(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-206891(P2018-206891A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】磁気抵抗メモリ素子及び磁気抵抗メモリ回路
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8239 20060101AFI20181130BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20181130BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20181130BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-109264(P2017-109264)
(22)【出願日】2017年6月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「耐災害性に優れた安心・安全社会のためのスピントロニクス材料・デバイス基盤技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大智
(72)【発明者】
【氏名】梯 友哉
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA07
4M119AA17
4M119AA20
4M119BB01
4M119CC02
4M119CC05
4M119DD17
4M119DD43
4M119DD51
4M119DD52
4M119EE05
4M119EE11
5F092AA20
5F092AB06
5F092AC12
5F092AD23
5F092AD25
5F092BC47
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】重イオン放射線の環境下でもデータの消失を抑制できる磁気抵抗メモリ素子及び磁気抵抗メモリ回路を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様の磁気抵抗メモリ素子は、磁化方向が可変の第1磁性層、磁化方向が不変の第2磁性層、及び、第1磁性層と第2磁性層との間に配置され、第1磁性層と第2磁性層とをトンネル接続する絶縁層、を備える第1のメモリ素子及び第2のメモリ素子と、第1のメモリ素子の第1磁性層と、第2のメモリ素子の第1磁性層との双方に接続し、磁束を保持する導電体と、を備える、磁気抵抗メモリ素子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が可変の第1磁性層、
磁化方向が不変の第2磁性層、及び、
前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に配置され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とをトンネル接続する絶縁層、
を備える第1のメモリ素子及び第2のメモリ素子と、
前記第1のメモリ素子の前記第1磁性層と、前記第2のメモリ素子の前記第1磁性層との双方に接続し、磁束を保持する導電体と、
を備える、磁気抵抗メモリ素子。
【請求項2】
前記第1のメモリ素子の前記第1磁性層の磁化方向と、前記第2のメモリ素子の前記第1磁性層の磁化方向とが逆方向である、請求項1記載の磁気抵抗メモリ素子。
【請求項3】
前記第1のメモリ素子及び第2のメモリ素子が一列に接続され、前記第1のメモリ素子の前記第1磁性層の磁化方向と、前記第2のメモリ素子の前記第1磁性層の磁化方向とが同じ方向である、請求項1記載の磁気抵抗メモリ素子。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項記載の磁気抵抗メモリ素子が複数配置された、磁気抵抗メモリ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗メモリ素子及び磁気抵抗メモリ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を用いたSRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)等のメモリ素子は、微細化が進み、高容量が実現される一方で宇宙放射線や地上の天然中性子放射線が存在する環境下において、記憶情報が変化してしまう場合がある。
