前記傾きは、クリープデータを測定するクリープデータ測定期間のうち、当該クリープデータ測定期間の中盤以降に現れる前記領域での傾きである、請求項1に記載の、積層弾性体のクリープ予測方法。
前記過渡クリープデータ測定ステップでは、複数の過渡経年に対応するように、複数の熱老化積層弾性体を用いて過渡クリープデータの測定を行い、前記過渡クリープデータの傾き算出ステップでは、それぞれの過渡経年に対応する熱老化積層弾性体を用いて、それぞれの傾きを求め、前記クリープ予測線合成ステップでは、前記最初の過渡経年以降は、前記それぞれの傾きを経年経過に合わせて順次用い、前記クリープ予測線を合成する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の、積層弾性体のクリープ予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
建物の免震装置の一部に使用される積層ゴム(積層弾性体)は、長期にわたる使用により、建物重量による鉛直荷重を継続して負担している。このため、積層ゴムには、建物重量の鉛直荷重によって、時間の経過と共に進行する変形(クリープひずみ)が生じる。クリープは、長期的な耐久性を判断するための1つの要素である。また積層ゴムの経年老化も長期的な耐久性を判断するための1つの要素である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法は、到達経年までのクリープ予測を要する試験体(以下、「基準試験体」ともいう。)と、当該試験体と実質的に同一の試験体であって、熱老化によって老化を促進させた、少なくとも1つの他の試験体(以下、「熱老化試験体」ともいう。)とを用い、新品の状態から前記到達経年の状態までの、基準試験体のクリープ予測線を合成し、当該基準試験体のクリープを予測する。
【0018】
[試験体(積層弾性体)]
本実施形態の一実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、経年の水準(試験体)は、少なくとも経年0年(未劣化)を含めて、2つの水準を必要とする。
【0019】
(基準試験体)
基準試験体には、老化を促進させていない積層弾性体(以下、「基準積層弾性体」ともいう。)が用いられる。基準試験体は、少なくとも1つの基準積層弾性体とする。本実施形態では、基準試験体には、熱老化されてない新品の積層弾性体を用いる。
【0020】
(熱老化試験体)
熱老化試験体には、老化を促進させた積層弾性体(以下、「熱老化積層弾性体」ともいう。)が用いられる。熱老化試験体は、少なくとも1つの熱老化積層弾性体とする。クリープひずみの促進は熱老化によって行う。本実施形態では、熱老化試験体を得るための促進老化の方法は、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.1及び付属書A(規定)に開示された「期待使用期間(20°C換算)に相当する促進老化条件の決定方法」に従う。
【0021】
基準試験体及び熱老化試験体は、現物と同形状又は幾何学的に相似な形状の試験体とすることが望ましい。なお、「幾何学的に相似な形状の試験体」とは、現物に対して縮尺した試験体をいう。なお、「JIS K 6410−1」(2015)の7.3.2の表13及び表14では、試験体の形状をゴム径φ150mm以上に限定している。しかしながら、本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、試験体のゴム径φは、50mm以上であればよい。
【0022】
本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、試験体は、弾性部材と剛性部材とが交互に配列された積層弾性体の他、当該積層弾性体が一部に配置されたユニット(組立体)とすることができる。前記ユニットとしては、例えば、
図1に例示する免震装置10が挙げられる。本実施形態では、免震装置10は、少なくとも一部に積層ゴム(積層弾性体)1を有している。積層ゴム1は、ゴム部材(弾性部材)2と鋼板(剛性部材)3とが交互に配列されている。また本実施形態では、積層ゴム1は、中心部に直径φ’の穴を有する上側鋼板4と下側鋼板5とを有している。積層ゴム1の中心には直径をφ’とする円筒状の空間8が形成されている。更に本実施形態では、上側鋼板4には、上側フランジ鋼板6が取り付けられている。また本実施形態では、下側鋼板5には、下側フランジ鋼板7が取り付けられている。例えば、
図1の免震装置10を基準試験体A1とした場合、当該基準試験体A1のゴム径φは、鋼板3の外径としている。また、ゴム内径φ’は鋼板3の内径としている。
