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特開2018-206895ZnO系半導体素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-206895(P2018-206895A)
(43)【公開日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】ZnO系半導体素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/28 20100101AFI20181130BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
   H01L33/28
   H01L21/365
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-109401(P2017-109401)
(22)【出願日】2017年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有香
(72)【発明者】
【氏名】佐野 道宏
【テーマコード(参考)】
5F045
5F241
【Fターム(参考)】
5F045AA05
5F045AB22
5F045BB16
5F045CA10
5F241AA40
5F241CA02
5F241CA41
5F241CA49
5F241CA57
5F241CA66
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高品質のp型ZnO系半導体層を実現する。
【解決手段】ZnO系半導体素子の製造方法は、(a)ZnO系半導体基板上に、Gaを5×1016cm−3以上、5×1017cm−3以下の濃度でノンドープZnO系材料にドーピングしたn型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、(b)n型ZnO系半導体層の上に、Ag、またはAg及びIIIb族元素の少なくとも1種、がドーピングされたp型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO系半導体基板と、
前記ZnO系半導体基板上に形成され、ノンドープZnO系半導体にGaを5×1016cm−3以上、5×1017cm−3以下の濃度でドーピングしたn型ZnO系半導体層と、
前記n型ZnO系半導体層の上に形成され、Ag、またはAg及びIIIb族元素の少なくとも1種、がドーピングされたp型ZnO系半導体層と、
を有するZnO系半導体素子。
【請求項2】
前記ZnO系半導体がZnOであり、前記IIIb族元素の少なくとも1種がGaである請求項1に記載のZnO系半導体素子。
【請求項3】
(a)ZnO系半導体基板上に、Gaを5×1016cm−3以上、5×1017cm−3以下の濃度でノンドープZnO系材料にドーピングしたn型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
(b)前記n型ZnO系半導体層の上に、Ag、またはAg及びIIIb族元素の少なくとも1種、がドーピングされたp型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
を含むZnO系半導体素子の製造方法。
【請求項4】
さらに、
(c)前記p型ZnO系半導体層を成長した構造体を、活性酸素が存在する、圧力が10−2Pa未満の環境でアニールする工程と、
を含む、請求項3に記載のZnO系半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記ZnO系半導体がZnOであり、前記IIIb族元素の少なくとも1種がGaである、請求項3または4に記載のZnO系半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、室温で3.37eVのバンドギャップエネルギーを持つ直接遷移型の半導体で、励起子の束縛エネルギーが60meVと比較的大きい。また原材料が安価であるとともに、環境や人体への影響が少ないという特徴を有する。このためZnOを用いた高効率、低消費電力で環境性に優れた発光素子の実現が期待されている。
【0003】
バンドギャップエネルギーを調整するために、ZnOにMgOやCdOを添加したZnO系半導体は、ZnO類似の物性を有する。基板上にZnO系半導体をエピタキシャル成長し、発光装置を形成することができる。エピタキシャル成長は、限定的ではないが、分子線成長(molecular beam epitaxy MBE)で行える。
