【課題】蓄電量−電圧特性がヒステリシスを示す活物質を含む蓄電素子の蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧特性を推定する管理装置、該管理装置を備える蓄電モジュール、管理方法、及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】蓄電素子3は、充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電(第1)特性及び蓄電量−電圧放電(第2)特性間のヒステリシスが示される活物質を正極又は負極に含む。BMU6は、第1特性、第2特性、並びに充放電の履歴により取得した、第1閾値より大きい上方電圧、及び前記第1閾値より小さい下方電圧に基づいて、蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性を推定する第1推定部62を備える。
充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定する管理装置であって、
第1特性、第2特性、並びに充放電の履歴により取得した、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性である第3特性及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性である第4特性を推定する第1推定部を備える、管理装置。
前記第1推定部は、充放電の推移に応じて変化する電圧で画定された複数の領域で、前記第1特性及び前記第2特性のいずれかを用いて前記第3特性又は前記第4特性を取得する、請求項2に記載の管理装置。
前記第1推定部は、前記第1閾値から前記上方電圧までの領域で、前記上方電圧における前記第1特性の蓄電量を上限値とし、前記第2特性を用いて前記第3特性を取得する、請求項3から5までのいずれか1項に記載の管理装置。
前記第1推定部は、前記第1閾値から該第1閾値より小さい第2閾値までの領域で、前記第1閾値における蓄電量を上限値とし、前記第1特性を用いて前記第3特性を取得する、請求項3から6までのいずれか1項に記載の管理装置。
但し、第1閾値における蓄電量=(前記第1特性の前記上方電圧における蓄電量)−{(前記第2特性の前記上方電圧における蓄電量)−(前記第2特性の前記第1閾値における蓄電量)}
充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定する管理方法であって、
第1特性、第2特性、並びに充放電の履歴に基づく、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧を取得し、
前記第1特性、前記第2特性、前記上方電圧、及び前記下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性、及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性を推定する、管理方法。
充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定するコンピュータに、
充放電の履歴を参照して、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧を取得し、
第1特性、第2特性、前記上方電圧、及び前記下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性、及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性を推定する
処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド車等に用いられる車両用の二次電池や、電力貯蔵装置、太陽光発電システム等に用いられる産業用の二次電池においては、高容量化が求められている。これまで様々な検討と改良が行われてきて、電極構造等の改良のみで更なる高容量化を実現することは困難な傾向にある。その為、現行の材料より高容量である正極材料の開発が進められている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の正極活物質として、α−NaFeO
2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoO
2を用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。LiCoO
2の放電容量は120〜130mAh/g程度であった。
リチウム遷移金属複合酸化物をLiMeO
2(Meは遷移金属)で表したとき、MeとしてMnを用いることが望まれてきた。MeとしてMnを含有させた場合、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できない為、充放電サイクル性能が著しく劣る。
Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、Meに対するLiのモル比Li/Meが略1であるLiMeO
2型活物質が種々提案され、実用化されている。リチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi
1/2Mn
1/2O
2及びLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等を含有する正極活物質は150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
LiMeO
2型活物質に対し、Me中のMnのモル比Mn/Meが0.5を超え、遷移金属(Me)の比率に対するLiの組成比率Li/Meが1より大きいリチウム遷移金属複合酸化物を含む、いわゆるリチウム過剰型活物質も知られている。
【0005】
上述の高容量の正極材料として、リチウム過剰型であるLi
2 MnO
3 系の活物質が検討されている。この材料は、充電履歴及び放電履歴に依存して、同一のSOC(State Of Charge)に対する電圧や電気化学的特性が変化する、ヒステリシスという性質を有する。
【0006】
二次電池におけるSOCを推定する方法として、二次電池のOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとが一対一対応する相関関係(SOC−OCV曲線)に基づいてSOCを決定するOCV法(電圧参照)と、二次電池の充放電電流値を積算してSOCを決定する電流積算法とがある。
【0007】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた場合、SOCに対して電圧が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定が困難である。SOC−OCV曲線が一義的に決まらない為、ある時点での放電可能エネルギー及び充電可能エネルギーを予測することも困難である。
