特開2018-204589(P2018-204589A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000003
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000004
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000005
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000006
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000007
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000008
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000009
  • 特開2018204589-回転式圧縮機 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-204589(P2018-204589A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】回転式圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/02 20060101AFI20181130BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20181130BHJP
   F04C 28/24 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   F04C29/02 321A
   F04C18/02 311Y
   F04C29/02 B
   F04C28/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-114129(P2017-114129)
(22)【出願日】2017年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西出 洋平
【テーマコード(参考)】
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB11
3H039CC27
3H039CC30
3H039CC40
3H129AA02
3H129AA14
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB06
3H129CC02
3H129CC12
3H129CC22
3H129CC33
3H129CC52
3H129CC82
(57)【要約】
【課題】低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とをシンプルな構成で両立させる。
【解決手段】圧縮機構(30)は、圧縮機構(30)が一回転する毎に、圧縮行程中の圧縮室(41)の圧力が周期的に変動する。弁機構(80)は、周期的に変動する圧縮室(41)の圧力が作用することよって往復運動を行うと共に、圧縮室(41)の圧力の変動周期が短くなるにつれて往復運動のストロークが短くなる弁体(81)を備えている。弁機構(80)は、弁体(81)のストロークが短くなるにつれて弁機構(80)を通過する油の流量が減るように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に圧縮室(41)が形成されて回転駆動されることで該圧縮室(41)内の流体を圧縮する圧縮機構(30)と、
上記圧縮機構(30)を収容して底部に油を貯留するケーシング(11)と、
上記ケーシング(11)の底部の油を上記圧縮室(41)に導くための給油路(45,61〜65)と、
上記給油路(45,61〜65)の途中に設けられて油の流量を調節する弁機構(80)とを備え、
上記圧縮機構(30)は、該圧縮機構(30)が一回転する毎に、圧縮行程中の上記圧縮室(41)の圧力が周期的に変動し、
上記弁機構(80)は、
周期的に変動する上記圧縮室(41)の圧力が作用することよって往復運動を行うと共に、上記圧縮室(41)の圧力の変動周期が短くなるにつれて上記往復運動のストロークが短くなる弁体(81)を備え、
上記弁体(81)の上記ストロークが短くなるにつれて上記弁機構(80)を通過する油の流量が減るように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記弁機構(80)は、上記弁体(81)を収容する弁体室(93)と、圧縮行程中の上記圧縮室(41)と上記弁体室(93)とを連通させる変動圧力通路(100)とを有する
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記ケーシング(11)内には、圧力が上記圧縮機構(30)の吸入圧力よりも高くて該圧縮機構(30)の吐出圧力よりも低い中間圧力となる中間圧力空間(55a,55b)が形成され、
上記弁機構(80)は、上記中間圧力空間(55a,55b)と上記弁体室(93)とを連通させる中間圧力通路(99)を有し、
上記弁体(81)は、上記往復運動の一端側に位置して圧縮行程中の上記圧縮室(41)の圧力が作用する変動圧力受面(87)と、上記往復運動の他端側に位置して上記中間圧力を受ける中間圧力受面(86)とを有する
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記ケーシング(11)内には、圧力が上記圧縮機構(30)の吸入圧力となる吸入圧力空間(36)が形成され、
