【解決手段】電力変換器20は、インバータと、変圧器と、積分器11と、正弦波発生器21と、制御回路4とを備える。インバータは、直流電圧を交流電圧に変換する。変圧器は、インバータの出力電圧を受けて負荷に交流電圧を与える。積分器11は、インバータの出力電圧を積分する。正弦波発生器21は、インバータの出力電圧よりも90度遅れた正弦波信号Vsを出力する。制御装置4は、積分器11の出力信号φ11が正弦波信号Vsに一致するようにインバータを制御する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による電力変換器の構成を示す回路ブロック図である。
図1において、この電力変換器は、インバータ1、変圧器2、偏磁検出回路3、および制御回路4を備える。
【0010】
インバータ1は、制御回路4から供給される制御信号G1〜G4によって制御され、バッテリ51の直流電圧VBを交流電圧VACに変換する。変圧器2は、インバータ1によって生成された交流電圧VACに応じたレベルの交流電圧VOを負荷52に供給する。負荷52は、変圧器2から供給される交流電圧VACによって駆動される。換言すると、バッテリ51の直流電力がインバータ1によって交流電力に変換され、その交流電力が変圧器2を介して負荷52に供給され、負荷52が交流電力によって駆動される。
【0011】
偏磁検出回路3は、インバータ1の出力電圧VACに基づいて、変圧器2の鉄心に発生する磁束Bを示す信号の直流成分Vdcを検出する。制御回路4は、偏磁検出回路3によって検出される直流成分Vdcが0Vになるように制御信号G1〜G4を生成する。
【0012】
図2は、
図1に示したインバータ1および変圧器2の構成を示す回路ブロック図である。
図2において、インバータ1は、トランジスタQ1〜Q4、ダイオードD1〜D4、リアクトルL1、およびコンデンサC1を含む。変圧器2は、1次巻線2a、2次巻線2b、および環状の鉄心2cを含む。
【0013】
トランジスタQ1〜Q4の各々は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。トランジスタQ1,Q2のコレクタはともにバッテリ51の正極に接続される。トランジスタQ3,Q4のコレクタはそれぞれトランジスタQ1,Q2のエミッタに接続され、トランジスタQ3,Q4のエミッタはともにバッテリ51の負極に接続される。ダイオードD1〜D4は、それぞれトランジスタQ1〜Q4に逆並列に接続される。
【0014】
リアクトルL1は、トランジスタQ1のエミッタと変圧器2の1次巻線2aの一方端子との間に接続される。トランジスタQ2のエミッタは、変圧器2の1次巻線2aの他方端子に接続される。コンデンサC1は、1次巻線2aの一方端子および他方端子間に接続されている。1次巻線2aおよび2次巻線2bの各々は、鉄心2cに巻回されている。2次巻線2bの2つの端子は、負荷52に接続される。
【0015】
トランジスタQ1〜Q4は、それぞれ制御回路4から供給される制御信号G1〜G4によってオン/オフ制御される。制御信号G1〜G4の各々は、たとえばPWM(Pulse Width Modulation)制御信号である。制御信号G1〜G4の各々の一周期は、スイッチング周波数fの逆数1/fである。制御信号G1〜G4の各々は、各周期において「H」レベルまたは「L」レベルにされる。トランジスタQ1〜Q4は、それぞれ制御信号G1〜G4が「L」レベルにされるとオフし、それぞれ制御信号G1〜G4が「H」レベルにされるとオンする。制御信号G1〜G4の各々が一周期内において「H」レベルにされる時間Tonと一周期の時間λとの比Ton/λはデューティ比と呼ばれる。制御回路4は、制御信号G1〜G2の各々のデューティ比を制御する。
【0016】
交流電圧VACの0〜180度に対応する期間では、制御回路4は、制御信号G2,G3を「L」レベルにしてトランジスタQ2,Q3をオフさせ、制御信号G1を「H」レベルにしてトランジスタQ1をオンさせ、制御信号G4のデューティ比を調整しながらスイッチング周波数でトランジスタQ4をオン/オフさせる。制御信号G4のデューティ比は、交流電圧VACの位相角度が90度であるときに最大値にされ、位相角度が0度および180度であるときに最低値にされる。これにより、バッテリ51の正極からトランジスタQ1、リアクトルL1、1次巻線2a、およびトランジスタQ4を介してバッテリ51の負極に電流が流れ、1次巻線2aの端子間に正弦波状の交流電圧VACのうちの0〜180度の正電圧が発生する。
【0017】
