【解決手段】車両1が走行を予定する走行予定軌道を検知する走行予定軌道検知部と、走行予定軌道検知部が検知する軌道の周囲を運動する前記車両以外の移動体の存在を検知する移動体検知部と、移動体の運動を予測する移動体運動予測部と、を備え、走行予定軌道と移動体運動予測部の運動予測とに基づいて車両1の加速、減速又はその両方を制御する。
前記車両の加速、減速又はその両方の制御目標として、前記移動体を検知して修正した速度計画を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の車両運動制御装置。
前記車両の絶対速度、前記車両の絶対加速度、前記移動体との相対位置、前記移動体との相対速度、及び前記移動体との相対加速度、のいずれかを含み、距離が短いほど、速度が高いほど、又は加速度が高いほど、大きな値となる接近許容度指標を、小さくする方向に加速、減速又はその両方を制御することを特徴とする、請求項1に記載の車両運動制御装置。
前記接近許容度指標は、前記車両の絶対速度、前記車両の絶対加速度、前記移動体との相対距離、前記移動体との相対速度、及び前記移動体との相対加速度、のいずれかの時間積分値を含むことを特徴とする、請求項7に記載の車両運動制御装置。
前記接近許容度指標を変数に含み、さらに前記移動体が検知されない場合との速度計画の差異の程度を変数に含む目的関数の評価値を、前記走行予定軌道に基づく速度計画に従う場合の該目的関数の評価値に対して、小さくするように加速、減速又はその両方を制御することを特徴とする、請求項7に記載の車両運動制御装置。
前記移動体の種別あるいは大きさに応じて、加速もしくは減速もしくはその両方の制御を変化させることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の車両運動制御装置。
前記走行予定軌道に基づく速度計画は、横加速度の大きさが増える際には減速し、横加速度の大きさが減る際には加速するように前後運動を制御することを特徴とする、請求項11に記載の車両運動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、各実施例に共通する要素について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例である車両運動制御装置が組み込まれたADASあるいは自動運転システムを搭載する車両1の構成を示したものである。ここでいうADASあるいは自動運転システムとは、少なくとも車両の速度あるいは加減速を制御システムの指令値に近づくように補助するか、加減速制御をシステムが担う機能を含む制御システムを指すものとする。したがって、アダプティブクルーズコントロールシステム(ACC)や自動操舵機能を備えた自動運転システム等を含む。さらに、制御システムがドライバを介して間接的に加減速を制御するためにドライバの足裏への力覚フィードバックを有するアクセルペダル等も含む。
【0016】
操舵装置18はEPS(電動パワーステアリング)を備える。EPSは、運転者による操舵力を増幅するパワーステアリングとしての機能に加えて、能動的なアクチュエータとして左前輪11と右前輪12を操舵する機能を有する。
【0017】
駆動装置19は、内燃機関または電動モータまたはその両方で構成され、車両運動制御装置15が送信する制御指令を受信して、減速機25とドライブシャフト26を介して駆動輪である左前輪11と右前輪12に駆動力を発生させて車両1を走行させる。また、駆動輪に制動力を発生させて車両1を減速させる。制御指令に応じて、加減速を行うことができる。
【0018】
制動制御装置20は、車両運動制御装置15が送信する制御指令を受信して、制動装置21〜24に液圧を作用させて制動力を制御する機能を有する。制御指令に応じて、減速を行うことができる。
【0019】
制動装置21〜24は、制動制御装置20からの液圧を受けて作動し、4輪11〜14それぞれに制動力を発生させる。
【0020】
車両運動制御装置15には、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ17、慣性センサ16、車両の外界情報を取得するカメラ28、無線通信装置29、レーザースキャナ30、及び制動制御装置20を経由して車輪速センサ31〜34からの情報が入力され、それらに基づいて、操舵装置18、駆動装置19、制動制御装置20に制御指令を送り、車両1の運動を制御する。
【0021】
無線通信装置29は、他車や道路に備えられた通信設備と通信して自車の情報と周囲の情報を双方向に伝達する機能を有する。
【0022】
制動制御装置20として制動装置21〜24と駆動装置19が協調して制動力を制御したり、操舵装置18が操舵機構と操舵制御装置で構成されたりする等、各装置の構成は分割あるいは統合されていても良い。
【0023】
図2は、
図1の一部を抜粋し、車両運動制御装置15に入出力される情報について示したものである。カメラ28やレーザースキャナ30からは、自車周囲の移動体の情報、自車周囲の道路及び車線の形状や位置等の周囲情報が出力され、車両運動制御装置15に入力される。
【0024】
無線通信装置29からは、カメラ28やレーザースキャナ30では取得できない比較的遠方や、これらの死角となる範囲の周囲情報が入力される。
【0025】
GNSSセンサ17からは、大局的な自車位置の情報が絶対座標として入力される。
【0026】
車両運動制御装置15は、これらの周囲情報と自車位置の情報に基づいて、制御目標とする速度計画を算出し、加減速指令として制動制御装置20と駆動装置19に対して出力する。
【0027】