上記弁機構(80)は、上記吸入圧力空間(36)と上記弁体室(93)とを連通させる吸入圧力通路(98)を有し、
上記弁体(81)は、上記往復運動の他端側に位置して上記吸入圧力を受ける吸入圧力受面(85)を有する
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、
上記給油路(45,61〜65)は、上記弁体室(93)に油を導入するための導入路(45,61〜64)と、該弁体室(93)の油を導出して上記圧縮室(41)に導くための導出路(65)とを有し、
上記弁体(81)は、内部に油が流通可能な弁体内油路(88)が形成されており、
上記弁機構(80)は、
上記往復運動のストロークが所定値(Th)よりも大きい場合には、上記導入路(45,61〜64)の流出口と上記弁体内油路(88)の流入口とが重なり合いかつ該弁体内油路(88)と上記導出路(65)とを連通させる一方、
上記往復運動のストロークが上記所定値(Th)以下である場合には、上記導入路(45,61〜64)の流出口と上記弁体内油路(88)の流入口とが重ならないように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、
上記弁体内油路(88)と上記導出路(65)とは、常に互いに連通し、
上記弁機構(80)は、上記導入路(45,61〜64)と上記弁体内油路(88)とを常に連通させる連通路(92)を有し、
上記連通路(92)の流路断面積は、上記導入路(45,61〜64)、上記弁体内油路(88)および上記導出路(65)のそれぞれの流路断面積よりも小さい
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項7】
請求項5または6において、
上記弁体室(93)は、上記弁体(81)の往復運動の方向に延びる細長い空間であり、
上記弁体(81)は、柱状に形成されて軸方向へ往復運動を行い、
上記導入路(45,61〜64)の流出口は、上記弁体(81)の側面と対向する上記弁体室(93)の側壁面に開口し、
上記弁体内油路(88)の流入口は、上記弁体(81)のうち上記導入路(45,61〜64)の流出口に対向する側面に開口している
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮室への給油量を調節する弁機構を備えた回転式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転駆動される圧縮機構と、この圧縮機構を収容して底部に油を貯留するケーシングと、圧縮機構の吸込側にケーシングの底部の油を導くための給油路とを備えた回転式圧縮機が知られている(例えば、特許文献1)。回転式圧縮機では、低速運転時には圧縮室からの冷媒の漏れを減らすために当該圧縮室への給油量を多くする一方、高速運転時には油の粘性抵抗による損失を減らすために圧縮室への給油量を少なくすることが行われる。これに関し、特許文献1の回転式圧縮機は、ケーシングの底部から圧縮機構の吸込側への給油量を調節するための給油量調整手段と、圧縮機構の回転速度を検出する回転速度検出手段と、圧縮機構の回転速度が高くなるほど圧縮機構の吸込側への給油量が減少するように給油量調整手段を制御する給油量制御部とを備えている。これにより、同文献の回転式圧縮機は、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とを両立させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/147145号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の回転式圧縮機は、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とを両立させることはできるものの、その両立のために給油量調整手段、回転数検出手段および給油量制御部といった複雑な構成を要する。構成が複雑になると、一般的には、コストは高くなって信頼性は低下する。このように、同文献の回転式圧縮機は、コスト面および信頼性の面において改良の余地があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とをシンプルな構成で両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、回転式圧縮機(10)を対象とする。この回転式圧縮機(10)は、内部に圧縮室(41)が形成されて回転駆動されることで該圧縮室(41)内の流体を圧縮する圧縮機構(30)と、上記圧縮機構(30)を収容して底部に油を貯留するケーシング(11)と、上記ケーシング(11)の底部の油を上記圧縮室(41)に導くための給油路(45,61〜65)と、上記給油路(45,61〜65)の途中に設けられて油の流量を調節する弁機構(80)とを備え、上記圧縮機構(30)は、該圧縮機構(30)が一回転する毎に、圧縮行程中の上記圧縮室(41)の圧力が周期的に変動し、上記弁機構(80)は、周期的に変動する上記圧縮室(41)の圧力が作用することよって往復運動を行うと共に、上記圧縮室(41)の圧力の変動周期が短くなるにつれて上記往復運動のストロークが短くなる弁体(81)を備え、上記弁体(81)の上記ストロークが短くなるにつれて上記弁機構(80)を通過する油の流量が減るように構成されている。
【0007】
上記第1の発明では、弁機構(80)の弁体(81)が、周期的に変動する圧縮室(41)の圧力を受けて往復運動を行う。この往復運動のストロークは、圧縮室(41)の圧力の変動周期が短くなるにつれて(すなわち、圧縮機構(30)の回転速度が高くなるにつれて)短くなる。そして、往復運動のストロークが短くなるにつれて、弁機構(80)が設けられた給油路(45,61〜65)を介してケーシング(11)の底部から圧縮室(41)へ導かれる油の流量が減る。
