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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-204768(P2018-204768A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20181130BHJP
   F16D 27/115 20060101ALI20181130BHJP
   B60K 17/348 20060101ALN20181130BHJP
【FI】
   F16D48/06 101Z
   F16D27/115 Z
   B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-113994(P2017-113994)
(22)【出願日】2017年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 かおり
【テーマコード(参考)】
3D043
3J057
【Fターム(参考)】
3D043AA07
3D043AB01
3D043AB17
3D043EA03
3D043EA05
3D043EA18
3D043EA42
3D043EB07
3D043EB13
3D043ED04
3D043EE02
3D043EE03
3D043EE07
3D043EE12
3D043EF09
3D043EF12
3D043EF19
3J057AA01
3J057BB04
3J057GA80
3J057GB05
3J057GB06
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB19
3J057GB33
3J057GB36
3J057GB37
3J057GE06
3J057GE08
3J057HH01
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】長期使用後でも摩擦クラッチの温度を精度よく推定することが可能な駆動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】相対回転可能なハウジング20及びインナシャフト23と、複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有するメインクラッチ3と、供給される電流に応じた押圧力でメインクラッチ3を押圧するカム機構4とを有する駆動力伝達装置2を制御する制御装置7は、駆動力伝達装置2の使用開始後の累積負荷量を演算する累積負荷量演算手段712と、所定のサンプリング周期毎にハウジング20とインナシャフト23との差動回転速度ならびにカム機構4の押圧力の関連値に基づいてメインクラッチ3の負荷量を演算する負荷量演算手段713と、複数のサンプリング周期における負荷量及び累積負荷量に基づいてメインクラッチ3の温度を推定する温度推定手段714とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能な第1及び第2の回転部材と、前記第1の回転部材と共に回転する第1のクラッチプレート及び前記第2の回転部材と共に回転する第2のクラッチプレートを有する摩擦クラッチと、供給される電流に応じた押圧力で前記摩擦クラッチを押圧する押圧機構と、を有する駆動力伝達装置を制御する駆動力伝達装置の制御装置であって、
前記駆動力伝達装置の使用開始後の累積負荷量を演算する累積負荷量演算手段と、
所定のサンプリング周期毎に前記第1及び第2の回転部材の差動回転速度ならびに前記押圧力の関連値に基づいて前記摩擦クラッチの負荷量を演算する負荷量演算手段と、
複数の前記サンプリング周期における前記負荷量及び前記累積負荷量に基づいて前記摩擦クラッチの温度を推定する温度推定手段と、
を備えた駆動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記累積負荷量演算手段は、前記累積負荷量に応じた係数を前記負荷量に乗じて補正負荷量を演算し、この補正負荷量を前記サンプリング周期毎に積算して前記累積負荷量を演算する、
請求項1に記載の駆動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記温度推定手段は、前記累積負荷量に応じた係数を前記負荷量に乗じて得られた補正負荷量を複数の前記サンプリング周期にわたって積算し、この積算値に基づいて前記摩擦クラッチの温度を推定する、
請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば主駆動輪及び補助駆動輪を有する4輪駆動車に搭載され、供給される電流に応じて補助駆動輪に駆動力を伝達する駆動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主駆動輪及び補助駆動輪を有する4輪駆動車には、補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置が搭載されている。駆動力伝達装置は、相対回転可能な一対の回転部材と、これら一対の回転部材の間に配置された複数のクラッチプレートからなる摩擦クラッチと、摩擦クラッチを押圧する押圧機構とを有している。摩擦クラッチは、クラッチプレート間の摩擦摺動が潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。押圧機構は、制御装置から供給される電流に応じた押圧力で摩擦クラッチを押圧する(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2に記載の駆動力伝達装置の制御装置は、供給する電流及び一対の回転部材間の差動回転速度に応じて摩擦クラッチの発熱量を算出し、この発熱量に基づいて駆動力伝達装置の温度を推定する。特許文献1に記載の駆動力伝達装置の制御装置は、熱による損傷から摩擦クラッチを保護するため、推定温度が所定値以上になると摩擦クラッチの温度を降下させる保護制御を行う。特許文献2に記載の駆動力伝達装置の制御装置は、潤滑油の粘度が温度によって変化することに起因して伝達されるトルクに誤差が生じることを抑制するため、推定温度に応じて伝達トルクの指令値を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−166737号公報