図3は、車両運動制御装置15の内部の処理構成を示したものである。車両運動制御装置15は、走行予定軌道検知部と、移動体検知部と、移動体運動予測部と、基本速度計画算出部と、速度計画修正部とを備える。情報の流れを表す矢印のうち、破線で示した部分は利用可能な場合に用いる情報を示す。
【0028】
走行予定軌道検知部には周囲情報が入力され、自車が走行を予定している直近の軌道の形状を、少なくとも制御に必要な距離、常時検知する。車両前方を撮影するカメラ28やレーザースキャナ30で取得した道路及び車線形状の情報や、GNSSセンサ17で取得した自車位置情報を地図情報と照合することにより、走行予定軌道を検知する。あるいは、自動操舵機能を備えた自動運転システムの場合は、操舵制御に必要な自車前方の走行予定軌道の情報を自動運転制御装置が常に生成し、保持しているため、自動運転制御装置から走行予定軌道の情報を直接取得する。
【0029】
移動体検知部では、車両周囲を撮影するカメラ28やレーザースキャナ30からの周囲情報によって、移動体の存在を検知する。見通しが悪い道路環境や、カメラ28やレーザースキャナ30の検知距離範囲外の場合は、無線通信装置29を介した車車間通信や路車間通信等によって移動体の存在を検知する。
【0030】
移動体運動予測部では、対象とする移動体の現在の位置、速度、加速度、及び当該移動体の周辺と運動方向前方の道路形状や障害物の状況から、以降の移動体の運動を予測する。あるいは、検知された移動体についての情報をやり取りする車車間通信、路車間通信、歩車間通信等によって、当該移動体が現在以降に予定している運動の情報を直接得る。
【0031】
基本速度計画算出部は、走行予定軌道検知部から受ける軌道形状の情報に基づいて、速度計画つまり加減速のパターンを算出し、これを基本速度計画として出力する。
【0032】
速度計画修正部は、移動体運動予測部からの移動体の運動予測情報と、基本速度計画算出部からの基本速度計画に基づき、最終的な加減速指令として制御目標となる速度計画を算出する。
【0033】
(実施例1)
対向車線を走行する車両とのカーブ区間でのすれ違いにおいて、乗員の不安を軽減するための加減速制御について説明する。
【0034】
基本となる加減速制御として、反対車線を自車と逆向きに走行する車両、つまり対向車、が存在せずに自車単独で走行している場合は、走行予定軌道のカーブ形状に応じた加減速の推移を定めて基本速度計画とする。このカーブ形状に応じた加減速を定めるための制御(G−Vectoring(登録商標)制御)を適用する。
【0035】
数1は、制御の基礎式である。G
xは前後加速度、G
yは横加速度、dG
y/dtは横加速度の時間変化率である横加加速度、C
xyは制御ゲインを表す。
【0036】
G
x = -sgn(G
y・dG
y/dt)・C
xy・dG
y/dt (数1)
横加加速度にゲインを乗算し、横加速度の大きさが増える際には減速し、横加速度の大きさが減る際には加速するように符号を与えた前後加速度とするため、横加加速度と前後加速度との関係が計算上は一意に定まる。したがって、ある走行軌道に対して、初速を与えれば速度推移を算出することができ、これがすなわち速度計画となる。これは、カーブ路走行によって生じる横加加速度を予見してカーブ手前から減速する場合(Preview G−Vectoring(登録商標)制御と称される)を適用する場合も同様である。
【0037】
図4は、カーブ路走行時の加減速の様子を示したものであり、
図5は、その際の横加速度と横加加速度と前後加速度の推移を示したグラフである。カーブ曲率が徐々にきつくなるカーブ区間の前半で横加速度G
yが時刻t=t
0からt=t
1にかけて増加していくのに伴って、横加加速度dG
y/dtは正の値をとり、カーブ曲率が徐々に緩くなるカーブ区間の後半で横加速度G
yがt=t
1からt=t
2にかけて減少していくのに伴って、横加加速度dG
y/dtは負の値をとる。数1に従って横加加速度dG
y/dtに応じた前後加速度G
xとすると、時刻t=t
0からt=t
1の間に減速し、t=t
1からt=t
2の間に加速する。
【0038】
このように、本実施例の制御によってカーブ曲率の推移に応じて理想的に計画された加減速の推移となり、良好な乗り心地が実現される。
【0039】
図6は、
図4に加えて対向車が存在し、時刻t=t
1で対向車とすれ違う状況を示したものである。対向車が存在する場合でも、自車の走行予定軌道は自車線内であり、対向車の走行予定軌道は自車から見て対向車線であるので、すれ違うだけで衝突のおそれはない。そのため、速度計画を変更せずとも、走行自体に支障はなく、良好な乗り心地も保たれる。
【0040】
しかし、乗り心地は良好であっても、すれ違いの際に乗員が不安を感じるおそれがある。その要因として、カーブの曲率が急な箇所でのすれ違いでは車線幅が実際より狭く感じられることや、特に対向車との接近速度や接近加速度が大きい場合には主観的な衝突の不安が増すこと等が挙げられる。見通しが悪い場合も、対向車が急に出現する驚きを乗員に与える。安心で快適な走行のためには、これらの点も考慮して加減速を制御する必要がある。
【0041】
この課題に対応するため、カーブ区間での対向車とのすれ違いを考慮して速度計画を修正し、加減速を制御する方法について説明する。
【0042】
カーブ曲率が急な箇所でのすれ違いは乗員に不安を与えるおそれがあるが、ひとつのカーブ区間内でカーブ曲率が相対的に急な箇所は、狭く感じる反面、車速が低下する箇所でもある。比較的車線幅が広ければ、狭く感じることによる不安感は緩和される。そのため、カーブ曲率がそのカーブ区間内では相対的に急であっても車速が低下する箇所ですれ違う方が望ましい場合もあり、一概には規定できない。
【0043】
図7及び
図8は、カーブ区間内で対向車とすれ違うことが不可避な場合、道路の条件によって望ましいすれ違い位置が異なることを示したものである。
