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特開2018-2029594輪駆動車及び4輪駆動車の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-202959(P2018-202959A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】4輪駆動車及び4輪駆動車の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20181130BHJP
【FI】
   B60K23/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-109136(P2017-109136)
(22)【出願日】2017年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新見 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】永山 剛
(72)【発明者】
【氏名】皿井 浩太郎
【テーマコード(参考)】
3D036
【Fターム(参考)】
3D036GA14
3D036GB05
3D036GD01
3D036GD02
3D036GD09
3D036GG29
3D036GH01
3D036GJ01
3D036GJ17
(57)【要約】
【課題】2輪駆動状態から4輪駆動状態への切り替えを速やかに行うことを可能としながら、この切り替え時におけるNVの発生を抑制することが可能な4輪駆動車及びその制御方法を提供する。
【解決手段】4輪駆動車1は、プロペラシャフト5への駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチ40と、プロペラシャフト5から左後輪14L及び右後輪14Rへの駆動力の伝達を遮断可能な第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rと、第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rを押圧する第1及び第2のピストン67L,67Rと、第1及び第2のシリンダ室604L,604Rに作動油を供給する油圧回路7とを備える。4輪駆動状態への移行時に、第1の多板クラッチ62Lを介して伝達されるトルクによってプロペラシャフト5の回転を増速させて噛み合いクラッチ40を噛み合わせると共に、第2の多板クラッチ62Rからはプロペラシャフト5へトルクを伝達させない。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力が一対の主駆動輪及び一対の補助駆動輪に伝達される4輪駆動状態と前記駆動力が前記一対の主駆動輪にのみ伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車であって、
前記2輪駆動状態で前記駆動力を前記補助駆動輪側に伝達するプロペラシャフトと、
相対回転可能な一対の噛み合い部材を有し、前記駆動源から前記プロペラシャフトへの前記駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチと、
前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち一方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第1の多板クラッチと、
前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち他方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第2の多板クラッチと、
前記第1の多板クラッチを軸方向に押圧する第1のピストンと、
前記第2の多板クラッチを軸方向に押圧する第2のピストンと、
油圧ポンプ及び複数の制御弁を有し、前記油圧ポンプから吐出される作動油を前記複数の制御弁を介して前記第1及び第2のピストンのそれぞれに対応するシリンダ室に供給する油圧回路と、
前記噛み合いクラッチ及び前記油圧回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記2輪駆動状態での走行時に前記噛み合いクラッチならびに前記第1及び第2の多板クラッチを解放状態として前記プロペラシャフトの回転を停止させ、前記2輪駆動状態から前記4輪駆動状態に移行する際、前記第1の多板クラッチを介して前記一方の補助駆動輪から伝達されるトルクによって前記プロペラシャフトの回転を増速させて前記一対の噛み合い部材を回転同期させて噛み合わせると共に、前記第2の多板クラッチからは前記プロペラシャフトの回転を増速させるトルクを伝達させない、
4輪駆動車。
【請求項2】
前記第1及び第2の多板クラッチは、軸方向に押圧されることにより摩擦接触する複数のクラッチプレートを有し、
前記制御装置は、前記一対の噛み合い部材が噛み合わされる時までに前記第2のピストンのシリンダに前記作動油を供給して前記第2の多板クラッチの前記複数のクラッチプレート間の隙間を詰める、
請求項1に記載の4輪駆動車。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の多板クラッチの前記複数のクラッチプレート間の隙間詰めがされた後に前記第2のピストンのシリンダに前記作動油を供給する、
請求項2に記載の4輪駆動車。
【請求項4】
駆動源の駆動力が一対の主駆動輪及び一対の補助駆動輪に伝達される4輪駆動状態と前記駆動力が前記一対の主駆動輪にのみ伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車の制御方法であって、
前記4輪駆動車は、
前記2輪駆動状態で前記駆動力を前記補助駆動輪側に伝達するプロペラシャフトと、
相対回転可能な一対の噛み合い部材を有し、前記駆動源から前記プロペラシャフトへの前記駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチと、
前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち一方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第1の多板クラッチと、
前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち他方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第2の多板クラッチと、
前記第1の多板クラッチを軸方向に押圧する第1のピストンと、
前記第2の多板クラッチを軸方向に押圧する第2のピストンと、
