【課題】二酸化炭素がでない生産効率のよい水素化マグネシウムの製造方法、水素化マグネシウムを用いた二酸化炭素や放射線がでない発電システム及び水素化マグネシウムの製造装置を提供することを1つの目的とする。
【解決手段】本発明の水素化マグネシウムの製造方法は、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物に水素プラズマを照射する手順と、水素プラズマが存在する範囲内に配置した水素化マグネシウムを付着させる付着手段80に水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる手順と、を含み、付着手段80の表面温度が水素化マグネシウムの析出する所定の温度以下に保たれている。
前記マグネシウム化合物への前記水素プラズマの照射を停止させないで、前記付着手段から前記マグネシウム生成物を剥離させて回収する手順を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
前記水素プラズマの存在する範囲が、目視できる程度のプラズマ密度の前記水素プラズマが存在する範囲であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。
なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0043】
本発明の一例は、水素プラズマで水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物を還元させるとともに、水素プラズマ中に低温となる部分を作ることで、その低温部分の表面に水素化マグネシウムが析出する現象を発見したことに基づいている。
【0044】
具体的には、水素プラズマは、より正確には高密度で電子温度が低いマイクロ波表面波水素プラズマは、反応室2(
図2参照)内にマイクロ波を導入するための誘電体材料の窓W(
図2参照)の表面上で発生するが、その窓Wの表面に析出したマグネシウム生成物が、水滴を垂らすだけで激しく発砲して水素を発生するほどに水素化マグネシウムを含有していることを発見したことに基づいている。
【0045】
しかしながら、このように水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を析出させることができる現象は通常の化学反応式からでは理解できないものとなっており、このような現象がどうして起きるのかについて、具体的な装置構成の説明を行う前に、推定される原理について説明を行う。
【0046】
なお、以下の説明では、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物が塩化マグネシウムである場合を例に取って説明するが、マグネシウム化合物は、フッ素化マグネシウム等の塩化マグネシウムと異なるハロゲン化マグネシウムであってもよい。
【0047】
また、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物としてハロゲン化マグネシウム以外のものを用いてもよいが、マグネシウム化合物が酸素原子を有している場合、水素プラズマによる還元で発生する水が酸化作用を示し、析出する水素化マグネシウムが著しく減少するため、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物としては、酸素を有しないマグネシウム化合物であることが好ましい。
さらに、マグネシウム化合物は、酸素を含む不純物を含まないことが好ましい。
【0048】
特に、以下で説明するように、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物として塩化マグネシウムを用いるようにすると、多くの利点があることから、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物には、塩化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0049】
推定される具体的な水素プラズマ中での水素化マグネシウムの析出原理を説明する前に、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物に塩化マグネシウムを用いることの利点について説明しておく。
【0050】
塩化マグネシウムは、海水から塩を生産する際に副生成物として得ることができる、にがり中に含まれており、その埋蔵量が無尽蔵であり、それを原材料として安価に塩化マグネシウムが生産されているため、仮に、水素化マグネシウムから水素を分離した後の副生成物から塩化マグネシウムを再生しないとしても問題がない。
【0051】
しかしながら、水素化マグネシウムから水素を分離した後の副生成物からの塩化マグネシウムの再生も可能であり、この場合、金属マグネシウムを循環させるようにして使用することが可能である。
【0052】
具体的には、先に説明したように、水素化マグネシウムからの水素の取り出しは、水素化マグネシウムに水を加えることで行うことができる(式1参照)。
MgH
2 + 2H
2O → Mg(OH)
2 + 2H
2・・・(1)
なお、この式1の反応は発熱反応となるため、この反応で出る熱を利用して発電を行うことも可能である。
【0053】
そして、水素を発生させた後のマグネシウムを含有する副生成物は、水酸化マグネシウムであるが、水酸化マグネシウムを塩酸水に投入して中和反応を行うと、塩化マグネシウムを含有する水溶液ができる(式2参照)。
Mg(OH)
2 + 2HCl → MgCl
2 + 2H
2O・・・(2)
【0054】
次に、この塩化マグネシウムを含有する水溶液を塩化マグネシウムが分解して塩基性塩基(Mg(OH)Cl)を発生させない程度の温度で水を蒸発させて、塩化マグネシウム6水和物の結晶を析出させる。
【0055】
このようにして得た塩化マグネシウム6水和物を脱水処理することで、再び、無水塩化マグネシウムを得ることができる。
例えば、塩化マグネシウム6水和物と塩化アンモニウムのモル比を1:8程度として加熱処理を行うことで脱水を行う(式3参照)。
MgCl
2・6H
2O + 6NH
4Cl
→ MgCl
2 + 6NH
4OH + 6HCl・・・(3)
【0056】
ただし、塩化アンモニウムと塩化マグネシウム6水和物との反応を促進するために、塩化アンモニウムの分解温度である約340℃以上の温度にして、式3に示す脱水の反応を行うようにすることが好ましいが、一方で、この熱処理の温度が高すぎると、酸化マグネシウムが生成してしまうため、400℃を超えない程度の温度で熱処理を行うようにすることが好ましい。
【0057】
このように、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物として塩化マグネシウムを用いるようにすると、水素化マグネシウムから水素を分離した後の副生成物から塩化マグネシウムを再生することができ、その再生した塩化マグネシウムを後述するように水素プラズマで還元することで水素化マグネシウムを得ることができ、金属マグネシウム自体も循環させるように使用することが可能である。
