【解決手段】抗菌部材は、第1繊維と、第2繊維と、を備えている。第1繊維は、外部からのエネルギーにより電荷を発生する。第2繊維は、外部からのエネルギーにより前記第1繊維と逆極性の電荷を発生する。さらに、抗菌部材は、前記第1繊維と前記第2繊維と、が互いにこすり合わせられることにより正の電荷および負の電荷が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(A)は、圧電糸1の構成を示す一部分解図であり、
図1(B)は、圧電フィルム10の平面図である。圧電糸1は、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維(電荷発生糸)の一例である。
【0015】
圧電糸1は、本発明における第1繊維または第2繊維の一例である。圧電糸1は、芯糸11に圧電フィルム10が巻かれてなる。芯糸11は、天然繊維または化学繊維から適宜選択される。天然繊維は、植物繊維、動物繊維、あるいは、ポリ乳酸等がある。植物繊維は、例えば、綿または麻等である。植物繊維は、肌触りが良く、水との親和性が高いため、湿気を吸収する。植物繊維を用いた場合、圧電糸1に発生する電荷と、吸収した湿気により、電流が生じやすくなる。動物繊維は、例えば絹または羊毛等である。動物繊維を用いた場合、仮に該動物繊維内に虫等の微生物が存在した場合でも、圧電糸1が発生する電荷により、該微生物を死滅させることができる。芯糸11にポリ乳酸を用いる場合には、芯糸11では電荷を生じないように、一軸延伸していないことが好ましい。後述のように、圧電フィルム10にポリ乳酸を用いる場合に、芯糸11と同じ素材となるため、親和性が高くなる。化学繊維は、例えば、合成繊維、ガラス繊維、または炭素繊維等がある。化学繊維は、天然繊維に比べて頑丈である。
【0016】
また、芯糸11は、導電性を備えた導電糸であってもよい。芯糸11を導電糸とした場合、圧電糸1の圧電性を検査する際に、圧電糸1の外周の一部に形成した電極と、芯糸11とを用いて圧電糸1に生じる電荷を計測することができる。これにより圧電糸1に用いられた圧電フィルム10の圧電性能を検査することができる。また、芯糸11に導電体を用いる場合、該芯糸11に電流を流せば、圧電フィルム10以外の他の絶縁体を芯糸11に巻いた構成であっても、外部からのエネルギーにより電荷を発生する糸を実現することができる。
【0017】
なお、芯糸11は、必須の構成ではない。芯糸11が無くても、圧電フィルム10を螺旋状に旋回して圧電糸(旋回糸)とすることは可能である。芯糸11が無い場合には、旋回糸は、中空糸となり、保温能力が向上する。また、旋回糸そのものに接着剤を含侵させると強度を増すことができる。
【0018】
圧電フィルム10は、例えば圧電性ポリマーからなる。圧電フィルムは、焦電性を有するものと、焦電性を有していないものがある。例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)は、焦電性を有しており、温度変化によっても電荷が発生する。PVDF等の焦電性を有する圧電体は、人体の熱エネルギーによっても、表面に電荷が生じる。
【0019】
また、ポリ乳酸(PLA)は、焦電性を有していない圧電フィルムである。ポリ乳酸は、一軸延伸されることで圧電性が生じる。ポリ乳酸には、L体モノマーが重合したPLLAと、D体モノマーが重合したPDLAと、がある。
【0020】
ポリ乳酸のようなキラル高分子は、主鎖が螺旋構造を有する。キラル高分子は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を有する。一軸延伸されたポリ乳酸からなる圧電フィルム10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に、電荷を発生する。
【0021】
図2(A)および
図2(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、圧電フィルム10の変形と、の関係を示す図である。
図2(A)に示すように、圧電フィルム10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電フィルム10は、紙面表側では、負の電荷が発生する。圧電フィルム10は、
図2(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も、電荷を発生するが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じる。すなわち、圧電フィルム10は、紙面表側では、正の電荷が発生する。
