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  • 特開2018197172-窒化物の単結晶 図000005
  • 特開2018197172-窒化物の単結晶 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-197172(P2018-197172A)
(43)【公開日】2018年12月13日
(54)【発明の名称】窒化物の単結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20181116BHJP
【FI】
   C30B29/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-102077(P2017-102077)
(22)【出願日】2017年5月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】大井戸 敦
(72)【発明者】
【氏名】川崎 克己
(72)【発明者】
【氏名】山沢 和人
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB10
4G077BE13
4G077CG02
4G077CG07
4G077EA05
4G077EB01
4G077ED01
4G077HA02
4G077HA12
4G077QA04
4G077QA11
4G077QA27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い結晶性を有する窒化物の単結晶の提供。
【解決手段】ウルツ鉱型結晶構造を有し、ホウ素の含有量が0.5〜251質量ppm、好ましくは、1〜52質量ppm、特に好ましくは、20〜52質量ppmである窒化物の単結晶10。少なくとも一種の第13族元素(アルミニウム)を含有する窒化物で、好ましくは、窒化アルミニウムの単結晶10。Fe、Ni、Ti、Si、V、Cu、Co、Mn及びCrから選ばれる少なくとも一種の元素を含有し、前記含有量の合計が、1〜100質量ppm、好ましくは、1.3〜59質量ppmである窒化物の単結晶10。厚さが10〜2mm好ましくは11〜1758μmである基板である窒化物の単結晶10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱型結晶構造を有し、
ホウ素の含有量が0.5質量ppm以上251質量ppm以下である、
窒化物の単結晶。
【請求項2】
ホウ素の含有量が1質量ppm以上52質量ppm以下である、
請求項1に記載の窒化物の単結晶。
【請求項3】
少なくとも一種の第13族元素を含有する、
請求項1又は2に記載の窒化物の単結晶。
【請求項4】
アルミニウムを含有する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物の単結晶。
【請求項5】
窒化アルミニウムである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物の単結晶。
【請求項6】
鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物の単結晶。
【請求項7】
鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムの含有量の合計が、1質量ppm以上100質量ppm以下である、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物の単結晶。
【請求項8】
厚さが10μm以上2mm以下である基板である、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物の単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物の単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物(いわゆる窒化物半導体)の単結晶は、青色帯から紫外帯の短波長光を発する発光デバイス、又はパワートランジスタの材料として注目されている。特に窒化アルミニウムの単結晶は、紫外発光デバイスの基板の材料として注目されている。窒化物の単結晶は、例えば、昇華法若しくはハライド気相成長法(HVPE)等の気相成長法、又はフラックス法等の液相成長法によって作製される(下記特許文献1〜4参照)。
