、当該飲料中のイヌリンの含有量を1〜7g/100mlに調整する工程、および当該飲料中のカフェインの含有量を1〜250mg/100mlに調整する工程を含む、前記製造方法。
11)容器詰飲料におけるイヌリン特有の雑味を抑制する方法であって、当該飲料中のイヌリンの含有量を1〜7g/100mlに調整し、および当該飲料中のカフェインの含有量を1〜250mg/100mlに調整することによる、前記抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、整腸作用を有するイヌリンを高濃度に含み、かつイヌリン特有の雑味が抑制された容器詰飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の容器詰飲料(以下、「本発明の飲料」とも記載する)、及び関連する方法などについて、以下に説明する。
【0013】
(本発明の飲料)
本発明の飲料は、イヌリン高濃度(1%以上)存在下であっても、カフェインを特定量範囲で含有させることで、イヌリン由来の雑味が抑えられ、飲みやすさが高められたものである。
【0014】
本発明のひとつの態様として、カフェインを配合したエナジードリンクをあげることができる。エナジードリンクとは、カフェインや糖分、パントテトン酸などの成分を含み、清涼飲料水として販売されている飲料である。他の清涼飲料水に比べてカフェインの含有量が多い傾向にある。
【0015】
また、日常生活の様々な場面で飲用することができ、カフェインを含むという点で、コーヒー飲料はより好適な態様の1つである。本発明でいうコーヒー飲料とは、コーヒー分
を原料として使用するものをいう。ここで、コーヒー分とは、コーヒー豆由来の成分を含有するものをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。
【0016】
本発明のコーヒー飲料に用いるコーヒー豆の種類は、特に限定されない。栽培樹種としては、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などが挙げられ、コーヒー品種としては、モカ、ブラジル、コロンビア、グアテマラ、ブルーマウンテン、コナ、マンデリン、キリマンジャロなどが挙げられる。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドし
て用いてもよい。焙煎コーヒー豆の焙煎方法については特に制限はなく、焙煎温度、焙煎環境についても何ら制限はなく、通常の方法を採用できるが、コーヒー豆の焙煎度L値は10〜60が好ましい。さらに、その焙煎コーヒー豆からの抽出方法についても何ら制限はなく、例えば焙煎コーヒー豆を粗挽き、中挽き、細挽きなどに粉砕した粉砕物から水や温水(0〜100℃)を用いて10秒〜30分間抽出する方法が挙げられる。抽出方法は、ドリップ式、サイフォン式、ボイリング式、ジェット式、連続式などがある。
【0017】
本発明のコーヒー飲料は、加熱殺菌して製造される容器詰コーヒー飲料である。本明細書でいう加熱殺菌とは、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法とをいい、120℃で4分相当(致死値F0=3.1)以上の加熱殺菌をいう。
【0018】
本発明の効果は、加熱殺菌強度が強い方が顕著であるので、レトルト殺菌処理を行う缶入りの飲料に好適に適用される。缶入りコーヒー飲料の場合は、コーヒー分に対して、所定量及び濃度の糖類を配合し、所望によりその他原料を混合した上で、金属缶に充填後、食品衛生法に定められた殺菌条件でレトルト殺菌処理して製造することができる。
【0019】
上述のとおり、本発明のコーヒー飲料には、所望によりその他原料を配合することができる。その他原料としては、乳成分、抗酸化剤、pH調整剤、乳化剤、香料等が挙げられる。
【0020】
本発明のコーヒー飲料のpHとしては4〜7が好ましく、飲料の安定性の面からpH5〜7がより好ましく、pH5〜7が特に好ましい。pH調整剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、本発明の効果の観点からアルカリ性ナトリウム塩又はアルカリ性カリウム塩が好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが最も好ましい。
【0021】
(イヌリン)
本発明の飲料に含有されるイヌリンの含有量は、1〜7g/100ml、好ましくは1.5〜6.0g/100ml、さらに好ましくは2.0〜5.5g/100mlである。
【0022】
イヌリンは、種々の植物に含まれる多糖類の一群であり、グルコースにフルクトースが複数個結合した重合体である。水溶性食物繊維の一種であり、腸内において人体に有益な細菌を増やすのに貢献することが知られている(腸内有益菌増殖促進作用)。イヌリンは消化されることなく胃と十二指腸を通過し、腸内の細菌にとって有益な物質となる。
【0023】
イヌリンは、整腸作用を有することから、腸や消化管を含むお腹の調子を整える効果を有する。具体的には、腸内機能、腸の状態、大腸環境の改善、改良、向上作用を有する。そして、腸運動を促進し、便秘の軽減や予防に効果がある。
【0024】
本発明に係る飲料に使用可能なイヌリンは、フラクトシル単位が主にβ−2,1結合に
