【解決手段】特徴量抽出部9Bは、シーク中の磁気ヘッドの復調位置と推定位置との位置誤差から、磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる周波数成分を抽出することで、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる特徴量を求め、評価値予測部9Cは、特徴量抽出部9Bにて抽出された特徴量に基づいて、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れを評価可能な評価値を予測し、オントラック判定回数設定部9Dは、評価値予測部9Cにて予測された評価値に基づいて、オントラック判定回数を設定する。
磁気ディスクと、前記磁気ディスクにアクセスする磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気ディスク上でシークさせるアクチュエータとを備えた磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法であって、
前記アクチュエータの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に基づいて、前記磁気ヘッドの現在位置と推定位置との位置誤差から特徴量を取得し、
前記特徴量に基づいて、シーク後の前記磁気ヘッドのオントラック状態の確認に用いられるオントラック判定回数を設定する磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
前記磁気ヘッドの復調位置と、前記アクチュエータの端部に設けられたボイスコイルに流れるVCM電流の目標値に基づいて、前記磁気ヘッドの推定位置を算出する請求項11に記載の磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
前記アクチュエータの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に基づいて、前記位置誤差の周波数成分の通過帯域が設定されたフィルタに前記位置誤差が入力されることで前記フィルタから前記特徴量が出力され、
各サンプル点の前記特徴量の積算結果に基づいて評価値が予測され、
前記評価値に基づいて前記オントラック判定回数が設定される請求項11から13のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
前記位置誤差に基づくシーク制御と、前記位置誤差に基づく前記評価値の予測とは並列に実行される請求項14に記載の磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置から前記特徴量が積算される請求項14または15に記載の磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
前記フィルタの通過帯域は、前記位置誤差の周波数成分のゲインが最も高いピーク位置の帯域を含む請求項14から16のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置のオントラック判定回数設定方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態に係る磁気ディスク装置およびオントラック判定回数設定方法を詳細に説明する。なお、これらの実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
図1(a)は、一実施形態に係る磁気ディスク装置に用いられるアクチュエータの概略構成例を示す平面図、
図1(b)は、一実施形態に係る磁気ディスク装置の概略構成例を示すブロック図である。
図1(a)および
図1(b)において、磁気ディスク装置には、磁気ディスク2が設けられ、磁気ディスク2はスピンドル10を介してベース1に支持されている。また、磁気ディスク装置には、アクチュエータAKが設けられている。アクチュエータAKの先端には、ヘッドスライダHMが設けられ、アクチュエータAKの後端には、ボイスコイル4Aが設けられている。ヘッドスライダHMには、磁気ヘッドとしてライトヘッドHWおよびリードヘッドHRが設けられている。ライトヘッドHWおよびリードヘッドHRは、磁気ディスク2に対向するように配置されている。
【0009】
ヘッドスライダHMは、サスペンションSUを介してキャリッジアームKAに接続され、キャリッジアームKAはピボットPVを介してベース1上に支持されている。キャリッジアームKAは、シーク時などにおいてヘッドスライダHMを水平面内でスライドさせることができる。サスペンションSUは、磁気ディスク2が回転している時の空気流による磁気ヘッドの浮上力に対抗する押下力を磁気ヘッドに与えることで、磁気ディスク2上の磁気ヘッドの浮上量を一定に保つことができる。サスペンションSUは、板ばねにて構成することができる。
【0010】
図2(a)は、
図1の磁気ディスクにおけるトラック配置を示す平面図、
図2(b)は、