【0008】
以上より、第1の発明に係る回転式圧縮機(10)では、圧縮機構(30)の回転速度が高くなるにつれて圧縮室(41)への油の供給量が少なくなる。つまり、高速運転時における過剰給油が抑止される。またそれとは逆に、第1の発明に係る回転式圧縮機(10)では、圧縮機構(30)の回転速度が低くなるにつれて圧縮室(41)への油の供給量が多くなる。つまり、低速運転時において十分な給油量が確保される。このように、第1の発明では、センサや制御部などの複雑な構成要素を設けることなく、弁体(81)を有する弁機構(80)を設けるというシンプルな構成により、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とが両立され得る。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記弁機構(80)は、上記弁体(81)を収容する弁体室(93)と、圧縮行程中の上記圧縮室(41)と上記弁体室(93)とを連通させる変動圧力通路(100)とを有することを特徴とする。
【0010】
上記第2の発明では、弁体(81)は、変動圧力通路(100)を介して圧縮室(41)の変動圧力を受けることにより、弁体室(93)内で往復運動を行う。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記ケーシング(11)内には、圧力が上記圧縮機構(30)の吸入圧力よりも高くて該圧縮機構(30)の吐出圧力よりも低い中間圧力となる中間圧力空間(55a,55b)が形成され、上記弁機構(80)は、上記中間圧力空間(55a,55b)と上記弁体室(93)とを連通させる中間圧力通路(99)を有し、上記弁体(81)は、上記往復運動の一端側に位置して圧縮行程中の上記圧縮室(41)の圧力が作用する変動圧力受面(87)と、上記往復運動の他端側に位置して上記中間圧力を受ける中間圧力受面(86)とを有することを特徴とする。
【0012】
上記第3の発明では、弁体(81)は、変動圧力通路(100)を介して変動圧力受面(87)に作用する圧縮室(41)の変動圧力と、中間圧力通路(99)を介して中間圧力受面(86)に作用する中間圧力とを受けることによって、弁体室(93)内で往復運動を行う。具体的に、中間圧力は弁体(81)を往復運動の一端側に押すのに対して、変動圧力は弁体(81)を往復運動の他端側に押し、それにより弁体(81)が弁体室(93)内で往復運動を行う。
【0013】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記ケーシング(11)内には、圧力が上記圧縮機構(30)の吸入圧力となる吸入圧力空間(36)が形成され、上記弁機構(80)は、上記吸入圧力空間(36)と上記弁体室(93)とを連通させる吸入圧力通路(98)を有し、上記弁体(81)は、上記往復運動の他端側に位置して上記吸入圧力を受ける吸入圧力受面(85)を有することを特徴とする。
【0014】
上記第4の発明では、弁体(81)は、変動圧力通路(100)を介して変動圧力受面(87)に作用する圧縮室(41)の変動圧力と、中間圧力通路(99)を介して中間圧力受面(86)に作用する中間圧力と、吸入圧力通路(98)を介して弁体(81)に作用する吸入圧力とを受けることによって、弁体室(93)内で往復運動を行う。具体的に、中間圧力および吸入圧力は弁体(81)を往復運動の一端側に押すのに対して、変動圧力は弁体(81)を往復運動の他端側に押し、それにより弁体(81)が弁体室(93)内で往復運動を行う。
【0015】
第5の発明は、上記第2〜第4の発明のいずれか1つにおいて、上記給油路(45,61〜65)は、上記弁体室(93)に油を導入するための導入路(45,61〜64)と、該弁体室(93)の油を導出して上記圧縮室(41)に導くための導出路(65)とを有し、上記弁体(81)は、内部に油が流通可能な弁体内油路(88)が形成されており、上記弁機構(80)は、上記往復運動のストロークが所定値(Th)よりも大きい場合には、上記導入路(45,61〜64)の流出口と上記弁体内油路(88)の流入口とが重なり合いかつ該弁体内油路(88)と上記導出路(65)とを連通させる一方、上記往復運動のストロークが上記所定値(Th)以下である場合には、上記導入路(45,61〜64)の流出口と上記弁体内油路(88)の流入口とが重ならないように構成されていることを特徴とする。
【0016】
上記第5の発明では、圧縮機構(30)の回転速度が比較的低くなると、往復運動のストロークが所定値(Th)よりも大きくなり、導入路(45,61〜64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重なり合う。この場合には、導入路(45,61〜64)から弁体内油路(88)に比較的多量の油が流れることにより、導入路(45,61〜64)、弁体内油路(88)および導出路(65)の順に比較的多量の油が流れて圧縮室(41)への給油量が比較的多くなる。一方、圧縮機構(30)の回転速度が比較的高くなると、往復運動のストロークが所定値(Th)よりも小さくなり、導入路(45,61〜64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重ならない。この場合には、導入路(45,61〜64)から弁体内油路(88)に多量の油が流れることは実質的に抑止されて圧縮室(41)への給油量が比較的少なくなる。
【0017】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記弁体内油路(88)と上記導出路(65)とは、常に互いに連通し、上記弁機構(80)は、上記導入路(45,61〜64)と上記弁体内油路(88)とを常に連通させる連通路(92)を有し、上記連通路(92)の流路断面積は、上記導入路(45,61〜64)、上記弁体内油路(88)および上記導出路(65)のそれぞれの流路断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