【0023】
本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、少なくとも1つの基準試験体と、少なくとも1つの熱老化試験体とを使用する。即ち、到達経年までのクリープひずみを予測するべき積層弾性体の基準となる基準試験体と、前記到達経年前の、少なくとも1つの過渡経年に対応するように熱老化された、少なくとも1つの熱老化試験体とを使用する。
【0024】
本実施形態では、到達経年は、例えば、製品寿命として想定した年である。本実施形態では、到達経年を60年とする。基準試験体A1は、経年0年の1つの積層弾性体(基準積層弾性体)である。本実施形態では、基準積層弾性体は、老化を促進させてない免震装置10である。また熱老化試験体は、任意の経年年数まで老化を促進させた、複数の積層弾性体(熱老化積層弾性体)である。本実施形態では、熱老化試験体には、3つの熱老化試験体A2−A4を用いている。本実施形態では、熱老化試験体A2は、経年10年(過渡経年)相当の熱老化積層弾性体である。また熱老化試験体A3は、経年20年(過渡経年)相当の熱老化積層弾性体である。更に熱老化試験体A4は、経年40年(過渡経年)相当の熱老化積層弾性体である。熱老化試験体A2−A4はそれぞれ、老化(クリープひずみ)を促進させた免震装置10である。但し、熱老化試験体の個数は、到達経年までの間の年数に対して、少なくとも1つ以上であればよい。
【0025】
本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、熱老化積層弾性体の促進老化の方法は、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.1及び付属書A(規定)に開示された「期待使用期間(20°C換算)に相当する促進老化条件の決定方法」に従う。この方法に従えば、例えば、老化を促進するための熱老化温度は100°C以下とすることができる。本実施形態では、熱老化温度は80°Cである。本実施形態では、上述のとおり、熱老化試験体A2−A4はそれぞれ、経年10年、20年及び40年相当に促進老化させた試験体である。各経年相当に熱老化させるための熱老化時間tyは、上記決定方法に従い、以下の式(1)から求めることができる。
【0026】
ln(ty)=Ea((1/Ty)−(1/To))/R+ln(t) ・・・(1)
ln:自然対数
Ea :活性化エネルギー(J/mol)
R :気体定数(8.314J/(mol・K))
To :20°C=293K(絶対温度)
Ty :熱老化温度(絶対温度)
t :20°Cでの期待使用期間(h)
ty :熱老化時間(h)
【0027】
本実施形態では、活性化エネルギーEaは、上記決定方法にて用いられている活性化エネルギーの計算方法に従い求めることができる。また本実施形態では、熱老化温度Tyは、80°C=353Kである。期待使用期間は、熱老化試験体A2の場合、10年、熱老化試験体A3の場合、20年、そして、熱老化試験体A4の場合、40年である。なお、本実施形態では、期待使用期間は、製品寿命としての到達経年である。期待使用期間の単位は、時(h)とする。
【0028】
上記式(1)によれば、経年10年相当、活性化エネルギー77000J/molの場合、熱老化時間tyは、日数に換算すると、17日である。即ち、熱老化試験体A2は、80°Cの状態を17日の間維持することにより、20°C換算で経年10年相当の熱老化積層弾性体となる。また上記式(1)によれば、経年20年相当の場合、熱老化時間tyは、日数に換算すると、34日である。即ち、熱老化試験体A3は、80°Cの状態を34日の間維持することにより、20°C換算で経年20年相当の熱老化積層弾性体となる。更に上記式(1)によれば、経年40年相当の場合、熱老化時間tyは、日数に換算すると、68日である。即ち、熱老化試験体A4は、80°Cの状態を68日の間維持することにより、20°C換算で経年40年相当の熱老化積層弾性体となる。
【0029】
熱老化試験体を得るための具体的な熱老化の方法としては、例えば、2つの方法が挙げられる。第1の方法は、熱老化前の試験体(基準積層弾性体に相当する積層弾性体)を密閉容器に格納した後、当該密閉容器をオーブン(恒温層)の格納部分に格納し、当該オーブンを用いて前記試験体を間接的に加熱する方法(熱老化法1)である。第2の方法は、オーブンを用いて熱老化前の試験体を直接的に加熱する方法(熱老化法2)である。熱老化法1及び熱老化法2のいずれの場合も、前記オーブンは少なくとも、当該オーブンの格納部分を、試験体周辺の雰囲気が100°C以下の一定温度に一定期間維持されるものであることが好ましい。
【0030】