図2(a)のサーボエリアの構成例を示す図である。
図2(a)および
図2(b)において、磁気ディスク2には、ダウントラック方向D1(周方向とも言う)に沿ってX(Xは2以上の整数)本のトラックTが設けられている。各トラックTには、ユーザデータがライトされるデータエリアDAおよびサーボデータがライトされたサーボエリアSSが設けられている。
【0011】
サーボエリアSSは放射状に配置され、ダウントラック方向D1のサーボエリアSS間にデータエリアDAが配置されている。サーボエリアSSは放射状にM(Mは2以上の整数)等分することができる。このM等分されたサーボエリアSSおよびデータエリアDAにてセクタSEが構成されている。
【0012】
サーボエリアSSには、プリアンブル20、サーボマーク21、セクタ/シリンダ情報(グレイコード)22およびバーストパターン23が記録されている。サーボマーク21は、トラックT上でのサーボエリアSSの開始を示すことができる。セクタ/シリンダ情報22は、磁気ディスク2のダウントラック方向D1およびクロストラック方向D2(径方向とも言う)のサーボ番地(アドレス情報とも言う)を与えることができる。ダウントラック方向D1のサーボ番地として、M等分されたセクタSEごとに0からM−1の値を順次与えることができる。クロストラック方向D2のサーボ番地として、X本のトラックTごとに0からX−1の値を順次与えることができる。
【0013】
バーストパターン23は、N相とQ相を有する位相パターンを用いることができる。N相とQ相は、クロストラック方向D2の位相が互いに異なるようにダウントラック方向D1に磁化パターンを配置することができる。すなわち、N相とQ相は、クロストラック方向D2に180度の位相間隔で極性が交互に反転するように磁化パターンを配置することができる。さらに、N相とQ相は、クロストラック方向D2に90度だけ互いに位相をずらして配置される。
【0014】
例えば、N相は、互いに隣接するトラックT1〜T4の境界において極性が反転されるように配置し、Q相は各トラックT1〜T4の中心において極性が反転されるように配置することができる。セクタ/シリンダ情報22およびバーストパターン23は、ライトヘッドHWおよびリードヘッドHRを目標トラックおよび目標セクタまで移動させるシーク制御に用いることができる。また、セクタ/シリンダ情報22およびバーストパターン23は、ライトヘッドHWおよびリードヘッドHRを目標トラックのトラック幅内に位置決めするトラッキング制御に用いることができる。
【0015】
また、
図1に示すように、磁気ディスク装置には、キャリッジアームKAを駆動するボイスコイルモータ4が設けられるとともに、スピンドル10を中心として磁気ディスク2を回転させるスピンドルモータ3が設けられている。
【0016】
ボイスコイルモータ4には、ボイスコイル4Aに磁界を印加するマグネット4Bが設けられている。マグネット4Bはボイスコイル4A上に配置することができる。マグネット4B上にはトップヨーク4Cが配置され、ボイスコイル4A下にはボトムヨーク4Dが配置されている。
【0017】
マグネット4B、トップヨーク4C、ボトムヨーク4Dおよびスピンドルモータ3は、ベース1に固定されている。ベース1はAlなどの金属のダイキャストで構成することができる。
【0018】
制御部5には、ヘッド制御部6、パワー制御部7、リードライトチャネル8およびハードディスク制御部9が設けられている。制御部5は、リードヘッドHRにて読み取られたサーボデータに基づいて、磁気ディスク2に対するライトヘッドHWおよびリードヘッドHRの位置を制御したり、ホストHSとの間でライトデータおよびリードデータの伝送を制御したりすることができる。
【0019】
ヘッド制御部6には、ライト電流制御部6Aおよび再生信号検出部6Bが設けられている。パワー制御部7には、スピンドルモータ制御部7Aおよびボイスコイルモータ制御部7Bが設けられている。
ヘッド制御部6は、記録再生時における信号を増幅したり検出したりする。ライト電流制御部6Aは、ライトヘッドHWに流れるライト電流を制御する。再生信号検出部6Bは、リードヘッドHRにて読み出された信号を検出する。
【0020】
パワー制御部7は、ボイスコイルモータ4およびスピンドルモータ3を駆動する。スピンドルモータ制御部7Aは、スピンドルモータ3の回転を制御する。ボイスコイルモータ制御部7Bは、ボイスコイルモータ4の駆動を制御する。ボイスコイルモータ4は、ボイスコイル4AにVCM(Voice Coil Motor)電流を流すことで、ピボットPVの回りにボイスコイル4Aを回転させ、磁気ディスク2上で磁気ヘッドを移動させることができる。
【0021】
リードライトチャネル8は、ヘッド制御部6とハードディスク制御部9との間でデータの受け渡しを行う。なお、データは、リードデータ、ライトデータおよびサーボデータを含む。例えば、リードライトチャネル8は、リードヘッドHRにて再生される信号をホストHSで扱われるデータ形式に変換したり、ホストHSから出力されるデータをライトヘッドHWにて記録される信号形式に変換したりする。このような形式変換としては、DA変換、AD変換、符号化および復号化を含むことができる。また、リードライトチャネル8は、リードヘッドHRにて再生された信号のデコード処理を行ったり、ホストHSから出力されるデータをコード変調したりする。