【0003】
次世代の記憶媒体としてMRAM(Magnetoresistive Randam Access Memory:磁気抵抗変化型ランダムアクセスメモリ)と呼ばれる磁気抵抗メモリ回路が研究されている(例えば特許文献1)。MRAMは、MTJ素子(Magnetic Tunnel Junction:磁気トンネル接合素子)と呼ばれる磁気メモリ素子によってデータを記憶する。
【0004】
MTJ素子は、低消費電力で高速に動作すると共に、半導体素子に比して放射線に対する耐性が比較的高いとされている。特許文献2に記載された技術によると、磁気抵抗メモリ素子の放射線への耐性を高める技術として、メモリ素子の強磁性層におけるB(ホウ素)に含まれる同位体
10Bの比率を、自然界における比率よりも低くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−207469号公報
【特許文献2】特開2012−253207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
宇宙空間では重イオン放射線が存在し、MTJ素子に衝突する可能性がある。地上における自然界では、天然中性子放射線が存在する。中性子放射線がMTJ素子近傍の物質と核反応を起こすと、重イオン放射線が発生し、重イオン放射線がMTJ素子に衝突する可能性がある。本発明者らは、MTJ素子が重イオン放射線に反応して磁化の方向が変わることを見出した。重イオン放射線がある環境下では磁気メモリ素子の記憶が消失する可能性がある。特許文献2に記載された技術は、MTJ素子と重イオン放射線との反応を抑制するものではない。
【0007】
本発明は、重イオン放射線の環境下でもデータの消失を抑制できる磁気抵抗メモリ素子及び磁気抵抗メモリ回路を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の磁気抵抗メモリ素子は、磁化方向が可変の第1磁性層、磁化方向が不変の第2磁性層、及び、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に配置され、前記第1磁性層と前記第2磁性層とをトンネル接続する絶縁層、を備える第1のメモリ素子及び第2のメモリ素子と、前記第1のメモリ素子の前記第1磁性層と、前記第2のメモリ素子の前記第1磁性層との双方に接続し、磁束を保持する導電体と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様の磁気抵抗メモリ素子によると、重イオン放射線の環境下でもデータの消失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子1の断面図である。
【
図2】MTJ素子の動作原理を模式的に示す図である。
【
図3】MTJ素子の動作原理を模式的に示す図である。
【
図4】MTJ素子2Aにおける放射線の影響を示す図である。
【
図5】MTJ素子2Aの第1磁性層3Aが消磁した場合を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子20の断面図である。
【
図7】第3の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子30の断面図である。
【
図8】複数の磁気抵抗メモリ素子1を備える磁気抵抗メモリ回路100の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る磁気抵抗メモリ素子及び磁気抵抗メモリ回路の実施形態について説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子1の断面図である。図示するように、磁気抵抗メモリ素子1は、垂直磁化方式の一対のMTJ素子(第1及び第2のメモリ素子)2A,2Bを用いた記憶素子である。磁気抵抗メモリ素子1は、例えば、隣接して配置された一対のMTJ素子2A,2Bと、一対のMTJ素子2A,2B同士を連結するアーチ形の導電体10と、一対のMTJ素子2A,2Bのそれぞれに隣接して配置された一対の磁束生成配線12A,12Bと、隣接して並置された一対のMTJ素子2A,2Bに電流を流す一対の電極14A,14Bと、を備える。電極14A,14Bには、それぞれ端子A,Bが設けられている。
【0013】
