【課題】転舵輪に設けられるインホイールモータ駆動装置に関し、インホイールモータ駆動装置に附設されたパークロック機構から車体までパークロック用ワイヤを配線する際、転舵時のパークロック用ワイヤの曲げ伸ばしを低減する技術を提供する。
【解決手段】パークロック用ワイヤの配線構造は、車輪を駆動するモータ部(21)および車輪を回転不能に保持するパークロック機構を有するインホイールモータ駆動装置(10)と、インホイールモータ駆動装置を車体(101)に連結するサスペンション装置(70)と、一端がパークロック機構の部品(47)と接続し他端が車体まで延びてパークロック機構を動作させる屈曲可能なパークロック用ワイヤ(48)とを備える。インホイールモータ駆動装置は上下方向に延びる転舵軸線(K)を中心として転舵可能であり、パークロック用ワイヤは自身の一端と他端との間に転舵軸線に沿って上下方向に延びる第1領域(48d)を含む。
前記サスペンション装置は、上下方向に延びて下端部で前記インホイールモータ駆動装置と結合するストラットと、前記車体と連結する基端および前記インホイールモータ駆動装置と方向自在に連結する遊端を有し上下方向に揺動可能なアームとを含み、
前記転舵軸線は前記ストラットと重なり、
前記ストラットはコイルスプリングの上端および下端を挟んで保持する1対のコイルスプリングシートを含み、前記ストラットの上端および下端間で伸縮可能であり、
転舵軸線方向にみて、前記第1領域は、前記コイルスプリングシートと重なるよう配置される、請求項2〜5のいずれかに記載のパークロック用ワイヤの配線構造。
前記パークロック用ワイヤは、前記インホイールモータ駆動装置から前記車体まで延びる動力線に沿って配線される、請求項1〜6のいずれかに記載のパークロック用ワイヤの配線構造。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態になるパークロック用ワイヤの配線構造を車輪ホイールとともに示す模式図であり、車幅方向内側からみた状態を表す。
図2は、第1実施形態を車輪ホイールとともに示す模式図であり、車両前方からみた状態を表す。
図3は、第1実施形態を車輪ホイールとともに示す模式図であり、車両上方からみた状態を表す。
【0023】
第1実施形態では、車体101(
図2に車体の車幅方向外側部分のみ示す)の車幅方向外側に車輪ホイールW、インホイールモータ駆動装置10、およびサスペンション装置70が配置される。また車輪ホイールW、インホイールモータ駆動装置10、およびサスペンション装置70は車体101の車幅方向両側に左右対称に配置され、電動車両を構成する。
【0024】
車輪ホイールWの外周には仮想線で示すタイヤTが嵌合する。車輪ホイールWおよびタイヤTは車輪を構成する。車輪ホイールWのリム部Wr(
図1)は、車輪の内空領域を区画する。かかる内空領域にはインホイールモータ駆動装置10が配置される。インホイールモータ駆動装置10は車輪ホイールWと連結して車輪を駆動する。
【0025】
サスペンション装置70はストラット式サスペンション装置であり車幅方向に延びるロアアーム71と、ロアアーム71よりも上方に配置されて上下方向に延びるストラット76を含む。ストラット76は、インホイールモータ駆動装置10の軸線Oよりも上方に配置されるサスペンション部材であって、車輪ホイールWおよびインホイールモータ駆動装置10よりも車幅方向内側に配置される。
【0026】
ストラット76は上下方向に延び、ストラット76の下端がインホイールモータ駆動装置10と結合し、ストラット76の上端が車輪ホイールWよりも上方で車体101と連結する。なおストラット76と、車輪ホイールWの上部と、インホイールモータ駆動装置10の上部は、車体101の車幅方向外側に形成されるホイールハウス102に収容される。
【0027】
ストラット76は上端領域にショックアブソーバ77を内蔵して上下方向に伸縮可能なサスペンション部材である。ショックアブソーバ77の外周には仮想線で概略を示すコイルスプリング78が配置され、ストラット76に作用する上下方向の軸力を緩和する。ストラット76の上端部および中央部には、コイルスプリング78の上端および下端を挟んで保持する1対のコイルスプリングシート79b,79cが設けられる。ショックアブソーバ77の内部にはストラット76に作用する軸力を減衰させるダンパーが設けられる。
【0028】
ロアアーム71は、インホイールモータ駆動装置10の軸線Oよりも下方に配置されるサスペンション部材であって、車幅方向外側端72および車幅方向内側端73d,73fを含む。ロアアーム71は、車幅方向外側端72で、ボールジョイント60を介してインホイールモータ駆動装置10に連結される。またロアアーム71は車幅方向内側端73d,73fで図示しない車体側メンバに連結される。車幅方向内側端73d,73fを基端とし、車幅方向外側端72を遊端として、ロアアーム71は上下方向に揺動可能である。なお車体側メンバとは説明される部材からみて車体側に取り付けられる部材をいう。ロアアーム71は、コイルスプリング78からみてばね下のインホイールモータ駆動装置10と、ばね上の車体101とを連結することからサスペンションリンク、あるいは単にリンクともいう。またロアアーム71は単にアームともいう。
【0029】
車幅方向外側端72とストラット76の上端76aを結ぶ直線は、上下方向に延びて転舵軸線Kを構成する。転舵軸線Kは基本的には上下方向に延びるが、車幅方向および/または車両前後方向に若干傾斜してもよい。
【0030】
ロアアーム71よりも上方にはタイロッド80が配置される。タイロッド80は、軸線Oよりも車両後方に配置されて車幅方向に延び、タイロッド80の車幅方向外側端がインホイールモータ駆動装置10の後部と回動可能に連結する。なおインホイールモータ駆動装置10の後部とは、車両前後方向における後部を意味する。タイロッド80の車幅方向内側端は図示しない操舵装置と連結する。操舵装置はタイロッド80を車幅方向に進退動させて、インホイールモータ駆動装置10および車輪ホイールWを転舵軸線K回りに転舵させる。