【0058】
しかも、後述するように、塩化マグネシウムから水素化マグネシウムを生成する水素プラズマによる還元処理では、塩酸や塩素が発生するので、この塩酸を先に示した式2の反応で用いることができる。
【0059】
具体的には、塩酸は水によく溶けるため、還元反応時の排ガスを水のシャワーに潜らせる排ガス処理を行えば、塩酸水溶液を作ることができるので、その水溶液を式2の反応に用いる塩酸水とすればよい。
【0060】
そして、上記で説明した水素化マグネシウムから水素を分離した後の副生成物から塩化マグネシウムを再生する手順では、炭素を含む材料が使用されておらず、必要な加熱処理は、発電に適した天候のときに発生する太陽光発電や風力発電の余剰電力を用いることが可能であるため、地球温暖化の原因である二酸化炭素が発生しない。
【0061】
なお、上述した水素化マグネシウムから水素を分離した後の副生成物から塩化マグネシウムを再生する手順は、あくまでも一例であって、他にも、二酸化炭素を発生させないで塩化マグネシウムを再生することは可能である。
【0062】
次に、水素プラズマ中での水素化マグネシウムの析出現象について、推定される析出原理について説明する。
通常、塩化マグネシウムと水素との反応を式で書くと、以下の式4のように表される。
MgCl
2 + H
2 ⇔ MgH
2 + Cl
2・・・(4)
【0063】
ここで、問題となるのは、反応中の環境(圧力・温度)をどのようにすれば、式4において右側が安定状態となり、右側への反応が進むかということになる。
【0064】
そして、どちらが安定であるかは、Gibbsの自由エネルギーを考えることでわかるが、式4の場合、プラズマの反応を行うための反応炉内の圧力を高密度で電子温度が低い水素プラズマであるマイクロ波表面波水素プラズマを発生させるために10Paにしたとすると、右側に反応を進めるためには、炉内温度を約1150℃以上とする必要がある。
【0065】
しかしながら、このような高温状態では、水素化マグネシウム自体が気体の状態になるため、固体として析出させるためには、炉内の温度を下げる必要があるが、約1150℃よりも低い温度領域では式4の左側への反応が優勢となるため、固体として析出する物質は、塩化マグネシウムになってしまい、水素化マグネシウムが析出しないことになる。
【0066】
ところが、先にも触れたが、反応室2(
図2参照)内にマイクロ波を導入するための誘電体材料の窓W(
図2参照)の表面に析出したマグネシウム生成物は、水滴を垂らすだけで激しく発砲して水素を発生するほどに水素化マグネシウムを含有しているものになっていた。
【0067】
そこで、このような状況がいかにして起こるのかについて、鋭意検討を進めたところ、水素プラズマ中には、励起原子・分子、ラジカル(化学的に活性な原子・分子)、電子、イオン(正及び負)及び中性の原子や分子が存在し、そのような状態を考慮した反応式を考えることで説明が可能であることを見出した。
【0068】
例えば、一例として、以下の式5のように、水素原子が存在する反応式を仮定し、Gibbsの自由エネルギーに基づいて、右側に進む反応と左側に進む反応の境界を示したのが
図1である。
MgCl
2 + 2H +H
2 ⇔ MgH
2 + 2HCl・・・(5)
【0069】
具体的には、
図1は、反応室2(
図2参照)の圧力が10Paとし、横軸に水素原子の分圧(mPa)を取り、縦軸に温度(℃)を取って、水素原子の分圧(mPa)を変えた場合に右側に進む反応と左側に進む反応の境界が何度(℃)のところになるのかを示したグラフである。
【0070】
図1を見るとわかるように、水素原子の分圧が同じ場合、温度を下げることでMgH
2が生成されるようになり、同じ温度では、水素原子の分圧が大きくなるほどMgH
2が生成されるようになっている。
【0071】
ここで、注目すべきは、MgH
2がMgとH
2に分解しない100℃未満の温度域であってもMgH
2を生成する解が存在し、良好にMgH
2を固体として析出させることが可能であるとともに、反応室2(
図2参照)内にマイクロ波を導入するための誘電体材料の窓W(
図2参照)が比較的低温の状態になっていたことである。
【0072】
そして、反応室2(
図2参照)内にマイクロ波を導入するための誘電体材料の窓W(
図2参照)の表面で発生した水素プラズマ(マイクロ波表面波水素プラズマ)中の原子等は、窓Wから離れるほど減少してプラズマ密度が低下するが、上述のように、窓Wの表面は、式5の仮定が成立するのに十分高密度な水素プラズマが存在すると考えられ、MgH
2が固体として析出できたものと推定される。
【0073】
つまり、塩化マグネシウムに水素プラズマを照射して還元を行っている雰囲気の中で、式5のような状態が仮定できるプラズマ密度の高い範囲内、つまり、十分な水素プラズマが存在する範囲内に、後述するように、水素化マグネシウムを付着させる付着手段80(
図2参照)を配置し、その付着手段80の表面温度を水素化マグネシウムが固体として析出できる表面温度にすることで水素化マグネシウムを得ることができる。
【0074】
そして、水素プラズマの密度の低下は、装置の構成や条件等によって変わるものの、例えば、反応室2(
図2参照)内を見ることができるのぞき窓から見れば、密度が高い範囲は、プラズマの発光色が目視で見えるため、このようなプラズマの発光が目視でわかる範囲であれば、式5で示したような水素原子等の存在を仮定した式が成立するのに、十分な水素プラズマが存在する範囲であると考えられる。
【0075】
そこで、これから説明するような装置構成として、実際に、水素化マグネシウムを付着させる付着手段80(
図2参照)に水素化マグネシウムを付着させる実験を行い、付着手段80の表面81(
図2参照)に付着したマグネシウム生成物が、水滴を垂らすだけで激しく発砲して水素を発生するほどに水素化マグネシウムを含有していることを確認しており、以下、具体的に製造装置1について説明する。
【0076】
(第1実施形態)
図2は本発明に係る第1実施形態の水素化マグネシウムの製造装置1を説明するための断面図である。
【0077】
図2に示すように、製造装置1は、反応室2を形成する筐体10を備えており、本実施形態では、筐体10内に中央に開口部11Aを有する仕切部11を設けることで反応室2が第1空間Fと第2空間Sとを有するようになっているが、この仕切部11は省略してもよく、反応室2は1つの空間として形成されていてもよい。
【0078】
そして、製造装置1は、反応室2内にマイクロ波を入射させる部分に設けられた誘電体材料(例えば、石英やセラミックス等)の窓Wと、窓Wを介して反応室2内の第1空間Fに供給されるマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段20(例えば、マグネトロン)と、マイクロ波発生手段20で発生させたマイクロ波を窓Wのところまで導波させる導波管21と、を備えている。