【0004】
しかし、ZnO系半導体は、強いイオン性に起因する自己補償効果を有し、通常の熱拡散手法など熱平衡的不純物ドープ手法による結晶成長法では、p型の導電型制御が困難である。アクセプタ不純物として、N、P、As、Sb等のVA(5A)族元素、Li、Na、K等のIA(1A)族元素、Cu、Ag、Au等のIB(1B)族元素を用い、実用的な性能を持つp型ZnO系半導体を開発する研究が行われている。p型ZnO系半導体層を、p型不純物とn型不純物をコドープして形成する技術も提案されている。例えば、ZnO系半導体層に、Cu,Ag等のアクセプタを、Ga等のドナーと共に、コドープしてp型層を得る技術(例えば特許文献1)が提案されている。
【0005】
ZnO系半導体中でZnサイトを占めたAg等がp型不純物として機能するアクセプタとなる。例えばn型不純物Gaとp型不純物AgとをコドープしたZnO系層を成長しても、それだけではp型とならず、アニールして初めてp型となる。Agをp型不純物として機能させるには、まずAgを熱拡散等によりZn空孔まで移動させることが必要であると考えられる。本願発明者らは、例えば、n型不純物Gaとp型不純物Agを含むZnO系半導体層を形成し、活性酸素が存在する、圧力が10−2Pa未満の環境で、該ZnO系半導体層をアニールしてp型化する方法を提案した(例えば特許文献2)。
【0006】
Agは、ZnO系半導体中で大きい径を有し、格子間を自由に移動するとは考えにくい。Agの移動には酸素空孔等の格子欠陥の存在が望まれる。ZnO系結晶をアニールすれば、構成原子を動かして格子欠陥を生じさせ、Ag原子が移動可能な状況を実現できると考えられる。Agの移動制御を行う際は、酸素が存在しない真空雰囲気を用いた時の結果から、本願発明者らは、活性酸素が存在する雰囲気が好ましいと考えている。
【0007】
結晶中でZnが移動すると、Zn空孔、格子間Znが生じ、Zn空孔にAgを捕捉できる。Agをp型不純物とするために、Zn空孔は必要な要素であり、Zn空孔の発生に伴って、格子間Znも生じる。格子間Znはドナーとして機能する。Znが移動すると、結合の相手を失ったOも移動しやすくなり、Oが移動した後に、酸素空孔が生じると考えられる。酸素空孔は活性化エネルギの低いドナーとして機能する。遊離した酸素は、格子間を移動し、表面に達すれば、外部に蒸発する。p型ZnO系層の形成には、Zn空孔、酸素空孔、格子間Zn、格子間酸素等の結晶欠陥の発生が伴う。
【0008】
なお、多重量子井戸発光層を有するZnO系半導体発光構造において、発光層の少なくとも一部にドナー不純物をドーピングすることにより、ドナーレベルを介したエネルギー遷移を生ぜしめることにより発光効率を向上させる提案もされている(例えば特許文献3)。実施例として、Gaを1×1018cm−3の濃度でドーピングした多重量子井戸構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−221132号公報、
【特許文献2】特開2015−159269号公報、
【特許文献3】特開2004−335792号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アクセプタ不純物をドープしたp型ZnO系半導体層の特性は、未だ十分高いとは言えない。高品質のp型ZnO系半導体層を実現することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施例の1観点によれば、
ZnO系基板と、
ZnO系基板上に形成され、Gaを5×1016cm−3以上、5×1017cm−3以下の濃度でドーピングしたn型ZnO系半導体層と、
n型ZnO系半導体層の上にAgまたはAg及びIIIb族元素の少なくとも1種がドーピングされたp型ZnO系半導体層と、
を有するZnO系半導体素子
が提供される。
【0012】
実施例の他の観点によれば、
(a)ZnO系半導体基板上に、Gaを5×1016cm−3以上、5×1017cm−3以下の濃度でドーピングしたn型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
(b)n型ZnO系半導体層の上に、Ag、またはAg及びIIIb族元素の少なくとも1種、がドーピングされたp型ZnO系半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
を含むZnO系半導体素子の製造方法