よって結合され、フラクタンの鎖長が2〜100の範囲であり、好ましくは2〜60の範囲である。イヌリン中の結合の少なくとも90%がβ−2,1型である。例えば、チコリ
由来のイヌリンとして、Frutafit(商標)またはRaftiline(商標)がある。また、多数
の植物種から当業者に周知の方法により得ることができる。
【0025】
イヌリンの含有量は、HPLC法などの公知の方法を用いて定量することができる。例えば、GC−MS、HPLC法などの公知のいずれの方法で測定してもよい。
【0026】
イヌリンの平均重合度の分析は、以下のようにして行うことができる。なお、重合度とは、イヌリン中のサッカライド単位(フルクトース及びグルコース単位)の数であり、平均重合度は、例えば、以下のようにして、HPLC、GC、HPAEC等の通常の分析法によって求
めた分析結果のピークのトップを平均重合度とすることができる。カラムとして、例えば、信和化工製のULTRON PS-80N(8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度
;50℃)、あるいは、TOSOH製のTSK-GEL G3000PWXL(7.8×300mm)(溶媒;水、流速;0.5ml/min、温度;50℃)を用い、検出器として示差屈折計を使用する
ことによって確認された生成イヌリンの重合度を、標準物質として、例えば、植物由来のイヌリンであるオラフティ社のラフテリンST(平均重合度11)とラフテリンHP(平均重合度22)を用いて作成した検量線により求めることができる。なお、イヌリンの重合度の分析に関しては、Loo等(Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 3
5(6)、525−552(1995)の方法に基づいて実施することができる。
【0027】
(カフェイン)
本発明の飲料では、カフェインの含量が飲料の容量に対して、1〜250mg/100ml、好ましくは10〜200mg/100ml、さらに好ましくは10〜150mg/100mlである。カフェインの含量が250mg/100mlを超えると、カフェイン特有の味が強くなり、飲みにくくなってしまう。
【0028】
また、本発明のコーヒー飲料では、カフェインの含量がコーヒー飲料の容量に対して、1〜250mg/100ml、好ましくは10〜200mg/100ml、さらに好ましくは10〜150mg/100mlである。カフェインの含量が250mg/100mlを超えると、カフェイン特有の味が強くなり、飲みにくくなってしまう。
【0029】
本発明のコーヒー飲料において、カフェインの含有量を調整する方法は特に限定されず、例えば、カフェインが除去されたコーヒー豆を使用してもよく、コーヒー抽出液からカフェインを除去してもよいし、公知の方法にてカフェインを増強してもよい。カフェインを除去する方法としては、例えば、精製後のコーヒー生豆からカフェインを除去する方法や、育種技術及び遺伝子組換え技術などによりカフェインを除去したコーヒー豆を用いる方法、コーヒー生豆を有機溶媒・水・超臨界流体化した二酸化炭素などの溶媒に浸してカフェインを選択的に除去する方法、活性炭及びイオン交換樹脂などによりコーヒー抽出液からカフェインを吸着除去する方法などが挙げられる。
【0030】
カフェインの含有量は公知の方法で測定することができ、例えばHPLC法、LC−MS法、GC−MS法、LC法、GC法、近赤外線法などの分光法などによりに測定することができる。一例として、試料となる飲料をメンブランフィルター(ADVANTEC製
酢酸セルロース膜0.45μm)で濾過し、以下の条件に設定したHPLCに試料を供
すことにより行うことができる。本明細書においては、特に言及がなければ、当該方法によりカフェイン含量を定量するものとする。
(カフェインを定量するための条件)
・カラム TSK−gel ODS−80TsQA(4.6mmφx150mm、東ソー株式会社)
・移動相A 水:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
・移動相B アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=1000:0.5
・流速 1.0ml/min
・カラム温度 40℃
・グラディエント条件
分析開始から5分後まではA:B=95:5で保持
5分から20分まででA:B=5:95
20分から25分までA:B=5:95で保持
25分から26分まででA:B=95:5
26分から30分までA:B=95:5で保持
・注入量 5.0μl
・検出波長 280nm
・標準物質 無水カフェイン(ナカライテスク株式会社)。
(カフェインとイヌリンの含有量比)
本発明の飲料は、イヌリン高濃度(1%以上)存在下であっても、カフェインを特定量範囲で含有させることで、加熱殺菌由来の雑味が抑えられ、飲みやすさが高められたものである。ここで、カフェインとイヌリンの含有量比が以下の関係を満たす場合には、さらに高い効果が得られる:
Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧1.8X
Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧3.6X。
【0031】
また、本発明のコーヒー飲料は、イヌリン高濃度(1%以上)存在下であっても、カフェインを特定量範囲で含有させることで、加熱殺菌由来の雑味が抑えられ、コーヒー風味が向上し、飲みやすさが高められたものである。ここで、カフェインとイヌリンの含有量比が以下の関係を満たす場合には、さらに高い効果が得られる:
Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧1.8X
Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係が、Y≧3.6X。
【0032】
(容器詰飲料)
本発明の飲料は、容器詰の形態で提供される。容器の形態には、缶等の金属容器、ペットボトル、紙パック、瓶、パウチなどが含まれるが、これらに限定されない。例えば、本発明の飲料を容器に充填した後にレトルト殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌して容器に充填する方法を通じて、殺菌された容器詰製品を製造することができる。
【0033】
本発明の容器詰飲料は容器から直接飲用するものだけではなく、たとえばバックインボックスなどのバルク容器、あるいはポーション容器などに充填したものを飲用時に別容器に注ぐことによって飲用に供することもできる。また、濃縮液を飲用に供する際に希釈することもできる。その場合、飲用に供する際の各種成分濃度が本発明の濃度範囲にあれば本発明の効果が得られることは言うまでもない。従って、これらの飲料も本発明の態様である。
【0034】
容器の容量は、本発明の飲料はイヌリンの雑味が抑制されており、「ごくごく飲める」飲料であるため、容量の大きいものが好ましく、例えば500ml容量以上であり、550mlあるいは600mlであっても良い。
【0035】
(飲料の製造方法)
本発明は、別の側面では容器詰飲料の製造方法である。当該方法は、以下の工程を含む:当該飲料中のイヌリンの含有量を1〜7g/100mlに調整する工程、当該飲料中のカフェインの含有量を1〜250ml/100mlに調整する工程。
【0036】
ここで、上記各成分の含有量は、イヌリンは1.5〜6.0g/100mlまたは2.0〜5.5g/100mlであってもよく、カフェインは10〜200mg/100mlまたは10〜150mg/100mlであってもよい。加えて、Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係がY≧1.8Xまた
はY≧3.6Xの関係を満たすとさらに好ましい。本発明の好ましい態様は、容器詰コーヒー飲料の製造方法である。
【0037】
上記調整工程は、そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。
【0038】
(イヌリン特有の雑味を抑制する方法)
本発明は、別の側面ではイヌリン特有の雑味を抑制する方法である。当該方法は、以下を含む:当該飲料中のイヌリンの含有量を1〜7g/100mlに調整する工程、当該飲料中のカフェインの含有量を1〜250ml/100mlに調整する工程。
【0039】
ここで、上記各成分の含有量は、イヌリンは1.5〜6.0g/100mlまたは2.0〜5.5g/100mlであってもよく、カフェインは10〜200mg/100mlまたは10〜150mg/100mlであってもよい。加えて、Y:カフェイン含有量(mg/100ml)とX:イヌリン含有量(g/100ml)の関係がY≧1.8XまたはY≧3.6Xの関係を満たすとさらに好ましい。
【0040】
上記調整工程は、そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。
【0041】
(用途)
本発明の飲料にはイヌリンが高含有量で含まれることから、整腸作用を有し、腸や消化管を含むお腹の調子を整える飲料が提供される。具体的には、腸内機能、腸の状態、大腸環境の改善、改良、向上作用を有する飲料であり、また腸運動を促進し、便秘の軽減や予防に効果がある飲料でもある。
【0042】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0043】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
イヌリンを配合したコーヒー飲料を製造し、殺菌処理した後、300ml容器に充填して容器詰コーヒー飲料を製造した。製造した容器詰コーヒー飲料のイヌリン、カフェインを測定した結果を表1に示す。ここで、イヌリンとしてはフジ日本精糖株式会社の「フジFF」を1.0〜8g/100mlとなるように添加した。
【0045】
【表1】
【0046】
訓練されたパネラーにより、得られたコーヒー飲料について、イヌリンの雑味の程度、およびカフェインの香味を評点法による官能試験により評価した。専門パネリスト3名が、それらの程度を総合的に判断した:
5:イヌリンの後味の雑味を感じない
4:イヌリンの後味の雑味がほとんどない
3:イヌリンの後味の雑味がやや感じられるが飲みやすい
2:イヌリンの後味の雑味を感じるが飲める
1:イヌリンの後味の雑味は少ないが、カフェイン特有の香味が強く飲みにくい
0:イヌリンの後味の雑味が強く、飲みにくい
得られた飲料のイヌリン及びカフェインの含有量とその評価結果は、表1に記載のとおりである。
【0047】
表1の結果より、イヌリン高濃度条件においても、カフェイン量を一定の範囲に制御することで、イヌリン特有の雑味を抑えることができるとともにコーヒー風味を向上させ、飲みやすさが増すことが判明した。