【解決手段】交流の溶接電流Iwを通電して溶接する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、溶接電流Iwの絶対値の平均値を検出し、この平均値が予め定めた平均電流設定値と等しくなるように、溶接電流Iwの振幅を変化させる振幅制御を行う。さらに、平均値と平均電流設定値との差の絶対値が基準値以上のときにのみ上記の振幅制御を行う。さらに、上記の振幅制御を、アークスタートから所定期間中だけ行う。これにより、溶接ケーブルが長いためにインダクタンス値が大きくなり、溶接電流波形が変化しても、平均電流値を所定値に維持することができるので、溶け込み深さを安定化することができる。
電極マイナス極性期間中の電極マイナス極性電流及び電極プラス極性期間中の電極プラス極性電流から形成される交流の溶接電流を通電して溶接する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記溶接電流の絶対値の平均値を検出し、
前記平均値が予め定めた平均電流設定値と等しくなるように前記溶接電流の振幅を変化させる振幅制御を行う、
ことを特徴とする交流非消耗電極アーク溶接制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶接電源と溶接トーチ(アーク発生個所)とを接続する溶接ケーブルが数mと短い場合には、溶接ケーブルのインダクタンス値が小さいために、設定された溶接電流波形と実際に通電する溶接電流の波形とは略一致する。
【0007】
しかし、溶接ケーブルの長さが10m以上となる場合、時には50mになる場合もあり、このような場合には溶接ケーブルのインダクタンス値が大きくなる。通電路のインダクタンス値が大きくなると溶接電流の変化速度が緩やかになるために、設定された溶接電流波形と実際に通電する溶接電流の波形とが異なるようになる。この結果、平均電流設定値に比べて通電する溶接電流の平均値が小さくなる。溶接電流の平均値は溶け込み深さと相関するので、溶接電流の平均値が小さくなると溶け込み深さが小さくなり、溶接品質が悪くなる。
【0008】
そこで、本発明では、溶接ケーブルが長い場合でも、通電する溶接電流の平均値が平均電流設定値と常に等しくなる非消耗電極アーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
電極マイナス極性期間中の電極マイナス極性電流及び電極プラス極性期間中の電極プラス極性電流から形成される交流の溶接電流を通電して溶接する交流非消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記溶接電流の絶対値の平均値を検出し、
前記平均値が予め定めた平均電流設定値と等しくなるように前記溶接電流の振幅を変化させる振幅制御を行う、
ことを特徴とする交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項2の発明は、前記平均値と前記平均電流設定値との差の絶対値が基準値以上のときにのみ前記振幅制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項3の発明は、前記振幅制御を、アークスタートから所定期間中だけ行う、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0012】
請求項4の発明は、溶接中の電極マイナス極性比率を検出し、
前記電極マイナス極性比率が予め定めた設定値と等しくなるように前記溶接電流の波形パラメータを変化させる波形制御を行う、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0013】
請求項5の発明は、前記電極マイナス極性比率は、1周期に占める前記電極マイナス極性期間の時間比率である、
ことを特徴とする請求項4に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0014】
請求項6の発明は、前記電極マイナス極性比率は、前記溶接電流(絶対値)の1周期の積分値に占める前記電極マイナス極性電流(絶対値)の積分値の比率である、
ことを特徴とする請求項4に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0015】
請求項7の発明は、前記波形制御を、アークスタートから所定期間中だけ行う、
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0016】
請求項8の発明は、前記溶接電流の周期を検出し、
前記周期が予め定めた設定値と等しくなるように前記溶接電流の波形パラメータを変化させる周期制御を行う、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の交流非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶接ケーブルが長い場合でも、通電する溶接電流の平均値が平均電流設定値と常に等しくなる。このために、高品質の溶接が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図において、極性切換時に数百Vの高電圧を印加する回路については、図示は省略している。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0021】
