【実施例】
【0011】
<1>全体構成
図1は、本実施例に係るドレン材切断装置の機能概略図であり、(a)はドレン材切断装置をシールド掘進機に格納した状態を示しており、(b)ドレン材切断装置でもってドレン材を切断している状態を示している。
ドレン材切断装置Aは、土水圧下で地山の掘削を行うシールド掘進機の前面に設ける装置であり、ドレンカッター10と、前記ドレンカッター10の周囲に気体層を形成する、気体層形成手段20と、を少なくとも具備する。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0012】
<2>ドレンカッター
ドレンカッター10は、シールド掘進機から掘削方向に突出するように移動することで、掘削対象の地山に埋め込まれているドレン材Xを切断するための装置である。
ドレンカッター10は、地山の掘進に用いる掘進用カッターの掘進面Yよりも掘削方向に突出自在に構成する。
ドレンカッター10は、高周波または超音波で振動する振動刃11と、前記振動刃11を掘削方向へと移動するための伸縮機構12とを少なくとも具備する。
【0013】
<2.1>振動刃
振動刃11は、ドレン材Xを切断するための部材である。
本実施例では、振動刃11を、ドレン材Xと接触する刃先111と、高周波または超音波でもって前記刃先111を振動させる振動子112と、前記刃先111と振動子112との間に介設する共振体113とで構成している。
そして、高周波または超音波でもって振動する刃先をドレン材に押し当てることで、ドレン材Xを溶融切断する。
振動刃11は、求められる振動子112の性能やドレン材Xの材質などによって適宜最適な形状を選択すればよい。
なお、本明細書における「超音波」とは、高周波の一種であって周波数が略20kHz以上の音波を意味している。
【0014】
<2.2>伸縮機構
伸縮機構12は、振動刃11を掘削前後方向へと移動自在とするための機構である。
伸縮機構12は公知の伸縮ジャッキを用いることができ、この伸縮ジャッキの後端をシールド掘進機の任意の浮動位置に固定しつつ、伸縮ジャッキの先端を振動刃11に接続する。
この状態で伸縮ジャッキの伸縮動作を行うことで、振動刃11を掘削前後方向へと移動自在とすることができる。
【0015】
<3>気体層形成手段
気体層形成手段20は、ドレン材Xを切断する際のドレンカッター10の周囲に気体層を形成するための装置である。
気体層22を構成する気体は、空気に限らず、あらゆる種類の気体を単一または複数用いることができる。
【0016】
<3.1>気体層の形成方法
気体層形成手段20による気体層22の形成方法としては、ドレンカッター10の周囲に吐出口を位置させた管路を設けておき、この管路を通じてコンプレッサーからの圧縮気体を送ってドレンカッター10の周囲の水等Zに気泡21を混入する方法や、管路に接続したタンクからポンプによって気泡剤をドレンカッター10の周囲の水等Zに注入して気泡21を発生させる方法や、これらの方法を適宜組み合わせた態様などがある。
【0017】
<3.2>気体層の形成場所
気体層22の形成場所は、ドレン材Xの切断のためにドレンカッター10が突出している状態でのドレンカッター10の周囲(切断作業領域)であればよい。
したがって、気体層形成手段20は、シールド掘進機に固定した状態で、ドレンカッター10を伸張した際にドレンカッター10が位置する箇所(切断作業領域)へと常に気体層22を形成する態様であってもよいし、掘削方向に突出するドレンカッター10とともに移動して、常にドレンカッター10の周囲に気体層22を形成する態様であってもよい。
本実施例では、前者のように気体層形成手段20を構成する管路の吐出口を固定した態様を採用している。
【0018】
<3.3>気体層を設ける理由
互いに接する媒質間での超音波の透過によるエネルギーロスは、各媒質間の音響インピーダンスの差の大小によって決まる。
すなわち、各媒質間の音響インピーダンスの差が小さければ、超音波はより透過するため、振動刃11の振動が周囲に伝わりやすくエネルギーロスが大きいことになる。一方、各媒質間の音響インピーダンスの差が大きいほど超音波は反射するため、振動刃11の振動が周囲に伝わりにくくなりエネルギーロスが生じにくいこととなる。
【0019】
<3.3.1>音響インピーダンス
この音響インピーダンスは、媒質の密度[kg/m
3]と音速[m/s]の積[kg/m
2s]によって求められる。
空気などの気体は、水、土、金属と比較して、はるかに低い値の音響インピーダンスを有しているため、当然に振動刃を構成する金属素材との間との音響インピーダンスの差も大きくなる。
例えば振動刃11がアルミニウム製の場合、アルミの音響インピーダンスは、17.3×10
6[kg/m
2s]であり、水(25℃)の音響インピーダンスは1.5×10
6[kg/m
2s]、空気(1℃、1気圧下)の音響インピーダンスは428[kg/m
2s]である。
このように、振動刃11の周囲が、水等Zに覆われている場合と、気体層22によって覆われている場合とでは、後者のほうが、音響インピーダンスの差が大きくなるため、振動刃11のエネルギーロスが生じにくいこととなる。
【0020】
<3.4>使用手順
シールド掘進機に設けた掘進用カッターによる掘削作業を進めていく中で、前方に切断対象のドレン材Xが近づいてきた場合には、気体層形性手段20によって切断作業領域に気体層22を形成した状態で、ドレンカッター10を掘進用カッターの掘進面Yよりも前方に移動させて、ドレン材Xの切断作業を行う。
このとき、切断作業領域に局所的に形成された気体層20によって、ドレンカッター10の周囲の空間は、その他の空間よりも水や土が除かれた状態である。
この気体層22の存在により、ドレンカッター10の振動刃11の振動が水等Zと接触して減衰することなく、ドレン材Xの切断作業を行うことができる。
【0021】
<4>まとめ
このように、本実施例に係るドレン材切断装置Aによれば、ドレンカッター10の周囲に気体層22を形成して、ドレン材Xの切断時にドレンカッター10の振動が周囲の水等Zへと伝わりにくくすることにより、ドレンカッター10の振動の減衰を抑えることができる。よって、ドレンカッター10に用いる振動子112を必要以上に高出力のものにする必要がなくなる。