交流電圧VACの180〜360度に対応する期間では、制御回路4は、制御信号G1,G4を「L」レベルにしてトランジスタQ1,Q4をオフさせ、制御信号G2を「H」レベルにしてトランジスタQ2をオンさせ、制御信号G3のデューティ比を調整しながらスイッチング周波数でトランジスタQ3をオン/オフさせる。制御信号G3のデューティ比は、交流電圧VACの位相角度が270度であるときに最大値にされ、位相角度が180度および360度であるときに最低値にされる。これにより、バッテリ51の正極からトランジスタQ2、1次巻線2a、リアクトルL1、およびトランジスタQ3を介してバッテリ51の負極に電流が流れ、1次巻線2aの端子間に正弦波状の交流電圧VACのうちの180〜360度の負電圧が発生する。このようにして、1次巻線2aの端子間に所望の周波数(たとえば商用周波数)の正弦波状の交流電圧VACを発生させることができる。
【0018】
リアクトルL1およびコンデンサC1は、低域通過フィルタを構成し、トランジスタQ1〜Q4によって生成された商用周波数の交流電力を通過させ、トランジスタQ1〜Q4で発生したスイッチング周波数の信号が負荷52側に通過することを防止する。換言すると、リアクトルL1およびコンデンサC1は、トランジスタQ1〜Q4の各々をオン/オフさせることによって生成された方形波状の交流電圧を正弦波状の交流電圧VACに変換する。
【0019】
変圧器2の1次巻線2aの端子間に交流電圧VACが印加されると、2次巻線2bの端子間に交流電圧VACに応じたレベルの交流電圧VOが発生する。交流電圧VACの振幅と交流電圧VOの振幅との比は、1次巻線2aの巻回数N1と2次巻線2bの巻回数N2との比N1/N2に等しい。負荷52は、交流電圧VOによって駆動される。
【0020】
変圧器2の1次巻線2aに交流電圧VACが印加されて巻線2a,2bに電流が流れると、鉄心2c内に磁束Bが発生する。鉄心2c内の磁束Bに直流成分が発生することを偏磁という。偏磁が発生すると、変圧器2の励磁電流が増大し、インバータ1の出力電圧VACの波形が劣化したり、変圧器2に過電流が流れて電力変換器が破損する恐れがある。そこで実施の形態1では、変圧器2において偏磁現象が発生することを防止するための偏磁検出回路3および制御回路4が設けられている。
【0021】
図3は、偏磁検出回路3および制御回路4の構成を示すブロック図である。
図3において、偏磁検出回路3は、電圧検出器10、積分器11、位相検出器12、サンプリング回路13、および直流成分検出器14を含む。
【0022】
電圧検出器10は、インバータ1によって生成された交流電圧VACの瞬時値を検出し、検出値を示す信号φ10を出力する。電圧検出器10の出力信号φ10の波形は、交流電圧VACの波形と同じになる。積分器11は、電圧検出器10の出力信号φ10を積分し、積分値を示す信号φ11を出力する。
【0023】
理論的には、変圧器2の1次巻線2aの端子間電圧VACを積分すると、変圧器2の鉄心2c内に発生する磁束Bが得られる。したがって、積分器11の出力信号φ11の波形は、変圧器2の鉄心2c内に発生する磁束Bの波形と同様になる。
【0024】
交流電圧VACの波形が理想的な正弦波である場合は、積分器11の出力信号φ11の波形(すなわち磁束Bの波形)は交流電圧VACよりも90度遅れた正弦波となる。交流電圧VACがたとえば正の直流成分を含む場合は、積分器11の出力信号φ11(すなわち磁束B)のレベルは加速度的に増大する。
【0025】
位相検出器12は、電圧検出器10の出力信号φ10の位相を検出し、検出した位相が0度になる度にパルス信号Pを出力する。サンプリング回路13は、位相検出器12からのパルス信号Pに応答して、積分器11の出力信号φ11の瞬時値を取り込み、取り込んだ信号値を出力する。直流成分検出器14は、サンプリング回路13からの信号値と基準値との差を積分器11の出力信号φ11の直流成分Vdcとして出力する。
【0026】
制御回路4は、電圧指令部15および制御信号発生部16を含む。電圧指令部15は、正弦波状の電圧指令信号VCを生成する。電圧指令部15は、直流成分Vdcがなくなるように、電圧指令信号VCの波形を制御する。制御信号発生部16は、電圧指令信号VCに基づいて制御信号G1〜G4を生成する。直流成分Vdcが0Vである場合、電圧指令信号VCはVC=Vsinωtとなり、インバータ1の出力電圧VACは電圧指令信号VCに一致する。ここでω=2πfであり、fはインバータ1の出力電圧VACの周波数である。したがって、電圧指令信号VCを積分すると磁束Bが求められ、B=∫(Vsinωt)dt=−V(cosωt)/ωとなる。
【0027】
