【解決手段】コンクリート構造物に埋設される緊張材用定着具であって、緊張材が貫通される湾曲した貫通孔と、その緊張材の端部を固定する固定端部と、を有する二つの筒部と、前記各筒部の外方に突出すると共に、前記両筒部を並列状態で一体化するリブと、を備え、前記両筒部は、前記各筒部の固定端部が互いに反対方向に位置した状態で、前記両筒部の並列方向から見て前記両貫通孔が交差する緊張材用定着具。
前記両筒部の少なくとも一方は、前記固定端部に前記緊張材の端部を把持するウェッジを嵌め込むソケットを収納する収納部を備える請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の緊張材用定着具。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0014】
(1)本発明の実施形態に係る緊張材用定着具は、
コンクリート構造物に埋設される緊張材用定着具であって、
緊張材が貫通される湾曲した貫通孔と、その緊張材の端部を固定する固定端部と、を有する二つの筒部と、
前記各筒部の外方に突出すると共に、前記両筒部を並列状態で一体化するリブと、を備え、
前記両筒部は、前記各筒部の固定端部が互いに反対方向に位置した状態で、前記両筒部の並列方向から見て前記両貫通孔が交差する。
【0015】
先に、上記緊張材用定着具の利用形態について、シールドトンネルやタンクなどの円形コンクリート構造物の周方向にプレストレスを導入する場合を例に説明する。上記緊張材用定着具は、異なる二つの緊張材の端部同士を接続してその緊張材用定着具に固定することもできるし、一つの緊張材の両端部を連結してその緊張材用定着具に固定することもできる。
【0016】
複数の緊張材を周方向に接続して配置する場合、隣り合う緊張材の端部同士、つまり異なる緊張材の端部同士を上記緊張材用定着具で接続して固定する。異なる緊張材の端部同士を接続して固定するにあたり、各緊張材は、一端部のみを緊張する(以下、片引きと呼ぶことがある)ことが挙げられる。片引きでは、各緊張材は、他端部をある緊張材用定着具に固定しておき、一端部をジャッキで緊張して別の緊張材用定着具に定着する。この場合、一つの緊張材用定着具に着目すると、二つの筒部のうち、一方の筒部の固定端部には、その緊張材用定着具に固定する際にジャッキで緊張した一方の緊張材の端部が固定され、他方の筒部の固定端部には、その緊張材用定着具に固定する際にジャッキで緊張しない他方の緊張材の端部が固定される形態が挙げられる。この片引きの形態では、異なる二つの緊張材のうち、一方の緊張材は、他方の緊張材を緊張材用定着具に固定していない(他方の緊張材を他方の筒部に挿入していない)状態で、一方の筒部に挿入してジャッキで緊張し、緊張材用定着具に固定することになる。一方の緊張材を緊張材用定着具に固定できたら、その緊張材用定着具の他方の筒部に他方の緊張材を挿入して固定する。この形態の場合、他方の緊張材を固定するまでの一時的な間、一方の緊張材の端部を固定する一方の筒部の固定端部に大きな圧縮応力が作用することで、一方の筒部の固定端部と、他方の筒部の固定端部との間で大きな圧縮応力差が生じる。よって、緊張材用定着具には、筒部間に偏った圧縮応力が生じると共に、緊張材の布設方向の片側に偏った圧縮応力が一時的に作用する(以下、片圧縮と呼ぶことがある)。ここで言う、緊張材の布設方向とは、円形コンクリート構造物の周方向のことである。
【0017】
他に、異なる緊張材の端部同士を接続して固定するにあたり、各緊張材は、両端部を同時に緊張する(以下、両引きと呼ぶことがある)ことが挙げられる。両引きの場合、一つの緊張材用定着具に着目すると、両筒部とも、その緊張材用定着具に固定する際にジャッキで緊張した緊張材の端部が固定される形態が挙げられる。この両引きの形態でも、片引きの場合と同様に、他方の緊張材を緊張材用定着具に固定していない状態で、一方の緊張材を緊張材用定着具にジャッキで緊張して固定し、その後に他方の緊張材をその緊張材用定着具にジャッキで緊張して固定する。つまり、この両引きの形態の場合、緊張材用定着具は、一時的に片圧縮の状態となる。
【0018】
更に、異なる緊張材の端部同士を接続して固定するにあたり、異なる二つの緊張材をそれぞれ筒部に挿入し、各緊張材を交互に緊張し、その各緊張は段階的に緊張力を高めながら行うこともできる。この場合、一つの緊張材用定着具に着目すると、両筒部とも、その緊張材用定着具に固定する際にジャッキで緊張した緊張材の端部が固定される。各緊張材は、片引きでも両引きでもよい。この形態では、各筒部に対して段階的に緊張力を高めながら緊張するため、一方の緊張材の端部を固定する一方の筒部の固定端部に作用する圧縮応力と、他方の緊張材の端部を固定する他方の筒部の固定端部に作用する圧縮応力と、の差を所定値以下とできる。そのため、緊張材用定着具における緊張材の布設方向の両側に、互いに反対方向を向いた圧縮応力をほぼ均等に作用させることができる(以下、両圧縮と呼ぶことがある)。
【0019】
一つの緊張材を円環状のコンクリート構造物に一周させて配置する場合、一つの緊張材の両端部を上記緊張材用定着具で連結して固定する。このとき、上記緊張材用定着具は一つでよい。一つの緊張材の端部同士を連結して固定するにあたり、緊張材は片引きでも両引きでもよい。一つの緊張材の場合、その緊張材の両端部は一つの定着具に固定するため、片引き及び両引きのどちらでも、その緊張力による圧縮応力は、緊張材用定着具における緊張材の布設方向の両側に互いに反対方向を向いてほぼ均等に作用する両圧縮の状態となる。緊張材の布設方向に生じる両側の圧縮応力は相殺される。
【0020】
上述した各形態のうち、緊張材用定着具が一時的に片圧縮の状態となる場合、緊張材用定着具は、偏った側に動いてコンクリート構造物にめり込んだり、コンクリート構造物に損傷が生じたりする虞がある。本実施形態の緊張材用定着具は、各筒部の外方に突出して二つの筒部を一体化するリブを備えるため、緊張材の緊張力によって緊張材用定着具に作用する圧縮応力をリブで支圧することができる。よって、緊張材用定着具が一時的に片圧縮の状態となったとしても、その圧縮応力をリブで支圧できることで、緊張材用定着具がコンクリート構造物にめり込んだり、コンクリート構造物に損傷が生じたりすることを抑制できる。リブが各筒部の外方に突出していることで、筒部内の貫通孔に貫通される緊張材の緊張力によって作用する圧縮応力を効果的にリブで支圧することができる。また、リブが二つの筒部を一体化していることで、片圧縮の状態において筒部間に生じる偏った圧縮応力によって、筒部間に作用するせん断応力を低減することができる。せん断応力を低減できることで、緊張材用定着具がせん断破壊することを抑制できる。
【0021】
以上より、上記緊張材用定着具は、一時的に片圧縮の状態となる場合に好適に利用できる。上記緊張材用定着具は、片圧縮の状態でも利用できるため、複数の緊張材を布設方向に接続して容易に配置でき、施工性を向上できる。また、上記緊張材用定着具は、緊張材用定着具の両側に作用する圧縮応力を綿密に合わせる必要がなく、異なる二つの緊張材をそれぞれ筒部に挿入し、各緊張材を交互に段階的に緊張力を高めながら行う必要もないため、一台のジャッキの配置でよいことからも、施工性を向上できる。更に、緊張材用定着具の配置形態の制約によって、緊張材用定着具の両側にジャッキを配置することが困難な場合であっても、緊張材を緊張することができ、緊張材に適切な緊張力を付与することができる。複数の緊張材を布設方向に容易に接続できるため、緊張材用定着具の配置箇所や、緊張材の長さなどの自由度を高められることからも施工性を向上できる。上記緊張材用定着具は、両圧縮の状態となる場合も勿論、好適に利用できる。
【0022】