【特許文献2】特開2002−286061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように構成された駆動力伝達装置は、製造後に使用が開始されてからの期間によって、供給される電流及び回転部材間の差動回転速度が同じでも、摩擦クラッチの発熱量が異なる場合があった。この発熱量の違いは、推定温度の誤差の原因となるため、使用期間が長くなると、推定温度に基づく駆動力伝達装置の制御が適切に行われなくなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、長期使用後でも摩擦クラッチの温度を精度よく推定することが可能な駆動力伝達装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、相対回転可能な第1及び第2の回転部材と、前記第1の回転部材と共に回転する第1のクラッチプレート及び前記第2の回転部材と共に回転する第2のクラッチプレートを有する摩擦クラッチと、供給される電流に応じた押圧力で前記摩擦クラッチを押圧する押圧機構と、を有する駆動力伝達装置を制御する駆動力伝達装置の制御装置であって、前記駆動力伝達装置の使用開始後の累積負荷量を演算する累積負荷量演算手段と、所定のサンプリング周期毎に前記第1及び第2の回転部材の差動回転速度ならびに前記押圧力の関連値に基づいて前記摩擦クラッチの負荷量を演算する負荷量演算手段と、複数の前記サンプリング周期における前記負荷量及び前記累積負荷量に基づいて前記摩擦クラッチの温度を推定する温度推定手段と、を備えた駆動力伝達装置の制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る駆動力伝達装置の制御装置によれば、長期使用後でも摩擦クラッチの温度を精度よく推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。
図3】制御装置の構成例を示す概略構成図である。
図4】補正係数マップの一例をグラフ表示した説明図である。
図5】CPUがサンプリング周期毎に実行する処理の具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
【0012】
図1に示すように、四輪駆動車1は、アクセルペダル110の操作量(踏み込み量)に応じた走行用の駆動力(トルク)を発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常に伝達される主駆動輪としての左右前輪181,182と、エンジン11の駆動力が四輪駆動車1の走行状態に応じて伝達される補助駆動輪としての左右後輪191,192とを備えている。左右前輪181,182は、運転者によるステアリングホイール111の操舵操作によって転舵される転舵輪である。左右前輪181,182及び左右後輪191,192には、車輪速センサ61〜64がそれぞれ対応して設けられている。
【0013】
また、四輪駆動車1には、フロントディファレンシャル13と、プロペラシャフト14と、リヤディファレンシャル15と、左右の前輪側のドライブシャフト161,162と、左右の後輪側のドライブシャフト171,172と、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置7とが搭載されている。制御装置7は、車輪速センサ61〜64によって検出される左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度の情報、アクセルペダルセンサ65によって検出されるアクセルペダル110の操作量の情報、及び操舵角センサ66によって検出されるステアリングホイール111の操舵角の情報を取得可能である。
【0014】
駆動力伝達装置2は、制御装置7から供給される電流に応じた駆動力をプロペラシャフト14からリヤディファレンシャル15に伝達する。左右後輪191,192には、駆動力伝達装置2を介してエンジン11の駆動力が伝達される。制御装置7は、駆動力伝達装置2に電流を供給することで駆動力伝達装置2を制御する。以下、制御装置7が駆動力伝達装置2を制御するために出力する電流を制御電流という。
【0015】
エンジン11は、運転者が始動スイッチ(イグニッションスイッチ)112をオン状態とすることにより始動し、始動スイッチ112がオフ状態とされたときに燃料供給が遮断されて停止する。なお、四輪駆動車1の駆動源としては、内燃機関であるエンジンに限らず、例えばIPM(Interior Permanent Magnet)モータ等の高出力モータを用いてもよい。また、エンジンと高出力モータとの組み合わせにより四輪駆動車1の駆動源を構成してもよい。
【0016】