油圧ポンプ及び複数の制御弁を有し、前記油圧ポンプから吐出される作動油を前記複数の制御弁を介して前記第1及び第2のピストンのそれぞれに対応するシリンダ室に供給する油圧回路とを備え、
前記2輪駆動状態での走行時に前記噛み合いクラッチならびに前記第1及び第2の多板クラッチを解放状態として前記プロペラシャフトの回転を停止させ、前記2輪駆動状態から前記4輪駆動状態に移行する際、前記第1の多板クラッチを介して前記一方の補助駆動輪から伝達されるトルクによって前記プロペラシャフトの回転を増速させて前記一対の噛み合い部材を回転同期させて噛み合わせると共に、前記第2の多板クラッチからは前記プロペラシャフトの回転を増速させるトルクを伝達しない、
4輪駆動車の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の駆動力が一対の主駆動輪及び一対の補助駆動輪に伝達される4輪駆動状態と、駆動力が一対の主駆動輪にのみ伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行状態に応じて4輪駆動状態と2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車がある。本出願人は、この4輪駆動車として、特許文献1に記載のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の4輪駆動車は、駆動源からプロペラシャフトへの駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチと、プロペラシャフトによって伝達される駆動力を受けて回転する駆動軸と、駆動軸と左右一対の補助駆動輪との間にそれぞれ配置された一対の油圧クラッチと、一対の油圧クラッチへ作動油を供給して複数のクラッチプレート同士を摩擦接触させる油圧ユニットと、油圧ユニットを制御する制御装置とを備えている。制御装置は、2輪駆動状態での走行時に噛み合いクラッチ及び一対の油圧クラッチを解放状態としてプロペラシャフトの回転を停止させる。これにより、プロペラシャフトの回転に伴う動力ロスが抑制され、燃費性能が向上する。
【0004】
一方、制御装置は、2輪駆動状態から4輪駆動状態に切り替える際、補助駆動輪から油圧クラッチを介して伝達されるトルクによってプロペラシャフトの回転を増速させ、噛み合いクラッチの一対の噛み合い部材の回転を同期させてからこれら一対の噛み合い部材を噛み合わせる。また、制御装置は、この4輪駆動状態への切り替えを速やかに行うために、一対の油圧クラッチのうち一方の油圧クラッチへの作動油の供給を他方の油圧クラッチへの作動油の供給よりも先行させ、もしくは一方の油圧クラッチへの作動油の供給量を他方の油圧クラッチへの作動油の供給量よりも多くする。これにより、双方の油圧クラッチに対して同じ量の作動油を同時に供給する場合に比較して、一方の油圧クラッチのクラッチプレート同士が迅速に摩擦接触するので、プロペラシャフトの回転を速やかに増速させることができ、2輪駆動状態から4輪駆動状態への切り替えに要する時間が短縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−30477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の4輪駆動車では、上記のように2輪駆動状態から4輪駆動状態への切り替えを速やかに行うことが可能となるが、一方の油圧クラッチによって伝達されるトルクによってプロペラシャフトの回転を増速させている最中に他方の油圧クラッチのクラッチプレート同士が摩擦接触すると、他方の油圧クラッチからもプロペラシャフトの回転を増速させるトルクが伝達され、プロペラシャフトの回転速度が急上昇する。そして、このプロペラシャフトの回転速度の急変により、駆動力伝達系の剛性によってはNV(noise :音やvibration:振動)が発生し、運転者や同乗者に不快感を与えてしまうおそれがある。特許文献1に記載の4輪駆動車では、この点においてなお改善の余地を有するものとなっていた。
【0007】
そこで、本発明は、2輪駆動状態から4輪駆動状態への切り替えを速やかに行うことを可能としながら、この切り替え時におけるNVの発生を抑制することが可能な4輪駆動車及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、駆動源の駆動力が一対の主駆動輪及び一対の補助駆動輪に伝達される4輪駆動状態と前記駆動力が前記一対の主駆動輪にのみ伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車であって、前記2輪駆動状態で前記駆動力を前記補助駆動輪側に伝達するプロペラシャフトと、相対回転可能な一対の噛み合い部材を有し、前記駆動源から前記プロペラシャフトへの前記駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチと、前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち一方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第1の多板クラッチと、前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち他方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第2の多板クラッチと、前記第1の多板クラッチを軸方向に押圧する第1のピストンと、前記第2の多板クラッチを軸方向に押圧する第2のピストンと、油圧ポンプ及び複数の制御弁を有し、前記油圧ポンプから吐出される作動油を前記複数の制御弁を介して前記第1及び第2のピストンのそれぞれに対応するシリンダ室に供給する油圧回路と、前記噛み合いクラッチ及び前記油圧回路を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記2輪駆動状態での走行時に前記噛み合いクラッチならびに前記第1及び第2の多板クラッチを解放状態として前記プロペラシャフトの回転を停止させ、前記2輪駆動状態から前記4輪駆動状態に移行する際、前記第1の多板クラッチを介して前記一方の補助駆動輪から伝達されるトルクによって前記プロペラシャフトの回転を増速させて前記一対の噛み合い部材を回転同期させて噛み合わせると共に、前記第2の多板クラッチからは前記プロペラシャフトの回転を増速させるトルクを伝達させない、4輪駆動車を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、駆動源の駆動力が一対の主駆動輪及び一対の補助駆動輪に伝達される4輪駆動状態と前記駆動力が前記一対の主駆動輪にのみ伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能な4輪駆動車の制御方法であって、前記4輪駆動車は、前記2輪駆動状態で前記駆動力を前記補助駆動輪側に伝達するプロペラシャフトと、相対回