【0044】
図7は、カーブ内側に遮蔽物のある見通しの悪い急なカーブの場合である。当該カーブ区間内で相対的にカーブ曲率が緩やかな位置ですれ違う方が望ましく、乗員に不安を与えない許容範囲は限られる。
【0045】
一方、
図8は、遮蔽物がなく見通しの良い緩いカーブの場合である。当該カーブ区間内で相対的にカーブ曲率が急な箇所ですれ違うことになるとしても、乗員は不安を感じにくく、カーブ区間全域がすれ違い位置の許容範囲となる。
【0046】
その他、見通しの良い急なカーブや見通しの悪い緩いカーブ等の場合は、見通しの良し悪しの程度とカーブ曲率の緩急の程度との兼ね合いで、すれ違うべき箇所が決まる。
【0047】
このように、すれ違うべき場所は種々の条件に依存するが、いずれの場合でも、所望の箇所ですれ違いを図るという目的は共通なので、速度計画の修正は同じ方法で行うことができる。
【0048】
一例として、カーブ曲率が急な箇所ですれ違うことが予測される場合に、カーブ曲率が急になる手前ですれ違うための方法について説明する。
【0049】
速度計画を修正する全体的な処理の流れは、まず、対向車の速度と加減速の程度から、対向車がカーブ区間のどの位置までどの時刻に進行するかを予測する。その上で自車の速度計画を変更すれば、元のすれ違い予測位置とは異なる位置ですれ違うようにできるので、どの位置ですれ違うか決めるために、どの時刻に自車がどの位置にいるかを計画する。
【0050】
なお、対向車の位置の検知と運動予測は必ずしも正確でなくても、基本速度計画より改善を図るための精度を得られれば良い。ある時刻の予測位置が実際の位置と例えば10m以上ずれたとしても、相対的にカーブ区間が長く、例えば100mあれば、カーブ区間内の入口寄りや中盤や出口寄りという位置関係は概ね変わらないからである。また、すれ違い位置を元の予測位置から望ましい方向に変化させれば、変化量自体は正確でなくても改善が見込めることに変わりはない。
【0051】
図9は、対向車とすれ違う位置を変化させる処理をフローチャートで示したものである。処理の部分的な詳細については後述する。
【0052】
処理が開始(101)されると、まず、自車前方に対向車が検知されるか否か判断する(102)。
【0053】
対向車が検知されない場合、当初の速度計画に従って車両の加減速を制御する(103)。
【0054】
対向車が検知された場合、当該対向車の前後方向の運動を予測する(104)。
【0055】
自車の運動が当初の速度計画に従う場合のすれ違い予測位置が、許容範囲か否か判断する(105)。
【0056】
すれ違い予測位置が許容範囲である場合、当初の速度計画に従って自車の加減速を制御する(103)。
【0057】
すれ違い予測位置が許容範囲でない場合、許容範囲となるように速度計画を修正する(106)。このとき、車両運動の円滑さを損なわない範囲で修正する方法については後述する。
【0058】
修正した速度計画に従って自車の加減速を制御(107)し、処理を終了する(108)。
【0059】
次の制御周期で処理が開始(101)されると、再び対向車が検知されるか否か判断(102)し、対向車の運動が前制御周期の予測からずれる場合は、予測を修正する。
【0060】
なお、対向車の運動予測について、時間の経過と共に当初の予測から徐々にずれていくとしても、上記のとおり予測は逐次修正されるので、制御目標が不連続に変化することはない。対向車の運動が予測どおりであれば、結果的に、対向車を検知して最初に修正した速度計画に沿って自車が制御されることになる。
【0061】
ただし、対向車の運動が最初の予測からずれていくことを考慮せず、対向車を検知して最初に修正した速度計画に従って加減速を制御することもでき、この場合、制御精度は低下するものの、予測を逐次修正するだけの演算性能を備えていなくても制御可能となる。
【0062】
また、走行予定軌道上の前後方向位置で区切られる1次元の領域として、自車の車速が下がっていく間に走行する領域を減速領域、車速が上がっていく間に走行する領域を加速領域、車速が一定に保たれている間に走行する領域を定速領域、と定義し、この内、すれ違い予測位置の許容範囲を、減速領域としても良い。この場合、加速領域か定速領域で前記移動体とのすれ違いが予測される場合には、車両運動の円滑さを損なわない範囲で速度計画が修正され、減速領域ですれ違いを図るようになる。
【0063】
図9のフローチャート内の速度計画を修正する処理(106)において、修正する程度を設定する方法について、より詳細に説明する。特に、走行予定軌道に基づいて減速してから加速する一連の基本速度計画を修正するにあたって、所定時刻に自車が達するべき目標位置を定める方法について述べる。
【0064】
図10は、基本速度計画に沿って走行した際の所定時刻での目標位置と目標位置における加減速状態の関係を分類し、所定時刻に目標位置に達するように速度計画を調整する方法を示した表である。
【0065】
基本速度計画だと目標位置の通過後に所定時刻となる場合は、減速のタイミングを早めるか、減速の程度を強めることによって、所定時刻に目標位置に達するように調整できる(
図10のAもしくはB)。加えて、目標位置の通過が加速中あるいは加速後となる場合は、加速のタイミングを遅らせるか、加速の程度を弱めることによっても、所定時刻に目標位置に達するように調整できる(
図10のB)。
【0066】
逆に、基本速度計画だと所定時刻に目標位置まで達しない場合は、減速のタイミングを遅らせるか、減速の程度を弱めることによって、所定時刻に目標位置に達するように調整できる(
図10のCもしくはD)。加えて、目標位置の通過が加速中あるいは加速後となる場合は、加速のタイミングを早めるか、加速の程度を強めることによっても、所定時刻に目標位置に達するように調整できる(
