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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-201456(P2018-201456A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】澱粉糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C13B 20/16 20110101AFI20181130BHJP
【FI】
   C13B20/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-113162(P2017-113162)
(22)【出願日】2017年6月8日
(71)【出願人】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】川上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀作
(72)【発明者】
【氏名】田川 正高
(72)【発明者】
【氏名】市成 淳
(72)【発明者】
【氏名】室屋 賢康
(57)【要約】
【課題】 リンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖のリンを遊離させ、精製工程での脱塩効率を向上させる製造方法を提供する。
【解決手段】 リンが結合した澱粉糖を140〜170℃、pH3〜11で処理することにより、結合したリンを遊離させて低減せしめる。生成されたリン結合量の低減された澱粉糖は精製時に、リンが結合した澱粉糖による陰イオン交換樹脂の閉塞を低減させ、脱塩効率を向上させる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DEが3〜50のリンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖を140〜170℃の範囲の温度およびpHが3〜11の範囲で加熱して、結合リン量が低減され、DEが同等ないし増大し且つDEが55以下のリンが結合した澱粉糖を生成せしめることを特徴とする、リンの結合量が低減された澱粉糖の製造方法。
【請求項2】
リンが結合した澱粉糖の原料が、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、またはこれらの澱粉のリン酸架橋澱粉である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
加熱処理後の澱粉糖のリン結合量が0〜20ppmである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
加熱時の反応系のBxが10〜50%である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
DEが3〜50のリンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖が酸あるいは酵素で糖化されたリンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖である請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖のリン結合量を低減させることにより精製負荷を軽減し、リンの結合量を低減せしめた澱粉糖の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
澱粉を酵素や酸で部分的に加水分解すると、冷温水に溶解できる分解物が得られ、さらに加水分解酵素や転移酵素などを作用させて得られたものを総じて澱粉糖と称している。一般的な製造方法として、液化・糖化と呼ばれる加水分解工程、不溶物質と糖液を珪藻土にて分離する固液分離工程、活性炭を用いた脱色工程、イオン交換樹脂や電気透析膜を用いた脱塩工程を経た後、濃縮工程を経て液状あるいはスプレードライヤーなどで粉末化、結晶化させる形態が採用される。
澱粉糖にはグルコース残基にリンがリン酸エステルとして結合している(以下、単に「リンが結合している」ということがある)ものがあり、澱粉糖の製造の脱塩工程で、リンが結合した澱粉糖が陰イオン交換樹脂への吸着、閉塞を引き起こし、糖液の脱塩不良の原因となっている(非特許文献1)。これらは、澱粉糖の歩留まり低下や脱塩設備の能力を最大限に活用できないなどの不具合を生じていることから、グルコース残基に結合したリンを脱離させる方法が求められていた。
グルコース残基に結合したリンの脱離には、脱リン酵素(ホスファターゼ)が報告されている(非特許文献2)。当該酵素は、グルコース3−4残基からなる澱粉糖に結合したリンの脱離に対して有効であるが、グルコースが9−10残基からなる澱粉糖に関しては、脱リン率は50%程度と低下する。澱粉糖において分解度の低い水飴やデキストリンなどは、平均分子量が4000から100000(グルコース残基25〜500)であり、様々なグルコース鎖長の混合物であることから、当該酵素は部分的な脱リンしかできないことがわかる。
