本発明は、樹脂基板を含む半導体パッケージを実装する際に生じる反りに起因するオープン不良の発生を防止し、強固な接合が持続できる接合技術を提供することを課題とする。
本発明は、オープン不良の原因となる、リフロー時の樹脂基板の反りを抑制するため、樹脂基板を構成する樹脂のガラス転移温度に注目し、ハンダとして該ガラス転移温度より固相線温度が低い材料であるスズ−ビスマスを含むハンダ組成物を用いる。またリフロー時にスズ−ビスマスと、バンプ材料との相互拡散を促し、最終的に接合後のハンダの組成を変化させる。これによりスズ−ビスマスにおけるビスマスの含有量を変化させて脆弱性を改善する。
樹脂基板の一方の面に半導体チップを固定し、他方の面に複数のバンプを形成した半導体パッケージと、前記バンプに対応して、ハンダ組成物でハンダ部が形成された基板とをリフローによって接合する方法であって、
前記ハンダ組成物は、前記樹脂基板を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度を有し、且つスズとビスマスとを含み、
前記バンプと前記ハンダ部とを当接させた状態で前記固相線温度以上且つ前記樹脂基板の変形により前記バンプと前記ハンダ部との当接が離れる温度未満まで加熱するステップと、
前記加熱状態を維持し、前記バンプを構成する金属および前記ハンダを構成する金属の相互拡散によって前記ハンダ中のビスマスの含有量を低下させるステップと、を含むリフロー接合方法。
樹脂基板上に半導体チップを実装した半導体パッケージと、プリント基板とが、前記半導体パッケージに形成されたバンプと、前記プリント基板に形成されたハンダ部とによって接合された電子回路基板であって、
前記ハンダ部は、スズとビスマスとを含み、
前記バンプと前記ハンダ部とによって形成された接合部は、少なくともその接合方向の中間において、ビスマスの含有量が前記ハンダ部におけるビスマスの含有量より減少している領域を有し、
前記接合部の前記ビスマスの含有量は、54重量%未満であることを特徴とする電子回路基板。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは、通常、封止材やインタポーザーに固定された半導体パッケージとして、供給されており、電子回路の組み立ては、このような半導体パッケージをプリント基板に実装して行われる。半導体パッケージには多くの種類があり、中でもパッケージ底面にハンダのバンプや電極パッドを配置したBGAやLGA(ランドグリッドアレイ)は、パッケージの外側にリードなどが張り出さないため、実装面積を小さくでき、高密度化が要求される用途に多用されている。
【0003】
このような形態の半導体パッケージは、インタポーザーと呼ばれる樹脂製の基板(樹脂基板)の上に半導体チップを固定し、樹脂基板の裏面に半導体チップの電極と電気的に接続された金属バンプが形成された構造を有しており、プリント基板への実装は、ハンダを用いたリフロー接合で行われる。
【0004】
バンプとハンダとをリフロー接合する場合、リフロー温度はバンプおよびハンダが溶融する温度に設定される。バンプはボール状のハンダを溶融して形成されるため、比較的低融点のものが用いられるものの、通常、リフロー温度は200度以上となる。一方、半導体パッケージを構成する樹脂基板には、ガラス繊維含有エポキシ樹脂等の高耐熱性の材料が用いられているが、最近の電子材料の薄型化に伴い樹脂基板も薄くなる傾向にある。このような樹脂基板3が、上述したリフロー温度に曝されると、
図1(a)および(b)に示すように、凹状(
図1(a)参照)あるいは、凸状(
図1(b)参照)に変形する場合がある。なお、
図1(b)は、樹脂基板のバンプとプリント基板のハンダとを省略している。例えば、
図1(a)に示す凹状の反りが生じる場合、樹脂基板3の端部に位置するバンプ4と、それに対応するプリント基板側のハンダ部6とが接合しない或いは接合不足になる、所謂オープン不良の問題が生じる。
図1(b)に示す凸状の反りの場合には、樹脂基板の中央付近でオープン不良が生じやすい。このようなオープン不良の例として、
