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特開2018-200188熱疲労試験方法、試験片、熱疲労試験装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-200188(P2018-200188A)
(43)【公開日】2018年12月20日
(54)【発明の名称】熱疲労試験方法、試験片、熱疲労試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20181122BHJP
   G01N 3/04 20060101ALI20181122BHJP
【FI】
   G01N3/32 A
   G01N3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-103879(P2017-103879)
(22)【出願日】2017年5月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】生野 元
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB05
2G061AC03
2G061AC04
2G061BA15
2G061CB02
2G061CC03
2G061EA04
2G061EB04
(57)【要約】
【課題】試験片の伸縮方向に対して直交する方向から、試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで試験片の両端部を治具に拘束する場合と比して、試験中に試験片の拘束が緩むのを抑制することができる熱疲労試験方法、試験片、及び熱疲労試験装置を得る。
【解決手段】拘束工程では、試験片10の長手方向からシム部材を試験片10の拘束部12(両端部)に接触させて試験片12の拘束部12を治具に拘束させる。そして、伸縮拘束工程では、加熱、冷却を繰り繰り返して、試験片10の長手方向の伸縮を拘束させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に両端部よりも断面積が小さな評価部を有する長尺状の試験片の前記両端部を、前記試験片に対して熱膨張係数が異なる治具に拘束して行う熱疲労試験方法であって、
前記試験片の長手方向から拘束部材を前記両端部に接触させて前記試験片の両端部を治具に拘束させる拘束工程と、
前記両端部が前記治具に拘束された状態で、加熱、冷却を繰り繰り返して、前記試験片の前記長手方向の伸縮を拘束する伸縮拘束工程と、
を備える熱疲労試験方法。
【請求項2】
前記両端部には、前記長手方向において前記評価部側とは反対側を向く第一面と、前記長手方向において前記評価部側を向く第二面とが夫々形成されており、
前記治具には、前記第一面と対向する第一対向面と、前記第二面と対向する第二対向面とが形成されており、
前記拘束工程では、前記第一面と前記第一対向面とを対向させ、かつ、前記第二面と前記第二対向面とを対向させ、前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に前記拘束部材としてのシム部材を挿入させる請求項1に記載の熱疲労試験方法。
【請求項3】
前記両端部において、前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間には、夫々隙間が生じており、
前記拘束工程では、一方の端部において、前記第一面と前記第一対向面との間に生じた隙間を埋める前記シム部材を、前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に挿入させる前記シム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させ、他方の端部において、前記第一面と前記第一対向面との間に生じた隙間を埋める前記シム部材を、前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に挿入させる前記シム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させる請求項2に記載の熱疲労試験方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の熱疲労試験方法に用いられる長尺状の試験片であって、
長手方向の中央部に形成され、円柱状の評価部と、
長手方向の両端部に夫々形成されている直方体状であって、前記長手方向において前記評価部側とは反対側を向く第一面と、前記長手方向において前記評価部側を向く第二面とが形成されている拘束部と、
を有する試験片。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の熱疲労試験方法に用いられる熱疲労試験装置であって、
