【課題】本開示は、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位を精度よく算出するにあたり、(1)アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できるようにし、(2)演算規模を削減し、(3)到来波数(物標個数)の事前推定を不要とする。
【解決手段】本開示は、レーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報に変換する受信信号変換部2と、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法を用いて、物標方位を算出する物標方位算出部5と、を備えることを特徴とするレーダ物標方位検出装置である。
前記物標方位算出部は、前回の解から今回の解への更新にあたり、前記受信電力が所定閾値より大きい前記物標方位のみについて、前記前回の解に対して慣性項を追加することを特徴とする、請求項1に記載のレーダ物標方位検出装置。
前記物標方位算出部は、前回の解から今回の解への更新にあたり、前記前回の解における二乗誤差が小さいほど前記今回の解に対する歩幅係数を小さくすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーダ物標方位検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、MUSICアルゴリズムでは、アレーアンテナの素子間位相差に基づいて、受信電力のヌル走査(つまり、雑音部分空間の固有ベクトルと信号部分空間の信号ベクトルが直交すること)を利用して、物標方位を精度よく算出しているにすぎない。そして、MUSICアルゴリズムによる到来波数(物標個数)を推定する際に、相関行列の算出、雑音部分空間の固有ベクトルの算出及び到来波数(物標個数)の事前推定が必要であるため、演算規模が膨大になる。さらに、到来波数(物標個数)の事前推定が誤りを含むとき、物標方位が精度よく算出されない。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位を精度よく算出するにあたり、(1)アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できるようにし、(2)演算規模を削減し、(3)到来波数(物標個数)の事前推定を不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法(例えば、更新後の解ベクトルのある要素が0以下であるとき、更新後の解ベクトルのその要素を0に置き換える、勾配投影法等。)を用いて、物標方位を精度よく算出することとした。
【0007】
ここで、順問題では、物標方位の情報及びアンテナ指向性の情報に対して、畳み込み演算を行なうことにより、物標方位に依存する受信電力の情報を得る。一方で、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法では、逆問題として、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位の情報を得る。
【0008】
具体的には、本開示は、レーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報に変換する受信信号変換部と、前記物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法を用いて、物標方位を算出する物標方位算出部と、を備えることを特徴とするレーダ物標方位検出装置である。
【0009】
また、本開示は、レーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報に変換する受信信号変換ステップと、前記物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法を用いて、物標方位を算出する物標方位算出ステップと、をコンピュータに順に実行させるためのレーダ物標方位検出プログラムである。
【0010】
また、本開示は、レーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報に変換する受信信号変換ステップと、前記物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法を用いて、物標方位を算出する物標方位算出ステップと、を順に備えることを特徴とするレーダ物標方位検出方法である。
【0011】
ここで、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法では、アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できる。そして、二乗誤差の最小化の反復演算を実行するのみでよく、相関行列の算出、雑音部分空間の固有ベクトルの算出及び到来波数(物標個数)の事前推定が不要であるため、演算規模が削減される。さらに、到来波数(物標個数)を反復毎に最適化するのみでよく、到来波数(物標個数)を事前に推定する必要がないため、物標方位が精度よく算出される。