上記第6の発明では、導入路(45,61〜64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重ならない高速運転時においても、導入路(45,61〜64)、連通路(92)、弁体内油路(88)、および導出路(65)の順に油が流れて圧縮室(41)へ供給される。これにより、高速運転時においても圧縮室(41)への最低限必要な量の給油が行われる。
【0019】
第7の発明は、上記第5または第6の発明において、上記弁体室(93)は、上記弁体(81)の往復運動の方向に延びる細長い空間であり、上記弁体(81)は、柱状に形成されて軸方向へ往復運動を行い、上記導入路(45,61〜64)の流出口は、上記弁体(81)の側面と対向する上記弁体室(93)の側壁面に開口し、上記弁体内油路(88)の流入口は、上記弁体(81)のうち上記導入路(45,61〜64)の流出口に対向する側面に開口していることを特徴とする。
【0020】
上記第7の発明では、弁体(81)の軸方向において行われる往復運動のストロークが所定値(Th)よりも大きい場合に、弁体室(93)の側壁面に開口する導入路(45,61〜64)の流出口と、弁体(81)の側面に開口する弁体内油路(88)の流入口とが重なり合って、それにより比較的多量の油が圧縮室(41)に供給される。
【発明の効果】
【0021】
上記第1〜第4の発明によれば、弁体(81)を有する弁機構(80)を設けるというシンプルな構成により、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とを両立させることができる。
【0022】
また、上記第5〜第7の発明によれば、導入路(45,61〜64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重なり合うか重ならないかの違いによって、圧縮室(41)への給油量調節を実現することができる。特に、上記第6の発明によれば、連通路(92)を設けることによって、高速運転時においても圧縮室(41)への最低限必要な量の給油を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態のスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2図2は、実施形態の弁機構とその周辺部を示す拡大断面図であって、弁機構が非連通状態にある図である。
図3図3は、固定スクロールの一部を拡大して示す底面図である。
図4図4は、吸入圧力、中間圧力および変動圧力が圧縮機構の回転に伴って変化する態様を示すグラフである。
図5図5は、高速運転時における弁体のストロークの時間変化を示すグラフである。
図6図6は、低速運転時における弁体のストロークの時間変化を示すグラフである。
図7図7は、連通状態にある弁機構とその周辺部を示す拡大断面図である。
図8図8は、非連通状態にある弁機構のうち、連通路とその周辺部を拡大して示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の回転式圧縮機(10)(以下、単に圧縮機(10)ともいう)は、いわゆるスクロール圧縮機である。この圧縮機(10)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示せず)に設けられ、流体である冷媒を圧縮するものである。冷媒回路では、圧縮機(10)で圧縮された冷媒が、凝縮器で凝縮し、減圧機構で減圧され、蒸発器で蒸発し、そして圧縮機(10)に吸入される。
【0026】
図1に示すように、圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、それぞれがケーシング(11)に収容されるハウジング(14)、圧縮機構(30)および電動機(70)とを備えている。
【0027】
ケーシング(11)は、起立した状態で設けられ、上下が閉塞された筒状の部材である。ケーシング(11)は、底部に油を貯留するように構成されている。ケーシング(11)の頂部には低圧のガス冷媒を吸入するための吸入管(12)が当該ケーシング(11)を貫通して設けられている。ケーシング(11)の上下方向の略中央部の側面には、圧縮機構(30)で圧縮されて高圧になったガス冷媒を吐出するための吐出管(13)が当該ケーシング(11)を貫通して設けられている。
【0028】
ハウジング(14)は、ケーシング(11)の内部に圧入により固定された環状の部材である。ケーシング(11)の内部空間は、このハウジング(14)によって、当該ハウジング(14)よりも上側の上部空間(51)と当該ハウジングよりも下側の下部空間(52)とに区画されている。ハウジング(14)は、ケーシング(11)の内周壁に固定される環状部(15)と、この環状部(15)から下方に突出する上部軸受(16)と、環状部(15)の上面に形成された凹部(22)とを有する。上部軸受(16)には、後述する駆動軸(42)を取り囲むように環状の弾性溝(17)が形成されている。
【0029】
圧縮機構(30)は、上部空間(51)に設けられていて、ハウジング(14)の上面に固定される固定スクロール(31)と、この固定スクロール(31)とハウジング(14)との間に設けられて固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(37)と、この可動スクロール(37)に固定された駆動軸(42)とを備えている。
【0030】