【0008】
電流積算法によってSOCを算出する場合、下記の式(1)を用いる。
SOC
i =SOC
i-1 +I
i ×Δt
i / Q×100…(1)
SOC
i :今回のSOC
SOC
i-1 :前回のSOC
I:電流値
Δt:時間間隔
Q:電池容量(available capacity)
【0009】
電流積算が長期継続されると、電流センサの計測誤差が蓄積する。また、電池容量は経時的に小さくなる。この電池容量を使用履歴及び現在の電気特性から推定する場合も、その推定誤差が電流積算法によるSOC推定誤差に影響を及ぼす。その為、電流積算法によって推定されるSOCは、その推定誤差が経時的に大きくなる。従来、電流積算を長期継続した場合にOCV法によりSOCを推定して、誤差の蓄積をリセットするOCVリセットが行われている。
【0010】
ヒステリシスを有する電極材料を用いた蓄電素子においても、電流積算を継続すると誤差が蓄積する。しかし、SOCに対して電圧が一義的に決まらない為、OCV法によるSOCの推定を行うこと(OCVリセットを行うこと)は困難である。
従って、現行のSOC推定技術ではこのような蓄電素子におけるSOCを精度良く推定することが困難である。
【0011】
特許文献1の二次電池制御装置においては、充電から放電に切替えた際のSOCである切替時SOCごとに、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を放電時OCV情報として記憶する。実際に充電から放電に切替えた際の切替時SOCと、放電時OCV情報とに基づいて、二次電池の放電過程におけるSOCを算出するように、二次電池制御装置は構成されている。
【0012】
特許文献2の充電状態推定装置においては、満充電特性、完全放電特性、及びこれらの特性間の領域を等間隔に分割する複数のSOC−OCV特性を各特性の移動値と対応付けてテーブルに記憶する。充放電による電流積算量に基づきΔSOCを求め、前回の移動値、ΔSOC、及び所定の係数により移動量を求め、移動量に基づき、使用するSOC−OCV特性を選択し、OCVからSOCを推定する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施形態の概要)
管理装置は、充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定する。管理装置は、第1特性、第2特性、並びに充放電の履歴により取得した、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性である第3特性及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性である第4特性を推定する第1推定部を備える。
【0021】
上記構成においては、上方電圧及び下方電圧間の、ヒステリシスが示される一の電気化学反応に係る酸化量及び還元量に対応して、第3特性及び/又は第4特性を推定できる。ここで、「一の電気化学反応が生じる場合」とは、「同時に一群として電気化学反応が生じる場合」を含む。
正極の場合、充電時、第1閾値と上方電圧との間で生じた、一の電気化学反応に基づく酸化量は、放電時の還元により減じる。一の電気化学反応に基づく酸化量は第1特性と第2特性との間の蓄電量の差分に対応する。上方電圧及び下方電圧に基づき、還元により減じた後の酸化量に対応する物理量(蓄電量の差分)を考慮することで、第1特性及び第2特性により第3特性又は第4特性を精度良く推定できる。負極の場合も同様である。
充電時及び放電時に、全領域で蓄電量を精度良く推定できる第3特性又は第4特性を求めることができる。
実測するのは第1特性及び第2特性のみであり、第1特性及び第2特性は推定してもよく、作業量は少ない。
蓄電素子の劣化に応じて、第3特性又は第4特性を推定する場合、実測又は推定するのは第2特性及び第1特性のみであり、蓄電素子の使用期間における作業量は少ない。
【0022】
上述の管理装置において、前記蓄電素子の電圧を取得する第1取得部と、該第1取得部が取得した電圧が前記第1閾値よりも大きくなった後に取得した電圧を前記上方電圧に設定し、取得した電圧が前回設定した上方電圧より大きい場合に該電圧を上方電圧に更新する第1設定部と、前記第1取得部が取得した電圧が第1閾値よりも小さくなった後に取得した電圧を前記下方電圧に設定し、取得した電圧が前回設定した下方電圧より小さい場合に該電圧を下方電圧に更新するする第2設定部とを備えてもよい。
【0023】
上記構成においては、上方電圧及び下方電圧間の一の電気化学反応に係る酸化量及び還元量に基づいて、精度良く第3特性又は第4特性を推定できる。
【0024】
上述の管理装置において、前記第1推定部は、充放電の推移に応じて変化する電圧で画定された複数の領域で、前記第1特性及び前記第2特性のいずれかを用いて前記第3特性又は前記第4特性を取得してもよい。
【0025】
上記構成においては、電圧の領域毎に、充電側又は放電側で生じている反応に基づき、第1特性及び第2特性のいずれかを用いて、第3特性又は第4特性を精度良く取得できる。
【0026】
上述の管理装置において、前記第1推定部は、前記第1特性と前記第2特性との間の蓄電量の差分の最大値と、前記上方電圧における前記差分との差を余剰酸化量(又は余剰還元量)として取得し、前記余剰酸化量(又は余剰還元量)に基づいて、前記下方電圧及び前記第1閾値間で生じた還元量(又は酸化量)を取得し、前記余剰酸化量(又は余剰還元量)と前記還元量(又は酸化量)との差に基づいて、前記第3特性又は前記第4特性の一又は複数の前記領域における起点を求めてもよい。
ここで、「前記第1特性と前記第2特性との間の蓄電量の差分の最大値と、前記上方電圧における前記差分との差」に対応する物理量を余剰酸化量(又は余剰還元量)としている。
【0027】
上記構成においては、前記余剰酸化量(又は余剰還元量)と前記還元量(又は酸化量)との差に基づき、より正確に、一の電気化学反応に基づく現時点での酸化量(又は還元量)を求めることができ、第3特性及び/又は第4特性を精度良く推定できる。
【0028】
上述の管理装置において、前記第1設定部は、前記余剰酸化量(又は余剰還元量)と前記還元量(又は酸化量)との差に基づいて、上方電圧を更新してもよい。
【0029】
上記構成においては、更新した上方電圧に基づいて、第3特性又は第4特性の一又は複数の前記領域の起点を容易に精度良く求めることができる。
【0030】
上述の管理装置において、前記第1推定部は、前記第1閾値から前記上方電圧までの領域で、前記上方電圧における前記第1特性の蓄電量を上限値とし、前記第2特性を用いて前記第3特性を取得してもよい。
【0031】
正極の場合、一の電気化学反応が生じる高電位領域で、放電反応としては主たる他の電気化学反応のみが生じる。充電反応としては、一の電気化学反応と他の電気化学反応とが生じる。この領域における他の電気化学反応の放電電気量は、他の電気化学反応の充電電気量とみなすことができる。他の電気化学反応と電位とが概ね1:1に対応し、可逆的に反応しているとみなすことができる。即ち、充電状態、放電状態で蓄電量を推定するときに、同一の第2特性を使用できる。
