型結晶構造を有し遷移金属元素(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであるリチウム遷移金属複合酸化物を活物質として含有する正極合剤層を備え、前記正極合剤層の密度が2.6g/cm
遷移金属の水酸化物前駆体とリチウム化合物とを混合して焼成したリチウム遷移金属複合酸化物を用い、前記リチウム遷移金属複合酸化物、導電剤及び結着剤を含有する合剤を集電体に塗布しプレスして、正極合剤層の密度が2.6g/cm
前記正極は、遷移金属元素(Me)としてMn及びNi、又はMn、Ni及びCoを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.4≦Mn/Me≦0.6であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池用の正極活物質として、α−NaFeO
2型結晶構造を有する「LiMeO
2型」活物質(Meは遷移金属)が検討され、LiCoO
2を用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。LiCoO
2の放電容量は120〜130mAh/g程度であった。前記Meとして、地球資源として豊富なMnを用いることが望まれてきた。しかし、MeとしてMnを含有させた「LiMeO
2型」活物質は、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できないため、充放電サイクル性能が著しく劣るという問題があった。
【0003】
そこで、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、充放電サイクル性能の点でも優れる「LiMeO
2型」活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi
1/2Mn
1/2O
2やLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2を含有する正極活物質は150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
上記のようないわゆる「LiMeO
2型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きい、いわゆる「リチウム過剰型」活物質も知られている。
【0005】
特許文献1には、「正極合剤を有する正極と、負極と、非水電解質とを備え、前記正極合剤は、正極活物質としてLi
1+x(Mn
yNi
zCo
1−y−z)
1−xO
2(0<x<0.4、0<y≦1、0≦z≦1)を含み、前記正極合剤の充填密度が2.2g/cm
3以上3.6g/cm
3以下であり、前記正極合剤の膜厚が50μm未満であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(請求項1)について、「正極活物質としてLi
1+x(Mn
yNi
zCo
1−y−z)
1−xO
2(0<x<0.4、0<y≦1、0≦z≦1)が用いられる。それにより、充放電に関与するリチウムが多く、高い容量が得られる。また、正極合剤の充填密度が2.2g/cm
3以上3.6g/cm
3以下であり、かつ正極合剤の膜厚が50μm未満であることにより、正極の電気抵抗の増大およびリチウムイオンの拡散速度の低下が抑制される。それにより、ハイレート放電性能が向上する。その結果、高い容量を維持しつつ優れた負荷特性が得られる。」(段落[0012])と記載されている。
【0006】
そして、実施例1に係る正極について、「正極1を以下のようにして作製した。水酸化リチウム(LiOH)と共沈法により作製したMn
0.67Ni
0.17Co
0.17(OH)
2とを所望の化学量論比になるように混合し、混合した粉末を出発原料として用いた。混合した粉末をペレットに成型し、空気中において900℃で24時間焼成を行うことにより、Li
1.20Mn
0.54Ni
0.13Co
0.13O
2からなる正極活物質を合成した。合成された正極活物質が正極合剤全体の90重量%になり、導電剤としてアセチレンブラックが正極合剤全体の5重量%になるように、正極活物質および導電剤を混合した。その後、この混合物に結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVdF)を正極合剤全体の5重量%となるように加え、さらにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えて混合し、スラリーを作製した。コーターを用いてそのスラリーをアルミニウム(A1)箔に塗布し、ホットプレートを用いて110℃で乾燥させた。これを2cm×2cmのサイズに切り取り、ローラを用いて圧延し、膜厚が29μmで充填密度が2.75g/cm
3の正極を作製した。」(段落[0058]、[0059])、「負極2には、所定の大きさにカットしたリチウム金属を用いた。」(段落[0060])と記載されている。
【0007】
特許文献2には、「リチウム遷移金属複合酸化物を含む非水電解質電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成するLiと遷移金属(Me)のモル比(Li/Me)が1より大きく、前記遷移金属(Me)がMn、Ni、及びCoを含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO
2型結晶構造を有し、空間群R3−mに帰属可能なX線回折パターンを有し、CuKα線を用いたX線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の回折ピークの半値幅(FWHM(104))が0.21°以上0.55°以下であり、前記(104)面の回折ピークの半値幅に対する(003)面の回折ピークの半値幅の比(FWHM(003)/FWHM(104))が0.72以下であり、前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めたピーク微分細孔容積が0.33mm
3/(g・nm)以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。」(請求項1)が記載されている。そして、正極活物質の質量あたりの放電容量(mAh/g)の値と、あらかじめ測定した正極活物質の真密度(g/cc)の値を用いて算出される正極活物質の体積当りの放電容量(mAh/cc)が優れることが記載されている(段落[0094]、[表2]等参照)。
【0008】
