【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、この課題を解決できることを見出した。その具体的手段は以下の通りである。
[1] コア部として断面円形状を有する軟鋼よりなる棒鋼材を用い、クラッド部として断面円環状形状を有する工具鋼よりなる中空棒鋼材を用いたコアクラッド構造を有することにより、縦断面の平均ビッカース硬さが300以上の高強度である特徴を有すると同時に、三点曲げ試験において10mmの変位量を与えても破断しない高靭性を有する棒鋼。
【0009】
[2] コア部に用いる軟鋼として、JIS−G3101により定義される一般構造用圧延鋼材、またはJIS−G3106により定義される溶接構造用圧延鋼材、またはJIS−G4051により定義される機械構造用炭素鋼鋼材を用いる[1]に記載する棒鋼。
JIS−G3101により定義される一般構造用圧延鋼材としては、例えば、SS540があり、その元素組成は、C:0.30%以下、Mn:1.60%以下、P:0.040%以下、S:0.040%以下となっている。
JIS−G3106により定義される溶接構造用圧延鋼材としては、例えば、SM490Aがあり、その元素組成は、C:0.25%以下、Si:0.55%以下、Mn:1.65%以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下となっている。
JIS−G4051により定義される機械構造用炭素鋼鋼材としては、例えば、S10C−S55Cがあり、その元素組成は、C:0.08〜0.61%以下、Si:0.10〜0.35%以下、Mn:1.65%以下、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Ni:0.20%以下、Cr:0.20%以下、Cu:0.30%以下となっている。
【0010】
[3] クラッド部に用いる工具鋼として、JIS−G4401により定義される炭素工具鋼鋼材、またはJIS−G4403により定義される高速度工具鋼鋼材、またはJIS−G4404により定義される合金工具鋼鋼材を用いる[1]に記載する棒鋼。
JIS−G4401により定義される炭素工具鋼鋼材としては、SK140−SK60があり、その元素組成は、C:0.55〜1.50%以下、Si:0.10〜0.35%以下、Mn:0.10〜0.50%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.30%以下、Cu:0.25%以下となっている。
【0011】
JIS−G4403により定義される高速度工具鋼鋼材としては、SKH2−SKH10(タングステン系高速度工具鋼)があり、その元素組成は、C:0.73〜1.60%以下、Si:0.45%以下、Mn:0.45%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:3.80〜4.50%以下、W:11.50〜18.70%以下、V:1.00〜5.20%以下、Cu:0.25%以下となっている。
JIS−G4403により定義される第2の高速度工具鋼鋼材としては、SKH40、SKH55−SKH59(モリブデン系高速度工具鋼)があり、その元素組成は、C:0.77〜1.35%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.45%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:3.50〜4.50%以下、Mo:3.20〜10.00%以下、W:1.40〜10.00%以下、V:0.90〜3.50%以下、Co:4.50〜10.50%以下、Cu:0.25%以下、Mo+W:10.6〜13.90%以下となっている。
JIS−G4403により定義される第3の高速度工具鋼鋼材としては、SKH50−SKH54(モリブデン系高速度工具鋼)があり、その元素組成は、C:0.77〜1.40%以下、Si:0.45%以下、Mn:0.45%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:3.50〜4.50%以下、Mo:4.70〜9.00%以下、W:1.40〜6.70%以下、V:1.00〜4.20%以下、Cu:0.25%以下、Mo+W:9.40〜11.00%以下となっている。
【0012】
JIS−G4404により定義される第1の合金工具鋼鋼材としては、SKS(切削工具鋼用)があり、その元素組成は、C:0.75〜1.50%以下、Si:0.35%以下、Mn:0.50%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ni:2.00%以下、Cr:0.20〜1.50%以下、W:4.00%以下、V:0.30%以下、Cu:0.25%以下となっている。
JIS−G4404により定義される第2の合金工具鋼鋼材としては、SKS(耐衝撃工具鋼用)があり、その元素組成は、C:0.45〜1.10%以下、Si:0.35%以下、Mn:0.50%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50%以下、W:3.50%以下、V:0.25%以下、Cu:0.25%以下、Ni:0.25%以下となっている。
JIS−G4404により定義される第3の合金工具鋼鋼材としては、SKS(冷間金型用)があり、その元素組成は、C:0.80〜1.10%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.80〜1.20%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.20〜1.20%以下、W:1.50%以下となっている。
【0013】
JIS−G4404により定義される第4の合金工具鋼鋼材としては、SKD(クロム系冷間金型用)があり、その元素組成は、C:1.40〜2.30%以下、Si:0.60%以下、Mn:0.60%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:11.00〜13.00%以下、Mo:0.70〜1.20%以下、W:0.80%以下、V:1.00%以下となっている。
JIS−G4404により定義される第5の合金工具鋼鋼材としては、SKD(タングステン系熱間金型用)があり、その元素組成は、C:0.25〜0.45%以下、Si:1.20%以下、Mn:0.60%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:2.00〜5.50%以下、W:5.00〜9.50%以下、V:0.30〜0.50%以下となっている。
JIS−G4404により定義される第6の合金工具鋼鋼材としては、SKD(モリブデン系熱間金型用)があり、その元素組成は、C:0.25〜0.45%以下、Si:1.20%以下、Mn:0.60%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:2.70〜5.50%以下、Mo:1.00〜3.00%以下、V:0.2〜1.15%以下となっている。
JIS−G4404により定義される第7の合金工具鋼鋼材としては、SKT(ニッケル系熱間金型用)があり、その元素組成は、C:0.40〜0.60%以下、Si:0.40%以下、Mn:0.20〜1.00%以下、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Ni:0.25〜4.30%以下、Cr:0.90〜1.50%以下、Mo:0.15〜0.55%以下となっている。
【0014】
[4] コア部に軟鋼を有し、クラッド部に工具鋼を有するコアクラッド構造を持つように組み立てられたコアクラッド鋼用前駆体に対して、溝ロール圧延加工などによる塑性加工を施してコア部とクラッド部を一体化した、[1]に記載する棒鋼。
[5] [1]に記載する棒鋼を得るために、コア部に軟鋼を有し、クラッド部に工具鋼を有するコアクラッド構造を持つように組み立てられたコアクラッド鋼用前駆体。
【0015】
[6] 軸芯部に装着される軟鋼丸棒と、この軸芯部の周縁部に装着される工具鋼円管と、を有する軟芯材を準備し、
工具鋼のオーステナイト域の再結晶温度又は軟鋼のオーステナイト域の再結晶温度の何れか高い方の再結晶温度よりも高い温度に加熱して、減面率が50%以上の熱間加工を実施し、
熱間加工後に、水冷又は空冷を施し、
工具鋼のフェライト域の再結晶温度又は軟鋼のフェライト域の再結晶温度の何れか低い方の再結晶温度よりも低い温度(例えば300℃から850℃)に加熱して、減面率が50%以上の温間加工を実施して得られることを特徴とする高靭性を有する鋼材の製造方法。
[7] 前記熱間加工及び温間加工は、溝ロール圧延加工であることを特徴とする[6]記載の高靭性を有する鋼材の製造方法。
[8] 前記熱間加工の温度は900℃以上1200℃以下の範囲であり、
前記熱間加工の温度は300℃以上850℃以下の範囲であることを特徴とする[6]又は[7]記載の高靭性を有する鋼材の製造方法。