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特開2018-193437熱可塑性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-193437(P2018-193437A)
(43)【公開日】2018年12月6日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20181109BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20181109BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20181109BHJP
【FI】
   C08L77/06
   C08L25/18
   C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-96305(P2017-96305)
(22)【出願日】2017年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 辰典
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】西田 敬亮
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB14Z
4J002BC11Y
4J002BD14Z
4J002BD15Z
4J002BD16Z
4J002CL01X
4J002CL02X
4J002CL06U
4J002CL06W
4J002DA017
4J002DE126
4J002DJ027
4J002DL007
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD136
4J002FD13U
4J002FD13Y
4J002FD20Z
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】半芳香族ポリアミドと難燃剤を含有する樹脂組成物であって、耐熱性、耐薬品性の低下が抑制され、流動性が向上した熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部、臭素系難燃剤(C)20〜100質量部およびアンチモン系難燃助剤(D)2〜25質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、質量比(A/B)が、90/10〜40/60であり、半芳香族ポリアミド(A)の融点が280℃以上であり、50%硫酸に、23℃、48時間浸漬後の質量増加率Rが50%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部、
臭素系難燃剤(C)20〜100質量部および
アンチモン系難燃助剤(D)2〜25質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の質量比(A/B)が、90/10〜40/60であり、
半芳香族ポリアミド(A)の融点が280℃以上であり、
50%硫酸に、23℃、48時間浸漬後の質量増加率Rが50%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
半芳香族ポリアミド(A)における脂肪族ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリアミド(B)が、ポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
臭素系難燃剤(C)とアンチモン系難燃助剤(D)の質量比(C/D)が、95/5〜60/40であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
半芳香族ポリアミド(A)が、脂肪族モノカルボン酸成分を含有し、脂肪族モノカルボン酸の炭素数が15〜30であり、脂肪族モノカルボン酸成分の含有量が、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、0.3〜4.0モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
臭素系難燃剤(C)が、臭素化ポリスチレンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
アンチモン系難燃助剤(D)が、三酸化アンチモンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
さらにドリップ防止剤(E)を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
さらに無機強化材(F)を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、さらに詳しくは、半芳香族ポリアミドを含有する樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、耐熱性、機械的特性、成形加工性に優れていることから、多くの電気・電子部品、自動車のエンジン周りの部品として使用されている。
【0003】
近年、特にコネクタなどの電気・電子部品を電子基板へ実装する方式は、環境側面から、鉛フリーはんだを使用したリフローによる表面実装方式になっており、この方式では、電気・電子部品ごとリフロー炉に投入するため、電気・電子部品を構成する成形体には、リフロー炉内の加熱に耐える耐熱性が求められている。
例えば、ポリアミド6やポリアミド66などの脂肪族ポリアミドは、融点が低いため、これらの樹脂からなる成形体は、リフローによって、溶融、変形するという問題がある。また、ポリアミド46は、融点は高いが、吸水しやすく、ポリアミド46からなる成形体は、リフロー処理時に水分が発泡して、成形体表面に膨れが生じるブリスター現象が発生するため、成形された成形体を低湿度環境下で保管する必要があった。そのため、近年は、表面実装される電気・電子部品向けの成形体には、融点が高く、吸水率が低い半芳香族ポリアミドが多く使用されている。
【0004】