偏磁検出回路3によって検出される直流成分VdcをVdc=−αV/ωと表わす。電圧指令信号VCに直流オフセット値xを加算し、磁束Bの次のピークまでの半周期内に偏磁を解消するものとする。半周期は1/(2f)である。半周期に亘って直流オフセット値xを積分すると、積分値はx/(2f)となる。x/(2f)がVdcに等しくなるように直流オフセット値xを設定すると、Vdc=x/(2f)=−αV/ω=−αV/(2πf)となり、x=−αV/πとなる。電圧指令部15は、直流成分Vdcが−αV/ωである場合、電圧指令信号VCをVC=Vsinωt−αV/π=V(sinωt−α/π)に補正する。制御信号発生部16は、電圧指令部15からの電圧指令信号VCに基づいて、制御信号G1〜G4を生成する。
【0028】
換言すると、制御回路4は、直流成分Vdcがなくなるように制御信号G1〜G4の各々のデューティ比を調整する。直流成分Vdcが正電圧である場合、制御回路4は、制御信号G4のデューティ比を制御信号G3のデューティ比よりも相対的に減少させる。これにより、交流電圧VACの正電圧側ピーク値の絶対値が負電圧側ピーク値の絶対値よりも相対的に減少し、正の直流成分Vdcが減少する。
【0029】
直流成分Vdcが負電圧である場合、制御回路4は、制御信号G3のデューティ比を制御信号G4のデューティ比よりも相対的に減少させる。これにより、交流電圧VACの負電圧側ピーク値の絶対値が正電圧側ピーク値の絶対値よりも相対的に減少し、負の直流成分Vdcが減少する。直流成分Vdcが0Vになった場合、制御回路4は、制御信号G3,G4のデューティ比を維持する。
【0030】
次に、変圧器2における偏磁現象の発生を防止する方法について図面を用いて詳細に説明する。
図4(a)〜(c)は、インバータ1によって生成される交流電圧VACが正側と負側が対称な正弦波である場合を示す波形図である。特に、
図4(a)は交流電圧VACを示す信号φ10(すなわち電圧検出器10の出力信号φ10)の波形を示し、
図4(b)は変圧器2の鉄心2c内に発生する磁束Bを示す信号φ11(すなわち積分器11の出力信号φ11)の波形を示し、
図4(c)は変圧器2の1次巻線2aに流れる励磁電流Iの波形を示している。
【0031】
図4(a)〜(c)において、磁束Bの波形は、交流電圧VACを積分した波形となり、交流電圧VACよりも位相が90度遅れた正弦波となる。励磁電流Iは、磁束Bと同じ位相で変化する。交流電圧VACの位相が0度であるとき、磁束Bおよび励磁電流Iの各々は負のピーク値となる(時刻t0,t2,t4)。交流電圧VACの位相が180度であるとき、磁束Bおよび励磁電流Iの各々は正のピーク値となる(時刻t1,t3)。
【0032】
図5(a)〜(c)は、交流電圧VACが正側と負側が非対称な波形となり、正のピーク値の絶対値が負のピーク値の絶対値よりも大きくなった場合を示す波形図である。特に、
図5(a)〜(c)はそれぞれ交流電圧VACを示す信号φ10、磁束Bを示す信号φ11、および励磁電流Iの波形を示している。
【0033】
図5(a)に示すように、交流電圧VACの正のピーク値の絶対値が負のピーク値の絶対値よりも大きくなると、
図5(b)に示すように、磁束Bの振幅の中心値が0から正側に急にシフトし、励磁電流Iの正のピーク値が加速度的に増大する。このように励磁電流Iが増大すると、インバータ1が正弦波状の交流電圧VACを出力することが困難となり、また、インバータ1および変圧器2に過電流が流れて電力変換器が破損する恐れがある。
【0034】
なお、交流電圧VACが正側と負側が非対称な波形となり、負のピーク値の絶対値が正のピーク値の絶対値よりも大きくなった場合は、磁束Bの振幅の中心値が0から負側に急にシフトし、励磁電流Iの負のピーク値が加速度的に増大する。
【0035】
図6(a)〜(c)は、インバータ1によって生成される交流電圧VACが理想的な正弦波である場合を示す波形図である。特に、
図6(a)〜(c)はそれぞれ交流電圧VACを示す信号φ10、磁束Bを示す信号φ11、および励磁電流Iの波形を示している。ここでは説明の簡単化のため、
図6(a)〜(c)に示すように、交流電圧VACの位相が0度であるときに磁束Bを示す信号φ11が0V(基準値)となり(時刻t0,t1,t2,t3,t4,t5)、交流電圧VACの位相が180度であるときに磁束Bを示す信号φ11がピーク値になり、交流電圧VACの位相が360度(すなわち0度)であるときに磁束Bを示す信号φ11が0Vに戻るものとする。
【0036】
図7(a)〜(c)は、交流電圧VACが正側と負側が非対称な波形となり、正のピーク値の絶対値が負のピーク値の絶対値よりも大きくなった場合を示す波形図である。特に、