なお、本実施形態では、発生するマイクロ波の周波数を2.45GHzとしているが、この周波数に限定される必要はなく、例えば、通信目的以外で使用できるISMバンドの5GHz、24.1GHz、915MHz、40.6MHz、27.1MHz及び13.56MHz等であってもよい。
【0079】
また、製造装置1は、反応室2内の気体を排出し、反応室2内を減圧する減圧手段30を有している。
具体的には、減圧手段30として、製造装置1は、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第1排気バルブ31Aが設けられた第1排気管31を介して第1空間Fに接続された第1真空ポンプ32と、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める第2排気バルブ33Aが設けられた第2排気管33を介して第2空間Sに接続された第2真空ポンプ34と、を備えている。
【0080】
なお、高密度な水素プラズマであるマイクロ波表面波水素プラズマを安定して発生させるためには、反応室2内の圧力が低いほうが有利であり、少なくとも反応室2内は10分の1気圧以下がよく、100分の1気圧以下がより好ましく、1000分の1気圧以下が更に好ましく、本実施形態では、10000分の1気圧程度である約10Paにしている。
【0081】
そして、気体の吸引力の弱い真空ポンプの場合、反応室2内の真空度を高めるのに時間がかかるため、そのような段取り時間を省略するために、第1真空ポンプ32又は第2真空ポンプ34のうちの少なくとも一方を気体の吸引力が高いメカニカルブースターポンプにしておくことが好ましい。
【0082】
なお、製造装置1には、反応室2の第1空間F内の圧力を計測するための第1圧力計32Aと、反応室2の第2空間S内の圧力を計測するための第2圧力計34Aが設けられており、例えば、第1圧力計32Aが計測する圧力に基づいて、第1空間F内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第1真空ポンプ32及び第1排気バルブ31Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第1真空ポンプ32を動作させておいて、第1圧力計32Aが計測する圧力に基づいて、第1排気バルブ31Aの動作を制御するようにすればよい。
【0083】
同様に、例えば、第2圧力計34Aが計測する圧力に基づいて、第2空間S内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
例えば、第2真空ポンプ34を動作させておいて、第2圧力計34Aが計測する圧力に基づいて、第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにすればよい。
【0084】
ただし、第1空間F及び第2空間S内の圧力を所定の圧力にするために、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)の双方を制御する必要はない。
【0085】
例えば、前段取りとして、反応室2内の圧力を所定の圧力にするときだけ、2つの真空ポンプ(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を動作させ、反応室2内の圧力が所定の圧力になったところで、第1排気バルブ31Aを閉にして第1真空ポンプ32の動作を停止し、その後は、第1圧力計32A又は第2圧力計34Aの計測する圧力に基づいて、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するように、第2真空ポンプ34及び第2排気バルブ33Aの動作を制御するようにしてもよい。
【0086】
なお、反応室2内の圧力を所定の圧力に維持するときに使用される反応室2内の圧力の測定値としては、第1圧力計32A及び第2圧力計34Aの計測した圧力を平均したものを使用するようにしてもよい。
【0087】
また、製造装置1は、還元ガスとしての水素を反応室2内に供給するための、図示しない水素供給手段を備えている。
例えば、水素供給手段は、水素の供給源となる図示しない水素貯蔵部(水素ボンベ又は水素貯蔵タンク)と、水素貯蔵部から反応室2に供給する水素の供給量を制御するマスフローメータ等の流量制御器(第1流量制御器MFC1及び第2流量制御器MFC2)と、を備えている。
【0088】
具体的には、水素貯蔵部は、第1供給管41を介して第1空間Fに水素が供給できるように接続されるとともに、第2供給管42を介して第2空間Sに水素が供給できるように接続され、第1供給管41の水素貯蔵部側に第1流量制御器MFC1が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第1供給バルブ41Aが設けられている。
【0089】
同様に、第2供給管42の水素貯蔵部側に第2流量制御器MFC2が設けられ、その下流側に開閉操作又は開閉制御により供給の有無を決める第2供給バルブ42Aが設けられている。
【0090】
さらに、製造装置1は、反応室2内(より具体的には、反応室2の第1空間F内)に水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物である塩化マグネシウムを供給する原料供給手段50を備えている。
【0091】
具体的には、原料供給手段50は、水素化マグネシウムを生成するための原料となる水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物である塩化マグネシウムを貯蔵する原料貯蔵部51と、原料貯蔵部51内の塩化マグネシウムを反応室2の第1空間F内に供給するための原料供給管52と、第1電源53Aからの電力の供給により発熱し原料供給管52及び原料貯蔵部51を加熱する第1加熱部53と、第1加熱部53の温度を計測する第1温度計54と、を備えている。
【0092】
そして、第1温度計54による温度の測定結果が、設定される所定の温度となるように、第1電源53Aから第1加熱部53に供給される電力の供給量が制御され、原料供給管52及び原料貯蔵部51が所定の温度に加熱される。
【0093】
例えば、原料が塩化マグネシウムである場合には、塩化マグネシウムが気体の状態となるように、第1加熱部53によって、原料供給管52及び原料貯蔵部51を約700℃程度の温度に加熱する。
そうすると、気化した塩化マグネシウムは反応室2の第1空間F内に向かって流れて行き、第1空間F内に供給されることになる。
【0094】
また、製造装置1は、反応室2内を加熱する加熱手段60として、反応室2の第1空間F内に設けられ、第2電源61Aからの電力の供給により発熱し反応室2の第1空間F内を加熱する第2加熱部61を備えている。
【0095】