図1(a)の矢印Aで示すノン・ウェット・オープン(NWO)および矢印Bで示す枕不良(Head in pillow)が挙げられる。NWOは、加熱時にバンプ4に固相拡散しているハンダ6が、反り度合いが次第に大きくなる樹脂基板3によりバンプ4とともに持ち上げられることでプリント基板7からはがれ、冷却時にバンプ4に接着したままで冷却されるために発生する。一方、枕不良は、加熱時に大きく反り上がる樹脂基板3により、バンプ4とハンダ6とが離れてしまい、冷却時に樹脂基板3がもとの形に戻っても、バンプ4が酸化しているまたはハンダ6が固化していることから、バンプ4とハンダ6とが融合できないために発生する。
【0005】
この問題に対しては、低融点ハンダを用いることが考えられる。例えば、スズ−ビスマス合金からなるハンダは、ビスマスが特定の含有量のときに融点が150℃以下になる低融点ハンダとして知られている(例えば特許文献1)。しかしこの低融点ハンダは、ビスマスの含有量が大きいと脆いという欠点があり、機械的な衝撃に弱く、半導体チップとプリント基板との接合が不安定になるという問題がある。従って、例えば携帯電話機等の携帯電子機器など衝撃を受けやすい機器や振動を受けやすい場所に設置される電子機器には適していない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実装方法の実施形態を説明する。本明細書において、スズおよびビスマスの含有量はエネルギー分散型X線分析装置で測定した結果から算出される値である。
まず、
図2を用いて、本発明の実装方法に用いる材料である、半導体パッケージ5、プリント基板7、およびハンダ部6を構成するハンダ組成物について説明する。
【0013】
図2(b)に示すように、半導体パッケージ5は、樹脂基板3と、樹脂基板3の一方の面に固定されている半導体チップ2と、他方の面に形成されている複数のバンプ4を備える。
【0014】
半導体チップ2は、集積回路を備え、ワイヤボンディング(不図示)により半導体チップのパッド(不図示)と樹脂基板3のフィンガー部分(不図示)とが電気的に接続されている。フィンガー部分とバンプ4はスルーホール(不図示)により接続されている。
【0015】
樹脂基板3は、エポキシ樹脂またはビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂を使用することができる。樹脂基板3の例としてガラスエポキシ基板(ガラス転移温度140℃)、エポキシ基板(ガラス転移温度140℃)およびBT基板(ガラス転移温度180℃)が挙げられる。
【0016】
バンプ4は、半導体パッケージ5の外部端子の機能を有し、半導体パッケージの実装の際にハンダ部6でプリント基板7にはんだ付けされる。
バンプ4を構成する合金は、スズを含むことが好ましい。これにより、溶融したハンダ部6にバンプ4が溶解したとき、バンプ4に含まれるスズでハンダ部6に含まれるビスマスを希釈することができる。また、バンプ4を構成する合金は、スズに加えて、銀(Ag)および銅(Cu)からなる群から選択される金属の一以上を含んでよい。合金としてスズを含むバンプの例としては、Sn96.5重量%−Ag3.0重量%−Cu0.5重量%が挙げられる(合金を表す表記では、以後重量%は省略する。)。
【0017】
上述した半導体パッケージ5としては、具体的には、BGA、またはCSP(チップサイズパッケージ)を使用することができる。
【0018】
プリント基板7は、半導体パッケージ5などの部品を搭載するとともに部品相互の電気的接続を行うものであり、プリント基板7の表面および裏面には銅製の配線やフットプリントが形成されている。
プリント基板7として樹脂基板を使用することができる。樹脂基板は特に限定されないが、上述した半導体パッケージ5の樹脂基板3と同様のものを使用することができる。
【0019】
ハンダ組成物は、樹脂基板3を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度を有する。これにより、加熱温度がガラス転移温度付近に到達したときハンダ組成物は溶融できる。このようなハンダ組成物の材料として、スズとビスマスとを含む合金を用いる。これらの金属の含有量は、合金中スズが40〜50重量%およびビスマスが50〜60重量%であることが好ましい。スズとビスマスとの合金の例としては、Sn42−Bi58(固相線温度139℃)が挙げられる。
【0020】
また、必要に応じて、スズとビスマスとを含む合金中に、銀(Ag)、銅(Cu)、アンチモン(Sb)およびニッケル(Ni)から選択される金属の一以上を添加してよい。これらの金属を添加する場合、スズ、ビスマス、および添加した金属で構成された合金中に2重量%以下の添加量が好ましい。このような金属の例としては、Sn42−Bi57.6−Ag0.4(固相線温度138℃)が挙げられる。