【0022】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5〜30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0023】
圧電フィルム10は、上記の様な一軸延伸されたポリ乳酸のシートを、例えば幅0.5〜2mm程度に切り取られることにより生成される。圧電フィルム10は、
図1(B)に示すように、長軸方向と延伸方向900が一致している。圧電フィルム10は、
図1(A)に示したように、芯糸11に対して左旋回して撚られた左旋回糸(以下、S糸と称する。)の圧電糸1となる。延伸方向900は、圧電糸1の軸方向に対して、左45度に傾いた状態となる。
【0024】
したがって、
図3に示すように、圧電糸1に外力が係ると、圧電フィルム10は、
図2(A)に示した状態のようになり、表面に負の電荷を生じる。
【0025】
これにより、圧電糸1は、外力が係った場合に、表面に負の電荷を生じる。そのため、圧電糸1は、外部からのエネルギーにより負の電荷を生じる。
【0026】
図4は、右旋回糸(以下、Z糸と称する。)の圧電糸2の構成を示す図である。圧電糸2は、Z糸であるため、延伸方向900は、圧電糸1の軸方向に対して、右45度に傾いた状態となる。したがって、圧電糸2に外力が係ると、圧電フィルム10は、
図2(B)に示した状態のようになり、表面に正の電荷を生じる。そのため、圧電糸2は、外部からのエネルギーにより正の電荷を生じる。すなわち、圧電糸1と圧電糸2とは、外部からのエネルギーにより互いに逆極性の電荷を生じる。
【0027】
なお、圧電糸は、あらゆる公知の方法により製造される。例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸により繊維化する手法、または圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法等を採用することができる。
【0028】
なお、表面に負の電荷を生じる糸としては、PLLAを用いたS糸の他にも、PDLAを用いたZ糸も考えられる。また、表面に正の電荷を生じる糸としては、PLLAを用いたZ糸の他にも、PDLAを用いたS糸も考えられる。
【0029】
また、本実施形態では、圧電フィルムを巻いてなる圧電糸を示している。しかし、圧電糸は、例えば圧電体がノズルから吐出されて延伸されたもの(断面が円形状の圧電糸)であってもよい。このような、断面が円形状の圧電糸を撚ってなる糸(カバリング糸)を構成する場合にも、S糸では表面に負の電荷を発生させ、Z糸では表面に正の電荷を発生させる。このような糸では芯糸を用いず、単に撚糸としても良い。このような糸は低コストで作ることが出来る。
【0030】
従来から、電場により菌の発生を抑制することができる旨が知られている(例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。なお、本実施形態で言う菌とは、細菌または真菌を含む。
【0031】
したがって、圧電糸1または圧電糸2は、人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に発生する電場によって、あるいは人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に発生する電場によって、直接的に抗菌効果を発揮する。なお、本実施形態で言う抗菌とは、菌の発生を抑制する効果または菌を死滅する効果の両方を含む概念である。
【0032】
また、圧電糸1または圧電糸2は、汗等の水分を介して、近接する他の繊維または人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に電流を流す場合もある。この電流によっても、直接的に抗菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流または電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果を発揮する場合がある。または電場または電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある、これにより間接的に抗菌効果を発揮する場合がある。ラジカルとして、スーパーオキシドアニオンラジカル(活性酸素)またはヒドロキシラジカルの発生が考えられる。