また、電気・電子部品においては、難燃性が要求されるため、ポリアミドに難燃剤を配合した組成物として、例えば、特許文献1には、半芳香族ポリアミドまたは共重合系半芳香族ポリアミドに臭素系難燃剤を配合した樹脂組成物が開示されている。しかしながら、半芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドに比べて、融点が分解温度に近く、成形加工温度を高く設定できないため、流動性を高めることができず、近年の電気・電子部品の小型化、薄肉化に対応した成形ができない問題があった。
【0005】
半芳香族ポリアミドを含有する樹脂組成物の流動性を高める方法として、樹脂組成物に脂肪族ポリアミドを配合する方法がある。しかしながら、半芳香族ポリアミドを含有する樹脂組成物は、脂肪族ポリアミドを含有することにより、耐熱性が低下するとともに、電気・電子部品に求められる耐薬品性が低下することがあった。すなわち、電気・電子部品は、近年、自動車の電装化の進行により、自動車部品にも使用されてきており、自動車部品に使用された電気・電子部品は、ガソリン、オイル、バッテリの硫酸、ワックス、洗車用品などの薬品が付着する可能性も多くなるため、耐薬品性も必要とされている。
半芳香族ポリアミドは、耐熱性、耐薬品性に優れるが、脂肪族ポリアミドは、耐熱性、耐薬品性に劣っており、半芳香族ポリアミドを含有する樹脂組成物は、脂肪族ポリアミドを配合することにより、流動性が向上するものの、耐熱性、耐薬品性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/017043号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半芳香族ポリアミドと難燃剤を含有する樹脂組成物であって、耐熱性、耐薬品性の低下が抑制され、流動性が向上した熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の組成と特性を有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0009】
(1)半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部、
臭素系難燃剤(C)20〜100質量部および
アンチモン系難燃助剤(D)2〜25質量部を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の質量比(A/B)が、90/10〜40/60であり、
半芳香族ポリアミド(A)の融点が280℃以上であり、
50%硫酸に、23℃、48時間浸漬後の質量増加率Rが50%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2)半芳香族ポリアミド(A)における脂肪族ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)脂肪族ポリアミド(B)が、ポリアミド6および/またはポリアミド66であることを特徴とする(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)臭素系難燃剤(C)とアンチモン系難燃助剤(D)の質量比(C/D)が、95/5〜60/40であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)半芳香族ポリアミド(A)が、脂肪族モノカルボン酸成分を含有し、脂肪族モノカルボン酸の炭素数が15〜30であり、脂肪族モノカルボン酸成分の含有量が、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、0.3〜4.0モル%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)臭素系難燃剤(C)が、臭素化ポリスチレンであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(7)アンチモン系難燃助剤(D)が、三酸化アンチモンであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(8)さらにドリップ防止剤(E)を含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(9)さらに無機強化材(F)を含有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐熱性(耐リフロー性)、耐薬品性、難燃性、機械的特性に加え、押出時や成形時の流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)、脂肪族ポリアミド(B)、臭素系難燃剤(C)およびアンチモン系難燃助剤(D)を含有するものである。
【0012】
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを構成成分として含有し、ジカルボン酸成分に芳香族ジカルボン酸を含有し、ジアミン成分に脂肪族ジアミンを含有するものである。
半芳香族ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸(T)を含有することが好ましく、テレフタル酸の含有量は、耐熱性の観点から、ジカルボン酸成分中、95モル%以上であることが好ましく、100モル%であることがより好ましい。
半芳香族ポリアミド(A)におけるジアミン成分は、耐熱性と加工性の観点から、炭素数8〜12の脂肪族ジアミンであることが好ましい。炭素数8〜12の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンが挙げられ、中でも、汎用性が高いことから1,10−デカンジアミンが好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、併用してもよいが、機械的特性の向上の観点から、単独で用いることが好ましい。
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)の具体例として、例えば、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tが挙げられる。
【0013】