【0022】
ハードディスク制御部9は、磁気ディスク装置の外部(例えば、ホストHS)からの指令に基づいて記録再生制御を行ったり、外部とリードライトチャネル8との間でデータの受け渡しを行ったりする。ハードディスク制御部9には、記録再生制御を行うプロセッサと、ホストHSとリードライトチャネル8との間でデータの受け渡しの制御を行うプロセッサとを、別個に設けるようにしてもよい。記録再生制御およびデータの受け渡しの制御に同一のプロセッサを用いるようにしてもよい。プロセッサとしてはCPUを用いることができる。
【0023】
ハードディスク制御部9には、シーク制御部9Aおよびオントラック判定処理部9Eが設けられている。オントラック判定処理部9Eには、特徴量抽出部9B、評価値予測部9Cおよびオントラック判定回数設定部9Dが設けられている。
【0024】
シーク制御部9Aは、ボイスコイル4Aに流すVCM電流を制御することで、磁気ヘッドを目標位置に移動させることができる。オントラック判定処理部9Eは、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れを予測し、その予測結果に基づいてオントラック判定回数を設定することができる。オントラック判定回数は、シーク後の磁気ヘッドのオントラック状態の確認に用いることができる。シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れは、シーク中の磁気ヘッドの状態に基づいて予測することができる。
【0025】
特徴量抽出部9Bは、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる特徴量を抽出することができる。この特徴量は、シーク中に抽出することができる。この特徴量は、アクチュエータAKの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に基づいて抽出することができる。例えば、特徴量として、磁気ヘッドの復調位置と推定位置との位置誤差から、磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる周波数成分を抽出することができる。磁気ヘッドの復調位置は、リードヘッドHRによるサーボデータの読み取り結果から求めることができる。磁気ヘッドの推定位置は、アクチュエータAKの動作を模擬した状態オブザーバにて求めることができる。
【0026】
評価値予測部9Cは、特徴量抽出部9Bにて抽出された特徴量に基づいて、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れを評価可能な評価値を予測することができる。オントラック判定回数設定部9Dは、評価値予測部9Cにて予測された評価値に基づいて、オントラック判定回数を設定することができる。
【0027】
制御部5はホストHSに接続されている。ホストHSとしては、ライトコマンドやリードコマンドなどを磁気ディスク装置に発行するパーソナルコンピュータであってもよいし、サーバなどに接続可能なネットワークであってもよい。すなわち、磁気ディスク装置は、ホストHSの外部記憶装置として用いることができる。磁気ディスク装置は、ホストHSに外付けされていてもよいし、ホストHSに内蔵されていてもよい。
【0028】
磁気ディスク2へのデータライト時には、スピンドルモータ3により磁気ディスク2が回転される。また、ホストHSからのライトコマンドで指定されるライトデータがハードディスク制御部9を介してリードライトチャネル8に送られる。そして、ライトデータがライトヘッドHWを介して磁気ディスク2のライトコマンドで指定される領域にライトされる。
【0029】
ライトヘッドHWがライトコマンドで指定される領域にいない場合、シーク制御部9AによってVCM電流が制御されることで、ライトヘッドHWがライトコマンドで指定される領域に移動される。この時、特徴量抽出部9Bにおいて、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる特徴量がシーク中に抽出される。そして、評価値予測部9Cにおいて、特徴量に基づいて磁気ヘッドの位置の暴れを評価可能な評価値が予測される。その後、オントラック判定回数設定部9Dにおいて、評価値予測部9Cにて予測された評価値に基づいて、オントラック判定回数が設定される。
【0030】
評価値に基づいて磁気ヘッドの位置の暴れが大きいと評価された場合、オントラック判定回数を増大させ、オントラック状態と判定されるまでの時間を長くすることができる。一方、評価値に基づいて磁気ヘッドの位置の暴れが小さいと評価された場合、オントラック判定回数を減少させ、オントラック状態と判定されるまでの時間を短くすることができる。
【0031】