この領域において、上方電圧における第1特性及び第2特性の蓄電量の差(Δ蓄電量)は、一の電気化学反応(酸化量)に対応する。一の電気化学反応と他の電気化学反応とは、実質的に独立して生じる。一の電気化学反応の反応量はΔ蓄電量に対応し、他の電気化学反応に影響を与えない。負極の場合も同様である。
上方電圧における第1特性の蓄電量を上限値とし、第2特性を用いて、第3特性を精度良く算出できる。
【0032】
上述の管理装置において、前記第1推定部は、前記第1閾値から該第1閾値より小さい第2閾値までの領域で、前記第1閾値における蓄電量を上限値とし、前記第1特性を用いて前記第3特性を取得してもよい。
但し、第1閾値における蓄電量=(前記第1特性の前記上方電圧における蓄電量)−{(前記第2特性の前記上方電圧における蓄電量)−(前記第2特性の前記第1閾値における蓄電量)}
【0033】
正極の場合、この領域で充電時に一の電気化学反応は生じず、第1特性は他の電気化学反応に基づく。
第1閾値から第2閾値までの領域で、他の電気化学反応に基づく放電電気量は充電電気量に等しい。他の電気化学反応と電位とが概ね1:1に対応し、可逆的に反応しているとみなすことができる。上記式により、第1閾値における蓄電量が求められる。(該蓄電量,第1閾値)を起点として第1特性を用いて、第3特性が精度よく取得できる。負極の場合も同様である。
【0034】
上述の管理装置において、充放電の履歴、前記第3特性及び/又は前記第4特性、並びに取得した電圧に基づいて、蓄電量を推定する第2推定部を備えてもよい。
【0035】
上記構成においては、高容量で、蓄電量−電圧特性がヒステリシスを示す活物質を有する蓄電素子の蓄電量を良好に容易に推定できる。
【0036】
電圧を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されず、電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電特性に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。現時点での残存電力量と貯蔵可能電力量とを推定できる。
従って、複数の蓄電素子を用いる場合のバランシング、回生受け入れの制御、蓄電素子を車載した場合の走行距離の推定等を精度良く行うことができる。
【0037】
蓄電モジュールは、蓄電素子と、上述の管理装置とを備える。
【0038】
上記構成においては、蓄電素子の蓄電量を精度良く推定できる。
【0039】
管理方法は、充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定する。管理方法は、第1特性、第2特性、並びに充放電の履歴に基づく、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧を取得し、前記第1特性、前記第2特性、前記上方電圧、及び前記下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性、及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性を推定する。
【0040】
上記構成においては、上方電圧及び下方電圧間の一の電気化学反応に係る酸化量及び還元量に対応して、第3特性及び/又は第4特性を推定できる。
正極の場合、充電時、第1閾値と上方電圧との間で生じた、一の電気化学反応に基づく酸化量は、放電時の還元により減じる。一の電気化学反応に基づく酸化量は第1特性と第2特性との間の蓄電量の差分に対応する。上方電圧及び下方電圧に基づき、還元により減じた後の酸化量に対応する物理量を考慮することで、第1特性及び第2特性により第3特性又は第4特性を精度良く推定できる。負極の場合も同様である。
充電時及び放電時に、全領域で蓄電量を精度良く推定できる電圧参照蓄電量−電圧特性を求めることができる。
実測するのは第1特性及び第2特性のみであり、第1特性及び第2特性は推定してもよく、作業量は少ない。
蓄電素子の劣化に応じて、電圧参照蓄電量−電圧特性を推定する場合、実測又は推定するのは第2特性及び第1特性のみであり、蓄電素子の使用期間における作業量は少ない。
【0041】
コンピュータプログラムは、充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、蓄電量−電圧充電特性である第1特性、及び蓄電量−電圧放電特性である第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び/又は負極に含む蓄電素子の蓄電量特性を推定するコンピュータに、充放電の履歴を参照して、第1閾値より大きい上方電圧及び前記第1閾値より小さい下方電圧を取得し、第1特性、第2特性、前記上方電圧、及び前記下方電圧に基づいて、取得した電圧により蓄電量を推定するときの参照のための蓄電量−電圧充電特性、及び/又は参照のための蓄電量−電圧放電特性を推定する処理を実行させる。
【0042】
以下、本発明を実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
本実施形態に係る蓄電素子は、充放電の推移に応じて複数の電気化学反応を生じ、一の電気化学反応が生じる場合に、第1特性及び第2特性間のヒステリシスが示される活物質を正極及び負極の少なくとも一方に含む。
以下、蓄電素子の活物質がNiを含むLi過剰型のLiMeO
2-Li
2MnO
3固溶体であり、蓄電量がSOCである場合を例として説明する。
図1は、このLi過剰型活物質につき、対極Liのリチウムセルを用い、電気量と充放電電位との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸は充放電電位E(VvsLi/Li
+ :Li/Li
+平衡電位を基準にしたときの電位)であり、上側が数値が高い。ここで、電気量はSOCに対応する。
図1に示すように、SOCの増加(充電)と、減少(放電)とで電位が異なる。即ち同一SOCに対する電位が異なり、ヒステリシスを有する。この活物質の場合、同一SOCに対する電位差は、高SOC側では低SOC側より小さく、ヒステリシスが小さい。
【0043】
図2は、電気量に対する、X線吸収分光測定(XAFS測定)によって算出したLi過剰型活物質のNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は電気量(mAh/g)、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE
0 (eV)である。
図3は、充放電時におけるNiのK吸収端エネルギーの推移を示すグラフである。横軸は充放電電位E(VvsLi/Li
+ )であり、右側が数値が高く、縦軸はNiのK吸収端エネルギーE
0 (eV)である。