【0033】
以上の様な、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維を備えた電荷発生糸は、各種の衣料、医療部材等の製品に適用可能である。例えば、電荷発生糸は、肌着(特に靴下)、タオル、靴およびブーツ等の中敷き、スポーツウェア全般、帽子、寝具(布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバー等を含む。)、歯ブラシ、フロス、各種フィルタ類(浄水器、エアコンまたは空気清浄器のフィルタ等)、ぬいぐるみ、ペット関連商品(ペット用マット、ペット用服、ペット用服のインナー)、各種マット品(足、手、または便座等)、カーテン、台所用品(スポンジまたは布巾等)、シート(車、電車または飛行機等のシート)、ソファ、包帯、ガーゼ、マスク、縫合糸、医者および患者の服、サポーター、サニタリ用品、スポーツ用品(ウェアおよびグローブのインナー、または武道で使用する籠手等)、あるいは包装資材等に適用することができる。
【0034】
衣料のうち、特に靴下(またはサポータ)は、歩行等の動きによって、関節に沿って必ず伸縮が生じるため、圧電糸1または圧電糸2は、高頻度で電荷を発生する。また、靴下は、汗などの水分を吸い取り、菌の増殖の温床となるが、圧電糸1または圧電糸2は、菌の増殖を抑制することができるため、菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0035】
また、多くの菌は、負の電荷を有する。そのため、圧電糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、多くの菌を吸着することができる。また、圧電糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、負の電荷を有する菌を不活化することもできる。このように、表面に正の電荷を発生させる圧電糸を用いた布は、菌対策用圧電糸として高い効果を有する。
【0036】
なお、複数の圧電糸と導電糸を用いて編物または織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸は、すべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、圧電糸に発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、抗菌効果は発揮されない。
【0037】
なお、圧電糸1または圧電糸2(あるいは、少なくともいずれかを備えた布)は、菌対策用途以外にも、以下の様な用途を有する。
【0038】
(1)生体作用圧電糸
生体を構成する組織には圧電性を有するものが多い。例えば、人体を構成するコラーゲンは、タンパク質の一種であり、血管、真皮、じん帯、健、骨、または軟骨等に多く含まれている。コラーゲンは、圧電体であり、コラーゲンが配向した組織は非常に大きな圧電性を示す場合がある。骨の圧電性については既に多くの報告がなされている(例えば、高分子Vol.16(1967)No.9 p795-200等を参照)。したがって、圧電糸1または圧電糸2を備えた布により電場が生じ、該電場が交番するか、または該電場の強度が変化すると、生体の圧電体は、逆圧電効果によって振動を生じる。圧電糸1および/または圧電糸2によって生じる交番電場、あるいは電場強度の変化により、生体の一部、例えば毛細血管や真皮に微小な振動が加えられ、その部分の血流の改善を促すことができる。これにより皮膚疾患や傷等の治癒が促される可能性がある。したがって、圧電糸は、生体作用圧電糸として機能する。複数の圧電糸と導電糸を用いて編物や織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサーがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸はすべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、治癒効果は発揮されない。
【0039】
(2)物質吸着用圧電糸