また熱老化法1及び熱老化法2のいずれの場合も、試験雰囲気(試験体が接触する雰囲気)は、大気雰囲気とすることができるが、酸素が窒素に置換された窒素雰囲気とすることが好ましい。熱老化法1の場合、例えば、前記密閉容器として、当該密閉容器の格納室の酸素を窒素で置換可能な密閉容器を使用する。この場合、前記密閉容器の格納室に熱老化前の試験体を格納した後、当該密閉容器の格納室内の酸素を窒素で置換する。また熱老化法2の場合、例えば、前記オーブンとして、当該オーブンの格納部分の酸素を窒素で置換可能なオーブンを使用する。この場合、前記オーブンの格納部分に熱老化前の試験体を格納した後、当該オーブンの格納部分内の酸素を窒素で置換する。
【0031】
即ち、熱老化法1では、熱老化前の試験体を前記密閉容器に格納した後、当該密閉容器内の空気を窒素に置換し、その後、前記密閉容器を前記オーブンに格納し、当該オーブンにて、前記熱老化前の試験体を100°C以下の一定温度で一定期間加熱する。これにより、熱老化前の試験体の老化を促進させることができる。また熱老化法2では、熱老化前の試験体を前記オーブンに格納した後、当該オーブン内の空気を窒素に置換し、その後、前記オーブンにて、前記熱老化前の試験体を100°C以下の一定温度で一定期間加熱する。これにより、所望の経年年数相当まで、熱老化前の試験体の老化を促進させることができる。免震ゴムの場合、通常試験体は、実際の免震ゴムよりも小さく縮尺したものを使用する。この場合、実際の免震ゴムと異なり、酸化劣化が試験体の内部にまで及ぶことがある。このため、酸素を窒素で置換すれば、酸化劣化の影響が試験体の内部まで及びことを防止することができる。
【0032】
次に、
図1の、積層ゴム1が一部に配置された免震装置10を例に、本実施形態に係る積層弾性体のクリープ予測方法を説明する。
【0033】
本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法は、(1)初期クリープデータ測定ステップ(S1)と、(2)過渡クリープデータ測定ステップ(S2)と、(3)初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)と、(4)過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S34)と、(5)クリープ予測線合成ステップ(S5)と、を有する。
【0034】
[初期クリープデータ測定ステップ]
初期クリープデータ測定ステップ(S1)では、熱老化されていない基準積層弾性体を用い、当該基準積層弾性体に対して常温雰囲気の下で面圧を負荷し、初期クリープデータを測定する。
【0035】
初期クリープデータ測定ステップ(S1)では、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.2及び付属書Dに準拠するクリープ試験を行う。例えば、試験雰囲気は、常温雰囲気とする。本実施形態では、常温の定義は「JIS Z 8703」(1983)の4に準拠した。即ち、本実施形態では、常温雰囲気とは、試験体を取り巻く空気が20C°±15°Cの範囲の状態をいう。また面圧Pは、建物重量等に応じて適宜設定可能である。例えば、面圧Pは、1−20MPaの範囲とすることができる。本実施形態では、面圧Pは、5MPaとしている。試験期間(初期クリープデータを測定する初期クリープデータ測定時間)及び測定間隔も、上記クリープ試験に従う。本実施形態では、クリープ時刻歴(クリープの時系列変化)は、独立変数(横軸)及び従属変数(縦軸)が対数スケールの両対数グラフで表される。このため、試験期間は、両対数グラフ上で、線形領域が明確となるように、2年としている。
【0036】
初期クリープデータ測定ステップ(S1)では、基準積層弾性体として、クリープひずみεを促進させていない
図1の免震装置10を用いる。クリープひずみεは、各測定時間tごとに、以下の式(2)及び(3)から求めることができる。式(2)及び式(3)は、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.2.4 a)の式(8)及びb)の式(9)に準拠する。なお、本実施形態では、「クリープデータを測定する」とは、以下の各パラメータを測定し、これらのパラメータを基に、クリープひずみεを演算することをいう。
【0037】
ΔH20=ΔHτ+n×dτ(Tf−20)α ・・・(2)
ΔH20:規定温度(20°C)における試験体高さの変化量(mm)
ΔHτ:Tfにおける試験体高さの変化量
n :弾性部材の層数
dτ :弾性部材の1層の厚さ
Tf :試験体の弾性部材の表面温度(°C)
α :線膨張係数(Tf °C〜規定温度(20°C))