(2)上記の緊張材用定着具の一例として、前記リブは、前記両筒部の長手方向に所定の間隔を有して二つ設けられ、前記各筒部と前記各リブとで囲まれる領域に空洞部を備える形態が挙げられる。
【0023】
リブが両筒部の長手方向に所定の間隔を有して二つ設けられることで、緊張材の緊張時に上記緊張材用定着具に作用する回転力を抑制することができる。それにより、緊張材用定着具がコンクリート構造物にめり込んだり、コンクリート構造物に損傷が生じたりすることをより抑制できる。二つの筒部と二つのリブとで囲まれる領域に空洞部を備えることで、その空洞部にはコンクリートが介在されることになる。そのため、定着具とコンクリート構造物との付着力を向上することができ、筒部間に作用するせん断応力をより低減できる。また、空洞部にコンクリート構造物が介在されると、各筒部間にはその長手方向とほぼ直交する方向に亘って柱状のコンクリート部分が形成されることになる。この柱状のコンクリート部分は、緊張力によって作用する圧縮応力の支圧部として機能することで、コンクリート構造物に損傷が生じることを抑制できると考えられる。
【0024】
二つの筒部と二つのリブとで囲まれる領域に空洞部を備えることで、二つの筒部間に両筒部を連結する部分を備える場合に比較して、緊張材用定着具を軽量化できる。
【0025】
(3)上記の緊張材用定着具の一例として、前記筒部の表面と前記リブの表面との間を斜めに連結する補強部を備える形態が挙げられる。
【0026】
補強部を備えることで、リブに作用する応力のうち緊張材の布設方向に生じる圧縮応力によって、リブが圧縮応力の作用方向(支圧方向)へ変形することを抑制し易い。リブの変形を抑制することで、リブによる支圧を確実に行うことができる。
【0027】
(4)補強部を備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記補強部の外表面が湾曲状である形態が挙げられる。
【0028】
補強部の外表面が湾曲状であることで、リブが受ける圧縮応力を各筒部側に分散させ易い。よって、リブが圧縮応力の作用方向(支圧方向)へ変形することをより抑制し易い。
【0029】
(5)外表面が湾曲状である補強部を備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記筒部の全周に亘って前記補強部を備え、前記両筒部が互いに対向する側を内側、その反対側を外側とするとき、前記補強部は、内側の湾曲状の曲げ半径が外側の湾曲状の曲げ半径よりも大きい形態が挙げられる。
【0030】
筒部に作用するせん断応力は、特に筒部間における筒部の外周面とリブの表面との接続部近傍に作用し易い。そこで、両筒部が互いに対向する側(両筒部の間側)を内側、その反対側を外側とするとき、補強部の内側の湾曲状の曲げ半径が外側の湾曲状の曲げ半径よりも大きいことで、上記せん断応力を効果的に低減することができる。
【0031】
(6)上記の緊張材用定着具の一例として、前記両筒部の少なくとも一方は、前記固定端部の外径よりも小さい外径を有する細径部を備える形態が挙げられる。
【0032】
筒部に細径部を備えることで、緊張材用定着具を小型化・軽量化できる。特に、リブを二つ備える場合、二つのリブ間に対応して細径部を備えることで、二つの筒部と二つのリブとで囲まれる領域に空洞部を形成し易い。
【0033】
(7)上記の緊張材用定着具の一例として、前記両筒部の少なくとも一方は、その外周面の少なくとも一部に凹凸部を備える形態が挙げられる。
【0034】
筒部の外周面に凹凸部を備えることで、緊張材用定着具がコンクリート構造物に埋設されると、筒部とコンクリートとの接触面積を大きくすることができ、両者の付着力を向上することができる。
【0035】
(8)上記の緊張材用定着具の一例として、前記両筒部の少なくとも一方は、前記固定端部に前記緊張材の端部を把持するウェッジを嵌め込むソケットを収納する収納部を備える形態が挙げられる。
【0036】
収納部を備えることで、筒部とソケットとが別部材であっても、ソケットを安定して筒部に固定することができる。筒部とソケットとを別部材とすることで、ソケットとウェッジとの間の寸法精度を向上することができる。筒部の貫通孔が湾曲しているため、緊張材の端部を固定する固定端部は傾斜面を有する。このような傾斜面でソケットを支圧する場合、ソケットの外周を囲む部分がないと、ソケットが固定端部(筒部)から脱落したりずれたりする虞がある。そこで、筒部が収納部を備えることで、固定端部が傾斜面となっていても、ソケットを安定して筒部に固定することができ、ソケットが筒部から脱落したりずれたりすることを抑制できる。
【0037】
(9)収納部を備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記収納部は、軸方向に一様な内径を備える形態が挙げられる。
【0038】
収納部が軸方向に一様な内径を備えることで、筒部の内径を大きく採ることができ、緊張材の挿入性を向上することができる。
【0039】
(10)収納部を備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記収納部は、筒部内にグラウトを通すための溝部を備える形態が挙げられる。
【0040】
収納部に溝部を備えることで、ソケットと収納部との間に隙間を形成でき、この隙間を介して筒部内へのグラウトの注入を容易に行うことができる。
【0041】
(11)収納部を備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記収納部の開口側にグラウトキャップを備え、前記グラウトキャップは、グラウト注入孔を備える形態が挙げられる。
【0042】
グラウト注入孔を有するグラウトキャップを備えることで、コンクリート構造物に形成された作業領域(緊張材用定着具の各筒部に緊張材を挿通する作業領域、及び緊張材をジャッキで緊張する作業領域)のような小さな作業領域であっても、容易にグラウトキャップを装着できる
【0043】
(12)グラウトキャップを備える上記の緊張材用定着具の一例として、前記グラウトキャップは、前記収納部の軸方向と直交する断面の形状が多角形状である部分を有する形態が挙げられる。
【0044】
上記構成によれば、グラウトキャップを保持し易く、グラウトキャップを収納部の開口側に装着し易い。
【0045】
(13)上記の緊張材用定着具の一例として、前記筒部と、前記緊張材の端部を把持するウェッジを嵌め込むソケットと、が一体構造である形態が挙げられる。
【0046】
筒部とソケットとが一体構造であることで、ソケットを別途用意する必要がなく、部品点数を削減できる。筒部にソケットを備えることで、ソケットを安定して筒部に固定することができ、ソケットが筒部から脱落したりずれたりすることを抑制できる。
【0047】
(14)上記の緊張材用定着具の一例として、更に、緊張材の端部を把持する円錐状のウェッジと、前記ウェッジを嵌め込むソケットと、を備える形態が挙げられる。
【0048】
ウェッジ及びソケットによって、各筒部の固定端部に緊張材を確実に固定することができる。
【0049】
(15)本発明の実施形態に係るプレストレストコンクリート構造物は、上記(14)に記載の緊張材用定着具によって定着された前記緊張材を備える。
【0050】
上記のプレストレストコンクリート構造物は、本発明の実施形態に係る緊張材用定着具によって緊張材を定着するため、施工性に優れる。
【0051】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0052】
<実施形態1>
・全体構成
実施形態1では、
