【解決手段】スパッタ付着防止具1は、孔の内周面を覆うピン状部材10と、ピン状部材10の突出方向と交差する方向に延びる面を有し、部材を覆う被覆部材20と、ピン状部材10及び被覆部材20が取り付けられる本体部30とを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スパッタをネジ孔に付着させてしまうと上述したネジさらいを行わなければならず、特に1つの製品に複数のネジ孔が設けられる場合には、多大な作業工数が必要になるという問題がある。
【0008】
また、各種部材が締結される締結面にスパッタが付着した場合には、部材を狙い通りに締結するのが困難になるので、締結面からスパッタを除去しなければならず、多大な作業工数が必要になるという問題がある。
【0009】
そこで、例えば特許文献1の樹脂製のスパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等を用意し、溶接前に、該シートやカバー等によって被溶接部材をその表面側から予め覆っておき、これにより、スパッタがネジ孔の内面に付着するのを防止することが考えられる。
【0010】
しかしながら、スパッタは広範囲に飛散するものなので、スパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等によって被溶接部材の表面側を覆っておいたとしても、スパッタ付着防止シートや金属板製のカバー等と被溶接部材との間からスパッタがネジ孔に侵入して該ネジ孔の内面に付着してしまい、ひいてはネジさらいが必要になることがあり、また、スパッタが締結面に付着してスパッタの除去作業が必要になることがある。
【0011】
また、特許文献2では、ナットの片面のみ覆うようにしているので、スパッタがナットの反対側からネジ孔に入る懸念がある。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接時のスパッタが例えばネジ孔や締結面等の所定箇所に付着するのを防止してスパッタの除去作業を不要にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では、ピン状部材と被覆部材とを設けることによってたとえば孔の内周面や締結面にスパッタが付着するのを防止するようにした。
【0014】
第1の発明は、溶接時に飛散するスパッタが部材の所定箇所に付着するのを防止するスパッタ付着防止具において、部材が有する孔に挿入されて該孔の内周面を覆うピン状部材と、上記ピン状部材の突出方向と交差する方向に延びる面を有し、部材に接触させて該部材を覆う被覆部材と、上記ピン状部材及び上記被覆部材を位置決めする本体部とを有していることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ピン状部材をナット等に挿入することで、ネジ孔を覆うことが可能になる。また、被覆部材をナットに接触させることでナットの端面を覆うことが可能になり、また、被覆部材を締結面に接触させることで締結面を覆うことが可能になる。これにより、溶接時のスパッタがネジ孔や締結面等に付着し難くなる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、上記本体部は、上記ピン状部材の軸方向に延びる筒状部を有し、上記ピン状部材の基端側は、上記筒状部が有する挿入口から該筒状部に挿入され、上記ピン状部材は、上記筒状部に対して軸方向に変位可能に支持されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、部材の形状や構造に応じてピン状部材と本体部の相対位置を変更することが可能になる。
【0018】
第3の発明は、第2の発明において、上記筒状部の内部には、上記ピン状部材の基端側に係合する弾性部材が収容され、上記弾性部材は、上記筒状部の内部に保持されて上記ピン状部材の基端側を軸方向に付勢することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、使用時にピン状部材を軸方向に変位させた後、外力を除くと元の位置にピン状部材を自動的に戻すことが可能になる。
【0020】
第4の発明は、第3の発明において、上記筒状部の内周面と、上記ピン状部材の基端側の外周面との間には隙間が形成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ピン状部材を筒状部の内部で径方向に変位させること(偏心)や、ピン状部材を筒状部の内部で傾けること(偏角)させることが可能になる。