左右前輪181,182には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側のドライブシャフト161,162を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右の前輪側のドライブシャフト161,162にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131,131と、一対のサイドギヤ131,131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132,132と、一対のピニオンギヤ132,132を支持するピニオンギヤシャフト133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
【0017】
フロントデフケース134には、リングギヤ135が固定され、このリングギヤ135がプロペラシャフト14の車両前方側の端部に設けられたピニオンギヤ141に噛み合っている。プロペラシャフト14の車両後方側の端部は、駆動力伝達装置2のハウジング20に連結されている。駆動力伝達装置2は、ハウジング20と相対回転可能に配置されたインナシャフト23を有しており、制御装置7から供給される制御電流に応じた駆動力を、インナシャフト23と相対回転不能に連結されたピニオンギヤシャフト150を介してリヤディファレンシャル15に伝達する。駆動力伝達装置2の詳細については後述する。
【0018】
リヤディファレンシャル15は、左右の後輪側のドライブシャフト171,172にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ151,151と、一対のサイドギヤ151,151にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ152,152と、一対のピニオンギヤ152,152を支持するピニオンギヤシャフト153と、これらを収容するリヤデフケース154と、リヤデフケース154に固定されてピニオンギヤシャフト150と噛み合うリングギヤ155とを有している。
【0019】
(駆動力伝達装置の構成)
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2の作動状態(トルク伝達状態)を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態(トルク非伝達状態)を、それぞれ示す。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0020】
駆動力伝達装置2は、フロントハウジング21及びリヤハウジング22からなるハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持された筒状のインナシャフト23と、ハウジング20とインナシャフト23との間に配置されたメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧する押圧機構としてのカム機構4と、フロントハウジング21の回転力を受けてカム機構4を作動させる電磁クラッチ機構5とを有して構成されている。ハウジング20の内部には、図略の潤滑油が封入されている。ハウジング20及びインナシャフト23は、本発明の第1及び第2の回転部材の一態様である。
【0021】
フロントハウジング21は、円筒状の筒部21aと底部21bとを一体に有する有底円筒状である。筒部21aの開口端部における内面には、雌ねじ部21cが形成されている。フロントハウジング21の底部21bには、プロペラシャフト14(図1参照)が例えば十字継手を介して連結される。また、フロントハウジング21は、軸方向に延びる複数の外側スプライン突起211を筒部21aの内周面に有している。
【0022】
リヤハウジング22は、鉄等の磁性材料からなる第1環状部材221、第1環状部材221の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2環状部材222、及び第2環状部材222の内周側に溶接等により一体に結合された鉄等の磁性材料からなる第3環状部材223からなる。第1環状部材221と第3環状部材223との間には、電磁コイル53を収容する環状の収容空間22aが形成されている。また、第1環状部材221の外周面には、フロントハウジング21の雌ねじ部21cに螺合する雄ねじ部221aが形成されている。
【0023】
インナシャフト23は、玉軸受24及び針状ころ軸受25によってハウジング20の内周側に支持されている。インナシャフト23は、軸方向に延びる複数の内側スプライン突起231を外周面に有している。また、インナシャフト23の一端部における内面には、ピニオンギヤシャフト150(図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部232が形成されている。
【0024】
メインクラッチ3は、軸方向に沿って交互に配置された複数の第1のクラッチプレートとしてのメインアウタクラッチプレート31、及び第2のクラッチプレートとしての複数のメインインナクラッチプレート32を有する摩擦クラッチである。メインアウタクラッチプレート31はフロントハウジング21と共に回転し、メインインナクラッチプレート32はインナシャフト23と共に回転する。メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動は、ハウジング20とインナシャフト23との間に封入された図略の潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。