なお、環境汚染の観点から、ハンダ組成物に含まれる合金には鉛は含まれない。
【0021】
ハンダ組成物は、ペースト状として使用してよい。ペースト状の場合、ハンダ組成物は、さらに、フラックスを含むことが好ましい。この場合、ハンダ組成物中、上述した合金が85〜90重量%およびフラックスが10〜15重量%であることが好ましい。フラックスの例としてロジン系が挙げられる。
【0022】
次に、上述したハンダ組成物、プリント基板7、および半導体パッケージ5の構成を踏まえて、本発明の半導体パッケージ5の実装方法を、
図2を参照して説明する。
【0023】
本発明の半導体パッケージの実装方法は、樹脂基板3の一方の面に半導体チップ2を固定し、他方の面に複数のバンプ4を形成した半導体パッケージ5を、プリント基板7に実装する方法である。プリント基板7の、半導体パッケージ5が実装される面に、複数のバンプ4に対応して、樹脂基板3を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度を有し、且つスズとビスマスとを含むハンダ組成物でハンダ部6を形成するステップ(
図2(a))と、バンプ4とハンダ部6とを当接させた状態で、前記固相線温度以上且つ前記樹脂基板の変形によりバンプ4とハンダ部6との当接が離れる温度未満まで加熱するステップ(
図2(b))と、加熱状態を維持し、バンプ4を構成する金属およびハンダ部6を構成する金属の相互拡散によってハンダ部6中のビスマスの含有量を低下させるステップ(
図2(c))と、を含む。
【0024】
このような実装方法では、ハンダ組成物で形成されたハンダ部6は、スズとビスマスとを含み、樹脂基板3を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度を有する。加熱ピーク温度の下限値を該固相線温度以上にすることにより、加熱温度がガラス転移温度に到達する前に、ハンダ部6は溶融する。また、加熱ピーク温度の上限値を樹脂基板の変形によりバンプ4とハンダ部6との当接が離れる温度未満とすることで、ガラス転移温度を越える場合に反り始める樹脂基板の反り度合いを、該当接が離れない程度の小さな度合いにとどめることができる。そのため、樹脂基板3が変形する前もしくは変形がはじまる初期段階で、ハンダ部6が溶融でき、溶融したハンダ部6とバンプ4との接触が維持できる。これにより、樹脂基板の大きな反りが生じる温度で加熱した場合に発生するオープン不良(
図1(a)の矢印A、B参照)を防止できる。また、加熱ピーク温度を維持することにより、ハンダ部6に含まれるビスマスと、バンプ4に含まれる金属との相互拡散を促し、接合後のハンダ部6に含まれるスズ−ビスマス合金中のビスマスの含有量を低下させ、接合の脆弱性を改善することができる。
【0025】
上述した
図2(a)〜(c)の各ステップについてさらに詳しく説明する。
【0026】
<ハンダ部6を形成するステップ(
図2(a))>
まず、上述した半導体パッケージ5とプリント基板7とを準備する。
次に、複数のバンプ4に対応する位置に配置された開口部および所定の厚みを有する金属製の印刷マスク(不図示)を、プリント基板7の、半導体パッケージ5が実装される面に接触させる(コンタクト印刷)。次いで、所定量のフラックスと所定量のスズおよびビスマスを含む合金とを混合し、ペースト状のハンダ組成物を調製する。ここで、調製したハンダ組成物は、樹脂基板3を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度を有する。その後、スキージ(不図示)で調整したハンダ組成物を引き伸ばしながら、印刷マスクの開口部にハンダ組成物を充填させる。次いで、印刷マスクをプリント基板7から外すことにより、ハンダ部6が形成される。形成されたハンダ部6は、ハンダ組成物と同様に、樹脂基板3を構成する樹脂のガラス転移温度以下の固相線温度且つスズおよびビスマスを含む。
【0027】
<加熱ピーク温度まで加熱するステップ(
図2(b))>
