特開2018-204489(P2018-204489A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-204489(P2018-204489A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20181130BHJP
【FI】
   F04C18/02 311V
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-109093(P2017-109093)
(22)【出願日】2017年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 康夫
(72)【発明者】
【氏名】中井 亮太
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB12
3H039BB15
3H039BB28
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC05
3H039CC35
(57)【要約】
【課題】円弧部の熱膨張が発生しても圧縮性能の低下を抑制する。
【解決手段】固定スクロールラップ52は、渦巻状の固定渦巻部57と、円弧の形状を有する固定円弧部58とを含む。可動スクロールラップ62は、渦巻状の可動渦巻部67と、円弧の形状を有する可動円弧部68とを含む。円弧部側面隙間GAは、固定円弧部58と、可動渦巻部67または可動円弧部68と、によって形成されるか、または、可動円弧部68と、固定渦巻部57または固定円弧部58と、によって形成される。渦巻部側面隙間GIは、固定渦巻部57と、可動渦巻部67と、によって形成される。円弧部側面隙間GAは渦巻部側面隙間GIよりも大きい。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールラップ(52)を有する固定スクロール(50)と、
可動スクロールラップ(62)を有する可動スクロール(60)と、
を備え、
前記固定スクロールラップ(52)は、
渦巻状の固定渦巻部(57)と、
前記固定渦巻部よりも小さな曲率半径の円弧の形状を有する固定円弧部(58)と、
を含み、
前記可動スクロールラップ(62)は、
渦巻状の可動渦巻部(67)と、
前記可動渦巻部よりも小さな曲率半径の円弧の形状を有する可動円弧部(68)と、
を含み、
円弧部側面隙間(GA)は、
前記固定円弧部(58)と、前記可動渦巻部(67)または前記可動円弧部(68)と、によって形成されるか、または、
前記可動円弧部(68)と、前記固定渦巻部(57)または前記固定円弧部(58)と、によって形成され、
渦巻部側面隙間(GI)は、
前記固定渦巻部(57)と、前記可動渦巻部(67)と、によって形成され、
前記円弧部側面隙間(GA)は前記渦巻部側面隙間(GI)よりも大きい、
スクロール圧縮機(10)。
【請求項2】
前記円弧部側面隙間(GA)の前記渦巻部側面隙間(GI)に対する比率(GA/GI)は1.2以上である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記固定円弧部の厚み(TAF)の前記固定渦巻部の厚み(TIF)に対する比率(TAF/TIF)、および、前記可動円弧部の厚み(TAM)の前記可動渦巻部の厚み(TIM)に対する比率(TAM/TIM)の少なくとも一方は1.2以上である、
請求項1または請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記渦巻部側面隙間(GI)は、
前記固定スクロールラップの内線(53)と、前記可動スクロールラップの外線(64)と、によって形成されるA室側面隙間、および、
前記固定スクロールラップの外線(54)と、前記可動スクロールラップの内線(63)と、によって形成されるB室側面隙間、
のうちの大きい方である、
請求項1から3のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記固定スクロールが、さらに、前記固定円弧部とは反対側の端部において前記固定渦巻部に隣接する固定緩み部(59)を有するか、または、
前記可動スクロールが、さらに、前記可動円弧部とは反対側の端部において前記可動渦巻部に隣接する可動緩み部(69)を有しており、
