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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-204046(P2018-204046A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】めっき処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20181130BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20181130BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   C23C18/31 E
   C23C18/31 A
   C23C18/18
   C23C18/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-106818(P2017-106818)
(22)【出願日】2017年5月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、マッチングプランナープログラム「金属3Dプリンターで製作した水冷式金型の3次元複雑配管に対する防食処理技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 逸人
(72)【発明者】
【氏名】戸羽 篤也
(72)【発明者】
【氏名】見山 克己
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA41
4K022CA03
4K022DA01
4K022DB18
4K022EA02
(57)【要約】
【課題】対象物の内部空間にめっき層を形成しやすい。
【解決手段】対象物である流路部材Wの内部には流路Psが形成されている。流路Psは、流路部材Wの外表面に形成された開口IP及びOPと連通している。めっき処理装置1は、塩酸槽11、純水槽12及びめっき液槽13を有している。各槽は、チューブ21〜26、41及び42を通じて開口IP及びOPと接続されている。チューブ41に設けられたチューブポンプ51を作動させると各槽と流路Psとの間で液体が循環する。チューブポンプ51は、めっき処理の対象となる領域Rの容積以上の量のめっき処理液が領域Rを通過するように駆動される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に形成された複数の開口と連通した内部空間を有するめっき処理対象物に対するめっき処理方法であって、
めっき処理液を前記複数の開口のいずれかである流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記複数の開口の他のいずれかである流出口から流出させることにより、前記内部空間においてめっき処理の対象となる領域の容積以上の量の前記めっき処理液に前記領域を通過させるめっき処理工程を備えていることを特徴とするめっき処理方法。
【請求項2】
前記流入口から前記内部空間を通り前記流出口に向かう経路が、折れ曲がった部分を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のめっき処理方法。
【請求項3】
前記めっき処理工程前に、前記流入口から前記内部空間内に酸性の液体を流入させると共に前記流出口から流出させる酸洗い工程、及び、前記酸洗い工程後であって前記めっき処理工程前に、前記酸性の液体を洗い流す第1洗浄液を前記流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記流出口から流出させる第1洗浄工程を含む工程と、
前記めっき処理工程後に、前記めっき処理液を洗い流す第2洗浄液を前記流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記流出口から流出させる第2洗浄工程とのうち、少なくともいずれか1つを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のめっき処理方法。
【請求項4】
前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液を前記内部空間に流入させる共通又は各液に個別のチューブを前記流入口に接続すると共に、前記チューブ内の液体の流量を計測する計測装置を前記チューブの少なくともいずれかに設けることを特徴とする請求項3に記載のめっき処理方法。
【請求項5】