【0022】
第5の発明は、第3または4の発明において、上記ピン状部材における上記筒状部に収容された部分には、上記弾性部材が係合する係合部が径方向に突出するように設けられ、上記弾性部材は、上記ピン状部材の上記係合部に軸方向一側から係合する第1弾性部材と、上記ピン状部材の上記係合部に軸方向他側から係合する第2弾性部材とを有し、上記第1弾性部材及び上記第2弾性部材は、上記ピン状部材を軸方向の変位範囲の中間部に位置付けるように付勢することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、ピン状部材を軸方向の変位範囲の中間部に位置付けておくことで、ピン状部材が本体部に対してフローティング状態になる。よって、ピン状部材の変位自由度が向上する。
【0024】
第6の発明は、第2から5のいずれか1つの発明において、上記ピン状部材の軸方向中間部に上記被覆部材が固定されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、ピン状部材と共に被覆部材も変位させることが可能になる。
【0026】
第7の発明は、第6の発明において、上記被覆部材は、上記筒状部の上記挿入口に対向するように配置される対向面を有し、上記ピン状部材の変位方向は、上記対向面が上記挿入口に接近する方向とされていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、ピン状部材が変位すると被覆部材の対向面が筒状部の挿入口に接近していく。これにより、溶接時のスパッタが筒状部の内部に入り難くなる。
【0028】
第8の発明は、第7の発明において、上記被覆部材は、上記筒状部における上記挿入口側の外周面を覆うように形成された周壁部を有していることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、被覆部材の周壁部によって筒状部における挿入口側の外周面が覆われるので、溶接時のスパッタが筒状部の内部に入り難くなる。
【発明の効果】
【0030】
第1の発明によれば、部材が有する孔に挿入されて該孔の内周面を覆うピン状部材と、該ピン状部材の突出方向と交差する方向に延びる面を有し、部材に接触して該部材を覆う被覆部材とを有しているので、溶接時のスパッタが例えばネジ孔や締結面等の所定箇所に付着するのを防止してスパッタの除去作業を不要にすることができる。
【0031】
第2の発明によれば、ピン状部材を軸方向に変位可能に支持したので、部材の形状や構造に応じてピン状部材と本体部との相対位置を変更することができ、スパッタ付着防止具の汎用性を高めることができる。
【0032】
第3の発明によれば、使用時にピン状部材を軸方向に変位させた後、元の位置にピン状部材を自動的に戻すことができる。
【0033】
第4の発明によれば、ピン状部材を筒状部の内部で径方向に変位させたり、ピン状部材を筒状部の内部で傾けることができるので、ナットの芯ズレや締結面の角度バラツキに対応するようにピン状部材を動かすことができる。
【0034】
第5の発明によれば、第1弾性部材及び第2弾性部材によってピン状部材を軸方向の変位範囲の中間部に位置付けるように付勢することができるので、ピン状部材を本体部に対してフローティング状態にすることができ、ピン状部材の変位自由度を向上させることができる。
【0035】
第6の発明によれば、被覆部材をたとえば締結面に接触させる場合に、締結面の位置バラツキに対応するように被覆部材を動かすことができる。
【0036】
第7の発明によれば、被覆部材の対向面を筒状部の挿入口に接近する方向に変位させることができるので、溶接時のスパッタが筒状部の内部に入り難くなる。これにより、ピン状部材の動作不良を防止することができる。
【0037】
第8の発明によれば、筒状部における挿入口側の外周面を被覆部材の周壁部によって覆うことができるので、溶接時のスパッタが筒状部の内部に入り難くなり、ピン状部材の動作不良を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0040】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るスパッタ付着防止具1の使用状態を示す斜視図である。スパッタ付着防止具1は、
