【解決手段】底壁1の両側に上下方向の側壁2、2を有する、地盤Gに埋設された上面開口の既設コンクリート構造物Wの非破壊診断装置A3である。その両側壁を遠ざける伸張力を付与する手段100、110、120と、伸張力を計測する手段150と、伸張力によって両側壁間の変化量Eを計測する手段140と、を備える。施設初期のコンクリート構造物の弾性域内における、伸張力を付与した際の変化量E’と、経年後のコンクリート構造物の弾性域内における、伸張力を付与した際の変化量Eとを比較し、その比較値(E’/E)から、コンクリート構造物の耐力を評価する。例えば、1≧E’/E≧0.8であれば「安全」、0.8>E’/E≧0.6であれば「経過観察」、0.6>E’/Eであれば「補修必要」と判断する。
底壁(1)の両側に上下方向の側壁(2、2)をそれぞれ有する、地盤(G)に埋設された上面開口の既設コンクリート構造物(W)の非破壊診断装置(A1、A2、A3)であって、
上記各側壁(2、2)に、その両者(2、2)間を近づける圧縮力又は両者(2、2)間を遠ざける伸張力を付与する手段(10、30)と、
その圧縮力又は伸張力を計測する手段(150)と、
上記圧縮力又は伸張力によって各側壁(2、2)への又は両側壁(2、2)間の圧縮力又は伸長力の付与前からの変化量(E)を計測する手段(20、40)と、
を有することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊診断装置。
【背景技術】
【0002】
農業用水路は、通常、底壁の両側に上下方向の側壁をそれぞれ有する上面開口のコンクリート構造物、例えば、断面U字状又は上向きコ字状の箱型溝渠用コンクリートブロックや対の断面L字状コンクリートブロックを地盤に埋設(施設)して構築される。
その各コンクリートブロックについては、その新品(施設前)の強度検査の手段は開示されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、日本全国の農業用水路は、幹線で約4万km、支線も含めると約40万kmにも及び、農業用水を農地に供給する上で不可欠の施設であり、当該水路の機能低下による水路網の断線は確実に避けなければならない。その水路の主要な建設材料は上記のコンクリートブロックであり、コンクリートは時間の経過とともに徐々に劣化が進行することで機能低下を引き起こすことが顕在化する。
我が国の農業用水路は、高度経済成長期から建設され続け、現在において施設後数十年を経たものが多くなっている。このため、将来にわたり当該農業用水路が有する機能を確保するためには、その水路の現状の診断と劣化予測に基づいた補修・補強を行う等の対策が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のコンクリート構造物の強度検査手段は、新品に係るものであって、既設のコンクリート構造物の経年的な強度検査には適用できない。
【0006】
この発明は、上記実状の下、既設のコンクリート開水路の構造安全性を評価するための手法の確立を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、この発明に係るコンクリート構造物の非破壊診断装置は、底壁の両側に上下方向の側壁をそれぞれ有する、地盤に埋設された上面開口のコンクリート構造物の非破壊診断装置において、前記両側壁に、その両者間を近づける圧縮力又は両者間を遠ざける伸張力を付与する手段と、その圧縮力又は伸張力を計測する手段と、前記圧縮力又は伸張力によって、各側壁への又は両側壁間の圧縮力又は伸長力の付与前からの変化量を計測する手段と、を有する構成を採用したのである。
【0008】
このコンクリート構造物の非破壊診断装置は、まず、上記圧縮・伸長力の付与手段により、上記両側壁に、その両者間を近づける圧縮力又は両者間を遠ざける伸張力を付与し、その圧縮力又は伸張力を計測するとともに、前記圧縮力又は伸張力によって各側壁への又は両側壁間の圧縮力又は伸長力の付与前からの変化量(撓み量)を計測する。
つぎに、例えば、施設前又は施設初期の上記コンクリート構造物の弾性域内における、上記の圧縮力又は伸張力を付与した際の上記各側壁又は両側壁間の変化量と、経年後の前記コンクリート構造物の弾性域内における、前記の圧縮力又は伸張力を付与した際の前記変化量とを比較し、その比較値から、当該コンクリート構造物の耐力を評価する。