前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液を前記内部空間に流入させる共通又は各液に個別のチューブを前記流入口に接続すると共に、前記チューブ内の液体を前記流入口から前記内部空間に流入させるポンプを前記チューブの少なくともいずれかに設けることを特徴とする請求項3又は4に記載のめっき処理方法。
【請求項6】
前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液に関して、液体を収容する容器と、前記容器内から前記流入口まで液体を流通させる往流路と、前記流出口から前記容器内まで液体を流通させる復流路とを、液体の種類別に設けることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のめっき処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のめっき処理方法においては、例えば、特許文献1のように、めっき浴層内に貯留しためっき処理液に対象物を浸漬し、対象物の表面にめっき層を析出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−79450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流路等の内部構造を有する対象物に関して、流路等の内部空間の壁面にめっき処理を施すことがある。従来のような浸漬による方法を利用しためっき処理を流路等の内部構造を有する対象物に適用すると、その内部空間の壁面にめっき層を形成しにくい場合や、内部空間のみに処理を行いたい場合に対応できないおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、対象物の内部空間にめっき層を形成しやすいめっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の浸漬によるめっき処理によると対象物の内部空間の壁面にめっき層を形成しにくいのは、対象物の内部空間内のめっき処理液が入れ替わりにくいためであると考えた。めっき処理液が入れ替わりにくいと、内部空間のめっき処理が進むにつれ、内部空間内のめっき処理液においてめっき層の基となる金属イオンが枯渇しやすい。よって、内部空間の壁面にめっき層が成長しにくい。
【0007】
また、従来の浸漬によるめっき処理によると、対象物の外表面にめっきを施すことなく、内部空間内にのみめっき処理をしたい場合に、対応できないという問題も生じていた。
【0008】
そこで、本発明のめっき処理方法は、外表面に形成された複数の開口と連通した内部空間を有するめっき処理対象物に対するめっき処理方法であって、めっき処理液を前記複数の開口のいずれかである流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記複数の開口の他のいずれかである流出口から流出させることにより、前記内部空間においてめっき処理の対象となる領域の容積以上の量の前記めっき処理液に前記領域を通過させるめっき処理工程を備えている。
【0009】
本発明のめっき処理方法によると、めっき処理液を内部空間に強制的に流入させることで、めっき層の形成が進んでも内部空間のめっき処理液が入れ替わる。また、内部空間の対象部分におけるめっき処理液が少なくとも1回はすべて入れ替わる。よって、めっき処理が進んでも、内部空間においてめっき層の基となる金属イオンが枯渇しにくく、内部空間においてめっき層が形成されやすい。
【0010】
さらに、めっき処理液を内部空間に強制的に流入させることにより、内部空間だけのめっき処理が可能になる。すなわち、内部空間以外の部分にめっき膜による寸法の変更を生じさせることなく、内部空間だけのめっき処理を行える。
【0011】
また、本発明においては、前記流入口から前記内部空間を通り前記流出口に向かう経路が、折れ曲がった部分を含んでいてもよい。折れ曲がった部分が内部空間に含まれている場合、めっき処理対象物をめっき処理液に浸漬するだけの従来技術では、めっき処理液が内部空間の奥まで十分に供給されないおそれがある。また、処理を行うことが好ましくない場所についても処理されてしまう。これに対し、上記構成のよると、めっき処理液を内部空間に強制的に流入させるので、めっき処理液が内部空間の奥まで確実に供給される。よって、折れ曲がった部分が内部空間に含まれていても、内部空間にめっき層が形成されやすい。