なお、製造装置1は、反応室2の第1空間F内の温度を計測する第2温度計62を備えており、第2温度計62による温度の測定結果が、設定される所定の温度となるように、第2電源61Aから第2加熱部61に供給される電力の供給量が制御され、反応室2の第1空間F内の温度が所定の温度に保たれる。
【0096】
具体的には、この第2加熱部61によって、第1空間F内の温度は気体として塩化マグネシウムが存在できる温度に保たれる。
【0097】
一方、第2加熱部61の外側には、第2加熱部61からの輻射熱で筐体10が高温になるのを防止するために、輻射熱を反射するリフレクタ70が設けられるとともに、筐体10の外面上に水冷するための冷却管71が設けられている。
このように、製造装置1が、第2加熱部61によって、余分な場所が加熱されないように熱伝導を防止するリフレクタ70のような断熱手段を備える場合、筐体10が高温にならないため、筐体10の各所に使用されているパッキン等の劣化を抑制できるだけでなく、保温効率が高くなるため、消費電力を低減することができる。
【0098】
また、リフレクタ70には、上側の中央寄りの位置に、仕切部11の開口部11Aを通じて、第1空間Fから第2空間Sに挿入される挿入管72が設けられており、詳細については、後述するが、水素プラズマ及びマグネシウムを含むガス等が挿入管72から第2空間Sに放出されるようになっている。
【0099】
そして、
図2に示すように、製造装置1は、挿入管72に対向する位置に水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる付着手段80を備えており、製造装置1を停止させた後、付着手段80を取り出せるように、付着手段80は、筐体10に対して着脱可能に取り付けられている。
【0100】
付着手段80は、冷媒(例えば、外気)を供給する冷媒供給口INと冷媒を排出する冷媒排出口OUTを有し、その冷媒が反応室2の第2空間Sにリークしないようにした密閉容器構造になっている。
【0101】
なお、付着手段80は、挿入管72に対向する側の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる表面81が、挿入管72から放出される発光状態が目視で確認できる高密度の水素プラズマが直接接触する位置に配置されることで、発生する水素プラズマの存在する範囲内に配置されたものになっている。
【0102】
そして、製造装置1は、例えば、冷媒となる外気を冷媒供給口INから付着手段80内に供給するための図示しない冷却手段(例えば、ファンやコンプレッサ等)を備えており、付着手段80の水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる表面81の表面温度を水素化マグネシウムの析出する所定の温度以下に保つようになっている。
【0103】
なお、冷媒に外気を用いる場合には、冷媒排出口OUTには、大気開放となるように配管が接続されていればよい。
一方、冷媒に代替フロン等を用いる場合には、冷媒排出口OUTから排出された代替フロンをコンプレッサで圧縮して、その圧縮した代替フロンを再び冷媒供給口INから導入する循環冷却系(いわゆる、冷蔵庫等と同じである。)のようにすればよい。
【0104】
例えば、水素化マグネシウムの析出する所定の温度としては、200℃を超えると析出量が大幅に低下するため、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
【0105】
実験では、表面温度が200℃を超える状態で析出した水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物の場合、そのマグネシウム生成物に水滴を垂らし、水素の分離に伴う発砲現象が非常に弱いことを確認している。
一方、表面温度が100℃以下の状態で析出した水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物の場合、水滴を垂らすと水素の分離に伴う激しい発砲現象が見られることを確認しており、発砲しているガスが水素であることについては、水素検知管で確認を行っている。
【0106】
なお、表面温度が100℃を超える場合、水素化マグネシウムが水素と金属マグネシウムに分解する反応も起きるため、析出した水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物中の水素化マグネシウムの割合が減少することになることから、水素化マグネシウムの析出する所定の温度としては、100℃以下が最も好ましい。
【0107】
また、実験では、表面温度が約80℃のときよりも、約70℃のほうが水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物の単位時間当たりの析出量が多く、約50℃のほうが更に単位時間当たりの析出量が多くなる結果を得ている。
【0108】
さらに、製造装置1は、途中にリークバルブ91が設けられた大気開放管90を備えており、大気開放管90の図示しない一端は製造装置1が設置される建屋の外で大気開放状態になっている。
【0109】
この大気開放管90は、反応室2の圧力が異常な圧力になった場合に、緊急措置として反応室2を大気開放状態にするためのものであり、通常時には、リークバルブ91は閉の状態とされ、反応室2内に大気が混入することがないようになっている。
【0110】
以上のような構成を有する製造装置1では、反応室2内を高い真空状態としてマイクロ波を供給できるため、水素プラズマ(マイクロ波表面波水素プラズマ)として、高密度(例えば、プラズマ密度が10
−12/cm
3以上10
−14/cm
3以下)で電子温度(例えば、1eV以下)の低いマイクロ波表面波水素プラズマを安定して発生させることができる。
しかも、窓Wの表面で発生する表面波プラズマとマイクロ波の共鳴によって範囲の広い水素プラズマにすることができる。
【0111】
そして、マイクロ波表面波水素プラズマは、高周波プラズマや直流放電プラズマのように高い電子温度(例えば、10eV以上)とするためにエネルギーが消費されるプラズマと異なり、エネルギーロスが少ないという利点がある。
【0112】
しかも、特許文献1に開示されているプラズマでは、その温度が約2000K(約1700℃)にもなるため、例えば、付着手段80をステンレスやアルミニウムといった金属製にして、冷媒で冷却したとしても、プラズマ内に付着手段80を配置すると、その材料の耐熱温度以下に保つことすら困難であるとともに、仮に材料の耐熱温度以下に保つことができたとしても、その付着手段80の表面温度を水素化マグネシウムが固体として析出できる表面温度にすることは事実上不可能である。
【0113】
一方、本実施形態のマイクロ波表面波水素プラズマは、摂氏でのプラズマ自体の温度(電子温度ではなく、雰囲気としての温度)は、常温と変わらない低温プラズマであるため、後述するように、十分な水素プラズマが存在する範囲内に水素化マグネシウムを付着させる付着手段80を配置し、その付着手段80の表面温度(表面81の温度)を水素化マグネシウムが固体として析出できる表面温度にすることが可能である。