【0025】
メインアウタクラッチプレート31は、金属からなる円環板状であり、フロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起311を外周端部に有している。メインアウタクラッチプレート31は、係合突起311が外側スプライン突起211に係合することにより、フロントハウジング21との相対回転が規制され、かつフロントハウジング21に対して軸方向に移動可能である。
【0026】
メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23の内側スプライン突起231に係合する複数の係合突起321を内周端部に有している。メインインナクラッチプレート32は、係合突起321が内側スプライン突起231に係合することにより、インナシャフト23との相対回転が規制され、かつインナシャフト23に対して軸方向に移動可能である。
【0027】
また、メインインナクラッチプレート32は、金属からなる円環板状の基材331と、基材331の両側面にそれぞれ張り付けられた摩擦材332とを有している。基材331には、摩擦材332が貼着された部分よりも内側に、潤滑油を流通させる複数の油孔333が形成されている。摩擦材332は、例えばペーパー摩擦材又は不織布からなり、メインアウタクラッチプレート31と対向する部分に貼着されている。ペーパー系の湿式摩擦材としてより具体的には、例えば木材パルプ或いはアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤や炭酸カルシウム或いは珪藻土等の体質充填剤等の充填剤と、軟磁性材料とを抄造して抄紙体を形成し、その抄紙体に熱硬化性樹脂からなる樹脂結合剤を含浸し、次いで熱成形により加熱硬化したものを用いることができる。
【0028】
カム機構4は、電磁クラッチ機構5を介してハウジング20の回転力を受けるパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧する押圧部材としてのメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有して構成されている。
【0029】
メインカム42は、メインクラッチ3の一端におけるメインインナクラッチプレート32に接触してメインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。メインカム42は、押圧部421の内周端部に形成されたスプライン係合部421aがインナシャフト23の内側スプライン突起231に係合し、インナシャフト23との相対回転が規制されている。また、メインカム42は、インナシャフト23に形成された段差面23aとの間に配置された皿バネ44により、メインクラッチ3から軸方向に離間するように付勢されている。
【0030】
パイロットカム41は、メインカム42に対して相対回転する回転力を電磁クラッチ機構5から受けるスプライン突起411を外周端部に有している。パイロットカム41とリヤハウジング22の第3環状部材223との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置されている。
【0031】
パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aが形成されている。カムボール43は、パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間に配置されている。そして、カム機構4は、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転することにより、メインクラッチ3を押し付ける軸方向の押圧力を発生させる。メインクラッチ3は、カム機構4から押圧力を受けてメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦接触し、この摩擦力によって駆動力を伝達する。
【0032】
電磁クラッチ機構5は、アーマチャ50と、複数のパイロットアウタクラッチプレート51と、複数のパイロットインナクラッチプレート52と、電磁コイル53とを有して構成されている。
【0033】
電磁コイル53は、磁性材料からなる環状のヨーク530に保持され、リヤハウジング22の収容空間22aに収容されている。ヨーク530は、玉軸受26によってリヤハウジング22の第3環状部材223に支持され、その外周面が第1環状部材221の内周面に対向している。また、ヨーク530の内周面は、第3環状部材223の外周面に対向している。電磁コイル53には、電線531を介して制御装置7からの制御電流が励磁電流として供給される。
【0034】
複数のパイロットアウタクラッチプレート51及び複数のパイロットインナクラッチプレート52は、アーマチャ50とリヤハウジング22との間に、軸方向に沿って交互に配置されている。パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52には、電磁コイル53の通電により発生する磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリットが形成されている。
【0035】
パイロットアウタクラッチプレート51は、フロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起511を外周端部に有している。パイロットインナクラッチプレート52は、パイロットカム41のスプライン突起411に係合する複数の係合突起521を内周端部に有している。