【0012】
よって、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位を精度よく算出するにあたり、(1)アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できるようにし、(2)演算規模を削減し、(3)到来波数(物標個数)の事前推定を不要とすることができる。
【0013】
また、本開示は、前記物標方位算出部は、前回の解から今回の解への更新にあたり、前記受信電力が所定閾値より大きい前記物標方位のみについて、前記前回の解に対して慣性項を追加することを特徴とするレーダ物標方位検出装置である。
【0014】
この構成によれば、最小二乗法の初期の解から最小二乗法の最適解の近傍へと早く到達することができる。
【0015】
また、本開示は、前記物標方位算出部は、前回の解から今回の解への更新にあたり、前記前回の解における二乗誤差が小さいほど前記今回の解に対する歩幅係数を小さくすることを特徴とするレーダ物標方位検出装置である。
【0016】
この構成によれば、最小二乗法の最適解の近傍から最小二乗法の最適解へと早く収束することができる。
【0017】
また、本開示は、前記物標方位算出部は、逆空間内で二乗誤差を算出し、実空間内で解の更新を実行することを特徴とするレーダ物標方位検出装置である。
【0018】
この構成によれば、アンテナ指向性の畳み込み演算を削減することができる。
【0019】
また、本開示は、上記のレーダ物標方位検出装置と、前記レーダ受信信号を物標距離及び物標速度の少なくともいずれかに依存する受信電力の情報に変換する物標距離速度変換部と、前記物標距離及び物標速度の少なくともいずれかに依存する受信電力の情報に基づいて、物標距離及び物標速度の少なくともいずれかを算出する物標距離速度算出部と、を備えることを特徴とするレーダ物標検出装置である。
【0020】
この構成によれば、レーダ物標検出装置に対する物標方位を精度よく算出するとともに、レーダ物標検出装置に対する物標距離及び物標速度を算出することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示によれば、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位を精度よく算出するにあたり、(1)アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できるようにし、(2)演算規模を削減し、(3)到来波数(物標個数)の事前推定を不要とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
(本開示のレーダ物標検出装置の概要)
本開示のレーダ物標検出装置の原理を
図1に示す。ここで、順問題では、物標方位の情報及びアンテナ指向性の情報に対して、畳み込み演算を行なうことにより、物標方位に依存する受信電力の情報を得る。一方で、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法(例えば、更新後の解ベクトルのある要素が0以下であるとき、更新後の解ベクトルのその要素を0に置き換える、勾配投影法等。)では、逆問題として、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位の情報を得る。
【0025】
本開示のレーダ物標検出装置の構成を
図2に示す。レーダ物標検出装置Rは、干渉波除去部1−1〜1−N、受信信号変換部2、信号検出部3、ピーク検出部4、物標方位算出部5及び物標距離速度算出部6から構成される。そして、例えば、デジタルビームフォーミング等を適用する。さらに、レーダ物標方位検出プログラムをインストールされる。
【0026】
干渉波除去部1−1〜1−Nは、各系統のレーダ受信信号に混入している干渉波を除去する。受信信号変換部2は、全系統のレーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報に変換するとともに、全系統のレーダ受信信号を物標距離及び物標速度の少なくともいずれかに依存する受信電力の情報に変換する。信号検出部3及びピーク検出部4は、所要ターゲット信号(例えば、車両や障害物等のターゲットからの反射信号。)を判別する。
【0027】
物標方位算出部5は、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法を用いて、物標方位を算出する。物標距離速度算出部6は、物標距離及び物標速度の少なくともいずれかに依存する受信電力の情報に基づいて、物標距離及び物標速度の少なくともいずれかを算出する。
【0028】
本開示のレーダ物標方位検出の流れを