が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図、図1Bは先行研究におけるサンプルの概略的な断面図、図1Cは該サンプル中のp型ZnO層内の積層構造を示す概略的な断面図である。
図2図2Aは、比較例におけるサンプル作成プロセスの温度プロファイルを示すグラフ、図2Bはプロセスの内容を示す工程図である。
図3図3Aは、実施例によるサンプル作成プロセスの温度プロファイルを示すグラフ、図3Bはプロセスの内容を示す工程図である。
図4図4Aは比較例のサンプルに対するSIMS測定結果を示すグラフ、図4Bは実施例のサンプルに対するSIMS測定結果を示すグラフである。
図5図5Aは、ラマン散乱測定系を示す概略図、図5Bは比較例と実施例のサンプルに対するラマンスペクトルを示すグラフ、図5CはZnO結晶の振動モードであるEhighモードのピーク強度に対するZnO結晶中の欠陥に起因するA(LO)モードのピーク強度の比[A(LO)]/[Ehigh]を示すグラフである。
図6】比較例、実施例において、p型ZnO層中のAg濃度が異なるサンプルを作製し、ラマン散乱を測定した結果に基づく、Ag濃度の変化に対するラマン散乱ピーク強度の比[A(LO)]/[Ehigh]を示すグラフである。
図7】p型ZnO層にp型不純物Agと共にn型不純物Gaをコドープした、比較例と実施例のサンプルにおいて、ラマン散乱を測定した結果に基づく、Ag濃度に対するラマン散乱ピーク強度の比[A(LO)]/[Ehigh]を示すグラフである。
図8】比較例に基づくアンドープZnO層のホトルミネッセンスと実施例に基づくGaドープZnO層のホトルミネッセンスのスペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0014】
51 ZnO基板、52 ZnOバッファ層、53 アンドープZnO層、
54 交互積層構造、71 真空チャンバ、72 Znソースガン、73 Oソースガン、74 Mgソースガン、75 Agソースガン、76 Gaソースガン、77 ステージ、78 基板、79 膜厚計、80 RHEED用ガン、81 スクリーン、
S1〜S6 比較例の工程、 S11〜S16 実施例の工程、 50 サンプル、
91 励起光、 92 散乱光、 93 検出光学系、 96 ブロードPLバンド、
97 バンドギャップ発光、 UD アンドープ、 GaD Gaドープ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、良質なp型ZnO系結晶の開発を研究している。上述したように、p型ZnO系層の形成には、Zn空孔、酸素空孔、格子間Zn、格子間酸素等の結晶欠陥の発生が伴う。p型層中の欠陥が多くなれば、n型のトラップも多くなり、結晶性の向上を妨げる。高効率の発光ダイオード(LED)を作成する際に欠陥の有無が問題になってくる。
【0016】
n型ZnO系結晶層上にp型不純物としてAgをドープしたp型ZnO系結晶層を形成したLEDを研究している際、従来例に従いノンドープのn型ZnO系結晶層を用いた場合(比較例)と、n型ZnO系結晶層に微量のGaをドープした場合とで異なる結果が得られることを見出した。ZnO系半導体層の成長は、分子線エピタキシ(molecular beam epitaxy;MBE)により行った。
【0017】
図1Aは、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Agソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。MBE装置稼働中の背圧は、10−8Pa〜10−2Paである。
【0018】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Agソースガン75、Gaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Ag(6N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Agビーム、Gaビームを出射する。
【0019】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でOガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカル(O)ビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用できる。
【0020】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが直接照射される状態と直接照射されない状態とを切り替え可能である。なお、基板78の前にもシャッタを備える。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長できる。
