【実施例】
【0018】
実施例1
甘藷澱粉(鹿児島県産)を、濃度30% W/W、水酸化カルシウムにてpH6.3に調製し、澱粉懸濁液とした。この懸濁液に、耐熱性のαアミラーゼ(スピターゼHK−S/Rナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.1%添加して、液化ジェトクッキングパイロット装置(ノリタケカンパニー(株)製)にて、懸濁液移送圧力0.1MPa、蒸気圧力0.2MPaでコントロールして105℃で液化し、40分滞留管で保持し糖の分解を進めた。その後、126℃、20分間滞留管にて保持し耐熱性のαアミラーゼを失活させ、リンが結合した澱粉糖を得た。本澱粉糖液を、珪藻土(ラジオライト♯900 昭和化学工業(株)製)にて固液分離、活性炭(カルボラフィンW50 大阪ガスケミカル(株)製)による脱色を行った。本澱粉糖液をパイロット噴霧乾燥装置L−8i(大川原化工機(株)製)で、熱風温度200℃、排風温度110〜120℃、アトマイザー回転速度25,000rpmでコントロールし澱粉糖粉末を得た。本操作を複数回実施し、糖化率(DE) 9.6、各結合リン含量の澱粉糖粉末を得た。
【0019】
上記リンが結合した澱粉糖をBx35となるように蒸留水に溶解し、塩酸と水酸化ナトリウムにてpH5.5に調製し、400mLを恒温リアクター(Mini Bench Top Reactor Series 4560 Parrs社製)に封入した。その後、110℃から10℃刻みで180℃まで各7バッチ昇温を行った。恒温リアクター内の澱粉糖液の目的温度までの到達時間は10〜30分程度で、目的温度到達後10分間保温して脱リン反応を進めた。その後圧力の解放により、100℃以下へ冷却し反応を止めた。反応前後の結合リン含量を測定し、下記式(3)により脱リン率(%)を求めた。その結果を表1に示す。160℃以上で完全にリンの脱離が観察された。
脱リン率(%)=100−{(反応前結合リン含量―反応後結合リン含量)/(反応前結合リン含量)×100} ・・・(3)
【0020】
【表1】
【0021】
実施例2
甘藷澱粉(鹿児島県産)、タピオカ澱粉(ベトナム産)、馬鈴薯澱粉(北海道十勝産)、リン酸架橋澱粉(ベトナム産)を、濃度30% W/W、水酸化カルシウムにてpH6.3に調製し、澱粉懸濁液とした。これを実施例1と同様に、液化、精製、粉末化してリンが結合した各種原料の澱粉糖を得た。上記した各種澱粉糖を実施例1と同様にBx35、pH5.5に調製して、恒温リアクター160℃で反応させた。160℃への到達時間はすべての原料において20分であった。各原料澱粉糖の反応前後の糖化率(DE)、結合リン含量、完全にリンが脱離した保温時間を表2に示す。すべての原料において、160℃、5〜10分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例3
実施例2で得られた甘藷澱粉糖粉末(DE9.6)を蒸留水に溶解し、実施例2と同様にBx35、pH5.5へ調製した。この澱粉糖を恒温リアクターで130℃から10℃刻みで180℃まで6バッチ、各30分間のそれぞれの温度で保温した。各温度への到達時間は10〜30分であった。各温度における澱粉糖の分解率(DE)を表3に示す。180℃で極端な澱粉糖の分解がみられた。
【0024】
【表3】
【0025】
実施例4
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)とタピオカ(DE10.8、結合リン含量46ppm)の澱粉糖粉末を蒸留水に溶解し、実施例1と同様にBx35、pH5.5へ調製した。両原料を恒温リアクターで、140℃と150℃保温による各保温時間の脱リン率(%)を求めた。目的温度への到達時間は、140℃で10分、150℃で15分であった。甘藷澱粉糖の脱リン率(%)を表4、タピオカ澱粉糖の脱リン率(%)を表5に示す。両原料ともに、150℃、20〜30分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
実施例5
実施例2で使用した甘藷のリン結合澱粉糖粉末(DE9.6、結合リン含量138ppm)をBx35に溶解し、pH2.5〜12へ調製した。各pHの澱粉糖液を恒温リアクターで150℃、30分保温した。150℃への到達時間は15分であった。各pHにおける澱粉糖の分解率(DE)と脱リン率を表6に示す。すべてのpHにおいて、脱リン率は100%であり、pH3.5〜10.5では、原料澱粉糖と生成澱粉糖のDEの差が5以下であり、澱粉糖の分解がほとんどみられなかった。pH2.5では、澱粉糖が比較的分解されていた。またpH12においては、原料澱粉糖と生成澱粉糖のDEの差は5以下であり、それぞれをサイズ排除クロマトグラフィーで分析したところ、未同定物質が生成されていた(
図1)。サイズ排除クロマトグラフィーの詳細条件については以下に示す。
分離カラム:OHpakSB802.5HQ−OHpakSB803HQ(昭和電工(株)製)、移動相:蒸留水、流速:0.4mL/分、検出:示差屈折率検出器、サンプル供与量:100μL。なお図中には、ピークトップ分子量(Mp)5900の分子量マーカーとグルコース標準品のピーク位置を示す。
【0029】
【表6】
【0030】
実施例6
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)の澱粉糖粉末を蒸留水に溶解し、pH5.5、Bx10〜50のサンプルを調製し、恒温リアクターで150℃、30分保温した。150℃への到達時間は、すべての試験において15分であった。反応前の総リン絶対含量(mg)、脱リン率(%)を表7に示す。反応前の総リン絶対含量は下記式(4)に従って求めた。すべての濃度において、完全に結合リンが脱離した。
反応前の総リン絶対含量(mg)=
固形分(g)×総リン含量(ppm)/10
6×10
3・・・ (4)
(固形分(g)=Bx×比重(g/ml)×液量(ml))
【0031】
【表7】
【0032】
実施例7
甘藷澱粉(鹿児島県産)を濃度30% W/W、塩酸でpH2.2に調製し、ジェットクッキング装置にて、0.25MPaでコントロールした滞留菅内を99℃で6分、126℃で24分加熱滞留して糖化し、その後、実施例1と同様に精製、粉末化して、DE14.2、結合リン含量79ppmの澱粉糖粉末を得た。本粉末を実施例2と同様に、蒸留水に溶解し、Bx35、pH5.5へ調製して恒温リアクターにて150℃、30分反応させた。この際150℃への到達時間は15分であった。加熱処理後のDE、脱リン率(%)を表8に示す。酸糖化の澱粉糖においても、150℃、30分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0033】
【表8】
【0034】
実施例8