オントラック判定回数が設定されると、ライトヘッドHWの位置および速度がオントラック状態を満たしたかどうかが判定される。この時、シーク先でライトヘッドHWの位置および速度がスライスを超えていないかどうかをオントラック判定回数だけ確認することで、ライトヘッドHWの位置および速度がオントラック状態を満たしたかどうかを判定することができる。ライトヘッドHWがオントラック状態を満たすと、ライトが許可され、ライトデータがライトヘッドHWを介してライトされる。
【0032】
ここで、磁気ヘッドの位置の暴れを評価可能な評価値に基づいてオントラック判定回数を設定することにより、磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は磁気ヘッドの位置および速度が十分に安定するまでライト開始を遅らせることができ、ライト品質の低下を防止することができる。一方、磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時は磁気ヘッドの位置および速度が安定したら直ちにライトを開始させることができ、ライト動作を高速化することができる。
【0033】
以下、オントラック判定回数の設定に用いられる構成例および動作例について具体的に説明する。
図3は、一実施形態に係る磁気ディスク装置に用いられるシーク制御系およびオントラック判定処理部の概略構成例を示すブロック図である。
図3において、シーク制御系は、プラント31のシーク動作を制御することができる。プラント31は、
図1(b)のボイスコイルモータ4、磁気ヘッド、磁気ディスク2、再生信号検出部6Bおよびリードライトチャネル8を含むことができる。
【0034】
シーク制御系には、状態オブザーバ32、状態フィードバック制御部33および減算器A1、A5が設けられている。状態オブザーバ32は、プラント31のボイスコイルモータ4の数式モデルに基づいて、ボイスコイルモータ4の状態量を推定することができる。例えば、状態オブザーバ32は、ボイスコイルモータ4の速度や加速度などを状態量として推定することができる。そして、磁気ヘッドの復調位置yおよびボイスコイルモータ4のVCM電流の目標値Itが与えられた時に、ボイスコイルモータ4の状態量の推定値を用いることで、磁気ヘッドの推定位置y´を出力することができる。
【0035】
状態フィードバック制御部33は、磁気ヘッドの復調位置yと推定位置y´との位置誤差eが0に近づくように、ボイスコイルモータ4のVCM電流の目標値Itを算出することができる。この時、状態フィードバック制御部33は、ボイスコイルモータ4の状態量の推定値とフィードバックゲインKvとの演算結果に基づいてVCM電流の目標値Itを算出することができる。
【0036】
状態オブザーバ32には、ゲイン演算器35、40、行列演算器36、37、39、遅延素子38、41および加算器A2〜A4が設けられている。
【0037】
ゲイン演算器35は、位置誤差eとオブザーバゲインL(1、2)とを演算することができる。オブザーバゲインL(1、2)は、磁気ヘッドの位置に関するオブザーバゲインL1と磁気ヘッドの速度に関するオブザーバゲインL2とを含むことができる。ゲイン演算器40は、位置誤差eと外力に関するオブザーバゲインL3とを演算することができる。
【0038】
行列演算器36は、ボイスコイルモータ4の状態量の推定値とシステム行列Avとを演算することができる。行列演算器37は、VCM電流の目標値Itと入力行列Bvとを演算することができる。行列演算器39は、ボイスコイルモータ4の状態量の推定値と出力行列Cvとを演算することができる。この時、ボイスコイルモータ4の動作を模擬できるようにシステム行列Av、入力行列Bvおよび出力行列Cvを設定することができる。
【0039】
オントラック判定処理部34は、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れを予測し、その予測結果に基づいてオントラック判定回数を設定することができる。オントラック判定処理部34には、バンドパスフィルタ42、積算器43、オントラック判定回数設定部44およびオントラック判定部45が設けられている。バンドパスフィルタ42は、
図1(b)の特徴量抽出部9Bとして用いることができる。積算器43は、
図1(b)の評価値予測部9Cとして用いることができる。
【0040】
バンドパスフィルタ42は、位置誤差eを入力とし、特徴量FAを出力することができる。この時、アクチュエータAKの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に基づいて、位置誤差eの周波数成分の通過帯域を設定することができる。積算器43は、各サンプル点の特徴量FAの積算結果に基づいて評価値ESを予測することができる。
【0041】
オントラック判定回数設定部44は、積算器43にて予測された評価値ESに基づいて、オントラック判定回数NTを設定することができる。オントラック判定部45は、オントラック判定回数NTに基づいて、磁気ヘッドの位置および速度がオントラック状態を満たしたかどうかを判定することができる。
【0042】