【0021】
基板上に堆積する膜の厚さを計測するための膜厚計79がステージ77の側方に配置されている。ステージ77を挟んで、電子ビームを出射するRHEED用ガン80と基板78で反射された電子ビームを受け画像化するスクリーン81が対向配置されている。
【0022】
図1Bを参照して、先行研究におけるホモ接合を有するZnO系半導体発光ダイオードの基本的構成を説明する。図1Aに示すMBE装置を用い、n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板51上に、MBEにより、ZnOバッファ層52、n型ZnO層53、p型ZnO層54を形成する。
【0023】
図1Cは、p型ZnO層54の構成例を示す部分拡大断面図である。アンドープのZnO層54aとAgO層54bとが交互に積層されて、例えば30対の交互積層を構成してp型ZnO層を形成する。なお、「AgO」は、AgO(酸化銀(II))、AgO(酸化銀(I))等、AgOと表すことのできる銀酸化物を表わす。尚、アンドープのZnO層の代わりにGaドープのZnO層を用い、AgO層と交互に形成して、コドープのp型ZnO層を形成することもできる。
【0024】
以下、比較例と実施例について、より具体的に説明する。サンプルは、図1Bに示したように、ZnO基板51の上にZnOバッファ層52を形成し、その上にn型ZnO層53を形成し、その上にp型ZnO層を形成した構成である。図2が比較例を示し、図3が実施例を示す。図2A図3Aは時間経過に伴う温度変化、実施工程を示すグラフであり、図2B,3Bはサンプルの構成とこれらの構成を形成するための各工程の内容を示す工程図である。
【0025】
図2を参照して、比較例のサンプル作成について説明する。図2Aの温度プロフィールグラフに示すように、ZnO基板51を850℃まで昇温し、工程S1として、850℃で約30分間のサーマルクリーニングを行う。続いて220℃まで降温し、工程S2として、220℃で5分間、原料の分子線を供給して、ZnOバッファ層(低温成長バッファ層)52の成長を行う。ZnフラックスFZnを1.4A/sec、O流量を1sccm、RFパワー150Wとした。
【0026】
工程S2に続いて、基板温度を850℃まで昇温し、工程S3として、850℃で30分間のアニールを行う。低温成長バッファ層の結晶性が改良され、厚さ約30nmのバッファ層52が得られた。工程S3のアニールに続いて、基板温度を920℃まで昇温し、工程S4として、厚さ約700nmのアンドープZnO層の成長を行う。尚、アンドープZnO層はn型ZnO層53となる。
【0027】
工程S4に続いて、基板温度を220℃まで降温し、工程S5として、n型ZnO層53の上に、厚さ約270nmのp型ZnO層54を形成する積層構造の成長を行う。図2Bに示すように、アンドープZnO層の成長を6回行った後、AgO層の成長を1回行う単位セットを90回繰り返した。各成長プロセスの間に酸素ラジカルO照射プロセスを入れる。O照射プロセスは3秒間、アンドープZnO層の成長は3秒間、AgO層の成長は13秒間とした。厚さ約270nmの積層構造が形成された。VI/IIフラックス比は0.92、Agソースの温度は875℃であった。尚、後述するように、アンドープZnO層に換えて、GaドープのZnO層を成長してもよい。S5の積層構造の成長後、基板温度を720℃まで昇温し、工程S6として、背圧10−2Pa未満の雰囲気のMBEチャンバ71内で、温度720℃、20分間の活性化、その場アニールを酸素ラヂカルOビームの断続的照射の下で行った。酸素ラジカル照射無しの期間には、酸素空孔の生成、移動と共に、Agの移動が生じ得るであろう。酸素ラジカル照射有りの期間には、酸素空孔の抑制、消滅が生じ得るであろう。結果として、高いアクセプタ濃度が得られると期待される。
【0028】
図3を参照して、実施例のサンプル作成について説明する。図3Aの温度プロフィールグラフに示すように、ZnO基板51を850℃まで昇温し、工程S11として、850℃で約30分間のサーマルクリーニングを行う。続いて220℃まで降温し、工程S12として、220℃で5分間、原料の分子線を供給して、ZnOバッファ層(低温成長バッファ層)52の成長を行う。ZnフラックスFZnを1.4A/sec、O流量を1sccm、RFパワー150Wとした。
【0029】