また、内部空間のみを処理することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記めっき処理工程前に、前記流入口から前記内部空間内に酸性の液体を流入させると共に前記流出口から流出させる酸洗い工程、及び、前記酸洗い工程後であって前記めっき処理工程前に、前記酸性の液体を洗い流す第1洗浄液を前記流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記流出口から流出させる第1洗浄工程を含む工程と、前記めっき処理工程後に、前記めっき処理液を洗い流す第2洗浄液を前記流入口から前記内部空間内に流入させると共に前記流出口から流出させる第2洗浄工程とのうち、少なくともいずれか1つを備えていることが好ましい。対象物の内部空間内をあらかじめ十分に酸洗いできないと、つまり、内部空間の壁面の酸化被膜の除去等が十分でないと、めっき層が内部空間の壁面に密着しにくい。上記構成によると、酸性の液体を内部空間に強制的に流入させる場合には、酸洗いを適切に行える。よって、めっき層が内部空間の壁面に密着しやすい。さらに、洗浄液も強制的に流路に流入させる場合には、酸洗い後の酸性の液体やめっき処理後のめっき処理液を適切に除去できる。このように、少なくとも、酸洗い工程、めっき処理前の第1洗浄工程及びめっき処理後の第2洗浄工程のいずれかを備えていることにより、めっき処理の効果を上げることができる。
【0013】
また、本発明においては、前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液を前記内部空間に流入させる共通又は各液に個別のチューブを前記流入口に接続すると共に、前記チューブ内の液体の流量を計測する計測装置を前記チューブの少なくともいずれかに設けることが好ましい。
【0014】
また、本発明においては、前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液を前記内部空間に流入させる共通又は各液に個別のチューブを前記流入口に接続すると共に、前記チューブ内の液体を前記流入口から前記内部空間に流入させるポンプを前記チューブの少なくともいずれかに設けることが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、前記酸性の液体、前記めっき処理液並びに前記第1及び第2洗浄液に関して、液体を収容する容器と、前記容器内から前記流入口まで液体を流通させる往流路と、前記流出口から前記容器内まで液体を流通させる復流路とを、液体の種類別に設けることが好ましい。これによると、各液体を循環させるので、内部空間を通過した液体を再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るめっき処理方法に用いるめっき処理装置の概略構成を示す概念図である。
図2】めっき処理方法の流れを示すフロー図である。
図3】本実施形態の一実施例に用いた流路部材の平面図である。
図4】本実施形態の一実施例に用いた他の流路部材の平面図である。
図5】本実施形態の一実施例に用いたさらに他の流路部材の平面図である。
図6図3の流路部材に係る実施例の結果を示すグラフである。
図7図4及び図5の流路部材に係る実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るめっき処理方法について図1及び図2を参照しつつ説明する。本実施形態のめっき処理方法には無電解めっき処理が採用されている。無電解めっき処理では、電流を使用せず、金属イオンを含む無電解めっき処理液を用いてめっき処理対象物の表面に金属イオン由来の金属を析出させる。本めっき処理方法は、図1のめっき処理装置1を用いて実施される。めっき処理装置1は、めっき処理対象物である流路部材Wの内部構造に対してめっき処理を施す装置である。流路部材Wは、内部構造として液体等を流入させるための流路Ps(内部空間)が形成されたブロック状の部材である。流路部材Wの応用例としては、射出成型に用いられる金型等がある。流路Psは、流路部材W内において所定の経路に沿って細長く延びた管状の空洞である。流路Psは、流路部材Wの外表面の2か所に開口しており、一方の開口である開口IPから折れ曲がり部Bを経由して他方の開口OPまで延びている。折れ曲がり部Bは、半円状の経路に沿って湾曲した(折れ曲がった)部分である。
【0018】
流路部材Wは、例えば、三次元積層造形法を用いて作製されている。三次元積層造形においては、金属材料の粉末からなる粉末層を既成層上に形成した後、粉末層にレーザー又は電子ビームを照射して粉末を焼結させることで新たな既成層を形成する。焼結しなかった粉末は新たな既成層から除去される。このステップが繰り返されることで、全体として複数層からなる三次元物体が造形される。造形物の内部において焼結しなかった粉末を除去した範囲には空洞が形成される。この方法においては、レーザー又は電子ビームの照射範囲を精密に規定することで焼結範囲を精密に設定できる。したがって、複雑な内部構造を有する三次元物体をも比較的容易に造形することができる。