図1に示すネジ孔102を有する部材としてのナット101における当該ネジ孔102の内面(部材の所定箇所)に、溶接時に飛散するスパッタが付着するのを防止するとともに、第1板材103の締結面(部材の所定箇所)にスパッタが付着するのを防止するために使用することができるものである。締結面とは、各種部材を締結する際に、当該部材が接触する面である。尚、スパッタ付着防止具1は、ネジ孔101の内面にスパッタが付着しないように使用する使用方法と、締結面にスパッタが付着しないように使用する使用方法とのうち、一方の使用方法でのみ使用してもよいし、両方の使用方法で使用してもよい。
【0041】
図1に示す符号100は自動車のサスペンション装置の一部を構成する部品を示している。この部品100は、ナット101、第1板材103、第2板材104及び第3板材105を組み合わせて構成されている。第1板材103、第2板材104及び第3板材105は、それぞれ所定形状となるようにプレス成形されている。
図5に部品100の一部の断面を示すように、第1板材103と第2板材104とは厚み方向に重ね合わされて溶接される。
図1に示すように、第2板材104と、第3板材105とによって袋構造が構成されている。第2板材104と、第3板材105との間には隙間Sが形成されている。また、第3板材105には、貫通孔105aが形成されている。溶接時のスパッタは、隙間Sや貫通孔105aから袋構造の内部に入ることがある。
【0042】
また、
図5に示すように、第2板材104には、ナット101が溶接されている。第2板材104におけるナット101のネジ孔102に対応する部分には開口部104aが形成されている。また、第1板材103におけるナット101のネジ孔102に対応する部分には開口部103aが形成されている。第1板材103における第2板材104と反対側の面の開口部103aの周囲は、締結面103bとされている。
【0043】
(スパッタ付着防止具1の構成)
図3及び
図4に示すように、スパッタ付着防止具1は、ピン状部材10と、被覆部材20と、本体部30と、第1弾性部材40と、第2弾性部材50とを備えている。ピン状部材10は、ナット101のネジ孔102に挿入されて該ネジ孔102を覆うための部材である。
図5に示すように、ピン状部材10は、第1板材103の開口部103a及び第2板材104の開口部104aに挿入されて該開口部103a、104aの内周面を覆うこともできる。
【0044】
ピン状部材10の軸方向中間部には、径方向外方へ突出する鍔部10aが一体成形されている。鍔部10aはピン状部材10の周方向に連続して形成されている。ピン状部材10の外周面には、鍔部10aよりも先端側に軸方向に延びるとともに、上記ナット101のネジ孔102に挿入される挿入面10bが形成されている。ピン状部材10の外周面における挿入面10bよりも先端側には、先端へ行くほど小径となるように形成されたテーパー面10cが形成されている。テーパー面10cは、挿入面10bを上記ナット101のネジ孔102に挿入する際の案内面となる。
【0045】
ピン状部材10の鍔部10aよりも基端側は、本体部30に挿入される部分である。ピン状部材10の基端側には、小径部10dが形成されている。さらに、小径部10dの基端側には、ネジ溝10eが形成されている。この実施形態では、ピン状部材10の基端側及び先端側の境界を鍔部10aとしている。
【0046】
ピン状部材10の鍔部10aよりも基端側には、カラー11と、スペーサ12と、係合部を構成するリング状部材13と、緩み止めワッシャ14と、ナット15とが設けられている。カラー11、スペーサ12、リング状部材13及び緩み止めワッシャ14には、ピン状部材10の基端側が挿入される。
【0047】
カラー11は、ピン状部材10の鍔部10aよりも基端側を覆うように配置されていて、該カラー11の先端部は後述する被覆部材20の対向面21bに当接する。スペーサ12はカラー11の基端部に当接する。リング状部材13は、スペーサ12に当接する。リング状部材13は、カラー11、スペーサ12、緩み止めワッシャ14及びナット15の外周面よりも径方向外方まで突出して環状に延びる突出部13aを有している。突出部13aは、本体部30の筒状部31の内部において軸方向中間部に配置される。この突出部13aに、第1弾性部材40及び第2弾性部材50が係合する。
【0048】
緩み止めワッシャ14は、リング状部材13に当接する。ナット15は、ピン状部材10の基端側に形成されているネジ溝10eに螺合する。ナット15をネジ溝10eに螺合させることで、カラー11、スペーサ12、リング状部材13及び緩み止めワッシャ14が軸方向に締結されてピン状部材10と一体化する。これにより、リング状部材13がピン状部材10の軸方向に相対的に移動しなくなる。