転可能な一対の噛み合い部材を有し、前記駆動源から前記プロペラシャフトへの前記駆動力の伝達を遮断可能な噛み合いクラッチと、前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち一方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第1の多板クラッチと、前記プロペラシャフトから前記一対の補助駆動輪のうち他方の補助駆動輪への前記駆動力の伝達を遮断可能な第2の多板クラッチと、前記第1の多板クラッチを軸方向に押圧する第1のピストンと、前記第2の多板クラッチを軸方向に押圧する第2のピストンと、油圧ポンプ及び複数の制御弁を有し、前記油圧ポンプから吐出される作動油を前記複数の制御弁を介して前記第1及び第2のピストンのそれぞれに対応するシリンダ室に供給する油圧回路とを備え、前記2輪駆動状態での走行時に前記噛み合いクラッチならびに前記第1及び第2の多板クラッチを解放状態として前記プロペラシャフトの回転を停止させ、前記2輪駆動状態から前記4輪駆動状態に移行する際、前記第1の多板クラッチを介して前記一方の補助駆動輪から伝達されるトルクによって前記プロペラシャフトの回転を増速させて前記一対の噛み合い部材を回転同期させて噛み合わせると共に、前記第2の多板クラッチからは前記プロペラシャフトの回転を増速させるトルクを伝達しない、4輪駆動車の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る4輪駆動車及びその制御方法によれば、2輪駆動状態から4輪駆動状態への切り替えを速やかに行うことを可能としながら、この切り替え時におけるNVの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る4輪駆動車の概略の構成を示す構成図である。
図2】駆動力断続装置の構成例を示し、(a)は断面図、(b)は噛み合い部を模式的に示す説明図である。
図3】駆動力配分装置の構造の具体例を示す断面図である。
図4】第1の多板クラッチ及びその周辺の構成を示す要部断面図である。
図5】第1の多板クラッチの一部及びその周辺部を拡大して示す拡大図である。
図6】油圧回路及び制御装置の構成例を模式的に示す構成図である。
図7】ディスコネクト状態での走行時に2輪駆動状態から4輪駆動状態へ切り替える際の駆動力断続装置及び駆動力配分装置の動作例を示すタイミングチャートである。
図8】比較例に係る駆動力断続装置及び駆動力配分装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る4輪駆動車の概略の構成を示す構成図である。4輪駆動車1は、走行用の駆動力を発生させる駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力回転を変速するトランスミッション12と、左右一対の主駆動輪としての前輪13L,13Rと、左右一対の補助駆動輪としての後輪14L,14Rと、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力を前輪13L,13R及び後輪14L,14Rに伝達可能な駆動力伝達系10と、制御装置2とを備えている。なお、本実施の形態において、各符号における「L」及び「R」は、車両の前進方向に対する左側及び右側の意味で使用している。
【0014】
この4輪駆動車1は、エンジン11の駆動力が前輪13L,13R及び後輪14L,14Rに伝達される4輪駆動状態と、エンジン11の駆動力が前輪13L,13Rのみに伝達される2輪駆動状態とを切り替え可能である。前輪13L,13Rには、エンジン11の駆動力が常時伝達され、後輪14L,14Rには、走行状態や運転者によるスイッチ操作に応じてエンジン11の駆動力が伝達される。
【0015】
なお、本実施の形態では、駆動源として内燃機関であるエンジンを適用した場合について説明するが、これに限らず、エンジンとIPM(Interior Permanent Magnet Synchronous)モータ等の高出力電動モータとの組み合わせによって駆動源を構成してもよく、高出力電動モータのみによって駆動源を構成してもよい。
【0016】
駆動力伝達系10は、4輪駆動車1におけるトランスミッション12から前輪13L,13R及び後輪14L,14R側に至る駆動力伝達経路を構成している。駆動力伝達系10は、フロントディファレンシャル3と、フロントディファレンシャル3と前輪13L,13Rとの間に配置されたドライブシャフト15L,15Rと、フロントディファレンシャル3に隣接して配置された駆動力断続装置4と、車両の前後方向に延在するプロペラシャフト5と、車両前後方向におけるプロペラシャフト5の後方に配置された駆動力配分装置6と、駆動力配分装置6と後輪14L,14Rとの間に配置されたドライブシャフト16L,16Rとを有している。プロペラシャフト5は、2輪駆動状態においてエンジン11の駆動力を後輪14L,14R側に伝達する。
【0017】
制御装置2は、駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6を制御する。駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6は、後輪14L,14Rへの駆動力伝達経路においてプロペラシャフト5を挟むように配置されている。駆動力断続装置4は、エンジン11からプロペラシャフト5への駆動力の伝達を遮断可能である。駆動力配分装置6は、プロペラシャフト5から左後輪14Lへの駆動力の伝達を遮断可能な第1の多板クラッチ62Lと、プロペラシャフト5から右後輪14Rへの駆動力の伝達を遮断可能な第2の多板クラッチ62Rとを有している。駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6の構成の詳細については後述する。
【0018】
この構成により、2輪駆動状態の走行時には、制御装置2が駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6を制御して駆動力の伝達を遮断することで、プロペラシャフト5を非回転状態にすることができる。これにより、プロペラシャフト5の回転に伴う動力ロスが抑制され、燃費性能の向上が図られる。以下、駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6による駆動力の伝達が共に遮断された2輪駆動状態をディスコネクト状態という。
【0019】
フロントディファレンシャル3は、フロントデフケース30と、フロントデフケース30と一体に回転するピニオンシャフト31と、ピニオンシャフト31に軸支された一対のピニオンギヤ32と、一対のピニオンギヤ32にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ33とを有し、トランスミッション12と駆動力断続装置4との間に配置されている。一対のサイドギヤ33には、ドライブシャフト15L,15Rがそれぞれ連結されている。