固定スクロール(31)は、鏡板(32)と、この鏡板(32)の正面(図1における下面)の外縁に立設する略筒状の外周壁(33)と、鏡板(32)における外周壁(33)の内部に立設する渦巻き状(インボリュート状)のラップ(34)と、後述する圧縮室(41)に流入する油の流量を調節する弁機構(80)とを有する。鏡板(32)はラップ(34)と連続的に形成されている。ラップ(34)の先端面(下端面)と外周壁(33)の下面とは略面一に形成されている。また、固定スクロール(31)はハウジング(14)に固定されている。弁機構(80)の構成については後に詳述する。
【0031】
固定スクロール(31)の鏡板(32)の中央には、吐出ポート(35)が形成されている。固定スクロール(31)の背面(図1における上面)には、吐出ポート(35)が開口する高圧チャンバ(53)が形成されている。高圧チャンバ(53)は、固定スクロール(31)の鏡板(32)およびハウジング(14)に形成された通路(図示せず)を介して下部空間(52)に連通している。圧縮機構(30)で圧縮された高圧冷媒は下部空間(52)に流出する。したがって、ケーシング(11)の内部では、下部空間(52)が高圧雰囲気に構成され、ケーシング(11)の底部に貯留された油には圧縮機構(30)の吐出圧力に相当する高圧圧力が作用する。
【0032】
また、固定スクロール(31)には、吸入管(12)と圧縮室(41)の外周部とを連通させる吸入ポート(36)が形成されている。冷媒回路の蒸発器から流出した低圧冷媒は、吸入管(12)および吸入ポート(36)を通過して圧縮室(41)に流入する。吸入ポート(36)は吸入圧力空間を構成している。
【0033】
可動スクロール(37)は、鏡板(38)と、この鏡板(38)の正面(図1における上面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(39)と、鏡板(38)の背面中心部に形成されたボス部(40)とを有する。ボス部(40)には、駆動軸(42)が挿入されている。可動スクロール(37)の鏡板(38)およびラップ(39)と固定スクロール(31)の鏡板(32)およびラップ(34)との間には、冷媒を圧縮するための圧縮室(41)が形成されている。
【0034】
駆動軸(42)は、ケーシング(11)の中心軸に沿って上下方向に延びている。駆動軸(42)は、主軸部(43)と、この主軸部(43)の上端に連結された偏心部(44)とを有する。主軸部(43)の下部は、ケーシング(11)の下部に設けられた下部軸受(24)に回転可能に支持されている。主軸部(43)の上部は、ハウジング(14)を貫通していて、当該ハウジング(14)の上部軸受(16)に回転可能に支持されている。偏心部(44)は、その中心軸が主軸部(43)の中心軸から所定量だけ偏心していて、可動スクロール(37)のボス部(40)に挿入されている。
【0035】
駆動軸(42)の内部には、駆動軸(42)の下端から上端にわたって上下方向に延びる軸内油路(45)が形成されている。駆動軸(42)の下端部は、ケーシング(11)の底部の油に浸漬されている。軸内油路(45)は、ケーシング(11)の底部の油を下部軸受(24)および上部軸受(16)に供給すると共に、この油をボス部(40)と駆動軸(42)との摺動面に供給する。
【0036】
電動機(70)は、下部空間(52)に設けられていて、ケーシング(11)の内周壁に固定された固定子(71)と、この固定子(71)の内側に配置されて駆動軸(42)に固定された回転子(72)とを備えている。電動機(70)は、図示しない電源から電力が供給されると回転子(72)が回転するように構成されている。
【0037】
ハウジング(14)の環状部(15)には、内周部の上面にリング状のシール部材(15a)が設けられる。シール部材(15a)の中心部側には、高圧空間である背圧空間(54)が形成されている。シール部材(15a)の外周側には、圧力空間(55)が形成されている。つまり、背圧空間(54)は、主としてハウジング(14)の凹部(22)により構成される。凹部(22)は、可動スクロール(37)のボス部(40)の内部を介して駆動軸(42)の軸内油路(45)に連通している。背圧空間(54)には、圧縮機構(30)の吐出圧力に相当する高圧圧力が作用する。背圧空間(54)は、この高圧圧力により、可動スクロール(37)を固定スクロール(31)に押し付けている。
【0038】
圧力空間(55)は、可動側圧力空間(55a)と固定側圧力空間(55b)とを含む。可動側圧力空間(55a)は、可動スクロール(37)の鏡板(38)のうち外周側寄りの部位の背面に形成されている。可動側圧力空間(55a)は、背圧空間(54)の外側に形成されていて、中間圧力によって可動スクロール(37)を固定スクロール(31)に押し付けている。固定側圧力空間(55b)は、上部空間(51)における固定スクロール(31)の外側に形成されている。固定側圧力空間(55b)は、固定スクロール(31)の外周壁(33)とケーシング(11)との間の隙間を通じて可動側圧力空間(55a)と連通している。固定側圧力空間(55b)は中間圧力空間を構成している。
【0039】
ハウジング(14)の上部には、オルダム継手(23)が設けられている。このオルダム継手(23)は、可動スクロール(37)の公転を許容しかつ自転を阻止するように構成されている。
【0040】
ハウジング(14)の内部には、第1油通路(61)および第2油通路(62)が形成されている。第1油通路(61)の流入端は上部軸受(16)の弾性溝(17)(凹部(22)と連通している)に連通している。第1油通路(61)は、ハウジング(14)の内部において、内周側から外周側に向かって斜め上方に延びている。第1油通路(61)の外周寄りの部位には、第2油通路(62)の流入端が連通している。第2油通路(62)は、ハウジング(14)の内部を上下方向に延びていて、流出端(上端)がハウジング(14)の上面に開口している。
【0041】