図10のD)。
【0067】
基本速度計画は、周囲に移動体が存在しなければ乗員にとって快適な車両運動となるように設定しているので、それを変更するということは、多少なりとも快適性を損なう可能性がある。状況によっては、所定時刻の位置を目標に近づけることによる効果よりも、当初の速度計画からずれることによる悪影響の方が勝り、速度計画の修正量を抑えるか、むしろ修正しない方が良い場合もある。極端な例として、減速を大幅に早めるか強めるかしてカーブを通過する途中で一旦停車すれば、車両運動に円滑さを欠き、快適でないことは明らかである。
【0068】
したがって、周囲の移動体との関係を考慮した速度計画の修正という面と、円滑な車両運動という面と、双方の兼ね合いを図る必要がある。そのため、車両運動の円滑さを損なうほど速度計画を大幅に修正しなければ所定時刻に目標位置に達するように調整することが難しい場合、目標を満たさないまでも、目標に近づける方向に修正することが望ましい。
【0069】
そこで、車両運動としての乗り心地と、移動体との接近に関する安心感という異種の要素を共通の基準で評価するために、各々を表現する変数を重み付けして加算した目的関数を設定し、目的関数の評価値が小さいほど評価が高いものとする。前者の乗り心地については、基本速度計画が乗り心地の良い車両運動であるので、その基本速度計画からのずれ量で表現する。後者の安心感については、自車と移動体との接近状態や接近状態の変化、及び自車の運動状態に対応する物理量である、相対距離や相対速度や相対加速度、及び絶対速度や絶対加速度等で表現する。
【0070】
以降、移動体との接近に起因する安心感の低下を評価する指標となる距離や速度や加速度等をまとめて接近許容度指標と呼ぶ。この指標は、距離が短いほど、速度が高いほど、加速度が高いほど、大きな値をとるものとし、その値が大きいほど許容されにくくなることを意味する。
【0071】
図11は、このような乗り心地と安心感を考慮した速度計画を実現するための手順を示したフローチャートである。
【0072】
処理が開始(201)されると、まず、
図10の表の2列目と3列目の条件に基づいて、4列目(最右列)に示した調整方法である、減速を早める、減速を強める、加速を遅らせる、加速を弱める、の4通りの方法のうち少なくとも1つ以上を含み、目標を実現できるか目標に近づく方向となるような速度計画の定性的な修正方法を1通り以上選択する(202)。
【0073】
選択した修正方法について、加減速のタイミングや程度を制約条件の範囲内で分布させた速度推移パターンを網羅的に仮設定する(203)。ここで制約条件とは、走行軌道の形状から導かれる減速すべき箇所では加速しないこと、加速すべき箇所では減速しないこと、加減速度の最大値、を意味する。
【0074】
仮設定した各速度推移パターンについて、基本速度計画からのずれ量と接近許容度指標を変数に含む目的関数の評価値を算出する。同様に、基本速度計画についても目的関数の評価値を算出する(204)。
【0075】
その中から、最も評価値の小さい最良のパターンを選出して速度計画とし(205)、処理を終了する(206)。つまり、もし基本速度計画が最も良い評価であれば、結果として加減速制御の修正はなされない。また、所定時刻に目標位置には達する速度計画は実現できず、制約条件の範囲内で最も評価値の小さい速度計画が選択される場合もある。
【0076】
これにより、周囲の車両との関係に起因する不安の軽減と、車両運動として良好な乗り心地との妥協点が求まり、総合的な快適性は少なくとも基本速度計画以上の水準となる。
【0077】
ここまで、対向車とすれ違う位置の変更を図る方法を述べたが、他に、相対速度を抑えることによって乗員の不安を軽減するために、元のすれ違い予測速度とは異なる速度ですれ違うようにする方法もある。この場合、すれ違い時刻と、その時刻に自車の速度をどの程度とするかを計画する。また、すれ違う瞬間の速度は同じであっても、対向車との接近速度が一定である、より接近速度を増しながらすれ違う方が乗員に不安を与えやすいので、接近する相対加速度が許容水準に収まるように定める方法もある。
【0078】
あるいは、すれ違い時の自車の前後加速度を負にすることのみを目標とする方法もある。これは、少なくとも自車が減速しながら対向車に接近すれば、乗員の不安が緩和されると考えられるからである。
【0079】
他に、相対的あるいは絶対的な、位置、速度、加速度のうちの2つ以上を目標とすることもできる。一般には複数同時に目標を満たすことはできないが、これらを変数とする目的関数を設定した最適化問題として扱えば、総合的に目標に近づいた解を得ることができる。
【0080】
以上の要点は、相対的あるいは絶対的な、位置、速度、加速度のうち、いずれか1つ以上を所定時刻における目標値として定め、それらの物理量が当該時刻に目標値に向かうように、速度計画を修正する、ということである。目標として設定する対象が、位置、速度、加速度のいずれであっても、カーブ区間の入口から出口までの走行において、減速してから加速するという一連の速度推移を定性的には維持しながら、加減速のタイミングと程度を変化させるという点は共通する。そのため、いずれの場合でも、
図11のフローチャートと同様の手順によって速度計画を修正することができる。
【0081】
(実施例2)
後続車との関係を考慮して加減速を制御する場合について説明する。
【0082】
まず、基本速度計画を走行軌道のカーブ形状に応じた加減速の推移として定める点は実施例1と同様である。これについては説明を省略する。
【0083】