図11,12に示すように、シールドトンネル用のセグメント620,640の周方向にプレストレスを導入する場合を例に、緊張材用定着具100を説明する。セグメント620は、後述する定着具本体1α(1αA,1αB)とシース400とが埋め込まれたコンクリート構造物であり、セグメント640は、シース400のみが埋め込まれたコンクリート構造物である。本例では、定着具本体1α有のセグメント620と定着具本体1α無のセグメント640とを二つずつ合計四つ用意し、各セグメント620,640の中心角を90°として、セグメント620とセグメント640とを交互に円環状に配置している。また、本例では、二つの緊張材(第一緊張材200Aと第二緊張材200B)を上記セグメント620,640の周方向に連続して配置し、二つの緊張材200A,200Bの対向する端部同士を緊張材用定着具100で接続する。実施形態1では、各緊張材200A,200Bの一端部のみをジャッキにより緊張する片引きの例を説明する。以下、緊張材用定着具100の各構成について詳しく説明し、その後にこの緊張材用定着具100を用いた定着方法について説明する。なお、
図11においては、説明の便宜上、緊張材用定着具100を誇張して図示している。
【0053】
〔緊張材用定着具〕
緊張材用定着具100は、緊張材の端部同士を接続して固定する。本例では、
図11に示すように、異なる緊張材である第一緊張材200Aと第二緊張材200Bの端部同士をそれぞれ接続して固定する。よって、本例では、セグメント620,640の周方向に二つの緊張材用定着具100,100を配置する(
図11を参照)。ここで用いる緊張材用定着具100は、いずれも同様の構成を有する。
【0054】
緊張材用定着具100は、
図1,12に示すように、定着具本体1αと、各緊張材200A,200Bの端部を把持する円錐状のウェッジ2,2と、各ウェッジ2,2を嵌め込み、定着具本体1αで支圧されるソケット3,3と、を備える。本実施形態1の緊張材用定着具100の特徴の一つは、定着具本体1αが、緊張材200A,200Bをそれぞれジャッキで緊張するにあたり、各緊張材200A,200Bの緊張力によって定着具本体1αに作用する圧縮応力を支圧する構成を備える点にある。
【0055】
《定着具本体》
定着具本体1αは、
図1〜10に示すように、緊張材200A,200Bがそれぞれ貫通される湾曲した貫通孔10h(
図1)を有する二つの筒部10,10と、各筒部10,10の外方に突出すると共に、両筒部10,10を並列状態で一体化するリブ20と、を備える。二つの筒部10,10は、所定の間隔を有して離れて配置される。本例では、筒部10の長手方向に所定の間隔を有して二つのリブ20,20を備え、二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とで囲まれる領域に空洞部40(
図9,10)を備える。また、本例では、筒部10の表面とリブ20の表面との間を斜めに連結する補強部60を備える。
【0056】
定着具本体1αは、
図4〜10に示すように、定着具本体1αの長手方向の中央部分を境界にした水平方向の回転において、0°の位置での形状と180°の位置での形状とが同一形状である。そのため、
図5の正面図と
図6の背面図、
図7の右側面図と
図8の左側面図、
図9の平面図と
図10の底面図、の各々において同一に現れる。
【0057】
・筒部
二つの筒部10,10は、
図5〜10に示すように、同一の形状であり、定着具本体1αの長手方向の中央部分を境界にして、一方の筒部10を水平方向に180°回転させれば、他方の筒部10になる。
【0058】
各筒部10は、
図1に示すように、緊張材200A(200B)が貫通される湾曲した貫通孔10hと、その緊張材200A(200B)の端部を固定する固定端部10pと、を有する円筒部材である。本例では、筒部10とソケット3とが別部材であり、各筒部10は、固定端部10pにソケット3を収納する収納部12を備える。また、各筒部10は、固定端部10pの反対側にシース400の取付端部10qを有し、この取付端部10qにシース400の端部を嵌め込む取付口11を備える。各筒部10は、固定端部10pと取付端部10qとの間に、固定端部10pの外径よりも小さい外径を有する細径部13を備える。筒部10の貫通孔10hは、取付口11の内部と、収納部12の内部と、細径部13の内部と、で構成されている。
【0059】
二つの筒部10,10は、
図4〜6,9,10に示すように、各固定端部10pが互いに反対方向に位置した状態で並列されている。つまり、二つの筒部10,10は、収納部12が互いに反対方向に開口している。二つの筒部10,10は、細径部13,13同士が並列し、一方の筒部10の固定端部10p(収納部12)と他方の筒部10の取付端部10q(取付口11)とが並列している。また、二つの筒部10,10は、その並列方向(
図1,5,6の紙面手前から奥側に向かう方向)から見て、貫通孔10h(
図1)が交差するように並列されている。二つの筒部10,10の並列方向とは、一方の筒部10から他方の筒部10に向かう並び方向のことであり、各筒部10の中心軸が直線に見える方向(
図9,10の紙面手前から奥側に向かう方向)から見て、両筒部10,10の中心軸が並ぶ方向(
図9,10の紙面上下方向)のことである。貫通孔10h,10hは、定着具本体1αの長手方向の中央付近で交差している。
【0060】
貫通孔10hは、湾曲している。本例では、各筒部10の外形も、貫通孔10hと同様に湾曲している。貫通孔10h(筒部10)は、セグメント620,640の周方向に配置されるシース400の軸上に取付端部10q(取付口11)の中心軸が位置すると共に、固定端部10p(収納部12)が取付端部10qよりもセグメント620の内周面側に位置するように、取付端部10qから固定端部10pに向かって湾曲している。ただし、各筒部10,10は並列されており、その並列方向と直交する方向(上下方向、
図9,10の紙面手前から奥側に向かう方向)から見て、中心軸が平行するため、各筒部10の取付端部10q(取付口11)の中心軸同士が交わることはない。
【0061】
両筒部10,10は、所定の間隔を有して離れて配置される。両筒部10,10間の距離が小さいと、固定端部10pにソケット3を固定する作業及び取付端部10qにシース400を取り付ける作業が行い難い。また、両筒部10,10間の距離が小さいと、緊張材200A,200Bの緊張力(圧縮応力)によって筒部10,10間に作用するせん断応力が大きくなる傾向にある。一方、両筒部10,10間の距離が大きいと、定着具本体1αが大型化する。両筒部10,10間の距離は、用いる緊張材200A,200Bやソケット3、シース400の径に応じて、適宜選択することができる。例えば、両筒部10,10間の距離は、20mm以上100mm以下とすることが挙げられる。
【0062】
・・取付口
取付口11は、
図1に示すように、シース400が取り付けられる。取付口11の内径は、開口側が広く、奥部側が狭くなるテーパ状に形成されている。開口側の内径はシース400の外径よりも若干大きく、奥部側の内径はシース400の外径よりも若干小さい。奥部側の狭くなった部分は、シース400の端部が当接される当止部となる。つまり、シース400を取付口11に挿入し、シース400の端部が当止部に当接されるまで押し込むことで、シース400を筒部10に接続することができる。
【0063】
本例では、取付口11の外径は、軸方向に一様であり、後述する収納部12の外径よりも小さく、細径部13の外径よりも若干大きい(
図1,5,6,9,10を参照)。
【0064】
一方の筒部10の取付口11と他方の筒部10の取付口11とは、各開口部の軸が、各筒部10,10の並列方向(
図5,6の紙面手前から奥側に向かう方向)から見ても、その並列方向と直交する方向(上下方向、
図9,10の紙面手前から奥側に向かう方向)から見ても、平行となっている。