固定スクロール(31)の外周壁(33)には、第3油通路(63)、第4油通路(64)、弁体室(93)および第5油通路(65)が形成されている。第3油通路(63)は、外周壁(33)の内部を上下方向に延びていて、流入端(下端)が第2油通路(62)の流出端と連通している。第4油通路(64)は、外周壁(33)の内部を径方向に延びていて、流入端(外周端)が第3油通路(63)の流出端(上端)と連通している。弁体室(93)は、外周壁(33)の内部を上下方向に延びていて、内部に柱状の弁体(81)が収容されている。第4油通路(64)の流出口は、弁体(81)の側面と対向する弁体室(93)の側壁面に開口していて、弁体室(93)の全周にわたって延びている。第5油通路(65)は、流入端(上端)が弁体室(93)と連通していて、可動スクロール(37)の鏡板(38)に向かって下方に延びている。第5油通路(65)の流出端は、可動スクロール(37)の鏡板(38)と固定スクロール(31)の外周壁(33)との摺動面に開口している。
【0042】
また、図3に示すように、固定スクロール(31)の下面には、吸入ポート(36)と第5油通路(65)とを連通させる連通溝(98)が形成されている。軸内油路(45)および第1〜第4油通路(61〜64)は導入路を構成し、第5油通路(65)は導出路を構成し、連通溝(98)は吸入圧力通路を構成し、軸内油路(45)および第1〜第5油通路(61〜65)は給油路を構成している。
【0043】
−弁機構の構成−
図2に示すように、弁機構(80)は、固定スクロール(31)における第4油通路(64)と第5油通路(65)との間(すなわち、給油路の途中)に設けられている。この弁機構(80)は、上下に延びる柱状に形成された弁体(81)と、この弁体(81)を収容する弁体室(93)と、圧縮行程中の圧縮室(41)と弁体室(93)の上端部とを連通させる変動圧力通路(100)と、固定側圧力空間(55b)と弁体室(93)の中央部とを連通させる中間圧力通路(99)と、吸入ポート(36)と弁体室(93)の下端部とを連通させる連通溝(98)とを備えている。
【0044】
弁体(81)は、小径部(82)と、大径部(83)と、突起部(84)とを有する。また、弁体(81)には、弁体内油路(88)と、連通路(92)とが形成されている。小径部(82)は、弁体(81)の下半部を構成する上下に延びる円柱状の部分であって、その下面が吸入圧力受面(85)になっている。大径部(83)は、小径部(82)の上側に連続する円柱状に形成された部分であって、その上面が変動圧力受面(87)になっている。大径部(83)の下面のうち小径部(82)よりも径方向外側の部分は中間圧力受面(86)になっている。突起部(84)は、大径部(83)の上端面から上方に突出している。この突起部(84)は、図7からわかるように、弁体(81)が弁体室(93)内で上側に大きく移動するときに弁体室(93)の上壁面と接触することで、弁体(81)の上面と弁体室(93)の上壁面との間にある程度の隙間を存在させるためのものである。この隙間が存在することにより、変動圧力は常に弁体(81)の上面に作用する。
【0045】
弁体内油路(88)は、小径部(82)および大径部(83)にわたって弁体(81)の内部に形成された油が流通可能な通路である。連通路(92)は、図8に示すように、大径部(83)の側面に形成されて弁体(81)の軸方向(同図で上下方向)に延びる溝である。この連通路(92)を介して、第4油通路(64)と弁体内油路(88)とは常に連通している(図8を参照)。また、図8に示すように、連通路(92)の流路断面積は、軸内油路(45)、第1〜第5油通路(61〜65)および弁体内油路(88)のそれぞれの流路断面積よりも小さい。
【0046】
弁体内油路(88)は、環状油路(89)と、径方向油路(90)と、軸方向油路(91)とを有する。環状油路(89)は、弁体(81)の側面の全周にわたって形成された溝である。つまり、環状油路(89)の開口(すなわち、弁体内油路(88)の流入口)は、弁体(81)のうち第4油通路(64)の流出口(すなわち、導入路の流出口)に対向する側面に開口している。径方向油路(90)は、弁体(81)内を直径方向(図2では左右方向)に延びて環状油路(89)と連通する通路である。軸方向油路(91)は、弁体(81)内をその軸方向(図2では上下方向)に延びる通路である。軸方向油路(91)は、流入端(この例では上端)が径方向油路(90)の中央部に連通し、流出端(下端)が弁体(81)の下面に開口している。このため、図2および図7に示すように、弁体内油路(88)と第5油通路(65)とは常に互いに連通している。なお、弁体内油路(88)と第5油通路(65)とは、圧縮機構(30)の回転動作に伴って間欠的に互いに連通するように構成されていてもよい。
【0047】
図2に示すように、弁体室(93)は、上下方向に延びる細長い空間である。弁体室(93)は、弁体(81)の小径部(82)よりも僅かに径が大きくてこの小径部(82)を収容する小径空間(94)と、弁体(81)の大径部(83)よりも僅かに径が大きくてこの大径部(83)を収容する大径空間(95)とを有する。小径空間(94)と大径空間(95)との境界部分には、段差部(96)が形成されている。そして、大径空間(95)のうち段差部(96)と上記中間圧力受面(86)との間は、環状空間(97)になっている。
【0048】
変動圧力通路(100)は、一端が圧縮行程中の圧縮室(41)に開口し、他端が上記大径空間(95)の上端部の側壁部に開口している。この変動圧力通路(100)を介して、圧縮行程中の圧縮室(41)における変動圧力が弁体(81)の変動圧力受面(87)に作用する。本実施形態では、図4に示すように、当該変動圧力は、圧縮機構(30)の吸入圧力よりもやや大きい値から中間圧力よりも大きい値まで、圧縮機構(30)の回転動作に伴って周期的に変動する。