【0036】
アーマチャ50は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、外周部にはフロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起501が形成されている。これにより、アーマチャ50は、フロントハウジング21に対して軸方向に移動可能、かつフロントハウジング21に対する相対回転が規制されている。
【0037】
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、電磁コイル53に制御電流が供給されることにより発生する磁力によってアーマチャ50がリヤハウジング22側に引き寄せられ、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とが摩擦接触する。これにより、制御電流に応じた回転力がパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転し、カムボール43がカム溝41a,422aを転動する。このカムボール43の転動により、メインカム42にメインクラッチ3を押圧するスラスト力が発生し、複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生する。そして、この摩擦力によってハウジング20とインナシャフト23との間でトルクが伝達される。
【0038】
カム機構4は、制御装置7から電磁コイル53に供給される制御電流に応じた押圧力で、メインカム42がメインクラッチ3を押圧する。メインクラッチ3によって伝達されるトルクは、電磁コイル53に供給される制御電流に応じて増減する。すなわち、駆動力伝達装置2は、供給される電流に応じて左右後輪191,192に伝達される駆動力を調節可能である。
【0039】
メインクラッチ3は、カム機構4によって押圧された状態でハウジング20とインナシャフト23とが相対回転すると、メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32(摩擦材332)とが摩擦摺動することで摩擦熱が発生する。この摩擦熱により潤滑油の温度が上昇すると、潤滑油の粘度が低下する。また、摩擦熱によってメインクラッチ3が過熱状態となると、摩擦材332が損傷するおそれがある。潤滑油の粘度の変化は、潤滑油の温度が例えば0℃以下の場合に特に顕著である。
【0040】
(制御装置7の構成)
図3は、制御装置7の構成例を示す概略構成図である。制御装置7は、演算処理装置であるCPU71と、半導体記憶素子からなる記憶部72と、駆動力伝達装置2に制御電流としての電流を出力する電流出力部73と、電流出力部73から出力される電流を検出してその検出結果を示す信号を出力する電流検出回路74とを有している。電流出力部73は、例えばFETやパワートランジスタ等のスイッチング素子を有し、図略のバッテリーから供給される直流電圧をPWM制御によりスイッチングして出力する。
【0041】
記憶部72は、電源の供給が遮断されても記憶状態が保持される不揮発性メモリ721と、高速に読み書きを行うことができるDRAMやSRAM等の揮発性メモリ722とを有している。不揮発性メモリとして具体的には、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を用いることができる。
【0042】
CPU71は、記憶部72に記憶されたプログラム72aを実行することにより、制御手段711、累積負荷量演算手段712、負荷量演算手段713、及び温度推定手段714として機能する。なお、本実施の形態では、これら各手段の機能をソフトウェアによって実現する場合について説明するが、これに限らず、例えば特定用途向け集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによってそれぞれの機能を実現してもよい。
【0043】
CPU71は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度の回転速センサ61〜64、アクセルペダルセンサ65、及び操舵角センサ66の検出結果を取得可能である。また、CPU71は、制御手段711として、これらの検出結果に基づいて左右後輪191,192に伝達すべき駆動力の目標値であるトルク指令値を演算し、このトルク指令値を、駆動力伝達装置2の電磁コイル53に供給すべき制御電流の目標値である電流指令値に変換する。
【0044】
制御手段711として動作するCPU71は、アクセルペダル110の踏み込み量が大きいほど、また左右前輪181,182の平均回転速度と左右後輪191,192の平均回転速度との差である前後輪回転速差が大きいほど、大きな駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように電流指令値を演算する。また、CPU71は、四輪駆動車1の旋回時に直進時よりも大きな駆動力が左右後輪191,192に配分されるように電流指令値を設定する。
【0045】
CPU71は、制御手段711として、演算した電流指令値に応じて電流出力部73のスイッチング素子をオン・オフさせるためのPWM信号を生成する。このPWM信号のデューティー比は、電流指令値が大きくなるほど高くなる。電流出力部73から出力される電流は、その大きさが電流検出回路74で検出される。CPU71は、電流検出回路74の検出値を取得して、電流出力部73から実際に出力される実電流値が電流指令値に一致するようにフィードバック制御を行う。電流検出回路74としては、例えばシャント抵抗の両端部間の電圧を増幅してAD変換(アナログ・デジタル変換)するものや、ホールICによって電流の大きさを検出するもの等を用いることができる。
