特開2018-202431(P2018-202431A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-202431(P2018-202431A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】非消耗電極アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/067 20060101AFI20181130BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   B23K9/067
   B23K9/073 525
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-107929(P2017-107929)
(22)【出願日】2017年5月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA08
4E082AA09
4E082BA01
4E082BA02
4E082BA03
4E082EA02
4E082EB11
4E082EB14
4E082EC03
4E082ED01
4E082EF02
(57)【要約】
【課題】非消耗電極アーク溶接において、アーク切れの発生を抑制すること。
【解決手段】非消耗の電極と母材との間に溶接電流Iwを通電し溶接電圧Vwを印加してアークを発生させて溶接する非消耗電極アーク溶接制御方法において、アーク発生中の溶接電圧Vwが基準電圧値以上となり、かつ、溶接電圧Vwの上昇率が基準上昇率以上となったときは、電極と母材との間に高周波高電圧を印加する。高周波高電圧の印加は、溶接電圧Vwが第2基準電圧値未満になるまで行う。これにより、アーク切れの前兆状態を判別して高周波高電圧を印加するので、アーク切れの発生を抑制することができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗の電極と母材との間に溶接電流を通電し溶接電圧を印加してアークを発生させて溶接する非消耗電極アーク溶接制御方法において、
アーク発生中の前記溶接電圧が基準電圧値以上となり、かつ、前記溶接電圧の上昇率が基準上昇率以上となったときは、前記電極と前記母材との間に高周波高電圧を印加する、
ことを特徴とする非消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記高周波高電圧の印加を所定期間行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記高周波高電圧の印加を、前記溶接電圧が第2基準電圧値未満になるまで行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記基準電圧値を前記溶接電流の設定値に応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非消耗の電極と母材との間に溶接電流を通電し溶接電圧を印加してアークを発生させて溶接する非消耗電極アーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非消耗電極アーク溶接には、ティグ溶接、プラズマアーク溶接等がある。非消耗電極アーク溶接では、電極にタングステン電極等の非消耗電極を使用し、アルゴンガス等のシールドガスによって大気から遮蔽した状態中で、電極と母材との間にアークを発生させて溶接を行う。鉄鋼、ステンレス鋼等に対しては直流非消耗電極アーク溶接が使用され、アルミニウム等に対しては交流非消耗電極アーク溶接が使用される。
【0003】
非消耗電極アーク溶接においては、溶接開始時に、高周波発生回路から電極と母材との間に高周波高電圧を印加して、アークを点弧するのが一般的である。高周波高電圧とは、数MHz数kV程度である。アークが一旦点弧すると、高周波高電圧の印加は停止される。すなわち、アーク発生中は高周波高電圧は印加されない。溶接中に所定期間(100ms程度)以上のアーク切れが発生した場合には、再びアークを点弧するために、高周波高電圧が印加される。交流非消耗電極アーク溶接では、極性が切り換わるときに一旦アークが消弧するので、極性切換時に高周波高電圧を印加する(特許文献1参照)。極性切換時に、高周波高電圧の代わりに直流の高電圧を短時間印加する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−154870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接中にアーク切れが発生すると、溶け込み深さ、ビード外観等の溶接品質が悪くなる。アーク切れは、溶接電流が小電流値であるとき、電極と母材との距離が変動したとき、母材の表面状態が悪いとき、シールド状態が悪いとき等に発生しやすくなる。したがって、アーク切れの発生を抑制することは、高品質の溶接を行うために重要である。
【0006】
そこで、本発明では、アーク切れの発生を抑制することができる非消耗電極アーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
非消耗の電極と母材との間に溶接電流を通電し溶接電圧を印加してアークを発生させて溶接する非消耗電極アーク溶接制御方法において、
アーク発生中の前記溶接電圧が基準電圧値以上となり、かつ、前記溶接電圧の上昇率が基準上昇率以上となったときは、前記電極と前記母材との間に高周波高電圧を印加する、
