【実施例1】
【0015】
実施例1に係るメカニカルシールの回り止め機構につき、
図1と
図2を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、メカニカルシール1は、静止密封側部材10と回転密封側部材20と、シールケース30とから主に構成されている。メカニカルシール1は、回転機械のハウジング(被取付部材)2と、ハウジング2の軸孔3を貫通して回転機械の機外A側に連通するように配置される回転軸4との間に装着されている。機外A側は、海水、水、空気等の雰囲気であり、機内M側は被密封流体が封入されている。
【0017】
静止密封側部材10は、メイティングリング6(静止密封環)と図示しない回り止め手段により該メイティングリング6との相対回転が規制されたリテーナ7とから構成され、ハウジング2の軸方向端部に固定手段である固定ボルト5で固定されたシールケース30内に配置されている。
【0018】
シールケース30の内周面30aに対向するリテーナ7の外周面10bには環状凹部10dが形成されており、環状凹部10d内に配置されるOリング12により静止密封側部材10とシールケース30との間がシールされている。また、リテーナ7のメイティングリング6とは反対側の端部には、リテーナ7を径方向に貫通し、かつ軸方向にも開口する凹部11(回り止め機構)が形成されている。尚、凹部11は、リテーナ7を径方向に貫通せず、外径側から内径方向に凹む構成であってもよいし、軸方向に開口しない構成であってもよい。
【0019】
回転密封側部材20は、シールリング8(回転密封環)と、図示しない回り止め手段によりシールリング8に対して相対回転が規制されたリテーナ9と、カラー60と、スリーブ50と、スプリング40とから構成され、回転軸4側に装着されてこの回転軸4と一体的に回転する。静止密封側部材10と回転密封側部材20とは、回転軸4の軸方向に沿って互いに対向するように配置されており、それらの対向した端面である摺動面10a,20a同士が密接することにより、被密封流体をシールする。すなわち、メカニカルシール1は外径側から内径側への被密封流体の漏れを制限するインサイド形である。
【0020】
スリーブ50は、径方向に形成されたネジ孔49にセットスクリュー48を螺合させることにより回転軸4に対し非回転状態に固定されており、その内周において外径側に凹む環状凹部53にはOリング54が装着されている。カラー60は、径方向に形成されたネジ孔52にセットスクリュー51を螺合させることによりスリーブ50に対し非回転状態に固定されている。カラー60とスリーブ50との間にはスプリング40が圧縮状態で配置され、その両端部41,42がそれぞれカラー60とスリーブ50とに当接している。
【0021】
図2に示されるように、シールケース30には、径方向にシールケース30を貫通する貫通孔部15が形成されている。貫通孔部15は、内径側に位置する孔部16(回り止め機構)と、孔部16の外径側端部に連通する大径孔部17と、から主に構成されている。
【0022】
大径孔部17は孔部16に比べて内径が大径となっており、孔部16と連通する第1大径部18と、シールケース30の外周面側で外部に連通する第2大径部19とを有している。第2大径部19は第1大径部18に比べて内径が大径となっている。また、孔部16の内周面には後述するピン部材21(
図1参照)に形成された雄ねじ部22bが螺合する雌ねじ部16aが形成されている。
【0023】
図2に示されるように、ピン部材21(メカニカルシールの回り止め機構)は、外周面に雄ねじ部22bを有する胴部22と、胴部22に比べて太径に形成された頭部23とを有している。また、ここでは図示しないが、頭部23の端部にはスクリュードライバー等が係合する溝が形成されている。ピン部材21の胴部22に形成された雄ねじ部22bは、頭部23側に形成されており、胴部22の先端部22aには形成されていない。
【0024】
また、
図1に示されるように、ピン部材21の頭部23の外径は、シールケース30に形成された第1大径部18の内径より若干小径に形成されているとともに、頭部23の高さ寸法は、第1大径部18の深さ寸法と略同寸となっている。
【0025】
ピン部材21により静止密封側部材10の回り止めを行う際には、