インバータ回路INVは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、整流及び平滑した直流電圧を、後述する電流誤差増幅信号Eiによるパルス幅変調制御によってインバータ制御を行い、高周波交流を出力する。
【0022】
インバータトランスINTは、高周波交流電圧をアーク溶接に適した電圧値に降圧する。
【0023】
2次整流器D2a〜D2dは、降圧された高周波交流を直流に整流する。
【0024】
電極プラス極性トランジスタPTRは後述する電極プラス極性駆動信号Pdによってオン状態になり、溶接電源の出力は電極プラス極性EPになる。電極マイナス極性トランジスタNTRは後述する電極マイナス極性駆動信号Ndによってオン状態になり、溶接電源の出力は電極マイナス極性ENになる。
【0025】
リアクトルWLは、リップルのある出力を平滑する。
【0026】
溶接トーチ4の先端には電極1が装着されており、電極1と母材2との間にアーク3が発生する。アーク3中を交流の溶接電流Iwが通電し、電極1と母材2との間に交流の溶接電圧Vwが印加する。溶接電流Iwは、母材2→アーク3→電極1の方向に通電するとき(電極マイナス極性期間Tenのとき)を+側とするのが慣例である。
【0027】
溶接電源の2つの出力端子(図示は省略)と溶接トーチ4又は母材2とは溶接ケーブル5、6で接続されている。この溶接ケーブル5、6が長いときはインダクタンス値が大きくなり、溶接電流Iwの変化速度が緩やかになる。インダクタンス値は、溶接ケーブル5、6の引き回し状態によっても大きく変化する。溶接ケーブル5、6をぐるぐる巻きにするとインダクタンス値は非常に大きくなる。
【0028】
電極マイナス極性期間設定回路TNRは、予め定めた電極マイナス極性期間設定信号Tnrを出力する。電極プラス極性期間設定回路TPRは、予め定めた電極プラス極性期間設定信号Tprを出力する。
【0029】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwの絶対値を検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0030】
電流比較回路CMは、上記の電流検出信号Idを入力として、電流検出信号Idの値が予め定めた極性切換電流値以下のときはHighレベルとなる電流比較信号Cmを出力する。極性切換電流値は、例えば50Aに設定される。
【0031】
タイマ回路TMは、上記の電極マイナス極性期間設定信号Tnr、上記の電極プラス極性期間設定信号Tpr及び上記の電流比較信号Cmを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tmを出力する。タイマ信号Tmが1及び2のときが電極マイナス極性期間Tenとなり、3及び4のときが電極プラス極性期間Tepとなる。
1)電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間中は、タイマ信号Tm=1を出力する。
2)続けて、電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間が経過してから、電流比較信号CmがHighレベルに変化するまでの遷移期間中は、タイマ信号Tm=2を出力する。
3)続けて、電流比較信号CmがHighレベルに変化してから、電極プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間中は、タイマ信号Tm=3を出力する。
4)続けて、電極プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間が経過してから、電流比較信号CmがHighレベルに変化するまでの遷移期間中は、タイマ信号Tm=4を出力する。
5)上記の1)〜4)を繰り返す。
【0032】
2次側駆動回路DVは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tmが1又は2のときは上記の電極マイナス極性駆動信号Ndを出力し、タイマ信号Tmが3又は4のときは上記の電極プラス極性駆動信号Pdを出力する。これによって、タイマ信号Tmが1又は2のときは、電極マイナス極性トランジスタNTRがオン状態となり、電極マイナス極性期間Tenとなる。タイマ信号Tmが3又は4のときは、電極プラス極性トランジスタPTRがオン状態となり、電極プラス極性期間Tepとなる。
【0033】
電極マイナス極性電流振幅設定回路INRは、予め定めた電極マイナス極性電流振幅設定信号Inrを出力する。
【0034】
平均電流検出回路IADは、上記の電流検出信号Idを入力として、平均値を算出して、平均電流検出信号Iadを出力する。平均値の算出は、例えば、電流検出信号Idを1〜5Hz程度のカットオフ周波数のローパスフィルタに通すことによって行う。また、平均値の算出は、電流検出信号Idを0.1ms程度ごとにサンプリングして、溶接電流波形の所定周期ごとに平均値を算出しても良い。