試験片の長手方向において、前記試験片の両端部で評価部側とは反対側を向く第一面と対向する第一対向面と、前記試験片の両端部で前記評価部側を向く第二面と対向する第二対向面と、が形成されている治具と、
前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間を埋めて、前記両端部を前記治具に拘束させる複数のシム部材と、
前記両端部が治具に拘束されている状態で、加熱、冷熱を繰り返す加熱冷却試験機と、
を備える熱疲労試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱疲労試験機、試験片、及び熱疲労試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、断面積が小さな評価部分を有する試験片と,試験温度範囲において試験片より熱膨張係数が小さく,かつ熱膨張係数が急激に変化する温度特異点が存在しない低膨張材料からなる2枚のホルダとを用意して、高温で使用される材料に対する熱疲労試験方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−35644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、熱疲労試験方法に用いられる試験片は、長尺状である。そして、試験片の伸縮方向に対して直交する方向から試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで、試験片の両端部を治具に拘束していた。このため、試験片の両端部において刃が圧入された部分が、塑性変形していた。そこで、熱疲労試験を行い試験片が伸縮することで、塑性変形している領域が広がり、試験中に試験片の拘束が緩んでいた。
【0005】
本発明の課題は、試験片の伸縮方向に対して直交する方向から、試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで試験片の両端部を治具に拘束する場合と比して、試験中に試験片の拘束が緩むのを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る熱疲労試験方法は、 中央部に両端部よりも断面積が小さな評価部を有する長尺状の試験片の前記両端部を、前記試験片に対して熱膨張係数が異なる治具に拘束して行う熱疲労試験方法であって、前記試験片の長手方向から拘束部材を前記両端部に接触させて前記試験片の両端部を治具に拘束させる拘束工程と、前記両端部が前記治具に拘束された状態で、加熱、冷却を繰り繰り返して、前記試験片の前記長手方向の伸縮を拘束する伸縮拘束工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、拘束工程で、長手方向から拘束部材を両端部に接触させることで試験片の両端部を治具に拘束させる拘束させる。そして、伸縮拘束工程で、両端部が治具に拘束された状態で、加熱、冷却を繰り繰り返して、試験片の長手方向の伸縮を拘束させる。
【0008】
ここで、長手方向から拘束部材を両端部に接触させることで、試験片の両端部が治具に拘束されている。これにより、試験片の伸縮方向に対して直交する方向から、試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで試験片の両端部を治具に拘束する場合と比して、試験中に試験片の拘束が緩むのを抑制することができる。
【0009】
本発明の請求項2に係る熱疲労試験方法は、請求項1に記載の熱疲労試験方法において、前記両端部には、前記長手方向において前記評価部側とは反対側を向く第一面と、前記長手方向において前記評価部側を向く第二面とが夫々形成されており、前記治具には、前記第一面と対向する第一対向面と、前記第二面と対向する第二対向面とが形成されており、前記拘束工程では、前記第一面と前記第一対向面とを対向させ、かつ、前記第二面と前記第二対向面とを対向させ、前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に前記拘束部材としてのシム部材を挿入させることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、拘束工程では、第一面と第一対向面との間、及び第二面と第二対向面との間に生じた隙間を埋めるためのシム部材を、隙間に挿入させる。このように、シム部材を隙間に挿入させることで隙間を埋めることで、試験片の拘束部を治具に拘束させている。このため、試験片の長さが、ばらついた場合でも、試験片の拘束部を治具に拘束することができる。
【0011】