半芳香族ポリアミド(A)のジカルボン酸成分は、テレフタル酸以外のジカルボン酸を含有してもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。テレフタル酸以外のジカルボン酸は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
半芳香族ポリアミド(A)のジアミン成分は、炭素数8〜12の脂肪族ジアミン成分以外の他のジアミンを含有してもよい。他のジアミンとしては、例えば、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン等の脂肪族ジアミン成分、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。炭素数8〜12の脂肪族ジアミン成分以外の他のジアミンは、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0014】
半芳香族ポリアミド(A)は、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸等のω−アミノカルボン酸を含有してもよい。
【0015】
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)は、モノカルボン酸を構成成分とすることができ、脂肪族モノカルボン酸を構成成分とすることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸を構成成分として有する半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)とが分散した状態の混合物から得られる成形体は、熱を受けやすい成形体表層部において、耐熱性の高い半芳香族ポリアミド(A)が主成分となりやすくなるため、リフロー工程においてブリスターが発生しにくくなる。
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数が15〜30であることが好ましく、18〜29であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド(A)は、炭素数15〜30の脂肪族モノカルボン酸を含有することにより、流動性が向上し、成形体表層で半芳香族ポリアミド成分が主成分となりやすくなる。モノカルボン酸の炭素数が15未満であると、半芳香族ポリアミド(A)は、流動性の向上効果が得られない場合がある。また、脂肪族モノカルボン酸の炭素数が30を超えると、半芳香族ポリアミド(A)は、結晶化が阻害され、成形加工性や耐熱性が低下する場合がある。
【0016】
炭素数が15〜30の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸が好ましい。
脂肪族モノカルボン酸は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0017】
半芳香族ポリアミド(A)において、脂肪族モノカルボン酸成分の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、0.3〜4.0モル%であることが好ましく、0.6〜3.5モル%であることがより好ましい。脂肪族モノカルボン酸成分の含有量が0.3モル%未満であると、得られる半芳香族ポリアミド(A)の分子量が高く、押出時や成形時に分解ガスが発生したり、流動性の向上効果が得られないことがある。一方、脂肪族モノカルボン酸成分の含有量が4.0モル%を超えると、半芳香族ポリアミド(A)は機械的特性が低下することがある。
【0018】
半芳香族ポリアミド(A)は、融点が280℃以上であることが必要であり、300℃以上であることが好ましい。半芳香族ポリアミド(A)の融点が280℃未満であると、熱可塑性樹脂組成物は、リフローにおいて溶融、変形する場合がある。
【0019】
半芳香族ポリアミド(A)は、分子量の指標となる、96%硫酸中、25℃、濃度1g/dLで測定した場合の相対粘度が、1.5〜3.5であることが好ましく、1.7〜3.5であることがより好ましく、1.9〜3.1であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド(A)の相対粘度が1.5未満であると、熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性が低下することがある。
【0020】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶性が高い方が、得られる成形体は、結晶化度が高くなり、より耐熱性、耐リフロー性、機械強度、低吸水性が向上するため、半芳香族ポリアミド(A)は、結晶化度が特定の範囲に制御されていることが好ましい。本発明においては、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶融解エネルギー(ΔH)を結晶化度の指標とし、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のΔHは、50J/g以上であることが好ましく、55J/g以上であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ΔHが50J/gを下回ると、結晶性を十分に高めることができず、得られる成形体は、リフロー工程においてブリスターが発生する場合がある。
【0021】
半芳香族ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、ジカルボン酸成分と、ジアミン成分と、モノカルボン酸成分とから反応生成物を得る工程(i)と、得られた反応生成物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
【0022】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とを混合し、予めジアミンの融点以上、かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末とモノカルボン酸とに、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンを添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンとモノカルボン酸の反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応生成物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0023】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応生成物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0024】
