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特開2018-21881中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-21881(P2018-21881A)
(43)【公開日】2018年2月8日
(54)【発明の名称】中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20180112BHJP
   H05H 3/06 20060101ALI20180112BHJP
【FI】
   G21K5/08 C
   G21K5/08 N
   H05H3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-154965(P2016-154965)
(22)【出願日】2016年8月5日
(71)【出願人】
【識別番号】501185682
【氏名又は名称】株式会社八神製作所
【住所又は居所】愛知県名古屋市中区千代田2丁目16−30
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 一輝
【住所又は居所】愛知県名古屋市中区千代田二丁目16番30号 株式会社八神製作所内
(72)【発明者】
【氏名】辻 義之
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番 国立大学法人名古屋大学内
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 達矢
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番 国立大学法人名古屋大学内
(72)【発明者】
【氏名】瓜谷 章
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番 国立大学法人名古屋大学内
(72)【発明者】
【氏名】鬼柳 善明
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番 国立大学法人名古屋大学内
(72)【発明者】
【氏名】古澤 大貴
【住所又は居所】愛知県名古屋市千種区不老町1番 国立大学法人名古屋大学内
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA01
2G085AA04
2G085AA11
2G085BA15
2G085BA17
2G085BE02
2G085DA03
2G085EA07
(57)【要約】
【課題】冷却材による除熱の効率が高い中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造を提供する。
【解決手段】中性子発生装置用のターゲットは、荷電粒子線が照射されて中性子を発生するターゲット材と、ターゲット材を保持する基板と、基板に設けられた冷却材流路160とを備え、冷却材流路160は、壁面160cから突出したリブ列60を有し、リブ列60は、第1リブ61と、第2リブ62と、を含んでなり、第1リブ61及び第2リブ62は、壁面160cの中心線側から外側に向かうにつれて冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、冷却材の流れ方向に沿って互い違いに配置されている。冷却構造は、冷却対象である被冷却部材に設けられた冷却材流路160を備え、更に、第1リブ61及び第2リブ62の前縁60aと後縁60bとが鋭角を成して隣接しているか、壁面160cが微細穴80を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線が照射されて中性子を発生するターゲット材と、
前記ターゲット材を保持する基板と、
前記基板に設けられ、冷却材が流される冷却材流路と、を備え、
前記冷却材流路は、壁面から突出したリブ列を有し、
前記リブ列は、前記壁面の中心線よりも一方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第1リブと、前記壁面の中心線よりも他方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第2リブと、を含んでなり、
前記第1リブ及び前記第2リブは、前記壁面の中心線側から外側に向かうにつれて前記冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、前記冷却材の流れ方向に沿って互い違いに配置されている中性子発生装置用のターゲット。
【請求項2】
前記第1リブ及び前記第2リブが設けられた前記壁面は、間隔をあけて配列した前記第1リブ同士の間、及び、間隔をあけて配列した前記第2リブ同士の間に微細穴を有する請求項1に記載の中性子発生装置用のターゲット。
【請求項3】
前記第1リブ及び前記第2リブは、前記冷却材の流れ方向の上流側に位置する前縁と、前記冷却材の流れ方向の下流側に位置する後縁とが、前記中心線側において鋭角を成して隣接している請求項1又は請求項2に記載の中性子発生装置用のターゲット。
【請求項4】
前記冷却材流路は、前記第1リブ及び前記第2リブが配列した前記壁面に対して平行な流路幅が、当該壁面に対して垂直な流路幅の0.4倍以上0.6倍以下の長さである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の中性子発生装置用のターゲット。
【請求項5】
冷却対象である被冷却部材に設けられ、冷却材が流される冷却材流路を備え、
前記冷却材流路は、壁面から突出したリブ列を有し、