【0065】
・・収納部
収納部12は、ソケット3の一端面を当て止めして支圧する支圧部12aと、ソケット3の外周を囲むように支圧部12aの外周縁から立設する側壁部12bと、を備える。支圧部12aは、ソケット3の一端面を支圧する環状の平面であり、ほぼ中央部分に緊張材200A(200B)が引き出される引出孔12ah(
図1,7,8)が形成されている。
図1では、支圧部12aに後述する溝部12dが形成されているためにソケット3が支圧部12aから浮いて見えているが、溝部12d以外の部分でソケット3を支圧している。本例では、収納部12は、ソケット3の外周面に沿った内径を有する円筒状である。
【0066】
側壁部12bは、支圧部12aから軸方向に一様な内径で、ソケット3の外径より若干大きい内径を有する包囲部分12mと、包囲部分12mに連続して設けられ、包囲部分12mの内径よりも大きい内径を有するグラウトキャップの装着部分12nと、を備える。包囲部分12mは、ソケット3の軸方向の長さとほぼ同等の長さを有する。装着部分12nは、その内周面に後述するグラウトキャップ80と係合する係合部(図示せず)が形成されている。係合部は、装着部分12nの周方向に形成された雌ねじであることが挙げられる。
【0067】
収納部12は、包囲部分12mの内部に、グラウトを注入するための溝部12d(
図1,7,8)が軸方向に沿って形成されている。この溝部12dは、側壁部12bの包囲部分12mから支圧部12aに亘ってL字状に形成されている。具体的には、溝部12dは、一端部が側壁部12bの装着部分12nに繋がり、他端部が支圧部12aの引出孔12ahに繋がっている。本例では、ほぼ90°間隔で3本の溝部12dを備える(
図7,8を参照)。収納部12は、溝部12dに対応した位置に、側壁部12bの外表面から突出した部分を備える(
図4〜6,9,10を参照)。側壁部12bの外表面に突出部分を備えることで、溝部12dの形成による側壁部12bの薄肉化を防止できる。つまり、側壁部12bの厚みを全周に亘って実質的に均一とできる。
【0068】
一方の筒部10の収納部12と他方の筒部10の収納部12とは、各開口部の軸が、各筒部10,10の並列方向(
図5,6の紙面手前から奥側に向かう方向)から見ると交差しているが、その並列方向と直交する方向(上下方向、
図9,10の紙面手前から奥側に向かう方向)から見ると平行となっている。
【0069】
・・細径部
細径部13は、収納部12における支圧部12aの引出孔12ahに連続して設けられ、引出孔12ahの径とほぼ同等の内径であり緊張材200A(200B)が貫通可能な内径を備える。細径部13は、収納部12における支圧部12a(固定端部10p)の外径よりも小さい外径を備える(
図1,4〜6,9,10を参照)。更に、細径部13の外径は、取付口11(取付端部10q)の外径よりも小さい(
図1,5,6,9,10を参照)。
【0070】
筒部10は、外周面の少なくとも一部に凹凸部(図示せず)を備えることが挙げられる。定着具本体1αは、両筒部10,10がセグメント620に埋設して使用される(詳細は後の定着方法にて説明する)。筒部10に凹凸部を備えることで、筒部10とセグメント620との接触面積を大きくすることができ、両者10,620の付着力を向上することができる。両者10,620の付着力が大きいほど、定着具本体1αがセグメント620に強固に固定されるため、定着具本体1αに作用する圧縮応力によって筒部10がセグメント620中にめり込んでセグメント620に損傷が生じることを抑制し易い。特に、細径部13に凹凸部を備えることで、両筒部10,10が互いに対向する内側における上記付着力を向上することができ、定着具本体1αに作用する圧縮応力によって筒部10,10間に作用するせん断応力を低減し易い。上記凹凸部として、例えば、山と谷との凹凸差を0.3mm以上10mm以下、更に好ましくは0.3mm以上5mm以下とすることが挙げられる。定着具本体1αは、代表的には鋳造によって製造することができる。この鋳造時に、凹凸を有する金型を用いることで、筒部10の外周面に容易に凹凸部を形成することができる。その他に、鋳造によって製造した定着具本体1αに対して、細かな粒子を付着させたり、サンドブラストなどのブラスト処理を施して表面を粗したりすることでも、筒部10の外周面に凹凸部を形成することができる。
【0071】
・リブ
リブ20は、第一緊張材200Aや第二緊張材200Bの緊張力によって定着具本体1αに作用する圧縮応力を支圧する部材である。また、リブ20は、両筒部10,10を並列して一体に連結する部材である。リブ20は、各筒部10,10の全周に亘って外方に突出して設けられる板状部材であることが好ましい。実施形態1の定着具本体1αは、定着具本体1αに作用する圧縮応力を支圧するリブ20を備える点を特徴の一つとする。本例では、リブ20は、両筒部10,10の長手方向に所定の間隔を有して二つ設けられている。二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とは、一体に成形された鋳造部品である。
【0072】
リブ20は、固定端部10p近傍に配置することが好ましい。緊張材200A,200Bは、その端部が固定端部10p(収納部12)で固定されるため、その緊張力による圧縮応力は、各筒部10における固定端部10p近傍に作用し易いからである。本例では、
図4,9,10に示すように、各リブ20は、一方の筒部10の固定端部10p(収納部12)と細径部13との境界部近傍と、他方の筒部10の取付端部10q(取付口11)と細径部13との境界部近傍と、に跨るように設けられる。つまり、二つのリブ20,20は、
図9,10に示すように、定着具本体1αの長手方向の中央部分からほぼ同等の位置に設けられる。そうすることで、筒部10,10間に偏った圧縮応力が生じると共に、緊張材200A,200Bの布設方向の片側に偏った圧縮応力が一時的に作用する片圧縮の状態となったとしても、筒部10,10間に作用するせん断応力を低減し易く、セグメント620に損傷が生じることを抑制できる。
【0073】
リブ20は、定着具本体1αに作用する圧縮応力を支圧できる突出長さを有する。定着具本体1αに作用する圧縮応力は、固定端部10p近傍に作用し易いため、固定端部10p近傍の外周からの突出長さが重要となる。本例では、固定端部10p近傍の外周からの突出長さが、取付端部10q近傍の外周からの突出長さよりも長くなっている。取付端部10q近傍の外周からの突出長さを短くすることで、定着具本体1αを軽量化できる。
【0074】
リブ20は、定着具本体1αに作用する圧縮応力を支圧できる個数や形状・大きさを適宜選択できる。本例では、リブ20は、各筒部10の外周に沿った二つの円弧部分と、両円弧部分を繋ぐ二つの直線部分と、で外縁を形成している。より具体的には、固定端部10p側の円弧部分の径が大きく、取付端部10q側の円弧部分の径が小さく構成され、リブ20全体の外縁はほぼしずく状に形成されている。リブは、両筒部10,10の長手方向のほぼ中央部分に、一つ設けることもできる。
【0075】
・空洞部
空洞部40は、
図9,10に示すように、二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とで囲まれる空間部分である。実施形態1の定着具本体1αは、空洞部40を備える点を特徴の一つとする。定着具本体1αは、両筒部10,10がセグメント620に埋設して使用されるため、空洞部40を備えることで、両筒部10,10が互いに対向する内側において、両筒部10,10とセグメント620との付着力を向上することができる。上記内側における両者10,620の付着力を向上することで、筒部10,10間に作用するせん断応力を低減し易い。また、空洞部40にあるコンクリート部分は、定着具本体1αに作用する圧縮応力の支圧部として機能すると考えられる。
