【実施例】
【0071】
実験結果は、ATP結合カセット輸送体ABCA1のダウンレギュレーションと関連するコレステロールの増加が、1型糖尿病およびアルブミン尿(DKD+)を有する患者の血清に曝露された正常ヒト有足細胞において、正常アルブミン尿(DKD−)および同様の持続期間の糖尿病および脂質プロファイルを有する糖尿病患者と比較した場合に起こることを示した。ABCA1の糸球体ダウンレギュレーションは、初期のDKD(n=70)を有する患者由来の生検材料において、正常な生体ドナー(n=32)と比較した場合に確認された。
【0072】
シンバスタチンによるコレステロール合成の阻害ではなくシクロデキストリン(CD)によるコレステロール流出の誘発は、患者血清に対して曝露された後にインビトロにおいて観察される有足細胞傷害を予防した。糖尿病BTBR−ob/obマウスに対するCDの皮下投与は、安全であり、アルブミン尿、糸球体間質の拡大、腎臓重量、および皮質コレステロール含有量を低下させた。これに、空腹時インスリン、血中グルコース、体重、インビボにおける糖耐性の改善、およびインビトロにおけるヒト島におけるグルコース刺激インスリン放出改善が後続した。
【0073】
発明者らのデータは、コレステロール逆転送障害は、臨床上および実験的DKDの特徴をなし、有足細胞機能にネガティブに影響を与えることを示唆する。CDによる治療は、安全であり、インビトロおよびインビボにおいて有足細胞機能を保護するのに、エクスビボにおいてヒト膵臓ベータ細胞を寛解させるのに、ならびにインビボにおいて糖尿病の代謝制御を改善するのに有効である。
【0074】
発明者らは、DKDにおける新しい経路および標的を同定するために、24時間、4%患者血清に対して分化ヒト有足細胞を曝露させる、以前に確立された細胞ベースのアッセイを使用した。DKDを有する患者の血清に曝露された有足細胞は、循環コレステロールに非依存性であった、ABCA1発現のダウンレギュレーションと関連するコレステロール蓄積の増加を示した。過剰なコレステロール沈着は、T1DおよびT2Dのげっ歯動物モデルの糸球体において実際に記載されており、DKD発症および進行の一因となり得る。
【0075】
研究設計および方法
患者血清および腎臓生検材料。血清サンプルは、10人の健康なコントロールおよびフィンランド糖尿病性腎症研究(FinnDiane)のT1Dを有する20人の患者から得た。T1Dは、40歳前の糖尿病の発病および診断の1年以内に開始された永久的インスリン治療として定義した。尿アルブミン排出速度(AER)は、正常AER(<30mg/24時間)、ミクロアルブミン尿(≧30<300mg/24時間)、およびマクロアルブミン尿(≧300mg/24時間)として定義した。空腹時グルコース値は、Hemocueデバイス(Hemocue、フィンランド)を使用して測定した。血清脂質は、Konelabアナライザー(Thermo Scientific、フィンランド)により決定した。他の生化学的分析は、認可された病院検査室(HUSLAB、ヘルシンキ)において実行した。糸球体mRNA発現プロファイルについては、腎臓生検組織は、インフォームドコンセントを得た後に70人の南西部のアメリカインディアンから得た。移植前、健康な生体ドナー(n=32)、膜性腎症(n=21)、および巣状分節性糸球体硬化症(n=18)患者由来のヒト腎生検材料は、European Renal cDNA Bankから得た。
【0076】
マイクロアレイ分析およびPCR。インビトロ実験のために、lllumina技術は、2〜3人の患者それぞれ(コントロール、DKD−、およびDKD+)由来の血清の4つの独立したプールに曝露されたヒト有足細胞におけるmRNA発現を研究するために利用した。糸球体mRNA発現プロファイルは、記載されるように、Affymetrix GeneChipアレイにより実行した。
【0077】
ヒト有足細胞培養。ヒト有足細胞は、培養し、以前に記載されるように分化させ、実験前に0.2%FBS中で血清を欠乏させた。患者血清を利用した場合、欠乏させた細胞は、24時間、4%患者血清に曝露させた。インスリン処理実験については、100nmolインスリンを、患者血清に対する曝露の15分後に培養培地に追加した。シクロデキストリンまたはスタチン処理実験については、血清を欠乏させたヒト有足細胞を、5mMメチル−ベータ−シクロデキストリン(CD、Sigma)またはシンバスタチン(1μΜ、Sigma)により1時間前処理した。
【0078】