このとき、各側壁の変化量の測定は各側壁の耐力評価となり、両側壁間の変化量の測定は両側壁間の状態の耐力評価となる。また、上記施設初期とは、コンクリート構造物を地盤に施設(埋設)後、又は補修後、劣化が生じない期間、例えば、その後の一ヶ月以内を言う。
【0009】
なお、上記コンクリート構造物の非破壊診断装置において、上記圧縮力又は伸張力の付与手段、その圧縮力又は伸張力を計測する手段、及びその圧縮力又は伸張力によって各側壁又は両側壁間の変化量を計測する手段を、上記コンクリート構造物の底壁表面を走行する台車に備え、その台車を底壁表面に走行させつつ、上記各計測を連続的に行って上記コンクリート構造物の耐力を評価することができる。その連続的には、所要間隔をもって走行してその都度計測する場合も含む。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、以上のように構成したので、既設水路等の既設のコンクリート構造物において、その現地での測定直後に評価結果を得ることができる。また、弾性域内の試験であって、非破壊試験であるため、試験後の現状復旧などを特に必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明に係るコンクリート構造物の非破壊診断装置の実施形態の概略を
図1、
図2に示し、この実施形態の非破壊診断装置は、底壁1の両側に上下方向の側壁2、2をそれぞれ有する、地盤Gに埋設された上面開口のコンクリート構造物(ブロック)からなる既設の農業用水路Wに適用される。
【0013】
その一実施形態の非破壊診断装置A1を
図1に示し、両側壁2、2間を近づける圧縮力及び両者間を遠ざける伸張力を付与する手段10と、その圧縮力又は伸張力によって両側壁2、2間の変化量(側壁2の撓み量)Eを計測する手段20を有する。
圧縮伸張手段10は、油圧シリンダ11を介設した横杆12と、その横杆12の両端の逆コ字状のフック13とからなり、そのフック13を側壁2の上部に嵌めることによってこのブロック(水路W)に取付けられる。
計測手段20は、同様に横杆21の両端に変位計22、22を設けたものであり、
図1に示すように、両側壁2、2間に架設した際、上記圧縮伸張手段10の伸張程度では、その架設状態が維持されるように、バネによって緊張力が付与されて、両側壁2、2間から落下することなく、その両側壁2、2間の距離変化(変化量)Eを前記変位計22、22が測定する。両端に変位計22を設けたのは、各側壁2の劣化状況が異なるため、その変位を個別に測定するためである。
【0014】
この非破壊診断装置A1は、両側壁2、2の上部に圧縮伸張手段10及び計測手段20を配置し、油圧シリンダ11を伸縮させ、両側壁2、2を外面方向に広げたり、同内面方向に狭めたりし、その伸縮度に応じた両側壁2、2間の変形量(撓み)Eを計測する。その計測は、水路Wの長さ方向の適宜個所で行う。
なお、圧縮力又は伸張力(荷重)は油圧シリンダ11への油圧値で測定する。この実施形態は、両側壁2、2間の変化量の測定であるから、変位計22は一方のみでも良い。また、油圧シリンダ11に代えて、ねじジャッキ等を採用できる(
図3〜
図5参照)。
【0015】
他の実施形態の非破壊診断装置A2を
図2に示し、同様に、両側壁2、2間を近づける圧縮力又は両者間を遠ざける伸張力を付与する手段30と、その圧縮力又は伸張力によって両側壁2、2間の変化量(撓み量)を計測する手段40を有する。さらに、この実施形態においては、その圧縮伸長手段30及び計測手段40はタイヤ51で走行可能な台車50に支持されている。台車50は人力や各種の駆動機によって走行する。
圧縮伸張手段30は、油圧シリンダ31を介設した横杆32からなり、計測手段40は、同様に横杆41の両端に変位計42、42を設けたものであり、
図2に示すように、同様に、両側壁2、2間に架設した際、圧縮伸張手段30の伸張程度では、その架設状態が維持されるように、バネによって緊張力が付与されて、両側壁2、2間から落下することなく、その両側壁2、2間の距離変化(変化量E)を前記変位計42、42が測定する。
【0016】
この非破壊診断装置A2も、同様に、両側壁2、2の上部に圧縮伸張手段30及び計測手段40を配置し、油圧シリンダ31を伸縮させ、両側壁2、2を外面方向に広げたり、同内面方向に狭めたりし、その伸縮度に応じた両側壁2、2間の変形量(側壁2の撓み量)Eを計測する。