上述したように、圧電糸1は、外力が係った場合に、負の電荷を生じる。圧電糸2は、外力が係った場合に、正の電荷を生じる。そのため、圧電糸1は、正の電荷を有する物質(例えば花粉等の粒子)を吸着する性質を有し、圧電糸2は、負の電荷を有する物質(例えば黄砂等の有害物質等)を吸着する。したがって、圧電糸1または圧電糸2を備えた布は、例えばマスク等の医療用品に適用した場合に、花粉または黄砂等の微粒子を吸着することができる。複数の圧電糸と導電糸を用いて編物や織物にし、これに変位が加わった事をセンシングするトランスデューサーがWO2015/159832に公開されている。この場合、導電糸はすべて検知回路に接続されており、一本の圧電糸に対して必ず対の導電糸が存在する。WO2015/159832では、圧電糸に電荷が発生した時、導電糸を電子が移動し、発生した電荷を即座に中和する。WO2015/159832では、この電子の移動による電流を検知回路が捉えて信号として出力する。従ってこの場合、発生した電位は即座にキャンセルされるので、圧電糸と導電糸との間、および圧電糸と圧電糸との間に強い電場が形成される事がなく、吸着効果は発揮されない。
【0040】
次に、本実施形態では、上述の様な圧電糸1または圧電糸2を用いた抗菌部材の例をいくつか示す。
【0041】
(第1の例)
スポンジまたはファンデーションは、肌の皮脂および油分を吸収するため、菌が繁殖しやすい。また、スポンジまたはファンデーションで繁殖した菌は、ファンデーションを収納する容器に付着して、容器にも菌が繁殖する可能性がある。
【0042】
そこで、例えば、スポンジを水等の洗浄液で定期的に洗浄するか、特開平11−75932号公報に示すように、抗菌性のある金属箔を容器の内側に配置することが考えられる。
【0043】
しかし、利用者は、スポンジを定期的に洗浄するのは面倒である。また、洗浄液が完全に乾燥しない場合には、真菌が発生する可能性がある。抗菌性のある金属箔を容器の内側に配置する場合には、例えば、わずかに剥がれた金属箔が付着したスポンジを使用者が使用することで、金属箔が肌に付着し、金属アレルギー反応が生じる場合もある。
【0044】
図5(A)は、スポンジ100とファンデーション200とを備える抗菌部材の一例を示す透過斜視図である。スポンジ100は、第1部材の一例であり、ファンデーション200は、第2部材の一例である。
【0045】
図5(A)の例では、スポンジ100に、圧電糸1が含まれている。また、ファンデーション200に、圧電糸2が含まれている。圧電糸1は、網目状に形成されている。なお、圧電糸1は、スポンジ100の内部に配置されていてもよいし、スポンジ100を覆うようにネット状に形成されていてもよい。
【0046】
圧電糸2も、網目状に形成されている。圧電糸2は、ファンデーション200の内部に配置され、かつファンデーション200の表面に配置されている。また、圧電糸2も、ファンデーション200を覆うようにネット状に形成されていてもよい。
【0047】
この構成によれば、利用者がスポンジ100を把持して移動させ、
図5(B)に示すように、スポンジ100とファンデーション200とをこすり合わせる時に、圧電糸1および圧電糸2がそれぞれ変形するため、圧電糸1に負の電荷が生じ、圧電糸2に正の電荷が生じる。
【0048】
また、スポンジ100にファンデーション200を押し当てるだけでも、圧電糸1および圧電糸2がそれぞれ変形するため、圧電糸1に負の電荷が生じ、圧電糸2に正の電荷が生じる。
【0049】
したがって、利用者がスポンジ100を把持してファンデーション200をスポンジ100に付着させようとする時に、圧電糸1と圧電糸2との間で電場が生じる。あるいは、圧電糸1と圧電糸2との間で電流が流れる。これら電場または電流は、抗菌効果を発揮する。
【0050】
なお、圧電糸1および圧電糸2は、それぞれ直接接触する必要はない。スポンジ100およびファンデーション200がこすり合わせられる時に、スポンジ100およびファンデーション200がそれぞれ変形するため、圧電糸1および圧電糸2も変形する。この場合も、第1繊維の一例である圧電糸1と、第2繊維の一例である圧電糸2と、が互いにこすり合わせられることにより正の電荷および負の電荷が生じる。
【0051】
この場合、圧電糸1と圧電糸2とは、別々の部材(スポンジおよびファンデーション)にそれぞれ設けられるため、製造時に圧電糸1と圧電糸2とを近接させなくとも、使用時に強い電場または電流を生じさせることができるため、製造工程を簡素化することができる。圧電糸1および圧電糸2同士をこすり合わせる場合、厚み方向以外にも面方向にも強い電場または電流が生じることになるのに対し、この構造の場合、必ず厚み方向に強い電場または電流が生じることになるため、例えばスポンジに付着させるファンデーションに多少の厚みがあっても確実に抗菌効果を発揮することができる。