【0076】
空洞部40は、その形状や大きさを適宜選択できる。本例では、空洞部40は、二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とで形成されるほぼ四角形状である。その他に、両筒部10,10を連結する連結部をリブ20とは別に備えることで、この連結部で空洞部40を埋めることができ、空洞部40を所望の形状(例えば、平行四辺形や菱形など)にすることもできる。
【0077】
・補強部
補強部60は、筒部10の表面とリブ20の表面との間を斜めに連結した肉盛り部分である。本例では、補強部60は、
図4〜6,9,10に示すように、各筒部10の全周に亘って設けられ、筒部10における細径部13の表面からリブ20の表面に向かって徐々に外径が大きくなるような湾曲状である。実施形態1の定着具本体1αは、補強部60を備える点を特徴の一つとする。補強部60を備えることで、リブ20が受ける圧縮応力の作用方向(支圧方向)にリブ20が変形することを抑制し易い。
【0078】
本例では、両筒部10,10が互いに対向する側を内側、その反対側を外側とするとき、補強部60の内側部分(内側補強部62)は、外側部分(外側補強部64)よりも湾曲状の曲げ半径が大きい。圧縮応力によって筒部10,10間に作用するせん断応力は、細径部13の内側表面とリブ20の表面との接続部近傍に作用し易い。そこで、内側補強部62の曲げ半径を外側補強部64の曲げ半径よりも大きくすることで、上記せん断応力を効果的に低減することができる。また、圧縮応力は、固定端部10p近傍に作用し易いため、固定端部10pの外周におけるリブ20に設けられる補強部60の曲げ半径を、取付端部10qの外周におけるリブ20に設けられる補強部60の曲げ半径よりも大きくすることが挙げられる。
【0079】
補強部60は、定着具本体1αに作用する圧縮応力によるリブ20の変形を抑制できる個数や形状・大きさを適宜選択できる。例えば、筒部10における細径部13の表面からリブ20の表面に向かって直線的に外径が大きくなるような直線状とすることができる。また、各筒部10,10の周方向に適宜な間隔を有して断続的に複数の補強部を設けることもできる。例えば、三角板状の補強部とすることができる。補強部60は、筒部10,10及びリブ20を鋳造で一体成形する際に、所望の位置に一体に設けることができる。その他に、鋳造によって成形された筒部10,10及びリブ20の一体物に対して、別部材の補強部60を溶接などで接合することもできる。
【0080】
筒部10,10及びリブ20を備える定着具本体1αは、代表的には鋳造によって製造することができる。定着具本体1αに補強部60を備える場合、補強部60も鋳造によって同時に製造することが好ましい。
【0081】
・グラウトキャップ
上記の定着具本体1αは、両筒部10における収納部12の少なくとも一方の開口側に、パッキン90を介してねじ込まれるグラウトキャップ80を備えることができる。グラウトキャップ80は、収納部12の装着部分12nに装着されて、定着具本体1α内及び定着具本体1αに接続されるシース400内にグラウトを注入するための注入口となる(
図1を参照)。グラウトキャップ80は、収納部12の装着部分12nに装着されるため、グラウトキャップ80の中心軸と収納部12の中心軸とは同軸となる。グラウトキャップ80は、収納部12の軸方向と直交する断面の形状が多角形状であり、一端側にグラウト注入孔80hを備える(
図3を参照)。本例では、グラウトキャップ80の上記断面の形状は四角形状である(
図3を参照)。グラウトキャップ80の上記断面の形状は、グラウトキャップ80の軸方向(収納部12の軸方向)に沿った一部に設けられていてもよい。上記断面における外周輪郭が多角形状であればよく、内周輪郭は多角形状でも、それ以外の形状、例えば円形状であってもよい。グラウトキャップ80の上記断面における外周輪郭が多角形状であることで、グラウトキャップ80を保持し易く、グラウトキャップ80を収納部12の装着部分12nに装着し易い。グラウトキャップ80の他端側に、収納部12の装着部分12nの内径とほぼ同等の外径を有する円筒状の装着部分80nを備える。この装着部分80nの外周面には、収納部12の装着部分12nと係合する係合部(図示せず)が形成されている。係合部は、グラウトキャップ80の周方向に形成され、装着部分12nに形成された雌ねじに螺合する雄ねじであることが挙げられる。
【0082】
グラウトキャップ80の雄ねじの外周で収納部12の装着部分12nの端面と接触する箇所には、リング状のパッキン90が嵌め込まれる。このパッキン90により、グラウトキャップ80を定着具本体1αに装着したとき、グラウトキャップ80と筒部10の開口との間にパッキン90が介在され、グラウトの漏れを防止できる。
【0083】
グラウトは、セメント系グラウトの他、遅延硬化性の樹脂系グラウトなどの時間の経過に伴って硬化する材質や、グリースなどの時間の経過により硬化しない材質、油脂材などを利用することができる。
【0084】
《ウェッジ》
ウェッジ2は、複数(本例では3つ)の分割片を組み合わせることで、ほぼ円錐状に構成される。分割片を組み合わせたとき、その中心部には各緊張材200A,200Bの把持孔が形成されると共に、隣り合う分割片の間には太径側端部から細径側端部に亘ってスリットが形成される。このスリットは、ウェッジ2がそれぞれソケット3に圧入された際、スリットの間隔が狭まることで、確実に各緊張材200A,200Bを把持することに寄与する。各分割片は、内周面に緊張材200A,200Bを強固に把持するための雌ねじ部が形成されている。更に、ウェッジ2の太径側端部の周方向には溝が形成されており、この溝にOリングを嵌め込むことで、各分割片がばらけることを防止できる。
【0085】
《ソケット》
ソケット3は、テーパ状の挿入孔が形成された円筒体である。ソケット3の外径は、筒部10における収納部12の包囲部分12mの内径と同等である。テーパ状の挿入孔は、ウェッジ2の外径に対応した形状、大きさであり、嵌め込まれたウェッジ2をくさび、ソケット3をくさび受けとして機能させて、各緊張材200A,200Bの定着を行う。
【0086】
〔緊張材〕
緊張材200A,200Bは、緊張状態で、その端部が上述した緊張材用定着具100に定着されることで、導入された緊張荷重をプレストレスとしてセグメント620,640(
図11)に付与する。本例では、緊張材200A,200Bとして、複数の素線を撚り合わせたPC鋼線に樹脂被覆を形成したPC鋼撚り線を利用している。その他、緊張材は、上記樹脂被覆を備えていない裸PC鋼撚り線や、単一のPC鋼線などを利用することができる。
【0087】
〔定着方法〕
以下、上述した緊張材用定着具100の定着方法について、主に
図11,12を参照して説明する。本例では、円環状に構築したセグメント620,640の周方向に連続して配置した二つの緊張材(第一緊張材200A及び第二緊張材200B)の対向する端部同士を、緊張材用定着具100に固定して接続することで、セグメント620,640の周方向にプレストレスを導入する。二つの緊張材200A,200Bの対向する端部同士を接続するため、二つの緊張材用定着具100,100を、セグメント620,640の周方向に離間して配置している。本例では、各緊張材200A,200Bの一端部(
図11の時計回り方向に位置する端部)をジャッキで緊張せずに固定のみを行い、その緊張材200A,200Bの他端部(
図11の反時計回り方向に位置する端部)をジャッキで緊張して固定する片引きの形態を説明する。
【0088】
なお、以下の説明において、二つの緊張材用定着具100,100のうち、