緩み部側面隙間(GL)は、前記固定緩み部(59)と、前記可動渦巻部(67)または前記可動緩み部(69)と、によって形成されるか、または、前記可動緩み部(69)と、前記固定渦巻部(57)または前記固定緩み部(59)と、によって形成され、
前記緩み部側面隙間(GL)は前記渦巻部側面隙間(GI)よりも大きい、
請求項1から4のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
R410A冷媒よりも吐出温度が高い冷媒を圧縮するように構成された、
請求項1から5のいずれか1つに記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機では、渦巻状のスクロールラップを有する固定スクロールおよび可動スクロールが複数のシールポイントにおいて接触することによって圧縮室が形成される。スクロールは各部が異なる圧力の流体に接触しているので、差圧に起因して変形することがある。このような変形が生じても動作異常が発生しないように、特許文献1(特開2015−71947号公報)が開示するスクロール圧縮機では、可動スクロールラップと固定スクロールラップの側面隙間の寸法を調節して、変形分を側面隙間に吸収させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スクロールラップには、圧縮比を向上させる目的で、中心部分の形状を渦巻状の曲線に代えて円弧にしているものがある。しかし、このような円弧部が熱膨張を起こすことによって円弧部のシールポイントの位置がずれると、その影響は渦巻部などのスクロールラップ全体におよび、複数のシールポイントの位置がずれる。これは、冷媒漏洩の発生を引き起こし、圧縮性能を低下させる原因となる。高温になりうる種類の冷媒を使用する際には円弧部の熱膨張はより大きくなるので、圧縮性能はさらに低下するおそれがある。
【0004】
本発明の課題は、円弧部の熱膨張が発生しても圧縮性能の低下が抑制されるスクロール圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1観点に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールラップを有する固定スクロールと、可動スクロールラップを有する可動スクロールと、を備える。固定スクロールラップは、渦巻状の固定渦巻部と、固定渦巻部よりも小さな曲率半径の円弧の形状を有する固定円弧部と、を含む。可動スクロールラップは、渦巻状の可動渦巻部と、可動渦巻部よりも小さな曲率半径の円弧の形状を有する可動円弧部と、を含む。円弧部側面隙間は、固定円弧部と、可動渦巻部または可動円弧部と、によって形成されるか、または、可動円弧部と、固定渦巻部または固定円弧部と、によって形成される。渦巻部側面隙間は、固定渦巻部と、可動渦巻部と、によって形成される。円弧部側面隙間は渦巻部側面隙間よりも大きい。
【0006】
この構成によれば、円弧部側面隙間は渦巻部側面隙間よりも大きい。したがって、スクロール全体に影響を与えるおそれのある円弧部の変形を円弧部側面隙間が吸収するので、スクロールラップの位置ずれが抑制でき、ひいては圧縮性能の低下が抑制される。
【0007】
本発明の第2観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点に係るスクロール圧縮機において、円弧部側面隙間の渦巻部側面隙間に対する比率が1.2以上である。
【0008】
この構成によれば、円弧部側面隙間は渦巻部側面隙間の1.2倍以上である。したがって、円弧部側面隙間は20%の差分によって円弧部のより多くの変形を吸収することができ、スクロールラップの位置ずれがより確実に抑制される。
【0009】
本発明の第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点または第2観点に係るスクロール圧縮機において、固定円弧部の厚みの固定渦巻部の厚みに対する比率、および、可動円弧部の厚みの可動渦巻部の厚みに対する比率の少なくとも一方が1.2以上である。
【0010】
この構成によれば、円弧部の厚みは渦巻部の厚みの1.2倍以上である。厚い円弧部は、熱膨張による厚み増加分が渦巻部よりも大きい。したがって、この厚み増加分を大きな円弧部側面隙間によって吸収することができるので、スクロールラップの位置ずれがより確実に抑制される。
【0011】