【0035】
平均電流設定回路IARは、予め定めた平均電流設定信号Iarを出力する。
【0036】
平均電流誤差増幅回路EAは、上記の平均電流設定信号Iar及び上記の平均電流検出信号Iadを入力として、両値の誤差を増幅して、平均電流誤差増幅信号Ea=G・(Iar−Iad)を出力する。Gは、増幅率であり、例えば0.2〜2程度に設定される。この増幅率Gは、振幅制御系が安定になるように調整される。
【0037】
振幅制御回路INCは、上記の電極マイナス極性電流振幅設定信号Inr及び上記の平均電流誤差増幅信号Eaを入力として、溶接中は平均電流誤差増幅信号Eaを積分して、電極マイナス極性電流振幅制御信号Inc=Inr+∫Ea・dtを出力する。Inc>0である。
【0038】
電極プラス極性電流振幅制御回路IPCは、上記の電極マイナス極性電流振幅制御信号Incを入力として、予め定めた関数によって電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcを算出して出力する。関数は、例えばIpc=Inc+50である。このときは、溶接電流Iwは非平衡波形となる。また、関数を、Ipc=Incとしても良い。このときは、両極性の振幅が同一値となり、溶接電流Iwは平衡波形となる。Ipc>0である。
【0039】
上記の平均電流誤差増幅回路EA、上記の振幅制御回路INC及び上記の電極プラス極性電流振幅制御回路IPCによって、平均電流検出信号Iadの値が平均電流設定信号Iarの値と等しくなるように、電極マイナス極性電流Ien及び電極プラス極性電流Iepの振幅が制御される(振幅制御)。
【0040】
切換回路SWは、上記のタイマ信号Tm、上記の電極マイナス極性電流振幅制御信号Inc及び上記の電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcを入力として、以下の処理を行い、電流設定信号Irを出力する。
1)タイマ信号Tm=1のときは、電極マイナス極性電流振幅制御信号Incを電流設定信号Irとして出力する。
2)タイマ信号Tm=2のときは、電流設定信号Ir=0を出力する。
3)タイマ信号Tm=3のときは、電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcを電流設定信号Irとして出力する。
4)タイマ信号Tm=4のときは、電流設定信号Ir=0を出力する。
【0041】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。これにより、溶接電源は定電流特性となり、交流の溶接電流Iwが通電する。
【0042】
図2は、
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は電流比較信号Cmの時間変化を示し、同図(C)は電極マイナス極性駆動信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は電極プラス極性駆動信号Pdの時間変化を示し、同図(E)は電流設定信号Irの時間変化を示す。同図(A)に示す溶接電流Iwは、0から上側が電極マイナス極性電流Ienであり、0から下側が電極プラス極性電流Iepである。同図は、溶接電流Iwの電極プラス極性EPの振幅が電極マイナス極性ENの振幅よりも大きい非平衡波形の場合である。以下、同図を参照して、各信号の動作について説明する。
【0043】
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接電流Iw(電極プラス極性電流Iep)の絶対値が予め定めた極性切換電流値以下となるので、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。これに応動して、同図(C)に示すように、電極マイナス極性駆動信号NdがHighレベルとなり、電極マイナス極性トランジスタNTRがオン状態となり、電極マイナス極性ENへと切り換わる。同時に、同図(D)に示すように、電極プラス極性駆動信号PdはLowレベルになり、電極プラス極性トランジスタPTRはオフ状態となる。時刻t1において、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0から電極マイナス極性電流振幅制御信号Incに切り換わる。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、負の値の極性切換電流値から正の値の極性切換電流値へと瞬時的に変化する。
【0044】
時刻t1〜t2の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、極性切換電流値から電極マイナス極性電流振幅制御信号Incの値まで傾斜を有して増加する。この傾斜が溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。インダクタンス値が大きいほど傾斜は緩やかになる。時刻t2〜t3の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは電極マイナス極性電流振幅制御信号Incの値となる。