【0114】
なお、より一層、マイクロ波表面波水素プラズマを安定して発生させるために、水素ガスに、いくらかの不活性ガスを混合するようにしてもよい。
このように不活性ガスをいくらか混合しておくことでプラズマが点灯しやすくなるため、マイクロ波表面波水素プラズマの点灯状態を安定させることができる。
【0115】
次に、水素化マグネシウムの製造方法について具体的に説明する。
まず、前段取りとして、減圧手段30(第1真空ポンプ32及び第2真空ポンプ34)を駆動させ、反応室2内の圧力が所定の圧力(例えば、約10Pa)になるように減圧を行う手順を実施する。
【0116】
このときに、反応室2内を加熱する加熱手段60も合わせて駆動させ、反応室2の第1空間F内の温度を所定の温度(例えば、約700℃)に上昇させる。
なお、加熱手段60による第1空間F内の温度上昇は、比較的短時間で可能であるため、反応室2内の圧力が所定の圧力に近づいたタイミングで行うようにすればよい。
【0117】
そして、加熱手段60による第1空間F内の加熱を開始するのに合わせて、図示しない冷却手段によって付着手段80に冷媒の供給を開始させ、付着手段80の表面81の温度を水素化マグネシウムの析出する所定の温度以下に保つ手順を開始する。
【0118】
続いて、反応室2内の圧力が所定の圧力になるとともに、反応室2の第1空間F内の温度が所定の温度になったら、水素供給手段によって反応室2内に水素の供給を行う手順を開始し、例えば、図示しないのぞき窓から水素プラズマの発生(発光)を確認する。
なお、水素プラズマが発生しているかは、発光スペクトル強度を測定する測定器で確認するようにしてもよい。
【0119】
そして、水素プラズマの発生を確認したら、原料供給手段50によって、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物である塩化マグネシウムの供給を開始し、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物である塩化マグネシウムに水素プラズマを照射する手順を実施する。
【0120】
そうすると、挿入管72から付着手段80に向けて水素プラズマとともにマグネシウムを含むガスが放出され、水素プラズマが存在する範囲内に配置されている水素化マグネシウムを付着させる付着手段80に水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる手順が開始される。
なお、マグネシウムを含むガスとは、水素プラズマ中であるため、マグネシウム原子、塩化マグネシウム、水素化マグネシウム等の存在する複合ガスを意味する。
【0121】
そのようにして、付着手段80の表面81に向けて水素プラズマとともにマグネシウムを含むガスが吹き付けられると、表面81付近では、急激に温度が低下し、
図1に示したように、水素化マグネシウムの析出に有利な方向に反応が進み、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物が付着手段80の表面81に付着(析出)する。
【0122】
そして、所定の時間、製造装置1を駆動させた後、製造装置1の駆動を停止して、反応室2内の圧力を大気圧に戻すとともに、付着手段80が取り出せる温度(例えば、水素化マグネシウムが空気中の水分と激しく反応しない程度の温度)になった後、付着手段80を取り外して、付着手段80の表面81に付着している水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を回収する手順を行う。
【0123】
なお、製造装置1の駆動を停止して、付着手段80を取り外すまでの間、反応室2内は、露点の低い窒素ガスや不活性ガス等でパージするようにしておく。
【0124】
このようにして製造された水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物は、水素化マグネシウムを用いる発電システムに好適に用いることが可能である。
【0125】
具体的には、水素化マグネシウムを用いた発電システムは、先に説明したようにして水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物から水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を生成する手順と、マグネシウム生成物から水素を発生させる手順と、発生した水素を発電部に供給し、発電を行う手順と、水素を発生させた後のマグネシウムを含有する副生成物からマグネシウム化合物を生成する手順と、を含むことが好ましい。
なお、先に式1で説明したように、マグネシウム生成物から水素を発生させる手順での反応は、発熱反応となるため、マグネシウム生成物から水素を発生させる手順で発生する熱をさらに発電に利用する手順を含むものとすることでより一層発電の効率化が図れる。
【0126】
そして、マグネシウム化合物を塩化マグネシウムとすれば、マグネシウム化合物を生成する手順として、水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを含む副生成物と塩酸とを反応させて塩化マグネシウムの水和物を得る手順を行い、さらに、この水和物を脱水する手順を行うことで、再び、水素化マグネシウムと異なるマグネシウム化合物としての塩化マグネシウムの再生を行うことができ、炭素の発生を抑制しつつ、マグネシウムを循環させることが可能な発電システムとすることができる。
【0127】
(第2実施形態)
次に、
図3を参照しながら、本発明に係る第2実施形態の水素化マグネシウムの製造装置1を説明する。
図3は、本発明に係る第2実施形態の水素化マグネシウムの製造装置1を説明するための断面図である。
【0128】
なお、第2実施形態の製造装置1も第1実施形態の製造装置1と類似する部分を多く有しているため、以下では、主に異なる点について説明し、同様の部分についての説明は省略する場合がある。
【0129】
図3に示すように、第2実施形態の製造装置1では、筐体10が第1空間Fを形成する部分よりも第2空間Sを形成する部分のほうが横方向(
図3の右側)に延在するように形成されている。
【0130】
その横方向に延在した部分では、縁切扉3によって、第2空間Sと縁切可能に設けられた下側の第3空間Tが形成されており、この第3空間Tには、取出扉4を開けることで外部からアクセスできるようになっている。
【0131】
そして、この第3空間Tには、これから説明するように、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物が蓄積され、第3空間Tは、縁切扉3を閉じた状態で取出扉4を開けることで、第2空間S内の雰囲気に影響を与えないで、その蓄積されたマグネシウム生成物を取り出すことが可能な取出室として機能するようになっている。