【0052】
なお、もし圧電糸1または圧電糸2の一部におけるポリ乳酸が剥離して皮膚に付着するか、または圧電糸2そのものが付着したとしても、ポリ乳酸には生分解性があるため、皮膚への影響はない。
【0053】
また、圧電糸1または圧電糸2は、網目状に形成されている必要はない。例えば、
図6に示すように、圧電糸2は、細かく砕かれた状態でファンデーション200に含まれていてもよい。
【0054】
この場合も、ファンデーション200が変形する時に、圧電糸2が変形するため、圧電糸2の表面に正の電荷が生じる。また、圧電糸2の一部におけるポリ乳酸が剥離して皮膚に付着するか、または圧電糸2そのものが付着したとしても、ポリ乳酸には生分解性があるため、皮膚への影響はない。
【0055】
また、
図7に示すように、ファンデーション200を収納する容器50と、ファンデーション200と、の間に、弾性部材51が配置されていてもよい。この場合、スポンジ100をファンデーション200に押し当てて、スポンジ100を容器50に収納する場合に、利用者が持ち運ぶときの揺れによって、スポンジ100とファンデーション200とがこすり合わせられる。したがって、圧電糸1および圧電糸2が変形して、正の電荷および負の電荷が生じる。
【0056】
なお、上記では、第1部材の例としてスポンジ100を示した。しかし、第1部材は、スポンジに限るものではない。例えば
図8に示すように、ブラシ101も、第1部材の一例である。この場合、ブラシ101の毛を圧電糸1とすることで、同じ作用効果を発揮する。
【0057】
また、上記では、第2部材の例としてファンデーション200を示した。しかし、第2部材は、ファンデーションに限るものではない。例えば、
図9(A)に示すように、容器に収納される液状の化粧品201も第2部材の一例である。この場合、細かく砕かれた状態の圧電糸2が、化粧品201に含まれている。利用者が圧電糸1を備えるブラシを容器から引き抜くと、圧電糸1および圧電糸2が変形するため、正の電荷および負の電荷が生じる。
【0058】
また、
図9(B)に示すように、化粧品を収納する容器が、圧電糸2を含む内壁202を備えていてもよい。この場合、内壁202が第2部材となる。この場合も、利用者が圧電糸1を備えるブラシを引き抜くと、圧電糸1および圧電糸2が変形するため、正の電荷および負の電荷が生じる。圧電糸2を含む内壁202は、細かく砕かれた状態の圧電糸が容器に付着した状態のものでもよいし、ケースの内周にネット状の圧電繊維を貼り付けるものでもよい。これらの構造は、内壁の面に凹凸があるため、ブラシを引き抜く際に圧電糸1および圧電糸2がひっかかりやすい(変形し易い)。したがって、より強い電場または電流を発生させることができる。
【0059】
(第2の例)
洗顔料等の化粧品には、皮脂に含まれる菌を排除する成分(例えば石油またはアルコール等を原料として作られる化学合成物質の界面活性剤)が含まれている。
【0060】
しかし、これら成分は、肌への刺激が強く、肌を守るために必要な皮脂まで菌と共に排除してしまうため、乾燥肌等の、肌のコンディションを低下させる原因となる。
【0061】
そこで、第2の例では、上述の様な成分を用いずに抗菌効果を発揮することができる化粧品を提供する。
【0062】
図10は、抗菌効果を発揮する化粧品の具体的態様を示す図である。
図10において、洗顔料205は、容器50に収納されている。洗顔料205には、圧電糸1および圧電糸2が含まれている。
【0063】
圧電糸1および圧電糸2は、細かく砕かれた状態で化粧品201に含まれている。化粧品201は、ジェル状またはクリーム状の液体である。圧電糸1および圧電糸2は、1mm以下の長さになっていて、外観上は粉末状になっている。ただし、圧電糸1および圧電糸2は、変形により正の電荷または負の電荷が生じる程度の長さを有する。圧電糸1および圧電糸2は、好ましくは20μm程度の長さである。毛穴の大きさは、約80μm〜150μmであるため、圧電糸1および圧電糸2は、20μm程度の長さであれば、毛穴の中に侵入することができる。
【0064】
圧電糸1および圧電糸2は、利用者が化粧品201を肌に付けた時に、化粧品201とともに肌に付着して、抗菌効果を発揮する。また、圧電糸1および圧電糸2は、皮膚疾患または毛穴などに侵入して、皮膚疾患または毛穴の菌を排除する。圧電糸1および圧電糸2は、ポリ乳酸からなるため、皮膚への悪影響はない。圧電糸1および圧電糸2は、絶縁体の一例である化粧品201に含まれているため、該絶縁体を介して電場を生じることもあるし、肌の水分を介して電流を流すこともある。