【0003】
下記特許文献1等に記載の昇華法では、原料である窒化物を高温で昇華させて、窒化物を低温の種結晶の表面上に析出させ、結晶化させる。昇華法では結晶の成長速度が大きいため、昇華法はバルク結晶の作製に適している。しかし、昇華法の場合、単結晶内における特定の原子又は分子の過剰な析出等により、窒化物の単結晶が褐色に着色し易く、高い結晶性を有する窒化物の単結晶を得ることは難しい。
【0004】
下記特許文献2等に記載のハライド気相成長法では、塩化物のガスとアンモニアとを反応させることにより、窒化物を種結晶の表面上に析出させ、結晶化させる。ハライド気相成長法の場合、窒化物の単結晶の着色は抑制されるが、欠陥が少なく高い結晶性を有する窒化物の単結晶を得ることは難しい。
【0005】
下記特許文献3等に記載のフラックス法では、液相中で窒化物の単結晶を種結晶の表面上に成長させる。原理的には、フラックス法によれば、気相成長法の場合に比べて欠陥の少ない単結晶が得られ易い。従来、フラックス法の一つである液相エピタキシ(LPE)法による窒化物の単結晶の製造方法が研究されている。しかし、従来の液相エピタキシ法では、高い結晶性を有する窒化物の単結晶を得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-6740号公報
【特許文献2】特開2010‐89971号公報
【特許文献3】特開2007‐182333号公報
【特許文献4】特開平8‐239752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い結晶性を有する窒化物の単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る窒化物の単結晶は、ウルツ鉱型結晶構造を有し、窒化物の単結晶におけるホウ素の含有量が0.5質量ppm以上251質量ppm以下である。
【0009】
上記窒化物の単結晶におけるホウ素の含有量は1質量ppm以上52質量ppm以下であってよい。
【0010】
上記窒化物の単結晶は、少なくとも一種の第13族元素を含有してよい。
【0011】
上記窒化物の単結晶は、アルミニウムを含有してよい。
【0012】
上記窒化物の単結晶は、窒化アルミニウムであってよい。
【0013】
上記窒化物の単結晶は、鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有してよい。
【0014】
上記窒化物の単結晶における鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムの含有量の合計が、1質量ppm以上100質量ppm以下であってよい。
【0015】
上記窒化物の単結晶は、厚さが10μm以上2mm以下である基板であってよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い結晶性を有する窒化物の単結晶が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る窒化物の単結晶の構造(ウルツ鉱型結晶構造)の斜視図であり、図1中の(b)は、窒化ホウ素の単結晶(六方晶)の構造の斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る窒化物の単結晶の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。図面において、同一又は同等の構成要素には同一の符号を付す。
【0019】
図1中の(a)に示されるように、本実施形態に係る窒化物の単結晶10は、ウルツ鉱型結晶構造を有する。窒化物の単結晶10は、元素Eの窒化物(例えばEN)の単結晶と言い換えられる。窒化物の単結晶10は、少なくとも一種の第13族元素を含有してよい。つまり、図1中の(a)に示される元素Eは、少なくとも一種の第13族元素であってよい。窒化物の単結晶10は、少なくとも一種の第13族元素の窒化物の単結晶であってよい。窒化物の単結晶10に含まれる第13族元素(元素E)は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)及びタリウム(Tl)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。窒化物の単結晶10は、例えば、第13族元素(元素E)として、アルミニウムを含有してよい。本実施形態に係る窒化物の単結晶10におけるホウ素(B)の含有量は、0.5質量ppm以上251質量ppm以下である。