【0132】
具体的には、第1実施形態では、付着手段80の密閉容器構造の表面81に水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させていたが、第2実施形態では、付着手段80が、その密閉容器構造と同様の容器82と、その容器82の表面に接触し、駆動プーリR1(駆動ギヤでもよい)及び従動プーリR2(従動ギヤでもよい)の間を掛け渡すように設けられたベルト83と、を備えている。
【0133】
そして、そのベルト83の挿入管72に対向する表面81が水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を付着させる表面81になっており、容器82を冷却すると、その容器82に接触しているベルト83自体も冷却され、表面81の表面温度が水素化マグネシウムの析出する所定の温度以下に保たれる。
【0134】
また、従動プーリR2が取出室となる第3空間Tの上側の位置に設置されており、その従動プーリR2に沿ったベルト83に対して、マグネシウム生成物を剥離させる剥離手段5が当接するように設けられている。
【0135】
つまり、剥離手段5は、縁切扉3を開けた状態としておけば、付着手段80(より具体的にはベルト83)からマグネシウム生成物を剥離させると剥離されたマグネシウム生成物が取出室となる第3空間Tに収容される位置に設けられている。
【0136】
例えば、剥離手段5は、ベルト83の幅に対応した先端幅を有し、先端側に向かって厚みが薄くなるヘラのような部材でよく、先端部がベルト83にしっかりと当接するように設置されている。
【0137】
一方、第3空間Tには、途中に開閉操作又は開閉制御により排気の有無を決める排気バルブ31Bが設けられた第1排気管31から分岐された分岐排気管35を介して第1真空ポンプ32が接続されており、第3空間T内を真空引きすることが可能になっているとともに、第3空間T内にパージ用の気体を供給するパージ気体供給口PINが設けられている。
【0138】
このため、縁切扉3を閉じるとともに排気バルブ31Bを閉じた状態として、パージ気体供給口PINから露点の低い窒素や不活性ガスといった気体を導入して、取出室となる第3空間Tを大気圧の状態にして取出扉4を開けて、蓄積したマグネシウム生成物を取り出すことができるので、第1空間F及び第2空間Sに影響を与えることなく、マグネシウム生成物を取り出すことができる。
【0139】
さらに、取出室となる第3空間Tからマグネシウム生成物を取り出した後、取出扉4を閉じて、第3空間T内の気体を第1真空ポンプ32で吸引して真空状態とした後に、縁切扉3を開ければ、第1空間F及び第2空間Sに影響を与えることなく、再び、取出室となる第3空間Tにマグネシウム生成物を蓄積できる状態になる。
【0140】
このように、第2実施形態では、製造装置1は、付着手段80(より具体的にはベルト83)からマグネシウム生成物を剥離させる剥離手段5と、マグネシウム化合物への水素プラズマの照射を停止させないで、マグネシウム生成物を取り出すことが可能な取出室となる第3空間Tと、を備えている。
【0141】
そして、剥離手段5が、付着手段80(より具体的にはベルト83)からマグネシウム生成物を剥離させると剥離されたマグネシウム生成物が取出室となる第3空間Tに収容される位置に設けられているとともに、付着手段80が、ベルト83を備え、剥離手段5によってマグネシウム生成物が剥離される位置まで付着したマグネシウム生成物を移動可能であるものとなっている点が、第1実施形態と大きく異なる部分になっている。
【0142】
このような構成の製造装置1を用いれば、水素化マグネシウムの製造方法におけるマグネシウム生成物を回収する手順が、マグネシウム化合物への水素プラズマの照射を停止させないで、水素プラズマを照射する製造装置1からマグネシウム生成物を取り出せる取出室となる第3空間Tへ、剥離させたマグネシウム生成物を収容させることが可能な位置に付着手段80(より具体的にはベルト83)に付着したマグネシウム生成物を移動させる手順と、取出室となる第3空間Tに収容させるように付着手段80(より具体的にはベルト83)からマグネシウム生成物を剥離させる手順と、を含むものとして、マグネシウム化合物への水素プラズマの照射を停止させないで付着手段80(より具体的にはベルト83)からマグネシウム生成物を剥離させて回収する手順を実施することが可能となるため、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物の連続生産が可能となる。
【0143】
特に、加熱手段等によって電力を消費する設備の場合、加熱する空間の保温性を高くする設計にすれば、一旦、所定の温度まで空間の温度が上昇した後には、電力の消費量が大幅に減るため、第2実施形態の製造装置1のように連続生産を可能とすることで、製造コストを大幅に低減することが可能となる。
【0144】
なお、上記では、従動プーリR2に沿ったベルト83に対して、マグネシウム生成物を剥離させる剥離手段5が当接している場合について示したが、剥離手段5を当接させる位置は、この位置に限定される必要はない。
【0145】
しかしながら、マグネシウム生成物は金属物質であるため、従動プーリR2に沿ったベルト83の部分でヒビ等が入り、剥離させやすい状態となるため、従動プーリR2に沿ったベルト83の位置のように、付着したマグネシウム生成物に曲げ応力が加わる位置に剥離手段5を当接させることが好ましい。
【0146】
また、第2実施形態では、ベルト83を用いたコンベア構造で付着したマグネシウム生成物を移動させる場合について示したが、必ずしも、このような構造に限定されるものではない。
【0147】
例えば、レコードのように回転する円板を設けるようにしても、付着したマグネシウム生成物を移動させることは可能であり、左右に搖動するような構造として左右のそれぞれに取出室となる空間を設けるようにしてもよい。
【0148】
ところで、上記第1実施形態及び第2実施形態では、水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を製造する場合について、主に説明した。
しかし、本発明は、さらに多岐にわたる生成物の生成に有用であり、以下で生成物が水素化マグネシウム以外の場合の例(変形例1、変形例2)について説明する。
なお、以下で説明する変形例1及び変形例2でも既に説明した製造装置1と同様の構成の製造装置を用いることが可能である。
【0149】
(変形例1)
例えば、一般に、チタンは、800〜850℃の温度で塩化チタンに金属マグネシウムを反応させて塩化マグネシウムとチタンを生成させ(式6参照)、生成した多孔質なスポンジチタンを砕いてプレスした後、真空アーク炉で加熱して、チタンの地金として製造されている。
TiCl
4 + 2Mg → Ti + 2MgCl
2・・・(6)
【0150】