この非破壊診断装置A2の場合、その計測は、台車50を走行させることによって水路Wの長さ方向の適宜個所で行ったり、連続して行ったりすることができる。
なお、この実施形態も、両側壁2,2間の変化量の測定であるから、変位計42は一方のみでも良い。また、油圧シリンダ31に代えて、ねじジャッキなど、例えば、下記の非破壊診断装置A3の圧縮力及び伸張力を付与する手段100、伸縮操作手段110、伸縮機構120を採用することもできる。
【0017】
上記両実施形態の非破壊診断装置A1、A2は両側壁2、2間の変化量の測定であったが、各側壁2のそれぞれの変化量を測定する場合は、前者の非破壊診断装置A1は、
図1鎖線で示すように、横杆21を支持杆23、固定片24を介して底壁1にビス止めし、支持杆23に対して横杆21を不動にする。
また、後者の非破壊診断装置A2は、台車50に移動ロック機構を設け、そのロック機構によって台車50に対して横杆41を不動にする。
このようにすると、両端の変位計22、22、42、42が各側壁2,2の圧縮力又は伸長力の付与前からの変化量(撓み量)をそれぞれ計測する。
【0018】
図3〜
図5には、上記非破壊診断装置A1の具体的な実施形態を示し、同一符号は同一物を示す。この実施形態の非破壊診断装置A3は、両側壁2、2間を近づける圧縮力及び両者間を遠ざける伸張力を付与する手段(圧縮伸長手段)100と、その圧縮力又は伸張力によって両側壁2、2間の変化量(側壁2の撓み量)Eを計測する手段(変化量計測手段)140と、を有する。
圧縮伸張手段100は、その伸縮操作手段110と、伸縮機構120と、側壁2の挟持手段130とを有する。
【0019】
伸縮操作手段110は、ブロック枠111上部に回転軸112が設けられ、その端に把手113a付の丸ハンドル113が固定されている。回転軸112にはピニオン114が設けられて、このピニオン114にタイミングベルト(歯付ベルト)115をかける。
【0020】
伸縮機構120は、対の三角形隔板121a、121b及び同121c、121dと、それらを連結するそれぞれ3本対のシャフト(軸)122a、122b、122c及び同122d、122e、122fと、ねじシャフト(軸)123と、そのねじシャフト123に固定された大歯車124とからなる。この大歯車124と上記ピニオン114の間に上記タイミングベルト115が架け渡され、上記ハンドル113を回すと、ピニオン114、タイミングベルト115、大歯車124を介してねじシャフト123が回転する。ねじシャフト123は隔板121cのねじナット123aにねじ込まれており、ねじシャフト123が回転すると、その軸方向にねじナット123aを介して隔板121cが移動する。
【0021】
一方の対のシャフト122a、122b、122c又は他方の対のシャフト122d、122e、122fは、一方の対の隔板121a、121b又は他方の対の隔板121c、121dにその端がそれぞれ固定され、前者のシャフト122a、122b、122cは他方の隔板121c、121dの一方に軸受125を介して移動可能に貫通し、後者のシャフト122d、122e、122fは一方の隔板121a、121bの一方に軸受125を介して移動可能に貫通している。このため、一の対の隔板121a、121bと他方の対の隔板121c、121dは、その対の隔板同士の間隔を保った状態で接離する。すなわち、両端の隔板121aと121dはその間隔Lが拡がったり、狭まったり(伸縮)する。この伸縮は、ねじシャフト123の正逆回転による、
図4の実線と鎖線で示す、隔板121cの移動によって行われる。
【0022】
上記伸縮機構120の大歯車124を設けた隔板121dの外側にはシャフト126を介して固定板127が固定されており、その固定板127にロードセル(計測手段)150が固定されている。このロードセル150によって、ハンドル113の正逆回転に応じた伸縮機構120の伸縮に基づく、両側壁2、2間に加えられた荷重を測定する。
【0023】
側壁2の挟持手段130は、断面逆コ字状ブロック131と、そのブロック131にねじ込まれた押圧子132とを有する。その押圧子132は両ブロック131の両側(