【0049】
図2に示すように、中間圧力通路(99)は、一端が固定側圧力空間(55b)に開口し、他端が上記環状空間(97)に開口している。この中間圧力通路(99)を介して、圧縮機構(30)の吸入圧力よりも高くて(図4を参照)圧縮機構(30)の吐出圧力よりも低い中間圧力が弁体(81)の中間圧力受面(86)に作用する。
【0050】
連通溝(98)は、図3に示すように、固定スクロール(31)の下面に周方向に延びるように形成された溝であって、第5油通路(65)と圧縮室(41)のうち吸入ポート(36)が開口する部分とを互いに連通させている。この連通溝(98)および第5油通路(65)を介して、圧縮機構(30)の吸入圧力が弁体(81)の吸入圧力受面(85)に作用する。
【0051】
−運転動作−
まず、圧縮機(10)の基本的な動作について説明する。
【0052】
電動機(70)を作動させると、圧縮機構(30)の可動スクロール(37)が回転駆動される。可動スクロール(37)は、オルダム継手(23)によって自転を阻止されているので、駆動軸(42)の軸心を中心に偏心回転のみを行う。可動スクロール(37)が偏心回転を行うと、吸入管(12)および吸入ポート(36)を通って、圧縮機構(30)の内部に形成された圧縮室(41)の外周部に低圧のガス冷媒が流入する。そして、圧縮室(41)が外周側から中心側に移動していくと共に、その容積が小さくなっていくことで、圧縮室(41)内で冷媒が圧縮されていく。
【0053】
最小の容積となった圧縮室(41)が吐出ポート(35)に連通すると、圧縮室(41)の高圧のガス冷媒が吐出ポート(35)を介して高圧チャンバ(53)に吐出される。高圧チャンバ(53)の高圧のガス冷媒は、固定スクロール(31)およびハウジング(14)に形成された各通路を経由して下部空間(52)に流出する。下部空間(52)の高圧のガス冷媒は、吐出管(13)を介して、ケーシング(11)の外部へ吐出される。
【0054】
次に、弁機構(80)の動作および給油動作について説明する。
【0055】
圧縮機(10)の運転中には、上述のように、弁体(81)の吸入圧力受面(85)には吸入圧力が作用し、弁体(81)の中間圧力受面(86)には中間圧力が作用し、弁体(81)の変動圧力受面(87)には圧縮室(41)の変動圧力が作用する。ここで、圧縮室(41)の変動圧力は、図4に示すように、圧縮機構(30)が一回転する毎に、吸入圧力よりもやや大きい値から中間圧力よりも大きい値まで周期的に変動する。このため、圧縮室(41)の変動圧力の変動周期は、圧縮機構(30)の回転速度が高くなるにつれて短くなる。
【0056】
そして、弁体(81)は、吸入圧力受面(85)に作用する吸入圧力と中間圧力受面(86)に作用する中間圧力とによって上方に押される。一方、弁体(81)は、変動圧力受面(87)に作用する変動圧力によって下方に押される。これら上方に弁体(81)を押す圧力と下方に弁体(81)を押す圧力との作用下において、弁体(81)はその軸方向(この例では上下方向)に往復運動を行う。なお、弁体(81)が往復運動を行うようにするためには、“A3×Pvmin<A1×Pl+A2×Pm<A3×Pvmax(A1:吸入圧力受面の面積、A2:中間圧力受面の面積、A3:変動圧力受面の面積、Pl:吸入圧力、Pm:中間圧力、Pvmin:変動圧力の最小値、Pvmax:変動圧力の最大値)”の関係が成り立つように、弁体(81)の各受圧面(85〜87)の面積と、圧縮行程中の圧縮室(41)が変動圧力通路(100)と連通する期間とを設定する必要がある。
【0057】
ここで、弁体(81)に作用する力が同じであれば、弁体(81)に力が作用する時間が短いほど当該弁体(81)の移動距離が短くなる。一方、弁体(81)に力が作用する時間は、変動圧力の変動周期が短くなるにつれて短くなる。また、変動圧力の変動周期は、圧縮機構(30)の回転速度が高くなるにつれて短くなる。したがって、往復運動における弁体(81)のストロークは、圧縮機構(30)の回転速度が高くなるにつれて短くなる。
【0058】
図5は、高速運転時(例えば、圧縮機構(30)の回転速度が60rpsであるとき)における弁体(81)の基準位置からの変位量(ストローク=変位量の最大値)の時間変化を示すグラフである。同図に示す所定値(Th)は、弁体(81)のストロークがこの所定値(Th)よりも大きい場合に、第4油通路(64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重なり合うことを表すものである。そして、図5からわかるように、高速運転時には時刻(t0)から時刻(t9)にわたって弁体(81)のストロークが当該所定値(Th)よりも大きくなることはない。このため、高速運転時には、弁機構(80)が第4油通路(64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重ならない非連通状態となる。この場合、ケーシング(11)の底部の油は、軸内油路(45)、凹部(22)、弾性溝(17)、第1〜第4油通路(61〜64)、連通路(92)、弁体内油路(88)および第5油通路(65)の順に流れて圧縮室(41)に供給される。この給油経路には流路断面積の小さい連通路(92)が含まれるため、多量の油が圧縮室(41)に供給されることが抑止され、よって高速運転時における過剰給油が抑止される。
【0059】