MTJ素子2Aは、例えば、電極14Aの上層(+Z方向)に形成された第2磁性層5Aと、第2磁性層5Aの上層に形成された絶縁層4Aと、絶縁層4Aの上層に形成された第1磁性層3Aとを備える。第1磁性層3Aは、磁化方向が可変の強磁性体である。第1磁性層3Aの磁化方向は、外部からの磁界の付与によって電流の流れる方向(+Z方向)、または電流の流れる方向と逆方向(−Z方向)に可変する。第1磁性層3Aは、磁化方向の違いによって情報を記憶する記憶層である。
【0014】
第2磁性層5Aは、磁化方向が電流の流れる方向(例えば+Z方向)に固定され、磁化方向が不変の強磁性体である。
【0015】
絶縁層4Aは、第1磁性層3Aと第2磁性層5Aとの間に挟まれて設けられ、第1磁性層3Aと第2磁性層5Aとをトンネル接続する。端子Aから端子Bに電流を流すと、第2磁性層5Aから絶縁層4Aを介して、第1磁性層3Aに電流が流れる。
【0016】
MTJ素子2Bは、例えば、MTJ素子2Aと同様の構成を有する。以下、MTJ素子2Aと重複する説明は適宜省略する。第1磁性層3Bの磁化方向は、外部から磁界がかけられることによって電流の流れる方向(−Z方向)、または電流の流れる方向と逆方向(+Z方向)に可変する。第2磁性層5Bは、磁化方向が電流の流れる方向(例えばZ方向)に固定された磁性体である。電極14Aの端子Aに電流を流すと、MTJ素子2A、導電体10を介して、MTJ素子2Bに電流が流れる。このとき、第1磁性層3Bから絶縁層4Bを介して、第2磁性層5Bに電流が流れる。
【0017】
導電体10は、XZ平面を断面とした場合に逆U字のアーチ状に形成されている。導電体10は、導電性を有すると共に、磁束を閉じ込める性質を有する材料で形成されている。導電体10は、例えば、パーマロイなどの軟強磁性体を用いて形成されるが、同様の性質を有するのであれば他の材料を用いてもよい。導電体10は、一対のMTJ素子2A,2Bの一対の第1磁性層3A,3Bの上面同士を連結する。即ち、導電体10は、一対の第1磁性層3A,3Bの双方に接触し、導電性を有すると共に磁束を保持する。
【0018】
一対の磁束生成配線12A,12Bは、一対の第1磁性層3A,3Bの外側の側面に隣接して配置され、電流が流されることにより磁界を生じさせる。この磁界は、一対の第1磁性層3A,3Bを磁化する。一対の第1磁性層3A,3Bの外側の側面とは、磁気抵抗メモリ素子1におけるX軸方向に沿った両側面方向を意味する。磁束生成配線12Aは、例えば、Y方向に電流が流れることにより磁束生成配線12Aの周囲に同心円状の磁界を生じさせる。この同心円状の磁界は、第1磁性層3AをZ方向に磁化する。また、磁束生成配線12Aは、例えば、−Y方向に電流が流れることによって第1磁性層3Aを−Z方向に磁化する。
【0019】
同様に、磁束生成配線12Bは、例えば、−Y方向に電流が流れることにより磁束生成配線12Bの周囲に同心円状の磁界を生じさせる。この同心円状の磁界は、第1磁性層3BをZ方向に磁化する。また、磁束生成配線12Bは、例えば、Y方向に電流が流れることによって第1磁性層3BをZ方向に磁化する。
【0020】
一対のMTJ素子2A,2Bのそれぞれは、一対の第1磁性層3A,3B、一対の第2磁性層5A,5B、及び絶縁層4A,4Bの積層方向が同じになるように隣接して配置されているため、一対の磁束生成配線12A,12Bに、Y軸に関して同方向に電流が流されると、第1磁性層3Aと第1磁性層3Bには、配置状態において反対方向に磁化方向が形成される。
【0021】
図2及び
図3は、MTJ素子2Aの動作原理を模式的に示す図である。MTJ素子2Bの動作も基本的に同様であるので、代表してMTJ素子2Aについて説明する。
図2に示されるように、MTJ素子2Aにおいて、磁化方向が可変の第1磁性層3Aが+Z方向に磁化された場合、磁化方向が固定された第2磁性層5Aの磁化方向も+Z方向であり、第2磁性層5Aから絶縁層4Aを介して第1磁性層3Aに電流を流すと第1抵抗値=R
Pが得られる。
【0022】
図3に示されるように、MTJ素子2Aにおいて、磁化方向が可変の第1磁性層3Aが−Z方向に磁化された場合、磁化方向が固定された第2磁性層5Aの磁化方向は反対方向の+Z方向であり、第2磁性層5Aから絶縁層4Aを介して第1磁性層3Aに電流を流すと第2抵抗値=R
APが得られる。このとき、第1磁性層3Aの磁化方向と第2磁性層5Aとの磁化方向とは逆向きなので、磁気的な抵抗によって第2抵抗値は、第1抵抗値よりも大きくなる。
【0023】
上記のように、第1抵抗値、または第2抵抗値という異なる抵抗値を検出することにより、MTJ素子2Aは、メモリ素子として用いられる。
【0024】