乗員が後続車に対して感じる代表的な不安要素は、後方から自車に接近されることにより、車間距離が不十分になることである。接近が予測される後続車の運動に対して、前述の接近許容度指標の余裕を増やすには、自車の全体的な速度水準を上げなければならない。しかし、元々快適性を考慮して算出した基本速度計画に対して速度水準を上げると、例え車両運動性能の面で支障はなくても法定速度の超過や乗員に不安を与えるおそれがあるため、速度水準を上げられる状況は限られる。
【0084】
そこで、速度水準を上げられない場合は、自車の運動を車速を下げる方向に変化させることによって、後続車の運動を変化させることを図る。具体的には、カーブに入る際に減速開始のタイミングを早めることによって、後続車に減速の意思を示し、後続車にも減速を促す。結果として、カーブ区間で車間距離が短くなり過ぎることを防止する。
【0085】
図12は、後続車との関係に対する処理の流れを示すフローチャートである。
【0086】
処理が開始(301)されると、まず、後続車が検知されるか否か判断する(302)。
【0087】
後続車が検知されない場合、当初の速度計画に従って自車の加減速を制御する(303)。
【0088】
後続車が検知された場合、後続車の前後方向の運動を予測する(304)。
【0089】
後続車と許容範囲以上の車間距離が十分保たれるか否か判断する(305)。
【0090】
車間距離が十分保たれることが予測される場合、当初の速度計画に従って自車の加減速を制御(303)し、処理を終了する(310)。
【0091】
車間距離が許容範囲より短くなることが予測される場合、後続車の運動の予測に応じて車間距離を保てるように自車の速度水準を上げる、つまり、減速の程度を弱めるかタイミングを遅らせる、あるいは加速の程度を強めるか早めることが、許容できるか否か判断する(306)。
【0092】
許容できる場合、速度計画を、速度水準を上げるように修正する(307)。
【0093】
許容できない場合、後続車の運動の予測に対して、逆に車間距離が縮まるように減速のタイミングを早めるように速度計画を修正する(308)。このとき、同時に減速の程度も弱めて、カーブ通過速度は当初計画と同等とする。これにより、自車が減速しすぎることなく、後続車のドライバか制御システムが先行車、つまり自車、の減速を早く認識して車間距離が必要以上に縮まらないようになることが期待できる。
【0094】
修正した速度計画に従って自車の加減速を制御(309)し、処理を終了する(310)。
【0095】
次の制御周期で処理が開始(301)されると、再び後続車の検知(302)以降の処理を繰り返すことで、状況が変化した場合にも逐次対応した速度計画の修正を行う。
【0096】
後続車との関係では、カーブ区間で自車と接近した状態となってからでは自車の乗員が既に不安を覚える状況となる可能性がある。そのため、後続車が当該カーブ区間で自車に接近する前に、車車間通信や路車間通信によって後続車の加減速の特徴を取得することが望ましい。後続車の減速の程度が弱い、あるいは減速のタイミングが遅い、という特徴が予め取得でき、自車に接近した場合に車間距離が必要以上に縮まることが予測されれば、自車の減速のタイミングを早めることで、カーブ区間内での後続車の過度な接近をより効果的に防止することができる。
【0097】
(実施例3)
並走車との関係を考慮して加減速を制御する場合について説明する。なお、並走車とは、自車が走行する車線の隣接車線を自車と同方向に走行する車両のことを指すものとする。
【0098】
基本速度計画を走行軌道のカーブ形状に応じた加減速の推移として定める点は実施例1及び実施例2と同様である。これについては説明を省略する。
【0099】
図13は、片側2車線のカーブ路を走行中に、自車の運動のみを考慮した速度計画によって並走車との距離が徐々に近づいていき、真横に並んだ最接近状態になる様子を示したものである。進路を変更しない限り、走行軌道が隣接車線の並走車と重なることはないため、自車の運動のみを考慮した速度計画でも走行に支障はない。しかし、このように互いに真横、あるいはそれに近い位置関係で並走する状態が続く可能性がある。
【0100】
図14は、片側2車線のカーブ路において真横を並走する状態が続かないように斜め方向の位置関係を維持した様子を示したものである。並走車と自車との関係では、このような斜め方向の位置関係を維持すると、車両間の距離と自車側方の空間が確保されるので、乗員は安心感を得られる。
【0101】
この際、乗員に並走車が意識される接近状態であっても、比較的距離が離れていれば、ある程度の時間その状態が継続してもさほど不安にはならない。しかし、比較的距離が近ければ、相対的に短時間の接近状態の継続でも、時間の経過と共に不安が増していく。接近の程度に応じて時間が経過すると共に不安が増すという要素を評価するため、接近許容度指標に、時間の経過で累積する要素を組み込む。この接近許容度指標と基本速度計画からの変更量とを重み付けした合算により、目的関数を設定する。
【0102】
図15に、この接近許容度指標の概念図を示す。自車と並走車との距離の逆数を接近度と定義し、現時点t=t
0から所定時間t=t
3経過するまでに予測される接近度の推移を時間積分した値を接近許容度指標として用いる。
図15(a)が
図13の場合に対応し、
図15(b)が
図14の場合に対応する。
【0103】
図15(a)において、接近度が最大となるのはt=t
3近辺であるが、最大値だけでなく接近度がt=t
0から増加していく経緯も含めて接近許容度指標に織り込まれている。
【0104】
図15(b)では、並走車の側方に並びかけないために接近度が小さい状態が続き、t=t
0からt=t
3まで接近度を積分した接近許容度指標も
図15(a)の場合より小さい。
【0105】
図15(c)は、接近度の最大値は
図15(a)と同等であるが、接近度の大きい状態が短時間の場合である。
図16は、並走車との速度差が大きく、基本速度計画のままであるとt=t