免疫蛍光染色。チャンバースライドにおいて培養した細胞は、37℃で30分間、4%PFAにより固定し、0.1%Triton X−100により透過処理し、マウス抗ホスホ−カベオリン(pY14、BD Biosciences)、抗活性RhoA(New East Biosciences)、または抗ビメンチン(Sigma)抗体に対する曝露を後続した。蛍光検出は、Alexa Fluor二次抗体(Invitrogen)を使用して実行した。コレステロール決定については、フィリピン(Sigma)染色を記載されるように実行した。F−アクチンは、ローダミンファロイジン(Invitrogen)によって視覚化した。状態当たり200の連続した細胞について研究した。スライドは、DAPI強化封入剤(Vectashield)により調製し、共焦点顕微鏡によって分析した。
【0079】
アポトーシス分析。アポトーシスは、メーカーの説明書に従ってカスパーゼ−3/CPP32比色定量アッセイキット(Biovision)を使用して評価した。カスパーゼ3活性は、細胞数に対して標準化し、コントロールに対する倍数変化として表した。
【0080】
コレステロール含有量の決定。コレステロールエステルは、酵素アッセイを使用して、総コレステロールおよび遊離コレステロールの間の差異として決定し、細胞タンパク質含有量に対して標準化した。脂肪滴の細胞含有量は、オイルレッドO(ORO)を使用して決定した。細胞は、上記に記載されるように、固定し、透過処理し、PBSおよび60%イソプロパノール中で洗浄し、室温で15分間、ORO(イソプロパノール中0.5% ORO、1:3に希釈)におけるインキュベーションおよび1分間のヘマトキシリンによる対比染色を後続した。200の連続した細胞に対するOROポジティブ細胞の割合を、明視野顕微鏡によって計算した。
【0081】
ウェスタンブロッティングおよびluminex。細胞溶解物収集およびウェスタンブロッティングを、以前に記載されるように実行した。以下の一次抗体を使用した:ウサギポリクローナル抗MyD88(Cell Signaling)、ウサギポリクローナル抗リン酸化(Y473)もしくは抗全AKT(Cell Signaling)、マウスモノクローナル抗rhoA(Santa Cruz)、またはマウスモノクローナル抗Gapdh(6C5、Calbiochem)抗体。二次抗マウスIgG−HRPまたは/および抗ウサギIgG−HRPコンジュゲート(Promega)を使用した。画像獲得は、化学発光イメージャーSRX−101A(Konica Minolta medical imaging、USA)を使用して実行し、バンド濃度測定は、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して分析した。その代わりに、リン酸化/全AKTは、以前に報告されるように、luminex技術を使用して定量化した。
【0082】
定量的リアルタイムPCR(QRT−PCR)。有足細胞RNAは、RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して抽出した。逆転写は、メーカーのプロトコールに従って、大容量cDNA逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用して実行した。QRT−PCRは、PerfeCTa(登録商標) SYBR(登録商標) Green FastMix(Quanta Biosciences)を使用して、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)において実行した。相対的遺伝子発現は、2^−ΔCtとして決定し、ΔCtは、標的遺伝子およびGapdhのサイクル閾値(Ct)の値の間の差異とする。半定量的発現分析のために、PCRを実行し、ゲル電気泳動によって分析した。増幅産物の強度は、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して決定し、値を標準化し、GAPDHに対する遺伝子発現における倍数変化として表した。以下のプライマーを使用した。
【0083】
BTBR ob/obマウス治療および分析。BTBR ob/obマウスは、Jackson Laboratoriesから購入した。マウスは、5か月間、1週間当たり3回、以前に報告されるように、4,000mg/kg CDまたは食塩水を皮下注射した。尿を収集し、体重および血糖(OneTouch)について毎週決定した。群当たり6匹のマウスを分析した。動物の手順はすべて、Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)よって承認された。等張食塩水灌流の後に、右の腎臓を、コレステロール含有量決定およびmRNA抽出のために摘出した。組織学的分析のために、一方の左腎極は、OCT中に包埋し、別の極は、4% PFA中で固定し、パラフィン包埋した。血液サンプルは、Comparative Laboratory Core Facility、University of Miamiにおいて、CBC、脂質パネル、AST、ALT、アルカリ性ホスファターゼ、GGT、およびBUNについて分析した。