図2に示されるように、ピン部材21をシールケース30の貫通孔部15に挿入し、胴部22を孔部16に螺合させる。この螺合により、胴部22の先端部22aがシールケース30の内側に突出してリテーナ7に形成された凹部11内に配置される。このように、ピン部材21の先端部22aにリテーナ7が係止されることで、静止密封側部材10がシールケース30を介してハウジング2に対して回り止めされる。
【0026】
また、孔部16の内径より太径であるピン部材21の頭部23はその裏面(
図2における下面)がシールケース30の孔部16の周囲に当接し、ピン部材21がシールケース30の内径方向へ抜け止めされる構成となっている。そのため、ピン部材21の先端部22aが内径方向に移動して回転軸4に接触する虞がなく、回転軸4の回転性能の低下やメカニカルシール1の破損等を防止することができる。
【0027】
また、上記したように、ピン部材21の胴部22の先端部22aには雄ねじ部22bが形成されていないため、リテーナ7に形成された凹部11内に配置されたピン部材21の先端部22aがリテーナ7を損傷させ難い。
【0028】
また、ピン部材21には孔部16に形成された雌ねじ部16aに螺合する雄ねじ部22bを備えていることから、ピン部材21をシールケース30の外径側からスクリュードライバー等で回すことにより容易にシールケース30に対して固定することができる。更に、螺合によりピン部材21の頭部23の裏面が孔部16の周囲に押圧されることから、シールケース30に対してピン部材21を強固に固定することができる。
【0029】
従来の回り止め機構では、シールケースの内径側からピン部材を螺合させる構成であり、ピン部材の頭部が静止密封側部材に形成された凹部内に配置されるため、静止密封側部材の大型化を防ぐために、その頭部の大きさが制限される。そのため、胴部に至っては小型に形成された頭部に比べて更に細径となることから、ピン部材の強度を十分に確保できないという問題があった。更に、小型に形成された頭部は、シールケースの内周面との接触領域が小さく、ピン部材が緩みやすいという問題があった。尚、環状のシールケースの内周面に対して平面形状のピン部材の頭部の裏面とでは、そもそも接触領域が小さく、ピン部材が緩みやすいという問題があった。
【0030】
これに対して、本実施例における回り止め機構は、上記したようにシールケース30の外径側からピン部材21を螺合させる構成であり、ピン部材21の胴部22の先端部22aがリテーナ7に形成された凹部11内に配置されるため、十分な強度を有する胴部22の外径を確保しながら、確実にピン部材21を内径方向へ抜け止めできる大きさに頭部23を形成できる。また、頭部23の裏面と孔部16の周囲との接触領域を十分に確保できる大きさに頭部23を形成することができる。更に、孔部16の周囲が平面形状であることから、ピン部材21の頭部23の裏面との接触面積を大きく確保でき、シールケース30に対してピン部材21を強固に固定することができる。
【0031】
また、ピン部材21の頭部23は、シールケース30の孔部16の外径側に形成された第1大径部18内に案内されるため、挿入しやすくなっている。更に、ピン部材21の頭部23がシールケース30内に埋設された状態で位置するため、ピン部材21の長さ寸法を短くすることができる。尚、第1大径部18をシールケース30の外周面に亘り形成し、内径の異なる第2大径部19を省略してもよい。
【0032】
また、第2大径部19は第1大径部18に比べて内径が大径となっているため、外径側から貫通孔部15内を覗いた際に、ピン部材21の状態、即ち適切な螺合状態であるか等を確認し易くなっている。これに加えて、ピン部材21の頭部23の高さ寸法が第1大径部18の深さ寸法と略同寸となっているため、ピン部材21の頭部23が第2大径部19側に突出しているか否かで、ピン部材21が緩んでいるか否かを判断することができる。
【実施例2】
【0033】
次に、実施例2に係る回り止め機構につき、
図3から
図5を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分に付いては同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0034】
図3に示されるように、メカニカルシール101のシールケース130には、径方向にシールケース130を貫通する貫通孔部115が形成されている。貫通孔部115は、内径側に位置する孔部116と、大径孔部117とを備えている。大径孔部117は、孔部116の外径側端部に連通する第1大径部118と、第1大径部118の外径端部に連通する第2大径部119と、第2大径部119の外径端部に連通する第3大径部120とから主に構成されている。