図7(a)交流電圧VACを示す信号φ10を示し、
図7(b)は磁束Bを示す信号φ11およびその直流成分(すなわち直流電圧)Vdcを示し、
図7(c)が励磁電流Iの波形を示している。
【0037】
図7(a)に示すように、交流電圧VACの正のピーク値の絶対値が負のピーク値の絶対値よりも大きくなると、
図7(b)に示すように、磁束Bを示す信号φ11の振幅の中心が0から正側に急にシフトし、信号φ11の直流成分Vdcが増大し、
図7(c)に示すように、励磁電流Iの正のピーク値が加速度的に増大する。
【0038】
図3で示したように、サンプリング回路13は、位相検出器12からのパルス信号Pに応答して、交流電圧VACの位相角度が0度になる度に、磁束Bを示す信号φ11の電圧をサンプル・ホールド(S/H)する。サンプリング回路13によってサンプル・ホールドされた電圧は、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcである。直流成分検出器14は、0V(基準値)を基準として直流成分Vdcの大きさを検出する。
【0039】
図8(a)〜(c)は、
図7(a)〜(c)に電圧指令信号VCの波形を追加した図である。電圧指令部15は、直流成分検出器14によって検出される直流成分Vdcがなくなるように電圧指令信号VCを生成する。
図8(a)〜(c)では、交流電圧VACの位相が0度になったときに検出された直流成分Vdcがキャンセルされるように、0度〜360度の電圧指令信号VCが直流成分Vdcに応じた値だけ負側にシフトされる場合が示されている。これにより、交流電圧VACを負側にシフトさせて磁束Bを負側にシフトさせ、励磁電流Iのピーク値を小さく抑制することが可能となる。
【0040】
図9(a)〜(c)は、交流電圧VACが短時間だけ低下した場合を示す波形図である。特に、
図9(a)は交流電圧VACを示す信号φ10を示し、
図9(b)は磁束Bを示す信号φ11およびその直流成分Vdcを示し、
図9(c)は励磁電流Iを示している。
【0041】
図9(a)に示すように、時刻t0〜t1の期間において交流電圧VACが負のピーク値になるときに、たとえば負荷変動に起因して交流電圧VACが短時間だけ低下したものとする。磁束Bは交流電圧VACを積分したものであるので、時刻t1以降では磁束Bを示す信号φ11に正の直流成分Vdcが発生する。これにより、磁束Bの正のピーク値が増大し、励磁電流Iが増大する。
図3で示したように、サンプリング回路13は、位相検出器12からのパルス信号Pに応答して、交流電圧VACの位相が0度になる度に、磁束Bを示す信号φ11の電圧をサンプル・ホールド(S/H)する。直流成分検出器14によって検出される。直流成分検出器14は、0V(基準値)を基準として直流成分Vdcの大きさを検出する。
【0042】
図10(a)(b)は、
図9(a)(b)に電圧指令信号VCの波形を追加した図である。電圧指令部15は、直流成分検出器14によって検出された直流成分Vdcがなくなるように電圧指令信号VCを生成する。
図10(a)(b)では、交流電圧VACの位相が0度になったときに検出された直流成分Vdcがキャンセルされるように、0度〜360度の電圧指令信号VCが直流成分Vdcに応じた値だけ負側にシフトされる場合が示されている。これにより、交流電圧VACを負側にシフトさせて磁束Bを負側にシフトさせ、励磁電流Iのピーク値を小さく抑制することができる。
【0043】
以上のように、本実施の形態1では、インバータ1の出力電圧VACを示す信号φ10の瞬時値を積分する積分器11を設け、信号φ10の位相が0度になる度に積分器11の出力信号φ11をサンプリングし、サンプリングした信号φ11に基づいて、積分器11の出力信号φ11の直流成分Vdcを検出し、検出した直流成分Vdcがなくなるようにインバータ1を制御する。積分器11の出力信号φ11は、変圧器2の鉄心2c内に発生する磁束Bを示している。したがって、変圧器2の磁束Bに発生した直流成分を迅速に検出して減少させることができ、変圧器2における偏磁現象の発生を防止することができる。
【0044】
[実施の形態2]
図11は、この発明の実施の形態2による電力変換器の要部を示すブロック図であって、
図3と対比される図である。
図11を参照して、この電力変換器が実施の形態1の電力変換器と異なる点は、電圧指令部15が電圧指令部15Aで置換されている点である。