図4において上下)及び前後(同左右)にそれぞれ二個設けられている。このため、対のブロック131をそれぞれ側壁2、2に嵌め、押圧子132を側壁2の側面に圧接することによって、挟持手段130は側壁2に強固に固定される。
この挟持手段130のブロック131には、連結材133を介して伸縮機構120の端の隔板121a及び固定板127がロードセル150を介して連結されている。その隔板121aの連結材133は、屈曲可能となって、側壁2に対する伸縮機構120の直線上のずれを吸収する。固定板127側の連結材133も屈曲可能とすることができる。
【0024】
両側壁2、2間の変化量(側壁2の撓み量)Eを計測する手段140は、側壁2に嵌められるコ字状治具141と、その一方(
図3において左側)の治具141に固定され、他方の治具141(同右側)にその軸方向移動自在に支持された検知棒142と、その検知棒142と側壁2との間に介在された変位計143と、を有する。
変位計143は、治具141に固定の本体143aと、その本体143aに進退自在の検知杆143bとからなり、検知棒142に固定の片142aの移動による検知杆143bの進退量を本体143a内のセンサで計測して変位量を測定する。すなわち、変位計143は側壁2に対する検知棒142の移動量を検出して両側壁2、2間の間隔変位量Eを測定する。
【0025】
この実施形態の非破壊診断装置A3は、両側壁2、2間の耐力測定であったが、各側壁2それぞれの耐力測定の場合は、
図1の鎖線のように、検知棒142を底壁1に固定するとともに、両側壁2に変位計143をそれぞれ設ける。
【0026】
水路Wの経年耐力の測定は、前もって、この非破壊診断装置A1〜A3によって、
図6に示す、この水路Wのコンクリート構造物(ブロック)の施設前(設置前)又は地盤Gに埋設した初期状態(新品状態)における、油圧シリンダ11、31又は伸縮機構120等の伸縮量(荷重W)に応じた両側壁2、2間又は各側壁2、2の変化量E’を測定し、その伸縮量に対する両側壁2、2間又は各側壁2、2の変化量(変位)の関係を求めておく。
その弾性領域内において、この変化量E’と上記変化量Eを比較し、E’/Eを求める。このE’/Eの安全等の度合は、実験や経験則によって適宜に設定すれば良いが、例えば、1≧E’/E≧0.8であれば「安全」、0.8>E’/E≧0.6であれば「経過観察」、0.6>E’/Eであれば「補修必要」と判断する。その変化量Eの取得及び比較(E’/E)等はこの装置に設けた制御器等によって行う。補修必要と判断されれば、当該水路Wの補修・補強を行う。
この測定は、施設後のみならず、補修・補強後も定期的に行う。
【0027】
以上の説明から、この非破壊診断装置A1〜A3、特にA3は、50kg程度の重量とすることが可能であり、人力による運搬や移動が可能である。また、駆動源は人力又は油圧であることから、必要な電源は、変化量E、E’等のデータ採取に係るロガー機器などに用いるバッテリー機器のみである。このため、少人数かつ簡易な測定資機材で水路(構造物)Wの安定性(耐力)の評価(診断)を実施することができる。
また、埋設開水路の定量的な安全性評価方法を確立できるため、ストックマネジメントにおける適切な対策の選定が可能となり、水路Wの高寿命化を実現することができる。さらに、その対策後(補修や補強後等の更新工事後)においても、この装置A1、A2、A3による水路Wの耐力モリタリングを行うことによって将来にわたり水路Wの安定的な安全性評価を行うことができる。
【0028】
なお、非破壊診断装置A1、A3は、水路W内に装置が入らず、水位より上方に設置し得るため、非灌漑期のみならず、灌漑期においても、水路Wの耐力測定が可能である。但し、非破壊診断装置A2も、灌漑期においては、水路W内の水をなくせばその耐力測定が可能である。また、両側壁2、2間の変化量Eは伸縮機構120又は油圧シリンダ11の伸縮量で測定することもできる。その際、その伸縮は伸縮ロッド等の動き量を各種のセンサによって測定する。
但し、この非破壊診断装置A1、A3も台車50に備えて移動可能にすることができる。
【0029】
コンクリート構造物は、農業用水路に限らず、工業用水路等の底壁の両側に上下方向の側壁をそれぞれ有するもの等においても、この発明は採用できることは勿論である。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。