次に、準備した半導体パッケージ5のバンプ4と上述したステップで形成したハンダ部6とを当接させ、この状態で加熱ピーク温度まで加熱する。加熱ピーク温度の下限値は、ハンダ部6の固相線温度以上である。このような温度を下限値に設定することにより、加熱温度が樹脂基板3の樹脂のガラス転移温度に到達するまでにハンダ部6を溶融させることができる。例えば、ハンダ部6の固相線温度が139℃の場合、ピーク温度の下限値は、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
あるいは、リフロー中に半導体パッケージなどに奪われる熱を考慮して、固相線温度に20℃〜30℃を加算した値で下限値を設定してもよい。
【0028】
但し、加熱ピーク温度が高すぎると、樹脂基板3の変形が進むとともに、すでに溶融したハンダ部6によりハンダ部6およびバンプ4の流動性が高まり、ハンダ部6とバンプ4との当接が外れてしまう。したがって、加熱ピーク温度は、樹脂基板3の変形でバンプ4とハンダ部6との当接が離れる温度未満とする必要がある。これにより、加熱温度がガラス転移温度を越えて樹脂基板3の反りが発生し始めても、オープン不良を発生させる樹脂基板3の大きな反りを防止することができる。なお、加熱ピーク温度の上限値よりガラス転移温度が高い場合は、樹脂基板3の反りはほとんど発生しないため、樹脂基板3の反りに起因するオープン不良を防止できる。ハンダ部6が139℃の固相線温度を有する場合、上限値は、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
あるいは、電力消費を低減するために低温ではんだ付けを行うことを考慮して、上限値を190℃以下とすることが好ましい。
上述のように加熱ピーク温度の上限値および下限値を設定することにより、オープン不良を抑制できる。
【0029】
<ビスマスの含有量を低下させるステップ(
図2(c))>
次いで、加熱ピーク温度を保持して、バンプ4を構成する金属およびハンダ部6を構成する金属の相互拡散によってハンダ部6中のビスマスの含有量を低下させる。保持時間の下限値は、好ましくは40秒以上、より好ましくは50秒以上、さらに好ましくは60秒以上である。下限値を40秒以上に設定することにより、溶融したハンダ部6にバンプ4を構成する金属が溶解しつづけ、ハンダ部6中のビスマスが希釈できる。一方、上限値は、特に限定されないが、工程時間を短くする観点から好ましくは240秒以下、より好ましくは180秒以下、さらに好ましくは120秒以下である。
【0030】
また、ビスマス含有量は、加熱するステップ前では、ハンダ部6のスズ−ビスマス合金に対し、50重量%以上60重量%以下である。一方、本ステップ後では、バンプ4とハンダ部6とが接合している接合部51においてビスマス含有量の上限値が、好ましくは54重量%未満、より好ましくは51重量%未満、さらに好ましくは49重量%未満である。ビスマスの含有量を上述した上限値にすることにより、接合後のスズ−ビスマス合金の脆弱性を改善する。
【0031】
上述の
図2(b)と
図2(c)で示す工程をリフロー接合方法と称して、
図3のリフロー温度プロファイルを用いて、さらに具体的に説明する。ここでは、139℃の固相線温度を有するスズ−ビスマスを含む合金で構成されたハンダ部6、220℃の固相線温度を有するSn−Ag−Cuの合金で構成されたバンプ4、およびガラス転移温度150℃を有するエポキシ樹脂で構成された樹脂基板3を用い、リフローピーク温度(加熱ピーク温度)が樹脂基板3のガラス転移温度より高く、バンプ4の固相線温度より低い場合を例として説明する。
【0032】
まず、リフロー温度(加熱温度)を所定の時間t1(例、60秒)をかけて、所定のリフローピーク温度T1(例、180℃)まで加熱する。ガラス転移温度より低い固相線温度(約139℃)を有するハンダ部6は、ガラス転移温度より高いリフローピーク温度T1の到達時に十分溶融している。樹脂基板3はリフロー温度がガラス転移温度を越えると、リフローピーク温度T1到達前に変形し始める。しかし、リフローピーク温度T1は、樹脂基板3の変形によりバンプ4とハンダ部6との当接が離れる温度未満に設定しているため、温度上昇に伴って大きくなる樹脂基板3の反りを防止できる。つまり、温度上昇により樹脂基板3が変形しても、その変化量は、バンプ4とハンダ部6との当接に影響しない程度の、小さな変化量にとどめることができる。
【0033】
次に、リフローピーク温度T1をリフローピーク保持時間t2(例、180秒)で維持することより、リフローピーク温度T1で溶融しないバンプ4の合金が、溶融したハンダ部6に溶解し続けることができる。このため、バンプ4に含まれるスズがハンダ部6のスズ−ビスマスを希釈でき、接合部51のビスマスの含有量を加熱前のハンダ部6のビスマスの含有量より小さくできる。