【0019】
一方、従来のように単にめっき処理液に流路部材Wをただ浸漬させるだけの方法によると、流路Psの内壁面まではめっき処理が適切になされないおそれがある。そこで、流路Psの内壁面に適切にめっき処理を施すために、めっき処理装置1が以下のように構成されている。めっき処理装置1は、塩酸水溶液を収容した塩酸槽11、純水(第1洗浄液、第2洗浄液)を収容した純水槽12、めっき処理液を収容しためっき液槽13、これらの槽11〜13(容器)と接続されたチューブ21〜26、チューブ21〜26と流路Psとを連通させるチューブ41及び42等を備えている。チューブ21〜26のそれぞれの途中には開閉弁31が設けられている。開閉弁31は、チューブ21〜26のそれぞれにおいて、液体がチューブ内を流通可能である開放状態と、液体がチューブ内を流通可能でない閉塞状態との間で切り替わる。チューブ41の途中にはチューブポンプ51及び流量計52(計測装置)が設けられている。チューブポンプ51は、チューブ41を外部から押し潰すローラを有している。このローラがチューブ41を押し潰しつつチューブ41に沿って移動することで、チューブ41内の液体を図1のA方向に押し出す。これにより、チューブ41内を液体が流れる。このように、チューブポンプ51は、直接液体に接触しない非接触式のポンプである。チューブポンプ51には、オン・オフを切り替えるスイッチや、チューブ41内の液体の流量を調整するためのスイッチが設けられている。流量計52は超音波式の計測器である。流量計52は、チューブ41外からチューブ41内に向かって超音波を照射し、チューブ41を伝搬する超音波における伝搬に要する時間差を検出することでチューブ41内の液体の流量を導出する。導出された流量値は、流量計52に設けられた液晶表示部に表示される。このように、流量計52は、液体に直接接触しない非接触式の流量計である。
【0020】
チューブ21及び22の一端は塩酸槽11と接続されている。チューブ23及び24の一端は純水槽12と接続されている。チューブ25及び26の一端はめっき液槽13と接続されている。チューブ21、23及び25の他端はチューブ継手32に接続されている。チューブ41の一端はチューブ継手32に接続されている。チューブ継手32は、チューブ21、23、25及び41同士を互いに連通させている。チューブ22、24及び26の他端はチューブ継手33に接続されている。チューブ42の一端はチューブ継手33に接続されている。チューブ継手33は、チューブ22、24、26及び42同士を互いに連通させている。チューブ41の他端は、開口IPに挿入された接続部材53を介して流路Psと接続されている。チューブ42の他端は、開口OPに挿入された接続部材54を介して流路Psと接続されている。なお、開口IP及びOP付近においては、接続部材53及び54が流路Psの内壁面に接触している。このため、後述の通り接続部材53を介して流路Psにめっき処理液を流入させた場合、接続部材53及び54が挿入された領域以外の領域R(図1参照)において内壁面にめっき層が形成される。つまり、流路Psにおいて領域Rがめっき処理の対象となる領域である。チューブ21、23、25及び41並びにチューブ継手32は本発明の往流路を構成する。チューブ22、24、26及び42並びにチューブ継手33は本発明の復流路を構成する。
【0021】
以下、めっき処理装置1を用いためっき処理方法の流れについて図2に基づき説明する。まず、塩酸水溶液及びめっき処理液を調製し、塩酸漕11及びめっき液漕13に収容すると共に、純水を純水漕12に収容する(S1)。塩酸水溶液及びめっき処理液は、流路Ps内に適切な厚みのめっき層が形成される条件に調製される。この条件には、塩酸の濃度及び各液の温度の条件が含まれる。次に、塩酸水溶液による流路Psの酸洗いを行う(S2;本発明の酸洗い工程)。具体的には、チューブ21及び22に設けられた各開閉弁31を開放状態とし、その他の全ての開閉弁31は閉塞状態とした状態で、チューブポンプ51を作動させる。これにより、塩酸漕11内の塩酸水溶液が、チューブ21、チューブ継手32、チューブ41及び接続部材53を経由し、開口IPから流路Ps内に流入する。流路Ps内に流入した塩酸水溶液は、流路Ps内を流れ、接続部材54を介して開口OPからチューブ42へと流出する。これにより、流路Psの内壁面に形成された酸化被膜が除去される。チューブ42へと流出した塩酸水溶液は、チューブ42、チューブ継手33及びチューブ22を経由して塩酸漕11へと戻る。所定時間後、チューブポンプ51を停止させることで酸洗いを完了する。