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。その後、恒温リアクターを用いて150℃、30分熱処理し、DE10.3、結合リン含量0ppm の脱リン澱粉糖を得た。その脱リン澱粉糖液200mLを、2N塩酸で再生した陽イオン交換樹脂(200CT オルガノ(株)製)20mLをカラムに充填し、陽イオン交換を行った。2N 水酸化ナトリウムで再生した陰イオン交換樹脂(WA−30、三菱ケミカル(株)製)10mLに通液した。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩試験の条件は、通液温度60℃、SV4(樹脂体積に対しての1時間あたりの通液体積)で実施した。
図2に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の2.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは19倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0035】
実施例9
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて150℃、5分処理、10分処理、30分処理を行い、それぞれ結合リン含量48ppm、15ppm、0ppmの脱リン化糖を得た。また、それぞれのDEは、9.7、9.8、10.5となった。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない結合リン含量138ppmの同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図3に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の2.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。しかし結合リン含量が、48ppm、15ppm、0ppmと少なくなるにつれて、電気伝導度が0.02mS/cmに到達するのが、4.5倍量、8.5倍量、19倍量と長くなり、脱塩不良が解消されていくことがわかる。
【0036】
実施例10
実施例7で得られた甘藷酸糖化(DE14.2、結合リン含量79ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて150℃、30分熱処理し、DE15.2、結合リン含量0ppm の脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない結合リン含量79ppmの同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図4に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の8倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0037】
実施例11
実施例2で得られたタピオカ(DE10.8、結合リン含量46ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、15分熱処理し、DE11.9、結合リン含量0ppmの脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図5に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の12.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0038】
実施例12
実施例2で得られたリン酸架橋澱粉(DE7.7、結合リン含量35ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、10分熱処理し、DE9.7、結合リン含量0ppmの脱リン酸澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図6に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の8.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは19倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0039】
実施例13
馬鈴薯澱粉分解物(DE3、結合リン含量426ppm)をBx20に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、15分熱処理し、DE3.7、結合リン含量0ppmの脱リン酸澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同DE、同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図7に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の1.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで、0.02mS/cmに到達せず、電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0040】
実施例14
実施例2で得られた馬鈴薯澱粉(DE5.7、結合リン含量377ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。この溶解液にβアミラーゼ(β−アミラーゼLナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.05%添加して、60℃、24時間酵素反応を行い、さらにαアミラーゼ(スピターゼHK−S/Rナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.02%添加して、24時間酵素反応を行うことで、DE48.0、結合リン含量377ppmの澱粉糖を調製した。
実施例2と同様に160℃、15分熱処理し、DE53.0、結合リン含量0ppmの脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同DE、同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。
図8に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の16倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで、0.02mS/cmに到達せず、電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。