図4は、MTJ素子2Aにおける放射線の影響を示す図である。MTJ素子2Aがメモリ装置として用いられる場合、MTJ素子2Aには導電性があるため、その周囲は絶縁体6で覆われる。一般的に用いられる絶縁体6は、MTJ素子2Aの第1磁性層3Aや第2磁性層5Aより熱伝導率が低いため、第1磁性層3Aや第2磁性層5Aに熱が閉じ込められやすくなる。
【0025】
ここで、中性子線nが絶縁体6内の物質(例えば
10B)に当たって核反応Rを起こすと、重イオン放射線Hが生じ、第1磁性層3Aの中の電子と反応して第1磁性層3Aにエネルギーを与え、第1磁性層3Aの温度が上昇する。核反応Rは、第1磁性層3A内の物質と反応しても起こり得る。このときの核反応Rによって生じる温度は例えば500(K)から700(K)である。このような温度域では、第1磁性層3Aの磁束が温度の影響によって消磁することが実験的に分かっている。
【0026】
図5は、MTJ素子2Aの第1磁性層3Aが消磁した場合を示す図である。
図5(1)に示されるように、MTJ素子2Aの第1磁性層3Aが消磁した場合、導電体10内には、MTJ素子2Bの第1磁性層3Bの磁束GBの磁化方向に沿って磁束11が生じる。そうすると、
図5(2)に示されるように、磁束11の影響により、第1磁性層3Aは、磁束11の方向に沿って磁化される。これにより、第1磁性層3Aには、もとの磁化方向の磁束GAが生じる。即ち、導電体10は、導電体10に接続する双方の第1磁性層3A,3Bのいずれか一方の磁束が失われても、磁化方向が維持されている他方の第1磁性層の磁束によって、磁束が失われた第1磁性層を元の磁化方向に磁化する。
【0027】
上記の第1磁性層3Aの再磁化は、磁束GAの方向が逆の場合にも行われる。第1磁性層3Aの再磁化において、再磁化の速度は極めて速く、再磁化の速度がメモリ素子としての性能に影響を与えることはない。上記の再磁化は、MTJ素子2Bの第1磁性層3Bが消磁した場合も成立し得る。
【0028】
このように磁気抵抗メモリ素子1では、MTJ素子が冗長化されており、第1磁性層3Aまたは第1磁性層3Bのいずれか一つの磁化方向が重イオン放射線の影響などによって変化した場合であっても、第1磁性層3Aと第1磁性層3Bとの双方に接触し、導電性を有すると共に磁束を保持する導電体10によって、失われた磁化方向を復活させることができる。これにより、磁気抵抗メモリ素子1は、重イオン放射線の影響で磁気メモリ素子の記憶が消失した場合でも消失する前の状態を回復し、データの消失を低減することができる。
【0029】
[第2の実施形態]
第1の実施形態の磁気抵抗メモリ素子1は、一対の磁束生成配線12A,12Bに電流を流すことによって一対のMTJ素子2A,2Bの一対の第1磁性層3Aと第1磁性層3Bとの磁化方向をそれぞれ可変させていた。第2の実施形態の磁気抵抗メモリ素子20は、導電体10に設けられた端子Cによって第1磁性層3Aと第1磁性層3Bとの磁化方向を可変させる。
【0030】
図6は、第2の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子20の断面図である。以下の説明では、第1実施形態と同一の構成については同一の名称、符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0031】
磁気抵抗メモリ素子20は、磁気抵抗メモリ素子1の一対の磁束生成配線12A,12Bが省略されている。磁気抵抗メモリ素子20の導電体10の例えば中間点には、端子Cが設けられている。
【0032】
一対のMTJ素子2A,2Bの一対の第1磁性層3Aと第1磁性層3Bの磁化の方向は、一対の第1磁性層3Aと第1磁性層3Bをそれぞれ流れる電流の向きによって制御される。即ち、磁気抵抗メモリ素子20では、スピントランスファートルクによって磁化を制御して一対の第1磁性層3Aと第1磁性層3Bに情報を書き込む。例えば、磁気抵抗メモリ素子20において、端子Aと端子Cとの間、または端子Bと端子Cとの間に所定の閾値を超える電圧値のパルスを与えるように電流を流すことにより、第1磁性層3Aと第1磁性層3Bの磁化の方向をZ軸に沿った所望の向きに制御することができる。
【0033】
磁気抵抗メモリ素子20に記憶されたデータを読み出す場合、端子Aと端子Bとの間の抵抗値を読み取ればよい。データの読み出しは、これに限らず、端子Aと端子Cとの間、または端子Bと端子Cとの間の抵抗値を読み取ってもよい。
【0034】