また、「このような高密度の活物質は、遷移金属水酸化物前駆体とリチウム化合物を焼成することによって得ることができる。」(段落[0026])、「本実施形態においては、正極活物質内部を密にし、小粒子化を可能とし、活物質が電極プレス時にロールに付着するのを防止するために、共沈前駆体を水酸化物とすることが好ましい。」(段落[0032])と記載され、実施例では、正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、負極として「金属リチウム」を用いる(段落[0091])と記載されている。
【0009】
一方、非水電解質二次電池用の負極活物質として、一般的に黒鉛等の炭素材料を用いることが知られている。
【0010】
特許文献3には、「正極と負極と非水電解質を備えた非水電解質電池において、前記正極は、α−NaFeO
2型結晶構造を有し組成式Li
1+αMe
1−αO
2(MeはCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、α>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を有すること、かつ、前記負極は、黒鉛と不定形炭素の混合物である炭素材料を含有する負極活物質を有し、前記炭素材料に含まれる前記不定形炭素の比率が5〜60質量%であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(請求項1)について、「高電位化成での負極上におけるLi析出を抑制しつつ、大きな電池容量かつ高出力が得られる非水電解質二次電池及びその非水電解質二次電池の製造方法を提供することを課題とする。」(段落[0014])と記載されている。
【0011】
そして、実施例1の正極活物質について、「前記共沈炭酸塩前駆体・・・に、炭酸リチウム・・・を加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.30:1.00である混合粉体を調製した。‥空気雰囲気中、常圧下、900℃で4h焼成した。・・・実施例1−1に係る2100ppmのNaを含むリチウム遷移金属複合酸化物Li
1.13Co
0.11Ni
0.17Mn
0.59O
2を作製した。」(段落[0075])、負極活物質について、「黒鉛性炭素と不定形炭素を95:5の質量比率で混合した活物質」(段落[0078])が記載されている。
【0012】
特許文献4には、「正極と負極と非水電解質を備えた非水電解質電池において、前記負極は、黒鉛と不定形炭素との混合物である炭素材料を含有する負極活物質を有し、前記非水電解質は、ホウ酸が添加された非水電解質であることを特徴とする非水電解質二次電池。」(請求項1)について、「本発明は、製造時の電池の膨れを抑制し、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。」(段落[0011])と記載されている。
【0013】
そして、実施例1の正極として、「前記共沈炭酸塩前駆体・・・に、炭酸リチウム・・・を加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が140:100である混合粉体を調製した。・・・空気雰囲気中、常圧下、常温から800℃まで10時間かけて昇温し、800℃で4h焼成した。・・・このようにして、組成式Li
1.17Co
0.10Ni
0.17Mn
0.56O
2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(以下「Li過剰型正極活物質」ともいう)を作製した。以下の実施例及び比較例では、前記Li過剰型正極活物質及び前記LiMeO
2型正極活物質を8:2の質量比で混合したものを正極活物質として用いた。」(段落[0073]、[0074])と記載され、負極として、「前記黒鉛と不定形炭素とを9:1の質量比率で混合したものを炭素材料として用いた。」(段落[0083])と記載され、その効果として、「炭素材料として不定形炭素を10〜30質量%含有する負極を用い、ホウ酸を添加した非水電解質と組み合わせることにより、製造時の電池の膨れを抑制し、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。」(段落[0087])と記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0023】
本発明の一側面は、リチウム過剰型活物質を含む正極合剤層の密度が2.6g/cm
3以上である正極と、黒鉛と非黒鉛質炭素を含有する負極を備えた非水電解質二次電池である点を特徴とする。
本発明の作用機構は、以下のように推定される。
LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2のような「LiMeO
2型」正極活物質に含まれるMnは、合成時点だけでなく、充放電反応が進行しても、Mn
4+のまま価数が変化しないのに対し、Li
2MnO
3とLiMeO
2との固溶体として表記可能な「リチウム過剰型」正極活物質に含まれるMnは、合成時点ではMn
4+であるが、充放電サイクルに伴って部分的にMn
3+を生成し、生成したMn
3+は、2Mn
3+→Mn
4++Mn
2+の不均化反応により、Mn
2+が生成する。このMn
2+は、正極合剤層の密度が低く、電解質との界面面積が大きいほど、溶解しやすい。正極から溶出したMn
2+は、負極の炭素材料に析出する反応が生じ、この反応に伴って、リチウムイオンも析出しやすくなる。析出したリチウムは高い電子伝導性を有していることから、その近傍の溶媒が電子を受け取りやすい状態となり、溶媒が分解しやすくなるため、ガスが発生すると推察される。
一方、炭素材料の中でも、非黒鉛質炭素は、多方向の挿入サイトを有する構造を有しているので、黒鉛よりもリチウムイオンの挿入が低抵抗で行われる。
そのため、黒鉛に非黒鉛質炭素を混合した負極を用いた場合、充放電サイクルに伴い、リチウム過剰型活物質に含まれるMnが負極に析出した場合であっても、Liの析出が抑制され、溶媒の分解反応が抑制され、ガス発生も抑制されると推察される。
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係る非水電解質二次電池及びその製造方法について、詳述する。
【0024】
[正極活物質]
本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極に含まれる活物質は、Co、Ni及びMnを含む遷移金属元素Me、並びにLiを含有し、Li
2MnO
3とLiMeO
2との固溶体として表記可能であり、組成式Li
1+αMe
1−αO
2(α>0)とも表記することができる、いわゆる「リチウム過剰型」である。
【0025】
本実施形態においては、組成式Li
1+αMe
1−αO
2において(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、1.15以上1.30以下とすることが好ましい。この範囲であると、体積当たりの放電容量が向上する。
遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.42〜0.66が好ましく、0.45〜0.60がより好ましい。この範囲であると、単位重量当たりの放電容量を維持しつつ、粉体密度を向上させることが可能であり、体積当たりの放電容量が向上する。また、一般に、正極合剤層の密度が高い正極板、なかでも、厚みが50μm以上の正極合剤層を備える正極板では、柔軟性が低下し、製造時の加工性が低下する傾向があるが、本実施形態においては、Mn/Meが0.66以下であることで、正極合剤層の密度が2.6g/cm
3以上である正極においても、正極板の柔軟性が低下する虞を効果的に低減できる。よって、厚みが50μm以上の正極合剤層を備える正極に適用した場合であっても、製造時の加工性に優れた正極板を提供することができるので、体積エネルギー密度が高い非水電解質電池を提供できる。
Coは初期効率を向上させる効果があるが、Coが多すぎると結晶子の成長が進み、FWHM(003)が小さくなりすぎる傾向がある。また、希少資源であることからコスト高である。したがって、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは0.24未満が好ましく、0.18未満がより好ましく、0でも良い。この範囲であると、体積当たりの放電容量が向上する。
遷移金属元素Meに対するNiのモル比Ni/Meは、0.2〜0.5が好ましく、0.25〜0.4がより好ましい。このような組成によって、放電容量が大きい非水電解質二次電池を得ることができる。
【0026】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO
2構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群P3112あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P3112に帰属されるものには、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li
1/3Mn
2/3]O
2型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも4.5V(Li/Li
+)付近を超えた充電を行うと、結晶中のLiの脱離に伴って結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P3112は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P3112モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記する。
【0027】
[正極活物質の製造方法]
本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする活物質(酸化物)の組成どおりに含有する原料を調整し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては、固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi
1−xMn
xO
2など)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0028】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本実施形態の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO
2)等を用いることができる。また、水溶液中にヒドラジン等の還元剤を含有させておいてもよい。
【0029】
正極活物質内部を密にし、正極合剤層の密度を高めるために、前記共沈法では、水酸化物前駆体を用いることが好ましい。溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて水酸化物前駆体を製造する工程において、pHは限定されるものではないが、10.5〜14とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを11.5以下とすることにより、タップ密度を1.00g/cm
3以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを11.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0030】
また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極の体積当たりのエネルギー密度を向上させることができる。
さらに、錯化剤と共に還元剤を用いることが好ましい。錯化剤としてはアンモニア、還元剤としてはヒドラジンを用いることができる。pHが10.5〜14の場合、アンモニア濃度は0.1〜2.0M、ヒドラジン濃度は0.02〜1.0Mとすることが好ましい。
【0031】
前記水酸化物前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0032】
本実施形態においては、アルカリ性を保った反応槽に水酸化物前駆体の原料水溶液を滴下供給して水酸化物前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤には水酸化ナトリウム又は水酸化リチウムを使用することができる。
水酸化物前駆体の原料水溶液を滴下供給する間、水酸化ナトリウム、アンモニア、及びヒドラジンを含む混合アルカリ溶液を適宜滴下する方法が好ましい。
【0033】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する水酸化物前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0034】
また、反応槽内にアンモニア等の錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、水酸化物前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた水酸化物前駆体を得ることができる。
【0035】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、15h以下が好ましく、10h以下がより好ましく、5h以下が最も好ましい。
【0036】