図3の電圧指令部15は、直流成分Vdcに応じた値だけ電圧指令信号VCをシフトさせて偏磁を解消した。これに対して本実施の形態2の電圧指令部15Aは、電圧指令信号VCが正電圧である期間と負電圧である期間とで異なるゲインAを電圧指令信号VCに乗算して偏磁を解消する。
【0045】
図12(a)(b)は、電圧指令部15Aの動作を示す波形図である。特に、
図12(a)はインバータ1によって生成される交流電圧VACを示す信号φ10を示し、
図12(b)は電圧指令信号VCと補正後の電圧指令信号VCAとを示している。
図13(a)(b)は、それぞれ
図12(a)(b)の要部の時間軸を拡大した図である。
【0046】
図12(a)(b)および
図13(a)(b)では、交流電圧VACを示す信号φ10の一周期(時刻t1〜t2)の後半の期間において信号φ10の電圧が短時間だけ低下した場合が示されている。この場合は
図10(a)(b)で示したように、磁束Bを示す信号φ11に正の直流成分Vdcが重畳する。電圧指令部15Aは、電圧指令信号VCの一周期のうちの前半部分に1よりも小さなゲインA=(1−β)を乗算し、その後半部分に1よりも大きなゲインA=(1+β)を乗算して、電圧指令信号VCを補正する。
【0047】
補正後の電圧指令信号VCAの正のピーク値の絶対値は補正前の電圧指令信号VCの正のピーク値の絶対値よりも小さくなる。補正後の電圧指令信号VCAの負のピーク値の絶対値は補正前の電圧指令信号VCの負のピーク値の絶対値よりも大きくなる。交流電圧VACの波形は、補正前の電圧指令信号VCの波形から補正後の電圧指令信号VCAの波形にシフトする。これにより、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcが減少し、偏磁現象の発生が防止される。
【0048】
次に、電圧指令部15Aの動作について数式を用いて説明する。電圧指令部15Aは、正弦波状の電圧指令信号VCを生成する。電圧指令部15Aは、直流成分Vdcがなくなるように、電圧指令信号VCの波形を制御する。直流成分Vdcが0Vである場合、電圧指令信号VCはVC=Vsinωtとなり、インバータ1の出力電圧VACは電圧指令信号VCに一致する。ここでω=2πfであり、fはインバータ1の出力電圧VACの周波数である。したがって、電圧指令信号VCを積分すると磁束Bが求められ、B=∫(Vsinωt)dt=−V(cosωt)/ωとなる。偏磁検出回路3によって検出された直流成分VdcをVdc=−αV/ωと表わす。
【0049】
図12(a)(b)および
図13(a)(b)で示した場合において偏磁を半周期で解消する場合、次式(1)が成り立つ。
【0051】
これがVdc=−αV/ωに等しくなればよいので、−2βV/ω=−αV/ωが成り立ち、この数式を整理するとβ=α/2となる。したがって、電圧指令信号VCを(1−α/2)×Vsinωtに補正すればよい。
【0052】
なお、磁束Bを示す信号φ11に負の直流成分Vdcが重畳した場合は、電圧指令部15Aは、電圧指令信号VCの一周期のうちの前半部分に1よりも大きなゲインA=(1+β)を乗算し、その後半部分に1よりも小さなゲインA=(1−β)を乗算して、電圧指令信号VCを補正する。偏磁を半周期で解消する場合、電圧指令信号VCを(1+α/2)×Vsinωtに補正すればよい。
【0053】
この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
[実施の形態3]
図14(a)(b)は、実施の形態1の問題点を説明するための波形図であって、
図9(a)(b)と対比される図である。
図9(a)(b)では、交流電圧VACの1周期(時刻t0〜t1)のうちの後半の期間において交流電圧VACが短時間だけ低下する場合について説明した。この場合は、交流電圧VACが低下してから直流成分Vdcがサンプル・ホールドされるまでの時間が半周期よりも短いので、励磁電流Iの増大を迅速に抑制することができる。
【0054】
しかし、
図14(a)(b)に示すように、交流電圧VACの1周期(時刻t1〜t2)のうちの前半の期間において交流電圧VACが短時間だけ低下する場合には、交流電圧VACが低下してから直流成分Vdcがサンプル・ホールドされるまでの時間が半周期よりも長いので、励磁電流Iの増大を迅速に抑制することができない。本実施の形態3では、この問題の解決が図られる。
【0055】
図15は、この発明の実施の形態3による電力変換器の要部を示すブロック図であって、
図3と対比される図である。
図15を参照して、この電力変換器が実施の形態1の電力変換器と異なる点は、偏磁検出回路3が偏磁検出回路3Aで置換されている点である。偏磁検出回路3Aは、偏磁検出回路3の位相検出器12および直流成分検出器14をそれぞれ位相検出器12Aおよび直流成分検出器14Aで置換したものである。