【0046】
また、CPU71は、累積負荷量演算手段712として、駆動力伝達装置2の使用開始後の累積負荷量を演算する。ここで、使用開始後とは、駆動力伝達装置2が四輪駆動車1の車体に組み付けられ、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間でエンジン11の駆動力を左右後輪191,192側に伝達可能な状態となって以降のことをいう。
【0047】
また、CPU71は、負荷量演算手段713として、所定のサンプリング周期毎にハウジング20とインナシャフト23との差動回転速度ならびに制御電流の電流値に基づいて、メインクラッチ3の負荷量を演算する。ハウジング20の回転速度は左右前輪181,182の平均回転速度に基づいて算出することができ、インナシャフト23の回転速度は左右後輪191,192の平均回転速度に基づいて算出することができる。制御電流の電流値としては、電流検出回路74によって検出された実電流値を用いてもよく、電流指令値を用いてもよい。また、差動回転速度ならびにトルク指令値に基づいてメインクラッチ3の負荷量を演算してもよい。実電流値、電流指令値、及びトルク指令値は、カム機構4の押圧力に関連する値であり、本発明における「押圧力の関連値」の一態様である。
【0048】
CPU71は、サンプリング周期毎に回転速センサ61〜64の検出値をサンプリングした結果に基づいて、その時点でのメインクラッチ3の負荷量を演算する。すなわち、負荷量演算手段713によって演算される負荷量は、メインクラッチ3の熱負荷の瞬時値であり、ハウジング20とインナシャフト23との差動回転速度が大きいほど、また制御電流の電流値が大きいほど、大きな値として求められる。なお、この負荷量は、簡易的には差動回転速度に制御電流の電流値を乗じた積として演算することができるが、例えば後述する温度推定手段714によって演算されるメインクラッチ3の推定温度等の他の指標値を加味して負荷量を演算してもよい。
【0049】
また、CPU71は、累積負荷量演算手段712として、その時点での累積負荷量に応じた補正係数を負荷量演算手段713として演算した負荷量に乗じて補正負荷量を求め、この補正負荷量をサンプリング周期毎に積算して累積負荷量を演算する。記憶部72の不揮発性メモリ721には、この補正係数を求めるための補正係数マップ72bが記憶されており、CPU71は、その時点での累積負荷量を補正係数マップ72bに適用して補正係数を演算する。累積負荷量は、サンプリング周期毎に積算されて揮発性メモリ722に一時記憶され、イグニッションスイッチがオフされたときに不揮発性メモリ721に記憶される。
【0050】
図4は、補正係数マップ72bの一例をグラフ表示した説明図である。このグラフの横軸は累積負荷量を示し、縦軸は補正係数を示している。また、横軸のLは使用開始時の累積負荷量(ゼロ)を示し、Lは平均的な運転行動により四輪駆動車1が10万km走行したときの累積負荷量の目安を示している。使用開始時における補正係数を1とすると、横軸のLにおける補正係数は例えば1.1〜1.2である。
【0051】
図4に示すように、補正係数マップ72bは折れ線グラフ状であり、第1の折れ点P及び第2の折れ点Pで勾配が変化している。具体的には、使用開始から第1の折れ点Pに至るまでの間は勾配が緩く、第1の折れ点Pと第2の折れ点Pとの間では勾配が急になっている。また、第2の折れ点Pを過ぎると再び傾斜が緩くなる。これは、第1の折れ点Pに至るまでの間は、メインインナクラッチプレート32の摩擦材332が摩耗等により劣化したとしても、その劣化の程度がメインアウタクラッチプレート31との摺動特性に影響を与えるほどではなく、第1の折れ点Pを過ぎると摺動特性に影響が出始め、第2の折れ点Pを過ぎると摩擦材332がそれ以上劣化しなくなることを考慮したものである。
【0052】
CPU71は、温度推定手段714として、サンプリング周期毎に演算した負荷量に補正係数を適用してメインクラッチ3の温度を推定する。より具体的には、サンプリング周期毎に求めた補正係数を負荷量に乗じて補正負荷量を求め、複数のサンプリング周期にわたって積算された補正負荷量の積算値に基づいてメインクラッチ3の温度を推定する。このメインクラッチ3の推定温度の演算は、例えば過去数分間分のサンプリング周期における補正負荷量の積算値に、外気温や車速、及びエンジン11の冷却水(クーラント)の温度等の指標値を加味して行うことができる。外気温が低く車速が高い場合には、駆動力伝達装置2が冷却されやすく、逆に外気温が高くて車速が低い場合には駆動力伝達装置2の熱が放熱されにくい。また、エンジン11の冷却水温は、エンジン11の始動後の経過時間に応じて変化することから、駆動力伝達装置2の温度と一定の相関関係がある。
【0053】
CPU71は、制御手段711としての演算処理に、メインクラッチ3の推定温度を用いる。具体的には、潤滑油の粘度が温度によって変化することに起因するメインクラッチ3の伝達トルクの誤差を抑制するため、メインクラッチ3の推定温度に応じて電流指令値を補正する。また、メインクラッチ3の推定温度が過熱状態を示す所定の温度閾値以上である場合には、さらなるメインクラッチ3の温度上昇を抑制するための過熱保護制御を行う。過熱保護制御の具体的な制御内容としては、第1段階として電流指令値を高めてメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動を抑制し、それでもメインクラッチ3の温度が上昇する場合には、第2段階として、電流指令値をゼロ程度に低減するといった処理が挙げられる。