【0020】
プロペラシャフト5は、十字継手を有する複数のユニバーサルジョイント51によって連結された複数の軸部材からなり、その車両前方側の端部にはドライブピニオン52が設けられ、車両後方側の端部には駆動力配分装置6の連結部材600(後述)と相対回転不能に連結される連結部53が設けられている。また、プロペラシャフト5は、その長手方向の中央部でセンターベアリング50によって車体に対して回転可能に支持されている。
【0021】
図2は、駆動力断続装置4の構成例を示し、(a)は断面図、(b)は噛み合い部を模式的に示す説明図である。なお、図2(a)では、駆動力断続装置4におけるフロントデフケース30の回転軸線Oよりも上側の半分の範囲を図示している。
【0022】
駆動力断続装置4は、凹部と凸部との係合により駆動力を伝達する噛み合いクラッチ40を有する。より具体的には、噛み合いクラッチ40は、フロントデフケース30と同軸上で回転する第1乃至第3回転部材41〜43によって構成された噛み合いクラッチ40と、噛み合いクラッチ40を作動させるアクチュエータ400と、プロペラシャフト5のドライブピニオン52に噛み合うリングギヤ44とを備えている。ドライブピニオン52及びリングギヤ44は、例えばハイポイドギヤ対からなる。
【0023】
アクチュエータ400は、電動モータ45と、電動モータ45の出力軸451の回転を減速する減速機構46と、減速機構46で減速された電動モータ45のトルクによって噛み合いクラッチ40の第3回転部材43を軸方向に移動させる移動機構47とを備えている。電動モータ45は、制御装置2から供給される電流によって動作する。なお、アクチュエータ400としては、上記の構成に限らず、例えばボールねじ機構や電磁ソレノイドを有するもの等、様々な構成のものを用いることができる。
【0024】
第1回転部材41は、フロントデフケース30の軸方向の端部に固定され、フロントデフケース30と一体に回転する。第2回転部材42及び第3回転部材43は、第1回転部材41に対して同軸上で相対回転可能である。第3回転部材43は、第2回転部材42の外周側に設けられた円筒状であり、第2回転部材42に対して軸方向に相対移動可能である。
【0025】
第1回転部材41は、その内周側にドライブシャフト15Rを挿通させる環状であり、外周面に回転軸線Oと平行に延在して形成された複数のスプライン歯411を有している。複数のスプライン歯411のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯411の間には、それぞれ凹部410が形成されている。第2回転部材42は、ドライブシャフト15Rを挿通させる筒状であり、その軸方向の一端部にリングギヤ44が固定されている。また、第2回転部材42は、その外周面に、回転軸線Oと平行に延在して形成された複数のスプライン歯421を有している。複数のスプライン歯421のうち、周方向に隣り合う一対のスプライン歯421の間には、それぞれ凹部420が形成されている。
【0026】
第3回転部材43の内周面には、第1回転部材41の複数のスプライン歯411、及び第2回転部材42の複数のスプライン歯421と係合可能な複数のスプライン歯431が形成されている。本実施の形態では、第3回転部材43の複数のスプライン歯431が第2回転部材42の凹部420に噛み合い、この噛み合い状態を保ちながら第3回転部材43が第2回転部材42に対して軸方向移動可能である。
【0027】
また、第3回転部材43は、移動機構47によって第1回転部材41側に移動したとき、第3回転部材43の凸部としての複数のスプライン歯431が第1回転部材41の凹部410に噛み合い、第1回転部材41と相対回転不能に連結される。これにより、第1回転部材41と第2回転部材42とが第3回転部材43を介して相対回転不能に連結され、第1回転部材41から第2回転部材42にエンジン11の駆動力を伝達可能な状態となる。一方、第3回転部材43が第1回転部材41から離間すると、第3回転部材43の複数のスプライン歯431と第1回転部材41の凹部410との噛み合いが解除され、第1回転部材41と第2回転部材42とが相対回転可能な解放状態となる。これにより、第1回転部材41から第2回転部材42への駆動力伝達が遮断される。第1回転部材41及び第3回転部材43は、本発明の一対の噛み合い部材の一態様である。
【0028】
減速機構46は、電動モータ45の出力軸451と一体回転するピニオンギヤ461と、大径ギヤ部462a及び小径ギヤ部462bを有する減速ギヤ462とを有している。ピニオンギヤ461は大径ギヤ部462aに噛み合っている。移動機構47は、減速ギヤ462の小径ギヤ部462bに噛み合うラック歯471aを有する直動軸471と、直動軸471に固定されたシフトフォーク472とを有している。第3回転部材43には、シフトフォーク472が摺動可能に嵌合する環状の環状溝432が形成されている。
【0029】
電動モータ45の出力軸451が回転すると、その回転が減速機構46で減速され、直動軸471が回転軸線Oと平行に移動する。そして、この直動軸471の移動に伴って、第3回転部材43が第1回転部材41及び第2回転部材42と噛み合う連結位置と、第1回転部材41と噛み合わない非連結位置との間を移動する。
【0030】
駆動力配分装置6は、図1に示すように、車体に支持されるハウジング60と、プロペラシャフト5から駆動力が伝達される歯車機構61と、この歯車機構61によって伝達される駆動力を調節して後輪側のドライブシャフト16L,16Rに配分する第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rと、第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rを押圧するための作動油を出力する油圧回路7とを有する。ハウジング60は、第1及び第2の多板クラッチ62L,62R及び歯車機構61を収容している。
【0031】
歯車機構61は、例えばハイポイドギヤ対からなるピニオンギヤ610及びリングギヤ611と、リングギヤ611と一体に回転するセンターシャフト612とを備える。センターシャフト612は、リングギヤ611からプロペラシャフト5の回転力を受けて回転する。第1の多板クラッチ62Lは、センターシャフト612とドライブシャフト16Lとの間に配置され、第2の多板クラッチ62Rは、センターシャフト612とドライブシャフト16Rとの間に配置されている。
【0032】