本発明の請求項3に係る熱疲労試験方法は、請求項2に記載の熱疲労試験方法において、前記両端部において、前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間には、夫々隙間が生じており、前記拘束工程では、一方の端部において、前記第一面と前記第一対向面との間に生じた隙間を埋める前記シム部材を、前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に挿入させる前記シム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させ、他方の端部において、前記第一面と前記第一対向面との間に生じた隙間を埋める前記シム部材を、前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間に挿入させる前記シム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、拘束工程では、一方の端部において、第一面と第一対向面との間の生じた隙間を埋めるシム部材を、第二面と第二対向面との間に生じた隙間に挿入させるシム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させる。また、他方の端部において、第一面と第一対向面との間に生じた隙間を埋めるシム部材を、第二面と第二対向面との間に生じた隙間に挿入させるシム部材の挿入方向に対して反対の方向から挿入させる。このように、シム部材を挿入させることで、全てのシム部材を同じ方向から隙間に挿入させる場合と比して、試験片の端部が治具に対してシム部材の挿入方向にずれてしまうのを抑制することができる。
【0013】
本発明の請求項4に係る試験片は、請求項1〜3の何れか1項に記載の熱疲労試験方法に用いられる長尺状の試験片であって、長手方向の中央部に形成され、円柱状の評価部と、長手方向の両端部に夫々形成されている直方体状であって、前記長手方向において前記評価部側とは反対側を向く第一面と、前記長手方向において前記評価部側を向く第二面とが形成されている拘束部と、を有することを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、試験片の長手方向の両端部に形成されている拘束部は、直方体状とされている。例えば、試験片の長手方向に対して直交する直交方向において、拘束部の最大長さが決められている場合がある。このような場合に、拘束部を、最大長さが決められている方向とは異なる方向に延びる直方体状とすることで、拘束部が長手方向から見て円状の場合として、第一面と第二面との面積を広げることができる。
【0015】
本発明の請求項5に係る熱疲労試験装置は、請求項1〜3の何れか1項に記載の熱疲労試験方法に用いられる熱疲労試験装置であって、試験片の長手方向において、前記試験片の両端部で評価部側とは反対側を向く第一面と対向する第一対向面と、前記試験片の両端部で前記評価部側を向く第二面と対向する第二対向面と、が形成されている治具と、前記第一面と前記第一対向面との間、及び前記第二面と前記第二対向面との間に生じた隙間を埋めて、前記両端部を前記治具に拘束させる複数のシム部材と、前記両端部が治具に拘束されている状態で、加熱、冷熱を繰り返す加熱冷却試験機と、を備えることを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、シム部材が試験片の第一面と治具の第一対向面との間、及び試験片の第二面と治具の第二対向面との間に生じた隙間を埋めることで、両端部が治具に拘束されている。これにより、試験片の伸縮方向に対して直交する方向から、試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで試験片の両端部を治具に拘束する場合と比して、試験中に試験片の拘束が緩むのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試験片の伸縮方向に対して直交する方向から、試験片の両端部にV字形の刃を圧入することで試験片の両端部を治具に拘束する場合と比して、試験中に試験片の拘束が緩むのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、及び治具を示した分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、シム部材及び治具を示した一部分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、シム部材及び治具を示した斜視図である。
図4】(A)(B)本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、及び治具を示した断面図である。