図11の左側にある緊張材用定着具100に備わる定着具本体を左側の定着具本体1αA、
図11の右側にある緊張材用定着具100に備わる定着具本体を右側の定着具本体1αBと呼ぶ。左側の定着具本体1αA及び右側の定着具本体1αBは、上述した定着具本体1αである。また、一つの緊張材用定着具100に着目して、その緊張材用定着具100においてジャッキで緊張して固定する端部を有する緊張材が布設される側を一次側、その緊張材用定着具100においてジャッキで緊張せずに固定するだけの端部を有する緊張材が布設される側を二次側と呼ぶ(
図11,12を参照)。
【0089】
二つの緊張材(第一緊張材及び第二緊張材)を用いて円環状のコンクリート構造物の周方向にプレストレスを導入する方法は、定着具本体の配置⇒定着具本体への第一緊張材の挿入・固定⇒定着具本体への第二緊張材の挿入・固定、によって行うことができる。
【0090】
・定着具本体の配置
まず、定着具本体1αを備える円弧状のセグメント620を作製する。本例では、左側の定着具本体1αAを備えるセグメント620と、右側の定着具本体1αBを備えるセグメント620と、をそれぞれ作製する。セグメント620は、定着具本体1αA(1αB)の各筒部10における取付口11にシース400をそれぞれ取り付け、その状態で型枠内に配置してコンクリートを打設することで作製できる。このとき、各筒部10における収納部12の開口部が露出するように、セグメント620に切欠き622a,622bを形成しておく。切欠き622aは、定着具本体1αA(1αB)から緊張材を引き出すと共に、その引き出した緊張材の端部をジャッキ900で緊張するための作業領域である。一方、切欠き622bは、定着具本体1αA(1αB)に緊張材を挿入するための作業領域である。切欠き622bは、ジャッキで緊張する作業領域は不要で、緊張材を挿入することができ、その端部にウェッジ2及びソケット3を装着可能な程度の作業領域でよい。切欠き622bも、切欠き622aと同様に、ジャッキで緊張可能な程度の作業領域としてもよい。得られたセグメント620は、収納部12の開口部が露出した状態の定着具本体1αA(1αB)と、シース400と、が埋め込まれている。また、本例では、
図11に示すように、シース400のみが埋め込まれたセグメント640も二つ用意する。
【0091】
上記セグメント620,640を組み立てて、円環状のコンクリート構造物(シールドトンネル)を構成する。本例では、定着具本体1αAが埋め込まれたセグメント620と定着具本体1αBが埋め込まれたセグメント620とがシールドトンネルの左右(
図11の左右)に位置するように、シース400のみが埋め込まれたセグメント640と交互に配置する。このとき、隣り合うセグメント620,640でシース400が同軸上となるように配置する。
【0092】
・定着具本体への第一緊張材の挿入・固定
次に、第一緊張材200Aを配置する。第一緊張材200Aの一端部は、左側の定着具本体1αAに対して、ジャッキで緊張せずに固定のみを行い、その他端部は、右側の定着具本体1αBに対して、ジャッキ900で緊張して固定する。よって、左側の定着具本体1αAを備える緊張材用定着具100に着目した場合、第一緊張材200Aが布設される側が二次側となり、右側の定着具本体1αBを備える緊張材用定着具100に着目した場合、第一緊張材200Aが布設される側が一次側となる。
【0093】
第一緊張材200Aは、左側の定着具本体1αAで、一次側に開口する収納部12を有する筒部10において、その収納部12の開口から挿入する。挿入した第一緊張材200Aは、セグメント620,640内のシース400を貫通すると共に、右側の定着具本体1αBで、二次側に開口する収納部12を有する筒部10において、その収納部12の開口から引き出される。
【0094】
左側の定着具本体1αAの収納部12に挿入した第一緊張材200Aの一端部は、ウェッジ2で把持し、ウェッジ2をソケット3に嵌め込むと共にソケット3を収納部12に収納し、ジャッキで緊張せずに固定のみを行う。
【0095】
右側の定着具本体1αBの収納部12から引き出した第一緊張材200Aの他端部は、ウェッジ2で把持し、ウェッジ2をソケット3に嵌め込むと共にソケット3を収納部12に収納する。そして、この第一緊張材200Aの他端部をジャッキ900で緊張して、ソケット3を収納部12の支圧部12aに支圧して、第一緊張材200Aの他端部を右側の定着具本体1αBに定着して固定する(
図11,12を参照)。その後、ジャッキ900を取り外し、第一緊張材200Aの余長を切断して、収納部12の装着部分12n(
図1)にグラウトキャップ80を装着する。
【0096】
・定着具本体への第二緊張材の挿入・固定
次に、第一緊張材200Aの挿入・固定と同様に、第二緊張材200Bの挿入・固定を行う。第二緊張材200Bの一端部は、右側の定着具本体1αBに対して、ジャッキで緊張せずに固定のみを行い、その他端部は、左側の定着具本体1αAに対して、ジャッキ900で緊張して固定する。よって、右側の定着具本体1αBを備える緊張材用定着具100に着目した場合、第二緊張材200Bが布設される側が二次側、その反対側が一次側となり、左側の定着具本体1αAを備える緊張材用定着具100に着目した場合、第二緊張材200Bが布設される側が一次側、その反対側が二次側となる。
【0097】
第二緊張材200Bは、右側の定着具本体1αBで、一次側に開口する収納部12を有する筒部10において、その収納部12の開口から挿入する。挿入した第二緊張材200Bは、セグメント620,640内のシース400を貫通すると共に、左側の定着具本体1αAで、二次側に開口する収納部12を有する筒部10において、その収納部12の開口から引き出される。
【0098】
右側の定着具本体1αBの収納部12に挿入した第二緊張材200Bの一端部は、ウェッジ2で把持し、ウェッジ2をソケット3に嵌め込むと共にソケット3を収納部12に収納し、ジャッキで緊張せずに固定のみを行う。
【0099】
左側の定着具本体1αAの収納部12から引き出した第二緊張材200Bの他端部は、ウェッジ2で把持し、ウェッジ2をソケット3に嵌め込むと共にソケット3を収納部12に収納する。そして、この第二緊張材200Bの他端部をジャッキ900で緊張して、ソケット3を収納部12の支圧部12aに支圧して、第二緊張材200Bの他端部を左側の定着具本体1αAに定着して固定する。その後、ジャッキ900を取り外し、第二緊張材200Bの余長を切断して、収納部12の装着部分12n(
図1)にグラウトキャップ80を装着する。
【0100】
以上より、セグメント620,640の周方向に、片引きによって緊張された第一緊張材200Aと第二緊張材200Bとを接続できる。
【0101】
・その後
各グラウトキャップ80のグラウト注入孔80hからグラウトを注入する。注入されたグラウトは、収納部12内の溝部12dを通って筒部10の内部を充填し、更にシース400と緊張材200A,200Bとの間も充填する。注入されたグラウトは、各緊張材200A,200Bの反対側の端部が固定される緊張材用定着具100における収納部12の溝部12dから排出される。同様に、各緊張材200A,200Bの固定のみを行った端部も、余長を切断して、収納部12の装着部分12n(
図1)にグラウトキャップ80を装着する。セグメント620に形成された切欠き622a,622bには、コンクリートを充填・固化する。
【0102】
〔作用〕
上述した定着方法によって、第一緊張材200Aと第二緊張材200Bの端部同士を接続して固定する過程において、定着具本体1αA,1αBに作用する圧縮応力の状態を説明する。
【0103】