【0049】
被覆部材20は、ピン状部材10の突出方向と交差する方向に延びる接触面21aを有し、該接触面21aを第1板材103の締結面103bに接触させて該締結面103bを覆うための部材である。被覆部材20は、ピン状部材10の突出方向と交差する方向に延びる端壁部21と、端壁部21の周縁部からピン状部材10の基端側へ突出する周壁部22とを有している。この実施形態では、端壁部21が円形とされているが、これに限らず、楕円形や多角形の壁部であってもよい。この端壁部21に接触面21aが形成されている。この接触面21aは、第1板材103の締結面103bに沿う形状であればよい。この実施形態では、接触面21aが平坦面で構成されている。
【0050】
被覆部材20の端壁部21における接触面21aと反対側の面は、後述する筒状部の挿入口に対向するように配置される対向面21bとされている。この対向面21bも接触面21aと同様に平坦面で構成されている。
【0051】
端壁部21の中心部には、ピン状部材10が差し込まれる差込孔21cが厚み方向に貫通するように形成されている。差込孔21cは略円形であり、ピン状部材10における鍔部10aよりも基端側の外径と略同じ径を有している。また、端壁部21の接触面21aには凹部21dが形成されている。凹部21dには、ピン状部材10の鍔部10aが嵌合するようになっている。ピン状部材10が差込孔21cに差し込まれた状態で鍔部10aが凹部21dに嵌合することにより、ピン状部材10の軸方向中間部に被覆部材22が固定される。
【0052】
周壁部22は円筒状をなしており、本体部30の筒状部31における挿入口31a側の外周面を覆うように形成されている。周壁部22における端壁部21側は相対的に厚く形成されており、これにより、周壁部22には小径内周面22aと大径内周面22bとが形成されることになる。周壁部22における小径内周面22aと大径内周面22bとの間には、径方向に延びる中間面22cが形成されている。中間面22cは、周方向に連続して延びている。
【0053】
本体部30は、ピン状部材10及び被覆部材20が取り付けられ、該ピン状部材10及び被覆部材20を位置決めするための部材である。本体部30は、ピン状部材10の軸方向に延びる筒状部31と、端板部材32と、円環部材33と、ブラケット34とを備えている。ブラケット34は、板材からなるものであり、
図2等に示すように屈曲した形状であってもよいし、平板形状であってもよい。ブラケット34には、筒状部31が挿通する挿通孔34aが該ブラケット34の厚み方向に貫通するように形成されている。また、ブラケット34には、ネジ孔34b、34bも形成されている。ネジ孔34b、34bは、挿通孔34aを挟むように配置されている。
【0054】
筒状部31は、略円筒状に形成されている。筒状部31の先端面31cには、ピン状部材10の基端側が挿入される挿入口31aが形成されている。ピン状部材10は、筒状部31に対して軸方向に変位可能に、後述する第1弾性部材40及び第2弾性部材50によってフローティング支持されている。挿入口31aの径は、ピン状部材10の基端側の径及びスペーサ11の外径よりも大きく設定されており、スペーサ11の外周面と、挿入口31aの周縁部との間に所定の隙間Aが全周に亘って形成されるようになっている。筒状部31の先端面31c及び挿入口31aには、被覆部材20の対向面21bが対向するようになっている。
【0055】
筒状部31の外周面における軸方向中間部には、径方向外方へ延びる中間面31bが形成されている。被覆部材20の対向面21bが筒状部31の先端面31cと対向するように、被覆部材20を配置した状態で、筒状部31の中間面31bと、被覆部材20の中間面22cとが対向するように配置される。このとき、被覆部材20の対向面21bと筒状部31の先端面31cとの間隔L1と、筒状部31の中間面31bと被覆部材20の中間面22cとの間隔L2とは略等しく設定されている。
【0056】
筒状部31の基端面31dには、挿入口31aよりも大径の開口部31eが形成されている。また、筒状部31の基端面31d側の内周面には、内側段部31fが全周に亘って形成されている。内側段部31fには、円環部材33が嵌合する。円環部材33の厚さは、内側段部31fに嵌合した状態で、筒状部31の基端面31dから突出しないように設定されている。また、筒状部31の内周面と、ピン状部材10の基端側の外周面との間には、所定の隙間Bが全周に亘って形成されている。