図5】(A)(B)本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、シム部材及び治具を示した断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片、及び治具を示した正面図である。
図7】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片を示した正面図、側面図、平面図、及び底面図である。
図8】(A)(B)本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる加熱冷却試験機を示した斜視図である。
図9】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片及び治具に用いられる熱膨張量をグラフで示した図面である。
図10】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法の加熱、冷却条件をグラフで示した図面である。
図11】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法において、試験片の熱ひずみをグラフで示した図面である。
図12】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に対する比較形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片及び熱疲労試験装置を示した分解側面図である。
図13】本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法に対する比較形態に係る熱疲労試験方法に用いられる試験片及び熱疲労試験装置を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(全体構成)
本発明の実施形態に係る熱疲労試験方法、試験片、及び熱疲労試験装置の一例について図1図13を用いて説明する。なお、図中に示す矢印Hは、熱疲労試験方法に用いられる治具の上下方向であって鉛直方向を示し、矢印Dは、治具の奥行方向であって水平方向を示し、矢印Wは、治具の幅方向であって水平方向を示す。なお、熱疲労試験では、評価対象である長尺状の試験片の両端部を、試験片と熱膨張係数(線膨張係数)の異なる治具に拘束させ、加熱、冷却を繰り返す。そして、試験片と治具との熱膨張差により生じる熱ひずみ(試験片の長手方向における伸縮を拘束することにより生じる)を、試験片において両端部の間に形成されている評価部に集中させ、この評価部が破断したときの加熱、冷却のサイクル数によって、試験片の熱疲労寿命を求める。
【0020】
先ず、本実施形態の熱疲労試験方法に用いられる試験片10、及び熱疲労試験装置30について説明する。なお、試験片10については、熱疲労試験装置30を構成する治具32に拘束される姿勢で説明する。
【0021】
〔試験片10〕
試験片10は、アルミニウム合金(JIS−AC2B)を用いて形成されており、図7に示されるように、上下方向に延びる長尺状とされている。また、このアルミニウム合金の熱膨張係数は、21.5×10−6〔/K〕である。図9のグラフには、アルミニウム合金の熱膨張曲線が示されている。このグラフの横軸は温度〔℃〕で、縦軸は熱膨張率〔%〕である。温度の上昇に従って、熱膨張量が増加しているのが分かる。
【0022】
また、奥行方向、及び幅方向から見て、試験片10は、図7に示されるように、試験片10の重心G1を通り上下方向に延びる直線C1に対して、幅方向、及び奥行方向で対称の形状とされている。さらに、奥行方向、及び幅方向から見て、試験片10は、重心G1を通り幅方向に延びる直線C2、及び重心G1を通り奥行方向に延びる直線C3に対して上下方向で対称の形状とされている。
【0023】
本実施形態では、試験片10の上下方向の長さ(図中L1)が、64〔mm〕とされている。そして、試験片10は、上下方向(長手方向)の両端部に夫々形成されている拘束部12と、上下方向の中央部に形成されている評価部14と、評価部14と拘束部12とを連結する連結部16とを有している。
【0024】
評価部14は、上下方向に延びる円柱状とされており、拘束部12、及び連結部16と比して断面積が小さくされている。本実施形態では、直径(図中E1)が4〔mm〕とされ、長さ(図中E2)が6〔mm〕とされている。そして、評価部14の断面積は、12.6〔mm〕とされている。
【0025】
拘束部12は、直方体状とされており、本実施形態では、上下方向の長さ(図中L2)が5〔mm〕とされ、幅方向の長さ(図中L3)が12〔mm〕とされ、奥行方向の長さ(図中L4)が10〔mm〕とされている。
【0026】