【0065】
この例では、圧電糸1および圧電糸2により抗菌効果を発揮するため、皮脂に含まれる菌を排除する成分(例えば石油またはアルコール等を原料として作られる化学合成物質の界面活性剤)を減らしても、抗菌効果を大きく低下させることがない。そのため、肌への刺激を抑え、肌のコンディションの低下を抑制することができる。
【0066】
なお、圧電糸1および圧電糸2は、予め化粧品201に含まれている必要はない。利用者は、圧電糸1および圧電糸2からなる粉末体を購入して、好みの化粧品(あるいは皮脂を落とす成分が減らされた化粧品)に混ぜ合わせることも可能である。この場合、利用者は、粉末体の量を肌の状態によって好みの量に調整することができる。
【0067】
なお、特開2014−043566号公報および特開2007−197602号公報には、ポリ乳酸を粉末状に形成した旨が開示されている。しかし、本実施形態の第2の例では、圧電糸1および圧電糸2により生じる負の電荷および正の電荷により、抗菌効果を発揮するものであり、新たな技術的思想を有する。
【0068】
第2の例に係る技術的思想は、以下の通りである。
1.外部からのエネルギーにより電荷を発生する第1繊維と、
外部からのエネルギーにより前記第1繊維と逆極性の電荷を発生する第2繊維と、
が混合された、粉末体。
【0069】
2.上記粉末体において、第1繊維と第2繊維とが同じ量であること。
【0070】
3.上記粉末体第1繊維および第2繊維が、いずれも1mm以下の長さであること。
【0072】
5.上記絶縁体は、ジェル状またはクリーム状の液体を含む。
【0073】
(第3の例)
従来、抗菌性を備えたブラシとして、例えば特開2009−261751号公報には、毛の表面に平均粒子径が10μm以下の無機系抗菌剤を固着させることが記載されている。
【0074】
しかし、ブラシを利用するうちに、こすれによって抗菌剤が剥がれてしまうため、抗菌性が低下する。また、抗菌性を有する材料は、薬剤等によるアレルギー反応が生じる場合もある。
【0075】
そこで、第3の例では、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続し、かつ薬剤等よりも安全性の高いブラシを提供することを目的とする。
【0076】
図11は、抗菌性を有するブラシ151を示す概略図である。ブラシ151における毛は、圧電糸1および圧電糸2が交互に配置されてなる。利用者がブラシ151をこすると、ブラシ151の毛が変形するため、圧電糸1および圧電糸2に正の電荷および負の電荷が生じる。したがって、抗菌効果を発揮する。また、ブラシ151自体に抗菌効果が生じるだけでなく、ブラシ151に接触する対象物にも抗菌効果が生じる。
【0077】
なお、
図11の例では、ブラシ151の毛は、圧電糸1および圧電糸2が交互に配置されてなる。しかし、ブラシ151の毛は、圧電糸1および圧電糸2が、少なくとも1本ずつ配置されていてばよく、交互に配置されている必要はない。
【0078】
また、
図12に示すように、ブラシ151は、第3の繊維の一例である普通糸30をさらに備えていてもよい。この場合も、利用者がブラシ151をこすると、ブラシ151の毛が変形するため、圧電糸1および圧電糸2に正の電荷および負の電荷が生じる。特に、この場合は、普通糸30が圧電糸1および圧電糸2よりも長くなっている。普通糸30は、圧電糸1および圧電糸2よりも相対的に肌触りが良い材料を用いるため、肌触りの良い毛のみが肌に触れる構造となる。
【0079】
なお、ブラシ151の毛は、圧電糸そのものである必要はない。例えば、ナイロン等の材料からなる通常の毛に、圧電糸1または圧電糸2を巻くことにより、第1繊維が巻かれてなる第1の毛と、第2繊維が巻かれてなる第2の毛と、を実現することも可能である。また、ナイロン等の材料からなる通常の毛を芯として圧電フィルム10を巻くことで、圧電糸1または圧電糸2を構成することも可能である。
【0080】
上述の第3の例に係る技術的思想は、以下の通りである。
【0081】
1.外部からのエネルギーにより電荷を発生する第1繊維と、
外部からのエネルギーにより前記第1繊維と逆極性の電荷を発生する第2繊維と、
前記第1繊維の長手方向および前記第2繊維の長手方向が平行になるように、前記第1繊維および前記第2繊維の一端を固定する固定部と、
を備える、ブラシ。
【0082】