【0044】
図2に示すように、高SOC領域において、充電反応のNiのK吸収端エネルギー推移が放電反応のエネルギー推移と一致しない。低SOC領域において、放電反応のエネルギー推移が充電反応のエネルギー推移と一致しない。即ちヒステリシスを有する、Ni以外のレドックス反応が高SOCの充電側及び低SOCの放電側で生じていることが分かる(これをAの反応とする)。Aの反応は、高SOC領域においては酸化反応であり、低SOC領域においては還元反応である。
中間のSOC領域では、充電反応及び放電反応のNiのK吸収端エネルギーがSOCに対して略直線的に変化している。
【0045】
図3に示すように、高SOC領域において、NiのK吸収端エネルギーは、充電と放電とで略一致している。NiのK吸収端エネルギーが一致している場合、即ちNiの価数等が等しく、この電位範囲において、Niの価数変化と電位とが概ね1:1に対応しておりNiは可逆的に反応していると考えられる。即ち、該SOC領域において、SOC−OCP特性が示すヒステリシスが小さいレドックス反応が主に生じている(これをBの反応とする)。OCPは開放電位を意味する。
該SOC領域においてBの反応量はAの反応量より多く、結果として、低SOC領域よりヒステリシスが小さい。
なお、ここではNiの酸化還元反応だけに注目して説明しているが、Bの反応はNiの酸化還元反応に限定されるものではない。Bの反応は、充放電の推移に応じて活物質により生じる一又は一群の反応のうち、SOC−OCPのヒステリシスが小さい反応をいう。
【0046】
本実施形態においては、Bの反応の酸化量及び還元量が小さい電圧(第1閾値:V1)を実験により求める。主としてBの反応が生じる領域の低い方の電圧値を実験により求める。この電圧において、ヒステリシスの有無が実質的に切り替わる。Bの反応の酸化量及び還元量は小さいと考えられる。
第1閾値V1としてOCVを測定できる場合、V1は一定であってもよい。V1としてCCV(Closed Circuit Voltage)を測定する場合、蓄電素子の使用に伴う劣化の程度に対応して、V1を下げる等、更新してもよい。蓄電素子の劣化の原因として、内部抵抗の上昇、容量バランスのずれの増大等が挙げられる。容量バランスのずれとは、例えば正極における充放電反応以外の副反応の量と、負極における充放電反応以外の副反応の量とに差が生じることによって、正極及び負極のうちの一方が完全には充電されないようになり、正極と負極の、可逆的に電荷イオンが電極から出入りできる容量が相違するようになることをいう。一般的なリチウムイオン電池では、正極における副反応量が、負極における副反応量よりも小さいために、「容量バランスのずれ」が増大すると、負極を完全に充電することができなくなり、蓄電素子から可逆的に取り出せる電気量が減少する。
【0047】
そして、電圧がV1よりも大きくなった後に取得した電圧を上方電圧(Vup)に設定する。Vupは、取得した電圧が前回取得した電圧より大きい場合に更新する。電圧がV1よりも卑になった後に取得した電圧を下方電圧(Vlow)に設定する。Vlowは、取得した電圧が前回取得した電圧より小さい場合に更新する。
第1特性及び第2特性を記憶しておく。第1特性及び第2特性は、完全放電状態から満充電状態に充電する完全充電SOC−OCV特性、及び満充電状態から完全放電状態に放電する完全放電SOC−OCV特性であるのが好ましい。
【0048】
第1特性、第2特性、Vup、及びVlowに基づいて、Aの反応に基づく酸化量、及びAの反応により生成した酸化体の還元量(に対応する物理量)を取得する。詳細は後述する。
第1特性、第2特性、充放電の履歴(Vup及びVlow)、酸化量、及び還元量に基づいて、第3特性及び/又は第4特性を算出する。
充放電の履歴、第3特性、第4特性、及び現時点の電圧に基づいて、蓄電量を推定する。
ここで、「現時点の電圧」とは、蓄電素子の使用時にSOCを推定する場合は、推定時点の電圧をいい、蓄電素子の使用後に使用終了時点のSOCを推定する場合は該時点の電圧、又は所定時間放置後の電圧をいう。
【0049】
以下、蓄電量がSOCであり、正極で、ヒステリシスが大きいAの反応が生じる場合につき説明する。
低電流におけるセルの完全充電SOC−OCV(フルの第1SOC−OCV)及び完全放電SOC−OCV(フルの第2SOC−OCV)から正極の完全充電SOC−OCP(フルの第1SOC−OCP)及び完全放電SOC−OCP(フルの第2SOC−OCP)を求める。又は、最初から第1SOC−OCP及び第2SOC−OCPを求める。
Vupに対応する正極の電位をVup′、V1に対応する正極の電位をV1′とする。
【0050】
図4は、第1SOC−OCP及び第2SOC−OCP、Region1及びRegion5における第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPを示すグラフである。
グラフである。図中、上側の黒線は第1SOC−OCP、下側の黒線は第2SOC−OCPである。
OCPを下記の表1に示すように、縦軸の上から下へ、高低に基づき5つの電位範囲に分割する(Va>Vb>Vc>Vd)。第1SOC−OCPの形状をScha、第2SOC−OCPの形状をSdisとする。
【0052】
Region1については、電圧参照の充電SOC−OCP(第3SOC−OCP)及び電圧参照の放電SOC−OCP(第4SOC−OCP)は共通し、第1SOC−OCPを用いる。Region5については、第3SOC−OCPは第1SOC−OCPを、第4SOC−OCPは第2SOC−OCPを用いる。即ち、第3SOC−OCPの形状はScha、第4SOC−OCPの形状はSdisである。
以後、黒太線はSchaに基づく第3SOC−OCPを、破線はSdisに基づく第4SOC−OCPを示す。
【0053】
図5は、Region2及びRegion3における第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPの求め方を説明するためのグラフである。
Region2においては、Vup′における第1SOC−OCPのSOC(SOCat Vup′)を上限値とし、第2SOC−OCPを用いて第3SOC−OCPを作成する。即ち起点(SOCat Vup′,Vup′)を通るように、第2SOC−OCPを平行移動させて、第3SOC−OCPを算出する。第3SOC−OCPの形状はSdisである。この領域では放電時にAの反応は生じず、第2SOC−OCPの形状はBの反応に基づくので、これをシフトすることにより、Bの反応に基づく第3SOC−OCPが得られる。第4SOC−OCPは第3SOC−OCPと共通する。
【0054】
Region3においては、V1′におけるSOC(SOC atV1′)を上限値とし、第1SOC−OCPを用いて第3SOC−OCPを算出する。即ち起点(SOC atV1′)を通るように、第1SOC−OCPを平行移動させて、第3SOC−OCPを作成する。第3SOC−OCPの形状はSchaである。SOC atV1′は、以下の式により算出される。