この拘束部12には、上下方向(試験片10の長手方向)において評価部14側とは反対側を向く第一面12Aと、上下方向において評価部14側を向く第二面12Bとが夫々形成されている。この第二面12Bは、連結部16によって分割されており、一対形成されている。
【0027】
そして、第一面12Aの面積は、120〔mm〕とされ、一対の第二面12Bの面積は、60〔mm〕とされている。つまり、第一面12Aの面積、及び一対の第二面12Bの面積は、評価部14の断面積と比して大きくされている。換言すると、評価部14の断面積は、拘束部12の断面積と比して小さくされている。
【0028】
連結部16は、断面積が拘束部12と比して小さくされている。そして、連結部16は、拘束部12から評価部14側に延びている直方体状の直方体部16Aと、直方体部16Aと評価部14との間に形成され、断面が徐々に変化している徐変部16Bとを有している。本実施形態では、直方体部16Aの幅方向の長さ(図中L5)が6〔mm〕とされ、直方体部16Aの奥行方向の長さ(図中L4)が10〔mm〕とされている。
【0029】
〔熱疲労試験装置30〕
熱疲労試験装置30は、試験片10を拘束するための治具32と、シム部材40、46と、試験片10及び治具32に対して加熱、冷却を繰り返す加熱冷却試験機60とを備えている。
【0030】
−治具32−
治具32は、Incoloy904合金(商品名HRA904、日立金属社製)を用いて形成されており、図1に示されるように、上下方向に延びる長尺状とされている。また、Incoloy904合金の熱膨張係数は、3.0×10−6〔/K〕である。つまり、治具32は、試験片10に用いられている材料に比べて低い熱膨張係数の材料で形成されている。図9のグラフには、Incoloy904合金の熱膨張曲線が示されている。このグラフから、Incoloy904合金は、アルミニウム合金に比して、熱膨張率が広い温度範囲において低いことが分かる。
【0031】
この治具32は、奥行方向、及び幅方向から見て、治具32の重心G2を通り上下方向に延びる直線C10に対して、幅方向、及び奥行方向で対称の形状とされている(図1参照)。さらに、奥行方向、及び幅方向から見て、治具32は、重心G2を通り幅方向に延びる直線C20、及び重心G2を通り奥行方向に延びる直線C30に対して、後述する第一対向面36A、及び第二対向面36Bの傾斜を除き、上下方向で対称の形状とされている(図1参照)。
【0032】
そして、治具32は、図1に示されるように、上下方向に延びる直方体状のブロックに試験片10が配置される空間34が形成された部材である。本実施形態では、治具32の上下方向の長さ(図中L11)が78〔mm〕とされ、幅方向の長さ(図中L12)が22〔mm〕とされ、奥行向の長さ(図中L13)が10〔mm〕とされる。また、空間34の上下方向の長さ(図中L14)が、68〔mm〕とされている。
【0033】
空間34は、上下方向に延び、奥行方向に貫通している。そして空間34は、試験片10の拘束部12が配置される一対の第一空間36と、一対の第一空間36の間に形成されている第二空間38とを有している。
【0034】
第一空間36は、幅方向に延びている直方体状とされており、本実施形態では、第一空間36の幅方向の長さ(図中L15)が、12〔mm〕とされ、上下方向の長さ(図中L16)が9〔mm〕とされている。
【0035】
この第一空間36は、試験片10が空間34に配置された状態で、試験片10の拘束部12の第一面12Aと対向する第一対向面36Aと、試験片10の拘束部12の第二面12Bと対向する一対の第二対向面36Bとを含んで形成されている。
【0036】
また、第一対向面36Aは、図4(A)に示されるように、幅方向から見て、奥行方向の奥側の部分が、奥行方向の手前側の部分に比して下方に位置するように、奥行方向に対して傾斜している。同様に、第二対向面36Bは、幅方向から見て、奥行方向の奥側の部分が、奥行方向の手前側の部分に比して下方に位置するように、奥行方向に対して傾斜している。そして、第一対向面36A、及び第二対向面36Bの勾配(水平面に対する傾きの度合)は、1/100とされている。なお、図中に示す勾配については、容易に勾配が理解できるように誇張している。
【0037】
そして、図4(B)に示されるように、試験片10を治具32の空間34に配置して、試験片10の重心G1と治具32の重心G2とを重ねた状態で、試験片10の拘束部12の第一面12Aと、第一対向面36Aとの間に隙間が生じている。さらに、試験片10の拘束部12の第二面12Bと、第二対向面36Bとの間に隙間が生じている。これらの隙間の上下方向の距離は、約2〔mm〕とされている。
【0038】
さらに、第一対向面36Aにおいて、試験片10の第一面12Aと対向する部分の面積は、120〔mm〕とされ、一対の第二対向面36Bにおいて、試験片10の第二面12Bと対向する部分の面積は、60〔mm〕とされている。