【0056】
位相検出器12Aは、交流電圧VACを示す信号φ10の位相が0度になる度にパルス信号P1を出力し、交流電圧VACを示す信号φ10の位相が180度になる度にパルス信号P2を出力する。パルス信号P1,P2は、サンプリング回路13および直流成分検出器14Aに与えられる。
【0057】
サンプリング回路13は、パルス信号P1に応答して磁束Bを示す信号φ11をサンプル・ホールドし、パルス信号P2に応答して磁束Bを示す信号φ11をサンプル・ホールドする。直流成分検出器14Aは、パルス信号P1に応答して、サンプリング回路13の出力値と磁束Bを示す信号φ11の負の基準値との差の電圧を直流成分Vdcとして出力する。信号φ11の負の基準値は、信号φ10が低下する前の期間(時刻t1以前の期間)における信号φ11の負のピーク値である。
【0058】
直流成分検出器14Aは、パルス信号P2に応答して、磁束Bを示す信号φ11の正の基準値とサンプリング回路13の出力値との差の電圧を直流成分Vdcとして出力する。信号φ11の正の基準値は、信号φ10が低下する前の期間(時刻t1以前の期間)における信号φ11の正のピーク値である。電圧指令部15は、直流成分Vdcがなくなるように電圧指令信号VCを生成する。したがって、サンプリング回路13の出力電圧は交流電圧VACの1周期内に2回変更され、電圧指令信号VCも2回変更される。
【0059】
図16(a)(b)は、
図14(a)(b)に電圧指令信号VCの波形を追加した図である。
図16(c)(d)は、
図14(a)(b)に電圧指令信号VCの波形を追加した図である。
図16(a)(b)では、交流電圧VACの位相が0度になったとき(時刻t2)に検出された直流成分Vdcがキャンセルされるように、その時刻t2以降の電圧指令信号VCが直流成分Vdcに応じた値だけ正側にシフトされる場合が示されている。
【0060】
図16(c)(d)では、交流電圧VACの位相が180度になったとき(時刻t1とt2の中間の時刻)に検出された直流成分Vdcがキャンセルされるように、その時刻以降の電圧指令信号VCが直流成分Vdcに応じた値だけ正側にシフトされる場合が示されている。実際には、
図16(a)(b)で示した動作と
図16(c)(d)で示した動作とが交互に行われる。これにより、交流電圧VACを正側にシフトさせて磁束Bを正側にシフトさせ、励磁電流Iのピーク値を小さく抑制することができる。
【0061】
この実施の形態3では、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcを一周期内で2回検出するので、実施の形態1と比べ、励磁電流Iの増大を迅速に抑制することができる。
【0062】
なお、この実施の形態3では、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcを一周期内で2回検出したが、これに限るものではなく、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcを一周期内で3回以上検出してもよいことはいうまでもない。つまり、本願発明では、磁束Bを示す信号φ11の直流成分Vdcを一周期内でN回検出する。Nは自然数である。実施の形態1ではN=1の場合が示され、実施の形態2ではN=2の場合が示されている。
【0063】
[実施の形態4]
この実施の形態4では、上記のNを無限大にした場合について説明する。
図17は、この発明の実施の形態4による電力変換器の要部を示すブロック図であって、
図3と対比される図である。
図17を参照して、この電力変換器が実施の形態1の電力変換器と異なる点は、偏磁検出回路3が偏磁検出回路20で置換されている点である。偏磁検出回路20は、偏磁検出回路3の位相検出器12、サンプリング回路13、および直流成分検出器14を位相検出器12B、正弦波発生器21、および偏差検出器22で置換したものである。
【0064】
位相検出器12Bは、電圧検出器10の出力信号φ10(すなわち、インバータ1で生成される交流電圧VACを示す信号φ10)の位相角度θを検出し、検出値を示す信号φθを出力する。正弦波発生器21は、位相検出器12Bの出力信号φθに従って、電圧検出器10の出力信号φ10よりも90度遅延した正弦波信号Vsを出力する。正弦波信号Vsは、積分器11の出力信号φ11(すなわち、変圧器2の鉄心2c内の磁束Bを示す信号φ11)の基準信号(すなわち、理想的な波形を持つ信号)である。