【0020】
上記の通り、窒化物の単結晶10におけるホウ素の含有量は非常に小さいため、窒化物の単結晶10の組成は、近似的にAlGaInNと表されてよい。x+y+zは約1であり、且つxは0以上1以下であり、且つyは0以上1以下であり、且つzは0以上1以下である。窒化物の単結晶10は、例えば窒化アルミニウム(AlN)であってよい。窒化物の単結晶10は、例えば窒化ガリウム(GaN)であってもよい。窒化物の単結晶10は、例えば窒化インジウム(InN)であってもよい。窒化物の単結晶10は、例えば窒化インジウムガリウム(InGaN)であってもよい。
【0021】
図1中の(a)に示されるように、ウルツ鉱型結晶構造を有する窒化物の単結晶10では、4つの頂点其々に窒素又は窒素イオン(陰イオン)が配置された三角錐が構成される。この三角錐の中心に、三価の元素E、又は元素Eのイオン(陽イオン)が配置される。一方、図1中の(b)に示されるように、窒化ホウ素(BN)の単結晶20では、常圧下において、3つの頂点其々に窒素又は窒素イオンが配置された三角形が構成される。この三角形の中心に、三価のホウ素、又はホウ素イオン(陽イオン)が配置される。ホウ素又はホウ素イオンの半径は、窒素又は窒素イオンの半径よりも小さい。したがって、三つの窒素又は窒素イオンに囲まれた隙間に、一個のホウ素又はホウ素イオンが入る。その結果、窒化ホウ素の単結晶は平面的な六方晶系の構造を有する。本実施形態に係る窒化物の単結晶10は微量のホウ素を含有するため、図1の(a)に示される元素Eの一部がホウ素で置換される。ホウ素又はホウ素イオンの半径は、元素E又は元素Eのイオンの半径よりも小さい。したがって、窒化ホウ素の単結晶の場合と同様に、ホウ素又はホウ素イオンは、元素E又は元素Eのイオンに比べて、四つの窒素又は窒素イオンに囲まれた隙間(三角錐の中心)に収まり易い。その結果、ホウ素を含有する窒化物の単結晶10では、ホウ素を含有しない窒化物の単結晶に比べて、結晶格子に作用する応力が緩和され、結晶構造の歪みが抑制され、結晶性が高まる。以上のようなホウ素に起因する効果は、ホウ素の含有量が0.5質量ppm以上251質量ppm以下である窒化物の単結晶10において発揮される。ホウ素の含有量が0.5質量ppm未満である窒化物の単結晶では、ホウ素が結晶構造の歪みを抑制し難い。したがって、ホウ素の含有量が0.5質量ppm未満である窒化物の単結晶の結晶性は、ホウ素の含有量が0.5質量ppm以上251質量ppm以下である窒化物の単結晶の結晶性に劣る。一方、ホウ素の含有量が251質量ppmよりも大きい窒化物は、そもそも単結晶になり難く、多結晶になり易い。またホウ素の含有量が251質量ppmよりも大きい窒化物の表面の粗さは、ホウ素の含有量が0.5質量ppm以上251質量ppm以下である窒化物の単結晶10の表面の粗さよりも大きい。したがって、ホウ素の含有量が251質量ppmよりも大きい窒化物の結晶(多結晶)の表面に、他の化合物(例えば化合物半導体)の結晶を形成し難い。つまり、ホウ素の含有量が251質量ppmよりも大きい窒化物の結晶(多結晶)は、LED等の発光デバイスの基板として利用し難い。
【0022】
後述の通り、窒化物の単結晶10の結晶性の向上は、X線回折(XRD)法によって測定される窒化物の単結晶10のロッキングカーブの半値幅の減少によって確認される。窒化物が単結晶であるか否かは、XRD法によって測定される極点図(pole figure)によって確認されてよい。窒化物が単結晶であるか否かは、面内回折法(In‐plane回折法)によって確認されてもよい。
【0023】
ウルツ鉱型結晶構造を有する窒化物において、アルミニウム又はアルミニウムイオン(陽イオン)の半径は、ガリウム又はガリウムイオンの半径よりも小さく、ホウ素又はホウ素イオン(陽イオン)のイオン半径に近い。そのため、ホウ素の含有による結晶構造の歪みの緩和は、アルミニウムを含有する窒化物の単結晶において起こり易い。特に、ホウ素の含有による結晶構造の歪みの緩和は、窒化アルミニウムの単結晶において起こり易い。
【0024】
窒化物の単結晶10におけるホウ素の含有量は、1質量ppm以上123質量ppm以下、1質量ppm以上66質量ppm以下、1質量ppm以上52質量ppm以下、15質量ppm以上52質量ppm以下、又は20質量ppm以上52質量ppm以下であってよい。ホウ素の含有量が上記の範囲内である場合、窒化物の単結晶10が高い結晶性を有し易い。換言すれば、ホウ素の含有量が上記の範囲内である場合、窒化物の単結晶10のロッキングカーブの半値幅が減少し易い。