【0039】
また、第二空間38は、図1に示されるように、上下方向に延びている直方体状とされている。本実施形態では、第二空間38の幅方向の長さ(図中L17)が6.4〔mm〕とされている。なお、幅方向において、試験片10と治具32との間には、0.2〔mm〕程度のクリアランスが設けられている。
【0040】
−シム部材40、46−
シム部材40は、板状の部材で2個設けられており、図2図3に示されるように、上下方向から見て、矩形状とされている。また、シム部材40は、試験片10の第一面12Aと治具32の第一対向面36Aとの間に配置されている。さらに、シム部材40において第一対向面36A側の板面40Aの勾配は、反対側の面に対して1/100とされており、図5(A)(B)に示されるように、幅方向から見て、第一対向面36Aと面で接触するように傾斜している。そして、シム部材40は、第一面12Aと第一対向面36Aとの間に生じた隙間を埋めている。
【0041】
本実施形態では、シム部材40は、図2に示されるように、幅方向の長さ(図中L21)が12〔mm〕とされ、奥行方向の長さ(図中L22)が15〔mm〕とされ、厚さが約2〔mm〕とされている。
【0042】
シム部材46は、板状の部材で2個設けられており、図2図3に示されるように、上下方向から見て、奥行方向の一方側が開放されているU字状とされている。また、シム部材46は、試験片10の第二面12Bと治具32の第二対向面36Bとの間に配置されており、幅方向から試験片10の連結部16を挟んでいる。さらに、シム部材46において第二対向面36B側の板面46Aの勾配は、反対側の面に対して1/100とされており、図5(A)(B)に示されるように、幅方向から見て、第二対向面36Bと面で接触するように傾斜している。そして、シム部材46は、第二面12Bと第二対向面36Bとの間に生じた隙間を埋めるようになっている。
【0043】
本実施形態では、シム部材46は、図2に示されるように、幅方向の長さ(図中L25)が12〔mm〕とされ、奥行方向の長さ(図中L26)が17〔mm〕とされ、厚さが約2〔mm〕とされている。
【0044】
−加熱冷却試験機60−
加熱冷却試験機60は、所謂ヒートサイクル試験機であって、高温と低温の温度変化を試験片に負荷し、温度変化に対する試験片の耐久性を短時間で評価するために用いられる。
【0045】
加熱冷却試験機60は、図8(A)(B)に示されるように、内部の試験槽62を開放、及び閉止するドア64を備えており、ドア64を操作して試験槽62を開放した状態で、試験片10を拘束している治具32を試験槽62に入れるようになっている。そして、ドア64を操作して試験槽62を閉止した状態で、加熱冷却試験機60は、試験片10を拘束している治具32に対して加熱、冷熱を繰り返すようになっている。
【0046】
〔熱疲労試験方法〕
次に、熱疲労試験方法について、比較形態に係る熱疲労試験方法と比較しつつ説明する。先ず、比較形態に係る熱疲労試験方法に用いる試験片及び熱疲労試験装置について、本実施形態の試験片10及び熱疲労試験装置30と異なる部分を主に説明する。
【0047】
図12に示されるように、比較形態に係る熱疲労試験方法に用いる試験片110の両端部に形成された拘束部112は、上下方向に延びる直方体状とされている。そして、拘束部112は、評価部14側を向く面を有しておらず、幅方向を向く一対の拘束面112Aを有している。また、拘束部112には、幅方向に貫通した断面円状の貫通孔112Bが形成されている。
【0048】
比較形態に係る熱疲労試験方法に用いる熱疲労試験装置130は、一対の治具132と、2個のボルト140と、2個のナット146とを備えている。
【0049】
治具132は、上下方向に延びる長尺状とされ、治具132の両端部には、上下方向に延びる直方体状の押圧部134が夫々形成されている。そして、押圧部134は、拘束部112の拘束面112Aと対向する押圧面134Aを有しており、この押圧面134Aには、複数のV字形の刃136が形成されている。さらに、押圧部134には、幅方向に貫通した断面円状の貫通孔134Bが形成されている。
【0050】
ボルト140のネジ径は、貫通孔112Bの孔径、及び貫通孔134Bの孔径と比して小さくされている。
【0051】
そして、夫々のボルト140を、幅方向の一方側から、一方の治具132の押圧部134に形成された貫通孔134B、及び試験片110の拘束部112に形成された貫通孔112Bに順に挿入する。さらに、夫々のボルト140を、他方の治具132の押圧部134に形成された貫通孔134Bに挿入する。そして、幅方向の他方側から、ナット146を、ボルト140に締め込む。
【0052】