以下、
図3のシーク制御系およびオントラック判定処理部34のシーク開始後の動作について説明する。
シーク中に磁気ヘッドでリードされたサーボパターンに基づいて、磁気ヘッドの復調位置yがプラント31から出力され、減算器A1に入力される。状態オブザーバ32には、状態フィードバック制御部33から出力されたVCM電流の目標値Itと、減算器A1から出力された位置誤差eが入力される。そして、状態オブザーバ32から磁気ヘッドの推定位置y´が出力され、減算器A1に入力される。
【0043】
減算器A1では、磁気ヘッドの復調位置yから推定位置y´が減算されることで位置誤差eが算出され、ゲイン演算器35、ゲイン演算器40およびバンドパスフィルタ42に入力される。ゲイン演算器35では、位置誤差eとオブザーバゲインL(1、2)とが演算され、その演算結果が加算器A2に入力される。
【0044】
また、加算器A4による加算結果は、遅延素子38で遅延された後、加算器A2および行列演算器39に入力される。行列演算器39では、遅延素子38の出力と出力行列Cvとが演算されることで、推定位置y´が算出され、減算器A1に入力される。加算器A2では、ゲイン演算器35の演算結果と遅延素子38の出力とが加算され、その加算結果が状態フィードバック制御部33および行列演算器36に入力される。
【0045】
行列演算器36では、加算器A2の加算結果とシステム行列Avとが演算され、その演算結果が加算器A4に入力される。一方、行列演算器37には、状態フィードバック制御部33からVCM電流の目標値Itが入力される。行列演算器37では、VCM電流の目標値Itと入力行列Bvとが演算され、その演算結果が加算器A4に入力される。
【0046】
加算器A4では、行列演算器36の演算結果と行列演算器37の演算結果とが加算され、その加算結果が遅延素子38を介して加算器A2および行列演算器39に入力される。
【0047】
一方、ゲイン演算器40では、位置誤差eとオブザーバゲインL(3)とが演算され、その演算結果が加算器A3に入力される。また、加算器A3には、加算器A3の出力が遅延素子41を介して加算器A3に入力される。加算器A3では、ゲイン演算器40の演算結果と加算器A3の出力とが加算されることでVCM電流の外乱成分Idが算出され、その外乱成分Idが減算器A5に入力される。また、減算器A5には、状態フィードバック制御部33からVCM電流の目標値Itが入力される。
【0048】
減算器A5では、VCM電流の目標値Itから外乱成分Idが減算され、その減算結果がプラント31に入力される。プラント31では、減算器A5の減算結果に基づいてVCM電流がボイスコイルモータ4に印加される。
【0049】
一方、バンドパスフィルタ42では、シーク中に位置誤差eから特徴量FAが抽出され、積算器43に入力される。積算器43では、各サンプル点の特徴量FAが積算されることで評価値ESが算出され、オントラック判定回数設定部44に入力される。
【0050】
この時、評価値ESは、以下の(1)式で与えることができる。
ES=∫(F(z)×e) ・・・(1)
ただし、F(z)は、Z変換されたバンドパスフィルタ42の伝達関数である。
【0051】
なお、特徴量FAの積算は、シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置から開始することができる。固定サンプル数は、数サンプルから数十サンプル数に設定することができる。ここで、特徴量FAの積算を目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置から開始することにより、シーク距離の長短に応じて評価値ESが増減するのを防止することができる。シーク距離の長短に応じて評価値ESが増減するのを防止するために、シーク開始からシーク終了まで特徴量FAの積算を行い、その積算値をシーク距離で除算した値を評価値ESとしてもよい。
【0052】
オントラック判定回数設定部44では、積算器43にて算出された評価値ESに基づいて、オントラック判定回数NTが設定され、オントラック判定部45に入力される。オントラック判定部45では、オントラック判定回数NTに基づいて磁気ヘッドの位置および速度がオントラック状態を満たしたかどうかが判定される。磁気ヘッドの位置および速度がオントラック状態を満たすと、リードまたはライトの許可信号SAが出力される。
【0053】
ここで、位置誤差eは、状態オブザーバ32およびオントラック判定処理部34に並列に入力することができる。そして、状態オブザーバ32を用いた状態フィードバック制御部33による処理と、オントラック判定処理部34による処理とは並列に実行させることができる。これにより、今回のシーク時にリアルタイムで評価値ESを予測することができ、今回のシーク時に予測された評価値ESを今回のシーク後のオントラック判定回数の設定に用いることができる。
【0054】
図4は、一実施形態に係る磁気ディスク装置に用いられるアクチュエータの周波数共振特性の一例を示す図である。