【0054】
制御装置7には、運転者が始動スイッチ112をオン状態にすることでバッテリーから電源が供給される。また、制御装置7は、始動スイッチ112がオフ状態となると、所定のパワーダウン処理を実行する。CPU71は、電源が供給されたときに不揮発性メモリ721から累積負荷量の情報を読み出し、パワーダウン処理においてその時点での累積負荷量の情報を不揮発性メモリ721に書き込む。パワーダウン処理において書き込まれた累積負荷量の情報は、次回の電源投入時に読み出される。
【0055】
図5は、CPU71がサンプリング周期毎に実行する処理の具体例を示すフローチャートである。CPU71は、制御装置7に電源が供給されている間、この処理を例えば5msごとに繰り返し実行する。
【0056】
CPU71は、回転速センサ61〜64、アクセルペダルセンサ65、及び操舵角センサ66の検出結果に基づいて左右後輪191,192に伝達すべき駆動力の目標値であるトルク指令値を演算し(ステップS1)、このトルク指令値を電磁コイル53に供給すべき制御電流の目標値に変換し、電流指令値を演算する(ステップS2)。次に、CPU71は、ハウジング20とインナシャフト23との差動回転速度ならびに電流指令値に基づいて、メインクラッチ3の負荷量を演算する(ステップS3)。
【0057】
次に、CPU71は、その時点での累積負荷量に基づいて補正係数マップ72bを参照して補正係数を演算する(ステップS4)。そして、この補正係数をステップS3で求めた負荷量に乗じて補正負荷量を演算する(ステップS5)。さらにCPU71は、ステップS5で算出した補正負荷量を累積負荷量に加算して新たな累積負荷量を演算(積算)する(ステップS6)。
【0058】
次に、CPU71は、複数のサンプリング周期にわたって積算された補正負荷量の積算値に基づき、外気温や車速あるいはエンジン11の冷却水温等を加味してメインクラッチ3の推定温度を演算する(ステップS7)。
【0059】
その後、CPU71は、ステップS7で演算されたメインクラッチ3の推定温度が過熱状態を示す所定の高温閾値以上であるか否かを判定し(ステップS8)、メインクラッチ3の推定温度がこの高温閾値以上である場合には過熱保護制御を行う(ステップS9)。また、CPU71は、ステップS7で演算されたメインクラッチ3の推定温度が所定の低温閾値(例えば0℃)以下であるか否かを判定し(ステップS10)、メインクラッチ3の推定温度が低温閾値以下である場合には、潤滑油の粘度によるメインクラッチ3の伝達トルクの誤差を抑制するため、メインクラッチ3の推定温度に応じて電流指令値を補正する(ステップS11)。
【0060】
また、CPU71は、以上の処理で演算された電流指令値に応じてPWM信号を生成して電流出力部73に出力し(ステップS12)、1回のサンプリング周期における処理を終了する。上記の各ステップのうち、ステップS1,S2,及びS8〜12は、CPU71が制御手段711として実行する処理である。ステップS4〜S6は、CPU71が累積負荷量演算手段712として実行する処理である。ステップS3は、CPU71が負荷量演算手段713として実行する処理である。ステップS7は、CPU71が温度推定手段714として実行する処理である。
【0061】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、複数のサンプリング周期におけるメインクラッチ3の熱負荷の瞬時値である負荷量、及び駆動力伝達装置2の使用開始後の累積負荷量に基づいてメインクラッチ3の温度を推定するので、累積負荷量を考慮しない場合に比較して、長期使用後でもメインクラッチ3の温度を精度よく推定することが可能となる。また、本実施の形態では、メインクラッチ3の負荷量に累積負荷量に応じた補正係数を適用した補正負荷量を用いてメインクラッチ3の温度を推定するので、累積負荷量自体にも補正係数が適用され、メインクラッチ3の温度をより精度よく推定することが可能となる。
【0062】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0063】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、各演算処理の具体的な手順は上記のものに限らず、本発明の目的を達成し得る限り適宜変更してもよい。例えば、上記実施の形態では、累積負荷量に応じた補正係数を負荷量に乗じて補正負荷量を算出し、この補正負荷量を複数のサンプリング周期にわたって積算した積算値に基づいてメインクラッチ3の温度を推定する場合について説明したが、これに限らず、負荷量を単に積算することによって累積負荷量を求め、複数のサンプリング周期にわたって負荷量を積算した積算値に基づいてメインクラッチ3の基準推定温度を算出し、この基準推定温度に対して累積負荷量に応じた係数を乗じて最終的なメインクラッチ3の推定温度を算出してもよい。
【符号の説明】
【0064】
2…駆動力伝達装置
20…ハウジング(第1の回転部材)
3…メインクラッチ(摩擦クラッチ)
23…インナシャフト(第2の回転部材)
31…メインアウタクラッチプレート(第1のクラッチプレート)
32…メインインナクラッチプレート(第2のクラッチプレート)
4…カム機構(押圧機構)
7…制御装置
712…累積負荷量演算手段
713…負荷量演算手段
714…温度推定手段
図1
図2
図3
図4
図5