これにより、図13に示されるように、拘束部112の拘束面112Aに、押圧部134の押圧面134Aを押し付けることで、押圧面134Aに形成された刃136が拘束面112Aに圧入される。そして、拘束部112の拘束面112Aに、刃136が圧入されることで、拘束面112Aが凹凸状に塑性変形する。これにより、試験片110の拘束部112が、治具132に拘束される。
【0053】
なお、刃136の拘束面112Aへの圧入は、油圧プレス等の圧縮装置で行うことがより望ましい。これにより、刃136の圧入をより深くすることで、拘束を強化することができる。その圧入後、ボルト140とナット146で固定することで、拘束の緩みを防止することができる。
【0054】
次に、本実施形態の熱疲労試験方法について説明する。
【0055】
先ず、図1に示されるように、試験片10の評価部14に、熱ひずみを測定するための歪みゲージ92を貼り付ける。なお、この歪みゲージ92は、図示せぬ測定器に電気的に接続されている。
【0056】
そして、室温(例えば22〔℃〕)状態で、図4(A)(B)、図6に示されるように、歪みゲージ92が張り付けられた試験片10を治具32の空間34に挿入する。
【0057】
さらに、図3図5(A)(B)に示されるように、試験片10の拘束部12の第一面12Aと治具32の第一対向面36Aとの間に生じた隙間にシム部材40を挿入させる。また、試験片10の拘束部12の第二面12Bと治具32の第二対向面36Bとの間に生じた隙間にシム部材46を挿入させる。これにより、試験片10の重心G1と、治具32の重心G2とを重ねる。
【0058】
具体的には、上方の拘束部12の上方及び下方に生じた隙間については、治具32の第一対向面36Aとシム部材40の板面40Aとが面で接触するように、板面40Aを上方に向けたシム部材40を、治具32に対して奥行方向の手前側から隙間に挿入させる。次に、治具32の第二対向面36Bと板面46Aとが面で接触するように、板面46Aを下方に向けたシム部材46を、治具32に対して奥行方向の奥側から隙間に挿入させる。
【0059】
さらに、下方の拘束部12の上方及び下方に生じた隙間については、治具32の第一対向面36Aと板面40Aとが面で接触するように板面40Aを下方に向けたシム部材40を、治具32に対して奥行方向の奥側から隙間に挿入させる。次に、治具32の第二対向面36Bと板面46Aとが面で接触するように板面46Aを上方に向けたシム部材46を、治具32に対して奥行方向の手前側から隙間に挿入させる。
【0060】
シム部材40、46を隙間に挿入させることで、シム部材40、46の先端及び基端が、治具32から突出し、各隙間が埋められる。これにより、試験片10の拘束部12が、治具に拘束される。つまり、本実施形態の熱疲労試験方法では、記試験片10の長手方向からシム部材40、46を拘束部12に接触させることで、試験片10の拘束部12を治具32に拘束させる(拘束工程)。
【0061】
次に、拘束部12が治具32に拘束されている試験片10及び治具32を、加熱冷却試験機60の試験槽62(図8参照)に入れる。そして、高温と低温の温度変化を試験片10及び治具32に負荷し、加熱、冷却を繰り繰り返す。本実施形態では、図10のグラフの温度波形に示されるように、温度範囲を200〔℃〕とする。さらに、高温で2〔min〕以上を保持し、低温で0.4〔min〕以上保持して、1サイクルを6〔min〕として加熱、冷却を繰り返した。
【0062】
これにより、試験片10と治具32との熱膨張差により生じる熱ひずみが、試験片10の評価部14に集中する。本実施形態では、治具32の熱膨張係数が、試験片10の熱膨張係数と比して小さいため、加熱時(高温時)には、相対的に評価部14が上下方向(長手方向)に圧縮され、冷却時(低温時)には、相対的に評価部14が上下方向(長手方向)に引っ張られる(伸縮拘束工程)。
【0063】
ここで、本実施形態では、前述したように、上記試験片10の長手方向からシム部材40、46を拘束部12に接触させることで、試験片10の拘束部12を治具32に拘束させている。
【0064】
一方、比較形態の熱疲労試験方法においては、前述したように、幅方向から試験片110の拘束部112に、治具132の押圧部134を押し付けることで、押圧面134Aに形成された刃136が拘束面112Aに圧入される。そして、拘束部112の拘束面112Aに、刃136が圧入されることで、拘束面112Aを凹凸状に塑性変形させる。これにより、試験片110の拘束部112を治具132に拘束させる。つまり、比較形態の熱疲労試験方法では、試験片110の伸縮方向(上下方向)に対して直交する方向(幅方向)から、押圧面134Aに形成された刃136を拘束面112Aに圧入させることで試験片110を治具132に拘束させている。
【0065】
このため、伸縮拘束工程で、試験片110が上下方向に伸縮しようとする際に作用する力で、拘束面112Aの凹凸状の凹部が上下方向に広がってしまう。この凹部の広がりにより、試験中に試験片110の拘束が緩んでいた。