ことを特徴とする非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、前記高周波高電圧の印加を所定期間行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、前記高周波高電圧の印加を、前記溶接電圧が第2基準電圧値未満になるまで行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項4の発明は、前記基準電圧値を前記溶接電流の設定値に応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非消耗電極アーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アーク切れの前兆状態を判別して、高周波高電圧を印加するので、アーク切れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1に係る非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2図1で上述した溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態2に係る非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、非消耗電極アーク溶接が直流ティグ溶接の場合である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電流Iwを出力する。溶接電流Iwは、溶接トーチ4、電極1、アーク3及び母材2を通って通電し、電極1と母材2との間に溶接電圧Vwが印加する。
【0016】
電流設定回路IRは、予め定めた電流設定信号Irを出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって定電流制御され、所望値の溶接電流Iwが通電する。
【0017】
溶接開始回路STは、溶接を開始するときにHighレベルとなる溶接開始信号Stを出力する。この溶接開始回路STは、手動溶接の場合には、溶接トーチ4に取り付けられたトーチスイッチが対応し、ロボット溶接の場合にはロボット制御装置が対応する。
【0018】
電流通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値(1A程度)以上のときはアークが発生していると判別してHighレベルとなる電流通電判別信号Cdを出力する。
【0019】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0020】
基準電圧設定回路VTRは、予め定めた基準電圧設定信号Vtrを出力する。基準上昇率設定回路DTRは、予め定めた正の値である基準上昇率設定信号Dtrを出力する。
【0021】
電圧微分回路DVは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、電圧検出信号Vdの微分を行い、電圧微分信号Dvを出力する。
【0022】
アーク切れ前兆判別回路ADは、上記の電流通電判別信号Cd、上記の電圧検出信号Vd、上記の基準電圧設定信号Vtr及び上記の基準上昇率設定信号Dtrを入力として、電流通電判別信号CdがHighレベル(アーク発生中)であるときに、電圧検出信号Vdの値が基準電圧設定信号Vtrによって定まる基準電圧値Vt以上となり、かつ、電圧微分信号Dvの値が基準上昇率設定信号Dtrによって定まる基準上昇率Dt以上になったときはHighレベルとなり、それから所定期間が経過するとLowレベルとなる、アーク切れ前兆判別信号Adを出力する。アーク切れ前兆判別信号AdをLowレベルに戻すタイミングを、電圧検出信号Vdが予め定めた第2基準電圧値Vt2未満となった時点としても良い。第2基準電圧値Vt2は、基準電圧値Vtよりも小さな値である。
【0023】
高周波制御回路HCは、上記の溶接開始信号St、上記の電流通電判別信号Cd及び上記のアーク切れ前兆判別信号Adを入力として、以下に示す1)又は2)のときはHighレベルとなる高周波制御信号Hcを出力する。
1)溶接開始信号StがHighレベル(起動)であり、かつ、電流通電判別信号CdがLowレベル(非通電)であるとき。この状態は、溶接開始時にアークを点弧させるとき、又は、溶接中にアーク切れが発生したときである。
2)アーク切れ前兆判別信号AdがHighレベル(前兆判別時)であるとき。この状態は、アーク発生中にアーク切れの前兆状態が判別されたときである。
【0024】
高周波発生回路HFは、従来技術と同一の構成であるので詳細な構成は省略するが、高電圧変圧器、火花ギャップ、共振コンデンサ等から成り、上記の高周波制御信号Hcを入力として、高周波制御信号HcがHighレベルのときは高周波高電圧Hfを出力する。
【0025】
カップリングコイルCCは、溶接電流Iwの通電路に挿入され、上記の高周波高電圧Hfを電極1と母材2との間に印加する。バイパスコンデンサCは、高周波高電圧が電源主回路PMに印加されないようにバイパスする。
【0026】
図2は、図1で上述した溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は電流通電判別信号Cdの時間変化を示し、同図(D)はアーク切れ前兆判別信号Adの時間変化を示す。同図は、アーク発生中において外乱によってアーク長が長くなり、アーク切れの前兆状態となったときである。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0027】
時刻t1以前の期間中は、安定したアーク発生状態にある。この期間中は、同図(A)に示すように、電流設定信号Irによって設定された溶接電流Iwが通電している。また、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはアーク長に比例した通常値となっている。同図(C)に示すように、電流通電判別信号Cdは溶接電流Iwが通電しているのでHighレベルとなっている。同図(D)に示すように、アーク切れ前兆判別信号Adは溶接電圧Vwが通常値であるのでLowレベルとなっている。
【0028】