工程S12に続いて、基板温度を850℃まで昇温し、工程S13として、850℃で30分間のアニールを行う。低温成長バッファ層の結晶性が改良され、厚さ約30nmのバッファ層52が得られた。工程S13のアニールに続いて、基板温度を920℃まで昇温し、工程S14として、厚さ約700nmのGaドープZnO層の成長を行う。尚、n型ZnO層となるアンドープZnO層にn型不純物となるGaをドープするが、その量は微量であり、Gaドープでn型の導電性を付与する程の量ではない。
【0030】
工程S14に続いて、基板温度を220℃まで降温し、工程S15として、n型ZnO層53の上に、厚さ約270nmのp型ZnO層54を形成する積層構造の成長を行う。図3Bに示すように、アンドープZnO層の成長を6回行った後、AgO層の成長を1回行う単位セットを90回繰り返した。各成長プロセスの間に酸素ラジカルO照射プロセスを入れる。O照射プロセスは3秒間、アンドープZnO層の成長は3秒間、AgO層の成長は13秒間とした。厚さ約270nmの積層構造が形成された。VI/IIフラックス比は0.92、Agソースの温度は875℃であった。尚、後述するように、アンドープZnO層に換えて、GaドープのZnO層を成長してもよい。S15の積層構造の成長後、基板温度を720℃まで昇温し、工程S16として、背圧10−2Pa未満の雰囲気のMBEチャンバ71内で、温度720℃、20分間の活性化、その場アニールを酸素ラヂカルOビームの断続的照射の下で行った。酸素ラジカル照射無しの期間には、酸素空孔の生成、移動と共に、Agの移動が生じ得るであろう。酸素ラジカル照射有りの期間には、酸素空孔の抑制、消滅が生じ得るであろう。結果として、高いアクセプタ濃度が得られると期待される。
【0031】
実施例のサンプルが、比較例のサンプルと異なる点は、比較例のn型ZnO層がノンドープであるのに対して、実施例のn型ZnO層がGaドープであることである。
【0032】
図4は、2次イオン質量分析(SIMS)測定の結果を示す。図4Aのグラフが比較例に対するSIMS測定の結果を示し、図4Bのグラフが実施例のサンプルに対するSIMS測定の結果を示す。グラフにおいて、横軸はサンプルの表面からの深さを単位(nm)で示し、縦軸はSIMSで検出されたAgおよびGaの濃度を単位(cm−3)で示す。両サンプル共通に、表面から深さ約270nmの深さまでp型不純物であるAgが検出されている。p型ZnO層の深さが約270nmとなる。比較例のサンプルにおける銀濃度[Ag]として3.0×1020cm−3が検出され、実施例のサンプルにおける銀濃度[Ag]として2.8×1020cm−3が検出されている。p型ZnO層の下方にn型ZnO層が存在する。
【0033】
図4Aが示すように、比較例の測定結果においては、Ga濃度は、全厚さ範囲で検出下限界以下である。図4Bに示すように、実施例のサンプルにおいては、p型ZnO層内のGa濃度は約ゼロであるが、それより下方のn型ZnO層内ではGa濃度が約1×1017cm−3である。比較例のn型ZnO層ではGaが検出されていないが、実施例のn型ZnO層では1×1017cm−3のGaが検出されている。1×1017cm−3の濃度は、導電型付与不純物の濃度としては、微弱である。結晶構成要素としてもppmオーダーである。
【0034】
図5は、比較例と実施例のサンプルに対してラマン散乱測定を行った実験を示す。図5Aはラマン散乱の概略を示す側面図である。レーザ光の励起光91をサンプル50のp型ZnO層表面側に照射し、p型ZnO層表面側からの散乱光92を検出光学系で検出した。検出光学系は分光機構を含み励起光の波長からラマンシフトした散乱光を検出し、ラマンシフトの関数としてラマン散乱光ピークを検出できる。反射散乱光を測定しているので、p型ZnO層からの散乱光が最も強く表れると考えられる。
【0035】
図5Bは、ラマンシフトの関数として検出したラマン散乱スペクトルを示すグラフである。横軸がラマンシフトを単位(cm−1、カイザー)で示し、縦軸が検出したラマン散乱光の強度を単位(カウント)で示す。実施例のサンプルから得たスペクトルEmと比較例のサンプルから得たスペクトルCfを縦軸位置をずらして並列表記している。ZnO結晶の本来の振動モードであるEhighモードのピークは、比較例Cfと較べて実施例Emでより明確になっており、ZnO結晶の結晶性が改善されたことを示唆する。酸素空孔または格子間Znに起因する振動モードと言われるA(LO)モードのピークは、比較例Cfと較べて、実施例Emではピーク強度が小さくなっている。実施例のサンプルでは格子欠陥が減少していることを示唆する。
【0036】