制御装置2は、プロペラシャフト5が回転しないディスコネクト状態での走行時に2輪駆動状態から4輪駆動状態へ切り替える際、駆動力配分装置6を介して後輪14L,14Rの何れかの回転力をプロペラシャフト5に伝達し、プロペラシャフト5を回転させて噛み合いクラッチ40の第1回転部材41と第3回転部材43とを回転同期させる。そして、この回転同期が完了した後に、駆動力断続装置4のアクチュエータ400を制御して第3回転部材43を第1回転部材41に噛み合わせる。これにより、4輪駆動車1が4輪駆動状態となる。本実施の形態では、後述するように、左後輪14Lの回転力を第1の多板クラッチ62Lを介してプロペラシャフト5に伝達し、プロペラシャフト5を回転させる。ディスコネクト状態では、プロペラシャフト5が回転しないため、ドライブピニオン52とリングギヤ44との噛み合い損失、ピニオンギヤ610とリングギヤ611との噛み合い損失、及びセンターベアリング50での軸受損失が発生せず、これらの損失による動力ロスが抑制される。
【0033】
図3は、駆動力配分装置6の構造の具体例を示す断面図である。図4は、第1の多板クラッチ62L及びその周辺の構成を示す要部断面図である。なお、第1の多板クラッチ62Lと第2の多板クラッチ62Rとは、同様の構成を有し、左右対称に配置されている。ピニオンギヤ610の回転軸線Oは、その延伸方向が4輪駆動車1の前後方向であり、センターシャフト612の回転軸線Oは、その延伸方向が4輪駆動車1の車幅方向である。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0034】
駆動力配分装置6は、歯車機構61のピニオンギヤ610が連結部材600によってプロペラシャフト5の連結部53(図1参照)と相対回転不能に連結されている。また、駆動力配分装置6は、第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rをそれぞれ収容する左右一対のクラッチドラム63と、クラッチドラム63の内側に配置された左右一対のインナシャフト64と、クラッチドラム63と後輪側のドライブシャフト16L,16Rとを相対回転不能に連結するための左右一対の連結シャフト65と、各種の軸受661〜669と、第1の多板クラッチ62Lを軸方向に押圧する第1のピストン67Lと、第2の多板クラッチ62Rを軸方向に押圧する第2のピストン67Rと、左右一対の押圧部材68及びリターンスプリング69とを有している。
【0035】
ハウジング60は、歯車機構61のピニオンギヤ610、リングギヤ611、及びセンターシャフト612を収容するセンターハウジング部材60Cと、第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rをそれぞれ収容するサイドハウジング部材60L,60Rとを有する。センターハウジング部材60Cは、車幅方向の左側に配置されるサイドハウジング部材60Lと右側に配置されるサイドハウジング部材60Rとの間に配置されている。センターハウジング部材60C及びサイドハウジング部材60L,60Rは、ボルト締めによって相互に固定されている。ハウジング60の内部には、歯車機構61におけるギヤの噛み合い、ならびに第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rにおける摩擦摺動を潤滑する図略の潤滑油が封入されている。
【0036】
センターハウジング部材60Cは、ピニオンギヤ610を円すいころ軸受661,662を介して回転可能に保持する第1の保持部601と、センターシャフト612を一対の円すいころ軸受663,664を介して回転可能に保持する第2の保持部602と、左右一対のインナシャフト64をそれぞれ玉軸受665を介して回転可能に保持する第3の保持部603と、第1及び第2のピストン67L,67Rのそれぞれの一部を進退後動可能に収容する第1及び第2のシリンダ室604L,604Rとを備える。第1のシリンダ室604Lは、車幅方向におけるセンターハウジング部材60Cの左側の端部に形成され、サイドハウジング部材60L側に向かって開口している。第2のシリンダ室604Rは、車幅方向におけるセンターハウジング部材60Cの右側の端部に形成され、サイドハウジング部材60R側に向かって開口している。一対の連結シャフト65は、それぞれ玉軸受666によってサイドハウジング部材60L,60Rに支持されている。
【0037】
センターシャフト612は、回転軸線Oに沿って延びる円筒状の円筒部612aと、円筒部612aの端部において径方向外方に突出して形成されたフランジ部612bとを一体に有する。リングギヤ611には、ピニオンギヤ610のギヤ部610aと噛み合う複数の噛み合い歯611aが形成されている。リングギヤ611は、センターシャフト612のフランジ部612bにボルト614によって固定されている。
【0038】
第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rのそれぞれは、クラッチドラム63に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のアウタクラッチプレート621、及びインナシャフト64に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のインナクラッチプレート622を有している。複数のアウタクラッチプレート621及び複数のインナクラッチプレート622は、軸方向に交互に配置されている。第1の多板クラッチ62Lのアウタクラッチプレート621及びインナクラッチプレート622は、第1のピストン67Lによって押圧されて摩擦力を発生させる。第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621及びインナクラッチプレート622は、第2のピストン67Rによって押圧されて摩擦力を発生させる。
【0039】
第1のピストン67Lは、油圧回路7から第1のシリンダ室604Lに供給される作動油の油圧を受けて軸方向に移動する。第2のピストン67Rは、油圧回路7から第2のシリンダ室604Rに供給される作動油の油圧を受けて軸方向に移動する。センターハウジング部材60Cには、油圧回路7から供給される作動油を第1及び第2のシリンダ室604L,604Rにそれぞれ導くための供給用流路605が設けられている。第1及び第2のピストン67L,67Rの外周面及び内周面には、それぞれ環状のシール部材671,672が配置されている。
【0040】
第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rは、作動油の圧力を受けた第1及び第2のピストン67L,67Rの押圧力を針状ころ軸受667及び押圧部材68を介して受け、複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622とが摩擦接触することにより、インナシャフト64とクラッチドラム63との間でトルクを伝達する。これにより、エンジン11の駆動力が第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rを介して後輪14L,14Rに伝達される。押圧部材68は、クラッチドラム63と一体に回転し、針状ころ軸受667は、押圧部材68と第1及び第2のピストン67L,67Rとの間にそれぞれ配置されている。