【0057】
筒状部31の基端面31d側の外周面には、張り出し部31gが径方向外方へ張り出すように形成されている。張り出し部31gは、筒状部31の全周に亘って形成されている。
【0058】
端板部材32は、筒状部31の基端面31dに覆うように形成されて該基端面31dに接触するように配置される部材である。端板部材32は、筒状部31の基端面31dよりも大きく形成されており、基端面31dに覆うように配置された状態で該基端面31dから筒状部31の径方向両側へそれぞれ延出している。端板部材32における基端面31dから延出した部分には、それぞれ、貫通孔32aが形成されている。
【0059】
筒状部31をブラケット34の挿通孔34aに挿通し、端板部材32を筒状部31の基端面31dに接触させると、ブラケット34と端板部材32とによって筒状部31の張り出し部31gを筒状部31の軸方向に挟むことができる。筒状部31の張り出し部31gをブラケット34と端板部材32とによって挟んだ状態で、端板部材32の貫通孔32aに、ボルト等の締結部材Cを挿通するとともに該締結部材Cをブラケット34のネジ孔34bに螺合させることにより、筒状部31をブラケット34に固定することができる。
【0060】
第1弾性部材40及び第2弾性部材50は、ピン状部材10の基端側である突出部13aに係合する部材であり、共に筒状部31の内部に収容されている。第1弾性部材40及び第2弾性部材50はコイルスプリング等で構成することができるが、これに限らず、たとえばゴムやエラストマー等で構成することもできる。第1弾性部材40及び第2弾性部材50は、ピン状部材10の基端側を軸方向に付勢する付勢力を作用させる。
【0061】
第1弾性部材40は、筒状部31の内部において該筒状部31の軸方向に伸縮するように配置されている。第1弾性部材40における筒状部31の先端側の端部が、該筒状部31の先端側の内周面によって保持されている。第1弾性部材40における筒状部31の基端側の端部が、突出部13aに対して軸方向一側(
図4における上側)から当接することによって係合している。
【0062】
第2弾性部材50も第1弾性部材40と同様に、筒状部31の内部において該筒状部31の軸方向に伸縮するように配置されている。第2弾性部材50における筒状部31の基端側の端部が、円環部材33の内側で保持されている。第2弾性部材50における筒状部31の先端側の端部が、突出部13aに対して軸方向他側(
図4における下側)から当接することによって係合している。
【0063】
第1弾性部材40はピン状部材10を筒状部31の基端側へ向けて付勢する一方、第2弾性部材50はピン状部材10を筒状部31の先端側へ向けて付勢する。第1弾性部材40及び第2弾性部材50の付勢力は、それぞれ、バネ定数や第1弾性部材40及び第2弾性部材50の長さ等によって任意に設定することができる。
【0064】
この実施形態では、ピン状部材10に対して第1弾性部材40及び第2弾性部材50以外の外力が作用していない状態で、ピン状部材10の基端面10fと、端板部32との間に所定の隙間Eが形成されるように、第1弾性部材40及び第2弾性部材50の付勢力が設定されている。これにより、ピン状部材10及び被覆部材20は本体部30に対してフローティング状態になり、ピン状部材10及び被覆部材20に軸方向の外力が作用した際に本体部30に対して軸方向に変位可能になる。また、第1弾性部材40及び第2弾性部材50による付勢力は、ピン状部材10を軸方向の変位範囲の中間部に位置付けるように作用するので、軸方向の一側及び他側の両方にピン状部材10を変位させることができる。
【0065】
隙間Eは、間隔L1、L2と同じか、間隔L1、L2よりも広くするのが好ましい。
【0066】
また、隙間A及び隙間Bが形成されているので、
図7に示すように、ピン状部材10を筒状部31に対して径方向に変位させること(偏心)や、
図8に示すように、ピン状部材10を筒状部31の内部で傾けること(偏角)させることが可能になる。偏心及び偏角させた状態から外力を除くと、
図4に示すようにピン状部材10及び被覆部材20が元の位置に戻る。つまり、第1弾性部材40及び第2弾性部材50によってピン状部材10及び被覆部材20を本体部30に対してフローティング支持しているので、自動調芯機能を持たせることができる。
【0067】
尚、ピン状部材10及び被覆部材20を別のサイズのものに交換することができる。これにより、ナット101等の大きさや締結面103bの大きさ等に応じたピン状部材10及び被覆部材20にすることができるので、汎用性を高めることができる。