【0025】
上記窒化物の単結晶10は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有してよい。これらの元素は、第13族元素と異なるイオン半径を有し、例えば陽イオンとして、ウルツ鉱型結晶構造に入ることができる。その結果、窒化物の単結晶10の歪が更に抑制され、窒化物の単結晶10のロッキングカーブの半値幅が更に減少する。ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素は、例えば、窒化物の単結晶10の製造に用いる溶媒(フラックス)に由来してよい。
【0026】
窒化物の単結晶10における鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムの含有量の合計は、1質量ppm以上100質量ppm以下であってよい。この場合、窒化物の単結晶10の歪みが更に抑制され、窒化物の単結晶10のロッキングカーブの半値幅が更に減少する。同様の理由から、窒化物の単結晶10における鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムの含有量の合計は、1.3質量ppm以上59質量ppm以下であってもよい。
【0027】
窒化物の単結晶10は、厚さが10μm以上2mm以下である基板であってよい。ホウ素を含有する窒化物の単結晶10を種結晶の平坦な表面上に成長させることにより、窒化物の単結晶10から構成される基板が形成される。結晶成長の初期では、単結晶10の結晶構造が種結晶の結晶構造の影響を受け易いため、単結晶10の結晶構造は歪み易い。しかし、結晶成長に伴って単結晶10の基板の厚さが10μm以上に達した場合、ホウ素の含有によって結晶構造の歪みが緩和され易く、単結晶10の結晶性が向上し易い。ただし、酸化物の単結晶と比較した場合、結晶成長中に窒化物の単結晶10に欠陥が生じ易く、窒化物の単結晶10の基板の機械的強度は低い傾向にある。したがって、熱ひずみ又は応力に起因する基板の割れを抑制するためには、窒化物の単結晶10から構成される基板の厚さが2mm以下であることが望ましい。窒化物の単結晶10から構成される基板の厚さは、11μm以上1758μm以下であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る窒化物の単結晶10の製造方法は、液相成長法の一種であるフラックス法であってよい。窒化物の単結晶10の製造方法は、例えば、図2に示されるような製造装置100を用いて実施されてよい。窒化物の単結晶10の製造方法は、窒化物の原料である元素(例えば、第13族元素等の金属元素)及びホウ素を含む溶媒40を調製する工程と、窒素ガスを溶媒40中へ供給し、且つ種結晶30の表面を溶媒40中に接触させて、窒化物の単結晶10を種結晶30の表面上に成長させる工程と、を備える。以下に製造方法の詳細を説明する。
【0029】
溶媒40は、融剤(フラックス)と言い換えられてよい。溶媒40は、窒化物の原料として、例えば、アルミニウム,ガリウム、インジウム又はタリウム等の第13族元素と、ホウ素と、を含有してよい。また溶媒40は、ニッケル、チタン、ケイ素、バナジウム、銅、コバルト、マンガン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有してよい。後述の通り、溶媒40におけるホウ素の含有量(例えば、モル数)の調整により、窒化物の単結晶10におけるホウ素の含有量を0.5質量ppm以上251質量ppm以下に制御することができる。
【0030】
溶媒40は、例えば、以下の手順で調製されてよい。
【0031】
溶媒40の各原料(溶媒を構成する各元素)のいずれも単体(金属単体)であってよい。各原料を秤量して、坩堝へ入れる。真空チャンバー内の不活性雰囲気下において、坩堝内の全原料を1600〜1800℃で加熱して溶融させ、全原料を攪拌・混合する。溶融した原料の混合物を室温まで冷却することにより、原料の混合物の塊(金属の塊)を得る。原料の混合物の塊を再び坩堝に入れて、坩堝50内の原料の混合物を真空チャンバー内で溶融させ、且つ原料の混合物を攪拌する。その結果、均質な溶媒40が調製される。
【0032】
窒化物の単結晶10は、以下の手順で成長させてよい。