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
【0025】
半芳香族ポリアミド(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0026】
本発明における脂肪族ポリアミド(B)は、主鎖中に芳香族成分を含まないポリアミドであり、例えば、ポリε−カプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカナミド(ポリアミド11)、ポリドデカナミド(ポリアミド12)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体、あるいは、これらの混合物などがあげられる。中でも構成単位の炭素数が6以下であるポリアミドが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66が、流動性、経済性の観点から好ましい。
【0027】
脂肪族ポリアミド(B)の相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易な熱可塑性樹脂組成物を得るには、脂肪族ポリアミド(B)は、相対粘度が1.9〜4.0であることが好ましく、2.0〜3.5であることがより好ましい。脂肪族ポリアミド(B)の相対粘度が1.9未満であると、成形体によっては靱性が不足し、機械的特性の低下を招く恐れがある。また、脂肪族ポリアミド(B)の相対粘度が4.0を超えると、熱可塑性樹脂組成物は、成形加工が困難となり、得られる成形体は、外観が劣ることがある。
【0028】
半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の質量比(A/B)は、90/10〜40/60であることが必要であり、90/10〜46/54であることが好ましく、90/10〜50/50であることがより好ましく、80/20〜50/50であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド(A)が90質量%を超えると、すなわち脂肪族ポリアミド(B)が10質量%未満であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下する場合がある。一方、半芳香族ポリアミド(A)が40質量%未満、すなわち脂肪族ポリアミド(B)が60質量%を超えると、熱可塑性樹脂組成物の耐リフロー性が低下する場合がある。
【0029】
本発明における臭素系難燃剤(C)は、化合物中に含まれる臭素原子の含有量が50質量%以上であることが好ましく、58質量%以上であることがより好ましい。臭素系難燃剤(C)は、臭素原子の含有量が50質量%未満であると、必要とする難燃性を付与するために、含有量が多くなり、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性が低下したり、分解ガスの発生量が増加する場合がある。
【0030】
臭素系難燃剤(C)としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ−ビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ−ビスフェノールS、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、エチレンビスペンタブロモフェニル、ポルブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、TBBAポリカーボネート、臭素化ポリフェニレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレートが挙げられる。中でも高温での加工に耐えうるエチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレンが好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。臭素化ポリスチレンの具体的な商品名としては、例えば、ケムチュラ社製「Great Lakes CP−44HF」、「Great Lakes PBS−64HW」、「Great Lakes PDBS−80」、アルベマール社製「SAYTEX HP−7010」「SAYTEX HP−3010」が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0031】
臭素系難燃剤(C)の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部に対して、20〜100質量部であることが必要であり、30〜90質量部であることが好ましい。臭素系難燃剤(B)の含有量が20質量部未満であると、難燃性の向上効果が得られない。一方、臭素系難燃剤(B)の含有量が100質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物は、難燃性に優れる反面、押出時や成形時の分解ガスの発生が増加する。
【0032】
本発明におけるアンチモン系難燃助剤(D)としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。中でも臭素系難燃剤(C)との相乗効果が高く、分解ガス量の発生を抑制できる三酸化アンチモンが好ましい。具体的な商品名としては、例えば、日本精鉱社製「PATOX−M」(三酸化アンチモン)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0033】