【0031】
コイルスプリング78を有するサスペンション装置70からみてインホイールモータ駆動装置10等の車輪側メンバをばね下部材ともいい、車体101等の車体側メンバをばね上部材ともいう。
【0032】
次にインホイールモータ駆動装置につき説明する。
【0033】
図4は
図1〜
図3に示すインホイールモータ駆動装置を取り出して示す模式図であり、車幅方向外側からみた状態を表す。
図5はインホイールモータ駆動装置を示す横断面図であり、減速部の内部を車幅方向外側からみた状態を模式的に表す。
図5中、紙面右側は車両前方を表し、紙面左側は車両後方を表し、紙面上方は車両上方を表し、紙面下方は車両下方を表し、減速部内部の各歯車は歯先円で表され、個々の歯を図略する。
図6はインホイールモータ駆動装置を模式的に示す展開断面図である。
図6で表される切断面は、
図5に示す軸線Mおよび軸線Nを含む平面と、軸線Nおよび軸線Oを含む平面とを、この順序で接続した展開平面である。
図7は、インホイールモータ駆動装置の減速部内部を取り出して示す平面図である。
【0034】
インホイールモータ駆動装置10は、図示しない車輪の中心に設けられる車輪ハブ軸受部11と、車輪を駆動するモータ部21と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部11に伝達する減速部31と、車輪を回転不能に保持するパークロック機構41とを備える。モータ部21および減速部31は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oからオフセットして配置される。軸線Oは車幅方向に延び、車軸に一致する。軸線O方向位置に関し、車輪ハブ軸受部11はインホイールモータ駆動装置10の軸線方向一方(アウトボード側)に配置され、モータ部21はインホイールモータ駆動装置10の軸線方向他方(インボード側)に配置され、減速部31はインホイールモータ駆動装置10の軸線方向中央部に配置される。インホイールモータ駆動装置10は、電動車両を時速0〜180km/hで走行させることができる。
【0035】
図6に示すように車輪ハブ軸受部11は、回転内輪・固定外輪とされ、図示しない車輪ホイールと結合する回転輪(ハブ輪)としての内輪12と、内輪12の外径側に同軸に配置される固定輪としての外輪13と、内輪12と外輪13との間の環状空間に配置される複数の転動体14を有する。
【0036】
外輪13の外周面には周方向に間隔を空けて複数の外輪突出部13fが立設される。外径方向に突出する各外輪突出部13fには貫通孔が穿設される。各貫通孔は軸線Oと平行に延び、軸線O方向一方側からボルト15が通される。各ボルト15の軸部は、本体ケーシング38の正面部分38fに穿設される雌ねじ孔と螺合する。これにより外輪13は正面部分38fに連結固定される。なお正面部分38fは減速部31の軸線O方向一方端を覆うケーシング壁部である。
【0037】
内輪12は、外輪13よりも長い筒状体であり、外輪13の中心孔に通される。外輪13からインホイールモータ駆動装置10の外部へ突出する内輪12の軸線O方向一方端部には、結合部12fが形成される。結合部12fはフランジであり、図示しないブレーキロータおよび車輪ホイールW(
図2)と同軸に結合するための結合部を構成する。内輪12は、結合部12fで車輪ホイールWと結合し、車輪ホイールWと一体回転する。
【0038】
内輪12および外輪13間の環状空間には、複数列の転動体14が配置される。内輪12の軸線O方向中央部の外周面は、第1列に配置される複数の転動体14の内側軌道面を構成する。内輪12の軸線O方向他方端部外周には内側軌道輪12rが嵌合する。内側軌道輪12rの外周面は、第2列に配置される複数の転動体14の内側軌道面を構成する。外輪13の軸線O方向一方端部の内周面は、第1列の転動体14の外側軌道面を構成する。外輪13の軸線O方向他方端部の内周面は、第2列の転動体14の外側軌道面を構成する。内輪12および外輪13間の環状空間には、シール部材16がさらに介在する。シール部材16は環状空間の両端を封止して、塵埃および異物の侵入を阻止する。内輪12の軸線O方向他方端の中心孔には減速部31の出力軸37が差し込まれてスプライン嵌合する。
【0039】
モータ部21は、モータ回転軸22、ロータ23、ステータ24、およびモータケーシング25を有し、この順序でモータ部21の軸線Mから外径側へ順次配置される。モータ部21は、インナロータ、アウタステータ形式のラジアルギャップモータであるが、他の形式であってもよい。例えば図示しなかったがモータ部21はアキシャルギャップモータであってもよい。
【0040】
モータ回転軸22およびロータ23の回転中心になる軸線Mは、車輪ハブ軸受部11の軸線Oと平行に延びる。つまりモータ部21は、車輪ハブ軸受部11の軸線Oから離れるようオフセットして配置される。例えば
図5に示すようにモータ部の軸線Mは、軸線Oから車両前後方向にオフセットして、具体的には軸線Oよりも車両前方、に配置される。
【0041】
説明を
図6に戻すと、モータ回転軸22の両端部は、転がり軸受27,28を介して、本体ケーシング38の背面部分38bと、モータ部21のモータケーシングカバー25vに回転自在に支持される。モータケーシング25は略円筒形状であり、軸線M方向一方端で本体ケーシング38の背面部分38bと一体に結合し、軸線M方向他方端を板状のモータケーシングカバー25vで封止される。
【0042】
減速部31は、モータ部21のモータ回転軸22と同軸に結合する入力軸32sと、入力軸32sの外周面に同軸に設けられる入力歯車32と、複数の中間歯車33,35と、これら中間歯車33,35の中心と結合する中間軸34と、車輪ハブ軸受部11の内輪12と同軸に結合する出力軸37と、出力軸37の外周面に同軸に設けられる出力歯車36と、これら複数の歯車および回転軸を収容する本体ケーシング38を有する。本体ケーシング38は、減速部31の外郭をなすことから減速部ケーシングともいう。