【0033】
真空チャンバー内の脱気の後、窒素及びアルゴンの混合ガスを、真空チャンバー内へ供給し、且つ坩堝50内の溶媒40を加熱しながら攪拌する。その結果、窒素が均一に溶解した溶媒40が得られる。真空チャンバー内の気圧は、溶媒40中の窒素が飽和するように調整されてよい。真空チャンバー内への窒素(混合ガス)の供給は、窒化物の単結晶10の成長が完了するまで継続されてよい。溶媒40を撹拌する際の溶媒40の温度は、窒化物及び溶媒40の全てが溶融して、撹拌後に溶媒40の液面において固形物(未溶解物)が残らない程度の温度に設定されてよい。溶媒40を撹拌する際の溶媒40の温度は、例えば1500℃以上1800℃以下であってよい。溶媒40を撹拌する際の溶媒40の温度は、製造装置100(単結晶成長炉)の加熱部の構造、及び混合ガス中の窒素の比率等に影響される。したがって、溶媒40を撹拌する際の溶媒40の温度(攪拌温度)が所望・所定の温度(上記の温度範囲)に調整されるように、炉の構造、混合ガス中の窒素の比率、及び加熱部の出力等が決定されてよい。
【0034】
溶媒40を撹拌した後、溶媒40の温度を、窒化物が析出し始める飽和温度まで徐々に下げてから、種結晶30の片面を面内で回転させながら、溶媒40に接触させる。その結果、窒化物の単結晶10が種結晶30の表面上で成長し始める。窒化物の単結晶10の成長過程における溶媒40の温度(上記の飽和温度)は、例えば、1400℃以上1750℃以下であってよい。窒化物の単結晶10の成長過程における溶媒40の温度(成長温度)は、製造装置100(単結晶成長炉)の加熱部の構造、及び混合ガス中の窒素の比率等に影響される。したがって、窒化物の単結晶10の成長過程における溶媒40の温度が所望・所定の温度(飽和温度)以下に調整されるように、製造装置100(単結晶成長炉)の加熱部の構造、混合ガス中の窒素の比率、及び加熱部の出力等が決定・調整されてよい。窒化物の単結晶10を成長させる時間は、例えば、数時間以上数十時間以下であってよい。
【0035】
単結晶成長炉として高周波加熱炉を用いる場合、坩堝50内の溶媒40の温度を熱電対で正確に測定することは困難である。なぜならば、高周波加熱炉では、高周波の作用により熱電対自体が発熱してしまうからである。したがって、以下の実験の繰り返し(try and error)により、撹拌温度及び成長温度等の温度条件を設定・制御すればよい。まず、高周波加熱炉の加熱部の出力を上げて、坩堝50内の各原料を加熱して溶かす。そして、溶融した各原料(溶媒40)を撹拌してから室温まで急冷させて、溶媒40の液面における未溶解物の有無を監視する。溶媒40の液面に未溶解物がある場合、溶媒40の液面において未溶解物が無くなるまで加熱部の出力を上げる。溶媒40の液面において未溶解物が無くなる出力で加熱された溶媒40の温度が、撹拌温度である。溶媒40の温度が撹拌温度に達した後、加熱部の出力を徐々に下げて、種結晶30の表面において窒化物の単結晶10の成長し始める出力を求める。窒化物の単結晶10が成長し始める出力で加熱された溶媒40の温度が、飽和温度(結晶成長の開始温度)である。以上のように、高周波加熱炉の加熱部の出力を調整することにより、撹拌温度及び成長温度それぞれを間接的に制御することができる。
【0036】
従来のフラックス法では、溶媒がホウ素を含有しないため、窒化物の微結晶が溶媒中において不規則に析出し易い。そのため、従来のフラックス法では窒化物の単結晶が種結晶の表面上に成長し難かった。一方、本実施形態では、ホウ素を含有する溶媒40を用いるため、従来のフラックス法に比べて、溶媒40中における微結晶の不規則な析出が抑制され、結晶性の高い窒化物の単結晶10が種結晶30の表面上に成長し易い。
【0037】
以上の手順によって成長した窒化物の単結晶10を、種結晶30と共に溶媒40から取り出して、室温まで冷却する。そして、単結晶10の表面に付着した金属(フラックス)を酸洗浄により除去することにより、窒化物の単結晶10が完成する。
【0038】
種結晶は、窒化物の単結晶であってよい。種結晶として用いる窒化物の単結晶は、上記の窒化物の単結晶の製造方法以外の方法(例えば昇華法)によって作製されてよい。種結晶は、第13族元素の窒化物の単結晶であってよい。種結晶は、窒化アルミニウムの単結晶であってよい。種結晶は、サファイアの単結晶、又はシリコンカーバイドの単結晶であってもよい。
【0039】