1において追い抜きが発生する様子を示し、この状況が
図15(c)に対応する。
【0106】
接近度の最大値が同等でも、予測される接近状態が短時間である
図15(c)の方が
図15(a)よりも接近許容度指標は小さくなる。そのため、目的関数の評価値を増加させにくいので、基本速度計画からの変更量を抑えることが最も評価値を小さくすることになり、基本速度計画に沿った速度計画が選択されやすい傾向となる。
【0107】
逆に、接近状態が長時間継続するほど目的関数の評価値を増加させやすいため、
図15(a)の場合のように基本速度計画では並走状態が続くことが予測されると、基本速度計画からの変更による評価値の増加分よりも、
図15(b)のように接近許容度指標を小さく抑えることによる評価値の減少分の方が上回り、後者の速度計画への修正を促す作用をもたらす。
【0108】
なお、所定時間分の積分値が常時更新されるので、接近状態が継続しても値が際限なく増加することはなく、現時点での他車の運動予測と速度計画における所定時間までの将来の接近状態を評価することができる。
【0109】
また、所定時間とは必ずしも一定の時間である必要はない。例えば、接近許容度指標を算出する時点での速度計画に沿って所定の距離あるいは所定の地点まで走行するのに要する時間として、所定時間を定めても良い。
【0110】
(実施例4)
自車の加減速制御に加え、周囲の車両の加減速も同時に制御する場合について説明する。前提として、自車と周囲の車両のいずれも加減速を制御可能な、
図1に代表される構成とし、基本速度計画は、個々の車両で各車両自身の運動のみを考慮して、実施例1〜実施例3と同様に設定する。
【0111】
自車と、接近する周囲の車両の双方が速度計画を持っているので、自車と接近する車両との車車間通信や路車間通信等により、現在以降の速度計画の情報を交換する。相手の運動を予測する必要はない。互いに相手の速度計画を参照し、個々の車両において速度計画を修正するが、その結果、相手の速度計画修正が自車の速度計画修正の目的と相反する場合は、所望の接近状態を作り出せない。相手の速度計画が自車の速度計画の目的と相反する場合とは、例えばカーブ区間でのすれ違いにおいては、どちらの車両も自車から見てカーブ曲率が急になる手前ですれ違いを図るような場合である。これは両立不可能なので、カーブ区間のどちら側ですれ違うか選択する必要がある。その場合は、どちらの速度計画を優先するか、両者の評価を比較してより良い方を選択する。
【0112】
図17は、このような判断を含む制御の流れを表すフローチャートである。
処理が開始(401)され、接近する周囲の車両が検知(402)された場合、当該車両が自車との関係において速度計画の修正を受け入れるか否か判断する(403)。
【0113】
接近する周囲の車両が検知されない場合は、当初の速度計画に従って自車の加減速を制御する(404)。
【0114】
接近する車両が速度計画の修正を受け入れない場合、自車の制御のみで対処する方法に移行する。相手の運動を予測して自車の速度計画を修正(405)し、その速度計画に従って加減速を制御する(414)。これは実施例1〜実施例3と同様の方法である。
【0115】
当該車両が速度計画の修正を受け入れる場合、現在以降の速度計画の情報を自車と交換する(406)。
【0116】
互いに、相手の速度計画に基づいて自車の速度計画を修正(407)し、修正後の速度計画の情報を再度交換する(408)。
【0117】
相手の修正後の速度計画が自車の修正後の速度計画の目的と合致するか否か判断する(409)。
【0118】
合致する場合、その速度計画に従って自車の加減速を制御する(410)。
【0119】
合致しない場合、相手の速度計画を優先して自車の速度計画を再修正する場合と、自車の速度計画を優先して相手が速度計画を再修正する場合とで、どちらの修正量が少なく、乗り心地に悪影響を及ぼさないかを判断し、選択する(411)。
【0120】
選択された速度計画に従って、自車の速度計画を優先して加減速を制御する(412)か、相手の速度計画を優先して加減速を制御する(413)。
【0121】
404,410〜414のいずれかの方法で加減速の制御がなされ、処理を終了する(415)。
【0122】
何らかの原因で実際の運動が速度計画からずれが生じる場合に対応するため、次の制御周期で処理が開始(401)されると、接近する車両の検知(402)以降を再び実施し、状況が前制御周期から変化した場合には速度計画が再修正される。
【0123】
図18は、自車と相手車との相対距離を確保したい状況における速度計画の修正例を示したものである。
【0124】
状況設定として、
図18(a)は、自車も相手車も速度計画を修正せず、基本速度計画に沿って減速した場合を示しており、この場合は相対距離が不十分となる。
【0125】
図18(b)は、相手車が基本速度計画を維持する場合に、必要十分な相対距離となるように自車の減速を強めた状況を示す。
【0126】
図18(c)は、自車が基本速度計画を維持する場合に、必要十分な相対距離となるように相手車が減速を弱めた状況を示す。
【0127】
図18(d)は、自車が
図18(b)と同程度に減速を強め、相手車が
図18(c)と同程度に減速を弱めた場合に、結果として相対距離が過大となる状況を示す。このように、自車は減速を強めて、相手は減速を弱めることで距離を開けようとする場合、互いに相手が元の速度計画に従って運動することを前提とした速度計画の修正では、距離の開き方と速度計画の修正量が必要以上に大きくなる。
【0128】
これに対し、
図18(e)は、双方の速度計画の修正量を、相手側の速度計画の修正を見越して算出した場合である。どちらか一方だけでなく双方の速度計画を修正することにより、必要十分な相対距離を確保しながら、車両毎の速度計画の修正量を最小限に抑え、基本速度計画で考慮した乗り心地の維持を最大限図ることができる。