【0066】
図11には、加熱、冷却サイクルに伴う本実施形態の試験片10の評価部14のひずみの変化がグラフで示されている。横軸は、加熱、冷却サイクル数を示し、縦軸は、各サイクルにおける冷却終了時及び加熱終了時のピーク値の差である全ひずみ範囲〔%〕を示している。
【0067】
試験中に拘束部12の拘束が緩むと全ひずみ範囲が減少するが、本実施形態では、試験中に全ひずみ範囲が減少していないことから、拘束部12の拘束が緩んでいないものと考えられる。なお、破断直前に全ひずみ範囲が急上昇しているのは、評価部14に亀裂が生じたためと考えられる。
【0068】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態では、試験片10の長手方向からシム部材40、46を拘束部12に接触させることで、試験片10の拘束部12を治具32に拘束している。このため、比較形態に係る熱疲労試験方法と比して、試験片の拘束が緩むのを抑制することができる。
【0069】
また、上記実施形態では、上下方向において、試験片10の拘束部12と、治具32との間に生じた隙間にシム部材40、46を挿入させることで、上下方向における隙間を埋めている。このため、試験片10の上下方向の長さ、及び治具32の上下方向の長さが、ばらついた場合でも、試験片10の拘束部12を治具32に拘束することができる。
【0070】
また、上記実施形態の拘束工程では、上方の拘束部12において、第一面12Aと第一対向面36Aとの間の隙間を埋めるシム部材40を、第二面12Bと第二対向面36Bとの間の隙間に挿入させるシム部材46の挿入方向に対して反対の方向から挿入させる。同様に、下方の拘束部12において、第一面12Aと第一対向面36Aとの間の隙間を埋めるシム部材40を、第二面12Bと第二対向面36Bとの間の隙間に挿入させるシム部材46の挿入方向に対して反対の方向から挿入させる。このため、全てのシム部材を同じ方向から隙間に挿入させる場合と比して、拘束部12が治具32に対してシム部材40、46の挿入方向にずれてしまうのを抑制することができる。
【0071】
また、試験片10においては、拘束部12が直方体状とされている。このため、例えば、拘束部の幅方向の最大幅が決められている場合に、拘束部を奥行方向に延びる直方体状とすることで、拘束部が上方から見て円状の場合として、第一面12Aと第二面12Bの面積を広げることができる。また、例えば、拘束部の奥行方向の最大長さ決められている場合に、拘束部を幅方向に延びる直方体状とすることで、拘束部が上方から見て円状の場合として、第一面12Aと第二面12Bの面積を広げることができる。
【0072】
また、熱疲労試験装置30においては、比較形態に係る熱疲労試験装置130を用いる場合と比して、試験中に試験片10の拘束が緩むのを抑制することができる。
【0073】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、シム部材40、46を合計4個用いたが、拘束部12の一の面を治具32に直接接触させることで、シム部材40、46を合計3個用いる構成としてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、治具32の熱膨張係数が、試験片10の熱膨張係数と比して小さかったが、試験片10の熱膨張係数が、治具32の熱膨張係数と比して小さくてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、シム部材40、46に勾配を設けることで距離がばらついた隙間を埋めていたが、シム部材を何種類が準備することで距離がばらついた隙間を埋めてもよい。
【0076】
また、上記実形態に記載した試験片10の材質は、一例であって、他の材質の試験片を用いてもよい。
【0077】
また、治具32の第一対向面36A、及び第二対向面36Bの勾配の傾斜方向は、全て平行であることが望ましい。本願発明では、治具32と試験片10の隙間の勾配と、シム部材40、46の勾配とが一致することが、隙間を高精度に無くすために重要である。治具32の第一対向面36Aと第二対向面36Bとを平行にすることで、全ての面を同時に加工することが可能となる。これにより、隙間の勾配が一定になり、隙間を高精度に無くすことが可能となる。
【符号の説明】
【0078】
10 試験片
12 拘束部
12A 第一面
12B 第二面
14 評価部
30 熱疲労試験装置
32 治具
36A 第一対向面
36B 第二対向面
40 シム部材(拘束部材の一例)
46 シム部材(拘束部材の一例)
60 加熱冷却試験機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13