2.上記ブラシにおいて、前記第1繊維が巻かれてなる第1の毛と、前記第2繊維が巻かれてなる第2の毛と、を有し、
前記固定部は、前記第1の毛および前記第2の毛の一端を固定することにより、前記第1繊維および前記第2繊維の一端を固定する。
【0083】
3.上記ブラシにおいて、第3の繊維を備え、該第3の繊維の長手方向の長さは、前記第1繊維および前記第2繊維の長手方向の長さより長いことを特徴とする。
【0084】
(第4の例)
特開2011−1779143号公報には、ポリ乳酸の繊維により抗菌性を発揮するポリ乳酸極細繊維が開示されている。しかし、ポリ乳酸自体の抗菌性は、低く、抗菌活性値A≧2.0〜2.2程度である。
【0085】
そこで、第4の例は、従来の抗菌性を有する抗菌繊維よりも効果の高いが長く持続し、かつ薬剤等よりも安全性の高い抗菌繊維を提供することを目的とする。
【0086】
図13は、タオルハンガー70の構成を示す概略図である。タオルハンガー70は、第1保持部材71および第2保持部材72を備えている。布75は、第1保持部材71および第2保持部材72に掛けられている。
【0087】
布75は、第1圧電糸1または第2圧電糸を有する。布75は、第1圧電糸1または第2圧電糸を含む各繊維が織られる、または編まれることにより形成される。
【0088】
図14は、各糸の間で生じる電場を示す図である。布75は、例えば、圧電糸1と、圧電糸2と、普通糸3と、が織り込まれてなる。普通糸3は、圧電体が設けられていない糸であり、誘電体に相当する。普通糸3は、天然繊維または化学繊維からなる。
【0089】
圧電糸1と圧電糸2は、誘電体に相当する普通糸3を介して、所定の距離だけ離間して配置されている。したがって、これら糸に外力が係った場合、正の電荷を発生する圧電糸2と負の電荷を発生する圧電糸1の間に、図中の白矢印で示す電場が生じる。ただし、普通糸3は、必須の構成ではない。普通糸3は無くとも、圧電糸1と圧電糸2の間には電場が生じる。
【0090】
よって、布75は、電場を生じる布として機能する。また、布75は、水分を介して、圧電糸1および圧電糸2の間で、電流を流す場合もある。この電流によっても、抗菌効果を発揮する場合がある。
【0091】
ただし、布75をタオルハンガーに掛けるだけでは、布75の圧電繊維が伸縮することがないため、抗菌効果を発揮できない。
【0092】
そこで、第4の例では、保持部材が抗菌繊維に張力を掛けるための張力機構を備えている。
図13の例では、第1保持部材71は、アクチュエータ(例えば振動モータ)を備え、上下に振動する。第1保持部材71が上下に振動することで、布75に張力が掛けられ、圧電繊維が伸縮する。
【0093】
なお、
図13の例では、第1保持部材71が振動して、第1保持部材71および第2保持部材72により布75に張力を掛ける態様である。しかし、例えば、第1保持部材71が単体で、第1保持部材71に布75を掛け、第1保持部材71が振動する態様であっても、布75の圧電繊維を伸縮させることができる。
【0094】
なお、
図13の例では、タオルハンガーを示したが、他にも、衣類ハンガー、ロールタオル、シート、またはベルトコンベア等も、第4の例に該当する。
【0095】
第4の例に係る技術的思想は、以下の通りである。
【0096】
1.外部からのエネルギーにより電荷を発生する抗菌繊維と、
前記抗菌繊維を保持する保持部材と、
を備え、
前記保持部材は、前記抗菌繊維に張力をかけるための張力機構を備える、
保持具。
【0097】
2.前記抗菌繊維は、第1の糸と、第2の糸と、を備える。
【0098】
3.前記保持部材は、前記抗菌繊維に接触する第1保持部材と第2保持部材とを有し、前記第1保持部材または前記第2保持部材が振動することにより、前記張力機構を構成する。
【0099】
(第5の例)
抗菌性靴下は、薬剤を付着させた糸を用いたもの、あるいは抗菌性を有する金属を含んだ糸を用いたもの、等が提案されている(例えば特公平6−84561号公報を参照)。
【0100】
しかし、薬剤または金属を用いた糸は、アレルギー反応が生じる場合もある。
【0101】
したがって、第5の例では、従来の抗菌性を有する材料よりも効果が長く持続し、かつ薬剤等よりも安全性の高い抗菌繊維を提供する。なお、圧電材料等の外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生部材を用いた糸であれば、高い抗菌性を発揮することができる。しかし、より強い抗菌性を発揮させるためには、対象部分に対して抗菌部材を物理的に接触させることが好ましい。例えば、白癬菌に対して効果を発揮させるためには、足の指股に抗菌繊維を接触させることが好ましい。そこで、第5の例では、より強い抗菌性を発揮させるために、対象部分に対して抗菌部材を物理的に接触させる態様である。