また、水酸化物前駆体及びリチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50を5μm以下とするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、pHを11.5〜14に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜10hが好ましく、pHを10.5〜11.5に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜5hが好ましい。
【0037】
水酸化物前駆体の粒子を、中和剤として水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去する。例えば、作製した水酸化物前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水100mlによる洗浄回数を5回以上とするような条件を採用することができる。
【0038】
本実施形態の非水電解質二次電池用活物質は、前記水酸化物前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0039】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li
1/3Mn
2/3]O
2型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本実施形態に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど水酸化物前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、水酸化物前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を傷めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0040】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本実施形態においては、焼成温度は少なくとも700℃以上とすることが好ましい。十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を低減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
また、発明者らは、本実施形態に係る活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで750℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本実施形態に係る活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として形成して充放電を行うことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。即ち、焼成温度を上記した活物質の酸素放出温度にできるだけ近付けるように選択することにより、はじめて、可逆容量が顕著に大きい活物質を得ることができる。
【0041】
上記のように、好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、モル比Li/Meが1.15〜1.30である場合に体積当たりの放電容量を充分なものとするために、焼成温度を800〜940℃とすることが好ましい。
【0042】
[正極の製造方法]
本実施形態に係る正極は、前記の製造方法により製造されたリチウム遷移金属複合酸化物を含有する活物質を用い、導電剤及び結着剤と混合した合剤を集電体に塗布し、プレスして、正極合剤層の密度を2.6g/cm
3以上とすることにより製造することができる。
【0043】
前記導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0044】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して0.1質量%〜50質量%が好ましく、特に0.5質量%〜30質量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0045】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、特に2〜30質量%が好ましい。
【0046】
合剤には、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総質量に対して添加量は30質量%以下が好ましい。
【0047】
前記合剤に、分散媒としてN−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水を混合したペーストを、アルミニウム箔、銅箔等の集電体の上に塗布し、50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより、正極を作製することができる。本実施形態に係る正極合剤層の2.6g/cm
3以上の密度は、前記正極をロールプレスすることにより、好適に作製される。前記正極合剤層の密度は、極板作製時における合剤の剥離、集電体箔の変形などが起こらないように、高すぎないことが好ましく、3.2g/cm
2以下であることが好ましい。塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0048】
正極合剤層の密度の測定は、次の手順で行う。電池に備えられている正極について正極合剤層の密度測定する場合には、まず、0.1CmAの電流で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)となる電池電圧に至るまで定電流放電を行い、放電末状態としてから、電池を解体し、正極板を取り出す。金属リチウム電極を負極に用いた電池でない場合は、正極板を十分に放電末状態とするため、取り出した正極板を用いて、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、0.1CmAの電流で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li
+)となる電池電圧に至るまでさらに定電流放電を行う。電池の解体以降の作業は露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。十分に放電末状態とした正極板は、ジメチルカーボネートを用いて電極に付着した電解液を十分に洗浄し、室温にて一昼夜減圧乾燥する。次に、正極板の質量及び厚みから、正極集電体に相当する質量及び厚みを差し引き、正極合剤層の密度を計算によって求める。
【0049】
[負極活物質]
本実施形態に係る負極は、活物質として黒鉛と非黒鉛質炭素を含有する。