血清クレアチニンは、以前に記載される方法を使用して、BirminghamのUAB−UCSD O’Brien Core Center、University of Alabamaで、タンデム質量分析によって決定した。尿アルブミン含有量は、ELISA(Bethyl Laboratories)によって測定した。尿クレアチニンは、Jaffe法(Stanbio)に基づくアッセイによって評価した。値は、アルブミンμg/クレアチニンmgとして表す。空腹時血漿インスリンは、ELISA(Mercodia、SW)によって決定した。腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)は、治療の4か月後に実行し、5時間の絶食後に、血中グルコースは、ベースライン時におよびグルコースボーラス(1.5g/kg)の180分後まで記録した。インスリン感受性については、血糖を、ベースライン時におよび4mU/gの短時間作用性インスリンの腹腔内注射の150分後までモニターした。4つの異なる単離由来のヒト島を、1時間、0.5mM CDにより前処理し、グルコースおよびKClに応じたインスリン放出を決定するために、以前に記載されたように灌流した。
【0084】
組織診断、糸球体間質の拡大の評価、および糸球体表面積。4μm厚組織切片の過ヨウ素酸−シッフ(PAS)染色を実行した。切片当たり20の糸球体を、2人の盲検の独立した調査者によって実行した半定量分析(スケール0〜4)によって、糸球体間質の拡大について分析した。糸球体の表面は、それぞれの遭遇した糸球体において輪郭を描き、平均表面積を記載されるように計算した。
【0085】
SMPDL3bウェスタンブロットは、発明者らが以前に報告したように実行した。SMPDL3b過剰発現およびノックダウン細胞系もまた、以前に報告されており、上記に記載されるように、コレステロール含有量およびRhoA発現の決定のために現在利用されている。
【0086】
統計分析。データは、平均および標準偏差として示す。4〜8つの独立した実験を、インビトロにおける研究のために実行した。群当たり6匹のマウスを、インビボ実験のために使用した。統計分析は、一元配置ANOVAにより実行した。一元配置ANOVAが統計的有意性を示した場合、結果は、多重比較のためのTukeyの調整の後にt−検定を使用して比較した。結果は、p<0.05で統計的に有意であると考えた。
【0087】
結果
臨床検査室測定および患者集団。発明者らは、血清サンプルの収集の時に臨床的特徴に基づいて3つの群に分けた30人の男性対象について研究した。研究対象に、
1)糖尿病性腎疾患を有していない(DKD−)患者として定義される、T1D、正常アルブミン尿、および正常クレアチニンを有する10人の患者、
2)糖尿病性腎疾患を有する(DKD+)患者として定義される、T1D、アルブミン尿、およびクレアチニン異常を有する10人の患者、
3)10人の健康なコントロールを含めた。3つの群は、年齢、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、およびトリグリセリドについて有意に異なっていなかった。すべての患者は、レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系を遮断するための作用物質を服用していた。糖尿病の持続期間、空腹時血糖値、およびHbA1Cは、DKD+およびDKD−患者の間で有意に異なっていなかった。平均推定糸球体濾過率(eGFR)は、DKD−において101ml/分/1.73m2、Cにおいて97ml/分/1.73m2、およびDKD+群において43ml/分/1.73m2であった。DKD(平均eGFR 98ml/分/1.73m2)を有する5人の患者から7年前から収集していた血清を、選択した実験において利用した。
【0088】
DKD+血清に曝露された有足細胞は、特徴的なcDNAサインを有する。RNAは、発明者らが以前に報告したように、患者血清の存在下において培養した分化有足細胞から抽出した。cDNAマイクロアレイ分析は、DKD−処理有足細胞と比較した場合にDKD+処理有足細胞において改変された主な経路が、アクチンリモデリング、インスリンシグナル伝達、サイトカインシグナル伝達(主としてTLR4、TNF、およびIL1を通して)ならびにアポトーシスに関与する遺伝子を含んだことを明らかにした。発明者らは、タンパク質レベルでこれらの結果を検証し、ウェスタンブロッティングによって、DKD+処理有足細胞において、MyD88発現が増加し、インスリンがAKTをリン酸化する能力が損なわれ、また、切断カスパーゼ3の量が増加したことを実証した。
【0089】