図6は、低速運転時(例えば、圧縮機構(30)の回転速度が30rpsであるとき)における弁体(81)の基準位置からの変位量(ストローク=変位量の最大値)の時間変化を示すグラフである。図6からわかるように、低速運転時には、時刻(t1)〜時刻(t2)、時刻(t3)〜時刻(t4)、時刻(t5)〜時刻(t6)および時刻(t7)〜時刻(t8)の各時間において、弁体(81)のストロークが所定値(Th)よりも大きくなる。これらの各時間には、弁機構(80)は、第4油通路(64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重なり合いかつ弁体内油路(88)と第5油通路(65)とが連通する連通状態となる(図7を参照)。この場合、ケーシング(11)の底部の油は、軸内油路(45)、凹部(22)、弾性溝(17)、第1〜第4油通路(61〜64)、弁体内油路(88)および第5油通路(65)の順に流れて圧縮室(41)に供給される。この給油経路には流路断面積の小さい連通路(92)が含まれないため、比較的多量の油が圧縮室(41)に供給され、よって低速運転時において十分な給油量が確保される。
【0060】
−実施形態の効果−
上記実施形態では、圧縮機(10)の運転中にケーシング(11)内で自ずと生じる圧力(すなわち、吸入圧力、中間圧力および変動圧力)を受けて往復運動を行う弁体(81)を備えた弁機構(80)を設けるというシンプルな構成により、低速運転時における給油量確保と高速運転時における過剰給油抑止とを両立させることができる。この弁機構(80)は、回転速度を検出するためのセンサや、検出した回転速度に応じて給油量を制御するための制御部などの複雑な構成要素を要しない。
【0061】
また、上記実施形態では、弁体(81)に連通路(92)を形成するというシンプルな構成によって、高速運転時(すなわち、第4油通路(64)の流出口と弁体内油路(88)の流入口とが重ならないとき)における圧縮室(41)への最低限必要な量の給油を実現することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、第4油通路(64)を流れる高圧の油の圧力が弁体(81)の側面に作用するところ、当該第4油通路(64)の流出口が弁体室(93)の全周にわたって延びている。このため、第4油通路(64)を流れる高圧の油の圧力は弁体(81)の全周にわたって当該弁体(81)をその軸心方向に押すように作用する。したがって、高圧の油の圧力によって弁体(81)が弁体室(93)の側壁面に押し付けられることが抑止され、よって弁体(81)のスムーズな往復運動を実現することができる。
【0063】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、弁体(81)に吸入圧力、中間圧力および変動圧力が作用するように構成されているが、例えば、弁体(81)に中間圧力と変動圧力のみが作用するように構成されていてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、吸入圧力受面(85)、中間圧力受面(86)および変動圧力受面(87)はいずれも弁体(81)の往復運動の方向に対して垂直な面であるが、これらのうち少なくとも1つが弁体(81)の往復運動の方向に対して傾斜した面であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、第4油通路(64)と弁体内油路(88)とを常に連通させる連通路(92)は弁体(81)に形成された溝であるが、例えば、連通路(92)は弁体室(93)の側壁面に形成された溝であってもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、中間圧力通路(99)は、環状空間(97)と固定側圧力空間(55b)とを連通させるように構成されているが、環状空間(97)と可動側圧力空間(55a)とを連通させるように構成されていてもよい。
【0067】
また、弁体(81)を下方に向かって(すなわち、弁機構(80)が非連通状態となるように)付勢する付勢手段が設けられていてもよい。例えば、弁体室(93)の上壁面と弁体(81)の上面との間にばねを設けることが考えられる。
【0068】
また、上記実施形態では、圧縮室(41)の変動圧力は、圧縮機構(30)の吸入圧力よりも大きい値から中間圧力よりも大きい値まで、圧縮機構(30)の回転動作に伴って周期的に変動する。しかしながら、弁体(81)が往復運動を行うのであれば、変動圧力の最大値が中間圧力よりも低くてもよいし、変動圧力の最小値が中間圧力よりも高くてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、高速運転時における最低限必要な量の給油を確保するために連通路(92)を設けているが、この連通路(92)に代えてまたは加えて、高速運転時における最低限必要な量の給油を確保するための油通路を第1〜第5油通路(61〜65)とは別に設けてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、回転式圧縮機(10)はスクロール圧縮機として構成されているが、本発明は例えばロータリ圧縮機などの他の種類の回転式圧縮機(10)にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明は、回転式圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0072】
10 回転式圧縮機
11 ケーシング
30 圧縮機構
36 吸入圧力空間
41 圧縮室
45 軸内油路(導入路、給油路)
55a 可動側圧力空間(中間圧力空間)
55b 固定側圧力空間(中間圧力空間)
61 第1油通路(導入路、給油路)
62 第2油通路(導入路、給油路)
63 第3油通路(導入路、給油路)
64 第4油通路(導入路、給油路)
65 第5油通路(導出路、給油路)
80 弁機構
81 弁体
85 吸入圧力受面
86 中間圧力受面
87 変動圧力受面
88 弁体内油路
92 連通路
93 弁体室
98 吸入圧力通路
99 中間圧力通路
100 変動圧力通路
Th 所定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8