本願明細書において、黒鉛とは、平均面間隔d
002が0.34nm未満の炭素材料を指し、非黒鉛質炭素とは、d
002が0.34nm以上の炭素材料を指す。非黒鉛質炭素は、ソフトカーボン(d
002が0.34〜0.36nm)、及びハードカーボン(d
002が0.37nm以上)に分類される。非黒鉛質炭素は、多方向の挿入サイトを有する構造を有しているので、黒鉛よりもリチウムイオンの挿入が低抵抗で行われるという特徴を有する。そのため、黒鉛に非黒鉛質炭素を混合した負極を用いた場合、充放電サイクルに伴い、リチウム過剰型活物質に含まれるMnが負極に析出した場合であっても、Liの析出が抑制され、溶媒の分解反応が抑制され、ガス発生も抑制されると推察される。なかでも、ハードカーボンは、ソフトカーボンに比べて、層間(d
002)が広いことから、リチウムイオンの挿入がより低抵抗で行われるため、好ましい。
ただし、放電容量を大きくするためには、非黒鉛質炭素が多すぎない方が好ましい。本実施形態においては、活物質に含まれる非黒鉛質炭素は、黒鉛と非黒鉛質炭素の合計量の5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。
【0050】
負極活物質の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが好ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0051】
[セパレータ]
本実施形態における非水電解質二次電池のセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0052】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0053】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0054】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0055】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0056】
[非水電解質二次電池の構成]
本実施形態に係る非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
図1に、本発明の一態様に係る非水電解質二次電池である矩形状のリチウム二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0057】
[蓄電装置の構成]
本実施形態は、上記の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。本発明の一態様に係る蓄電装置を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
[正極活物質]
前述の特許文献2の実施例1と同様の反応晶析法を用いて作製した遷移金属の水酸化物前駆体を使用して、α−NaFeO
2型結晶構造を有し、Li
1.09Ni
0.24Co
0.24Mn
0.44O
2(Li/Me=1.18、 Mn/Me=0.48)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を作製し、これを実施例1に係る正極活物質として用いた。この正極活物質のTAP密度は1.72g/cm
3であった。
【0059】
[正極]
水を分散媒とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている合剤ペーストを作製した。該合剤ペーストを、アルミニウム箔集電体の片方の面に単位面積当たりの活物質の質量が13.3mg/cm
2となるように塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを用いてプレスし、密度が2.6g/cm
2となる正極合剤層を集電体上に備える正極を製造した。正極合剤層の厚みは57μmであった。
【0060】
[負極]
N−メチルピロリドンを分散媒とし、黒鉛と非黒鉛質炭素であるハードカーボン(HC)を90:10の質量比率で混合した活物質とスチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が質量比96.7:2.1:1.2の割合で混練分散されている合剤を作製した。該合剤を銅箔集電体の片方の面に塗布し乾燥することで、負極を作製した。なお、単位面積当たりに塗布されている活物質の質量を9.4mg/cm
2とした。また、ロールプレスを用いて電極の多孔度29%となるようにプレスを行った。
【0061】
[非水電解質]
電解質として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)をFEC:EMC=5:95の体積比で混合し、さらに2質量%の1、3プロペンスルトン(PRS)を添加した非水溶媒に、電解質塩としてLiPF
6を1.2mol/Lの濃度で含有させ実施例1に係る非水電解質を調製した。
【0062】
[非水電解質二次電池の組立]
前記正極と負極の間に、セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を設置して電極体とした。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように、電極体を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解質を注液した。次いで、予備充電として、充電方向に0.2CmAの電流を90分間通電した。前記通電後、ガス抜きを行うため1時間静置してから注液孔を封止し、実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
前記非水電解質二次電池の電池厚みをノギスで測定し、予備充電後の電池厚みとした。
【0063】
[初期充放電工程]
以上の手順にて作製された非水電解質二次電池は、25℃の下、初期充放電工程に供した。充電は、電流0.1C(=2.9mA)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を2サイクル行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。
【0064】
引き続き、充放電サイクル試験を行った。充電は、電流1CmA、電圧4.35Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/10に減衰した時点とした。放電は、電流1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。
この試験を50サイクル行った後、電池厚みを測定した。