まず、第一緊張材200Aを配置すると、定着具本体1αA,1αBは、一時的に片圧縮の状態となる。具体的には、第一緊張材200Aの緊張力によって、右側の定着具本体1αBにおける二次側に開口する収納部12近傍、及び左側の定着具本体1αAにおける一次側に開口する収納部12近傍に圧縮応力が作用する。このとき、右側の定着具本体1αBに着目すると、一次側に開口する収納部12には第二緊張材200Bが固定されていない状態であり圧縮応力が作用していないので、二次側に圧縮応力が偏って作用した片圧縮の状態となる。同様に、左側の定着具本体1αAに着目すると、二次側に開口する収納部12には第二緊張材200Bが固定されていない状態であり圧縮応力が作用していないので、一次側に圧縮応力が偏って作用した片圧縮の状態となる。
【0104】
次に、第二緊張材200Bを配置すると、定着具本体1αA,1αBは、両圧縮の状態となる。具体的には、第二緊張材200Bの緊張力によって、左側の定着具本体1αAにおける二次側に開口する収納部12近傍、及び右側の定着具本体1αBにおける一次側に開口する収納部12近傍に圧縮応力が作用する。このとき、左右の定着具本体1αA,1αB共に、一方の筒部10の収納部12に第一緊張材200Aが固定された状態であり、その収納部12近傍には圧縮応力が作用した状態である。そのため、第二緊張材200Bを他方の筒部10の収納部12に固定すると、第一緊張材200Aの緊張力による圧縮応力と、第二緊張材200Bの緊張力による圧縮応力とが、定着具本体1αA,1αBの両側に反対方向を向いてほぼ均等に作用した両圧縮の状態となる。第一緊張材200Aの緊張力による圧縮応力と、第二緊張材200Bの緊張力による圧縮応力とは相殺される。
【0105】
〔効果〕
実施形態1の緊張材用定着具100は、定着具本体1αに板状のリブ20を備えることで、定着具本体1αの筒部10,10間に偏った圧縮応力が生じると共に、緊張材200A,200Bの布設方向の片側に偏った圧縮応力が一時的に作用した片圧縮の状態の場合であっても、その圧縮応力をリブ20で支圧できる。そのため、定着具本体1αが圧縮応力の偏った側に動いてコンクリート構造物(セグメント620)にめり込んだり、損傷が生じたりすることを抑制できる。また、リブ20が両筒部10,10を一体化しているため、片圧縮の状態における両筒部10,10間に作用するせん断応力を低減することができる。特に、上記緊張材用定着具100は、圧縮応力が作用し易い各筒部10の固定端部10p近傍にリブ20を設けることで、上記せん断応力を効果的に低減することができる。
【0106】
また、上記緊張材用定着具100は、二つのリブ20,20を設けると共に、二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とで囲まれる領域に空洞部40を備えることで、筒部10,10が互いに対向する内側において、両筒部10,10とセグメント620との付着力を向上することができる。上記付着力の向上によって、上記せん断応力をより低減することができる。更に、上記緊張材用定着具100は、圧縮応力が作用し易い部分に強固な内側補強部62(
図9)を備えることで、緊張力の作用方向にリブ20が変形することを抑制でき、上記せん断応力をより低減することができる。
【0107】
円形コンクリート構造物が大型化すると、そのコンクリート構造物の周方向に配置する緊張材の長さも長くなる。緊張材の長さが長くなると、緊張材の全長に亘って実質的に均一に緊張力を付与できない場合がある。そこで、大型のコンクリート構造物の場合、複数の緊張材を連続して配置することが望まれる。複数の緊張材を連続して配置する場合、各緊張材を片引きしながら、各緊張材の端部同士を接続することで、施工性を向上できる。上述したように、実施形態1の緊張材用定着具100は、一時的に片圧縮の状態となる場合に好適に利用できるため、大型の円形コンクリート構造物の周方向にプレストレスを容易に導入することができ、施工性に優れる。
【0108】
上記では、二つの緊張材(第一緊張材200A及び第二緊張材200B)を用いた例を説明したが、三つ以上の緊張材(第一緊張材、第二緊張材、…第n緊張材)を用いることもできる。その場合、緊張材と同じ個数の定着具本体を配置し、定着具本体へ緊張材を挿入・固定という作業を、円形コンクリート構造物の反時計回り又は時計回りに順次繰り返し行えばよい。
【0109】
〔用途〕
上述した緊張材用定着具は、シールドトンネルやタンクなどの円形コンクリート構造物の周方向にプレストレスを導入する際に好適に利用することができる。特に、上記円形コンクリート構造物の周方向に複数の緊張材を接続する際に好適に利用できる。
【0110】
<実施形態2>
実施形態1では、定着具本体1αが、筒部10の表面とリブ20の表面との間を斜めに連結する補強部60を備える形態を説明した。その他に、
図13〜20に示すように、補強部を備えない定着具本体1βとすることもできる。実施形態1の定着具本体1αと実施形態2の定着具本体1βとは、補強部の有無が異なるのみであり、その他の構成については同じである。補強部を備えないことで、定着具本体1βを軽量化できる。
【0111】
<実施形態3>
実施形態2では、定着具本体1βが、二つの筒部10,10と二つのリブ20,20とで囲まれる領域に空洞部40を備え、補強部を備えない形態を説明した。その他に、更に空洞部を備えない定着具本体とすることもできる(後述する解析例における試作品1、
図21を参照)。空洞部を備えない定着具本体は、二つの筒部における各細径部同士を連結すると共に、二つのリブにおける内側部分を連結する板状の連結部を備える。空洞部を備えない定着具本体は、リブと連結部とで、両筒部を一体化することになる。よって、空洞部を備えない(連結部を備える)定着具本体は、両筒部を強固に固定できるため、緊張材の緊張力によって作用する圧縮応力によって定着具本体が長手方向に変形することを抑制し易い。
【0112】
<実施形態4>
実施形態1〜3では、筒部10,10がソケット3を収納する収納部12を備える形態を説明した。その他に、筒部は、収納部のうちソケットの外周を囲む側壁部を備えない定着具本体とすることもできる(図示せず)。この定着具本体は、筒部の固定端部にソケットの一端面を支圧する支圧部を備える。側壁部を備えないことで、定着具本体を軽量化・小型化できる。
【0113】
筒部は、支圧部の外周縁に座面部を備えることが好ましい。この座面部は、ソケットの一端面と周面との稜線部近傍を支圧する角壁面で構成される。座面部は、ソケットの一端面と周面との稜線部近傍のみを囲むものであり、ソケットの周囲を囲むものではない。座面部は、筒部の並列方向から見たとき、支圧部からの延伸長さが、上側から下側に向かって徐々に長くなるような形状となっている。つまり、座面部は、ソケットの下側面を支えるような形状となっている。筒部は、その貫通孔が湾曲しているため、緊張材の端部を固定する固定端部(支圧部)は傾斜面を有する。よって、筒部に上記座面部を備えることで、固定端部が傾斜面となっていても、ソケットが筒部から脱落したりずれたりすることを抑制できる。
【0114】
その他に、定着具本体は、二つの筒部のうち、一方の筒部に側壁部を備え、他方の筒部に側壁部を備えずに座面部を備える形態とすることもできる。筒部に側壁部を備えることで、ソケットを安定して固定することができる。よって、二つの筒部のうち、ジャッキで緊張した緊張材の端部を固定する方には、側壁部を備えることが好ましい。
【0115】
定着具本体に収納部を備えない場合、筒部にグラウトキャップを装着することができないため、筒部の端面(固定端部の端面)から内部に向かってグラウト注入孔を形成しておくことが挙げられる。このグラウト注入孔は、例えば、グラウトを注入する前までピンを挿し込んでおき、定着具本体をコンクリート構造物(セグメント)に埋設した後に、上記ピンを取り除くとよい。そうすることで、コンクリートの打設時にグラウト注入孔が埋まることを抑制できる。