但し、αは付属書Bによる。
【0038】
ε=(ΔH20×100)/(n×dτ) ・・・(3)
ε :規定温度(20°C)におけるクリープひずみ(%)
【0039】
測定時間tにおけるクリープひずみεは、ε(t)である。クリープひずみε(t)は式(3)から求めることができる。本実施形態では、基準試験体A1の測定時間tにおけるクリープひずみεは、ε
1(t)である。
【0040】
[過渡クリープデータ測定ステップ]
過渡クリープデータ測定ステップ(S2)では、前記到達経年の前の、少なくとも1つの過渡経年に対応するように熱老化された、少なくとも1つの熱老化積層弾性体を用い、当該熱老化積層弾性体に対して常温雰囲気の下で面圧Pを負荷し、過渡クリープデータを測定する。
【0041】
過渡クリープデータ測定ステップ(S2)では、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.2及び付属書Dに準拠するクリープ試験を行う。例えば、試験雰囲気は、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、常温雰囲気とする。また面圧Pは、建物重量等に応じて適宜設定可能であるが、本実施形態では、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、面圧Pは、5MPaとしている。試験期間(過渡クリープデータを測定する過渡クリープデータ測定時間)及び測定間隔も初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、上記クリープ試験に従う。本実施形態では、クリープ時刻歴(クリープの時系列変化)は、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、独立変数(横軸)及び従属変数(縦軸)が対数スケールの両対数グラフで表される。このため、試験期間も、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、両対数グラフ上で、線形領域が明確となるように、2年としている。
【0042】
過渡クリープデータ測定ステップ(S2)では、熱老化積層弾性体として、クリープひずみεを促進させた
図1の免震装置10を用いる。本実施形態では、免震装置10は、試験体A2−A4であり、これら3つの試験体のデータを測定する。クリープひずみεは、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、各測定時間tごとに、上述の式(2)及び(3)から求めることができる。
【0043】
測定時間tにおけるクリープひずみεは、初期クリープデータ測定ステップ(S1)と同様、上記の式(3)から求めることができる。本実施形態では、熱老化試験体A2の測定時間tにおけるクリープひずみεは、ε
2(t)である。また熱老化試験体A3の測定時間tにおけるクリープひずみεは、ε
3(t)である。更に熱老化試験体A4の測定時間tにおけるクリープひずみεは、ε
4(t)である。クリープひずみε(t)は、熱老化試験体A2−A4のそれぞれについて求められる。
【0044】
[初期クリープデータ測定ステップ及び過渡クリープデータ測定ステップ]
図2は、初期クリープデータ測定ステップ(S1)及び過渡クリープデータ測定ステップ(S2)にて測定した、各試験体A1−A4それぞれのクリープデータ(過渡クリープひずみ)の時系列的な変化を示したグラフである。このグラフは、対数スケールの両対数グラフである。
図2では、独立変数(横軸)はlog
10tである。また従属変数(縦軸)はlog
10ε(t)である。本実施形態では、常用対数を用いて、底を10としているが、自然対数を用いて、底をeとすることもできる。
【0045】
図2では、細字実線は、経年0年相当の基準試験体A1のクリープデータ(初期クリープデータ)の時系列的な変化を示したグラフである。一点鎖線は、経年10年相当の熱老化試験体A2のクリープデータ(過渡クリープデータ)の時系列的な変化を示したグラフである。二点鎖線は、経年20年相当の熱老化試験体A4のクリープデータ(過渡クリープデータ)の時系列的な変化を示したグラフである。太字実線は、経年40年相当の熱老化試験体A4のクリープデータ(過渡クリープデータ)の時系列的な変化を示したグラフである。
【0046】
なお、本実施形態では、初期クリープデータ測定ステップ(S1)を過渡クリープデータ測定ステップ(S2)に先立って実行しているが、初期クリープデータ測定ステップ(S1)に先立って過渡クリープデータ測定ステップ(S2)を実行することができる。また初期クリープデータ測定ステップ(S1)及び過渡クリープデータ測定ステップ(S2)は同時並行的に実行することができる。