このため、生成した多孔質なスポンジチタンを生成するために金属マグネシウムを用いるために材料費が高いものとなっており、かつ、その後の生成した多孔質なスポンジチタンをチタンの地金にする処理でもコストが上昇するため、チタンの地金は高価なものとなっている。
【0151】
一方、上述した水素化マグネシウムを含むマグネシウム生成物を製造する方法と同様の製造方法に従ってチタンの地金を製造するようにすると、つまり、金属原子(本例では、チタン)を含む原料(例えば、塩化チタン)をプラズマで処理して原料と異なる生成物(チタン)を得る製造方法とすると、その反応式は以下の式7のようになる。
TiCl
4 + 2H
2 → Ti + 4HCl・・・・・(7)
ただし、本例の場合、原料貯蔵部51内には、金属原子(チタン)を含む原料としての塩化チタンが貯蔵されることになる。
塩化チタンは、蒸気圧が低いため、原料貯蔵部51内に貯蔵しておくだけで、反応室2(第1空間F)が減圧手段30で減圧されるのに伴って気化される。
このため、先に説明したように、十分に減圧された状態とする場合にあっては加熱する必要はないが、先に説明した原料供給手段50のように加熱できるようになっている方が効率よく、気化させることができる。
なお、このように金属原子(例えば、チタン)を含む原料(例えば、塩化チタン)には、加熱しなくても気化が可能なものがあるので、原料供給手段50や反応室2(第1空間F)が必ずしも加熱手段を有している必要がない場合がある。
【0152】
なお、原料である塩化チタンを気化させて酸素原子を実質的に含まない水素を反応性ガスとして、その反応性ガスのプラズマ(マイクロ波表面波水素プラズマ)中に供給すれば、チタンが形成されることは、実験で、既に、確認済みであり、このように気化させて供給することで気化させていない塩化チタンにマイクロ波表面波水素プラズマを照射するより、効率よくチタンを生成することができる。
【0153】
チタンの生成効率がよくなるメカニズムは、推察の域をでないものの、気化している状態の方がマイクロ波表面波水素プラズマの作用する塩化チタンの表面積が圧倒的に多くなることや気化した状態の方が塩化チタンの活性が高く、反応が起こり易い状態にあるためではないかと推察している。
【0154】
上記式6と式7を見ればわかるように、まず、塩化チタンをチタンにするために使用する金属マグネシウムの必要量と水素の必要量は、どちらも2molで同じであるが、水素は、1mol当たりの値段で比較すれば、金属マグネシウムの1/3から1/4程度の値段であるため、材料コストを大幅に下げることができる。
【0155】
また、本方法であれば、先に説明したように、プラズマが存在する範囲内に配置されている付着手段80の表面の表面温度が生成物(チタン)の析出する所定の温度範囲内に保たれることで、付着手段80上に、直接、チタンが順次付着して成長し、この付着するチタンはスポンジ状ではないため、多孔質なスポンジチタンをチタンの地金にする処理が必要ない。
【0156】
なお、例えば、付着手段80上にチタンの薄板が配置できるようにしておき、そのチタンの薄板が付着手段80の表面を構成するようにしておけば、その薄板を取り外すだけでチタンの地金を回収できる。
【0157】
(変形例2)
また、別の例について説明すると、原料に塩化マグネシウムを用い気化させた塩化マグネシウムを、酸素原子を実質的に含まない窒素を反応性ガスとした反応性ガスのプラズマ(マイクロ波表面波窒素プラズマ)中に供給すれば、以下の反応式(式8参照)で示すように、原料と異なる生成物として窒化マグネシウムを得ることができる。
3MgCl
2 + N
2 → Mg
3N
2 + 3Cl
2・・・・・(8)
【0158】
ただし、本例の場合、反応性ガスを供給するガス供給手段を先に説明した水素供給手段に代えて窒素供給手段にすることになる。
具体的には、先に説明した水素供給手段の水素の供給源となる図示しない水素貯蔵部(水素ボンベ又は水素貯蔵タンク)を窒素の供給源となる(窒素ボンベ又は窒素貯蔵タンク)に変更し、先に説明したマスフローメータ等の流量制御器(第1流量制御器MFC1及び第2流量制御器MFC2)を水素用のものから窒素用のものに変更すればよい。
【0159】
そして、窒化マグネシウムは、比較的低温の箇所に析出する傾向が伺える実験結果を得ているが、本方法であれば、先に説明したように、プラズマが存在する範囲内に配置されている付着手段80の表面の表面温度を窒化マグネシウム(目的の生成物)が析出し易い所定の温度範囲内に保つことが可能であるため、効率よく窒化マグネシウムの状態の生成物を付着手段80上に付着させることが可能である。
【0160】
なお、一般的には、窒化マグネシウムは、金属マグネシウムを高温窒素雰囲気で処理して生成されている。
このため、一般的な製法では、窒化マグネシウムを生成するために、まず、塩化マグネシウムを原料として金属マグネシウムを生成する工程が必要であるが、本発明の方法であれば、金属マグネシウムを生成する工程を省略して、直接、塩化マグネシウムを原料として窒化マグネシウムを生成することが可能である。
【0161】
一方、窒化マグネシウムは、酸素原子を実質的に含まない窒素を反応性ガスとした反応性ガスのプラズマ(マイクロ波表面波窒素プラズマ)以外にも、原料に塩化マグネシウムを用い気化させた塩化マグネシウムを、酸素原子を実質的に含まない窒素及び水素を反応性ガスとした反応性ガスのプラズマ(マイクロ波表面波窒素プラズマ及びマイクロ波表面波水素プラズマ)中に供給することでも生成できると思われる実験結果を得ており、このため、反応性のプラズマは、複数の反応性ガスが混合されたプラズマであってもよい。
なお、この場合には、反応性ガスを供給するガス供給手段として、先に説明した水素供給手段に加え、窒素供給手段を設けるようにすればよい。
【0162】
このように、金属原子を含む原料(上記例では、塩化マグネシウムや塩化チタン)を気化させて、蒸気の状態で酸素原子を実質的に含まない反応性ガスのプラズマ(マイクロ波表面波プラズマ)中に供給してプラズマと反応させる方法であれば、反応性がよいため、多岐にわたる生成物(上記例では、水素化マグネシウム、チタンや窒化マグネシウム)を得ることが可能である。
【0163】
しかも、プラズマが存在する範囲内に配置されている付着手段80の表面の表面温度が生成物の析出に適した所定の温度範囲内に保たれるため、良好に金属原子を含む生成物を得ることができるだけでなく、先に説明した水素化マグネシウムのように、本来、析出が困難と思われているような生成物であっても得ることが可能な極めて有用な方法である。
【0164】
なお、金属原子は、酸素原子と結合して安定した酸化物を形成する場合が多く、酸素原子を含むとプラズマ中で酸化物が形成されてしまうため、既に記載しているとおり、反応性ガスが酸素原子を実質的に含まないものとすることが好ましい。
つまり、酸素原子を実質的に含まない反応性ガスとは、プラズマとの反応を阻害しない程度に反応性ガス中の酸素のコンタミが少なく、また、プラズマとの反応を阻害しない程度に反応性ガス中の水分のコンタミが十分に低い、露点が低い純度の高い反応性ガスを意味する。