【0043】
入力歯車32は外歯のはすば歯車である。入力軸32sは中空構造であり、この中空の入力軸32sにモータ回転軸22の軸線方向一方端部が差し込まれて相対回転不可能にスプライン嵌合(セレーションも含む以下同じ)される。入力軸32sは入力歯車32の両端側で、転がり軸受32m,32nを介して、本体ケーシング38の正面部分38fおよび背面部分38bに回転自在に支持される。
【0044】
減速部31の中間軸34の回転中心になる軸線Nは軸線Oと平行に延びる。中間軸34の両端は、軸受34m,34nを介して、本体ケーシング38の正面部分38fおよび背面部分38bに回転自在に支持される。中間軸34の中央部には、第1中間歯車33および第2中間歯車35が、中間軸34の軸線Nと同軸に設けられる。第1中間歯車33および第2中間歯車35は、外歯のはすば歯車であり、第1中間歯車33の径が第2中間歯車35の径よりも大きい。大径の第1中間歯車33は、第2中間歯車35よりも軸線N方向他方側に配置されて、小径の入力歯車32と噛合する。小径の第2中間歯車35は、第1中間歯車33よりも軸線N方向一方側に配置されて、大径の出力歯車36と噛合する。
【0045】
中間軸34の軸線Nは、
図5に示すように、軸線Oおよび軸線Mよりも上方に配置される。また中間軸34の軸線Nは、軸線Oよりも車両前方、軸線Mよりも車両後方に配置される。減速部31は、互いに平行に延びる軸線O,N,Mを有する3軸の平行軸歯車減速機である。
【0046】
説明を
図6に戻すと出力歯車36は外歯のはすば歯車であり、出力軸37の中央部に同軸に設けられる。出力軸37は軸線Oに沿って延びる。出力軸37の軸線O方向一方端部は、内輪12の中心孔に差し込まれて相対回転不可能に嵌合する。かかる嵌合は、スプライン嵌合あるいはセレーション嵌合である。出力軸37の軸線O方向他方端部は、転がり軸受37nを介して、本体ケーシング38の背面部分38bに回転自在に支持される。
【0047】
出力歯車36の軸線O方向一方端面には、環状凹部36cが形成される。環状凹部36cは軸線Oを中心とする。本体ケーシング38の正面部分38fには、環状凹部36cに受け入れられる環状凸部38gが形成される。これら環状凹部36cの内径側部分と環状凸部38gの内径側部分との間には転がり軸受37mが設けられる。これにより出力軸37の軸線O方向中央部は、転がり軸受37mを介して、本体ケーシング38の正面部分38fに回転自在に支持される。
【0048】
減速部31は、小径の駆動歯車と大径の従動歯車の噛合、即ち入力歯車32と第1中間歯車33の噛合、また第2中間歯車35と出力歯車36の噛合、により入力軸32sの回転を減速して出力軸37に伝達する。
【0049】
本体ケーシング38は、筒状部分と、当該筒状部分の両端を覆う板状の正面部分38fおよび背面部分38bを含む。筒状部分は、互いに平行に延びる軸線O、N、Mを取り囲むように減速部31の内部を覆う。板状の正面部分38fは、減速部31の内部の軸線方向一方側を覆う。板状の背面部分38bは、減速部31の内部の軸線方向他方側を覆う。本体ケーシング38の背面部分38bは、モータケーシング25と結合し、減速部31の内部空間およびモータ部21の内部空間を仕切る隔壁でもある。モータケーシング25は本体ケーシング38に支持されて、本体ケーシング38から軸線方向他方側へ突出する。
【0050】
本体ケーシング38は、減速部31の内部空間を区画し、減速部31の全ての回転要素(回転軸および歯車)を内部空間に収容する。
図5に示すように本体ケーシング38の下部は、オイル貯留部39とされる。オイル貯留部39は入力歯車32の下方に配置される。本体ケーシング38の内部空間の下部を占めるオイル貯留部39には、モータ部21および減速部31を潤滑する潤滑油が貯留する。
【0051】
説明を
図6に戻すと入力軸32sと、中間軸34と、出力軸37は、上述した転がり軸受によって両持ち支持される。転がり軸受32m,34m,37m,32n,34n,37nはラジアル軸受である。
【0052】
環状凹部36cによって出力歯車36の内径部分は軸線O方向に窪んだ形状にされ、出力歯車36の内径部分の板厚寸法は出力歯車36の歯幅よりも小さくされる。環状凹部36cは転がり軸受37mを収容する。このように軸線O方向位置に関し、出力歯車36と転がり軸受37mとを重ねるように配置して、インホイールモータ駆動装置10の軸線方向寸法を小さくすることができる。
【0053】
パークロック機構41は、被係合部材としてのパークギア42と、係合部材としてのパークポール43と、パークポール43を揺動する移動部材としてのパークカム44とを有する。パークギア42は、入力軸32sの外周に同軸に取付固定されている。
図5に示すようにパークギア42は、歯車の歯底面および1対の歯面を構成する凹部42aを含む。
図6に示す実施形態の他、図示しない変形例として、パークギア42は、モータ回転軸22の外周に同軸に取付固定されてもよい。
【0054】
パークポール43は一端を支点とすることにより他端が揺動するレバー部材であって、パークギア42と隣り合うように配置される。
図5に示すようにパークポール43は、パークギア42に噛み合うロック位置(実線)とパークギア42から離れるロック解除位置(仮想線)との間を回動する。パークポール43は一端で枢軸45に枢支される。枢軸45は本体ケーシング38の内壁面に立設され、軸線Mと平行に延びる。パークポール43は、一端と他端との間に、パークギア42と向き合う正面およびパークギア42とは反対側の背面を有する。パークポール43には、パークギア42の凹部42aに係合する凸部43aが形成される。凸部43aはパークポール43の他端に配設される。
【0055】