アンチモン系難燃助剤(D)の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部に対して、2〜25質量部であることが必要であり、5〜20質量部であることが好ましい。アンチモン系難燃助剤(D)の含有量が2質量部未満であると、難燃性の向上効果が得られない。一方、アンチモン系難燃助剤(D)の含有量が25質量部を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、機械物性や押出時の操業性が低下する。
【0034】
本発明に用いる臭素系難燃剤(C)とアンチモン系難燃助剤(D)の質量比(C/D)は、95/5〜60/40であることが好ましく、90/10〜70/30であることがより好ましい。臭素系難燃剤(C)が95質量%以下であることにより、難燃性を向上させることができる。臭素系難燃剤(C)が60質量%未満であると、アンチモン系難燃助剤(D)の質量比率を増やしても、難燃性の向上効果が飽和に達してしまい、経済的に不利になる場合がある。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はドリップ防止剤(E)を含有してもよい。ドリップ防止剤(E)は、燃焼時に滴下を防止する効果があれば、公知の化合物が使用できる。ドリップ防止剤(E)としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−プロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。中でも滴下防止効果の高い、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。具体的な商品名としては、例えば、ダイキン工業社製「ポリフロンMPA FA−500H」(ポリテトラフルオロエチレン)、三菱レイヨン社製「メタブレンA−3750」、「メタブレンA−3800」(変性ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0036】
ドリップ防止剤(E)の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部に対して、0.3〜3.0質量部であることが好ましく、0.3〜2.5質量部であることがより好ましい。ドリップ防止剤(E)は、含有量が0.3質量部未満であると、燃焼時に滴下を防止する効果が充分でなく、3.0質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物は、溶融混練が困難になることがある。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに無機強化材(F)を含有してもよい。無機強化材(F)としては、繊維状強化材が挙げられる。
繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。中でも、機械的特性の向上効果が高く、ポリアミドとの溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が好ましい。ガラス繊維の具体的な商品名としては、例えば、日東紡社製「CS3G225S」、日本電気硝子社製「T−781H」が挙げられ、炭素繊維の具体的な商品名としては、例えば、東邦テナックス社製「HTA−C6−NR」が挙げられる。繊維状強化材は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0038】
繊維状強化材の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1〜7mmであることが好ましく、0.5〜6mmであることがより好ましい。繊維状強化材の繊維長を0.1〜7mmとすることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。また、繊維径は3〜20μmであることが好ましく、5〜13μmであることがさらに好ましい。繊維径を3〜20μmとすることにより、溶融混練時に折損させることなく、樹脂組成物を効率よく補強することができる。断面形状としては、例えば、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面等が挙げられるが、中でも円形が好ましい。
【0039】
無機強化材(F)として、繊維状強化材の他に、針状強化材、板状強化材を使用してもよい。特に繊維状強化材と、針状強化材や板状強化材を併用することで、成形体の反りを小さくしたり、難燃試験時の耐ドリップ性を向上させることができる。針状強化材としては、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカなどが挙げられる。板状強化材としては、タルク、マイカ、ガラスフレークなどが挙げられる。
【0040】
無機強化材(F)の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)の合計100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましく、5〜180質量部であることがより好ましく、10〜170質量部であることがさらに好ましい。無機強化材(F)の含有量が5質量部未満であると、機械的強度の補強効果が充分でないことがあり、200質量部を超えると、機械的強度の補強効率が低下したり、熱可塑性樹脂組成物は、溶融混練時の作業性が低下したり、ペレットを得ることが困難となることがある。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに酸化防止剤(G)を含有してもよい。酸化防止剤(G)としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、トリアジン系化合物、硫黄系化合物が挙げられ、中でも、リン系酸化防止剤が好ましい。無機強化材(F)を含有する熱可塑性樹脂組成物は、高温のシリンダー内に長時間滞留した場合、無機強化材(F)が表面処理されている場合、その表面処理剤が熱分解し、機械的強度の低下を引き起こす場合がある。しかしながら、本発明においては、シリンダー内で長時間樹脂組成物を滞溜させた場合、すなわち、射出成形時において成形サイクルが長い場合や射出量が少なくシリンダー内に樹脂が長く滞留する場合でも、酸化防止剤(G)を含有することにより、前記樹脂組成物の引張強度の低下を抑制することができる。なお、酸化防止剤(G)は、通常、半芳香族ポリアミド(A)の分子量低下や色の退化を目的に含有させるものである。本発明においては、これらの効果に加えて、樹脂組成物の滞留安定性を向上させることができる。酸化防止剤(G)を含有する場合、その含有量は、半芳香族ポリアミド(A)100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