【0065】
後述する実施例2〜5、及び比較例1〜6に係る電池についても、実施例1に係る電池と同様の予備充電、初期充放電、及び充放電サイクル試験を行い、予備充電後及び充放電サイクル試験後(50サイクル後)の電池厚みを測定した。
【0066】
(実施例2)
実施例1と同じ正極合剤を用い、正極合剤層の密度が2.8g/cm
2となるようにプレスした以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは51μmであった。
【0067】
(比較例1)
負極活物質を黒鉛100%とした以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは54μmであった。
【0068】
(比較例2)
負極活物質を黒鉛100%とした以外は、実施例2と同様にして比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは51μmであった。
【0069】
(比較例3)
実施例1と同じ正極合剤を用い、正極合剤層の密度が2.4g/cm
2となるようにプレスした以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは59μmであった。
【0070】
(実施例3)
負極活物質を黒鉛と非黒鉛質炭素を80:20の質量比率で混合した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは55μmであった。
【0071】
(実施例4)
負極活物質を黒鉛と非黒鉛質炭素を95:5の質量比率で混合した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは56μmであった。
【0072】
(実施例5)
実施例1と同じ正極活物質を用い、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比80:10:10の割合で混練分散されている合剤を作製した以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る非水電解質二次電池を作製した。正極合剤層の厚みは63μmであった。
以下の表1に、実施例1〜5及び比較例1〜3に係る電池の予備充電後及び充放電サイクル試験後(50サイクル後)の電池厚みを測定した結果を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1によると、リチウム過剰型正極活物質を用いた正極合剤層の密度が2.6g/cm
2以上である正極と、黒鉛と非黒鉛質炭素を含有する負極を組み合わせた実施例1〜5に係る非水電解質二次電池は、上記の正極又は負極の条件を満たさない比較例1〜3に係る電池と比べて、50サイクル後の電池厚みの増加が抑制されていることがわかる。
より詳細には、実施例1、2から、正極合剤層の密度は高い方が電池厚みの増加がより抑制されることがわかる。
実施例1、3及び4からは、負極の非黒鉛質炭素の含有量が多い方が電池厚みの増加はより抑制されるが、放電容量はより減少する傾向にあることがわかる。
また、実施例1、5からは、正極合剤に含まれる活物質の量が少ない方が電池厚みの増加量がより抑制されるが、放電容量もより減少することがわかる。
【0075】
一方、比較例1、2からは、正極合剤層の密度が2.6g/cm
2以上である正極に、非黒鉛質炭素を含有しない黒鉛負極を組み合わせた非水電解質二次電池では、50サイクル後の電池厚みが著しく増大していることがわかる。
また、正極合剤層の密度が2.6g/cm
2に達しない比較例3からは、非黒鉛質炭素を含有する黒鉛負極を組み合わせても、電池厚みの増加を抑制する効果を奏しないことがわかる。
なお、予備充電後の電池厚みは、上記の実施例及び比較例において、同程度の水準であり、また、非水電解質を注液後の予備充電前の電池厚みとほぼ同じであった。
【0076】
(比較例4)
[正極活物質]
前述の特許文献2の比較例11と同様の反応晶析法を用いて作製した遷移金属の炭酸塩前駆体を使用して、α−NaFeO
2型結晶構造を有し、Li
1.18Co
0.10Ni
0.17Mn
0.55O
2(Li/Me=1.44、 Mn/Me=0.67)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を作製し、これを比較例4に係る正極活物質として用いた。
【0077】
[正極]
水を分散溶媒とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている合剤ペーストを作製した。該合剤ペーストを、アルミニウム箔集電体の片方の面に単位面積当たりの活物質の質量が11.4mg/cm
2となるように塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを用いてプレスし、密度が2.2g/cm
2となる正極合剤層を集電体上に備える正極を製造した。なお、正極合剤層の密度を2.2g/cm
2より高くしようとすると、ロールに活物質が付着し、均一な正極合剤層が得られなかった。
【0078】
[非水電解質二次電池の組立及び電池厚みの測定]
前記正極と、黒鉛と非黒鉛質炭素を80:20の質量比率で含有する負極(実施例3と同じ)とを組み合わせ、実施例1と同様にして比較例4に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0079】
(比較例5)
黒鉛と非黒鉛質炭素を95:5の質量比率で含有する負極を用いた以外は、比較例4と同様にして比較例5に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0080】
(比較例6)
黒鉛100%とした以外は、比較例4と同様にして比較例6に係る非水電解質二次電池を作製した。
以下の表2に、比較例4〜6に係る電池の予備充放電後及び充放電サイクル試験後の電池厚みを測定した結果を示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2によると、炭酸塩前駆体から作製されたリチウム過剰型正極活物質を含み、正極合剤層の密度が2.6g/cm
2に達しない正極に、非黒鉛質炭素を含有する負極を組み合わせた比較例4、5に係る非水電解質二次電池は、50サイクル後の電池厚みの増加を抑制する効果を有さないばかりか、非黒鉛質炭素を含有しない黒鉛負極を有する比較例6に係る電池よりも、さらに、厚み増加が大きいことがわかる。
なお、表2に示す炭酸塩前駆体から作製された正極活物質を有する電池では、表1に示す水酸化物前駆体から作製された正極活物質を有する電池よりも、質量当たりの放電容量は大きいが、正極合剤層の密度を高めることができないので、体積当たりの放電容量を大きくすることができなかった。