図5に実線で示すようにパークポール43がロック位置にされてパークポール43の凸部43aがパークギア42の凹部42aに係合すると、パークギア42の回転がロックされて、入力軸32sは回転できない。そしてモータ回転軸22から減速部31を経て内輪12に至る駆動伝達経路は回転不能に保持され、車輪が回転しないパークロック状態が実現する。
【0056】
反対に
図5に仮想線で示すようにパークポール43がロック解除位置にされてパークポール43の凸部43aがパークギア42の凹部42aに係合しないときには、パークギア42の回転が許容されて、入力軸32sは回転が可能になる。つまりモータ回転軸22から減速部31を経て内輪12に至る駆動伝達経路は回転を許容され、車輪の回転が可能になる。
【0057】
パークポール43からみてパークギア42と反対側には、パークカム44および回動軸46が設けられている。回動軸46はパークカム44を支持する支持部材であり、
図6に示すように、一端で本体ケーシング38の内壁面に回動可能に支持され、中央部でパークカム44と結合する。回動軸46の他端は、本体ケーシング38を貫通し、本体ケーシング38の外部に設けられるパークロック作動部材47と結合する。パークカム44は、
図5に示すように、略円形の部材であり、中心で回動軸46と結合する。パークカム44の外周の一部は、残りの外周よりも外径方向に膨出するように形成されてカム部分44aをなす。パークカム44が回動すると、カム部分44aはパークポール43の背面を押圧したり、パークポール43の背面から後退したりする。
【0058】
図5に実線で示すようにパークカム44は、パークポール43の背面を押圧し、パークポール43の凸部43aを、パークギア42の凹部42aに係合しないロック解除位置(
図5の仮想線)から、係合するロック位置(
図5の実線)に回動させる。反対にパークポール43をロック位置からロック解除位置に移動する場合には、パークカム44は仮想線で示すようにパークポール43の背面から後退するように回動し、図示しないねじりばねの付勢力によってパークポール43を仮想線で示すロック解除位置に復帰させる。
【0059】
パークロック機構41において、パークギア42、パークポール43、パークカム44、枢軸45、および回動軸46の一端部は、
図6に示すように、本体ケーシング38の内部に収容されている。つまり、本実施形態のパークロック機構41は、内蔵型である。
【0060】
また、パークギア42、パークポール43、およびパークカム44は、
図5に示すように、オイル貯留部39の上部空間と隣り合うよう配置されている。また、パークギア42、パークポール43、およびパークカム44は、中間歯車35よりも下方に配置される。
【0061】
図6に示すようにパークギア42、パークポール43、およびパークカム44の軸線方向位置は、中間歯車35の軸線方向位置と重なる。具体的には、パークギア42、パークポール43、およびパークカム44の軸線方向寸法は、中間歯車35の歯幅よりも小さく、中間歯車35の歯幅寸法に収まる。
【0062】
パークロック作動部材47は、本体ケーシング38の外部に取り付けられる。またパークロック作動部材47は、回動軸46と結合し、
図5を参照して回動軸46の背後に配置される。パークロック作動部材47は、リンクであり、一端が回動軸46と結合され、他方がパークロック用ワイヤ48の一端と結合される。パークロック作動部材47は、パークロック用ワイヤの押し引き動作によって回動軸46に結合したパークカム44を回動させて、パークポール43をロック位置およびロック解除位置のいずれか一方に移動させる。
【0063】
パークロック用ワイヤ48のうち図示しない他端は、電動車両の車体まで延びる。具体的にはシフトレバー等の操作子を有する操作装置もしくはパークロック用電動アクチュエータと接続する。パークロック用ワイヤ48はアウタチューブ48tおよびインナワイヤ48wを有する。インナワイヤ48wは押し引き可能である。車体の車室空間に居る電動車両の運転者がシフトレバーを操作すると、インナワイヤ48wがアウタチューブ48t内部を進退動し、パークロック作動部材47が作動され、回動軸46と連結するパークカム44を回動させ、パークポール43をロック位置およびロック解除位置のいずれか一方に移動させる。
【0064】
パークロック用ワイヤ48は、
図1〜
図3に示すようにインホイールモータ駆動装置10側の一端から車体側の他端までの間に、一端部48a、前後方向領域48b、屈曲部48c、第1領域48d、中間領域48e、および第2領域48fを含む。一端部48a、前後方向領域48b、屈曲部48c、第1領域48d、中間領域48e、および第2領域48fはこの順序で連続する。
【0065】
図3に示すようにパークロック用ワイヤ48は、パークロック作動部材47から車幅方向内側へ延びるが、一端部48aですぐに車両後方へ向きを変えるように屈曲し、前後方向領域48bの一端と接続する。前後方向領域48bは水平方向、具体的には車両前後方向に延び、前後方向領域48bの他端で屈曲部48cの一端と接続する。前後方向領域48bはクランプ部材49に把持される。クランプ部材49はサスペンション装置70からみて車輪側メンバ(ばね下部材)に支持される。クランプ部材49は具体的にはモータケーシングカバー25vに取付固定され、前後方向領域48bの中央部分を支持する。クランプ部材49は前後方向領域48bの外周を受け入れる凹部を有し、前後方向領域48bが上下方向に相対移動しないように把持するが、前後方向領域48bの延在方向において前後方向領域48bの若干の移動を許容する。
【0066】
図2に示すように屈曲部48cは、インホイールモータ駆動装置10側から車体101側に向かって下方へ屈曲するように延び、屈曲部48cの他端で第1領域48dの上端と接続する。
【0067】