図3〜8に示す。
図3〜8では、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法として、例えば、更新後の解ベクトルのある要素が0以下であるとき、更新後の解ベクトルのその要素を0に置き換える、勾配投影法等を適用する。
【0029】
(本開示の第1のレーダ物標方位検出)
本開示の第1のレーダ物標方位検出の流れを
図3に示す。なお、数1〜11において、太字は、ベクトル量又は行列を表わし、細字は、スカラー量を表わす。受信信号変換部2は、全系統のレーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報yに変換する(ステップS1)。物標方位算出部5は、物標方位に依存する受信電力の情報y及びアンテナ指向性パターンから生成した畳み込み演算行列[h]に基づいて、本開示の第1の勾配投影法を用いて(ステップS2)、物標方位を算出する(ステップS3)。
【0030】
本開示の第1の勾配投影法の流れを
図4に示す。物標方位算出部5は、受信電力の方位依存性y(例えば、
図9の「破線」のグラフ。)を取得し(数1を参照。)、初期のターゲットベクトルx
0(例えば、受信電力の方位依存性y又は0ベクトル。)を設定し(ステップS21、数2)、アンテナ指向性パターンから生成した畳み込み演算行列[h]を読み込む(数3を参照。)。
【数1】
【数2】
【数3】
【0031】
物標方位算出部5は、二乗誤差e
t(初期では、t=0。その後は、t=1、2、・・・。)を算出し(ステップS22、数4)、受信電力の方位依存性y及びターゲットベクトルx
tの各成分毎の二乗誤差e
t、iを算出する(数5を参照。)。ここで、h
ijは、アンテナ指向性パターンから生成した畳み込み演算行列[h]のi行目及びj列目の行列要素である。
【数4】
【数5】
【0032】
物標方位算出部5は、前回の解x
tから今回の解x
t+1への更新にあたり、前回の解x
tにおける二乗誤差e
tが小さいほど今回の解x
t+1に対する歩幅係数η
tを小さくする。よって、最小二乗法の最適解の近傍から最小二乗法の最適解へと早く収束することができる。
【0033】
具体的には、物標方位算出部5は、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の歩幅係数η
t、iを算出する(ステップS23、数6)。ここで、max(|e
t、1|、・・・、|e
t、n|)は、|e
t、1|、・・・、|e
t、n|の最大値である。つまり、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の歩幅係数η
t、iは、0以上1以下であり、|e
t、i|が小さいほど小さくなる。
【数6】
【0034】
物標方位算出部5は、二乗誤差e
tの勾配g
tを算出し(ステップS24、数7)、勾配係数α
tを算出する(ステップS25、数8)。ここで、[h]
*は、行列転置を表わし、[h]の要素が複素数である場合は、共役転置を表わす。
【数7】
【数8】
【0035】
物標方位算出部5は、前回の解x
tから今回の解x
t+1への更新にあたり、受信電力が所定閾値より大きい物標方位のみについて、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加する。よって、最小二乗法の初期の解から最小二乗法の最適解の近傍へと早く到達することができる。
【0036】
具体的には、物標方位算出部5は、横軸拘束項Kを算出する(ステップS26、数9)。つまり、物標方位算出部5は、信号検出部3及びピーク検出部4が決定した雑音と信号を区別する閾値より、受信電力の方位依存性yの各成分y
iが大きければ(
図5のステップS261においてYES)、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束項K
iを1に設定する(
図5のステップS262)。一方で、物標方位算出部5は、信号検出部3及びピーク検出部4が決定した雑音と信号を区別する閾値より、受信電力の方位依存性yの各成分y
iが小さい又は等しければ(
図5のステップS261においてNO)、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束項K
iを0に設定する(
図5のステップS263)。
【数9】
【0037】
そして、物標方位算出部5は、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束慣性項k
t、iを算出する(ステップS27、数10)。つまり、受信電力が所定閾値より大きい物標方位のみについて、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加する。そして、受信電力が所定閾値より小さい又は等しい物標方位については、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加しない。ここで、前回の解x