図4において、アクチュエータAKの周波数共振特性のゲインは特定の帯域でピークを持つ。この時、磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる特徴量を抽出するために、位置誤差eの周波数成分のゲインが最も高いピーク位置PKを含む帯域BPをバンドパスフィルタ42の通過帯域として設定することができる。この特徴量に基づいてシーク後の磁気ヘッドの位置の暴れを予測することにより、シーク後の磁気ヘッドの位置が安定してからリードまたはライトが開始できるようにオントラック判定回数を設定することができる。
【0055】
なお、
図4の例では、アクチュエータの周波数共振特性に基づいてバンドパスフィルタ42の通過帯域を設定する方法について説明したが、外乱に起因する振動の周波数特性に基づいてバンドパスフィルタ42の通過帯域を設定するようにしてもよい。外乱に起因する振動は、例えば、磁気ディスク装置が内蔵されるサーバのファンの回転による振動を挙げることができる。この時、バンドパスフィルタ42の通過帯域は、例えば、3kHz以下に設定することができる。
【0056】
図5(a)は、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時の評価値の予測方法を示すタイミングチャート、
図5(b)は、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時の評価値の予測方法を示すタイミングチャートである。
図5(a)および
図5(b)において、シーク指示信号SHがハイレベルからロウレベルに遷移すると(t1)、シーク期間H1に移行し、シークが開始される。シーク指示信号SHがロウレベルからハイレベルに遷移すると(t3)、シーク期間H1が終了し、シークが終了される。シーク期間H1では、磁気ヘッドが1トラックだけ跨ぐごとに復調位置yが折り返して出力される。
図5(a)および
図5(b)の例では、シーク期間H1に1000トラックだけシークした場合を示した。
【0057】
シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は、シーク期間H1が終了すると、
図5(a)に示すように、セトリング期間H2に移行する。シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時は、シーク期間H1が終了すると、
図5(b)に示すように、セトリング期間H2´に移行する。セトリング期間H2、H2´は、シーク後に磁気ヘッドの位置が安定するまでの期間である。シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は小さい時に比べて磁気ヘッドの位置が安定するまでに時間がかかるので、セトリング期間H2はセトリング期間H2´より長くなる。
【0058】
セトリング期間H2、H2´の磁気ヘッドの位置の暴れの大小には、そのセトリング期間H2、H2´の直前のシーク期間H1の磁気ヘッドの位置の暴れの大小が反映される。シーク期間H1およびセトリング期間H2、H2´の磁気ヘッドの位置の暴れの大小は、アクチュエータAKの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に依存する。
【0059】
このため、アクチュエータAKの周波数共振特性または外乱に起因する振動の周波数特性に基づいてバンドパスフィルタ42の通過帯域を設定することにより、セトリング期間H2、H2´の磁気ヘッドの位置の暴れの指標となる特徴量FAをシーク期間H1に抽出することができる。シーク期間H1中に特徴量FAを積算することにより評価値ESを算出することができる。特徴量FAの積算は、シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置(t2)から開始することができる。
【0060】
シーク期間H1に評価値ESをリアルタイムで算出することにより、シーク期間H1の直後のセトリング期間H2、H2´の磁気ヘッドの位置の暴れを予測することができる。この評価値ESに基づいてオントラック判定回数NTを設定することにより、磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時のセトリング期間H2は、磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時のセトリング期間H2´より長くすることができる。
【0061】
磁気ヘッドの位置の暴れが大きい場合、セトリング期間H2が終了すると、
図5(a)に示すように、ライト期間H3に移行する(t4)。磁気ヘッドの位置の暴れが小さい場合、セトリング期間H2´が終了すると、
図5(b)に示すように、ライト期間H3´に移行する(t4´)。
【0062】