【0045】
時刻t3において、時刻t1からの経過時間が電極マイナス極性期間設定信号Tnrの値に達すると、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは傾斜を有して減少する。この傾斜も溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。そして、時刻t4において、溶接電流Iwの値が極性切換電流値以下となると、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。
【0046】
時刻t4において、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルになると、同図(D)に示すように、電極プラス極性駆動信号PdがHighレベルとなり、電極プラス極性トランジスタPTRがオン状態となり、電極プラス極性EPへと切り換わる。同時に、同図(C)に示すように、電極マイナス極性駆動信号NdはLowレベルになり、電極マイナス極性トランジスタNTRはオフ状態となる。時刻t4において、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0から正の値の電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcに切り換わる。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、正の値の極性切換電流値から負の値の極性切換電流値へと瞬時的に変化する。
【0047】
時刻t4〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、極性切換電流値から電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcの値まで傾斜を有して増加する。この傾斜も溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。時刻t5〜t6の期間中は、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcの値となる。
【0048】
時刻t6において、時刻t4からの経過時間が電極プラス極性期間設定信号Tprの値に達すると、同図(E)に示すように、電流設定信号Irは0に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは傾斜を有して減少する。この傾斜も溶接ケーブルによるインダクタンス値によって決まる。そして、時刻t7において、溶接電流Iwの値が極性切換電流値以下となると、同図(B)に示すように、電流比較信号Cmが短時間Highレベルとなる。
【0049】
以後、上記の動作を繰り返すことになる。
【0050】
時刻t1〜t7が1周期となる。溶接ケーブルによるインダクタンス値によって、時刻t1〜t2、時刻t3〜t4、時刻t4〜t5及び時刻t6〜t7の傾斜が影響を受けるので、平均電流値が変化することになる。したがって、本実施の形態では、溶接電流Iwの絶対値の平均値を平均電流検出信号Iadとして出力し、この平均電流検出信号Iadの値が予め定めた平均電流設定信号Iarと等しくなるように、電極マイナス極性電流振幅制御信号Inc及び電極プラス極性電流振幅制御信号Ipcをフィードバック制御している。これにより、溶接電流Iwの正負の振幅が制御されるので、平均電流値が所定値となる。同図は、溶接電流波形が非平衡波形の場合であるが、平衡波形の場合も同様である。さらに、同図は、溶接電流波形が台形波の場合であるが、正弦波等の曲線状に変化する波形の場合も同様である。
【0051】
上述した実施の形態1によれば、溶接電流の絶対値の平均値を検出し、この平均値が予め定めた平均電流設定値と等しくなるように溶接電流の振幅を変化させる振幅制御を行う。これにより、本実施の形態では、溶接ケーブルが長いためにインダクタンス値が大きい場合でも、通電する溶接電流の平均値が平均電流設定値と常に等しくなるように制御することができる。このために、溶け込み深さを均一化することができ、高品質の溶接結果を得ることができる。
【0052】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、平均電流検出信号Iadと平均電流設定信号Iarとの差の絶対値が基準値以上のときにのみ上述した振幅制御を行うものである。
【0053】
図3は、本発明の実施の形態2に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1の平均電流誤差増幅回路EAを第2平均電流誤差増幅回路EA2に置換したものである。以下、同図を参照してこのブロックについて説明する。
【0054】