【0022】
次に、純水による流路Psの洗浄を行う(S3;本発明の第1洗浄工程)。具体的には、チューブ23及び24に設けられた各開閉弁31を開放状態とし、その他の全ての開閉弁31は閉塞状態とした状態で、チューブポンプ51を作動させる。これにより、純水漕12内の純水が、チューブ23、チューブ継手32、チューブ41及び接続部材53を経由し、開口IPから流路Ps内に流入する。流路Ps内に流入した純水は、流路Ps内を流れ、接続部材54を介して開口OPからチューブ42へと流出する。これにより、流路Psに残留した塩酸が押し流される。チューブ42へと流出した純水は、チューブ42、チューブ継手33及びチューブ24を経由して純水漕12へと戻る。所定時間後、チューブポンプ51を停止させることで洗浄を完了する。
【0023】
次に、めっき処理液による流路Psのめっき処理を行う(S4;本発明のめっき処理工程)。具体的には、チューブ25及び26に設けられた各開閉弁31を開放状態とし、その他の全ての開閉弁31は閉塞状態とした状態で、チューブポンプ51を作動させる。これにより、めっき液漕13内のめっき処理液が、チューブ25、チューブ継手32、チューブ41及び接続部材53を経由して、開口IPから流路Ps内に流入する。流路Ps内に流入しためっき処理液は、流路Ps内を流れ、接続部材54を介して開口OPからチューブ42へと流出する。この間に、領域Rにおいて流路Psの内壁面にめっき層が形成される。チューブ42へと流出しためっき処理液は、チューブ42、チューブ継手33及びチューブ26を経由してめっき液漕13へと戻る。所定時間後、チューブポンプ51を停止させることで、めっき処理液の流路Psへの流入を完了する。工程S4においては、流量計52の液晶表示部に表示される流量値に基づき、めっき処理液を流路Psに流入させる流量が所定の大きさに維持される。めっき処理液の流量及びめっき処理液を流路Psに流入させ続ける期間(以下、めっき液流入期間とする)の長さは、流路Ps内に所望の厚みのめっき層が形成される条件になるように調整される。めっき処理液の流量及びめっき液流入期間の長さは、流路Psにおいてめっき層形成の対象となる領域Rの容積以上の量のめっき処理液が領域Rを通過するような長さに調整される。つまり、工程S4においては、領域Rに一旦充填されためっき処理液全体が1回以上、新たなめっき処理液に入れ替わる。かかる領域Rのめっき処理液の入れ替えは、めっき層が所望の厚みとなるために必要な回数、繰り返し行われる。
【0024】
次に、純水による流路Psの洗浄を行う(S5;本発明の第2洗浄工程)。具体的には、チューブ23及び24に設けられた各開閉弁31を開放状態とし、その他の全ての開閉弁31は閉塞状態とした状態で、チューブポンプ51を作動させる。これにより、純水漕12内の純水が、チューブ23、チューブ継手32、チューブ41及び接続部材53を経由し、開口IPから流路Ps内に流入する。流路Ps内に流入した純水は、流路Ps内を流れ、接続部材54を介して開口OPからチューブ42へと流出する。これにより、流路Psに残留しためっき処理液が押し流される。チューブ42へと流出した純水は、チューブ42、チューブ継手33及びチューブ24を経由して純水漕12へと戻る。所定時間後、チューブポンプ51を停止させることで洗浄を完了する。
【0025】
以上のように、めっき処理装置1は、塩酸水溶液、めっき処理液及び純水に関して、これらを貯留した槽と流路部材Wとの間で循環させる循環流路を液体の種類別に備えている。よって、流路Psを一旦通過した各液体を再利用することができる。また、純水は、流路Ps内に残存した塩酸水溶液及びめっき処理液の両方を洗い流すために共通に用いられる。
【0026】
以下、めっき処理装置1を用いた本実施形態のめっき処理方法に係る一実施例について説明する。本実施例では、図3図5に示す流路部材W1〜W3にめっき処理を施した。流路部材W1〜W3においては、いずれも、直方体の概略形状を有する金属製ブロック内に流路が形成されている。なお、実際にはブロックの上面に凹みが形成されたものが使用されたが、図においてはかかる凹みの図示が省略されている。流路部材W1〜W3のいずれも、金属3Dプリンター用のFe−Ni系合金粉末(松浦機械製作所製)を用いた三次元積層造形によって作製されている。流路部材W1は、120mm×20mm×20mmの寸法のブロック内に直径5mmの円管状の流路P1が形成されたものである。流路P1は流路部材W1の長尺方向に沿って直線状に形成されている。流路P1は、流路部材W1の外表面に形成された開口IP1及びOP1と連通している。流路部材W2は、62mm×40mm×20mmの寸法のブロック内に直径5mmの円管状の流路P2が形成されたものである。流路P2は、折れ曲がり部B1とそれ以外の直線状の部分とを含んでおり、全体としてU字型に形成されている。流路P2は、流路部材W2の外表面に形成された開口IP2及びOP2と連通している。流路部材W3は、50mm×80mm×20mmの寸法のブロック内に直径5mmの円管状の流路P3が形成されたものである。流路P3は、折れ曲がり部B2〜B4とそれ以外の直線状の部分とを含んでおり、全体としてW字型に形成されている。流路P3は、流路部材W3の外表面に形成された開口IP3及びOP3と連通している。