【0003】
馬鈴薯澱粉中では、構成するグルコース残基の3位および6位にリンが結合して、ほぼ2:1の割合で存在している(非特許文献3)。この6位に結合したリンを特異的に脱リンするホスファターゼについての報告がある(特許文献1)。しかし、当該報告においても、グルコース3−5残基程度からなる澱粉糖であり、グルコースの6位に結合したリンしか脱リンできず、更には基質濃度が3%溶液であり工業的に生産するには満足できる濃度とは言い難い。
澱粉に結合したリンの動きに関しては、馬鈴薯澱粉を室温で数年間保存すると徐々に無水のリンが増加すること、湿熱処理(水分約20%、126℃)でも脱離することが知られている。しかし、この反応においては、3位のリンが優先的に消失し、相対的に6位のリン含量が増加すると述べられていることから、当該湿熱処理の反応では6位のリンは脱離し難いことが明らかである(非特許文献4)。
澱粉糖以外での脱リンについて、フィチン酸の報告がある(特許文献2)。本報告には、フィチン酸を150〜260℃で加熱することにより、リンを加水分解することが記載されている。しかし、フィチン酸の構造母体であるイノシトールは、熱に安定であることから、リンが結合した母体が加熱により破壊されることなく脱リンが可能である。また、非特許文献5では、アミロペクチンのリン酸エステルを2.5N塩酸中で、75℃、24時間反応させることが記載されているが、脱リンについての記載のみでアミロペクチンの分解についての記載はない。しかし、澱粉糖は、酸性、高温条件下ではグルコース間の結合(α1−4、α1−6)が分解され、目的とする澱粉糖を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4278118号明細書
【特許文献2】特開2010−136683号公報
【特許文献3】特許第4755333号明細書
【特許文献4】特許第3240102号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】澱粉化学の事典 P190
【非特許文献2】日本醸造協会雑誌 Vol.70(1975)No.12 P861−867
【非特許文献3】澱粉化学の事典 P33
【非特許文献4】澱粉工業学会誌 第17巻 第3号(1969)
【非特許文献5】Cyrus H.Fiske and Yellapragada Subbarow J.Biol.Chem. 1925,66:375−400.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、澱粉糖のグルコース残基にリン酸エステルとして結合したリンを遊離させ、脱塩効率を向上させるものである。それらは、イオン交換樹脂の再生回数を減少させることによる薬剤、再生水量の低減に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ある一定の条件下で澱粉糖に熱処理を行うことで、目標とする澱粉糖の糖化率をコントロールし、脱塩工程で負荷となる結合リンを遊離させ、脱塩効率を上げる方法を見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明は、DEが3〜50のリンがリン酸エステルとして結合した澱粉糖を140〜170℃の範囲の温度およびpHが3〜11の範囲で加熱して、結合リン含量が低減され、DEが同等ないし増大し且つDEが55以下のリンが結合した澱粉糖を生成せしめることを特徴とする、リンの結合量が低減された澱粉糖の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リンが結合した澱粉糖からリンを脱離させることで製造段階での脱塩不良を解消し、結合リン含量が低減された澱粉糖を製造することができる。また、脱塩不良解消されることで、イオン交換樹脂などの再生に使用する水、再生剤の使用量を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、甘藷原料の澱粉糖をpH12.0で150℃、30分熱処理した際のサイズ排除クロマトグラフィーのスペクトル変化である。
図2図2は、150℃、30分加熱処理の有無による、甘藷原料澱粉糖を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、○:加熱処理あり)である。
図3図3は、結合リン含量の異なる甘藷原料の澱粉糖を調製し、陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:138ppm、△:48ppm、□:15ppm、○:0ppm)である。
図4図4は、150℃、30分加熱処理の有無による、酸糖化甘藷原料澱粉糖を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、○:加熱処理あり)である。
図5図5は、160℃、15分加熱処理の有無による、タピオカ原料澱粉糖を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、○:加熱処理あり)である。
図6図6は、160℃、10分加熱処理の有無による、リン酸架橋原料澱粉糖を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、△:加熱処理あり)である。