図5Cは、ZnO結晶本来の散乱ピークEhighに対する格子欠陥に起因する散乱ピークA(LO)の比、[A(LO)]/[Ehigh]をAg濃度の関数として示したグラフである。横軸がAg濃度を単位(cm−3)で示し、縦軸がラマン散乱ピークの比[A(LO)]/[Ehigh]を示す。比較例においては約0.6であった比が、実施例では約0.15まで減少している。明らかな結晶性の改善が示唆される。図5においては、比較例、実施例共にp型ZnO層のAg濃度は1つのみであった。
【0037】
図6は、p型ZnO層のAg濃度が異なる複数のサンプルを形成してラマン測定した結果を示すグラフである。横軸がp型ZnO層のAg濃度を単位(cm−3)で示し、縦軸がラマン散乱ピークの比[A(LO)]/[Ehigh]を示す。サンプル数が十分多いとは言えないが、比較例の[A(LO)]/[Ehigh]比をy=3E−21x−0.2747と近似し、実施例の[A(LO)]/[Ehigh]比をy=3E−21x−0.5613と近似すると、比較例のサンプルと較べて、実施例のサンプルにおいてはp型ZnO結晶層の結晶性が大幅に改善されていることが示唆される。n型ZnO層にGaを1×1017cm−3ドープしたことによりその上に成長したp型ZnO層の結晶性が大幅に改善されたと考えられる。以上説明したサンプルのp型ZnO層にはAgのみをp型不純物としてドープした。p型不純物Agと共に、n型不純物Gaをコドープしてp型ZnO層を形成することもできる。
【0038】
図7は、p型ZnO層にp型不純物Agとn型不純物Gaをコドープしたサンプルのラマン散乱結果を示すグラフである。比較例ではp型ZnO層の下地であるn型ZnO層がアンドープZnOであり、実施例ではp型ZnO層の下地であるn型ZnO層がGaドープされている点は上述のサンプルと同様である。図7の横軸はAg濃度を単位(cm−3)で示し、縦軸はラマン散乱ピーク強度比[A(LO)]/[Ehigh]を示す。比較例サンプルの測定プロットをy=7E−22x+0.1933と近似し、実施例サンプルのプロットをy=7E−22x−0.0618と近似すると、比較例と較べて実施例のサンプルにおいて、ラマン散乱ピーク強度比[A(LO)]/[Ehigh]が明らかに減少しており、p型ZnO層の結晶性が改善されていることが示唆される。p型ZnO層の下地となるn型ZnO層に微量のGaをドープすると、どのような因果関係があるかは不明ながら、p型ZnO層の結晶性が向上するものと考えられる。
【0039】
図8はアンドープn型ZnO層およびGaドープn型ZnO層に励起光を照射した時、アンドープn型ZnO層およびGaドープn型ZnO層から得られたホトルミネッセンスのスペクトルを示すグラフである。アンドープZnO層からのホトルミネッセンスUDはバンドギャップ波長より長波長側の430nmから630nmの広い波長領域に亘るブロードなバンド発光96を発光する。GaをドープしたZnO層からのホトルミネッセンスGaDにおいては、ある程度Gaをドープした時点でブロードなバンド発光96は生じなくなった。5×1016cm−3から5×1017cm−3のGa濃度範囲では、ブロードなバンド発光は生ぜず、Ga濃度の増加と共に易動度も上昇した。不純物の添加によって易動度が向上する特異な現象である。5×1017cm−3のGa濃度を越え、特に1018cm−3の濃度を越えると、次第に結晶性が悪化した。
【0040】
5×1016cm−3から5×1017cm−3のGa濃度範囲は、図3に示した実施例サンプルのn型ZnO層にドープしたGa濃度1×1017cm−3とも一致する。p型ZnO層の下地となるn型ZnO層に、5×1016cm−3〜5×1017cm−3のGaをドープするとp型ZnO層の結晶性も向上し、高品質の発光ダイオードを実現可能と期待される。
【0041】
以上、ZnO結晶を用いた実験結果を説明したが、ZnO系半導体材料でホモ結合を形成するn型下地層とその上に形成したp型層との積層構造であれば、同様な結果が期待されよう。同一材料中にpn接合を形成するホモ接合であれば、下地層の結晶性がその上に成長する結晶層の結晶性に強く影響することが考えられる。
【0042】
量子井戸構造の活性層は、異なる材料の井戸層とバリア層とが積層されるので、活性層内に異種材料の境界が形成される。下地層上に活性層を形成した時、下地層の結晶性の影響は活性層内の異種材料境界で大きく制限されると考えられ、結晶学的な影響はホモ接合の場合と全く異なるものとなろう。
【0043】
以上、比較例と実施例との対比に沿って本発明を説明したが、例示した材料、数値、工程等は例示であり、制限的なものではない。種々の変形、置換、改良等が可能なことは当業者に自明であろう。
図1
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図7
図8