【0041】
一方、第1及び第2のシリンダ室604L,604Rの圧力が低くなると、第1及び第2のピストン67L,67Rは、リターンスプリング69の付勢力によって第1及び第2のシリンダ室604L,604Rの奥側に移動し、押圧部材68とは反対側の軸方向端面がシリンダ室604L,604Rの底面に設けられた当接部606に当接する。以下、当接部606に当接したときの第1及び第2のピストン67L,67Rの位置を初期位置という。第1及び第2のピストン67L,67Rが初期位置にあるとき、第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rは、複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622とが相対回転自在な解放状態となり、エンジン11から後輪14L,14Rへの駆動力伝達が遮断される。
【0042】
本実施の形態では、リターンスプリング69が皿ばねからなる。サイドハウジング部材60L,60Rには、それぞれリターンスプリング69の外径側の端部が収容される環状の凹部607が形成されている。第1及び第2のピストン67L,67Rには、リターンスプリング69の内径側の端部が当接している。なお、リターンスプリング69として、コイルばねやウェーブワッシャあるいはゴム等の弾性体を用いてもよい。
【0043】
クラッチドラム63は、大径円筒部631及び小径円筒部632と、大径円筒部631と小径円筒部632との間の側壁部633とを一体に有する。図4に示すように、複数のアウタクラッチプレート621は、その外周部にスプライン突起621aを有し、このスプライン突起621aがクラッチドラム63の大径円筒部631の内周面に形成されたストレートスプライン嵌合部631aに係合している。これにより、複数のアウタクラッチプレート621は、クラッチドラム63と共に回転する。クラッチドラム63の側壁部633とサイドハウジング部材60L,60Rとの間には、スラスト針状ころ軸受668が配置されている。
【0044】
押圧部材68は、円環状の板部材によって形成され、クラッチドラム63のストレートスプライン嵌合部631aに係合するスプライン突起68aを外周部に有し、クラッチドラム63に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。クラッチドラム63の小径円筒部632の内周面には、連結シャフト65の外周面に形成されたスプライン嵌合部65aにスプライン嵌合するスプライン嵌合部632aが形成されている。これにより、クラッチドラム63は、連結シャフト65に対して相対回転不能に連結されている。
【0045】
インナシャフト64は、連結シャフト65の一端部を収容する円筒部641と、円柱状の軸部642とを有し、軸部642の先端部がスプライン嵌合によってセンターシャフト612に相対回転不能に連結されている。円筒部641の内周面と連結シャフト65の外周面との間には、針状ころ軸受669が配置されている。サイドハウジング部材60L,60Rの車幅方向の端部における開口内面と連結シャフト65の外周面との間には、シール部材660が配置されている。
【0046】
複数のインナクラッチプレート622は、その内周部にスプライン突起622aを有し、このスプライン突起622aがインナシャフト64の円筒部641の外周面に形成されたストレートスプライン嵌合部641aに係合している。これにより、複数のインナクラッチプレート622は、インナシャフト64と共に回転する。
【0047】
図5(a)〜(c)は、第1の多板クラッチ62Lの一部及びその周辺部を拡大して示す拡大図である。図5(a)は、第1のピストン67Lが初期位置にある状態を示し、図5(b)は、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが隙間詰めされた状態を示している。図5(c)は、図5(b)に示す状態からさらに第1のピストン67Lが移動してアウタクラッチプレート621及びインナクラッチプレート622が押し付けられて摩擦接触した状態を示している。
【0048】
インナクラッチプレート622は、金属からなる円環板状の基材623の両側面に摩擦材624が張り付けられている。摩擦材624は、例えばペーパー摩擦材又は不織布からなり、アウタクラッチプレート621と対向する部分に貼着されている。基材623は、例えば鉄系金属からなる。アウタクラッチプレート621は、例えば鉄系金属からなる円環板状であり、その表面には図略の油溝が形成されている。
【0049】
図5(a)に示すように、第1のピストン67Lが初期位置にある初期状態では、複数のアウタクラッチプレート621及びインナクラッチプレート622のうち、少なくとも1枚のアウタクラッチプレート621と、この1枚のアウタクラッチプレート621に隣り合う何れかのインナクラッチプレート622との間に隙間が形成される。この初期状態では、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との間の隙間、より具体的にはアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622の摩擦材624との間の隙間に潤滑剤が導入され、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが円滑に相対回転可能である。
【0050】
図5(b)に示すように、第1のピストン67Lが初期位置から移動して複数のアウタクラッチプレート621と複数のインナクラッチプレート622とが全て隙間詰めされると、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との間から潤滑油が排出される。この状態では、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622の摩擦材624とが摺接し得るが、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との摩擦接触によるトルクの伝達はなされない。
【0051】
このように第1の多板クラッチ62Lが隙間詰めされた後、さらに第1のピストン67Lが移動すると、図5(c)に示すように、クラッチドラム63の側壁部633と押圧部材68との間でインナクラッチプレート622の摩擦材624が軸方向に圧縮される。そして、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との摩擦接触により、クラッチドラム63とインナシャフト64との間でトルクが伝達される。
【0052】
(油圧回路及び制御装置の構成及び制御方法)