tに加えて、前々回の解x
t−1が必要となる。
【数10】
【0038】
物標方位算出部5は、非負拘束の条件下で(例えば、勾配投影法等。)、ターゲットベクトルx
t+1を更新する(ステップS28、数11)。そして、二乗誤差e
tが十分に収束しておらず、反復演算を終了しないときには(ステップS29においてNO)、ステップS22〜S28を繰り返す。一方で、二乗誤差e
tが十分に収束しており、反復演算を終了するときには(ステップS29においてYES)、最終のターゲットベクトルx
t+1(例えば、
図9の「実線」のグラフ。)に基づいて、物標方位を算出する(ステップS30)。
【数11】
【0039】
なお、ターゲットベクトルx
t+1を更新するかどうかを判断するにあたり、(1)二乗誤差e
tが十分に収束しているかどうかを判断基準としてもよく、(2)更新回数が十分に多くの回数に到達したかどうかを判断基準としてもよい。
【0040】
(本開示の第2のレーダ物標方位検出)
本開示の第2のレーダ物標方位検出の流れを
図6に示す。なお、数12〜22において、太字は、ベクトル量を表わし、細字は、スカラー量を表わす。受信信号変換部2は、全系統のレーダ受信信号を物標方位に依存する受信電力の情報yに変換する(ステップS4)。物標方位算出部5は、物標方位に依存する受信電力の情報y及びアンテナ指向性パターンをフーリエ変換して生成したベクトルHに基づいて、本開示の第2の勾配投影法を用いて(ステップS5)、物標方位を算出する(ステップS6)。
【0041】
本開示の第2の勾配投影法の流れを
図7に示す。物標方位算出部5は、受信電力の方位依存性y(例えば、
図9の「破線」のグラフ。)を取得し(数1を参照。)、初期のターゲットベクトルx
0(例えば、受信電力の方位依存性y又は0ベクトル。)を設定し(ステップS51、数2)、アンテナ指向性パターンをフーリエ変換して生成したベクトルHを読み込む(数14を参照。)。そして、物標方位算出部5は、受信電力の方位依存性y及び初期のターゲットベクトルx
0をフーリエ変換(FFT)して、変換後の受信電力の方位依存性Y及び初期のターゲットベクトルX
0を算出する(ステップS52、数12、13)。
【数12】
【数13】
【数14】
【0042】
物標方位算出部5は、二乗誤差E
t(初期では、t=0。その後は、t=1、2、・・・。)を算出し(ステップS53、数15)、フーリエ変換(FFT)後の受信電力の方位依存性Y及びターゲットベクトルX
tの各成分毎の二乗誤差E
t、iを算出する(数16を参照。)。ここで、数15において、HX
tの算出は、ベクトルの内積の演算のみを含んでおり、畳み込み演算を要さないため、演算規模が小さくなる。
【数15】
【数16】
【0043】
物標方位算出部5は、前回の解x
tから今回の解x
t+1への更新にあたり、前回の解x
tにおける二乗誤差e
tが小さいほど今回の解x
t+1に対する歩幅係数η
tを小さくする。つまり、物標方位算出部5は、二乗誤差E
tを逆フーリエ変換(IFFT)して二乗誤差e
tを算出し、二乗誤差e
tを用いて今回の解x
t+1に対する歩幅係数η
tを算出する。よって、最小二乗法の最適解の近傍から最小二乗法の最適解へと早く収束することができる。
【0044】
具体的には、物標方位算出部5は、フーリエ変換(FFT)後の受信電力の方位依存性Y及びターゲットベクトルX
tの各成分毎の二乗誤差E
t、iを逆フーリエ変換(IFFT)して、逆変換後の受信電力の方位依存性y及びターゲットベクトルx
tの各成分毎の二乗誤差e
t、iを算出する(ステップS54)。そして、物標方位算出部5は、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の歩幅係数η
t、iを算出する(ステップS55、数17)。ここで、max(|e
t、1|、・・・、|e
t、n|)は、|e
t、1|、・・・、|e
t、n|の最大値である。つまり、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の歩幅係数η
t、iは、0以上1以下であり、|e
t、i|が小さいほど小さくなる。
【数17】
【0045】
物標方位算出部5は、二乗誤差E
tの勾配G
tを算出し(ステップS56、数18)、勾配係数α
tを算出する(ステップS57、数19)。ここで、H
*は、ベクトル転置を表わし、Hの要素が複素数である場合は、共役転置を表わす。そして、物標方位算出部5は、二乗誤差E
tの勾配G
tを逆フーリエ変換(IFFT)して、逆変換後の二乗誤差e
tの勾配g
tを算出する(ステップS58)。ここで、数18、19において、H・X
t及び−H・G
tの算出は、ベクトルの内積の演算のみを含んでおり、行列演算を要さないため、演算規模が小さくなる。なお、実空間で算出された勾配係数α
t(数8)と、逆空間で算出された勾配係数α
t(数19)は、パーセバルの定理から等しくなる。
【数18】
【数19】
【0046】