【0102】
図15(A)は、靴下60の概略図(上面から見た図)である。
図15(B)は、靴下60を下面(足裏側)から見た図である。靴下60は、つま先が5本に分かれていて、各指に装着できるようになっている。
【0103】
靴下60は、圧電糸1または圧電糸2を含む。靴下60を構成する全ての繊維が圧電糸1または圧電糸2であってよいが、圧電糸1または圧電糸2は、部分的に含まれていてもよい。例えば、圧電糸1または圧電糸2は、つま先の部分に配置されている。特に、第5の例では、圧電糸1または圧電糸2は、少なくとも指股に配置されていればよい。
【0104】
利用者が、靴下60を履いて歩行すると、圧電糸1または圧電糸2が伸縮する。したがって、靴下60は、抗菌効果を発揮する。
【0105】
そして、靴下60は、他の部分よりも相対的に強度の高い高強度部分65を有する。高強度部分65は、指股からかかと部分にかけて、靴下60の足表側および足裏側に配置されている。ただし、高強度部分65は、靴下60の足表側または足裏側のいずれかに配置される態様でもよい。
【0106】
高強度部分65は、例えばアラミド繊維からなる。アラミド繊維は、綿等の一般的な繊維よりも強度が高く、伸縮性が低くなっている。あるいは、高強度部分65は、他の部分よりも網目が小さくなっている。網目が小さいことにより、他の部分よりも強度が高く、伸縮性が低くなる。すなわち、この例では、同じ圧電繊維を使う場合であっても、編み方を部分的に変えることで伸縮性を変えることができる。
【0107】
利用者が靴下を履くと、高強度部分65により指股の繊維が引っ張られ、指股に繊維が接触する。したがって、指股に圧電糸1または圧電糸2が接触する。よって、靴下60は、指股においてより強い抗菌性を発揮する。また、ポリ乳酸を用いた圧電糸は、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。
【0108】
図16(A)は、高強度部材の他の例を示す図である。キャップ80は、チタン等の金属またはシリコン樹脂等からなる。キャップ80は、指股に沿う形状となっている。利用者は、
図16(B)に示すように、キャップ80を指股に嵌めることで、靴下60を指股に接触させることができる。
【0109】
また、利用者は、
図17(A)に示す、複数のキャップが結合してなる統合キャップ73を用いて、
図17(B)に示すように、複数の指股に同時に嵌めることで、靴下60を指股に接触させることもできる。
【0110】
第5の例に係る技術的思想は、以下の通りである。
【0111】
1.外部からのエネルギーにより電荷を発生する抗菌繊維と、
前記抗菌繊維を含む生地と、
前記生地よりも強度が高い高強度部材と、
を備え、
前記高強度部材により、前記抗菌繊維を対象部に付勢する、
抗菌部材。
【0112】
2.上記抗菌部材において、前記高強度部材は、前記生地よりも伸縮性が低い繊維からなる。
【0113】
3.上記抗菌部材において、前記高強度部材は、前記生地よりも伸縮性が低い編み方からなる。
【0114】
4.外部からのエネルギーにより電荷を発生する抗菌繊維と、
前記抗菌繊維を含む生地と、
前記抗菌繊維を対象物に付勢する、付勢部材と、
を備えた抗菌部材。
【0115】
上記実施形態では、外部からのエネルギーにより電荷を発生する繊維として、圧電糸を示したが、外部からのエネルギーにより電荷を発生する繊維は、他にも例えば光電効果を有する物質、または焦電効果を有する物質(例えばPVDF)、化学変化により電荷を生じる物質、等がある。また、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き、該導電体に電気を流して電荷を発生させる構成も、電荷を発生する繊維である。ただし、圧電体は、圧電により電場を生じさせるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。また、圧電体の寿命は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。
【0116】
最後に、本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。