【0129】
接近する関係にある移動体の双方による速度計画修正量の分担は、相対距離を確保したい場合に限らず、接近速度や接近加速度を抑えたい場合、また、対向車、並走車、後続車、いずれとの関係にも適用できる。
【0130】
(実施例5)
移動体の種別によって、制御を変更する場合について説明する。これは、実施例1〜実施例4のいずれとも組み合わせられる。
【0131】
2輪車や自転車や歩行者は、移動速度水準、転倒の可能性、方向転換の仕方等に関して、4輪車とは運動の特性が異なる。また、4輪以上の車輪を備える車両でも大型であるほど道路を占有する面積が大きく、同じ運動状態であっても周囲の車両との間隔が小さくなり、さらに、車高の高い車両に対しては心理的な圧迫感を覚える。そのため、移動体の運動特性や大きさと無関係に算出した相対的な距離や速度や加速度等の接近許容度指標が同等であっても、乗員の安心感の程度は移動体の種別によって異なる。
【0132】
この点を考慮し、移動体検知部において移動体の存在とその種別及び大きさを検知し、移動体運動予測部において移動体の種別に応じた運動予測を行う。移動体の大きさを表す値は、絶対的な寸法ではなく、走行中の道路の車線幅を基準とした相対値でも良い。その上で、検知された移動体が普通4輪車以外の場合は、普通4輪車の場合に対して車体の大きさや移動体の種別に応じて接近許容度指標を補正し、速度計画に反映させる。
【0133】
図19は、移動体の種別に応じて制御を変更する処理の流れを示したフローチャートである。
【0134】
処理が開始(501)されると、車両運動制御装置15の移動体検知部で、周囲の移動体の存在を検知すると共に、その種別を検知する(502)。
【0135】
移動体が4輪以上の車輪を備える車両である場合、その車体の大きさの情報を取得(503)し、運動予測を行う(504)。
【0136】
普通4輪車の車体の大きさを基準として、接近許容度指標を補正する(505)。
【0137】
移動体が2輪車である場合、2輪車の運動特性を考慮した運動予測を行う(506)。
【0138】
移動体が歩行者である場合、歩行者の運動特性を考慮した運動予測を行う(507)。
【0139】
移動体が自転車である場合、自転車の運動特性を考慮した運動予測を行う(508)。自転車は、歩行者と2輪車の両方の運動特性を有する。
【0140】
移動体が2輪車、歩行者、自転車の場合、各移動体の特徴に対応して接近許容度指標を補正する(509)。
【0141】
補正後の接近許容度指標を、目的関数を構成する変数とすると共に、移動体の運動予測結果に基づいて速度計画を修正する目標値を設定し、速度計画に反映(510)させて、処理を終了する(511)。
【0142】
(実施例6)
複数台の車両が関係する広範囲で加減速制御の最適化を図る場合について説明する。これは、大半の車両が実施例1〜実施例5のいずれかの車両運動制御装置を備えるADASあるいは自動運転システムを搭載し、それによって加減速制御がなされることを前提に、実施例4で述べた複数台の速度計画の修正方法を拡張して、広範囲な交通環境に対して適用するものである。
【0143】
図20は、2つのカーブが連続する道路において自車が2台の対向車、対向車A及び対向車B、と立て続けにすれ違う状況を示したものである。自車がカーブ形状に基づく基本速度計画に従って進行した場合には、時刻t=t
1において1つ目のカーブ中盤で対向車Aとすれ違い、時刻t=t
3において2つ目のカーブ終盤で対向車Bとすれ違う。
【0144】
これに対し
図21は、カーブ中盤でのすれ違いを避けるため、1台目の対向車Aとの関係に限って最適となるように自車の速度計画を修正した場合を示したものである。減速を強めることによって時刻t=t
1+α
1において1つ目のカーブ序盤で対向車Aとすれ違うようにし、その結果として、時刻t=t3+α3において2つ目のカーブ中盤で対向車Bとすれ違う状況となっている。
【0145】
さらに
図22は、対向車Bが接近してきた際に、カーブ中盤でのすれ違いを避けるため、2つ目のカーブに対する減速を強めることによって時刻t=t
4において2つ目のカーブ序盤で対向車Bとすれ違うようにしたものである。しかし、このように2台目の対向車が接近し、速度計画が不適と判断された時点であらためて自車の速度計画を修正するという2段階の手順を踏んだ結果は、必ずしも総合的に最適とは限らない。
【0146】
この例では、1台目の対向車Aとのすれ違いだけを考慮して減速方向に修正したことによって、2台目の対向車Bとのすれ違い時にも減速方向に修正する状況となっている。しかし、もし1台目とのすれ違い時の減速の修正量を最小限に抑えれば、2台目とのすれ違い時にはカーブ中盤ですれ違うことはなくなり、2つ目のカーブに対する速度計画の修正を必要としない、ということがあり得る。1台目とのすれ違い時の速度計画の修正量を抑えることによる乗員の安心感の低下と、2台目とのすれ違い時の速度計画の修正による快適性の低下とで、前者の影響の方が小さければ、1台目とのすれ違い時の速度計画の修正量を抑えて2台目とのすれ違い時の速度計画は修正しない方が、総合的には安心感と快適性を両立できることになる。
【0147】
図20〜
図22では自車の速度計画について説明したが、自車にとっての対向車は、次に自車の後続車とすれ違うので自車と同じ立場であり、総合的な加減速制御の最適化を図る必要性は同様である。
【0148】
間もなく接近する車両だけでなく、さらに先で接近が予測される複数台との関係まで考慮するには、カメラ28やレーザースキャナ30によって自車が直接他車を検知できる範囲では不十分であるので、無線通信装置29を介して車車間通信や路車間通信の情報を利用する。