第1領域48dは、転舵軸線Kに沿って上下方向に延びるが、転舵軸線Kに一致することに限定されず、転舵軸線Kと略平行に延びる。ただし第1領域48dは転舵軸線Kに近くなるよう配線されることが好ましい。第1領域48dの下端は中間領域48eの一端と接続する。
【0068】
中間領域48eは、両端が上方になり中央部が下方になるように湾曲して延びる。中間領域48eの他端は第2領域48fの下端と接続する。第2領域48fは、転舵軸線Kから離れた位置に配線されて上下方向に延びる。つまり一連の第1領域48dと中間領域48eと第2領域48fは、
図1および
図2に示すようにU字状に配線される。
【0069】
一連の第1領域48dと中間領域48eと第2領域48fは、後述する複数の動力線93に沿って延びる。パークロック用ワイヤ48は第2領域48fよりも上方でクランプ部材94に把持される。クランプ部材94は、パークロック用ワイヤ48および複数の動力線93を束ねる。本実施形態のクランプ部材94は、パークロック用ワイヤ48のうち第2領域48fよりも他端に近い車体側部分を支持するとともに、第2領域48fを上下方向に延びる姿勢に維持する。
【0070】
クランプ部材94は、サスペンション装置70からみて車体側メンバ(ばね上部材ともいう)に支持され、具体的にはブラケット95を介して車体101に取付固定される。クランプ部材94はパークロック用ワイヤ48の車体側部分の外周を受け入れる凹部あるいは貫通孔を有し、車体側部分が車幅方向および車両前後方向に相対移動しないように把持するが、車体側部分の延在方向において第2領域48fの若干の移動、つまり若干の上下移動、を許容する。これに対し第1領域48dと中間領域48eと第2領域48fはクランプ部材等によって何ら把持されず、宙に浮いている。
【0071】
ブラケット95をホイールハウス102よりも車幅方向内側に配置することにより、第2領域48fをホイールハウス102の仕切壁よりも車幅方向内側に配線することができる。そしてホイールハウス102を迂回するようにパークロック用ワイヤ48を配線し得るのみならず、ホイールハウス102の仕切壁をインホイールモータ駆動装置10に近づけてホイールハウス102を小さくすることができる。
【0072】
図1および
図2に示すように、モータ部21の上部には動力線端子箱25bが附設される。動力線端子箱25bは、モータケーシング25(
図6)の上部およびモータケーシングカバー25v(
図6)の上部に跨って形成され、略円筒形状のモータケーシング25から上方へ突出した位置に配置される。動力線端子箱25bは複数の動力線接続部91を有する。本実施形態は上下方向に間隔を空けて整列する3個の動力線接続部91を有し、インバータ(
図8の符号103)からの電力を受電する。各動力線接続部91は複数対の雌ねじ孔および貫通孔を含み、各貫通孔に動力線93の一端が通されて固定される。動力線93の芯線は、動力線端子箱25b内部で、ステータ24のコイル24c(
図6)から延びる導線と接続する。
【0073】
各動力線93の端部外周には円筒状のスリーブ92が嵌合する。スリーブ92は、動力線93の外周に密着して、各動力線93を保護する。また各スリーブ92は、動力線93の一端部とともに動力線接続部91の貫通孔に差込固定されて、動力線93の一端部を保持し、さらに動力線接続部91の貫通孔と動力線93との環状隙間を封止する。スリーブ92を抜け止めするため、スリーブ92の外周面には、スリーブ外径方向に突出する舌部92tが形成される。また舌部92tには貫通孔が形成される。舌部92tの貫通孔には
図1に示すようにボルト91bがねじ込まれ、各ボルト91bが動力線接続部91の雌ねじ孔に螺合することにより各スリーブ92は動力線接続部91に取付固定される。
【0074】
各動力線93は導電体からなる芯線と、芯線の全周を覆う絶縁体の被覆部からなる。各動力線93の一端は、各動力線接続部91および各スリーブ92によって、他端側が車両後方かつ車幅方向内側に向かって斜めの姿勢になるよう保持される。動力線93の他端は、車体101に搭載されるインバータ(
図8の符号103)と接続する。
【0075】
各動力線93は、動力線93の一端と他端の間に、連続して延びる3つの領域を含む。これら3つの領域のうち、インホイールモータ駆動装置10と接続する側の領域をインホイールモータ駆動装置側領域(第1領域)93dと呼び、車体101と接続する側の領域を車体側領域(第2領域)93fと呼び、インホイールモータ駆動装置側領域93dと車体側領域93fの間の領域を中間領域93eと呼ぶ。
【0076】
各動力線接続部91と接続する各動力線93の一端部は、インホイールモータ駆動装置側領域93dに向かって水平方向に延出するが、すぐに下方へ向きを変えるよう屈曲して延び、インホイールモータ駆動装置側領域93dの上側に連なる。
【0077】
インホイールモータ駆動装置側領域93dは、上下方向に延び、インホイールモータ駆動装置側領域93dの上側でインホイールモータ駆動装置10側と接続し、インホイールモータ駆動装置側領域93dの下端で中間領域93eの一端と接続する。車体側領域93fは、上下方向に延び、車体側領域93fの下端で中間領域93eの他端と接続し、車体側領域93fの上端で車体101側と接続する。中間領域93eは、中間領域93eの両側を上方とし中間領域93eの中間部分を下方として湾曲して延びる。つまり一連のインホイールモータ駆動装置側領域93dと中間領域93eと車体側領域93fは、
図1および
図2に示すように、下側が閉じ上側が開いたU字状に湾曲した状態で、ばね下部材としてのインホイールモータ駆動装置10およびばね上部材としての車体101に保持される。
【0078】
動力線93はクランプ部材94に支持される。クランプ部材94は具体的には動力線93のうち車体側領域93fよりも車体側部分を支持する。クランプ部材94は車体側領域93fの外周を受け入れる凹部あるいは貫通孔を有し、車体側部分が車幅方向および車両前後方向に相対移動しないように把持するが、車体側部分の延在方向、つまり上下方向、において車体側部分の若干の移動を許容する。これに対しインホイールモータ駆動装置側領域93dと中間領域93eと車体側領域93fはクランプ部材によって把持されてなく、宙に浮いている。