第2平均電流誤差増幅回路EA2は、上記の平均電流設定信号Iar及び上記の平均電流検出信号Iadを入力として、両信号の差の絶対値|Iar−Iad|が予め定めた基準値未満のときは平均電流誤差増幅信号Ea=0を出力し、差の絶対値が基準値以上のときは両値の誤差を増幅して、平均電流誤差増幅信号Ea=G・(Iar−Iad)を出力する。基準値は、例えば5Aに設定される。
【0055】
上記の回路によって、平均電流検出信号Iadと平均電流設定信号Iarとの差の絶対値が基準値以上のときにのみ振幅制御が行われる。これにより、溶接電流Iwの平均値が設定値と近似しているときは、振幅制御を行わないので、過敏な制御とならず制御系が安定し、溶接状態がさらに安定化する。このときに、溶接電流Iwの平均値が設定値と近似しているときは、溶け込み深さの変動も少なく、溶接品質には問題ない。
【0056】
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、振幅制御を、アークスタートから所定期間中だけ行うものである。
【0057】
図4は、本発明の実施の形態3に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に初期期間回路TSを追加し、
図1の平均電流誤差増幅回路EAを第3平均電流誤差増幅回路EA3に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0058】
初期期間回路TSは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値が予め定めた通電判別値以上となってから所定期間の間だけHighレベルとなる初期期間信号Tsを出力する。通電判別値は、例えば1Aに設定される。初期期間信号TsがHighレベルの期間は、アークスタートしてから所定期間中のときである。所定期間は、例えば0.1〜1秒程度に設定される。
【0059】
第3平均電流誤差増幅回路EA3は、上記の平均電流設定信号Iar、上記の平均電流検出信号Iad及び上記の初期期間信号Tsを入力として、初期期間信号TsがLowレベルのときは平均電流誤差増幅信号Ea=0を出力し、初期期間信号TsがHighレベルのときは両値の誤差を増幅して、平均電流誤差増幅信号Ea=G・(Iar−Iad)を出力する。
【0060】
上記の回路によって、アークスタートから所定期間だけ振幅制御が行われる。溶接ケーブルによるインダクタンス値は、溶接ケーブルが一旦敷設されるとほとんど変化しない。このために、アークスタートから短時間のみ振幅制御を行えば、その後は溶接電流Iwの平均値は設定値と一致する。このようにすることによって、振幅制御は短時間だけ行われるので、制御系が安定し、溶接状態がさらに安定化する。実施の形態3は、実施の形態1を基にしているが、実施の形態2を基にしても良い。
【0061】
[実施の形態4]
実施の形態4の発明は、上述した振幅制御に加えて、溶接中の電極マイナス極性比率を検出し、電極マイナス極性比率が予め定めた設定値と等しくなるように溶接電流の波形パラメータを変化させる波形制御を行うものである。
【0062】
図5は、本発明の実施の形態4に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に、電極マイナス極性比率検出回路RND、電極マイナス極性比率設定回路RNR、比率誤差増幅回路EH及び波形制御回路TPCを追加したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0063】
電極マイナス極性比率検出回路RNDは、上記のタイマ信号Tmを入力として、以下の処理を行い、電極マイナス極性比率検出信号Rndを出力する。本実施の形態においては、電極マイナス極性比率が、1周期に占める電極マイナス極性期間の時間比率(%)の場合である。
1)タイマ信号Tmが1→2→3に変化する時間を電極マイナス極性期間Tenとして測定する。
2)タイマ信号Tmが1→2→3→4→1に変化する時間を1周期Tfとして測定する。
3)電極マイナス極性比率検出信号Rnd=(Ten/Tf)×100を算出して出力する。
【0064】
電極マイナス極性比率設定回路RNRは、予め定めた電極マイナス極性比率設定信号Rnrを出力する。
【0065】
比率誤差増幅回路EHは、上記の電極マイナス極性比率検出信号Rnd及び上記の電極マイナス極性比率設定信号Rnrを入力として、両値の誤差を増幅して、比率誤差増幅信号Eh=Gh・(Rnd−Rnr)を出力する。Ghは、正の値の増幅率であり、例えば0.01〜0.1程度に設定される。この増幅率Ghは、波形制御系が安定になるように調整される。
【0066】
波形制御回路TPCは、上記の電極プラス極性期間設定信号Tpr及び上記の比率誤差増幅信号Ehを入力として、溶接中は比率誤差増幅信号Ehを積分して、電極プラス極性期間制御信号Tpc=Tpr+∫Eh・dtを出力する。電極プラス極性期間制御信号Tpcは、電極プラス極性期間設定信号Tprの代替信号としてタイマ回路TMに入力される。
【0067】