【0165】
ところで、金属原子を含む原料の中には、気化させるために必要な加熱温度が1000℃を超えるようなものもあり、先に説明した製造装置1の原料供給手段50を、そのような高温に耐えられるようにするためには、例えば、高温になる部分にカーボン材料を用いるとともに、そのカーボン材料が空気(酸素)に触れないように、比較的高温に耐えられるSUS(ステンレス)等の金属内に収容し、カーボン材料を通電加熱させる一方、SUS(ステンレス)等の部分が熱劣化や溶融を起さないように水冷するといった大掛かりな構成になるおそれがある。
【0166】
そこで、比較的、シンプルな構成で、そのように原料の気化に高温が必要である場合に対応できる、金属原子を含む原料をプラズマで処理して原料と異なる生成物を得る製造装置1について、次に説明する。
【0167】
(第3実施形態)
図4は、本発明に係る第3実施形態のシンプルな構成で原料の気化に高温が必要である場合に対応できる、金属原子を含む原料をプラズマで処理して原料と異なる生成物を得る製造装置1を説明するための図である。
【0168】
図4に示す製造装置1は、先に説明した
図2に示す製造装置1と多くの部分が共通しているので、主に異なる部分について説明し、同様の部分についての説明は、省略する場合がある。
【0169】
第3実施形態の製造装置1は、
図4に示すように、少なくとも反応室2内の第1空間Fに露出する表面55Aを有する陰極部55と、少なくとも反応室2内の第1空間Fに露出し、原料の配置される表面56Aを有する陽極部56と、陽極部56と陰極部55の間に電圧を印加する電圧印加手段57と、を備えた原料供給手段58を備えている。
【0170】
具体的には、陽極部56は、高温に耐えることが可能で電極として機能し、後述のように発熱できる材料(例えば、タングステン等)で形成されたプレートであり、陰極部55は、先に説明したリフレクタ70を、例えば、SUS(ステンレス)等の導電性の材料で形成するようにして用いることができる。
【0171】
そして、電圧印加手段57で、陽極部56が陽極として機能し、陰極部55が陰極として機能するように、陽極部56と陰極部55の間に電圧を印加する。
なお、金属原子を含む原料は、陽極部56の鉛直方向上側を向く表面56A上に配置される。
【0172】
このような状態でプラズマ(マイクロ波表面波プラズマ)を発生させると、プラズマ中の電子が陽極部56に引き寄せられて陽極部56に衝突し、陽極部56が1000℃を越える高温に発熱し、金属原子を含む原料が気化され、反応性ガスのプラズマ中に供給されることになる。
【0173】
ただし、少なくとも陽極部56の一部が、露出し電子が衝突できるようにする必要があり、例えば、本実施形態では、陽極部56の原料が配置される表面56Aと反対側となる裏面が剥き出しになっているだけでなく、陽極部56の一部が、露出し電子が衝突できるように表面56A上に原料が配置される。
なお、
図4には記載していないが、原料の減少に合わせて陽極部56上に原料を送る手段を設けるようにしてもよい。
【0174】
一方、電子が陽極部56に集まると、プラズマ中の電子の数が減少し、プラズマ自身がプラスに近づくが、プラズマ自体は全体で中性である性質を有しているため、プラスイオンの濃度が高くなるにつれて、陽極部56に電子が集まらなくなっていく。
【0175】
そこで、本実施形態では、反応室2内の第1空間Fに露出する表面55Aを有する陰極部55を設けるようにすることで、その表面55Aにプラスイオン(例えば、プラスの水素イオン等)が引き付けられ、そのプラスイオンが電子を受け取ることで、電子とプラスイオンの均衡を保つようにしている。
【0176】
このため、プラズマ全体の中性が保たれるので、陽極部56に集まる電子の減少が抑制され、持続的に原料を加熱し続けることができる。
なお、陽極部56が大きくなりすぎると、電子が衝突する箇所が分散され、発熱し難くなるため、陽極部56は、原料の気化に必要な温度に発熱する表面積の大きさや厚み等を有するものとし、一方、陰極部55は、発熱の必要はなく、また、効率よく電子とプラスイオンの均衡を保つように、プラスイオンが接触できる表面積が十分に広く取られたものとするのがよい。
【0177】
本実施形態では、リフレクタ70を陰極部55に利用しているが、例えば、リフレクタ70を省略し、反応室2の第1空間Fに露出する筐体10の内面が陰極部55となるようにしてもよい。
【0178】
また、本実施形態では、陽極部56となるプレートが、反応室2の第1空間F内に配置されたものになっているが、陽極部56は、一部が反応室2の第1空間F内に位置しなくても、原料の配置される表面56Aが反応室2の第1空間F内に露出していればよい。
【0179】
一方、気化に高温が必要な原料の場合、窓Wに原料や生成物が付着し、プラズマが発生し難くなる、又は、発生しなくなるおそれがあるため、窓Wに向けて反応性ガスを吹き付けるような構成として、原料及び生成物の窓Wの表面への付着を抑制する抑制手段を備えるものとしてもよい。
【0180】
なお、例えば、純石英の窓W等であれば、1500℃を超える温度にも耐えることが可能であるため、窓Wを純石英で形成し、窓Wに反応性ガスを吹き付けるようにするのに代えて、窓Wの温度を原料や生成物が付着しない程度の温度にするような抑制手段としてもよい。
【0181】
以上、具体的な実施形態に基づいて、本発明について説明してきたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されるものではない。
例えば、反応性ガスとしては、希ガス以外で酸素原子を含まないガス、例えば、メタン、フッ化物ガス等であってもよい。
【0182】
なお、酸素原子を実質的に含まない反応性ガスに酸素ガスが含まれないことは当然であり、一方、反応性ガスでない不活性ガス(いわゆる希ガス)を反応が低下しない程度の濃度でプラズマの点灯状態を安定させるために反応性ガスに混合させてもよい。
【0183】
また、上記実施形態では、発生するプラズマの存在する範囲内に配置され、生成物を付着させる付着手段80は、付着手段80の生成物を付着させる表面の表面温度を生成物の析出に適した所定の温度範囲内に保つために冷却手段で冷却されるものとなっていた。
一般的には、付着手段80は、所定の温度範囲よりも高い温度となる場合が多いと考えられるため、所定の温度範囲に保つ手段は、冷却手段となると考えられる。
【0184】
しかし、場合によっては、付着手段80が所定の温度範囲よりも低い温度となることもあり得るため、この場合には、付着手段80の生成物を付着させる表面の表面温度が所定の温度範囲となるように、加熱する手段を設けることになる。
したがって、製造装置1は、付着手段80の生成物を付着させる表面の表面温度を生成物の析出に適した所定の温度範囲内に保つための温度制御手段を備えることになる。
【0185】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。