リン系酸化防止剤は、無機化合物でもよいし有機化合物でもよく、特に制限はないが、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン等の無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイトが挙げられる。中でも、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイトが好ましい。具体的な商品名としては、例えば、アデカ社製「アデカスタブPEP−36」(ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、「アデカスタブPEP−8」(ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト)、「アデカスタブPEP−4C」(ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、Clariant社製「ホスタノックスP−EPQ」(テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、さらに他のポリマーを含有してもよい。他のポリマーとしては、例えば、ポリアミド9C等の脂環族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。
【0044】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、例えば、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト等の充填材、顔料、染料、帯電防止剤、板状強化材、熱安定剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、有機過酸化物、末端封鎖剤、摺動性改良剤が挙げられる。他の添加剤の添加方法は、その効果が損なわれなければ特に限定されないが、例えば、ポリアミドの重合時または溶融混練時に添加される。
【0045】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、光安定剤を含有してもよい。酸化チタン等の白色顔料を含有する熱可塑性樹脂組成物の成形体をエキゾーストフィニッシャーやLEDリフレクタとして屋外で使用する場合、酸化チタンが光分解を促進する場合があるので、熱可塑性樹脂組成物は光安定剤を含有することが好ましい。光安定剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリシレート系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物が挙げられ、中でも、ヒンダードアミン系化合物が好ましい。光安定剤を含有する場合、その含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜5質量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、光安定剤を0.1〜5質量部含有することにより、光安定性を向上することができる。
熱可塑性樹脂組成物は、光安定剤と酸化防止剤とを併用することが好ましく、併用により、成形時の滞留安定性が向上しつつ、使用時の紫外線等による光劣化を効率的に防止することができる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の構成成分からなり、下記の製造方法によって製造することにより、優れた耐熱性(耐リフロー性)、耐薬品性、難燃性、機械的特性に加え、押出時や成形時の流動性に優れる。
本発明においては、耐薬品性は、熱可塑性樹脂組成物を50%硫酸に23℃48時間浸漬する硫酸浸漬試験において、浸漬後の質量増加率Rで評価され、質量増加率Rは50%以下であり、45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、質量増加率Rが50%を超えると、得られる成形体を薬品が付着する可能性がある自動車部品等に使用することが困難になることがある。
【0047】
本発明において、原料の混合方法は、特に限定されないが、溶融混練法が好ましい。溶融混練法としては、例えば、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、半芳香族ポリアミド(A)が溶融し、分解しない領域から選ばれる。混練温度が高すぎると、半芳香族ポリアミド(A)が分解するだけでなく、脂肪族ポリアミド(B)や臭素系難燃剤(C)も分解するおそれがあることから、溶融混練温度は、半芳香族ポリアミド(A)の融点(Tm)に対して、(Tm−20℃)〜(Tm+50℃)であることが好ましい。
溶融混練においては、半芳香族ポリアミド(A)を先に溶融状態にしてから、脂肪族ポリアミド(B)を溶融混練機に追加供給して、半芳香族ポリアミド(A)と脂肪族ポリアミド(B)を混合することが好ましい。具体的には、例えば、半芳香族ポリアミド(A)や難燃剤等を二軸押出機の根元(主供給口)から供給し、溶融させた後、サイドフィーダー等を使用して、押出機途中から脂肪族ポリアミド(B)を供給する方法が挙げられる。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の造粒方法としては、溶融物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。射出成形機としては、特に限定されるものではないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された熱可塑性樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、(Tm)〜(Tm+50℃)であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂組成物の加熱溶融時には、用いる熱可塑性樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、土木建築用品等広範な用途に使用でき、難燃性に優れていることから、特に電気・電子部品に好適である。