SOC atV1′=(第1SOC−OCPのVup′におけるSOC)−{(第2SOC−OCPのVup′におけるSOC)−(第2SOC−OCPのV1′におけるSOC)}
【0055】
Region3においては、Aの反応及びBの反応のいずれも生じるが、Vup′に基づく、Aの反応による酸化量が異なる。Vup′が貴であり、Aの反応による酸化体の量が多い場合、Aの反応の割合が高い第2SOC−OCPを用いて第4SOC−OCPを求める。Vup′が卑であり、Aの反応による酸化体の量が少ない場合、Aの反応の割合が低い第1SOC−OCPを用いて第4SOC−OCPを求める。
即ち、Region3の第4SOC−OCPは、第2SOC−OCPと第1SOC−OCPとのSOCの差分の最大値(ΔSOCmax)と、Vup′における前記差分(ΔSOC)との差が、0.7×ΔSOCmaxより大きい場合、Sdisを用いる。前記差が0.7×ΔSOCmax以下である場合、Schaを用いる。即ちAの反応に基づく酸化体の還元量が大きい場合、Sdisを用い、還元が小さい場合、Schaを用いる。なお、Aの反応の酸化体の量に応じて、SchaとSdisとを使い分けているが、酸化体の量に応じて、SchaとSdisとを組合わせて、曲線形状を作成してもよい。
【0056】
図6は、Region4における第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPの求め方を説明するためのグラフである。
Region4においては、Region3とRegion5とを繋ぐように、内挿計算を用いて、第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPを作成する。
図6においては、Region3とRegion5とを直線状に接続している。細破線が第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPである。
【0057】
得られた第3SOC−OCP及び第4SOC−OCPは、負極の電位に基づいて、第3SOC−OCV及び第4SOC−OCVに変換される。
【0058】
充放電の履歴に応じ、例えばRegion2に対応する電圧範囲で、充電時に休止した場合、Region2の第3SOC−OCVを算出し、取得した電圧に対応するSOCを読み取る。
【0059】
充電により電圧がV1より高くなった後、Vupに到達した場合、Aの酸化反応が生じる。その後、放電により電圧がV1より低くなった後、Vlowに到達した場合、前記酸化反応により生じた酸化体の還元による減少量を考慮し、Vup′を更新する。
【0060】
以下、Vup′の更新について説明する。
図7は、Vup′の更新を説明するためのグラフである。
V1′より高電位側の領域において、充電時にAの反応及びBの反応が生じ、放電時にはBの反応のみが生じる。同一電位における、第2SOC−OCP及び第1SOC−OCP間のSOCの差(ΔSOC)は、Aの反応の酸化量に対応する。
V1′から高電位側の領域において、Bの反応に対応する第3SOC−OCPの形状は、第2SOC−OCPの形状に対応する。上述のように起点(SOC atVup′,Vup′)を通るように、第2SOC−OCPを平行移動させて、第3SOC−OCPを求める(
図5参照)。
放電時に、電位がV1′より卑にならなかった場合、Vup′に基づく第3SOC−OCPを使用する。
【0061】
放電により電位がV1′より卑になった後、Vlow′に到達した場合、以下のようにしてVup′を更新する。
図7に示すように、Vup′とV1′との間に、ΔSOCが最大となる電位がある。この電位におけるΔSOCが前記ΔSOCmaxである。Vup′におけるΔSOCをΔSOC(i)とする。ΔSOCmaxとΔSOC(i)との差分を余剰酸化量ΔQox(i)と定義する。ΔQox(i)は下記式により算出される。
ΔQox(i)=ΔSOCmax−ΔSOC(i)
【0062】
ΔQox(i)のうち、Vlow′及びV1′間で、還元により減じた量をΔQre(i)と定義する。
ΔQre(i)は、ΔQox(i)、V1′より低電位側の第1SOC−OCP及び第2SOC−OCPに基づいて算出する。
【0063】
更新する余剰酸化量ΔQox(i+1)は、下記式により算出される。
ΔQox(i+1)=ΔQox(i)−ΔQre(i)
【0064】
更新するΔSOC(i+1)は、下記式により算出される。
ΔSOC(i+1)=ΔSOCmax−ΔQox(i+1)
これにより、更新するVup′(i+1)が算出される。
図7に示すように、第2SOC−OCP及び第1SOC−OCP間のΔSOCがΔSOC(i+1)になる場合の、第1SOC−OCPの電位がVup′(i+1)である。Vup′(i+1)はVup′より卑である。Vup′(i+1)はメモリ63に記憶される。
【0065】
充電により電圧がVupに到達した後、放電により電圧がVlowに到達した場合、上述のVup′の代わりに、Vup′(i+1)を用いて第3,第4SOC−OCPを求める。
【0066】
(実施形態1)
以下、実施形態1として、車両に搭載される蓄電モジュールを例に挙げて説明する。
図8は、蓄電モジュールの一例を示す。蓄電モジュール50は、複数の蓄電素子200と、監視装置100と、それらを収容するケース300とを備えている。蓄電モジュール50は、電気自動車(EV)や、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の動力源として使用されてもよい。
蓄電素子200は、角形セルに限定されず、円筒形セルやパウチセルであってもよい。
監視装置100は、複数の蓄電素子200と対向して配置される回路基板であってもよい。監視装置100は、蓄電素子200の状態を監視する。監視装置100が、管理装置であってもよい。代替的に、監視装置100と有線接続または無線接続されるコンピュータやサーバが、監視装置100が出力する情報に基づいて管理方法を実行してもよい。
【0067】
図9は、蓄電モジュールの他の例を示す。蓄電モジュール(以下、電池モジュールという)1は、エンジン車両に好適に搭載される、12ボルト電源や、48ボルト電源であってもよい。
図9は12V電源用の電池モジュール1の斜視図、
図10は電池モジュール1の分解斜視図、
図11は電池モジュール1のブロック図である。
電池モジュール1は直方体状のケース2を有する。ケース2に複数のリチウムイオン二次電池(以下、電池という)3、複数のバスバー4、BMU(Battery Management Unit)6、電流センサ7が収容される。
【0068】
電池3は、直方体状のケース31と、ケース31の一側面に設けられた、極性が異なる一対の端子32,32とを備える。ケース31には、正極板、セパレータ、及び負極板を積層した電極体33が収容されている。
【0069】
電極体33の正極板が有する正極活物質及び負極板が有する負極活物質の少なくとも一方は、充放電の推移に応じて2以上の電気化学反応を生じる。一の電気化学反応が生じるときに示す蓄電量−電圧特性のヒステリシスが、他の電気化学反応が生じるときの前記ヒステリシスより大きい。