【0065】
偏差検出器22は、積分器11の出力信号φ11の電圧と正弦波信号Vsの電圧との偏差ΔVを検出する。制御回路4の電圧指令部15は、偏差ΔVがなくなるように電圧指令信号VCを出力する。制御信号発生部16は、電圧指令信号VCに基づいて制御信号G1〜G4を生成する。
【0066】
図18(a)〜(c)は、
図17に示した偏磁検出回路20の動作を示す波形図である。
図18(a)は交流電圧VACを示す信号φ10を示している。
図18(b)は、正弦波信号Vsと磁束Bを示す信号φ11とを示している。
図18(c)は、信号φ11と正弦波信号Vsの偏差ΔV=φ11−Vsを示している。
【0067】
時刻t0〜t1では、交流電圧VACを示す信号φ10は正弦波状に変化し、信号φ11,Vsの波形は一致しており、偏差ΔVは0になっている。信号φ11,Vsの位相は、ともに信号φ10よりも90度遅れている。時刻t1とt2の間のある時刻T1において交流電圧VACが短時間だけ低下すると、交流電圧VACを示す信号φ10を積分することによって得られる信号φ11の電圧が、交流電圧VACの低下分に応じて低下する。信号φ11と信号Vsの偏差ΔVは、負の電圧になる。この偏差ΔVがなくなるように電圧指令信号VCが調整され、変圧器2における偏磁現象の発生が防止される。
【0068】
この実施の形態4では、交流電圧VACが低下した時点T1からリアルタイムで偏磁量(すなわち偏差ΔV)が検出され、電圧指令信号VCが補正されるので、実施の形態1〜3よりも偏磁現象の発生を迅速に防止することができる。
【0069】
図19(a)〜(c)は、実施の形態4の問題点を説明するための波形図である。
図19(a)は交流電圧VACを示す信号φ10を示し、
図19(b)は、正弦波信号Vsを示し、
図19(c)は信号φ11と正弦波信号Vsの偏差ΔV=φ11−Vsを示している。
【0070】
図19(a)に示すように、インバータ1の性能によっては理想的な正弦波状の交流電圧VACを生成することができず、交流電圧VACに歪が発生する場合がある。
図19(a)では、交流電圧VACに高調波成分が重畳した場合が示されている。交流電圧VACに電圧歪が発生しても、その電圧歪が正側と負側で対称に発生すれば、偏磁現象は発生せず、電圧指令信号VCを調整する必要はない。一般に交流電圧VACに発生する電圧歪は、正側と負側で対称に発生する。
【0071】
実施の形態1のように積分器11の出力信号φ11を1周期に1回だけサンプル・ホールドする場合は、交流電圧VACに正側と負側で対称に発生する電圧歪は無視され、偏磁検出回路3および制御回路4は交流電圧VACの電圧歪に反応しない。
【0072】
しかし、実施の形態4では、積分器11の出力信号φ11と正弦波信号Vsとの偏差ΔVをリアルタイムで検出するので、
図19(a)〜(c)に示すように、偏差Δが交流電圧VACの電圧歪に反応して高調波成分の周波数で変動してしまう。
【0073】
したがって、交流電圧VACに電圧歪がある場合は実施の形態1の偏磁検出回路3を選択し、交流電圧VACに電圧歪がない場合は実施の形態4の偏磁検出回路20を選択するとよい。交流電圧VACの電圧歪の大きさは、インバータ1の性能によって変化し、さらに、負荷52の種類によって変化する。負荷52が線形成分のみを含む場合は交流電圧VACの電圧歪は小さくなる。負荷52の非線形成分が大きい場合は交流電圧VACの電圧歪は大きくなる。
【0074】
[実施の形態5]
図20は、この発明の実施の形態5による無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図であって、
図1と対比される図である。
図20を参照して、この無停電電源装置が
図1の電力変換器と異なる点は、コンバータ5が追加されている点である。
【0075】
コンバータ5は、商用交流電源53から商用周波数の交流電力が供給されている通常時は、商用交流電源53からの交流電力を直流電力に変換する。バッテリ51は、コンバータ5によって生成される直流電力を蓄える。インバータ1は、商用交流電源53から交流電力が供給されている通常時は、コンバータ5によって生成される直流電力を商用周波数の交流電力に変換する。商用交流電源53からの交流電力の供給が停止された停電時は、コンバータ5の運転が停止される。停電時にはインバータ1は、バッテリ51の直流電力を商用周波数の交流電力に変換する。
【0076】
他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。この実施の形態5でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0077】