本発明の第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、渦巻部側面隙間が、A室側面隙間、およびB室側面隙間、のうちの大きい方である。A室側面隙間は、固定スクロールラップの内線と、可動スクロールラップの外線と、によって形成される。B室側面隙間は、固定スクロールラップの外線と、可動スクロールラップの内線と、によって形成される。
【0012】
この構成によれば、渦巻部側面隙間の寸法はA室側面隙間とB室側面隙間の大きい方として定められる。したがって、A室側側面隙間とB室側側面隙間の寸法に差異がある構成において、渦巻部側面隙間の寸法をスクロールラップのどの部位から得るべきかを判断できる。
【0013】
本発明の第5観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、固定スクロールが、さらに、固定円弧部とは反対側の端部において固定渦巻部に隣接する固定緩み部を有するか、または、可動スクロールが、さらに、可動円弧部とは反対側の端部において可動渦巻部に隣接する可動緩み部を有している。緩み部側面隙間は、固定緩み部と、可動渦巻部または可動緩み部と、によって形成されるか、または、可動緩み部と、固定渦巻部または固定緩み部と、によって形成される。緩み部側面隙間は渦巻部側面隙間よりも大きい。
【0014】
この構成によれば、緩み部側面隙間GLは渦巻部側面隙間GIよりも大きい。したがって、固定緩み部または可動緩み部においてスクロールラップ間の押圧力が減少するので、スクロールラップの強度が向上する。
【0015】
本発明の第6観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機において、R410A冷媒よりも吐出温度が高い冷媒を圧縮するように構成されている。
【0016】
この構成によれば、スクロール圧縮機は高温の冷媒を扱う。高温の冷媒によって、円弧部はより大きく熱膨張する。熱膨張による厚み増加分は、大きな円弧部側面隙間に吸収される。したがって、スクロールの位置ずれがさらに確実に抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明係るスクロール圧縮機によれば、スクロールラップの位置ずれが抑制でき、ひいては圧縮性能の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機10の断面図である。
図2】圧縮機構40の固定スクロール50の断面図である。
図3】圧縮機構40の可動スクロール60の断面図である。
図4】圧縮機構40の水平面に沿った断面図である。
図5】圧縮機構40の水平面に沿った断面図である。
図6図5のVI−VI線に沿った断面を示す模式図である。
図7図5のVII−VII線に沿った断面を示す模式図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機10の圧縮機構40Aの水平面に沿った断面図である。
図9図8のIX−IX線に沿った断面を示す模式図である。
図10図9において可動スクロール60が移動した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1は本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機10を示す。スクロール圧縮機10は、流体である冷媒を圧縮するために空気調和装置などに搭載されるものである。スクロール圧縮機10は、ケーシング20、モータ30、クランク軸35、圧縮機構40、フレーム部材70、75を有する。
【0020】
スクロール圧縮機10の圧縮対象の冷媒は、例えば、圧縮機構40の固定スクロール50や可動スクロール60の周辺が、比較的、高温高圧になりやすい冷媒である。言い換えれば、スクロール圧縮機10の圧縮対象の冷媒は、凝縮圧力が比較的高い冷媒である。具体的には、スクロール圧縮機10の圧縮対象の冷媒は、例えば、R32(R32単体)、R32を50%以上含む混合冷媒(例えば、R410A、R452B、R454B等)、R1123とR32との混合冷媒等である。なお、ここでのスクロール圧縮機10の圧縮対象の冷媒は、特に、R32や、R1123とR32との混合冷媒等、R410Aよりも凝縮圧力が高い冷媒である。ただし、スクロール圧縮機10の圧縮対象の冷媒は、上記冷媒に限定されるものではない。
【0021】