物標方位算出部5は、前回の解x
tから今回の解x
t+1への更新にあたり、受信電力が所定閾値より大きい物標方位のみについて、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加する。つまり、物標方位算出部5は、ターゲットベクトルX
tを逆フーリエ変換(IFFT)してターゲットベクトルx
tを算出し、前回の解x
tに対して慣性項k
tを算出する。よって、最小二乗法の初期の解から最小二乗法の最適解の近傍へと早く到達することができる。
【0047】
具体的には、物標方位算出部5は、横軸拘束項Kを算出する(ステップS59、数20)。つまり、物標方位算出部5は、信号検出部3及びピーク検出部4が決定した雑音と信号を区別する閾値より、受信電力の方位依存性yの各成分y
iが大きければ(
図8のステップS591においてYES)、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束項K
iを1に設定する(
図8のステップS592)。一方で、物標方位算出部5は、信号検出部3及びピーク検出部4が決定した雑音と信号を区別する閾値より、受信電力の方位依存性yの各成分y
iが小さい又は等しければ(
図8のステップS591においてNO)、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束項K
iを0に設定する(
図8のステップS593)。
【数20】
【0048】
そして、物標方位算出部5は、ターゲットベクトルx
tの各成分毎の横軸拘束慣性項k
t、iを算出する(ステップS60、数21)。つまり、受信電力が所定閾値より大きい物標方位のみについて、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加する。そして、受信電力が所定閾値より小さい又は等しい物標方位については、前回の解x
tに対して慣性項k
tを追加しない。ここで、前回の解x
tに加えて、前々回の解x
t−1が必要となる。
【数21】
【0049】
物標方位算出部5は、非負拘束の条件下で(例えば、勾配投影法等。)、ターゲットベクトルx
t+1を更新する(ステップS61、数22)。そして、二乗誤差e
tが十分に収束しておらず、反復演算を終了しないときには(ステップS62においてNO)、ステップS52〜S61を繰り返す。一方で、二乗誤差e
tが十分に収束しており、反復演算を終了するときには(ステップS62においてYES)、最終のターゲットベクトルx
t+1(例えば、
図9の「実線」のグラフ。)に基づいて、物標方位を算出する(ステップS63)。
【数22】
【0050】
なお、ターゲットベクトルx
t+1を更新するかどうかを判断するにあたり、(1)二乗誤差e
tが十分に収束しているかどうかを判断基準としてもよく、(2)更新回数が十分に多くの回数に到達したかどうかを判断基準としてもよい。
【0051】
(本開示のレーダ物標検出装置のまとめ)
このように、非負拘束の条件で反復演算を行う最小二乗法では、アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できる。そして、二乗誤差の最小化の反復演算を実行するのみでよく、相関行列の算出、雑音部分空間の固有ベクトルの算出及び到来波数(物標個数)の事前推定が不要であるため、演算規模が削減される。さらに、到来波数(物標個数)を反復毎に最適化するのみでよく、到来波数(物標個数)を事前に推定する必要がないため、物標方位が精度よく算出される。
【0052】
よって、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報に基づいて、物標方位を精度よく算出するにあたり、(1)アレーアンテナの利用の有無に関わらず、物標方位に依存する受信電力の情報及びアンテナ指向性の情報さえ分かれば、物標方位を精度よく算出できるようにし、(2)演算規模を削減し、(3)到来波数(物標個数)の事前推定を不要とすることができる。
【0053】
(本開示のレーダ物標方位検出の実験結果)
本開示のレーダ物標方位検出の実験結果を
図9に示す。
図9では、デジタルビームフォーミングを適用し、レーダのビーム幅は11.6°(−3dB)である。
【0054】
本開示の発明を適用しないときには、
図9の「破線」のグラフのように、2物標間の方位間隔をレーダのビーム幅11.6°より広げて14°としたときには、各物標の各方向を区別することができるものの、2物標間の方位間隔をレーダのビーム幅11.6°より狭めて10°、8°、6°としたときには、各物標の各方向を区別することができない。
【0055】
本開示の発明を適用したときには、
図9の「実線」のグラフのように、2物標間の方位間隔をレーダのビーム幅11.6°より広げて14°としたときには、各物標の各方向を区別することができるうえに、2物標間の方位間隔をレーダのビーム幅11.6°より狭めて10°、8°、6°としたときにも、各物標の各方向を区別することができる。