【0079】
なおクランプ部材94は、複数の動力線93およびパークロック用ワイヤ48を共通する凹部あるいは貫通孔で束ねてもよいし、あるいは個々の動力線93およびパークロック用ワイヤ48を通すための凹部あるいは貫通孔を複数有してもよい。
【0080】
クランプ部材94はブラケット95を介して車体101に取付固定される。ブラケット95をホイールハウス102よりも車幅方向内側に配置することにより、車体側領域93fをホイールハウス102の仕切壁よりも車幅方向内側に配線することができる。そしてホイールハウス102を迂回するように動力線93を配線し得るのみならず、ホイールハウス102の仕切壁をインホイールモータ駆動装置10に近づけてホイールハウス102を小さくすることができる。
【0081】
図2に示すようにインホイールモータ駆動装置側領域93dは、転舵軸線Kに沿って配置され、上下方向に延びる。転舵軸線Kに沿って配置されるとは、転舵軸線Kと一致することに限定されず、転舵軸線Kと略平行に延びることをいう。ただしインホイールモータ駆動装置側領域93dは転舵軸線Kになるべく近くなるよう配線されることが好ましい。
【0082】
図8に示すように本実施形態では転舵軸線Kを中心として、ロアコイルスプリングシート79cの半径の2倍の所定半径領域79eに、複数のインホイールモータ駆動装置側領域93dが配置される。これによりインホイールモータ駆動装置側領域93dは転舵軸線に沿って上下方向に延びる。また転舵軸線K方向にみて、複数のインホイールモータ駆動装置側領域93dのうち少なくとも1本が、ロアコイルスプリングシート79cの投影領域79dと重なる。
【0083】
前述したパークロック用ワイヤ48の第1領域48dも、ロアコイルスプリングシート79c半径の2倍の所定半径領域79eに配線される。好ましい形態として第1領域48dは、ロアコイルスプリングシート79cの投影領域79dと重なるとよい。
【0084】
あるいは、
図8に示すロアコイルスプリングシート79cをアッパコイルスプリングシート79b(
図1)に代替して、アッパコイルスプリングシート79bの所定半径領域または投影領域に第1領域48dおよびインホイールモータ駆動装置側領域93dを配線するとよい。
【0085】
図2に示すように、クランプ部材94の上下方向位置は、3個の動力線接続部91のうち少なくとも1個の上下方向位置と重なる。このため一連のインホイールモータ駆動装置側領域93d、中間領域93e、車体側領域93fは、下側が閉じ上側が開いたU字状に湾曲した状態で、ばね下部材としてのインホイールモータ駆動装置10およびばね上部材としての車体101に保持される。
【0086】
図1に示すように、動力線端子箱25bおよび3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両前方に配置され、各動力線接続部91は車両後方に指向する。これによりインホイールモータ駆動装置側領域93dを転舵軸線Kの近傍に配線することができる。あるいは図示しない変形例として、動力線端子箱25bおよび3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両後方に配置され、各動力線接続部91は車両前方に指向してもよい。
【0087】
また3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両前方に配置され、クランプ部材94は軸線Oよりも車両後方に配置される。これによりインホイールモータ駆動装置側領域93dを転舵軸線Kの近傍に配線することができる。あるいは図示しない変形例として、3個の動力線接続部91は軸線Oよりも車両後方に配置され、クランプ部材94は軸線Oよりも車両前方に配置されてもよい。いずれにせよインホイールモータ駆動装置10が転舵しない直進状態で、
図1に示すようにインホイールモータ駆動装置側領域93dの車両前後方向位置が、車体側領域93fの車両前後方向位置に重なるよう配置されるとよい。
【0088】
図2に示すようにインホイールモータ駆動装置側領域93dは相対的に車幅方向外側に配置され、車体側領域93fは車幅方向内側に配置される。このため中間領域93eは車幅方向に延びる。中間領域93eは、両側をインホイールモータ駆動装置側領域93dおよび車体側領域93fに接続することで、クランプ部材等によって何ら把持されず、宙に浮いている。
【0089】
ところで第1実施形態のパークロック用ワイヤ48の配線構造によれば、車輪を駆動するモータ部21、および車輪を回転不能に保持するパークロック機構41を有するインホイールモータ駆動装置10と、インホイールモータ駆動装置10を車体に連結するサスペンション装置70と、一端がパークロック機構41と接続し他端が車体まで延びパークロック機構41を動作させる屈曲可能なパークロック用ワイヤ48とを備え、インホイールモータ駆動装置10は、上下方向に延びる転舵軸線Kを中心として転舵可能であり、パークロック用ワイヤ48は、一端と他端との間に、転舵軸線Kに沿って上下方向に延びる第1領域48dを含む。これによりインホイールモータ駆動装置10が転舵される際、パークロック用ワイヤ48は殆ど変位せず、上下方向に長く延びる第1領域48dがねじれるにすぎない。したがってパークロック用ワイヤ48は繰り返し曲げ伸ばしされず、曲げ疲労が蓄積せず、耐久性が向上する。
【0090】