【0047】
[初期クリープデータの傾き算出ステップ]
初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)では、前記初期クリープデータを使用して、当該初期クリープデータの測定時間tに対するクリープひずみεの変化が実質的に安定となる所定の領域での、測定時間tに対するクリープひずみεの傾きを求める。本実施形態では、「実質的に安定となる所定の領域」とは、「初期クリープデータの測定時間tに対するクリープひずみεの変化がほぼ線形となる領域(以下、単に「線形領域」ともいう。)」をいう。
【0048】
本実施形態では、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.2.4 d)の式(10)に従い、このクリープ試験結果に最小二乗法を用いて両対数関係で、以下の式(4)で表される一次回帰線を求める。
【0049】
log
10ε(t)=log
10p
+qlog
10t ・・・(4)
t :測定時間
p,q:式(4)で回帰するときの係数
【0050】
式(4)で表される一次回帰線は、対数スケールの両対数グラフである。式(4)の独立変数はlog
10tである。また式(4)の従属変数はlog
10ε(t)である。係数p及びqは、クリープ試験の測定時間tの対数スケールlog
10tと、式(3)から求められた各測定時間tに対応するクリープひずみεの対数スケールlog
10ε(t)とを用いて算出することができる。
【0051】
初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)で求めるべき傾きは、式(4)のqである。本実施形態では、logに、常用対数を用いて底を10としている。但し、本発明によれば、logに、自然対数を用いて底をeとすることもできる。また時間tの単位は、時間(h)である。
【0052】
係数qは、クリープデータを測定するクリープデータ測定期間のうち、当該クリープデータ測定期間の中盤以降に現れる前記領域での傾きであることが好ましい。具体的には、係数qは、初期クリープデータの測定期間の1/2から1000時間以上の区間から求めた一次回帰線の傾きに対応することが好ましい。本実施形態では、初期クリープデータの測定期間は、上述のとおり、線形領域が明確になるように2年(17531.52時間)としている。即ち、本実施形態では、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)では、係数qは、2年の測定期間のうち、1年から2年までの区間に現れる線形領域での、傾きである。
【0053】
基準試験体A1の一次回帰線log
10ε
1(t)は、上述の式(4)により、以下の式(4−1)で表される。このときの係数pは、p
1である。また係数qは、q
1である。
【0054】
log
10ε
1(t)=log
10p
1 +q
1log
10t ・・・(4−1)
【0055】
[過渡クリープデータの傾き算出ステップ]
過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)では、前記過渡クリープデータを使用して、当該過渡クリープデータの測定時間tに対するクリープひずみεの変化が実質的に安定となる所定の領域での、測定時間tに対するクリープひずみεの傾きを求める。本実施形態では、「実質的に安定となる所定の領域」とは、「過渡クリープデータの測定時間tに対するクリープひずみεの変化がほぼ線形となる領域(以下、単に「線形領域」ともいう。)」をいう。
【0056】
本実施形態では、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S4)と同様、「JIS K 6410−2」(2015)の6.7.2.4 d)の式(10)に従い、上述の式(4)の一次回帰線を求める。
【0057】
過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)で求めるべき傾きは、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)と同様、式(4)のqである。過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)でも、logに、常用対数を用いて底を10としている。但し、本発明によれば、logに、自然対数を用いて底をeとすることもできるまた時間tの単位は、時間(h)である。
【0058】