【0068】
(スパッタ付着防止具1の使用方法)
次に、上記のように構成されたスパッタ付着防止具1の使用方法について説明する。スパッタ付着防止具1のブラケット34をボルト等の締結部材D(
図1に示す)によって産業用ロボットのアームや組み立てジグ(図示せず)に取り付け、それらによってスパッタ付着防止具1を動かすことができるようにしておく。そして、スパッタの付着を防止したい箇所にスパッタ付着防止具1を配置する。
【0069】
まず、
図5に示すように、第1板材103の開口部103a、第2板材104の開口部104a及びナット101のネジ孔102に、ピン状部材10をその先端側から挿入する。そして、被覆部材20の接触面21aを第1板材103の締結面103bに接触させる。これにより、ナット101のネジ孔102をピン状部材10の挿入面10bで覆うことができ、また、第1板材103の締結面103bを被覆部材20の接触面21aで覆うことができる。これにより、溶接時のスパッタがネジ孔102や締結面103b等に付着し難くなる。
【0070】
ピン状部材10を挿入する際には、ピン状部材10の先端側にテーパー面10cが形成されているので、多少の芯ズレが起こっていても、ピン状部材10を第1板材103の開口部103a、第2板材104の開口部104a及びナット101のネジ孔102に確実に挿入することができる。
【0071】
また、ピン状部材10及び被覆部材20を偏心及び偏角させることができるので、ナット101の多少の位置ずれや、締結面103bの角度バラツキが起こっていても許容することができる。
【0072】
その後、
図6に示すように、被覆部材20の接触面21aを第1板材103の締結面103bに押し付けるように、スパッタ付着防止具1を移動させることができる。このときのピン状部材10の変位方向は、被覆部材20の対向面21bが筒状部31の挿入口31aに接近する方向である。
図6に示す状態では、被覆部材20の対向面21bが筒状部31の先端面31cと接触し、また、筒状部31の中間面31bが被覆部材20の中間面22cと接触する。このとき、隙間Eを間隔L1、L2と同じにしている場合には、ピン状部材10の基端面10fと端板部32とが接触することになるが、隙間Eを間隔L1、L2よりも広くしていれば、ピン状部材10の基端面10fと端板部32とが接触することはなく、被覆部材20の対向面21bが筒状部31の先端面31cと確実に接触し、また、筒状部31の中間面31bが被覆部材20の中間面22cと確実に接触する。これにより、溶接時のスパッタが筒状部31の内部に入り難くなる。
【0073】
(実施形態2)
図9〜
図13は、本発明の実施形態2に係るスパッタ付着防止具1を示すものである。上記実施形態1では、ピン状部材10と被覆部材20とが一体化した状態で本体部30に対して動くように構成されていたが、この実施形態2では、ピン状部材10と被覆部材20が相対的に変位可能に構成されている点で実施形態1とは異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、実施形態1とは異なる部分について詳細に説明する。
【0074】
図10及び
図11にも示すように、実施形態2のスパッタ付着防止具1は、ピン状部材10と、被覆部材20と、本体部30と、大径コイルバネ60と、小径コイルバネ61とを備えている。本体部30は、ピン状部材10及び被覆部材20を位置決めするための部材である。本体部30は、ブラケット34の他、直方体に近い形状に成形されたハウジング35と、ハウジング固定ボルト36と、コイルバネ位置決め部材37と、位置決め部材固定ボルト38とを備えている。
図10に示すように、ブラケット34には、ハウジング固定ボルト36が挿通するボルト挿通孔34cと、位置決め部材固定ボルト38が螺合するボルト螺合孔34dとが互いに間隔をあけて形成されている。ボルト挿通孔34cのブラケット34の周縁部近傍に形成されている。ボルト螺合孔34dはブラケット34の中央部に近傍に形成されている。
【0075】
ハウジング固定ボルト36をブラケット34のボルト挿通孔34cに挿通させてハウジング35に形成されたネジ孔(図示せず)に螺合させることでハウジング35がブラケット34に固定される。ハウジング35におけるブラケット34側の端面は開放されており、この開放部分がブラケット34によって閉塞されるようになっている。
【0076】