自動車部品としては、例えば、サーモスタットカバー、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター部材、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、ECUコネクタ、モーターやコイルの絶縁材、ケーブルの被覆材が挙げられる。電気・電子部品としては、例えば、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、電磁開閉器、ホルダー、プラグ、携帯用パソコンやワープロ等の電気機器の筐体部品、抵抗器、IC、LEDのハウジングが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0052】
1.測定方法
半芳香族ポリアミドおよび熱可塑性樹脂組成物の物性測定は以下の方法によりおこなった。
【0053】
(1)相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0054】
(2)半芳香族ポリアミド(A)の融点、結晶融解エネルギー
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した。その後、25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。さらにその吸熱ピークの面積を試料の質量で除した数値を結晶融解エネルギー(ΔH)とした。
【0055】
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に従い、340℃、荷重1.2kgfで測定した。
【0056】
(4)機械的特性
熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機S2000i−100B型(ファナック社製)を用いて射出成形し、試験片(ダンベル片)を作製した。シリンダー温度は融点(Tm)+15℃、金型温度は135℃でおこなった。
得られた試験片を用いて、ISO178に準拠して曲げ強度や曲げ弾性率を測定した。
実用上、曲げ強度は110MPa以上が好ましく、120MPa以上がより好ましく、140MPa以上がさらに好ましい。また、実用上、曲げ弾性率は3GPa以上が好ましく、5GPa以上がより好ましい。
【0057】
(5)バーフロー流動性
熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機S2000i−100B型(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度(Tm+15℃)、金型温度135℃、射出圧力150MPa、射出時間8秒、設定射出速度150mm/秒で成形した際の試験片の流動長を測定し、バーフロー流動長とした。金型としては、厚み0.5mmt、幅20mm、全長980mmのバーフロー試験金型を用いた。バーフロー流動長は、流動性の指標となる。実用上、バーフロー流動長は100mm以上が好ましく、110mm以上がより好ましい。
【0058】
(6)難燃性
射出成形機J35AD(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー温度(Tm+25℃)、金型温度135℃の条件で、127mm×12.7mm×厚み0.8mmの板状試験片を作製した。さらに127mm×12.7mm×厚み0.4mmの板状試験片を作製した。
得られた試験片を用いて、表1に示すUL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の基準に従って評価した。いずれの基準にも満たない場合は、not V−2 とした。実用上、厚み0.8mmでV−0であることが好ましく、厚み0.4mmでV−0であることがより好ましい。
【0059】
【表1】
【0060】
(7)耐薬品性(硫酸浸漬試験)
射出成形機J35AD(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー温度(Tm+25℃)、金型温度135℃の条件で、20mm×20mm×厚み0.5mmの板状試験片を作製した。得られた試験片について、23℃の環境下で50%硫酸中に48時間の条件で浸漬処理し、浸漬処理前後の質量を測定し、下記式で表される質量増加率Rを計算した。
R=(Wp−Wi)/((1−Cf/100)×Wi)×100
Wp:浸漬処理後の試験片質量(g)
Wi:浸漬処理前の試験片質量(g)
Cf:熱可塑性樹脂組成物における無機強化材(F)の含有量(質量%)
【0061】
(8)耐熱性(耐リフロー性)
上記(7)に記載の方法で作製した試験片を85℃、85%RHの恒温恒湿機(ETAC社製FH14C型)に168時間放置し、リフロー試験機(CIF社製 FT−02)
に入れて、外観変化を確認した。リフロー試験機の温度条件は、プレヒート(150℃−220℃、115秒)、リフロー(220℃以上、50秒)、リフロー時の最大温度(260℃、10秒以内)にて制御した。外観に変化がないものを○、外観にブリスターが発生したものを×と評価した。
【0062】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0063】
(1)半芳香族ポリアミド(A)
・半芳香族ポリアミド(A−1)
芳香族ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.70kgと、ステアリン酸(STA)0.33kgと、重合触媒としての次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10−デカンジアミン(DDA)4.97kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=48.5:49.6:1.9(官能基の当量比率はTPA:DDA:STA=49:50:1)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、半芳香族ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られた半芳香族ポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド(A−1)ペレットを得た。