本実施形態に係る窒化物の単結晶10は、例えば、UVC LED又はDUV LED等の深紫外線発光ダイオードが備える基板として用いられてよい。窒化物の単結晶10は、例えば、紫外線レーザー等の半導体レーザー発振器が備える基板として用いられてもよい。種結晶30と、種結晶30の表面に形成された窒化物の単結晶10とを、一つの基板(一体化された基板)として用いてよい。実施形態に係る窒化物の単結晶10は、例えば、パワートランジスタに用いられてもよい。
【実施例】
【0040】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
<AlNの結晶の作製>
以下の工程を真空チャンバー内で実施することにより、実施例1の窒化アルミニウム(AlN)の結晶を作製した。
【0042】
溶媒(フラックス)の原料として、下記表1に示される各元素の単体(金属単体)を秤量して、アルミナ製の坩堝へ入れた。原料の質量の合計は250gに調整した。坩堝内の全原料を混合し、1650℃のアルゴン雰囲気中で加熱することにより、全原料を溶融させ、一体化させた。溶融した原料の混合物を室温まで冷却することにより、原料の混合物の塊を得た。
【0043】
原料の混合物の塊を再びアルミナ製の坩堝に入れた。坩堝内の原料の混合物の塊を高周波加熱炉で加熱することにより溶融させた。さらに坩堝の上部に設置された攪拌用治具を用いて、溶融した原料の混合物を攪拌することにより、均質な溶媒を得た。攪拌用治具はアルミナ製であった。
【0044】
上記の各原料(各元素の単体)の秤量により、溶媒における各元素のモル比を下記の表1に示される値に調整された。下記表1において、括弧([ ])で囲まれた元素記号は、溶媒における当該元素のモル数又は含有量(単位:モル%)を意味する。例えば、[Ti]は、溶媒におけるTiのモル数又は含有量(単位:モル%)を意味する。他の元素についても同様である。
【0045】
坩堝の上部に設置された固定治具に板状の種結晶を固定し、種結晶のC面を溶媒の液面に略平行に対面させた。種結晶としては、昇華法で作製された窒化アルミニウムの単結晶の板を用いた。種結晶の寸法は、10mm×10mm×0.3mmであった。種結晶の固定治具もアルミナ製であった。
【0046】
真空ポンプを用いた脱気により、真空チャンバー内の気圧を0.1Pa以下まで下げた。真空チャンバー内の脱気後、アルゴンと窒素を8対2の比率(体積比)で混ぜた混合ガスを真空チャンバー内に供給して、真空チャンバー内の気圧を0.1MPaに調整した。その後、真空チャンバー内で成長したAlNの結晶を真空チチャンバーから取り出すまで、少量の混合ガスを真空チャンバー内へ供給し続けた。
【0047】
高周波加熱炉及び攪拌用治具を用いて、坩堝内の溶媒を、各原料(金属)とAlNとが完全に溶解する程度の温度で加熱しながら攪拌した。この加熱及び攪拌により、混合ガスに由来する窒素を溶媒へ均一に溶解させ、溶媒中の窒素を飽和させた。続いて、溶媒の温度を、AlNが析出し始める飽和温度まで下げてから、種結晶30のC面を溶媒40の液面に接触させて、固定治具の回転により、種結晶30をC面内で回転させ続けた。そして、溶媒の温度を徐々に下げることにより、AlNの結晶を種結晶のC面上で成長させた。AlNの結晶の厚さが下記表2に示される値に達するまで、AlNの結晶成長を継続させた。
【0048】
AlNの結晶の厚さが下記表2に示される値になるまで結晶が成長してから、AlNの結晶を種結晶と共に溶媒から離して、AlNの結晶及び種結晶を室温まで冷却した。冷却後のAlNの結晶と種結晶とを固定治具から取り出した後、AlNの結晶に付着した金属を酸洗浄によって除去した。
【0049】
<AlNの結晶の分析>
以上の手順で作製された実施例1のAlNの結晶のC面(表面)を研磨して、結晶のC面を平坦にした。X線回折法(2θ/θ法)及び極点図の測定より、種結晶の表面に成長したAlNの結晶は単結晶であることが確認された。
【0050】
続いてCuKα1線を用いたX線回折法により、実施例1のAlNの単結晶の(0002)面のロッキングカーブを測定して、ロッキングカーブの半値幅(FWHMAlN)を求めた。ロッキングカーブは、2θを(0002)面の回折ピーク位置に固定し、ωを回折条件付近で走査することによって測定される回折X線の強度の分布である。2θは、入射X線(CuKα1線)の入射方向と回折X線の検出方向とがなす角度である。ωは、AlNの単結晶の(0002)面(C面)に対する入射X線の入射角である。実施例1のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅(FWHMAlN)は、下記表2に示される値であった。ただし、ロッキングカーブの半値幅の絶対値は、測定装置、測定条件及び測定精度により変動し易いため、ロッキングカーブの半値幅の絶対値同士の比較によって、複数の結晶の結晶性を相対的に且つ正確に評価することは難しい。したがって、以下の通り、AlNの単結晶の結晶性を評価するための標準試料として、Edge‐defined Film‐fed Growth法(EFG法)により作製されたサファイアの単結晶を用いた。このサファイアの単結晶は、(0006)面(C面)の方位を有する板であった。