【0034】
このようにして、ハンダ部6とバンプ4とが接続されるため、樹脂基板3の反りに起因するオープン不良(
図1、矢印A、B参照)および脆弱性が改善された電子回路基板1を取得できる。
また、半導体パッケージの樹脂基板3と同様にプリント基板7が加熱時に反る場合、プリント基板7の反りに起因するオープン不良も防止できる。
【0035】
なお、フラックスを活性するため、急激な温度上昇による半導体チップ2の故障を防止するためなど、必要に応じて、リフローピーク温度に到達する前に、80℃〜120℃の予備加熱を行うプリヒート時間t3(
図4)を設けてもよい。
【0036】
上述のハンダ部6の形成工程では、コンタクト印刷を用いて説明したが、オフコンタクト印刷を採用することができる。また、印刷方法は、手刷りまたは印刷機でおこなってよい。
【0037】
上述の実装方法では、説明を省略したが、加熱状態を所定の時間維持した後に、バンプ4とハンダ部6との接合部を固化接合する冷却工程を含む。冷却方法は、冷却ファンを使用するなど、一般的な方法でよい。
【0038】
次に、本発明の電子回路基板1について、
図5を用いて説明する。本発明の電子回路基板1は、上述の実装方法を用いて製造されたものである。すなわち、電子回路基板1は、樹脂基板3上に半導体チップ2を実装した半導体パッケージ5と、プリント基板7とが、半導体パッケージ5に形成されたバンプ4と、プリント基板7に形成されたハンダ部6とによって接合されている構造を有する。ハンダ部6は、スズとビスマスとを含む。バンプ4とハンダ部6とによって形成された接合部51は、少なくともその接合方向の中間において、ビスマスの含有量がハンダ部6におけるビスマスの含有量より減少している領域を有する。
【0039】
上述したように本実施形態の実装方法では、所定の時間加熱ピーク温度を維持することにより、バンプ4を構成する金属およびハンダ部6を構成する金属を相互拡散させる。このため、電子回路基板1の接合部51のビスマスの組成は加熱前のハンダ部6のビスマスの組成とは異なる。
【0040】
具体的には、バンプ4とハンダ部6との界面56に接しているバンプ4の領域54(
図5(b))からバンプ4の金属がハンダ部6に溶解してハンダ部6に移行すると共にハンダ部6のビスマスが領域54へ拡散する。そのため、ハンダ部6および領域54では、プリント基板7から樹脂基板3の方向に沿ってビスマスの含有量が減少している。これにより、領域54およびハンダ部6のビスマスの含有量は、もとのハンダ部6のビスマスの含有量より低くなる。このようなビスマスの組成を有する接合部51のビスマスの含有量は、上限値が、好ましくは54重量%未満、より好ましくは51重量%未満、さらに好ましくは49重量%未満である。上述した組成を有する接合部51は、脆弱性が改善され強固な接続が確保される。
【0041】
また、本実施形態の実装方法により製造された電子回路基板1は、製造時に温度上昇に伴う樹脂基板3の反りが抑制され、オープン不良(
図1、矢印A、B参照)がなく、半導体チップ2とプリント基板7との接続不良がない。
【0042】
上述した電子回路基板1はパーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、タブレット端末などに利用できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の電子回路基板の実施例を説明する。なお以下の実施例において、特に断らない限り、「%」及び「部」はいずれも重量基準である。
【0044】
1.電子回路基板の作製
<実施例1>
酸化防止のための表面処理(OSP)を施した銅製パッド52(
図5(b))が配置されたプリント基板7(ガラスエポキシ樹脂製、サイズ50×63×0.8mm)および樹脂基板3の一方の面に半導体チップ2を他方の面にSn96.5−Ag3.0−Cu0.5の合金からなるバンプ4を256個備えた半導体パッケージ5を準備した。ここで、樹脂基板3は、エポキシ樹脂製のもの(ガラス転移温度150℃)でサイズ17×17mm、厚み0.4mmであった。次に、ハンダ組成物として、下記処方のハンダペーストを調製した後、複数の穴の開いたステンシル(厚み100μm)で、プリント基板7のパッド52上であって半導体パッケージ5のバンプ4に対応する位置に、調製したハンダペーストを印刷した。印刷により、厚み0.1mmのハンダ部が256個(ピッチ1.0mm、横16行×縦16列の構成)形成された。