【0149】
一方、特に市街地等の複雑な交通環境では不確定要素が多く、数台先までの接近予測が意味を成さない場合もある。これに対しては、目的関数を構成する変数の重み付けを予測の信頼性にも依存させることによって、予測の信頼性が高い直近に迫る状況への対応を、予測の信頼性が低い先々の状況への対応よりも重視して速度計画を修正するようにする。例え予測はできてもその信頼性が全く得られない程遠い将来の状況を表す変数は重みをゼロとし、速度計画の修正には反映させない。
【0150】
これらの方法により、必要十分な広範囲の先の状況に対して速度計画を修正する。
【0151】
以上の方法は、本発明の車両運動制御装置による加減速制御がなされない車両が交通環境に混在している場合でも、実施例1〜実施例5と同様に、移動体の運動を予測することによって成立する。関係する全車両が制御下にある場合よりは安心感と快適性の両立を図る精度は低下するが、局所的な2台の関係のみに対して速度計画を都度修正する場合よりも効果が見込める。
【0152】
また、各車両個々の判断ではなく、各車両の運動状態の情報を交通管制システムに集約し、システムの管理下にある全車両の速度計画を一括して算出しても良い。
【0153】
図23は、交通管制システムと車両との間の情報のやり取りを示したものである。この方法では、各車両は路車間通信によって交通管制システムに自車の位置と車速や進行方向等の運動状態の情報を逐次送信する。交通管制システムはその情報に基づいて、目的関数の変数の設定と一般的な最適化アルゴリズムを用いて最適化あるいは近似的に最適化するように管理下にある全車の速度計画を逐次算出、更新し、各車両はその速度計画を受信して加減速を制御する。システムの規模が大きいほど情報量も計算量も増加するが、大局的に扱うことにより、エネルギー消費や目的地までの所要時間等を目的関数の変数に含めた最適化と組み合わせて、乗員の安心、快適のみならず、社会的な利益を向上させることができる。
【0154】
以上より、本発明の車両運動制御装置は下記構成により、走行軌道に対する加減速の関係をなるべく保ちながら、周囲の状況に適合するように加減速のタイミングや程度を変更することにより、望ましい車両運動からもたらされる乗り心地と周囲の状況に起因する不安の抑制を両立させ、乗員の快適性が向上する。
【0155】
すなわち、車両が走行を予定する走行予定軌道を検知する走行予定軌道検知部と、前記走行予定軌道検知部が検知する軌道の周囲を運動する前記車両以外の移動体の存在を検知する移動体検知部と、前記移動体の運動を予測する移動体運動予測部と、を備え、前記走行予定軌道と前記移動体運動予測部の運動予測とに基づいて前記車両の加速、減速又はその両方を制御する。
【0156】
また、前記移動体が検知されない場合は、前記走行予定軌道に基づいて前記車両の加速、減速又はその両方を制御し、前記移動体が検知される場合は、前記走行予定軌道と前記移動体運動予測部の運動予測とに基づいて前記車両の加速、減速又はその両方を制御する。
【0157】
また、前記車両の速度計画を、前記車両の加速、減速又はその両方の制御中に逐次更新する。
【0158】
また、前記車両の加速、減速又はその両方の制御目標として、前記移動体を検知して修正した速度計画を用いる。
【0159】
また、前記車両は、前記走行予定軌道に基づく速度計画に対して、
前記移動体運動予測部の運動予測に基づいて算出される所定の時刻における、絶対的又は前記移動体に対する相対的な、目標位置、目標速度又は目標加速度に応じて、加速、減速又はその両方のタイミングと程度を変化させる。
【0160】
また、前記走行予定軌道上の前後方向位置で区切られる1次元の領域として、前記車両の車速が下がっていく間に走行する領域を減速領域、前記車速が上がっていく間に走行する領域を加速領域、前記車速が一定に保たれている間に走行する領域を定速領域、とし、前記加速領域か前記定速領域で前記移動体とのすれ違いが予測される場合には、前記減速領域ですれ違うように速度計画を修正して加速、減速又はその両方を制御する。
【0161】
また、前記車両の絶対速度、前記車両の絶対加速度、前記移動体との相対位置、前記移動体との相対速度、及び前記移動体との相対加速度、のいずれかを含み、距離が短いほど、速度が高いほど、又は加速度が高いほど、大きな値となる接近許容度指標を、小さくする方向に加速、減速又はその両方を制御する。
【0162】
また、前記接近許容度指標は、前記車両の絶対速度、前記車両の絶対加速度、前記移動体との相対距離、前記移動体との相対速度、及び前記移動体との相対加速度、のいずれかの時間積分値を含む。
【0163】
また、前記接近許容度指標を変数に含み、さらに前記移動体が検知されない場合との速度計画の差異の程度を変数に含む目的関数の評価値を、前記走行予定軌道に基づく速度計画に従う場合の該目的関数の評価値に対して、小さくするように加速、減速又はその両方を制御する。
【0164】
また、前記移動体の種別あるいは大きさに応じて、加速もしくは減速もしくはその両方の制御を変化させる。
【0165】
また、前記走行予定軌道に基づく速度計画は、前記車両の横運動に応じてなされる。
【0166】
また、前記走行予定軌道に基づく速度計画は、横加速度の大きさが増える際には減速し、横加速度の大きさが減る際には加速するように前後運動を制御する。
【0167】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0168】
例えば、カーブ路における加減速について説明したが、車線幅が部分的に狭くなっているために減速して通過する場合にも応用できる。その他、走行軌道に応じた加減速の制御を要する場面で、周囲に移動体が存在する場合に広く適用できる。