スクロール圧縮機10においては、例えば、冷媒はR410A冷媒よりも吐出温度が高い冷媒を圧縮するように構成されている。
【0022】
(2)詳細構成
(2−1)ケーシング20
ケーシング20は、スクロール圧縮機10の各種構成要素および冷媒を収容する。ケーシング20は、冷媒の高い圧力に耐えることができる。ケーシング20は、互いに接合された本体部21、上部22、下部23を有する。上部22には低圧ガス冷媒を吸入するための吸入管15が設けられている。本体部21には高圧ガス冷媒を吐出するための吐出管16が設けられている。ケーシング20の下部23には、各種構成要素において摺動する箇所を潤滑するための潤滑油Lが封入されている。
【0023】
(2−2)モータ30
モータ30は、電力の供給を受けて、冷媒を圧縮する動力を生み出すためのものである。モータ30は、ステータ31およびロータ32を有する。ステータ31はケーシング20の本体部21に固定されている。ステータ31は図示しない巻線を有している。巻線は電力を受け取って交流磁界を発生させる。ロータ32はステータ31の中央の空洞内に回転可能に設置されている。ロータ32には図示しない永久磁石が埋設されている。永久磁石が交流磁界から力を受けることにより、ロータ32は回転し、動力を生み出す。
【0024】
(2−3)クランク軸35
クランク軸35は、モータ30が生み出す動力を圧縮機構40に伝達するためのものである。クランク軸35は、主軸部36と偏心部37を有する。主軸部36は、ロータ32を貫通するように固定されており、ロータ32と同心である。偏心部37は、ロータ32に対して偏心しており、圧縮機構40に接続されている。
【0025】
(2−4)圧縮機構40
圧縮機構40は、低圧ガス冷媒を圧縮して高圧ガス冷媒を作るためのものである。圧縮機構40は、固定スクロール50および可動スクロール60を有する。固定スクロール50は、直接的または間接的にケーシング20に固定されている。可動スクロール60は、クランク軸35の偏心部37と接続されており、固定スクロール50に対して公転可能である。固定スクロール50と可動スクロール60は圧縮室41を規定している。可動スクロール60の公転により、圧縮室41の容積が変化し、それによって低圧ガス冷媒が圧縮されて高圧ガス冷媒になる。高圧ガス冷媒は吐出口42から圧縮機構40の外へ吐出される。
【0026】
(2−5)フレーム部材70、75
フレーム部材70、75は、クランク軸35を回転可能に支持する。一方のフレーム部材70は主軸部36の上方を支持する。他方のフレーム部材75は主軸部36の下方を支持する。フレーム部材70、75は、直接的または間接的にケーシング20に固定されている。
【0027】
(3)スクロール圧縮機10の動作
外部から供給された電力により、図1に示すモータ30のロータ32が回転する。ロータ32の回転はクランク軸35の主軸部36に伝達される。クランク軸35の偏心部37から伝達される動力により、可動スクロール60は固定スクロール50に対して公転する。吸入管15から取り込まれた低圧ガス冷媒は、圧縮機構40の外周側の圧縮室41に入る。圧縮室41は可動スクロール60の公転によって、容積を減少させながら圧縮機構40の中央へ移動する。その過程で低圧ガス冷媒は圧縮されて高圧ガス冷媒になる。高圧ガス冷媒は、吐出口42から圧縮機構40の外へ吐出され、ケーシング内部空間へ移動する。その後、高圧ガス冷媒は吐出管16からケーシング20の外へ吐出される。
【0028】
(4)圧縮機構40の詳細構成
図2は、固定スクロール50を示す。固定スクロール50は、固定スクロール鏡板51と、固定スクロール鏡板51に立設された固定スクロールラップ52とを有する。
【0029】
図3は、可動スクロール60を示す。可動スクロール60は、可動スクロール鏡板61と、可動スクロール鏡板61に立設された可動スクロールラップ62とを有する。
【0030】
図4は、圧縮機構40の水平面における断面図である。固定スクロールラップ52と可動スクロールラップ62は複数の箇所において相互に近接している。これらの近接箇所は潤滑油Lによって塞がれるなどによりシールポイントSP(図5)を形成する。これにより、互いに隔離された複数の圧縮室41(図4)が規定されている。固定スクロールラップ52は、中央側の辺である固定スクロールラップ内線53と、外周側の辺である固定スクロールラップ外線54とを有する。可動スクロールラップ62は、中央側の辺である可動スクロールラップ内線63と、外周側の辺である可動スクロールラップ外線64とを有する。図4に示す複数の圧縮室41のうち、固定スクロールラップ内線53と可動スクロールラップ外線64とによって形成されるものをA室41aと呼ぶ。固定スクロールラップ外線54と可動スクロールラップ内線63とによって形成されるものをB室41bと呼ぶ。