【0045】
次に、バンプ4とハンダ部6とを当接するように、プリント基板7の上に半導体パッケージ5を搭載し、リフロー処理を行い、バンプ4とハンダ部6とを接合させた。リフロー処理は、70秒間で170℃のピーク温度まで加熱し、60秒のピーク保持時間でこのピーク温度を維持し、その後、70秒間で100℃まで冷却した。このようにして、実施例1の電子回路基板1を得た。
【0046】
<ハンダペーストの処方>
Sn42−Bi58 89重量部
フラックス 11重量部
【0047】
<実施例2>
実施例1のピーク温度を180℃に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の電子回路基板1を得た。
【0048】
<実施例3>
実施例1のピーク温度を190℃に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の電子回路基板1を得た。
【0049】
<実施例4>
実施例1のピーク温度を160℃およびピーク保持時間を140秒に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の電子回路基板1を得た。
【0050】
<実施例5>
実施例4のピーク温度を170℃に変更した以外は、実施例4と同様にして実施例5の電子回路基板1を得た。
【0051】
<実施例6>
実施例4のピーク温度を180℃に変更した以外は、実施例4と同様にして実施例6の電子回路基板1を得た。
【0052】
<実施例7〜12>
実施例1〜6のハンダ組成物と同じハンダペーストを用いて実施例1〜6と同様のリフロー処理を行い、JEDEC規格JESD22−B111に規定されている試験基板の上に15個の半導体パッケージ5を実装し、それぞれ試験基板上にマットリックス状(3×5)に配列した実施例7〜12の電子回路基板1を作製した。実装した半導体パッケージ5は、次のものを使用した。
BGA84
バンプ:Sn96.5−Ag3.0−Cu0.5製、84個
樹脂基板:BT樹脂製、サイズ7×7mm、厚み0.8mm
【0053】
<比較例1>
実施例4のピーク保持時間を10秒に変更した以外は、実施例4と同様にして比較例1の電子回路基板1を得た。
【0054】
<比較例2>
実施例2のピーク保持時間を10秒に変更した以外は、実施例2と同様にして比較例2の電子回路基板1を得た。
【0055】
<比較例3>
実施例1のハンダペーストの処方を下記の処方に変更し、ピーク温度を245℃に、ピーク保持時間10秒に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3の電子回路基板1を得た。
<ハンダペーストの処方>
Sn96.5−Ag3.0−Cu0.5 89重量部
フラックス 11重量部
【0056】
<比較例4〜5>
比較例1〜2のハンダ組成物と同じハンダペーストを用いて比較例1〜2と同様のリフロー処理を行って、実施例7〜12と同様に、比較例4〜5の電子回路基板1を作製した。
【0057】
各例のハンダ部6およびバンプ4を構成する合金の種類、ピーク保持時間、およびピーク温度の情報をまとめて表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
2.評価
上述した実施例および比較例ついて下記の特性を評価した。
【0060】
<オープン不良試験>
実施例1〜6および比較例1〜3の電子回路基板1に備えられた半導体パッケージ5の樹脂基板3をプリント基板7からジグではがし、目視でノン・ウェット・オープン(NWO)の有無を調べた。
【0061】
オープン不良の結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2からわかるように、実施例1〜6の電子回路基板1は、NWOの発生がなかった。この結果は、樹脂基板3の反りが抑制されること、およびこのような反り抑制により枕不良も発生しないことを示した。
一方、固相線温度(約220℃)を有するSn96.5−Ag3.0−Cu0.5をハンダ部6に含む比較例3は、その固相線温度が半導体パッケージ5の樹脂基板3のガラス転移温度(約150℃)より高いため、ハンダ部が溶融するまでガラス転移温度よりかなり高い温度(245℃)で加熱する必要があった。結果として、樹脂基板3の反りに起因するNWOが発生した。