図7図7は、160℃、15分加熱処理の有無による、馬鈴薯原料澱粉糖(DE3)を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、△:加熱処理あり)である。
図8図8は、160℃、15分加熱処理の有無による、馬鈴薯原料澱粉糖(DE48)を陰イオン交換樹脂塔へ通液した図(●:加熱処理なし、△:加熱処理あり)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はDE3〜50のリンが結合した澱粉糖を140〜170℃の範囲の温度およびpH3〜11の範囲で加熱することにより行われる。
澱粉糖の原料としては、トウモロコシやコメ、小麦等の種子澱粉、サゴヤシの樹幹より採取する澱粉、甘藷、キャッサバ(タピオカ)、馬鈴薯、クズなどの地下茎の澱粉、これらの澱粉を化学的、物理的または生物的に加工したα化ならびに加工澱粉などが用いられる。この中で、特に地下茎の澱粉あるいは化学的にグルコース残基にリン酸を架橋した加工澱粉、例えばリン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉などが澱粉糖の好ましい原料として挙げられる。
【0011】
澱粉は生のままでは加水分解を受けにくいことから、澱粉糖の製造においては、液化と称される工程がある。例えば、濃度10〜40%(w/w)の澱粉を耐熱性α−アミラーゼを添加し、pH4〜7、103〜107℃でジェットクッカー等を用いた瞬間高温加熱法で加熱し、加圧した滞留装置内で5〜10分程度保ち、その後、常圧に開放し適当な分解率(糖化率DE)まで反応を進める方法が一般的である。また、同程度の濃度の澱粉を、塩酸やシュウ酸等でpH2〜3に調製し、分解温度120〜135℃、滞留装置内で5〜10分程度保つことで澱粉を分解する方法も知られている。かくして澱粉を液化した後、次の糖化工程へ移行する。また、糖化工程に移行せずにこの段階で精製し、分解率の低い澱粉糖とすることもできる。
糖化工程では、先の液化が終了した糖液に、各種糖化酵素、例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、グルコアミラーゼ、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、ブランチングエンザイムなどを単一あるいは複数を併用して作用させ、適当な段階で反応をとめることで様々な澱粉糖を製造することができる。澱粉糖製造においては、これらの酵素に限定されない。この澱粉糖は、珪藻土をコーティングしたオリバーフィルターなどによるろ過後、例えば植物あるいは石炭系の活性炭、あるいは合成吸着剤などで脱色する。
【0012】
本発明方法で用いられるDE3〜50のリンが結合した澱粉糖(以下、原料澱粉糖ということがある)は、上記の如くして製造される。
本発明の原料澱粉糖は、好ましくは結合リン含量が1〜1000ppmであり且つDEが1〜100であるものであり、より好ましくは、結合リン含量が30〜500ppmであり且つDEが3〜50であるものである。なお、以後の説明中で用いるリン含量は、特に断りがない限り、原料澱粉糖重量に対するリン重量の割合(ppm)で表す。
一般に、上記の如くして得られた澱粉糖液中に含まれるイオン物質を除くため、イオン交換樹脂あるいは電気透析による脱塩操作が行われる。一般的には、澱粉糖液を陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を充填した2つの塔と陽、陰イオン交換樹脂を混合した混床塔の計3塔に通液して脱塩が行われる。
【0013】
しかしながら、上記原料澱粉糖をそのまま脱塩操作に付すと、原料澱粉糖がグルコース残基にリンが結合している澱粉糖を含有するため、この澱粉糖が、陰イオン交換樹脂の粒子表面に付着し、交換樹脂内部の細孔が閉塞され、澱粉糖液の拡散がうまく進行せずに脱塩効率が低下する。陰イオン交換樹脂としては、例えば強アニオン交換樹脂 IRA411、弱アニオン交換樹脂 XE583(オルガノ(株)製)あるいは、強アニオン交換樹脂 PA408、弱アニオン交換樹脂 WA30(三菱ケミカル(株)製)などが用いられる。
また、陰イオン交換樹脂に結合したリン酸化糖をNaOH、CaCl(特許文献3)やNaCl(特許文献4)で溶出させることが知られているが、この場合、陰イオン交換樹脂に吸着したリン酸化糖の量だけ澱粉糖の歩留まりが低下することになる。
【0014】
本発明によれば、原料澱粉糖を140〜170℃の範囲の温度およびpH3〜11の範囲に加熱することにより、結合したリン含量が原料澱粉糖よりも低減されたDE55以下の生成澱粉糖を得ることができる。生成澱粉糖のDEは、原料に用いた原料澱粉糖のDEと同等であるかあるいはそれより大きい。例えば、原料澱粉糖としてDE20の原料澱粉糖を用いたときには生成澱粉糖のDEは20〜55の範囲となる。原料澱粉糖と生成澱粉糖のDEの差は好ましくは20以下であり、より好ましくは5以下である。また、生成澱粉糖のリン結合量は好ましくは20ppm以下、より好ましくは0ppmである。