[比較例]
図21は、本願発明の比較例となる電力変換器に含まれる偏磁検出回路の構成を示す回路図である。このような偏磁検出回路は、たとえば特開平6−98559号公報(特許文献1)に記載されている。
【0078】
図21において、この偏磁検出回路は、絶縁アンプ30、積分回路31、反転増幅回路35、直流カット回路39、非反転回路42、および加算回路43を含む。絶縁アンプ30は、インバータ1で生成される交流電圧VACを増幅する。積分回路31は、抵抗素子32、コンデンサ33、および反転増幅器34を含み、絶縁アンプ30の出力信号φ30を積分する。積分回路31の出力信号φ31は、信号φ30の位相を90度遅延させた交流成分と、信号φ30に含まれる直流成分と逆極性の直流成分とを含む。
【0079】
反転増幅回路35は、抵抗素子36,37および反転増幅器38を含み、積分回路31の出力信号φ31を反転させる。反転増幅回路35の出力信号φ35は、積分回路31の出力信号φ31を反転させた信号φ35となる。直流カット回路39は、コンデンサ40および抵抗素子41を含み、積分回路31の出力信号φ31から直流成分を取り除く。非反転回路42は、直流カット回路39の出力のインピーダンス変換を行なう。加算回路43は、抵抗素子45〜47および反転増幅器48を含み、非反転回路42の出力信号φ42と反転増幅回路35の出力信号φ35とを加算して直流成分Vdc1を出力する。
【0080】
このような偏磁検出回路において一定の直流成分Vdc1を検出するためには、直流カット回路39に含まれるコンデンサ40および抵抗素子41の時定数を十分に長くする必要がある。
【0081】
図22(a)(b)は、本願発明の偏磁検出回路(たとえば
図3の偏磁検出回路3)の動作と比較例の偏磁検出回路の動作とを比較するための波形図である。
図22(a)はインバータ1によって生成される交流電圧VACを示し、
図22(b)は本願発明の偏磁検出回路3によって検出される直流成分Vdcと比較例の偏磁検出回路によって検出される直流成分Vdc1とを示している。
図23(a)(b)は、それぞれ
図22(a)(b)の要部(3.0秒から3.5秒までの期間)を拡大した波形図である。
【0082】
図22(a)(b)および
図23(a)(b)では、ある時刻(2.0秒)で交流電圧VACに直流成分が発生した場合が示されている。コンデンサ40および抵抗素子41の時定数は、1.0秒に設定されている。本願発明では、交流電圧VACに直流成分が発生してから交流電圧VACの一周期内(すなわち0.02秒以下)に直流成分Vdcが検出される。したがって、変圧器2における偏磁現象の発生を迅速に防止することができる。
【0083】
これに対して比較例では、交流電圧VACに直流成分が発生してから直流成分Vdcが検出されるまで1秒程度の時間が必要となる。このため、交流電圧VACに直流成分が発生してから直流成分Vdc1が検出されるまでの間に偏磁現象が発生して、励磁電流が増大する恐れがある。また、比較例では、直流成分Vdc1に小さな振幅の交流成分が重畳している。
【0084】
図24(a)(b)は、本願発明の偏磁検出回路の動作と比較例の偏磁検出回路の動作とを比較するための他の波形図であって、それぞれ
図22(a)(b)と対比される図である。
図25(a)(b)は、それぞれ
図24(a)(b)の要部(1.9秒から2.4秒までの期間)を拡大した波形図である。
【0085】
図24(a)(b)および
図25(a)(b)では、ある時刻(2.0秒)で交流電圧VACに直流成分が発生した場合が示されている。コンデンサ40および抵抗素子41の時定数は、直流成分Vdc1の検出を速めるために、0.02秒(すなわち、交流電圧VACの約1周期)に設定されている。本願発明では、交流電圧VACに直流成分が発生してから交流電圧VACの一周期内(すなわち0.02秒以下)に一定の直流成分Vdcが検出される。したがって、変圧器2における偏磁現象の発生を迅速に防止することができる。
【0086】
これに対して比較例では、直流成分Vdc1に大きな振幅の交流成分が重畳してしまい、直流成分のみを検出することができない。このため、直流成分Vdc1がなくなるように電圧指令信号VCを調整することは困難になる。したがって、比較例では、コンデンサ40および抵抗素子41の時定数を1秒以上にする必要があり、交流電圧VACに発生した直流成分を瞬時に補正することはできない。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。