【0031】
図5は、図4の中央部を拡大したものである。固定スクロールラップ52は、その長さの大半を占める固定渦巻部57と、圧縮機構40の中央部に位置する一端を構成する固定円弧部58とを有する。固定渦巻部57は渦巻状であり、例えばインボリュート曲線の形状を有する。あるいは、固定渦巻部57の形状は代数螺旋渦巻であってもよい。固定円弧部58は円弧の形状を有する。固定円弧部58は固定渦巻部57よりも小さな曲率半径を有する。固定渦巻部57は厚みTIFを有する。固定円弧部58は厚みTAFを有する。
【0032】
同様に、可動スクロールラップ62は、その長さの大半を占める可動渦巻部67と、圧縮機構40の中央部に位置する一端を構成する可動円弧部68とを有する。可動渦巻部67は渦巻状であり、例えばインボリュート曲線の形状を有する。あるいは、可動渦巻部67の形状は代数螺旋渦巻であってもよい。可動円弧部68は円弧の形状を有する。可動円弧部68は可動渦巻部67よりも小さな曲率半径を有する。可動渦巻部67は厚みTIMを有する。可動円弧部68は厚みTAMを有する。
【0033】
固定円弧部58および可動円弧部68は、固定渦巻部57および可動渦巻部67よりも小さな曲率半径を有するので、圧縮比の向上に寄与する。
【0034】
図6は圧縮機構40の断面を示す。図示されている固定スクロールラップ52は固定渦巻部57のみである。図示されている可動スクロールラップ62は可動渦巻部67のみである。本図は、可動スクロールラップ内線63が固定スクロールラップ外線54に最も近接したときを示している。近接箇所にはシールポイントSPが形成される。固定渦巻部57と可動渦巻部67が最も近接したときの両者の間隙を渦巻部側面隙間GIという。ここで、固定スクロールラップ内線53と可動スクロールラップ外線64とによって形成される間隙をA室側面隙間と呼び、固定スクロールラップ外線54と可動スクロールラップ内線63とによって形成される間隙をB室側面隙間と呼ぶ。そして、A室側面隙間とB室側面隙間のうちの大きい方が渦巻部側面隙間GIとして定められる。図6に図示されている渦巻部側面隙間GIは、B室側面隙間である。
【0035】
図7は圧縮機構40の中央部の断面を示す。図示されている固定スクロールラップ52は固定円弧部58である。図示されている可動スクロールラップ62は可動渦巻部67である。本図は、可動渦巻部67が固定円弧部58に最も近接したときを示している。近接箇所には間隙が生じ、その間隙に潤滑油Lが入るなどによりシールポイントSPが形成される。可動渦巻部67と固定円弧部58によって形成される間隙、固定渦巻部57と可動円弧部68によって形成される間隙、および、固定円弧部58と可動円弧部68によって形成される間隙のうちの、最も小さなものが円弧部側面隙間GAとして定められる。
【0036】
本実施形態に係るスクロール圧縮機10の圧縮機構40では、寸法が以下のように設定されている。
【0037】
円弧部側面隙間GAは渦巻部側面隙間GIよりも大きく設定されている。具体的には、円弧部側面隙間GAの渦巻部側面隙間GIに対する比率(GA/GI)は1.2以上である。さらに、円弧部側面隙間GAの渦巻部側面隙間GIに対する比率(GA/GI)は10以下に設定してもよく、好ましくは5以下である。
【0038】
固定円弧部58の厚みTAFの固定渦巻部57の厚みTIFに対する比率(TAF/TIF)は、1.2以上である。これに代えて、可動円弧部68の厚みTAMの可動渦巻部67の厚みTIMに対する比率(TAM/TIM)が、1.2以上であってもよい。あるいは、それらの両方の比率が1.2以上であってもよい。
【0039】
(5)特徴
(5−1)
円弧部側面隙間GAが渦巻部側面隙間GIよりも大きい。したがって、固定スクロール50および可動スクロール60の全体に影響を与えるおそれのある固定円弧部58または可動円弧部68の変形を円弧部側面隙間GAが吸収するので、固定スクロールラップ52および可動スクロールラップ62の位置ずれが抑制でき、ひいては圧縮性能の低下が抑制される。
【0040】
(5−2)