正極活物質としては、上述のLiMeO
2-Li
2MnO
3固溶体、Li
2O−LiMeO
2固溶体、Li
3NbO
4 −LiMeO
2固溶体、Li
4 WO
5 −LiMeO
2固溶体、Li
4 TeO
5 −LiMeO
2固溶体、Li
3SbO
4 −LiFeO
2固溶体、Li
2RuO
3 −LiMeO
2固溶体、Li
2RuO
3 −Li
2 MeO
3 固溶体等のLi過剰型活物質が挙げられる。負極活物質としては、ハードカーボン、Si、Sn、Cd、Zn、Al、Bi、Pb、Ge、Ag等の金属若しくは合金、又はこれらを含むカルコゲン化物等が挙げられる。カルコゲン化物の一例として、SiOが挙げられる。本発明の技術は、これらの正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方がヒステリシスを有する場合、適用可能である。
【0070】
ケース2は合成樹脂製である。ケース2は、本体21と、本体21の開口部を閉塞する蓋部22と、蓋部22の外面に設けられたBMU収容部23と、BMU収容部23を覆うカバー24と、中蓋25と、仕切り板26とを備える。中蓋25や仕切り板26は、設けられなくてもよい。
本体21の各仕切り板26の間に、電池3が挿入されている。
【0071】
中蓋25には、複数の金属製のバスバー4が載置されている。電池3の端子32が設けられている端子面に中蓋25が配置されて、隣り合う電池3の隣り合う端子32がバスバー4により接続され、電池3が直列に接続されている。
【0072】
BMU収容部23は箱状をなし、一長側面の中央部に、外側に角型に突出した突出部23aを有する。蓋部22における突出部23aの両側には、鉛合金等の金属製で、極性が異なる一対の外部端子5,5が設けられている。BMU6は、基板に情報処理部60、電圧計測部8、及び電流値計測部9を実装してなる。BMU収容部23にBMU6を収容し、カバー24によりBMU収容部23を覆うことにより、電池3とBMU6とが接続される。
【0073】
図11に示すように、情報処理部60は、CPU62と、メモリ63とを備える。
メモリ63には、本実施形態に係るSOC推定プログラム(以下、プログラムという)63aと、テーブル63bとが記憶されている。プログラム63aは、例えば、CD−ROMやDVD−ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体70に格納された状態で提供され、BMU6にインストールすることによりメモリ63に格納される。代替的に、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータからプログラム63aを取得し、メモリ63に記憶させてもよい。
【0074】
テーブル63bには、フルの第1,第2SOC−OCPのデータ、及びフルの第1,第2SOC−OCVのデータが格納されている。SOC−OCP、SOC−OCVは関数式として格納してもよい。所定の期間間隔で実測によりフルの第1,第2SOC−OCVが取得される。フルの第1,第2SOC−OCVからフルの第1,第2SOC−OCPが求められる。電池3の劣化に従って、フルの第1,第2SOC−OCVは更新される。なお、電池3の使用の都度、フルの第1,第2SOC−OCVを実測又は推定してもよい。
CPU62はメモリ63から読み出したプログラム63aに従って、後述するSOC推定処理を実行する。
【0075】
電圧計測部8は、電圧検知線を介して電池3の両端に夫々接続されており、各電池3の電圧を所定時間間隔で測定する。
電流値計測部9は、電流センサ7を介して電池3に流れる電流値を所定時間間隔で計測する。
電池モジュール1の外部端子5,5は、エンジン始動用のスターターモータ及び電装品等の負荷11に接続されている。
ECU(Electronic Control Unit)10は、BMU6及び負荷11に接続されている。
【0076】
以下、本実施形態の管理方法として、SOCを推定するSOC推定方法について説明する。
図12及び
図13は、CPU62によるSOC推定処理の手順を示すフローチャートである。CPU62は、所定の間隔で、又は適宜の間隔でS1からの処理を繰り返す。
CPU62は、電池3の端子間の電圧及び電流値を取得する(S1)。第1閾値V1及び上方電圧VupはOCVであるので、電池3の電流量が大きい場合、取得した電圧をOCVに補正する必要がある。OCVへの補正値は、複数の電圧及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧を推定すること等により得られる。電池3を流れる電流量が暗電流程度に小さい(微小電流である)場合、取得した電圧をOCVとみなすことができる。
【0077】
CPU62は、電流値の絶対値が休止閾値以上であるか否かを判定する(S2)。休止閾値は、電池3の状態が充電状態又は放電状態と、休止状態とのいずれであるかを判定する為に設定される。CPU62は電流値の絶対値が休止閾値以上でないと判定した場合(S2:NO)、処理をS12へ進める。
【0078】
CPU62は、電流値の絶対値が休止閾値以上であると判定した場合(S2:YES)、電流値が0より大きいか否かを判定する(S3)。電流値が0より大きい場合、電池3の状態は充電状態であると判定できる。CPU62は電流値が0より大きくないと判定した場合(S3:NO)、処理をS8へ進める。
【0079】
CPU62は電流値が0より大きいと判定した場合(S3:YES)、電圧がV1以上であるか否かを判定する(S4)。CPU62は電圧がV1以上でないと判定した場合(S4:NO)、処理をS7へ進める。
【0080】
CPU62は電圧がV1以上であると判定した場合(S4:YES)、取得した電圧が前回メモリ63に記憶されたVupより大きいか否かを判定する(S5)。CPU62は電圧が前回のVupより大きくないと判定した場合(S5:NO)、処理をS7へ進める。
【0081】
CPU62は電圧が前回のVupより大きいと判定した場合(S5:YES)、メモリ63において、電圧をVupに更新する(S6)。
CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S7)、処理を終了する。
【0082】
CPU62は電流値が0より小さく、電池3の状態が放電状態であると判定した場合(S3:NO)、電圧がV1未満であるか否かを判定する(S8)。CPU62は電圧がV1未満でないと判定した場合(S8:NO)、処理をS11へ進める。
CPU62は電圧がV1未満であると判定した場合(S8:YES)、取得した電圧が前回メモリ63に記憶された下方電圧Vlowより小さいか否かを判定する(S9)。
CPU62は電圧が前回のVlowより小さくないと判定した場合(S9:NO)、処理をS11へ進める。
CPU62は電圧が前回のVlowより小さいと判定した場合(S9:YES)、メモリ63において、電圧をVlowに更新する(S10) CPU62は、電流積算によりSOCを推定し(S11)、処理を終了する。