すなわち、本発明によれば、原料澱粉糖のDEと大きく変わらないDEの生成澱粉糖を得ることができ、澱粉糖の分解を極力抑えることができる。
原料澱粉糖は、好ましくはBx10〜50%の糖液として用いられる。また、糖液のpHは、好ましくは4〜10である。加熱時間は、好ましくは3〜60分、より好ましくは5〜30分間程度で十分である。これより長くすると澱粉糖の分解が起り易くなる。
【0015】
目的の温度まで反応系を上昇させる方法としては、例えば飽和、加熱蒸気等を澱粉糖へ吹き込む直接加熱法、熱交換器など、澱粉糖液と熱源を媒体で介して加温する間接加熱方法などが挙げられるが、これら方法に限定されるものではない。また、加熱するタイミングは液化・糖化工程後、固液分離工程後、脱色工程後など、脱塩工程前であればどの段階でもよい。脱リン化された澱粉糖は、先の脱塩工程に供され、陰イオン交換樹脂における脱塩効率が著しく改善し、それとともに生成澱粉糖の歩留りを向上させる。脱塩工程終了後は、公知の方法で仕上げ脱色、フィルター処理による異物除去、濃縮工程を経て、液状の製品あるいは先の濃縮液をスプレードライにて粉末化、あるいは結晶化工程を経て製品とすることができる。
なお、本発明における各種試験および測定方法は次のとおりである。澱粉糖の糖化率はDE(dextrose equivalent)で表され、レーン・エイノン法で下記式(1)により算出される。総リン量は、澱粉糖を灰化した後、Fiske−Subarrow法にて測定した(非特許文献5)。澱粉糖の遊離リン量は、灰化なしでFiske−Subarrow法で測定した。澱粉糖の結合リン含量は下記式(2)に従って求めた。その他の測定については、固形分(W/W)はBx計で測定し、pH計、電気伝導度計、温度計など一般的によく知られている機器で測定し、試薬などは特級グレードのものを用いた。
【0016】
【数1】
【0017】
澱粉糖の総リン量−澱粉糖の遊離リン量=澱粉糖の結合リン含量 ・・・(2)
【実施例】
【0018】
実施例1
甘藷澱粉(鹿児島県産)を、濃度30% W/W、水酸化カルシウムにてpH6.3に調製し、澱粉懸濁液とした。この懸濁液に、耐熱性のαアミラーゼ(スピターゼHK−S/Rナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.1%添加して、液化ジェトクッキングパイロット装置(ノリタケカンパニー(株)製)にて、懸濁液移送圧力0.1MPa、蒸気圧力0.2MPaでコントロールして105℃で液化し、40分滞留管で保持し糖の分解を進めた。その後、126℃、20分間滞留管にて保持し耐熱性のαアミラーゼを失活させ、リンが結合した澱粉糖を得た。本澱粉糖液を、珪藻土(ラジオライト♯900 昭和化学工業(株)製)にて固液分離、活性炭(カルボラフィンW50 大阪ガスケミカル(株)製)による脱色を行った。本澱粉糖液をパイロット噴霧乾燥装置L−8i(大川原化工機(株)製)で、熱風温度200℃、排風温度110〜120℃、アトマイザー回転速度25,000rpmでコントロールし澱粉糖粉末を得た。本操作を複数回実施し、糖化率(DE) 9.6、各結合リン含量の澱粉糖粉末を得た。
【0019】
上記リンが結合した澱粉糖をBx35となるように蒸留水に溶解し、塩酸と水酸化ナトリウムにてpH5.5に調製し、400mLを恒温リアクター(Mini Bench Top Reactor Series 4560 Parrs社製)に封入した。その後、110℃から10℃刻みで180℃まで各7バッチ昇温を行った。恒温リアクター内の澱粉糖液の目的温度までの到達時間は10〜30分程度で、目的温度到達後10分間保温して脱リン反応を進めた。その後圧力の解放により、100℃以下へ冷却し反応を止めた。反応前後の結合リン含量を測定し、下記式(3)により脱リン率(%)を求めた。その結果を表1に示す。160℃以上で完全にリンの脱離が観察された。
脱リン率(%)=100−{(反応前結合リン含量―反応後結合リン含量)/(反応前結合リン含量)×100} ・・・(3)
【0020】
【表1】
【0021】
実施例2
甘藷澱粉(鹿児島県産)、タピオカ澱粉(ベトナム産)、馬鈴薯澱粉(北海道十勝産)、リン酸架橋澱粉(ベトナム産)を、濃度30% W/W、水酸化カルシウムにてpH6.3に調製し、澱粉懸濁液とした。これを実施例1と同様に、液化、精製、粉末化してリンが結合した各種原料の澱粉糖を得た。上記した各種澱粉糖を実施例1と同様にBx35、pH5.5に調製して、恒温リアクター160℃で反応させた。160℃への到達時間はすべての原料において20分であった。各原料澱粉糖の反応前後の糖化率(DE)、結合リン含量、完全にリンが脱離した保温時間を表2に示す。すべての原料において、160℃、5〜10分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例3
実施例2で得られた甘藷澱粉糖粉末(DE9.6)を蒸留水に溶解し、実施例2と同様にBx35、pH5.5へ調製した。この澱粉糖を恒温リアクターで130℃から10℃刻みで180℃まで6バッチ、各30分間のそれぞれの温度で保温した。各温度への到達時間は10〜30分であった。各温度における澱粉糖の分解率(DE)を表3に示す。180℃で極端な澱粉糖の分解がみられた。
【0024】
【表3】