上記の比率誤差増幅回路EH及び上記の波形制御回路TPCによって、電極マイナス極性比率検出信号Rndの値が電極マイナス極性比率設定信号Rnrの値と等しくなるように、溶接電流の波形パラメータとして電極プラス極性期間Tep(電極プラス極性期間制御信号Tpc)が制御される(波形制御)。すなわち、電極マイナス極性比率検出信号Rndと電極マイナス極性比率設定信号Rnrとが等しくなるように、溶接電流の波形パラメータである電極プラス極性期間Tep及び/又は電極マイナス極性期間Tenがフィードバック制御されれば良い。
【0068】
図5の溶接装置における各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同様であるので、説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なっている。
図2において、時刻t1〜t7が1周期Tfとなる。溶接ケーブルによるインダクタンス値によって、時刻t1〜t2、時刻t3〜t4、時刻t4〜t5及び時刻t6〜t7の傾斜が影響を受ける。ここで、電極マイナス極性比率検出信号Rnd(%)=(Ten/Tf)×100=(時刻t1〜t4の時間/時刻t1〜t7の時間)×100となる。このために、電極マイナス極性比率検出信号Rndの値は、溶接ケーブルのインダクタンス値に影響されて大きく変動する。したがって、本実施の形態では、溶接中の電極マイナス極性比率を検出し、この電極マイナス極性比率検出信号Rndが予め定めた電極マイナス極性比率設定信号Rnrと等しくなるように、溶接電流の波形パラメータの1つである電極プラス極性期間制御信号Tpcを変化させる波形制御を行っている。これにより、時刻t4〜t7の電極プラス極性期間Tepが制御されるので、電極マイナス極性比率検出信号Rndが所定値となる。変化させる波形パラメータとしては、電極プラス極性期間Tep及び/又は電極マイナス極性期間Tenである。本実施の形態は、実施の形態1を基礎として波形制御を追加しているが、実施の形態2又は3を基礎として波形制御を追加しても良い。
【0069】
上述した実施の形態4によれば、実施の形態1〜3の効果に加えて、溶接中の電極マイナス極性比率を検出し、電極マイナス極性比率が予め定めた設定値と等しくなるように溶接電流の波形パラメータを変化させる波形制御を行う。これにより、本実施の形態では、溶接ケーブルのインダクタンス値が変化しても、電極マイナス極性比率を常に所望値に維持することができる。このために、溶接ビードの形状を均一化することができ、高品質の溶接結果を得ることができる。
【0070】
[実施の形態5]
実施の形態5の発明は、電極マイナス極性比率が、実施の形態4では1周期に占める電極マイナス極性期間の時間比率であるのに対して、溶接電流(絶対値)の1周期の積分値に占める電極マイナス極性電流(絶対値)の積分値の比率である点が異なる。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態5に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図5と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図5の電極マイナス極性比率検出回路RNDを第2電極マイナス極性比率検出回路RND2に置換したものである。以下、同図を参照してこのブロックについて説明する。
【0072】
第2電極マイナス極性比率検出回路RND2は、上記のタイマ信号Tm及び上記の電流検出信号Idを入力として、以下の処理を行い、電極マイナス極性比率検出信号Rndを出力する。本実施の形態においては、電極マイナス極性比率が、溶接電流(絶対値)の1周期の積分値に占める電極マイナス極性電流(絶対値)の積分値の比率(%)の場合である。
1)タイマ信号Tmが1及び2となる電極マイナス極性期間Ten中の電流検出信号Id(電極マイナス極性電流)の積分値を演算する。
2)タイマ信号Tmが1〜4となる1周期Tf中の電流検出信号Idの積分値を演算する。
3)電極マイナス極性比率検出信号Rnd=((電極マイナス極性電流の積分値)/(1周期中の溶接電流の積分値))×100を算出して出力する。
【0073】
図6の溶接装置における各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同一であるので、説明は省略する。但し、本実施の形態においては、電極マイナス極性比率検出信号Rndが溶接電流(絶対値)の1周期の積分値に占める電極マイナス極性電流(絶対値)の積分値の比率である。実施の形態5によれば、実施の形態4と同様の効果を奏する。
【0074】
[実施の形態6]
実施の形態6の発明は、実施の形態4及び5の波形制御を、アークスタートから所定期間中だけ行うものである。
【0075】
図7は、本発明の実施の形態6に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図5と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図5に初期期間回路TSを追加し、
図5の平均電流誤差増幅回路EAを第3平均電流誤差増幅回路EA3に置換し、