図6は、油圧回路7及び制御装置2の構成例を模式的に示す構成図である。油圧回路7は、制御装置2から供給される電流に応じたトルクを発生する電動モータ71と、電動モータ71によって作動する単一の油圧ポンプ72と、第1の制御弁73及び第2の制御弁74と、リリーフ弁75とを有している。電動モータ71と油圧ポンプ72とは、連結軸721によって連結されている。なお、連結軸721と電動モータ71との間に、電動モータ71の回転を所定の減速比で減速する減速機を設けてもよい。電動モータ71は、例えばDCブラシレスモータであるが、電動モータ71としてブラシ付きDCモータを用いてもよい。また、電動モータ71は、その回転速度を検出可能な回転速センサ711を有しており、回転速センサ711の検出結果が制御装置2に出力される。
【0053】
油圧ポンプ72は、それ自体は周知のものであり、連結軸721の回転数(回転速度)に応じた吐出圧でリザーバ70から汲み上げた作動油を吐出する。油圧ポンプ72として、具体的には、外接ギヤポンプや内接ギヤポンプ、あるいはベーンポンプを用いることができる。油圧ポンプ72の吐出側とリザーバ70との間にはリリーフ弁75が配置されている。このリリーフ弁75は、油圧ポンプ72の吐出圧に応じた量の作動油をリザーバ70に還流させる固定絞り弁である。
【0054】
第1の制御弁73は、油圧ポンプ72からサイドハウジング部材60Lの供給用流路605を経て第1のシリンダ室604Lに至る油路に配置されている。第2の制御弁74は、油圧ポンプ72からサイドハウジング部材60Rの供給用流路605を経て第2のシリンダ室604Rに至る油路に配置されている。第1及び第2の制御弁73,74は、油圧ポンプ72から第1及び第2のシリンダ室604L,604Rに供給される作動油の圧力を調節する圧力制御弁であり、より具体的には電磁比例圧力制御バルブである。
【0055】
第1及び第2の制御弁73,74は、図略の電磁ソレノイドを有し、制御装置2から供給される電流がこの電磁ソレノイドのコイルに供給される。電磁ソレノイドは、弁体をばねの付勢力に抗して移動させる。第1及び第2の制御弁73,74において、油圧ポンプ72側から供給用流路605側への作動油の流路における弁開度は、第1及び第2の制御弁73,74に供給される電流に応じて変化する。油圧ポンプ72から吐出された作動油は、第1及び第2の制御弁73,74によって第1及び第2のシリンダ室604L,604Rに振り分けられて供給される。
【0056】
第1及び第2のシリンダ室604L,604Rにおける作動油の圧力は、第1及び第2の制御弁73,74の弁開度が大きいほど高くなる。以下、第1及び第2のシリンダ室604L,604Rに供給される作動油の圧力を調節するために制御装置2が第1及び第2の制御弁73,74供給する電流を制御電流という。本実施の形態では、制御電流が大きいほど弁開度が大きくなる場合について説明するが、制御電流と弁開度との関係は逆でもよい。
【0057】
第1及び第2の制御弁73,74は、油圧ポンプ72から吐出された作動油の一部を排出し、作動油の圧力を減圧して第1及び第2のシリンダ室604L,604R側に出力する。第1及び第2の制御弁73,74から出力される作動油の圧力は、例えば制御電流に比例して変化する。制御装置2は、油圧ポンプ72の吐出圧が第1及び第2のシリンダ室604L,604Rのそれぞれに供給すべき作動油の油圧よりも高くなるように電動モータ71を制御する。
【0058】
制御装置2は、半導体記憶素子によって構成された記憶装置210及び演算処理装置211を有する制御部21と、第1及び第2の制御弁73,74に制御電流を出力する制御電流出力部22と、電動モータ71にモータ電流を出力するモータ電流出力部23とを有している。演算処理装置211は、記憶装置210に記憶されたプログラムを実行することにより、次に述べる制御処理を実行する。制御電流出力部22及びモータ電流出力部23は、例えば4輪駆動車1に搭載されたバッテリー等の直流電源をスイッチングするスイッチング素子を有しており、制御部21から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号のデューティー比に応じた電流を出力する。
【0059】
(制御装置2による4輪駆動車1の制御方法)
次に、制御装置2の制御部21が実行する4輪駆動車1の制御方法について説明する。制御部21は、2輪駆動状態での走行時に噛み合いクラッチ40ならびに第1及び第2の多板クラッチ62L,62Rを解放状態とし、プロペラシャフト5の回転が停止したディスコネクト状態とする。また、制御部21は、2輪駆動状態から4輪駆動状態に移行する際、第1の多板クラッチ62Lを介して左後輪14Lから伝達されるトルクによってプロペラシャフト5の回転を増速させて噛み合いクラッチ40の第1回転部材41及び第3回転部材43を回転同期させ、第1回転部材41と第3回転部材43とを噛み合わせる。このとき、制御部21は、第2の多板クラッチ62Rからはプロペラシャフト5の回転を増速させる増速トルクを伝達させない。以下、図7を参照して、制御部21が実行する制御処理をより詳細に説明する。
【0060】
図7は、ディスコネクト状態での走行時に2輪駆動状態から4輪駆動状態へ切り替える際の駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6の動作例を示すタイミングチャートである。制御部21は、ディスコネクト状態では駆動力断続装置4を解放状態とし、かつ第1の制御弁73及び第2の制御弁74を閉弁状態として、プロペラシャフト5の回転を停止させる。また、制御部21は、ディスコネクト状態から4輪駆動状態への移行制御を開始する際、時刻tにおいて電動モータ71にモータ電流の供給を開始すると共に、第1の制御弁73に制御電流を供給して第1の制御弁73を全開状態とする。これにより、第1の多板クラッチ62Lにおける複数のアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが隙間詰めされる。この時の第2の制御弁74の弁開度は全閉状態のままである。
【0061】
制御部21は、第1の多板クラッチ62Lの隙間詰めが完了した時刻tにおいて、第1の制御弁73の弁開度を4輪駆動状態において左後輪14Lに伝達すべき駆動力に応じた値とし、第1のシリンダ室604Lの作動油の供給を継続する。これにより、第1の多板クラッチ62Lの伝達トルクが立ち上がり、プロペラシャフト5が増速し始める。なお、第1の多板クラッチ62Lの隙間詰めが完了したことの判定は、例えば電動モータ71の回転開始後の回転量に基づいて行ってもよく、時刻tからの経過時間に基づいて行ってもよい。あるいは、第1のピストン67Lの位置を検出可能なポジションセンサの検出値に基づいて行ってもよい。
【0062】
また、制御部21は、時刻tにおいて、第2の制御弁74に制御電流を供給して第2の制御弁74を全開状態とする。これにより、第2の多板クラッチ62Rにおける複数のアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが隙間詰めが開始され、時刻tにおいてこの隙間詰めが完了する。第2の多板クラッチ62Rの隙間詰めが完了した状態は、第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622の摩擦材624とが接触しても、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との摩擦接触によるトルクの伝達がなされない状態である。