係数qは、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)と同様、クリープデータを測定するクリープデータ測定期間のうち、当該クリープデータ測定期間の中盤以降に現れる前記領域での傾きであることが好ましい。具体的には、係数qは、過渡クリープデータの測定期間の1/2から1000時間以上の区間から求めた一次回帰線の傾きに対応することが好ましい。本実施形態では、過渡クリープデータの測定期間は、上述のとおり、線形領域が明確になるように2年としている。即ち、過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)では、係数qは、2年の測定期間のうち、1年から2年までの区間に現れる線形領域での、傾きである。
【0059】
熱老化試験体A2の一次回帰線log
10ε
2(t)は、上述の式(4)により、以下の式(4−2)で表される。このときの係数pは、p
2である。また係数qは、q
2である。
【0060】
log
10ε
2(t)=log
10p
2 +q
2log
10t ・・・(4−2)
【0061】
また熱老化試験体A3の一次回帰線log
10ε
3(t)は、上述の式(4)により、以下の式(4−3)で表される。このときの係数pは、p
3である。また係数qは、q
3である。
【0062】
log
10ε
3(t)=log
10p
3 +q
3log
10t ・・・(4−3)
【0063】
また熱老化試験体A4の一次回帰線log
10ε
4(t)は、上述の式(4)により、以下の式(4−4)で表される。このときの係数pは、p
4である。また係数qは、q
4である。
【0064】
log
10ε
4(t)=log
10p
4 +q
4log
10t ・・・(4−4)
【0065】
[初期クリープデータの傾き算出ステップ及び過渡クリープデータの傾き算出ステップ]
図2中、時間t
Mは、クリープデータの測定を開始してから、クリープデータ測定期間の1/2の時間が経過したときの時間である。本実施形態では、クリープデータの測定時間に対するクリープひずみの変化が線形となる線形領域での傾きqは、時間t
Mと、当該時間t
Mから1000時間以上経過した時間t
xとの区間に現れる線形領域での傾きとしている。また本実施形態では、初期クリープデータの測定期間と過渡クリープデータの測定期間とは同じ期間である。
【0066】
図2中、基準試験体A1のクリープデータから得られた傾きは、q
1である。このq
1が初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)にて求めるべき、経年0年相当の傾きである。
【0067】
一方、
図2中、熱老化試験体A2のクリープデータから得られた傾きは、q
2である。このq
2が過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)にて求めるべき、経年10年相当の傾きである。また
図2中、熱老化試験体A3のクリープデータから得られた傾きは、q
3である。このq
3も過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)にて求めるべき、経年20年相当の傾きである。更に
図2中、熱老化試験体A4のクリープデータから得られた傾きは、q
4である。このq
4も過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)にて求めるべき、経年40年相当の傾きである。即ち、本実施形態では、過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)において、3つの経年年数相当の熱老化試験体のクリープデータから得られた傾きを求めている。
【0068】
なお、本実施形態では、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)を過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)に先立って実行しているが、初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)に先立って過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)を実行することができる。また初期クリープデータの傾き算出ステップ(S3)及び過渡クリープデータの傾き算出ステップ(S4)は同時並行的に実行することができる。
【0069】
[クリープ予測線合成ステップ]