【0035】
第2大径部119は第1大径部118に比べて内径が大径となっており、その内周面に
図4及び
図5に示すピン部材21の抜け止め部材であるセットスクリュー121(回り止め機構)の外周面に形成された雄ねじ部121bが螺合する雌ねじ部119aが形成されている。
【0036】
図4に示されるように、ピン部材21により静止密封側部材10の回り止めを行う際には、ピン部材21をシールケース130の貫通孔部115に挿入し、胴部22を孔部116に螺合させる。この螺合により、胴部22の先端部22aがシールケース130の内側に突出し、リテーナ7に形成された凹部11内に配置される。これによれば、リテーナ7がピン部材21の先端部22aに係止されることで、静止密封側部材10がシールケース130を介してハウジング2に対して回り止めされる。
【0037】
次いで、
図4及び
図5に示されるように、第2大径部119にセットスクリュー121を螺合させ、セットスクリュー121の先端部121aでピン部材21の頭部23をシールケース130の内径方向に押圧する。これによれば、ピン部材21の頭部23がシールケース130における孔部116の周囲とセットスクリュー121の先端部121aとにより挟まれることになり、ピン部材21の内径方向と外径方向との両方向への移動が効果的に規制され、ピン部材21の径方向の位置を保持することができる。
【0038】
また、セットスクリュー121の先端部121aは、先細りした形状となっており、仮に頭部の高さ寸法が第1大径部118の深さ寸法より短く形成されているピン部材を利用する際にも、先端部121aを第1大径部118内に侵入させることができ、先端部121aでピン部材の頭部を押圧することができる。
【0039】
尚、上記したように、セットスクリュー121によりピン部材21のシールケース130における外径方向への移動を規制することができるため、セットスクリュー121を用いる場合には、ピン部材21の胴部22の外周面に形成された雄ねじ部22b及び、対応するシールケース130の孔部116の内周面に形成された雌ねじ部116aを省略してもよい。
【0040】
更に尚、大径孔部117に固定されてピン部材21のシールケース130における外径方向への移動を規制する抜け止め部材としては、前述のセットスクリュー121を用いる態様に限らず、例えば大径孔部117の内周面に環状溝を形成し、この環状溝に係合するスナップリングにより抜け止めしてもよいし、樹脂製の栓部材を大径孔部117内に圧入して抜け止めしてもよい。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0042】
例えば、実施例1及び実施例2において、ピン部材21をシールケース30(300)の外径方向に移動規制する手段は、上記した螺合によるものに限らず、例えば圧入により移動規制してもよいし、孔部16(116)の内周面に環状溝を設け、この環状溝に係合するスナップリングにより移動規制してもよい。
【0043】
また、ピン部材21に形成される雄ねじ部について、ピン部材21の胴部22の先端部22aまで雄ねじ部が形成されていてもよい。更に、ピン部材21に形成される雄ねじ部について、ピン部材21の胴部22の頭部23側に代えて、例えばピン部材21の頭部23の外周に形成し、第1大径部18の内周に形成した雌ねじ部と螺合させる構成としてもよい。
【0044】
また、実施例1及び実施例2において静止密封側部材10は、メイティングリング6とリテーナ7とから構成されており、ピン部材21はリテーナ7に形成された凹部11に係止されることで、静止密封側部材10をハウジング2に対して回り止めしているが、静止密封側部材の構造によってはこの態様に限らない。例えば、静止密封側部材がリテーナを備えず、メイティングリングのみから構成されている場合には、メイティングリングの径方向に凹部を形成し、この凹部にピン部材21の先端部22aを係止させる。
【0045】
また、メカニカルシール1(101)は内径側から外径側への被密封流体の漏れを制限するアウトサイド形であってもよい。
【0046】
また、メカニカルシール1(101)は静止形を例に説明したが、回転形であってもよい。