円弧部側面隙間GAは渦巻部側面隙間GIの1.2倍以上である。したがって、円弧部側面隙間GAは20%の差分によって固定円弧部58または可動円弧部68のより多くの変形を吸収することができ、固定スクロールラップ52および可動スクロールラップ62の位置ずれがより確実に抑制される。
【0041】
(5−3)
固定円弧部58の厚みTAFの固定渦巻部57の厚みTIFに対する比率(TAF/TIF)、または、可動円弧部68の厚みTAMの可動渦巻部67の厚みTIMに対する比率(TAM/TIM)が1.2以上である。固定円弧部58または可動円弧部68は厚いので、熱膨張による厚み増加分が固定渦巻部57または可動渦巻部67よりも大きい。したがって、この厚み増加分を大きな円弧部側面隙間GAによって吸収することができるので、固定スクロールラップ52および可動スクロールラップ62の位置ずれがより確実に抑制される。
【0042】
(5−4)
渦巻部側面隙間GIの寸法はA室側面隙間とB室側面隙間の大きい方として定められる。したがって、A室側側面隙間とB室側側面隙間の寸法に差異がある構成において、渦巻部側面隙間GIの寸法をスクロールラップのどの部位から得るべきかを判断できる。
【0043】
(5−5)
スクロール圧縮機10はR32冷媒など、吐出温度が高温となりうる冷媒を扱う。高温の冷媒によって、固定円弧部58または可動円弧部68はより大きく熱膨張する。熱膨張による厚み増加分は、大きな円弧部側面隙間GAに吸収される。したがって、固定スクロールラップ52および可動スクロールラップ62の位置ずれがさらに確実に抑制される。
【0044】
(6)変形例
以下に本実施形態の変形例を示す。なお、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0045】
(6−1)変形例1A
上述の実施形態では、渦巻部側面隙間GIは、A室側面隙間とB室側面隙間のうちの大きい方によって規定されている。これに代えて、渦巻部側面隙間GIは、A室側面隙間とB室側面隙間のうちの小さい方によって規定されてもよい。あるいは、渦巻部側面隙間GIはA室側面隙間によって規定されてもよい。あるいは、渦巻部側面隙間GIはB室側面隙間によって規定されてもよい。
【0046】
この構成によれば、円弧部の熱膨張が発生しても圧縮性能の低下が抑制されるという効果を得ながら、設計上の制約条件を変更することができる。
【0047】
(6−2)変形例1B
上述の実施形態では、円弧部側面隙間GAは、可動渦巻部67と固定円弧部58によって形成される間隙、固定渦巻部57と可動円弧部68によって形成される間隙、および、固定円弧部58と可動円弧部68によって形成される間隙のうちの、最も小さなものによって規定されている。これに代えて、円弧部側面隙間GAは、これら3種類の間隙の最も大きなものによって規定されてもよい。あるいは、円弧部側面隙間GAは、これらの3種類の間隙から選択されたいずれか1つによって常に規定されてもよい。
【0048】
この構成によれば、円弧部の熱膨張が発生しても圧縮性能の低下が抑制されるという効果を得ながら、設計上の制約条件を変更することができる。
【0049】
<第2実施形態>
(1)全体構成
図8は、本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機10の圧縮機構40Aの水平面に沿った断面図である。圧縮機構40Aは、固定スクロールラップ52が固定緩み部59を有し、可動スクロールラップ62が可動緩み部69を有する点において、第1実施形態に係る圧縮機構40とは異なっている。固定緩み部59および可動緩み部69は、固定円弧部58および可動円弧部68と同様に渦巻状であるが、後述するように、大きな側面隙間を形成するように寸法が設計されている。
【0050】
固定緩み部59は、固定スクロールラップ52において、固定円弧部58がある端部とは反対側の端部に位置する。換言すれば、固定スクロールラップ52の中心側の端部には固定円弧部58が設けられ、固定スクロールラップ52の周縁側の端部には固定緩み部59が設けられる。固定緩み部59は固定渦巻部57に隣接している。
【0051】
可動緩み部69は、可動スクロールラップ62において、可動円弧部68がある端部とは反対側の端部に位置する。換言すれば、可動スクロールラップ62の中心側の端部には可動円弧部68が設けられ、可動スクロールラップ62の周縁側の端部には可動緩み部69が設けられる。可動緩み部69は可動渦巻部67に隣接している。