【0051】
上記と同様の方法で、サファイアの単結晶(標準試料)の(0006)面(C面)のロッキングカーブを測定して、ロッキングカーブの半値幅(FWHMAl2O3)を求めた。実施例1のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅FWHMAlNを、サファイアの単結晶のロッキングカーブの半値幅FWHMAl2O3で除することにより、実施例1のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅比(FWHMAlN/FWHMAl2O3)を算出した。例えば、AlNの半値幅FWHMAlNが0.12degであり、サファイアの半値幅FWHMAl2O3が0.10degである場合、半値幅比(FWHMAlN/FWHMAl2O3)は1.2である。この半値幅比が1.0に近いほど、AlN単結晶は、サファイアの単結晶と同等の良好な結晶品質を有する。つまり、ロッキングカーブの半値幅比が1.0に近いほど、AlNの単結晶の結晶性は高い。実施例1のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅比は、下記表2に示される値であった。
【0052】
以上のX線を用いた測定の後、種結晶の表面に成長した実施例1のAlNの単結晶の組成を、二次イオン質量分析法(SIMS)によって分析した。SIMSの結果、実施例1の単結晶は、微量のホウ素を含むAlNであることが確認された。実施例1のAlNの単結晶における各元素の含有量をSIMSによって測定した。実施例1のAlNの単結晶における各元素の含有量は、下記表2に示される値であった。
【0053】
(実施例2〜11、比較例1〜3)
実施例2〜11及び比較例1〜3では、溶媒(フラックス)の原料として、下記表1に示される各元素の単体(金属単体)を用いた。実施例2〜11及び比較例1〜3では、溶媒における各元素のモル比を下記の表1に示される値に調整した。実施例2〜11及び比較例1〜3では、真空チャンバー内へ供給される混合ガスにおけるアルゴンと窒素との比率を、9対1から6対4の範囲に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2〜11及び比較例1〜3それぞれのAlNの結晶を個別に作製した。
【0054】
AlNの結晶の厚さが20μm以下である場合、窒化アルミニウムの結晶の表面を研磨しなかった。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2〜11及び比較例1〜3それぞれのAlNの結晶を個別に分析した。
【0055】
分析の結果、実施例2〜11及び比較例1,2其々のAlNの結晶は単結晶であることが確認された。一方、比較例3のAlNの結晶の表面には凹凸が形成されていた。2θ/θ法の結果、比較例3のAlNの結晶のXRDパターンでは、(0002)面以外の結晶面に由来する回折ピークがあった。したがって、比較例3のAlNの結晶は多結晶であることが確認された。
【0056】
実施例2〜11及び比較例1,2其々のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅(FWHMAlN)は、下記表2に示される値であった。実施例2〜11及び比較例1,2其々のAlNの単結晶のロッキングカーブの半値幅比(FWHMAlN/FWHMAl2O3)は、下記表2に示される値であった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る窒化物の単結晶は、例えば、発光ダイオードが備える基板として用いられる。
【符号の説明】
【0060】
10…窒化物の単結晶、20…窒化ホウ素の単結晶、30…種結晶、40…原料の溶液、50…坩堝、100…窒化物の単結晶の製造装置。
図1
図2