時刻t1から外乱によってアーク長が長くなり、アーク切れの前兆状態となる。アーク長が長くなると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは時刻t1から次第に上昇し、その上昇率も次第に大きくなる。時刻t2において、溶接電圧Vwは予め定めた基準電圧値Vt以上となり、時刻t3において溶接電圧Vwの上昇率(電圧微分信号Dv)が予め定めた基準上昇率Dt以上となる。時刻t3において、同図(C)に示す電流通電判別信号CdがHighレベルであり、かつ、溶接電圧Vwが基準電圧値Vt以上であり、かつ、溶接電圧Vwの上昇率が基準上昇率Dt以上であるので、同図(D)に示すように、アーク切れ前兆判別信号AdがHighレベルに変化する。これに応動して、高周波発生回路HFが動作して、電極1と母材2との間に高周波高電圧が印加される。高周波高電圧の印加によってアークは、電極1と母材2との最短距離に形成されるように誘導される。この結果、アーク長は次第に短くなり、通常値へと戻される。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3から少しの間上昇を継続した後に、時刻t4から減少へと反転し、時刻t5に予め定めた第2基準電圧値Vt2未満となり、時刻t6に通常値へと戻る。同図(D)に示すように、アーク切れ前兆判別信号Adは、溶接電圧Vwが第2基準電圧値Vt2未満となる時刻t5においてLowレベルに戻る。これに応動して、高周波発生回路HFは動作を停止するので、高周波高電圧の印加は停止する。アーク切れ前兆判別信号AdをLowレベルに戻すタイミングを、時刻t3にHighレベルに変化してから所定期間後としても良い。所定期間は、例えば100msである。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御されているので、全期間中一定値のままである。
【0029】
上記の基準電圧値Vtは、アーク長が正常範囲あるときの溶接電圧Vwの最大値と、アーク切れが発生したときの無負荷電圧値との中間の値に設定される。アーク長が正常範囲にあるときの溶接電圧Vwの最大値は例えば40Vであり、無負荷電圧値は例えば70Vであるので、例えば基準電圧値Vt=50Vに設定される。上記の基準上昇率Dtは、アーク切れの前兆状態を検出できるように実験によって適正値を求める。例えば、Dt=5V/msに設定される。上記の第2基準電圧値Vt2は、基準電圧値Vtよりも小さな値に設定される。例えば、Vt2=45Vに設定される。
【0030】
アーク切れの前兆状態を、溶接電圧Vwの値に加えて溶接電圧Vwの上昇率によって判別しているのは、どちらか片方だけでは前兆状態を後判別するおそれがあるためである。さらには、どちらか片方だけでは、前兆状態を判別するのが遅くなり、アーク切れを防止することができない場合が生じるからである。両方を使用することによって、アーク切れの前兆状態を正確に、かつ、早期に判別することができる。このために、アーク切れの発生をより確実に防止することができる。
【0031】
上述した実施の形態1によれば、アーク発生中の溶接電圧が基準電圧値以上となり、かつ、溶接電圧の上昇率が基準上昇率以上となったときは、電極と母材との間に高周波高電圧を印加する。これにより、本実施の形態では、アーク切れの前兆状態を判別して、高周波高電圧を印加するので、アーク切れの発生を抑制することができる。
【0032】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、アーク切れの前兆状態を判別するための基準電圧値を溶接電流の設定値に応じて変化させるものである。
【0033】
図3は、本発明の実施の形態2に係る非消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は上述した図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1の基準電圧設定回路VTRを電流設定連動基準電圧設定回路VTSRに置換したものである。以下、同図を参照してこのブロックについて説明する。
【0034】
電流設定連動基準電圧設定回路VTSRは、上記の電流設定信号Irを入力とする予め定めた関数によって算出された基準電圧設定信号Vtrを出力する。上述したように、基準電圧設定信号Vtrは、アーク長が正常範囲にあるときの溶接電圧Vwの最大値とアーク切れが発生したときの無負荷電圧値との中間の値に設定される。無負荷電圧値は、溶接電流Iwの値によらずほぼ同一値である。他方、アーク長が正常範囲にあるときの溶接電圧Vwの最大値は、溶接電流Iwの値に比例して大きくなる。したがって、電流設定信号Irが大きくなるほど基準電圧設定信号Vtrが大きくなるように設定すれば、アーク切れの前兆状態の判別をより早期に行うことができる。この結果、アーク切れをより確実に抑制することができる。
【0035】
図3で上述した溶接電源における各信号のタイミングチャートは、図2と同一であるので説明は省略する。但し、アーク切れの前兆状態を判別するための基準電圧値Vtが電流設定信号Irに連動して変化する点は異なっている。
【0036】
上述した実施の形態においては、非消耗電極アーク溶接が直流ティグ溶接である場合を説明したが、交流ティグ溶接、直流/交流プラズマアーク溶接の場合も同様である。
【符号の説明】
【0037】
1 (非消耗)電極
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
AD アーク切れ前兆判別回路
Ad アーク切れ前兆判別信号
C バイパスコンデンサ
CC カップリングコイル
CD 電流通電判別回路
Cd 電流通電判別信号
Dt 基準上昇率
DTR 基準上昇率設定回路
Dtr 基準上昇率設定信号
DV 電圧微分回路
Dv 電圧微分信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
HC 高周波制御回路
Hc 高周波制御信号
HF 高周波発生回路
Hf 高周波高電圧
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
PM 電源主回路
ST 溶接開始回路
St 溶接開始信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vt 基準電圧値
Vt2 第2基準電圧値
VTR 基準電圧設定回路
Vtr 基準電圧設定信号
VTSR 電流設定連動基準電圧設定回路
Vw 溶接電圧
図1
図2
図3