また第1実施形態によれば、パークロック用ワイヤ48が第1領域48dと車体101に接続される他端との間に、中間領域48eおよび第2領域48fをさらに含む。第1領域48dは、上側でインホイールモータ駆動装置10側と接続し、下側で中間領域48eと接続する。第2領域48fは、上下方向に延び、下側で中間領域48eと接続し、上側で車体101側と接続する。中間領域48eは、両側を上方とし中間部分を下方として湾曲して延びる。これによりインホイールモータ駆動装置10等のばね下部材が上方へバウンドおよび下方へリバウンドしたり、転舵したりしても、パークロック用ワイヤ48が繰り返し曲げ伸ばしされることを低減することができる。また第1実施形態によれば、車体側の第2領域48fが上下方向に延び、上側あるいは下側で車体101側と接続することから、例えば第2領域48fを、
図2に示すようにホイールハウス102と車内空間を間仕切るホイールハウス仕切壁の裏面(車体内部に指向する面)に沿わせる等、車体のホイールハウスを迂回してパークロック用ワイヤ48の一部を配線することができる。したがってホイールハウス仕切壁に貫通孔を穿孔して該貫通孔にパークロック用ワイヤ48を通す必要がなく、ホイールハウス102を大きくする必要もない。したがってホイールハウス102の剛性および強度が低下することがなく、車体の内部空間が犠牲にならない。
【0091】
また第1実施形態によれば、ばね下部材としてのインホイールモータ駆動装置10に設けられて、パークロック用ワイヤ48を保持するインホイールモータ駆動装置10側のクランプ部材49と、ばね上部材としての車体101に設けられて、パークロック用ワイヤ48を保持する車体101側のクランプ部材94とをさらに備える。これにより一連の第1領域48dと中間領域48eと第2領域48fを、
図1および
図2に示すように宙に浮かすようにしてU字状に配線することができる。
【0092】
また第1実施形態によれば、
図2および
図3に示すように中間領域48eは車幅方向に延びることから、ロアアーム71のように車幅方向に延びて上下方向に揺動可能なアームでインホイールモータ駆動装置10を車体101に連結することができる。
【0093】
また第1実施形態によれば、サスペンション装置70は上下方向に延びて下端部でインホイールモータ駆動装置10と結合するストラット76と、車体と連結する車幅方向内側端73d,73fおよびインホイールモータ駆動装置10と方向自在に連結する車幅方向外側端72を有し上下方向に揺動可能なロアアーム71とを含み、
図2に示すように転舵軸線Kはストラット76と重なり、ストラット76はコイルスプリング78の上端および下端を挟んで保持する1対のコイルスプリングシート79b,79cを含みストラット76の上端および下端間で伸縮可能である。ここで好ましくは軸線軸線K方向にみて、第1領域48dは、アッパコイルスプリングシート79bまたはロアコイルスプリングシート79cと重なるよう配置されるとよい。換言すると
図8に示す投影領域79dに配置されるとよく、これにより第1領域48dを転舵軸線Kに近づけることができる。そしてインホイールモータ駆動装置10が転舵される際、第1領域48dのねじれを少なくすることができる。
【0094】
また第1実施形態によれば、パークロック用ワイヤ48は、インホイールモータ駆動装置10から車体101まで延びる動力線93に沿って配線される。これによりインホイールモータ駆動装置10が転舵する際、パークロック用ワイヤ48は殆ど変位せず、上下方向に長く延びる第1領域48dがねじれるにすぎない。したがってパークロック用ワイヤ48は繰り返し曲げ伸ばしされず、曲げ疲労が蓄積せず、耐久性が向上する。
【0095】
また第1実施形態のインホイールモータ駆動装置10は、
図6に示すように、車輪と結合するための結合部12fを含むハブ輪としての内輪12、内輪12を回転自在に支持する車輪ハブ軸受部11、内輪12を駆動するモータ部21、内輪12を回転不能に保持するパークロック機構41、およびパークロック機構41から車体101まで延びる屈曲可能なパークロック用ワイヤ48を備え、上下方向に延びる転舵軸線Kを構成するサスペンション装置70によって車体101に連結される。そしてパークロック用ワイヤ48は、転舵軸線Kに沿って上下方向に延びる第1領域48dを含む。これによりインホイールモータ駆動装置10が転舵する際、パークロック用ワイヤ48は殆ど変位せず、上下方向に長く延びる第1領域48dがねじれるにすぎない。したがってパークロック用ワイヤ48は繰り返し曲げ伸ばしされず、曲げ疲労が蓄積せず、耐久性が向上する。
【0096】
次に第1実施形態の変形例を説明する。
図9はインホイールモータ駆動装置の変形例を示す横断面図であり、減速部内部を車幅方向外側からみた状態を表す。
図9に示す変形例につき、前述した
図5に示す実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。変形例のパークロック機構51は、
図5に示すパークロック機構41と基本的には同様の構成を備えているが、移動部材としてパークカム44の代わりにパークロッド54を用いる点において主に異なる。
【0097】
具体的には、サポート部材53とパークロッド54とスプリング部材55と揺動部材57とを有している。パークロッド54は、パークギア42の凹部42aに係合するロック位置(実線)と、係合しないロック解除位置(仮想線)とに対応して、パークポール43の凸部43aを移動させる。パークロッド54の先端には段差部材52が設けられる。段差部材52はパークロッド54に沿って摺動可能である。段差部材52は先端幅狭で末端幅広の形状であり、側面に段差を有する。段差部材52の一方側面は、パークポール43に接触する。段差部材52の他方側面は、サポート部材53と接触する。
【0098】
パークロッド54の末端には、枢軸56を介して揺動部材57の一端が連結されている。揺動部材57の他端は回動軸46と結合する。揺動部材57の一端は、回動軸46の回動に伴って変位する。なお回動軸46は前述したパークロック作動部材47と結合してパークロック用ワイヤ48の押し引き動作によって回動される。
【0099】