【0027】
まず、図3の流路部材W1に対し、図2の流れに沿ってめっき処理を施した。めっき処理装置1のチューブ41は接続部材53を介して開口IP1に接続し、チューブ42は接続部材54を介して開口OP1に接続した。工程S1では、塩酸水溶液を70℃、10vol%に調製した。また、めっき処理液として、Ni−P系無電解めっき液を86℃に調製して用いた。工程S4では、流量計52が所定の流量を示すようにチューブポンプ51を作動させつつ120分間、流路P1にめっき処理液を流し続けた。以上の条件で図2の流れに沿った4回のめっき処理を、工程S4においてめっき処理液の流量を変更しつつ行った。図6のグラフは、流路P1における開口IP1から開口OP2までの中間付近の内壁面に形成されためっき層の厚みを測定した結果を示す。グラフの横軸はめっき処理液の流量(mL/分)を、縦軸はめっき層の厚み(μm)を示す。各点の厚み値は、流路P1の内壁面の複数か所における測定値の平均値である。例えば、射出成型用の金型において、十分な防錆性能を確保できるめっき層の厚みは10μm以上である。図6に示す通り、めっき処理液の流量をある程度小さくすることで10μm以上のめっき層を形成することができた。例えば、めっき処理液の流量を78mL/分とすることにより、10μm以上の厚みを確保できることが分かった。
【0028】
次に、図4の流路部材W2に対し、図2の流れに沿ってめっき処理を施した。めっき処理装置1のチューブ41は接続部材53を介して開口IP2に接続し、チューブ42は接続部材54を介して開口OP2に接続した。めっき処理液の流量は78mL/分とした。その他の条件は、流路部材W1に関する上述の条件と同じとした。また、図5の流路部材W3に対し、図2の流れに沿ってめっき処理を施した。めっき処理装置1のチューブ41は接続部材53を介して開口IP3に接続し、チューブ42は接続部材54を介して開口OP3に接続した。めっき処理液の流量は78mL/分とした。その他の条件は、流路部材W1に関する上述の条件と同じとした。図7のグラフは、流路部材W2の流路P2及び流路部材W3の流路P3の各内壁面に形成されためっき層の厚みを測定した結果を示す。測定は、図4及び図5に示すa〜hのそれぞれの箇所に関して行った。グラフの横軸は測定箇所を、縦軸はめっき層の厚み(μm)を示す。各箇所の厚み値は、各箇所における断面中の複数か所に関する測定値の平均値である。図7に示す通り、流路部材W2においては、流路P2中の位置によらず、10μmを大きく超える厚みを確保できた。流路部材W3においては、流路P3中の位置によらず、ほぼ10μm以上の厚みを確保できた。
【0029】
以上説明した本実施形態によると、めっき処理対象物(流路部材W、W1〜W3)におけるめっき処理の対象となる流路(流路Ps、P1〜P3)に対して、チューブポンプ51を用いてめっき処理液を強制的に流入させる。したがって、流路だけのめっき処理が可能になる。すなわち、流路以外の部分にめっき膜による寸法の変更を生じさせることなく、流路だけのめっき処理を行える。また、めっき処理液を強制的に流路に流入させるので、めっき層の形成が進んでも流路内のめっき処理液が入れ替わる。さらに、流路内のめっき処理対象領域(例えば、図1の領域R)におけるめっき処理液が少なくとも1回は全て入れ替わる。めっき処理対象物をめっき処理液に浸漬するだけの従来技術の場合、めっき処理が進んでも流路内のめっき処理液が入れ替わらず、めっき層の基となる金属イオンがすぐに枯渇するおそれがある。これに対し、本実施形態においては、めっき処理液が確実に入れ替わるため、めっき処理が進んでも流路内の金属イオンが枯渇しにくい。よって、流路の内壁面においてめっき層が適切に形成されやすい。
【0030】
特に、流路部材W、W2及びW3の折れ曲がり部B及びB1〜B4のように折れ曲がった部分が流路に含まれている場合、めっき処理対象物をめっき処理液に浸漬するだけの従来技術では、めっき処理液が流路の奥まで十分に供給されないおそれがある。これに対し、本実施形態では、流路内にめっき処理液を強制的に流入させるので、めっき処理液が流路の奥まで確実に供給される。
【0031】