【0063】
その後、制御部21は、時刻tにおいて第2の制御弁74に供給する制御電流を低減し、第2の制御弁74の弁開度を小さくする。この第2の制御弁74の弁開度は、第2の多板クラッチ62Rが隙間詰めされていながらも、第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との摩擦接触によるトルクの伝達がなされない状態を維持できる弁開度である。そして、その状態を後述する時刻tまで継続する。
【0064】
制御部21は、時刻tにおいて、噛み合いクラッチ40の第1回転部材41と第3回転部材43とが回転同期すると、アクチュエータ400の電動モータ45への電流供給を開始する。これにより、第3回転部材43が第1回転部材41側に移動し、時刻tにおいて第1回転部材41と第3回転部材43とが完全に噛み合わされる。このとき、第2の多板クラッチ62Rは、アウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが隙間詰めされた状態である。すなわち、制御部21は、第1回転部材41と第3回転部材43が噛み合わされる時までに第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との隙間を詰める。
【0065】
なお、第1回転部材41と第3回転部材43とが回転同期したことは、例えばプロペラシャフト5の回転速度に基づいて求められる第3回転部材43の回転速度と、前輪13L,13Rの回転速度に基づいて求められる第1回転部材41の回転速度との差が、所定時間継続して所定値未満となることにより判定することができる。また、時刻tからの経過時間が噛み合いクラッチ40の回転同期に要する時間を超えたと判定されたとき、電動モータ45への電流供給を開始してもよい。
【0066】
時刻tにおいて第1回転部材41と第3回転部材43とが完全に噛み合わされると、制御部21は、第2の制御弁74の弁開度を右後輪14Rに伝達すべき駆動力に応じた値とする。これにより、4輪駆動車1が、エンジン11の駆動力が左右前輪13L,13R及び左右後輪14L,14Rに伝達される4輪駆動状態となる。
【0067】
なお、図7では、時刻tから時刻tまでの間における第1の制御弁73の弁開度を、4輪駆動状態において左後輪14Lに伝達すべき駆動力に応じた値とする場合について示しているが、これに限らず、時刻tから時刻tまでの間における第1の制御弁73の弁開度を、プロペラシャフト5をその振動を抑制しながら増速させるのに適したトルクがプロペラシャフト5に伝達される所定の弁開度にしてもよい。
【0068】
(比較例)
図8は、比較例に係る駆動力断続装置4及び駆動力配分装置6の動作例を示すタイミングチャートである。この比較例では、時刻tにおいて、制御部21が第2の制御弁74の弁開度を4輪駆動状態において右後輪14Rに伝達すべき駆動力に応じた値としており、その他の動作は図7に示したものと同じである。
【0069】
図8に示すように、時刻tにおいて第2の制御弁74の弁開度を4輪駆動状態において右後輪14Rに伝達すべき駆動力に応じた値とすると、時刻tの経過後ただちに第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622とが摩擦接触し、第2の多板クラッチ62Rを介してプロペラシャフト5の回転を増速させるトルクが伝達される。この場合、図7におけるtよりも早いタイミングで噛み合いクラッチ40の回転同期がなされるが、第2の多板クラッチ62Rからのトルクがプロペラシャフト5に伝達されたとき、プロペラシャフト5が急加速され、駆動力伝達系10にNVが発生して運転者や同乗者に不快感を与えてしまうおそれがある。
【0070】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、ディスコネクト状態での走行時に2輪駆動状態から4輪駆動状態へ切り替える際、第2の多板クラッチ62Rからはプロペラシャフト5の回転を増速させるトルクが伝達されず、噛み合いクラッチ40の回転同期がなされるまで、第1の多板クラッチ62Lから伝達されるトルクのみによってプロペラシャフト5が増速される。これにより、第1回転部材41と第3回転部材43とが噛み合わされるまでプロペラシャフト5の回転が急加速されることがなく、NVの発生が抑制される。
【0071】
また、本実施の形態によれば、第1回転部材41と第3回転部材43が噛み合わされる時までに第2の多板クラッチ62Rのアウタクラッチプレート621とインナクラッチプレート622との隙間を詰めるので、第1回転部材41と第3回転部材43が噛み合わされた後は、直ちに右後輪14Rに必要な駆動力を伝達することができる。
【0072】
またさらに、制御部21は、第1の多板クラッチ62Lの隙間詰めがされた後に第2のシリンダ604Rに作動油を供給するので、第1の多板クラッチ62Lの隙間詰めが完了するまでは、油圧ポンプ72が吐出する作動油が、リリーフ弁75や第1の制御弁73からの僅かな漏れ量を除き、殆ど全て第1のシリンダ室604Lに供給される。これにより、第1の多板クラッチ62Lの隙間詰めを速やかに行うことができる。
【0073】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0074】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、ディスコネクト状態での走行時に2輪駆動状態から4輪駆動状態へ切り替える際、第1の多板クラッチ62Lを介して左後輪14Lから伝達されるトルクによってプロペラシャフト5を増速させる場合について説明したが、これとは逆に、第2の多板クラッチ62Rを介して右後輪14Rから伝達されるトルクによってプロペラシャフト5を増速させてもよい。この場合、第1の多板クラッチ62Lからはプロペラシャフト5を増速させるトルクを伝達させない。
【符号の説明】
【0075】
1…4輪駆動車
11…エンジン(駆動源)
13L,13R…前輪(主駆動輪)
14L,14R…後輪(補助駆動輪)
2…制御装置
40…噛み合いクラッチ
41,43…第1及び第3回転部材(一対の噛み合い部材)
5…プロペラシャフト
6…駆動力配分装置
604L…第1のシリンダ室
604R…第2のシリンダ室
621…アウタクラッチプレート
622…インナクラッチプレート
62L…第1の多板クラッチ
62R…第2の多板クラッチ
67L…第1のピストン
67R…第2のピストン
7…油圧回路
71…電動モータ
72…油圧ポンプ
73…第1の制御弁
74…第2の制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8