【0064】
・半芳香族ポリアミド(A−2)〜(A−9)
樹脂組成を表2に示すように変更した以外は、半芳香族ポリアミド(A−1)を作製した際と同様の操作をおこなって、半芳香族ポリアミドを得た。
【0065】
得られた半芳香族ポリアミドの樹脂組成と特性値を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(2)脂肪族ポリアミド
・B−1:ポリアミド6、ユニチカ社製 A1015、相対粘度2.02
・B−2:ポリアミド66、旭化成ケミカルズ社製 レオナ1200、相対粘度2.45
・B−3:ポリアミド46、DSM社製 TW300、相対粘度2.75
【0068】
(3)臭素系難燃剤
・C−1:臭素化ポリスチレン、ケムチュラ社製 PDBS−80、臭素含有量59%
・C−2:臭素化ポリスチレン、ケムチュラ社製 PBS−64HW、臭素含有量64%
【0069】
(4)難燃助剤
・D−1:三酸化アンチモン、日本精鉱社製 PATOX−M
・D−2:ホスフィン酸アルミニウム塩系難燃剤、クラリアントケミカルズ社製 エクソリットOP1230
【0070】
(5)ドリップ防止剤
・E−1:ポリテトラフルオロエチレン、ダイキン工業社製 ポリフロンMPA FA500H
・E−2:アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン、三菱レイヨン社製 メタブレンA−3750
【0071】
(6)無機強化材
・F−1:ガラス繊維、日東紡社製 CS3G225S、平均繊維径9.5μm、平均繊維長3mm
【0072】
(7)酸化防止剤
・G−1:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、Clariant社製 ホスタノックスP−EPQ
【0073】
実施例1
半芳香族ポリアミド(A−1)90質量部、臭素系難燃剤(C−1)48質量部、アンチモン系難燃助剤(D−1)11質量部、ドリップ防止剤(E−1)1.8質量部および酸化防止剤(G−1)0.5質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダー1より脂肪族ポリアミド(B−1)10質量部供給し、さらに下流側のサイドフィーダー2より無機強化材(F−1)68質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、310〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/時間とした。
【0074】
実施例2〜28、比較例1、4〜10
樹脂組成物の組成を表3〜4に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなった。なお実施例24は、ドライブレンドにあたりドリップ防止剤(E)を配合せず、また比較例1は、サイドフィーダー1より脂肪族ポリアミド(B)を供給せず、比較例5、6は、ドライブレンドにあたり臭素系難燃剤(C)を配合しなかった。
【0075】
比較例2
脂肪族ポリアミド(B−1)54質量部をサイドフィーダー1から供給せずに、半芳香族ポリアミド(A−1)、臭素系難燃剤(C−1)、アンチモン系難燃助剤(D−1)、ドリップ防止剤(E−1)および酸化防止剤(G−1)とともに脂肪族ポリアミド(B−1)54質量部をドライブレンドして同方向二軸押出機の主供給口に供給し、下流側のサイドフィーダー2より無機強化材(F−1)を供給した以外は実施例6と同様にして溶融混練をおこない、熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0076】
比較例3
半芳香族ポリアミド(A−1)と脂肪族ポリアミド(B−1)の質量比を変更した以外は比較例2と同様にして熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0077】
熱可塑性樹脂組成物の組成および得られた特性を表3、4に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
実施例1〜28の熱可塑性樹脂組成物は、構成成分の含有量が本発明で規定する範囲にあり、また脂肪族ポリアミド(B)がサイドフィーダーにより供給されて溶融混練されたものであるため、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的特性に優れるとともに、流動性に優れるものであった。
【0081】
比較例1の樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド(B)を含有していないため、流動性が低いものであった。
比較例2、3の樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド(B)を含有するため、流動性が向上したが、脂肪族ポリアミド(B)をサイドフィードせず、主供給口から半芳香族ポリアミド(A)などと同時に供給して溶融混練して製造したため、耐薬品性が低く、またリフロー時にもブリスターが発生し、耐熱性も低いものであった。
比較例4の樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド(B)の含有量が多すぎるため、耐薬品性、耐熱性が低いものであった。
比較例5、6の樹脂組成物は、臭素系難燃剤(C)を含有しないため、難燃助剤としてリン系難燃剤を併用しても、またアンチモン系難燃助剤(D)の含有量を増加させても、耐薬品性、耐熱性が低いものであった。
比較例7の樹脂組成物は、臭素系難燃剤(C)の含有量が少ないため、また比較例9では、アンチモン系難燃助剤(D)の含有量が少ないため、厚み0.8mmの試験片の難燃性がV−1であった。
比較例8では、臭素系難燃剤(C)の含有量が多いため、また比較例10では、アンチモン系難燃助剤(D)の含有量が多いため、押出操業性が低く、ストランドが引き取り困難なため、樹脂組成物のペレットを得ることができなかった。