【0083】
CPU62は電流値の絶対値が休止閾値未満であり、電池3の状態が休止状態であると判定した場合(S2:NO)、設定時間が経過したか否かを判定する(S12)。設定時間は、取得した電圧をOCVとみなす為に十分な時間を予め実験により求める。CPU62は休止状態であると判定してからの電圧、電流値の取得回数及び取得間隔に基づき、前記時間を超えたか否かを判定する。これにより、休止状態において、より高精度にSOCを推定することができる。
CPU62は設定時間が経過していないと判定した場合(S12:NO)、電流積算によりSOCを推定し(S13)、処理を終了する。
【0084】
CPU62は設定時間が経過したと判定した場合(S12:YES)、取得した電圧はOCVとみなすことができる。
CPU62は、Vup′(i+1)を算出するか否かを判定する(S14)。CPU62は、充電により電圧がVupに到達した後、放電により電圧がVlowに到達した場合、Vup′(i+1)を算出すると判定する。
CPU62は、Vup′(i+1)を算出しないと判定した場合(S14:NO)、処理をS16へ進める。
【0085】
CPU62は、Vup′(i+1)を算出すると判定した場合(S14:YES)、Vup′の算出を行う(S15)。
図14は、Vup′(i+1)の算出のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
CPU62は、テーブル63bから第1SOC−OCP及び第2SOC−OCPを読み出す(S151)。
CPU62は、メモリ63からVup及びVlowを読み出す(S152)。CPU62は、Vup及びVlowを正極の電位Vup′及びVlow′に換算する。
CPU62は、Vup′におけるΔSOCの差分であるΔSOC(i)を算出する(S153)。
CPU62は、ΔSOCmaxからΔSOC(i)を減じて余剰酸化量ΔQox(i)を算出する(S154)。
CPU62は、還元量ΔQre(i)を算出する(S155)。
CPU62は、ΔQox(i)からΔQre(i)を減じて更新する余剰酸化量ΔQox(i+1)を算出する(S156)。
CPU62は、ΔSOCmaxからΔQox(i+1)を減じてΔSOC(i+1)を算出する(S157)。
CPU62は、Vup′(i+1)を算出し(S158)、リターンする。第2SOC−OCP及び第1SOC−OCP間のΔSOCがΔSOC(i+1)になる場合の、第1SOC−OCPの電位がVup′(i+1)となる。
【0086】
CPU62は、第3,第4SOC−OCVを算出する(S16)。
図15は、第3,第4SOC−OCVの算出のサブルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
CPU62は、テーブル63bから第1SOC−OCP及び第2SOC−OCPを読み出す(S161)。
CPU62は、メモリ63からVup及びVlowを読み出す(S162)。CPU62は、Vup及びVlowを正極の電位であるVup′及びVlow′に換算する。CPU62はS15でVup′(i+1)を算出していた場合、Vup′をVup′(i+1)に更新する。
CPU62は、Vup及びVlowの更新の履歴から、休止状態になるまでの充放電履歴を把握し、上述のようにして対応するRegionの第3SOC−OCP又は第4SOC−OCPを算出する(S163)。
CPU62は、第3SOC−OCP又は第4SOC−OCPを第3SOC−OCV又は第4SOC−OCVに換算し(S164)、リターンする。
【0087】
CPU62は、第3SOC−OCV又は第4SOC−OCVにおいて、S1で取得した電圧に対応するSOCを読み取ってSOCを推定し(S17)、処理を終了する。
本実施形態では、設定時間が経過しているか否かで、電流積算法とOCV法を使い分けている。代替的に、電流積算法は常時行い、S17の後に、履歴や現時点で取得したセンサデータに基づき、電流積算法とOCV法の推定情報を統合して、SOCを推定してもよい。
【0088】
なお、メモリ63のテーブル63bにはフルの第1,第2SOC−OCVのみを格納し、第3SOC−OCP又は第4SOC−OCPを経由せずに直接、第3SOC−OCV又は第4SOC−OCVを算出してもよい。
また、CPU62が電圧計測部8から取得する電圧は、電流値により多少変動するので、実験により補正係数を求めて電圧を補正することもできる。
VupはΔQoxが0に近づいたときに、Vup=V1にリセットしてもよい。但し、Vlowが卑にシフトしたときに自動的にリセットされるため、リセット条件は設けなくてもよい。
Vlow′は、Vlow′を更新したのち、単極(ここでは正極)の電位がV1′より貴に達したとき、及び単極の電位がVup′に達したときに、Vlow′=V1′にリセットしてもよい。
【0089】
図16は、新品の電池3につき、SOC:0→100→40→60→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。対照としての電流積算によるSOCの推定は、事前に放電容量を確認し、かつ精度の高い電流計を使用している為、式(1)中のQの放電容量及びIの電流値が正確である。ここでは、真値に近似していると考えられる。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。cは下記式で表される。
差異(%)=電圧参照にて推定したSOC(%)-電流積算にて推定したSOC(%)
図16より差異は略−4%〜2%であり、小さいことが分かる。
【0090】
図17は、新品の電池3につき、SOC:0→100→40→80→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図17より差異は略−5%〜2%であり、小さいことが分かる。
【0091】
図18は、新品の電池3につき、SOC:0→100→20→80→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図18より差異は略−5%〜2%であり、小さいことが分かる。
【0092】
図19は、新品の電池3につき、SOC:0→40→20%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図19より差異は略−4%〜5%であり、小さいことが分かる。
【0093】
図20は、新品の電池3につき、SOC:0→81→24→81→25→81→25→80→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図20より差異は略−9%〜3%であり、小さいことが分かる。例えば低SOC領域で放電から充電に切り替えた際に9%の誤差が生じているが、このような場合、電流積算法により補完してもよい。
【0094】
図21は、新品の電池3につき、SOC:0→81→25→81→18→81→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図21より差異は略−9%〜3%であり、小さいことが分かる。