【0116】
<実施形態5>
実施形態1〜4では、筒部とソケットとが別部材である形態を説明した。その他に、筒部とソケットとが一体構造である定着具本体とすることもできる(図示せず)。つまり、筒部は、固定端部にソケットを備える。換言すれば、ソケットの一端面が支圧部に一体化している。この固定端部の内径は、開口側が広く、奥部側が狭くなるテーパ形状に形成される。このテーパ形状は、ウェッジのテーパ形状に適合する。筒部とソケットとが一体構造であることで、ソケットを別途用意する必要がなく、部品点数を削減できる。
【0117】
<変形例1>
実施形態1〜5で説明した緊張材用定着具は、各緊張材の両端部をジャッキで同時に緊張する両引きにも好適に利用できる。緊張材が比較的長い場合、緊張材の一端部での緊張だけでは、緊張材の全長に亘って実質的に均一に緊張力を付与できない場合がある。そこで、緊張材の両端部を同時に緊張することがある。緊張材を両引きする形態について、
図11,12を参照して説明する。
【0118】
緊張材を両引きする場合、定着具本体に緊張材を挿入すると共に、その挿入側の端部もジャッキで緊張する必要がある。そのため、セグメント620に形成する切欠き622bも、切欠き622aと同様に、ジャッキで緊張可能な程度の作業領域を有する大きさとする。
【0119】
第一緊張材200Aを両引きする場合、右側の定着具本体1αBの収納部12から引き出した第一緊張材200Aの他端部をジャッキ900で緊張すると共に、左側の定着具本体1αAの収納部12に挿入した第一緊張材200Aの一端部をジャッキ900で緊張すればよい。同様に、第二緊張材200Bを両引きする場合、左側の定着具本体1αAの収納部12から引き出した第二緊張材200Bの他端部をジャッキ900で緊張すると共に、右側の定着具本体1αBの収納部12に挿入した第二緊張材200Bの一端部をジャッキ900で緊張すればよい。
【0120】
<変形例2>
実施形態1では、複数の緊張材(二つの緊張材200A,200B)を円形コンクリート構造物(セグメント620,640)の周方向に連続して配置し、二つの緊張材200A,200Bの対向する端部同士を緊張材用定着具100により接続する形態を説明した。その他に、実施形態1の緊張材用定着具100は、円形コンクリート構造物の周方向に一つの緊張材を配置し、一周した緊張材の両端部を連結する場合にも利用できる。この場合、緊張材用定着具は一つでよい。一つの緊張材を連結する場合は、その両端部をジャッキで同時に緊張する両引きを行ってもよいし、一方の端部のみをジャッキで緊張する片引きを行ってもよい。
【0121】
<変形例3>
実施形態1〜5で説明した緊張材用定着具は、
図11に示すように、円形コンクリート構造物の周方向にプレストレスを導入する際に好適に利用できる。例えば、シールドトンネルやタンクなどの円環状構造物や、半円状構造物、アーチカルバートなどのコンクリート構造物の周方向にプレストレスを導入する際に好適に利用できる。その他に、直線状部を有するコンクリート構造物の直線部分にプレストレスを導入する際にも利用できる。
【0122】
<解析例>
緊張材用定着具としての性能を満たすかを確認するために、所定の緊張力を与えた緊張材を緊張材用定着具に固定することを想定し、その緊張力によって緊張材用定着具(定着具本体)に作用する最大せん断応力をFEM(Finite Element Method)解析によって調べた。本例では、定着具本体について、以下の三つの試作品1〜3を設定した。
【0123】
・試作品1
試作品1は、
図21に示すように、二つのリブ20を備え、空洞部及び補強部を備えない。つまり、試作品1は、二つのリブ20,20間において、二つの筒部10,10同士がリブ20以外の連結部によって連結されている。試作品1の材質は、球状黒鉛鋳鉄(FCD450)である。
【0124】
・試作品2
試作品2は、
図22に示すように、二つのリブ20と、空洞部40と、を備え、補強部60を備えない。試作品2は、試作品1に対して空洞部40を備える点のみが異なり、その他の構成は試作品1と同様である。
【0125】
・試作品3
試作品3は、
図23に示すように、二つのリブ20と、空洞部40と、補強部60と、を備える。補強部60は、外表面が湾曲状であり、内側補強部62が外側補強部64よりも湾曲状の曲げ半径が大きくなっている。試作品3は、試作品2に対して補強部60を備える点のみが異なり、その他の構成は試作品2と同様である。
【0126】
〔解析例1〕
緊張材用定着具に対して緊張力によって作用する圧縮応力が両側にかかる形態(両圧縮の形態)において、緊張材用定着具(定着具本体)に作用する最大せん断応力をFEM解析によって調べた。両圧縮の形態における解析モデルを
図24に示す。この解析モデルでは、長尺状の解析用コンクリート構造物1000の中央部分に定着具本体1を埋設し、解析用コンクリート構造物1000の両端面のうち荷重を受け止める端面1220(定着具本体1の取付口と対向する端面)の領域を拘束し、荷重をかける端面1240(定着具本体1の収納部と対向する端面)の領域を解放した。各筒部10における収納部12の開口部側には、コンクリートに切欠き622aが形成されている(
図12を併せて参照)。そして、定着具本体1に対して、各筒部の収納部側から緊張力として573kNまで載荷した。定着具本体1を上記試作品1〜3として、それぞれFEM解析を行った。
【0127】
その結果、最大せん断応力Fは、各筒部10の固定端部10p近傍における細径部13の内側表面とリブ20の表面との接続部近傍に作用し易いことがわかった。各試作品1〜3における最大せん断応力は、試作品1における最大せん断応力を100としたとき、試作品2における最大せん断応力が87、試作品3における最大せん断応力が74であった。つまり、最大せん断応力は、定着具本体に空洞部を備えることで、13%低減でき、更に定着具本体に補強部を備えることで、26%も低減できることがわかった。
【0128】
〔解析例2〕
緊張材用定着具に対して緊張力によって作用する圧縮応力が片側にかかる形態(片圧縮の形態)において、緊張材用定着具(定着具本体)に作用する最大せん断応力をFEM解析によって調べた。片圧縮の形態における解析モデルを
図25に示す。この解析モデルでは、解析例1と同様に、長尺状の解析用コンクリート構造物1000の中央部分に定着具本体1を埋設する。解析用コンクリート構造物1000の両端面のうち、一方の端面の全領域及び他方の端面のうち定着具本体1の取付口と対向する領域を、荷重を受け止める端面1220として拘束し、他方の端面のうち定着具本体1の収納部12と対向する領域を、荷重をかける端面1240として解放した。各筒部10における収納部12の開口部側には、コンクリートに切欠き622a,622bが形成されている(
図12を併せて参照)。そして、定着具本体1に対して、解放した収納部側から緊張力として573kNまで載荷した。定着具本体1を上記試作品1〜3として、それぞれFEM解析を行った。
【0129】
その結果、最大せん断応力は、解析例1と同様に、各筒部10の固定端部10p近傍における細径部13の内側表面とリブ20の表面との接続部近傍に作用し易いことがわかった。各試作品1〜3における最大せん断応力は、それぞれ解析例1における各試作品1〜3における最大せん断応力とほぼ同等であることがわかった。
【0130】
以上より、定着具本体に板状のリブを備えることで、緊張材の緊張力によって作用する圧縮応力を効果的に支圧できることがわかった。そして、定着具本体に空洞部、更に補強部を備えることで、緊張材の緊張力によって作用する圧縮応力によって筒部間に作用する最大せん断応力をより低減できることがわかった。