セトリング期間H2はセトリング期間H2´より長いので、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は小さい時に比べてライト開始が遅くなる。このため、磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は磁気ヘッドの位置および速度が十分に安定するまでライト開始を遅らせることができ、ライト品質の低下を防止することができる。一方、磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時は磁気ヘッドの位置および速度が安定したら直ちにライトを開始させることができ、ライト動作を高速化することができる。
【0063】
図6(a)は、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時の磁気ヘッドの軌跡を示す図、
図6(b)は、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時の磁気ヘッドの軌跡を示す図である。
図6(a)および
図6(b)において、シークが開始されると、磁気ヘッドは軌跡PTに沿って目標位置に到達する。
【0064】
シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は、シーク期間H1が終了すると、
図6(a)に示すように、セトリング期間H2に移行する。シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時は、シーク期間H1が終了すると、
図6(b)に示すように、セトリング期間H2´に移行する。
【0065】
セトリング期間H2、H2´では、磁気ヘッドのオントラック状態の確認が行われる。オントラック状態を確認するために、オフトラックスライスSL1、SL2がトラックセンタTCを基準に設定される。セトリング期間H2、H2´において、磁気ヘッドの位置がオントラック判定回数だけオフトラックスライスSL1、SL2を超えていないことが確認できると、磁気ヘッドがオントラック状態にあると判定することができる。
【0066】
ここで、評価値ESに基づいてオントラック判定回数を設定することにより、シーク後の磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は小さい時に比べてオントラック判定回数を大きくすることができる。このため、磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時のセトリング期間H2は、磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時のセトリング期間H2´より長くすることができる。これにより、磁気ヘッドの位置の暴れが大きい時は磁気ヘッドの位置および速度が十分に安定するまでライト開始を遅らせることができ、ライト品質の低下を防止することができる。一方、磁気ヘッドの位置の暴れが小さい時は磁気ヘッドの位置および速度が安定したら直ちにライトを開始させることができ、ライト動作を高速化することができる。
【0067】
なお、
図6(a)および
図6(b)では、磁気ヘッドの位置がオントラック判定回数だけオフトラックスライスSL1、SL2を超えていないことを確認する方法について説明したが、磁気ヘッドの速度についても同様にオントラック状態を確認することができる。
【0068】
図7は、一実施形態に係る磁気ディスク装置のオントラック判定処理方法を示すフローチャートである。
図7において、シークが開始されると(S0)、セトリング中かどうかが判断される(S1)。セトリングとは、シーク後の磁気ヘッドの整定動作を言う。セトリング中でない場合、シーク中に位置誤差から特徴量が抽出される(S2)。
【0069】
次に、磁気ヘッドの現在位置が、シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置かどうかが判断される(S3)。磁気ヘッドの現在位置が、シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置の場合、1サンプル前の評価値に特徴量が積算されることで現サンプルの評価値が算出され、S1に戻る(S4)。
【0070】
一方、S3において、磁気ヘッドの現在位置が、シーク時の目標シリンダから固定サンプル数だけ手前の位置でない場合、S1に戻る。
一方、S1において、セトリング中の場合、S4で算出された評価値に基づいて、オントラック判定回数が設定される(S5)。
【0071】
次に、磁気ヘッドの位置および速度がオントラック判定回数だけオントラック状態を満たしたかどうかが判定される(S6)。この時、磁気ヘッドの位置は、磁気ヘッドの復調位置yから求めることができる。磁気ヘッドの速度は、磁気ヘッドの復調位置yの今回のサンプル値と前回のサンプル値との差分から求めることができる。磁気ヘッドの位置および速度がオントラック判定回数だけオントラック状態を満たすと、リードまたはライトの許可が出される(S7)。一方、S6において、磁気ヘッドの位置および速度がオントラック判定回数だけオントラック状態を満たさない場合、S6の処理が繰り返される。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。