ハウジング35には、ブラケット34に固定される側とは反対側に開口部35aが形成されている。この開口部35aはハウジング35に内部と連通しており、開口部35aを介してハウジング35が開放可能になっている。開口部35aは円形にすることができるが、これに限られるものではない。
【0077】
コイルバネ位置決め部材37は、略円形の固定板部37aと、固定板部37aの周縁部に形成された円環状の周壁部37bとを備えている。固定板部37aの中心部には、ボルト挿通孔37cが形成されている。このボルト挿通孔37cに位置決め部材固定ボルト38を挿通させてボルト螺合孔34dに螺合させることによってコイルバネ位置決め部材37がブラケット34に固定される。この状態で、コイルバネ位置決め部材37の周壁部37bがブラケット34におけるコイルバネ位置決め部材37が固定された面から突出するように配置されることになる。
【0078】
被覆部材20は、ピン状部材10の突出方向と交差する方向に延びる接触面21aを有している。被覆部材20には、ピン状部材10が挿入されるピン挿入孔23が形成されている。ピン挿入孔23の内径は、ピン状部材10の鍔部10aの外径よりも小さく、かつ、ピン状部材10の鍔部10a以外の部分の外径よりも大きく設定されている。従って、ピン状部材10の鍔部10aがピン挿入孔23の周縁部に対してハウジング35の内方から当接して係合することによってピン状部材10の抜けが阻止される。また、ピン状部材10の鍔部10a以外の部分の外周面と、ピン挿入孔23の内周面との間には、隙間が形成されており、これにより、ピン状部材10が被覆部材20のピン挿入孔23の内方において傾動可能になる。
【0079】
被覆部材20の外周面には突条部24が形成されている。突条部24は、ハウジング35の内方から開口部35aの周縁部に対して当接して係合するようになっている。これにより、被覆部材20がハウジング35の開口部35aから抜けなくなる。被覆部材20の外周面と、ハウジング35の開口部35aの内周面との間に隙間が形成されるように、開口部35aの大きさ及び被覆部材20の外径が設定されている。これにより、被覆部材20が開口部35aの内方において傾動可能になる。
【0080】
また、ピン状部材10の鍔部10aが被覆部材20のピン挿入孔23の周縁部に当接しているだけなので、例えばピン状部材10を固定しておき、被覆部材20のみ動かすことや、被覆部材20を固定しておき、ピン状部材10のみ動かすことができる。もちろん、ピン状部材10と被覆部材20を一緒にしてハウジング35に対して動かすこともできる。
【0081】
大径コイルバネ60は、被覆部材20と、ブラケット34におけるコイルバネ位置決め部材37が固定された面との間に配設されており、被覆部材20を、ブラケット34におけるコイルバネ位置決め部材37が固定された面から離れる方向に常時付勢している。大径コイルバネ60の上端部は被覆部材20に嵌合している。大径コイルバネ60の下端部はコイルバネ位置決め部材37の外周面に嵌合している。これにより、大径コイルバネ60が所定位置で固定される。
【0082】
小径コイルバネ61は、大径コイルバネ60の内方において、ピン状部材10の底面と、コイルバネ位置決め部材37の固定板部37aとの間に配設されており、ピン状部材10を、コイルバネ位置決め部材37の固定板部37aから離れる方向に常時付勢している。小径コイルバネ61の上端部はピン状部材10の底面に嵌合している。小径コイルバネ61の下端部は位置決め部材固定ボルト38の頭部に嵌合している。これにより、小径コイルバネ61が所定位置で固定される。尚、小径コイルバネ61は大径コイルバネ60よりも短くなっている。また、小径コイルバネ61による付勢力と、大径コイルバネ60による付勢力とは異ならせてもよいし、同じにしてもよい。
【0083】
大径コイルバネ60及び小径コイルバネ61により、ピン状部材10及び被覆部材20をフローティング支持することができる。スパッタ付着防止具1の使用時に、例えば
図12に示すようにピン状部材10及び被覆部材20が同方向に傾動することや、
図13に示すようにピン状部材10及び被覆部材20が互いに異なる方向に傾動することも可能になる。また、ピン状部材10及び被覆部材20を独立して偏心させたり、偏角させることができるので、多少の芯ズレが起こっていても、ピン状部材10を第1板材103の開口部103a、第2板材104の開口部104a及びナット101のネジ孔102に確実に挿入することができる。
【0084】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。