DKDを有する患者の血清に曝露された正常ヒト有足細胞は、細胞泡状突起を示す。DKDを有する患者の血清に曝露された有足細胞に、形質膜からの細胞骨格の局所的な分離(泡状突起)と共に、著しいアクチン細胞骨格リモデリングが起こり、これは、ファロイジン染色(F−アクチン)および明視野画像の両方において明らかであり、また、これは、発明者らが巣状分節状糸球体硬化症において報告したものと非常に異なっていた。細胞泡状突起の定量分析(分析した合計200の連続した細胞のうち泡状突起を有する細胞のパーセンテージ)は、DKD+血清に曝露された細胞の80%であったが、DKD−血清に曝露された細胞のわずか20%およびコントロールにおける5%であったこの表現型を明らかにした。細胞泡状突起には、細胞泡状突起の部位での活性RhoAの再分布および全RhoAの増加が伴った。最終的にDKDを発症した、T1Dおよび正常GFRを有する5人の患者から収集された歴史的な血清が、患者がマクロアルブミン尿および低GFRと共にDKDを確立した平均7 2年後に収集された同じ患者由来の血清と培養有足細胞における同じ程度の細胞泡状突起を引き起こしたので、細胞泡状突起は、DKD+群におけるGFRの低下の結果ではなかった。
【0090】
DKD+血清に曝露された有足細胞および初期の糖尿病を有する患者由来の糸球体におけるコレステロール逆転送障害。炎症、インスリン抵抗性、アポトーシス、および細胞骨格リモデリングが、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH症候群)の病因における脂質の細胞内蓄積によって関連づけられ、コレステロールの蓄積が、DKDを有するマウスの腎臓の皮質において記載されているので、発明者らは、DKDを有する患者の血清の存在下において培養した有足細胞が、細胞内コレステロールを蓄積するかどうかを調査した。発明者らは、DKD−およびDKD+処理細胞におけるOROおよびフィリピンポジティブ細胞の数が増加し、DKD+処理細胞においてより多かったことを実証することができた。総コレステロール、遊離コレステロール、およびコレステロールエステルの定量分析は、コントロール対象由来の血清により処理した細胞と比較した場合に、DKD+処理細胞におけるコレステロールエステルの有意な増加を明らかにした。LDL受容体およびHMG−CoAレダクターゼ発現が変化しなかったが、ABCA1 mRNA発現がDKD+処理有足細胞においてダウンレギュレートされたので、この増加は、おそらく、コレステロール流出障害によるものであった。次いで、発明者らは、32人の正常生体ドナーと比較した場合の、T2Dおよび初期のDKDを有する、さらに70人の患者由来の糸球体における脂質関連性の遺伝子のmRNA発現について研究し、DKDにおけるABCA1の有意なダウンレギュレーションを実証した。興味深いことに、ABCA1が、膜性腎症(MN、n=21)および巣状分節性糸球体硬化症(FSGS、n=18)などのような、他のタンパク尿糸球体疾患において調節されなかったので、ABCA1 mRNA発現のダウンレギュレーションは、DKDだけの特徴であった。
【0091】
シクロデキストリンは、インビトロにおいて有足細胞を防御する。DKD+血清に対する培養中の有足細胞の曝露が、コレステロール流出を担う輸送体であるABCA1発現の減少と関連する総コレステロールの蓄積をもたらしたので、発明者らは、続いて、シクロデキストリンが、DKDを有する患者由来の血清に対する曝露の後に観察されるアクチン細胞骨格リモデリングおよび細胞泡状突起から有足細胞を防御するであろうという仮説について試験した。発明者らは、CDが、フィリピンポジティブ細胞の数を低下させ、接着点部位へのリン酸化カベオリンの局在化を保護したことを実証することができた。定量的コレステロール分析は、CDが、DKD+処理有足細胞において総コレステロールおよびコレステロールエステルの蓄積を予防したことを示した。さらに、CDによる細胞内コレステロール蓄積の予防はまた、DKD+誘発性のアポトーシス、インスリン抵抗性、およびMyD88発現をも予防した。有足細胞におけるシンバスタチンによるHMG−CoAレダクターゼの遮断はDKD+誘発性のアクチン細胞骨格リモデリングを防御しなかった。
【0092】