図5の比率誤差増幅回路EHを第2比率誤差増幅回路EH2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0076】
初期期間回路TS及び第3平均電流誤差増幅回路EA3の動作は、
図4の同一回路と同じであるので、説明は繰り返さない。第2比率誤差増幅回路EH2は、上記の電極マイナス極性比率検出信号Rnd、上記の電極マイナス極性比率設定信号Rnr及び上記の初期期間信号Tsを入力として、初期期間信号TsがLowレベルのときは比率誤差増幅信号Eh=0を出力し、初期期間信号TsがHighレベルのときは両値の誤差を増幅して比率誤差増幅信号Eh=Gh・(Rnd−Rnr)を出力する。
【0077】
上記の回路によって、アークスタートから所定期間だけ波形制御が行われる。溶接ケーブルによるインダクタンス値は、溶接ケーブルが一旦敷設されるとほとんど変化しない。このために、アークスタートから短時間のみ波形制御を行えば、その後は電極マイナス極性比率は設定値と一致する。このようにすることによって、波形制御は短時間だけ行われるので、制御系が安定し、溶接状態がさらに安定化する。実施の形態6は、実施の形態4を基にしているが、実施の形態5を基にしても良い。
【0078】
[実施の形態7]
実施の形態7の発明は、実施の形態1〜3の振幅制御に加えて、溶接電流の周期を検出し、周期が予め定めた設定値と等しくなるように溶接電流の波形パラメータを変化させるものである。
【0079】
図8は、本発明の実施の形態7に係る交流非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1に、周期検出回路TFD、周期設定回路TFR、周期誤差増幅回路ES及び周期制御回路TPC2を追加したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0080】
周期検出回路TFDは、上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号Tmが1→2→3→4→1に変化する時間を1周期Tfとして測定して、周期検出信号Tfdとして出力する。
【0081】
周期設定回路TFRは、予め定めた周期設定信号Tfrを出力する。
【0082】
周期誤差増幅回路ESは、上記の周期検出信号Tfd及び上記の周期設定信号Tfrを入力として、両値の誤差を増幅して、周期誤差増幅信号Es=Gs・(Tfr−Tfd)を出力する。Gsは、正の値の増幅率であり、例えば0.1〜1.0程度に設定される。この増幅率Gsは、周期制御系が安定になるように調整される。
【0083】
周期制御回路TPC2は、上記の電極プラス極性期間設定信号Tpr及び上記の周期誤差増幅信号Esを入力として、溶接中は周期誤差増幅信号Esを積分して、電極プラス極性期間制御信号Tpc=Tpr+∫Es・dtを出力する。
【0084】
上記の周期誤差増幅回路ES及び上記の周期制御回路TPC2によって、周期検出信号Tfdの値が周期設定信号Tfrの値と等しくなるように、溶接電流の波形パラメータとして電極プラス極性期間Tep(電極プラス極性期間制御信号Tpc)が制御される(周期制御)。すなわち、電極マイナス極性比率検出信号Rndと電極マイナス極性比率設定信号Rnrとが等しくなるように、溶接電流の波形パラメータである電極プラス極性期間Tep及び/又は電極マイナス極性期間Tenがフィードバック制御されれば良い。
【0085】
図8の溶接装置における各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同様であるので、説明は繰り返さない。但し、以下の点は異なっている。
図2において、時刻t1〜t7が1周期Tfとなる。溶接ケーブルによるインダクタンス値によって、時刻t1〜t2、時刻t3〜t4、時刻t4〜t5及び時刻t6〜t7の傾斜が影響を受ける。このために、周期検出信号Tfdの値は、溶接ケーブルのインダクタンス値に影響されて大きく変動する。したがって、本実施の形態では、溶接中の周期Tfを検出し、この周期検出信号Tfdが予め定めた周期設定信号Tfrと等しくなるように、溶接電流の波形パラメータの1つである電極プラス極性期間制御信号Tpcを変化させる周期制御を行っている。これにより、時刻t4〜t7の電極プラス極性期間Tepが制御されるので、周期検出信号Tfdが所定値となる。変化させる波形パラメータとしては、電極プラス極性期間Tep及び/又は電極マイナス極性期間Tenである。本実施の形態は、実施の形態1を基礎として周期制御を追加しているが、実施の形態2及び3を基礎として周期制御を追加しても良い。
【0086】
上述した実施の形態7によれば、実施の形態1〜3の効果に加えて、溶接中の周期を検出し、周期が予め定めた設定値と等しくなるように溶接電流の波形パラメータを変化させる周期制御を行う。これにより、本実施の形態では、溶接ケーブルのインダクタンス値が変化しても、周期を常に所望値に維持することができる。このために、溶接ビードの形状を均一化することができ、高品質の溶接結果を得ることができる。
【0087】
上記においては、交流非消耗電極アーク溶接が交流ティグ溶接の場合であるが、交流プラズマアーク溶接の場合も同様である。