【0052】
固定緩み部59および可動緩み部69が設けられる範囲は、例えば各スクロールラップの1周分以下であり、半周程度であってよい。固定緩み部59および可動緩み部69の中心線または輪郭の形状はインボリュート曲線であってもよいし、それ以外の曲線等であってもよい。
【0053】
図9は圧縮機構40Aの断面を示す。図示されている固定スクロールラップ52は固定渦巻部57のみである。図示されている可動スクロールラップ62は可動渦巻部67と可動緩み部69である。本図は、可動スクロールラップ内線63が固定スクロールラップ外線54に最も近接したときを示している。第1実施形態と同様に、固定渦巻部57と可動渦巻部67が最も近接したときの両者の間隙を渦巻部側面隙間GIという。A室側面隙間とB室側面隙間のうちの大きい方が渦巻部側面隙間GIとして定められる。図9に図示されている渦巻部側面隙間GIは、B室側面隙間である。
【0054】
図10は、可動スクロールラップ外線64が固定スクロールラップ内線53に最も近接したときを示している。本図には、固定スクロールラップ52として、固定渦巻部57のみならず、固定緩み部59も示されている。可動渦巻部67と固定緩み部59によって形成される間隙、固定渦巻部57と可動緩み部69によって形成される間隙、および、固定緩み部59と可動緩み部69によって形成される間隙のうちの、最も小さなものが緩み部側面隙間GLとして定められる。本図の緩み部側面隙間GLは、固定スクロールラップ内線53と可動スクロールラップ外線64とによって形成される間隙であるので、A室側面隙間である。
【0055】
第2実施形態に係るスクロール圧縮機10の圧縮機構40Aでは、寸法が以下のように設定されている。
【0056】
緩み部側面隙間GLは渦巻部側面隙間GIよりも大きく設定されている。具体的には、緩み部側面隙間GLの渦巻部側面隙間GIに対する比率(GL/GI)は1.2以上である。さらに、緩み部側面隙間GLの渦巻部側面隙間GIに対する比率(GL/GI)は10以下に設定してもよく、好ましくは5以下である。
【0057】
(2)特徴
緩み部側面隙間GLは渦巻部側面隙間GIよりも大きい。したがって、固定緩み部59または可動緩み部69においてスクロールラップ間の押圧力が減少するので、スクロールラップの強度が向上する。
【0058】
(3)変形例
(3−1)変形例2A
第2実施形態では、緩み部側面隙間GLは、可動渦巻部67と固定緩み部59によって形成される間隙、固定渦巻部57と可動緩み部69によって形成される間隙、および、固定緩み部59と可動緩み部69によって形成される間隙のうちの最も小さなものによって規定される。これに代えて、緩み部側面隙間GLは、これら3種類の間隙の最も大きなものによって規定されてもよい。あるいは、緩み部側面隙間GLは、これらの3種類の間隙から選択されたいずれか1つによって常に規定されてもよい。
【0059】
この構成によれば、緩み部の熱膨張が発生しても圧縮性能の低下が抑制されるという効果を得ながら、設計上の制約条件を変更することができる。
【0060】
(3−2)変形例2B
第2実施形態では、固定スクロールラップ52が固定緩み部59を有し、可動スクロールラップ62が可動緩み部69を有する。これに代えて、固定緩み部59および可動緩み部59のどちらか一方のみが形成されていてもよい。
【0061】
(3−3)その他
第1実施形態の変形例を第2実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 スクロール圧縮機
20 ケーシング
30 モータ
40 圧縮機構
50 固定スクロール
51 固定スクロール鏡板
52 固定スクロールラップ
53 固定スクロールラップ内線
54 固定スクロールラップ外線
57 固定渦巻部
58 固定円弧部
59 固定緩み部
60 可動スクロール
61 可動スクロール鏡板
62 可動スクロールラップ
63 可動スクロールラップ内線
64 可動スクロールラップ外線
67 可動渦巻部
68 可動円弧部
69 可動緩み部
GA 円弧部側面隙間
GI 渦巻部側面隙間
GL 緩み部側面隙間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特開2015−71947号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10