CDの皮下投与は、DKDの発症からBTBR ob/obマウスを防御する。BTBR(ブラックアンドタン、短尾)ob/ob(レプチン欠損)マウスは、進行性DKDのマウスモデルとして記載されている。予備的な毒性学研究に基づいて用量および投与のモードを確立した後に、発明者らは、5か月間、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CD、4,000mg/体重kg)の3回の毎週の注射による皮下投与により4週齢のBTBRマウスを処理した。アルブミン排泄速度における変化は、ホモ接合体のマウスにおいて処理開始の2か月後まで観察されなかったが、3か月目に、アルブミン/クレアチニン比の有意なダウンレギュレーションが、未処理BTBR ob/obマウスと比較した場合に、CD処理マウスにおける午前のスポット尿サンプル(p<0.001)において観察された。この減少は、屠殺(処理の開始の5か月後)まで持続した。屠殺時に、CD処理マウスは、腎臓重量の低下を示した。CDは、腎臓皮質におけるABCA1 mRNA発現に影響を及ぼさなかったが、総コレステロールの有意な低下をもたらした。血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニンは、CD処理によって有意に影響を及ぼされなかった。しかしながら、CD処理は、糸球体の表面積に影響を及ぼすことなく、糸球体間質の拡大の低下をもたらした。
【0093】
処理の4か月後、発明者らはまた、体重の低下をも観察し、これに、不規則な血糖の同時の改善が伴った。さらに、屠殺時に収集した血清は、空腹時血漿インスリンおよび空腹時血糖値の有意な改善を示した。屠殺の1週間前に実行したIPGTTは、ホモ接合体コントロールと比較した場合に、CD処理ホモ接合体マウスにおいて改善した。同様のインスリン感受性試験にもかかわらず改善が観察されたので、発明者らは、ヒト島細胞の4つの異なる調製物の機能に対する低用量CDの効果について分析した。グルコース刺激インスリン放出における有意な改善が、未処理ヒト島と比較した場合に、CD処理ヒト島において観察された。島細胞機能に対するCDの有益な効果が膵島におけるABCA1発現の調整と関連するかどうかを決定するために、発明者らは、ウサギポリクローナルABCA1抗体(Dr.A.Mendezからの寄贈)を使用して、免疫蛍光染色を実行し、分析した膵臓当たりの平均蛍光強度としてABCA1発現を決定した。ホモ接合体BTBR ob/obマウス由来の膵臓は、ヘテロ接合体同腹仔(p<0.001)と比較した場合に、有意に減少したABCA1発現によって特徴づけられ、CD処理は、ホモ接合体BTBR ob/ob(p<0.001)およびヘテロ接合体BTBR ob/+マウス(p<0.01)の膵臓において、ABCA1発現を有意に増加させた。げっ歯動物およびヒトにおいて他のシクロデキストリン誘導体を使用していると同時に、溶血性貧血および肝毒性が記載されているので、また、発明者らは、5か月の期間、高用量CDを投与したので、発明者らは、屠殺時に、ヘモグロビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、およびガンマ−グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)について研究した。長期にわたるCD投与による異常は、観察されず、CDの長期にわたる使用には、有害な副作用が伴わないことを示した(表を参照されたい)。
【0094】
本発明の効能および/または安全性は、本明細書に添付される図に対する参照によって示すことができ、その説明文を、下記に提供する。
【0095】
図1は、CDがインビボにおいて糖尿病を改善することを支持する、行った実験または研究の結果を示す、(a)〜(i)までの一連のパネルを示す図である。
図1のパネルのそれぞれを詳細に参照すると、(a、b)1週間当たり3回、ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス(群当たりn=6)に対して皮下に投与されたCDは、処理の開始の4か月後に始まる、体重における有意な低下をもたらした(平均±SD)。
*p<0.05、
**p<0.01。(c)ホモ接合体BTBR ob/obマウスに対して投与したCDは、処理の開始の4か月後に始まる、不規則な血糖における有意な低下(平均±SD)をもたらした。(d、e)空腹時血漿インスリンおよびグルコース濃度の棒グラフによる分析(平均±SD)。空腹時血漿インスリン(
**p<0.01;
***p<0.001)(d)および空腹時血糖値(
**p<0.01)(e)は、ヘテロ接合体コントロールと比較した場合に、ホモ接合体マウスにおいて有意に増加した。増加は、CD処理によって予防された(
##p<0.01)。(f)CD処理の開始の5か月後に実行したIPGTTは、未処理BTBR ob/obマウスと比較した場合に、CD処理BTBR ob/obマウスにおける糖耐性の改善を示した。(g)CD処理は、BTBR ob/obマウスにおいて、単一用量の短時間作用性インスリン(4mU/g)に対する感受性に影響を及ぼさなかった。(h)4人の独立したドナー由来のヒト膵島における代表的な灌流実験およびグルコース刺激インスリン放出に対する0.5mM CDの効果を実証する曲線下面積(AUC)の棒グラフによる分析(