【0025】
実施例4
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)とタピオカ(DE10.8、結合リン含量46ppm)の澱粉糖粉末を蒸留水に溶解し、実施例1と同様にBx35、pH5.5へ調製した。両原料を恒温リアクターで、140℃と150℃保温による各保温時間の脱リン率(%)を求めた。目的温度への到達時間は、140℃で10分、150℃で15分であった。甘藷澱粉糖の脱リン率(%)を表4、タピオカ澱粉糖の脱リン率(%)を表5に示す。両原料ともに、150℃、20〜30分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
実施例5
実施例2で使用した甘藷のリン結合澱粉糖粉末(DE9.6、結合リン含量138ppm)をBx35に溶解し、pH2.5〜12へ調製した。各pHの澱粉糖液を恒温リアクターで150℃、30分保温した。150℃への到達時間は15分であった。各pHにおける澱粉糖の分解率(DE)と脱リン率を表6に示す。すべてのpHにおいて、脱リン率は100%であり、pH3.5〜10.5では、原料澱粉糖と生成澱粉糖のDEの差が5以下であり、澱粉糖の分解がほとんどみられなかった。pH2.5では、澱粉糖が比較的分解されていた。またpH12においては、原料澱粉糖と生成澱粉糖のDEの差は5以下であり、それぞれをサイズ排除クロマトグラフィーで分析したところ、未同定物質が生成されていた(図1)。サイズ排除クロマトグラフィーの詳細条件については以下に示す。
分離カラム:OHpakSB802.5HQ−OHpakSB803HQ(昭和電工(株)製)、移動相:蒸留水、流速:0.4mL/分、検出:示差屈折率検出器、サンプル供与量:100μL。なお図中には、ピークトップ分子量(Mp)5900の分子量マーカーとグルコース標準品のピーク位置を示す。
【0029】
【表6】
【0030】
実施例6
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)の澱粉糖粉末を蒸留水に溶解し、pH5.5、Bx10〜50のサンプルを調製し、恒温リアクターで150℃、30分保温した。150℃への到達時間は、すべての試験において15分であった。反応前の総リン絶対含量(mg)、脱リン率(%)を表7に示す。反応前の総リン絶対含量は下記式(4)に従って求めた。すべての濃度において、完全に結合リンが脱離した。
反応前の総リン絶対含量(mg)=
固形分(g)×総リン含量(ppm)/10×10・・・ (4)
(固形分(g)=Bx×比重(g/ml)×液量(ml))
【0031】
【表7】
【0032】
実施例7
甘藷澱粉(鹿児島県産)を濃度30% W/W、塩酸でpH2.2に調製し、ジェットクッキング装置にて、0.25MPaでコントロールした滞留菅内を99℃で6分、126℃で24分加熱滞留して糖化し、その後、実施例1と同様に精製、粉末化して、DE14.2、結合リン含量79ppmの澱粉糖粉末を得た。本粉末を実施例2と同様に、蒸留水に溶解し、Bx35、pH5.5へ調製して恒温リアクターにて150℃、30分反応させた。この際150℃への到達時間は15分であった。加熱処理後のDE、脱リン率(%)を表8に示す。酸糖化の澱粉糖においても、150℃、30分の保温で完全に結合リンが脱離した。
【0033】
【表8】
【0034】
実施例8
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。その後、恒温リアクターを用いて150℃、30分熱処理し、DE10.3、結合リン含量0ppm の脱リン澱粉糖を得た。その脱リン澱粉糖液200mLを、2N塩酸で再生した陽イオン交換樹脂(200CT オルガノ(株)製)20mLをカラムに充填し、陽イオン交換を行った。2N 水酸化ナトリウムで再生した陰イオン交換樹脂(WA−30、三菱ケミカル(株)製)10mLに通液した。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩試験の条件は、通液温度60℃、SV4(樹脂体積に対しての1時間あたりの通液体積)で実施した。図2に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の2.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは19倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0035】
実施例9
実施例2で得られた甘藷(DE9.6、結合リン含量138ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて150℃、5分処理、10分処理、30分処理を行い、それぞれ結合リン含量48ppm、15ppm、0ppmの脱リン化糖を得た。また、それぞれのDEは、9.7、9.8、10.5となった。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない結合リン含量138ppmの同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図3に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の2.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。しかし結合リン含量が、48ppm、15ppm、0ppmと少なくなるにつれて、電気伝導度が0.02mS/cmに到達するのが、4.5倍量、8.5倍量、19倍量と長くなり、脱塩不良が解消されていくことがわかる。