【0064】
<接合部におけるスズおよびビスマス含有量の測定およびマッピング分析>
電子回路基板1の接合部51の断面部が観察できるように実施例2、実施例6、および比較例1の電子回路基板1をダイヤモンドカッターで切断し、断面部を研磨した。研磨したそれぞれの断面部を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立 SEM S−3500N)を用いて任意の倍率で撮影した。ついで、接合部51の断面部の水平方向に沿っておよそ中央の位置であって、パッド52の上面から樹脂基板3に向かって鉛直方向に、50μm程度、100μm程度、および150μm程度の位置に、それぞれ直径20μmを有する円形状の測定点a、測定点b、および測定点cを設定し(
図5(b)、
図6(a)、
図7(a))、エネルギー分散型X線分析装置(AMETEK Inc, EDX−APOLLO XL)を用いて測定点a〜cのSn,Bi,Agの含有量を測定した。なお、Sn、Bi、Agの含有量は測定点から検出された原子全体量(微量の不純物を含める)に対するものである。また、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、SEM画像の所定の領域において、Sn、Ag、Bi、Cu元素分布を重ね合わせたマッピング分析を行った。
【0065】
含有量を測定した原子のうちスズおよびビスマスの含有量を上記表2に示す。また、マッピング分析を行った電子回路基板1のうち、実施例6および比較例1の電子回路基板1が有する接合部51のSEM撮像図をそれぞれ
図6(a)および
図7(a)に示す。さらに、これらの図中、矢印D(
図6(a))および矢印E(
図7(a))に示す線で囲まれた部分の、Sn、Ag、Bi、Cuの分布を、矢印Dの部分についてはそれぞれ
図6(b)〜(e)、矢印Eの部分についてはそれぞれ
図7の(b)〜(e)に示す。
【0066】
実施例2、実施例6、および比較例1のスズおよびビスマスの含有量(表2)からわかるように、バンプ4(領域54)内の測定点aでは、実施例2、6のスズの含有量は比較例1のものより小さいのに対して、ビスマスの含有量は比較例1のものより大きかった。一方、界面56付近の測定点bおよびハンダ部6内の測定点cでは、実施例2、6のスズの含有量は比較例1のものより大きく、ビスマスの含有量は比較例1のものより小さかった。
また、スズおよびビスマスの含有量(表2)並びにビスマスの分布(
図6(d)および
図7(d))の結果より、実施例6の方が比較例1よりビスマスが拡散していることが示された。
【0067】
<落下衝撃試験>
脆弱性の評価として、JEDEC規格JESD22−B111に準拠して(試験条件:1500Gs、0.5ミリ秒、正弦半波)、実施例7〜12および比較例4〜5について落下衝撃試験を行った。試験基板の落下衝撃を繰り返し行いながら、各電子回路基板1の抵抗値の変化を常時計測し、15個の電子回路基板1のいずれかの電子回路基板の抵抗値が最初に1000オームを超えた時の落下衝撃の回数を接合部51が破壊された回数とした。試験は、ランスモントM23衝撃試験器で落下衝撃を行い、アナリシステック イベントディテクタで抵抗値の測定を行った。
【0068】
落下衝撃試験の結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3からわかるように、所定のピーク保持時間(ビスマスの含有量を低下させるステップ)を有する実施例7〜12は落下衝撃試験の回数が20回以上という強固な接合を有した。一方、ピーク保持時間が10秒である比較例4〜5はNWOの発生はなかったが(表1、比較例1〜2)、実施例7〜12と比較して脆弱性を有した。これは、ピーク保持時間が10秒と短いことにより、ハンダ部6およびバンプ4に含まれる金属の相互拡散が十分できなかったためと考えられた。
【0071】
これらの結果は、ビスマスの含有量を低下させるステップを有することにより、バンプ4に含まれるスズとハンダ部6に含まれるビスマスが相互拡散でき、加熱後のハンダ部6に含まれるビスマスの量が加熱前のものより低減されること、このようなビスマス含有量の減少により、接合部51の脆弱性が改善されることを示した。