**p<0.01)。(i)ABCA1についての免疫蛍光染色は、未処理同腹仔と比較した場合の、CD処理BTBR ob/obマウスの膵臓におけるABCA1発現の増加を明らかにする(
図6i、左)。棒グラフによる分析(
図6i、右)は、ホモ接合体BTBR ob/obマウスから単離した膵臓が、ヘテロ接合体同腹仔(
###p<0.001)と比較した場合に、ABCA1発現の有意な減少によって特徴づけられることを示す。CD処理は、ホモ接合体BTBR ob/ob(
***p<0.001)およびヘテロ接合体BTBR ob/+マウス(
**p<0.01)の膵臓において、ABCA1発現を有意に増加させた。
【0096】
図2は、CDが、インビボにおいて糖尿病性腎疾患から保護することを支持する(a)〜(i)までのパネルを示す図である。(a)1週間当たり3回、皮下に、ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス(群当たりn=6)に対して投与したCDが、処理の開始の3か月後に始まる、アルブミン/クレアチニン比(平均±SD)における低下をもたらした。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001。(b)腎臓重量(平均±SD)は、ホモ接合体マウスにおいて有意に増加し(
***p<0.001)、また、そのような増加は、CD処理によって予防された(
##p<0.01)。(c)ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスの腎臓皮質におけるABCA1 mRNA発現に対するCDの効果についての棒グラフによる分析(平均±SD)。(d)ホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスの腎臓皮質における総コレステロール含有量に対するCDの効果の棒グラフによる分析(平均±SD)。(e、f)血清BUNおよびクレアチニン濃度が、マウスのCD処理の後に変わらないことを示す棒グラフによる分析(平均±SD)。測定は、屠殺時にマウスから得られた血清に対して実行した。(g)CDまたはビヒクルによる処理の5か月後のホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウス由来の腎臓切片の代表的なPAS染色。(h、i)CDまたはビヒクルによる処理の5か月後のホモ接合体およびヘテロ接合体BTBR ob/obマウスのPAS染色腎臓切片についての糸球体間質の拡大のスコア(h)および糸球体の表面積(i)棒グラフによる分析(平均±SD)は、2人の盲検の独立した調査者によって評価した。* DKD+対Cを比較した場合の、p<0.05。# CD処理対未処理マウスを比較した場合の、p<0.05。
【0097】
図3は、5か月間の、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CD、4,000mg/体重kg)の3回の毎週の注射による皮下投与後の、処理した4週齢のBTBRマウスにおけるCDの安全性を示す表である。より古くより毒性の高いCD誘導体が、貧血および肝毒性を引き起こすことが示されているので、発明者らは、糖尿病マウスおよびコントロールマウスにおいて、高用量ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの長期的な投与の効果について試験した。
【0098】
図4(a)〜(i)において、結果により、コレステロール蓄積が、DKD+血清に対して曝露された有足細胞において起こることが示される。(a)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された有足細胞の代表的なオイルレッドO染色。黒色矢印は、主な脂肪滴蓄積のスポットを示す。(b)CおよびDKD−と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された有足細胞の代表的なフィリピン染色(オレンジ)およびリン酸化カベオリン染色(緑色)。(c)DKD−およびDKD+血清に対する曝露の両方が、培養ヒト有足細胞における有意な脂肪滴蓄積を引き起こすことを実証する、DKD−、DKD+を有する10人の患者由来の血清のプールに対してまたはコントロール由来の血清のプールに対して曝露された有足細胞におけるオイルレッドOポジティブ細胞の棒グラフによる定量分析(平均±SD)。*p<0.05、
***p<0.001。(d、e、f)CおよびDKD−と比較した場合に、DKD+血清のプールに対して曝露された有足細胞における酵素反応を介して決定される、総コレステロール(Tot C)、遊離コレステロール(Free C)、およびコレステロールエステル(Est C)の棒グラフによる分析(平均±SD)。
*p<0.05。(g、h、i)個々の患者血清に対して曝露された有足細胞における、LDL受容体、HMG−CoAレダクターゼ、およびABCA1発現についての定量的RT PCR分析(平均±SD)。