【0036】
実施例10
実施例7で得られた甘藷酸糖化(DE14.2、結合リン含量79ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて150℃、30分熱処理し、DE15.2、結合リン含量0ppm の脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない結合リン含量79ppmの同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図4に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の8倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0037】
実施例11
実施例2で得られたタピオカ(DE10.8、結合リン含量46ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、15分熱処理し、DE11.9、結合リン含量0ppmの脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図5に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の12.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0038】
実施例12
実施例2で得られたリン酸架橋澱粉(DE7.7、結合リン含量35ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、10分熱処理し、DE9.7、結合リン含量0ppmの脱リン酸澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図6に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の8.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは19倍まで電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0039】
実施例13
馬鈴薯澱粉分解物(DE3、結合リン含量426ppm)をBx20に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。次に恒温リアクターを用いて160℃、15分熱処理し、DE3.7、結合リン含量0ppmの脱リン酸澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同DE、同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図7に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の1.5倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで、0.02mS/cmに到達せず、電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
【0040】
実施例14
実施例2で得られた馬鈴薯澱粉(DE5.7、結合リン含量377ppm)の澱粉糖粉末をBx35に蒸留水で溶解し、pH5.5に調製した。この溶解液にβアミラーゼ(β−アミラーゼLナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.05%添加して、60℃、24時間酵素反応を行い、さらにαアミラーゼ(スピターゼHK−S/Rナガセケムテックス(株)製)を澱粉重量あたり0.02%添加して、24時間酵素反応を行うことで、DE48.0、結合リン含量377ppmの澱粉糖を調製した。
実施例2と同様に160℃、15分熱処理し、DE53.0、結合リン含量0ppmの脱リン澱粉糖を得た。その後、実施例8と同様に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いたイオン通液試験を行った。対照区として、熱処理を行っていない同DE、同濃度の澱粉糖を用いた。脱塩条件も、実施例8に準じた。図8に示すとおり、非熱処理の澱粉糖は、樹脂に対する通液量の16倍量程度で電気伝導度が0.02mS/cmに到達しておりイオン交換がなされていない。一方、熱処理を実施したものは20倍まで、0.02mS/cmに到達せず、電気伝導度の上昇が見られないことから、脱塩不良が解消されたことがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8