クリープ予測線合成ステップ(S5)では、新品の状態から最初の過渡経年の状態までは、前記初期クリープデータから求めた前記傾きを用い、前記最初の過渡経年以降は、前記過渡クリープデータから求めた前記傾きを用い、新品の状態から過渡経年の状態を経て前記到達経年の状態までのクリープ予測線を合成する。
【0070】
クリープひずみの予測に用いられる時間をTとし、経年(過渡経年)T
1=10年とすると、予測開始から過渡経年10年までの間(0≦T≦T
1)のクリープ予測線は、上述の式(4−1)により、以下の式(5−1)で表される。
【0071】
log
10ε(T)=log
10p
1+q
1log
10T ・・・(5−1)
【0072】
次いで経年(過渡経年)T
2=20年とすると、過渡経年10年から過渡経年20年までの間(T
1<T≦T
2)のクリープ予測線は、上述の式(4−2)により、以下の式(5−2)で表される。
【0073】
log
10ε(T)=log
10ε(T
1)+q
2(log
10T−log
10T
1) ・・・(5−2)
【0074】
次いで経年(過渡経年)T
3=40年とすると、過渡経年20年から過渡経年40年までの間(T
2<T≦T
3)のクリープ予測線は、上述の式(4−3)により、以下の式(5−3)で表される。
【0075】
log
10ε(T)=log
10ε(T
2)+q
3(log
10T−log
10T
2) ・・・(5−3)
【0076】
次いで経年(到達経年)T
4=60年とすると、過渡経年40年から到達年数60年までの間(T
3<T≦T
4)のクリープ予測線は、上述の式(4−4)により、以下の式(5−4)で表される。
【0077】
log
10ε(T)=log
10ε(T
3)+q
4(log
10T−log
10T
3) ・・・(5−4)
【0078】
本実施形態では、上述の式(5−1)−式(5−4)を合成することにより、新品から到達経年相当までのクリープ予測線を得ることができる。なお、本実施形態では、1年は、365.24日とし、10年は、T
1=87657.6(h)、20年は、T
2=175315.2(h)、40年は、T
3=350630.4(h)、60年は、T
4=525945.6(h)を使用する。
【0079】
図3は、クリープ予測線合成ステップ(S5)にて合成された、上述のクリープ予測線を示した両対数グラフである。
図3では、独立変数(横軸)はlog
10Tである。また従属変数(縦軸)はlog
10ε(T)である。
【0080】
本実施形態では、クリープの経年変化の予測開始から過渡経年10年までの間(0≦T≦T
1)のクリープ予測線は、
図3の細字実線に示すように、上述の式(5−1)で表される。即ち、
図1の免震装置10が新品の状態から過渡経年10年相当の状態までは、式(5−1)に基いて、クリープひずみを予測することができる。
【0081】
また本実施形態では、過渡経年10年を超えて過渡経年20年までの間(T
1<T≦T
2)のクリープ予測線は、
図3の一点鎖線に示すように、上述の式(5−2)で表される。即ち、
図1の免震装置10が過渡経年10年相当の状態から過渡経年20年相当の状態までは、式(5−2)に基いて、クリープひずみを予測することができる。
【0082】
また本実施形態では、過渡経年20年を超えて過渡経年40年までの間(T
2<T≦T
3)のクリープ予測線は、
図3の二点鎖線に示すように、上述の式(5−3)で表される。即ち、過渡経年20年相当の状態から過渡経年40年相当の状態までは、式(5−3)に基いて、クリープひずみを予測することができる。
【0083】
更に本実施形態では、過渡経年40年を超えて到達経年60年までの間(T
3<T≦T
4)のクリープ予測線は、
図3の太字実線に示すように、上述の式(5−4)で表される。即ち、過渡経年40年相当の状態から到達経年60年相当の状態までは、式(5−4)に基いて、クリープひずみを予測することができる。従って、製品寿命として想定した到達経年60年相当のクリープひずみεは、式(5−4)、より具体的には、式(5−1)−式(5−4)に基いて、予測することができる。
【0084】
一方、老化を促進させない基準試験体A1のみで、到達経年60年相当までのクリープひずみεを予測した場合、その予測は、
図3の破線に示すように、式(5−1)に基いて行われる。一般的に、年数経過に伴い、クリープひずみεの変化の減少は小さくなっていく。しかしながら、式(5−1)に基いた予測の場合、クリープひずみεの変化、ひいては該当変化速度は、本実施形態に係るクリープ予測方法を用いて予測したときよりも大きい(q
4<q
1)。
【0085】