***p<0.001。(j)32人の生体ドナーと比較した場合の、初期のDKDを有する70人の患者、膜性腎症(MN)を有する21人の患者、および巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を有する18人の患者における脂質関連性の遺伝子の糸球体遺伝子発現の転写分析。数字は、生体ドナーと比較した場合の、疾患における倍数変化を表す。
【0099】
図5パネル(a)〜(f)は、CDが、DKD+血清に対する曝露の後に観察される変化から有足細胞を防御することを示す図である。(a)CDの存在(CD)または非存在(コントロール)下における、CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露された正常ヒト有足細胞の代表的なファロイジン(赤色)およびリン酸化カベオリン(緑色)共焦点画像。DAPI(青色)は、核を同定するために使用した。(b、c)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露されたCD処理(+)対未処理(−)有足細胞における、総コレステロール(B)およびコレステロールエステル(C)に対するCDの効果について棒グラフによる分析(平均±SD)。* DKD+対Cを比較した場合のp<0.05。# 同じ群におけるCD処理対未処理有足細胞を比較した場合のp<0.05。(d、e、f)CおよびDKD−血清と比較した場合の、DKD+血清に対して曝露されたCD処理(+)対未処理(−)有足細胞における切断カスパーゼ3、インスリン刺激AKTリン酸化、およびMyD88発現についての棒グラフによる分析(平均±SD)。DKD+対Cを比較した場合の*p<0.05および**p<0.01。# 同じ群におけるCD処理対未処理有足細胞を比較した場合のp<0.05。
【0100】
図6パネル(a)〜(f)は、スフィンゴ脂質関連性の酵素、つまりSMPDL3bの発現が、腎臓などのような標的器官において糖尿病において増加し、脂質依存性の損傷を引き起こすことを示す図である。(a)32人の生体ドナーと比較した場合の、DKDを有する12人の患者におけるSMPDL3bの糸球体遺伝子発現についての転写分析。数字は、生体ドナーと比較した場合の、疾患における倍数変化を表す。* p<0.05。(b)健康なコントロール(C)またはDKDを有する(DKD+)年齢および性別が一致する糖尿病患者またはDKDを有していない(が、同じ糖尿病持続期間および血漿脂質プロファイルを有する)糖尿病患者由来の血清の存在下において培養した正常ヒト有足細胞におけるSMPDL3bタンパク質発現についての代表的なウェスタンブロットおよび相対的棒グラフ分析。p<0.05。(c、d)通常の培地(コントロール)またはTNFαを補足した培地において培養した正常ヒト有足細胞におけるならびにSMPDL3bを過剰発現する有足細胞(SMPDL3b OE)における代表的なオイルレッドO染色ならびにオイルレッドO、コレステロール、トリグリセリド、およびリン脂質についての棒グラフ分析。* コントロールに対してTNFa処理またはSMPDL3b OEを比較した場合のp<0.05。### SMPDL3b OE対空ベクター(EV)コントロールにおけるオイルレッドO染色を比較した場合のp,0.001。(□)SMPDL3bを発現停止させた細胞(SMPDL3b KD)において予防された現象である、DKD+血清に対して曝露された正常ヒト有足細胞におけるアクチン細胞骨格リモデリングを実証する代表的なファロイジン染色。(f)SMPDL3b KDヒト有足細胞が、DKD+血清に対する曝露の後に観察されるRhoA発現の増加に対して抵抗性であることを実証する代表的なウェスタンブロットおよび棒グラフによる分析。* p<0.05。
【0101】
結論
強力なコレステロール受容体である2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(2−HPβCD)は、インビボおよびインビトロにおいて、コレステロールを捕捉し、かつ、コレステロール依存性の損傷から糖尿病、糖尿病前症、メタボリックシンドローム、および肥満によって冒される任意の細胞を防御するのに有効な方法である。
【0102】
関連する発明が、本明細書における本開示の精神の範囲内にあることが認識される。また、発明者らを本請求項または本開示に限定するよう意図される手抜かりは、本出願にない。本発明のある好ましいおよび代替の実施形態は、本発明を開示する目的のために記載されたが、開示される実施形態に対する修飾を、当業者らが考えついてもよい。