また、流路内をあらかじめ十分に酸洗いできない、つまり、流路内壁面の酸化被膜の除去等が十分でないとめっき層が流路の内壁面に密着しにくい。本実施形態によると、酸性の液体を流路内に強制的に流入させることで、酸洗いを適切に行える。よって、めっき層が流路の内壁面に密着しやすい。さらに、洗浄用の純水も強制的に流路に流入させるので、酸洗い後の酸性の液体やめっき処理後のめっき処理液を適切に除去できる。
【0032】
また、本実施形態に係るチューブ41に設けられたチューブポンプ51及び流量計52は、液体に直接接触しない非接触式のものである。したがって、このチューブ41を酸性の液体の導入に用いても、チューブポンプ51及び流量計52のいずれも液体と直接接触しないため、これらの機器の酸及び熱に対する耐性の問題が生じない。
【0033】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0034】
例えば、上述の実施形態では、めっき処理対象物として、三次元積層造形法を用いて作製された金属製の流路部材が想定されている。しかし、三次元積層造形法以外の方法で作成された部材がめっき処理対象物であってもよい。また、めっき処理対象物が陶器やプラスチック等の金属以外の材料製であってもよい。
【0035】
また、上述の実施形態では、流路部材の外表面の2か所に開口した流路の内壁面にめっき処理を施すことが想定されている。しかし、かかる流路以外の空洞にめっき処理を施す場合に本発明が適用されてもよい。例えば、外表面に形成された3か所以上の開口と連通した流路に適用されてもよい。この場合、これら3か所以上の開口のそれぞれを流入口及び流出口のいずれかに割り当て、流入口及び流出口のいずれか又は両方を複数個設定する。そして、チューブ41及び42の一方又は両方を適宜分岐させて流入口及び流出口にそれぞれ接続すればよい。例えば、流入口を複数個設定した場合、チューブ41を分岐させてその複数個の流入口に接続すればよい。また、流路のような細長い空洞でなく、液体貯留用の容器の内部のような幅の広い空洞にめっき処理を施す場合に本発明が適用されてもよい。また、上述の通り、本発明は、折れ曲がり部を有する流路に対して有効である。しかし、内壁面に凹凸があったり複数の流路に分岐していたり複数の区画に仕切られていたりといった比較的複雑な構造を有するその他の内部空間に対しても有効である。
【0036】
また、上述の実施形態では、塩酸水溶液及びめっき処理液の両方を洗い流すために純水槽12の純水が共通に用いられている。しかし、塩酸水溶液を洗い流すための洗浄液(第1洗浄液)とめっき処理液を洗い流すための洗浄液(第2洗浄液)とが別個に用意され、使い分けられてもよい。
【0037】
また、上述の実施形態では、酸洗いのために塩酸水溶液が用いられているが、硫酸水溶液等、その他の酸性の液体が用いられてもよい。
【0038】
また、上述の実施形態では、開閉弁31やチューブポンプ51を手動で操作することが想定されている。しかし、これらが自動で制御されてもよい。例えば、コンピュータが所定のスケジュールに従って開閉弁31及びチューブポンプ51を作動させると共に、流量計52の検出結果に基づき、チューブポンプ51の動作を制御してもよい。
【0039】
また、上述の実施形態では、チューブポンプ51や流量計52は直接液体に接触しない機器が用いられているが、循環する酸性の液体およびめっき処理液に対して使用が耐えうる接触式の機器でもよい。
【0040】
また、上述の実施形態に係るめっき処理方法は、図2に示す通りS1〜S5の工程を備えている。しかし、S1の工程、S2及びS3の工程、並びに、S5の工程の3つについては、状況に応じて選択的に実施されてよい。例えば、S1の工程が実施されず、S2〜S5の工程が実施されてもよいし、S2及びS3の工程が実施されず、S1、S4及びS5の工程が実施されてもよい。また、S5の工程が適宜省略されてもよい。また、上述の実施形態では、塩酸槽11、純水槽12及びめっき液槽13からの3種類の液体に共通のチューブ41が設けられている。しかし、各液体に関して個別にチューブが設けられると共に、これら個別のチューブと開口IP等との接続が切り替え可能となっていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
B、B1〜B4 折れ曲がり部
IP、IP1〜IP3 開口(流入口)
OP、OP1〜OP3 開口(流出口)
Ps、P1〜P3 流路
W、W1〜W3 流路部材
1 めっき処理装置
11 塩酸槽
12 純水槽
13 めっき液槽
51 チューブポンプ
52 流量計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7