【0095】
図22は、新品の電池3につき、SOC:0→79→23→86→25→93→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図22より差異は略−10%〜6%であり、小さいことが分かる。
【0096】
図23は、新品の電池3につき、SOC:0→94→56→94→0%のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。SOC:94→56%において、56%に達するまで、SOC8%分の放電とSOC4%分の充電とを繰り返した。56%に達した後、SOC4%分の充電とSOC4%分の放電とを5回繰り返した。SOC:56→94%において、94%に達するまで、SOC8%分の充電とSOC4%分の放電とを繰り返した。94%に達した後、SOC4%分の放電とSOC4%分の充電とを5回繰り返した。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図23より差異は略−7%〜2%であり、小さいことが分かる。
【0097】
図24は、新品の電池3につき、
SOC:0→93
→(21⇔29)×3
→(6⇔24)×3
→(0⇔22)×3%
のパターンで充放電を行った場合の、電圧参照によりSOCを推定したときと、電流積算によりSOCを推定したときとの差異を示すグラフである。横軸は時間(秒)、左側の縦軸はSOC(%)、右側の縦軸は前記差異(%)である。
図中、aは本実施形態の電圧参照により求めたSOCの推移、bは電流積算により求めたSOCの推移、cは両者の差異である。
図24より差異は略−10%〜5%であり、小さいことが分かる。
【0098】
以上より、本実施形態の電圧参照によるSOCの推定は、対照の電流積算によるSOCの推定との誤差が小さく、精度が高いことが確認された。
【0099】
以上のように、単極において、全電位範囲で、充電時,放電時に生じる、Aの反応,Bの反応の酸化,還元を考慮することで、充放電の履歴及びフルSOC−OCPに基づいて参照のSOC−OCVを求めることができる。正極の場合、放電による酸化体の還元により減じた量に基づき、現時点での一の電気化学反応に基づく酸化量を推定する。第3,第4SOC−OCVを精度良く推定できる。負極の場合も同様である。余剰酸化量(又は余剰還元量)と酸化体(又は還元体)の低電位領域における還元量(又は酸化量)との差に基づき、より正確に一の電気化学反応に基づく現時点での酸化量(又は還元量)を求めることができる。
充電時及び放電時に、全領域で蓄電量を精度良く推定できる第3,第4SOC−OCVを求めることができる。
【0100】
本実施の形態においては、メモリ63に記憶されたVup、第1SOC−OCP又は第2SOC−OCPに基づき、第3SOC−OCV又は第4SOC−OCVを生成する。Vup毎に実測により参照のSOC−OCVをメモリ63に格納しておく必要はない。即ち、参照のSOC−OCVを全領域で容易に求めることができる。実測するのはフルの充放電のSOC−OCVのみであり、該SOC−OCVは推定してもよく、作業量が著しく軽減される。
電池3の劣化に応じて、参照のSOC−OCVを算出する場合、実測又は推定するのはフルの充放電のSOC−OCVのみであり、電池3の使用期間における作業量は少ない。
【0101】
本実施形態においては、充電及び放電、高電位領域及び低電位領域のいずれにおいても、SOCを推定できる。Vup、V1に基づいて参照のSOC−OCVを算出することで、複雑なパターンで充放電が繰り返された場合に、電圧の履歴のみによってSOCを推定できる。取得した電圧が前回のVupを超えた場合にVupを更新することで、充電時の最終の電圧に基づきSOC−OCV曲線を選択する特許文献1と異なり、Aの反応により生じた酸化体の残存量を考慮することができ、高精度にSOCを推定できる。
充電により電圧がV1より高くなり、Vupに到達した後、放電により電圧がV1より低くなり、Vlowに到達した場合、前記酸化体の還元による減少量を考慮してVupを更新する。更新したVupにより、精度良く参照のSOC−OCVを求めることができ、SOCを推定できる。
【0102】
電圧を用いることができるので、蓄電量としてSOCに限定されない。DOD(Depth of Discharge)を用いることができる。電力量等、蓄電素子に蓄えられた現在のエネルギーの量を推定できる。充放電特性に基づいて、SOC0%までの放電可能なエネルギー、及びSOC100%までに必要な充電エネルギーを予測することができる。即ち、現時点での残存電力量と貯蔵可能電力量とを推定できる。
従って、複数の電池3を用いる場合のバランシング、回生受け入れの制御、車両の走行距離の推定等を精度良く行うことができる。
【0103】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0104】
実施形態1においては、正極がヒステリシスを有する活物質を含む場合につき説明したが、負極がヒステリシスを有する活物質を含む場合も、同様にして参照SOC−OCVを求め、SOCを推定することができる。
【0105】
一の電気化学反応及び他の電気化学反応も実施形態1において説明したように生じる場合には限定されない。充電及び放電、高電位側及び低電位側における活物質の反応に応じて、電位領域、各領域の起点の求め方を決定する。そして、放電による酸化体の還元により減じた量に基づき、現時点での一の電気化学反応に基づく酸化量を推定し、電圧参照蓄電量−電圧特性を推定する。
【0106】
本発明に係る電圧参照による蓄電量の推定は休止時に行う場合に限定されず、充電時又は放電時にリアルタイムに行ってもよい。この場合、取得した電圧及び電流値から現時点のOCVを算出する。OCVの算出は、複数の電圧及び電流値のデータから回帰直線を用いて、電流値がゼロである場合の電圧を推定すること等により得られる。また、電流値が暗電流の電流値のように小さい場合は、取得した電圧をOCVに読み替えることもできる。
【0107】
本発明に係る管理装置は、車載用のリチウムイオン二次電池に適用される場合に限定されない。代替的に、鉄道用回生電力貯蔵装置、太陽光発電システム等の他の蓄電モジュールにも適用できる。微小電流が流れる蓄電モジュールにおいては、蓄電素子の正極端子・負極端子間の電圧をOCVとみなすことができる。
蓄電素子は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、ヒステリシス特性を有する他の二次電池や電気化学セルであってもよい。
【0108】
監視装置100又はBMU6が管理装置である場合を例示した。代替的に、CMU(Cell Monitoring Unit)が管理装置でよい。管理装置は、監視装置100等が組み込まれた蓄電モジュールの一部であってもよい。管理装置は、蓄電素子や蓄電モジュールとは別個に構成されて、管理対象の蓄電素子を含む蓄電モジュールに、蓄電量の推定時に接続されてもよい。管理装置は、蓄電素子や蓄電モジュールを遠隔監視してもよい。