パークロッド54は、スプリング部材55に通される。スプリング部材55は段差部材52と揺動部材57との間に縮設されて、段差部材52をパークロッド54の先端側へ付勢する。
【0100】
サポート部材53は、パークロッド54の他方側面に沿って配置され、本体ケーシング38の内壁面に取付固定されている。サポート部材53には、段差部材52の他方側面に形成された段差と係合する段差部が形成されている。
【0101】
パークポール43のロック解除位置(仮想線)では、パークポール43はパークギア42から離れ、パークポール43の凸部43aはパークギア42の凹部42aに係合していない。このパークロック解除状態では、揺動部材57によってパークロッド54がサポート部材53に近い位置にされ、段差部材52の段差部がサポート部材53の段差部に係止され、段差部材52はパークポール43の背面を押圧しない。
【0102】
パークポール43をロック解除位置(仮想線)からロック位置(実線)に移動させる場合には、揺動部材57を揺動させてパークロッド54をサポート部材53から遠ざける。そうすると段差部材52の段差部がサポート部材53の段差部に乗り上げ、段差部材52一方側面はパークポール43の背面を押圧する。これにより、パークポール43をロック解除位置(仮想線)からロック位置(実線)に移動させる。
【0103】
図9に示す変形例においても、
図6に示すインナワイヤ48wの進退動によって揺動部材57を揺動させ、車輪のパークロック状態およびパークロック解除状態を実現することができる。
【0104】
次に本発明の第2実施形態になるパークロック用ワイヤの配線構造を説明する。
図10は第2実施形態を示す模式図であり、車両前方からみた状態を表す。第2実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。第2実施形態のパークロック用ワイヤ48は、
図10に示すようにインホイールモータ駆動装置10側の一端から車体101側の他端までの間に、一端部48a、第1領域48h、中間領域48i、および第2領域48jを含む。一端部48a、第1領域48h、中間領域48i、および第2領域48jはこの順序で連続する。
【0105】
一端部48aはパークロック作動部材47から車幅方向内側へ延びるが、すぐに向きを変えるように延びて上方かつ車両後方へ屈曲し、第1領域48hの下端と接続する。第1領域48hはストラット76に沿って配線され、上下方向に延びる。第1領域48hの下端はクランプ部材96で把持される。第1領域48hの上端はアッパコイルスプリングシート79bに把持され、中間領域48iの一端と接続する。クランプ部材96およびアッパコイルスプリングシート79bは第1領域48hを転舵軸線Kに沿って延びるように保持する。パークロック用ワイヤ48は、アッパコイルスプリングシート79bよりも上方で、ホイールハウス102の仕切壁に形成された貫通孔104に通されて、車体101内部に引き込まれる。
【0106】
クランプ部材96は、インホイールモータ駆動装置10よりも上方に配置され、ストラット76の下端部に取付固定される。ストラット76の下端部はばね下部材である。クランプ部材96はパークロック用ワイヤ48の外周を受け入れる凹部あるいは貫通孔を有し、車幅方向および車両前後方向に相対移動しないように把持するが、パークロック用ワイヤ48の延在方向において第1領域48hの若干の移動、つまり若干の上下移動、を許容する。
【0107】
パークロック用ワイヤ48の第2領域48jは、車体101内部に配置され、上下方向に延びる。第2領域48jの上端は、中間領域48iの他端と接続する。第2領域48jの下端は、パークロック用ワイヤ48の図示しないシフトレバー等の操作装置もしくはパークロック用電動アクチュエータと接続する。
【0108】
パークロック用ワイヤ48は第2領域48jよりも他端側で、クランプ部材94に把持され、上下方向に延びる姿勢に保持される。このため第2領域48jは、クランプ部材等によって何ら把持されることなく、宙に浮いていて、クランプ部材94よりも上側で上下方向に延びる。
【0109】
中間領域48iは、アッパコイルスプリングシート79bよりも上方にあって、車体101内部に配置され、車幅方向に延びる。より具体的には中間領域48iは、両側を下方とし中間部分を上方として湾曲して延びる。中間領域48iは、貫通孔104よりも上方で、クランプ部材によって把持されることなく、宙に浮いている。
【0110】
一連の第1領域48h、中間領域48i、第2領域48jは、上側が閉じ下側が開いた逆U字状に湾曲した状態で、ストラット76および車体101に保持される。
【0111】
クランプ部材94,96は、複数の動力線93をさらに把持する。つまりクランプ部材94,96は、パークロック用ワイヤ48および複数の動力線93を束ねている。
【0112】
複数の動力線93は一端から他端までの間に、インホイールモータ駆動装置側領域93h、中間領域93i、車体側領域93jを含む。これらの領域はこの順序で連なり、パークロック用ワイヤ48の第1領域48h、中間領域48i、第2領域48jは動力線93に沿って延びる。
【0113】
図10に示す第2実施形態によればパークロック用ワイヤ48は第1領域48hと車体101側の他端との間に中間領域48iおよび第2領域48jをさらに含み、第1領域48hは下側でインホイールモータ駆動装置10側と接続し上側で中間領域48iと接続し、第2領域48jは上下方向に延び上側で中間領域48iと接続し下側で車体101側の図示しない操作装置と接続し、中間領域48iは両側を下方とし中間部分を上方として湾曲して延びる。これによりインホイールモータ駆動装置10等のばね下部材が上方へバウンドおよび下方へリバウンドしたり、転舵したりしても、パークロック用ワイヤ48が繰り返し曲げ伸ばしされることを低減することができる。
【0114】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。