これに対し、本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、熱老化されてない基準積層弾性体と、過渡経年に対応するように熱老化された、少なくとも1つの熱老化積層弾性体とを用い、それぞれの線形領域でのクリープひずみの傾きを求め、これらの傾きを用いてクリープ予測線を合成することで、経年年次相当のクリープを順次予測している。このため、クリープひずみεの変化、ひいては当該変化の減少量を正確に予測することができる(q
1>q
2>q
3>q
4)。
【0086】
従って、本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法によれば、積層ゴム1の経年老化を加味した精度の高いクリープ予測が可能となる。
【0087】
また本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、傾き(係数q)は、クリープデータを測定するクリープデータ測定期間のうち、当該クリープデータ測定期間の中盤以降に現れる線形領域での傾きである。この場合、傾き(係数q)が安定した線形領域での、当該傾きを用いることにより、積層ゴム1の経年老化を加味したクリープ予測の信頼性を高めることができる。
【0088】
また本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、熱老化積層弾性体は、窒素雰囲気内での加熱により熱老化された積層弾性体であるとすることができる。この場合、酸化劣化が小さく抑えられることにより、積層ゴム1の経年老化を加味したクリープ予測の信頼性をより高めることができる。
【0089】
また本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法によれば、前記過渡クリープデータ測定ステップでは、複数の過渡経年に対応するように、複数の熱老化積層弾性体を用いて過渡クリープデータの測定を行い、前記過渡クリープデータの傾き算出ステップでは、それぞれの過渡経年に対応する熱老化積層弾性体を用いて、それぞれの傾きを求め、前記クリープ予測線合成ステップでは、前記最初の過渡経年以降は、前記それぞれの傾きを経年経過に合わせて順次用い、前記クリープ予測線を合成する。この場合、前記クリープ予測線をより細分化して合成できることにより、より長期かつ精度よく、積層ゴム1の経年老化を加味したクリープ予測を行うことができる。
【0090】
また本実施形態に係る、積層弾性体のクリープ予測方法によれば、傾き(係数q)は、独立変数(横軸)及び従属変数(縦軸)が対数スケールの両対数グラフの傾きである。この場合、前記クリープ予測線を簡易に合成できることにより、積層ゴム1の経年老化を加味したクリープ予測を簡易に行うことができる。
【0091】
また本発明に係る、積層弾性体のクリープ予測方法によれば、熱老化積層弾性体は、積層弾性体の外周を被覆部材で被覆した状態で熱老化された積層弾性体とすることができる。即ち、本実施形態に係るクリープ予測方法では、前記熱老化試験体として、老化前の試験体の外周を、シート等の被覆部材で被覆した状態で熱老化させた試験体を用いることができる。この場合、酸化劣化が小さく抑えられることにより、積層弾性体の経年劣化を加味したクリープひずみの予測の信頼性をより高めることができる。また、過渡クリープデータ測定ステップにおいては、前記被覆部材を取り外すことにより、測定への当該被覆部材の影響を除外できる。前記被覆部材を例えば、シートとした場合、当該シートの材料としては、空気遮蔽性に優れたブチルゴムやエピクロルヒドリンゴムが望ましい。
【0092】
本発明に係る、積層弾性体のクリープ予測方法では、前記熱老化積層弾性体は、熱老化された1次形状係数が3から20の範囲にある積層弾性体とすることができる。即ち、本実施形態に係るクリープ予測方法では、前記熱老化試験体として、熱老化された1次形状係数が3から20の範囲にある試験体を用いることができる。1次形状係数が3から20の範囲にある積層ゴムは、ゴム一層あたりの厚さが大きい厚肉積層ゴムである。こうした厚肉積層ゴムは、クリープひずみが大きい。このため、試験体として、熱老化された1次形状係数が3から20の範囲にある肉厚の積層ゴムを用いれば、当該積層ゴムの経年劣化を加味したクリープひずみの予測精度の改善効果が大きい。なお1次形状係数とは、ゴム径φとゴム内径φ’の差φ−φ’をゴム一層あたりの厚さの4倍で除した量である。
【0093】
上述したところは、本発明の一実施形態を開示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。例えば、本実施形態では、傾きは、両対数グラフから求められたが、両対数グラフから求めるものに限定されるものではない。過渡経年も、少なくとも1つ以上の標本があればよく、3つ以上を標本することができる。