第2の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子20によると、メモリ素子に必要な性能を確保しつつ、構成を簡略化することができる。
【0035】
[第3の実施形態]
第1実施形態及び第2実施形態では、一対のMTJ素子2A,2Bのそれぞれは、一対の第1磁性層3A,3B、一対の第2磁性層5A,5B、及び絶縁層4A,4Bの積層方向が同じになるように隣接して配置されていた。第3の実施形態では、一対のMTJ素子2A,2Bが一列に配置されている構成を例示する。
【0036】
図7は、第3の実施形態に係る磁気抵抗メモリ素子30の断面図である。磁気抵抗メモリ素子30では、MTJ素子2A,2Bが直線状に配置されている。それぞれのMTJ素子2A,2Bの積層方向は、Z軸に対して反対方向となっている。即ち、それぞれのMTJ素子2A,2Bは、それぞれの第1磁性層3A,3Bが対向するように配置され、それぞれの第1磁性層3A,3Bの磁化方向が配置状態において同じ方向となるように配置されている。それぞれの第1磁性層3A,3Bを磁化する場合、第1実施形態と同様に一対の磁束生成配線12A,12Bを用いてもよい。
用いても良い。
【0037】
上述した磁気抵抗メモリ素子30によると、一対のMTJ素子2A,2Bが直線状に配置されているため、省スペース化することができ、装置を小型化することができる。
【0038】
[第4の実施形態]
上述した第1実施形態の磁気抵抗メモリ素子1、第2実施形態の磁気抵抗メモリ素子20、第3実施形態の磁気抵抗メモリ素子30、のいずれかを複数個用いて磁気抵抗メモリ回路100を構成してもよい。
【0039】
図8は、複数の磁気抵抗メモリ素子1を備える磁気抵抗メモリ回路100の構成を示す断面図である。磁気抵抗メモリ回路100は、複数の磁気抵抗メモリ素子1がX軸及びY軸に沿ってマトリクス状に配置されている。磁気抵抗メモリ素子1は、磁気抵抗メモリ素子20、磁気抵抗メモリ素子30であってもよい。磁気抵抗メモリ回路100により、MTJ素子が冗長化され、放射線に対して耐性が高い記憶媒体を構成することができる。
【0040】
なお、上記の実施形態の他に放射線に対して耐性を高める手法として、
図4の絶縁体6の材質をサファイアや窒化アルミニウムといった熱伝導性が高い材質を用いて形成してもよい。また、絶縁体6に含まれるBの同位体
10Bの比率を、自然界における比率よりも低くしてもよい。また、MTJ素子の周辺の配線をアルミニウムなどの軽金属に変更することで、熱伝導性を高め、重イオン放射線に対して耐性を高めてもよい。
【0041】
また、MTJ素子の配列を変更して重イオン放射線に対して耐性を高めてもよい。例えば、3個以上の複数のMTJ素子を一列に接続した回路と回路を選択するためのトランジスタを用いてメモリ回路を構成してもよい。この場合、いずれか1つのMTJ素子に重イオン放射線が当たって抵抗状態が変わっても、残りのMTJ素子の抵抗状態が維持されるため、全体の抵抗値によって記憶データの状態を推定することができる。また、複数のMTJ素子が、並列に接続されている回路であってもよい。
【0042】
この他、2個のMTJ素子が直線状に配置された回路を並列に配置してラッチ型の回路を構成してもよい。この回路によると、重イオン放射線の影響により1つのMTJ素子の抵抗値が変わっても、多数決の原理により回路全体の記憶データの状態を推定することができる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。例えば、
図1において、磁束生成配線12A及び磁束生成配線12Bを用いる代わりに、第1磁性層3Aと第1磁性層3Bとの間の位置に1本の磁束生成配線を配置し、この1本の磁束生成配線から生じる磁界によりそれぞれの第1磁性層3A,3Bを磁化してもよい。同様に、
図7において、例えば磁束生成配線12Aと磁束生成配線12Bの中間の位置に、一本の磁束生成配線を配置し、この一本の磁束生成配線から生じる磁界によりそれぞれの第1磁性層3A,3Bを磁化してもよい。また、上記実施形態の磁気抵抗メモリ素子を複数個直列または並列に接続して冗長化した回路を形成し、重イオン放射線に対して耐性を高めてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1、20、30…磁気抵抗メモリ素子
2A、2B…MTJ素子
3A、3B…第1磁性層
4A、4B…絶縁層
5A、5B…第2磁性層
6…絶縁体
10…導電体
12A、12B…磁束生成配線
14A、14B…電極
100…磁気抵抗メモリ回路
A、B、C…端子