前記リブ列は、前記壁面の中心線よりも一方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第1リブと、前記壁面の中心線よりも他方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第2リブと、を含んでなり、
前記第1リブ及び前記第2リブは、前記壁面の中心線側から外側に向かうにつれて前記冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、前記冷却材の流れ方向に沿って互い違いに配置され、
前記第1リブ及び前記第2リブは、前記冷却材の流れ方向の上流側に位置する前縁と、前記冷却材の流れ方向の下流側に位置する後縁とが、前記中心線側において鋭角を成して隣接している冷却構造。
【請求項6】
冷却対象である被冷却部材に設けられ、冷却材が流される冷却材流路を備え、
前記冷却材流路は、壁面から突出したリブ列を有し、
前記リブ列は、前記壁面の中心線よりも一方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第1リブと、前記壁面の中心線よりも他方の側に、前記冷却材の流れ方向に沿って間隔をあけて配列した第2リブと、を含んでなり、
前記第1リブ及び前記第2リブは、前記壁面の中心線側から外側に向かうにつれて前記冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、前記冷却材の流れ方向に沿って互い違いに配置され、
前記第1リブ及び前記第2リブが設けられた前記壁面は、間隔をあけて配列した前記第1リブ同士の間、及び、間隔をあけて配列した前記第2リブ同士の間に微細穴を有する冷却構造。
【請求項7】
前記冷却材流路は、前記第1リブ及び前記第2リブが配列した前記壁面に対して平行な流路幅が、当該壁面に対して垂直な流路幅の0.4倍以上0.6倍以下の長さである請求項5又は請求項6に記載の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線が照射されて中性子線を発生する中性子発生装置用のターゲット、及び、冷却対象を水等の冷却材により冷却する冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
がんを治療する放射線療法の一種に、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy;BNCT)がある。ホウ素中性子捕捉療法は、がん細胞に選択的に蓄積させたホウ素化合物に中性子を照射し、10B(n,α)Liの核反応により生成するα粒子やリチウム原子核によってがん細胞を破壊する治療法である。α粒子やリチウム原子核の飛程は細胞の大きさと同程度であるため、ホウ素中性子捕捉療法によると、正常細胞を大きく損傷すること無く、がん細胞のみを選択的に破壊することが可能である。
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法においては、ボロノフェニルアラニン(Borono-phenylalanine;BPA)や、ボロカプテイト(Sodium mercapto-undecahydro-dodecaborato;BSH)等を患者に投与し、これらのホウ素化合物が集積されたがん細胞に中性子線を照射する。中性子の反応断面積はエネルギが低いほど大きくなる一方で、患者の組織の深部に到達する程度の高いエネルギも必要とされる。但し、高速中性子のようにエネルギが過大であると、正常細胞までも大きく損傷してしまう。そのため、治療のために照射する中性子線は、熱外中性子の強度が高く、高速中性子の混入率は低いことが求められる。
【0004】
従来、ホウ素中性子捕捉療法は、研究用原子炉を中性子源として実施されることが多かった。しかしながら、研究用原子炉は、運転の開始及び停止に時間が掛かる上に、治療を実施する際に原子炉の運用計画と治療日程とを調整する必要が生じていた。また、既設の研究用原子炉は、維持管理費や寿命の観点から、継続的に利用を続けるのにも将来的に限界がある。そこで、近年、加速器を利用して中性子線を発生させる装置の開発が進められている。
【0005】
加速器が生成した中性子をホウ素中性子捕捉療法に利用する中性子発生装置は、一般に、荷電粒子線を発生させる加速器と、荷電粒子線が照射されて中性子線を発生するターゲットと、ターゲットが発生した中性子線を減速して被照射体に照射する減速照射装置とを備える。ターゲットには、中性子源として機能するターゲット材が保持され、ターゲット材に陽子線等の荷電粒子線が照射されることにより中性子発生反応が起こる。ターゲット材としては、Li(p,n)Beの反応を生じるリチウムや、Be(p,n)B、Be(p,xn)の反応を生じるベリリウムや、核破砕反応を生じるタンタル、タングステン等の重金属について検討されている。
【0006】
リチウムやベリリウムをターゲット材とすると、重金属による核破砕反応と比較してガンマ線の発生が少なくて済むため、遮蔽が容易となり、治療の安全性も高くなる。さらに、リチウムとベリリウムとを比較すると、リチウムは、中性子収率が低く、化学的に不安定であり、融点も低いものの、低い入射陽子エネルギで中性子を発生させることが可能である。つまり、発生する中性子線のエネルギに加えて、二次放射線の発生も低度に抑えられるという優位性がある。入射陽子エネルギの閾値は、Be(p,n)Bの反応では約2.06MeVであるのに対し、Li(p,n)Beの反応では約1.88MeVであり、巨視的断面積はリチウムの方が入射陽子エネルギの全般にわたって大きい。そのため、リチウムは、装置を小型化ないし軽量化するのに適したターゲット材として有望視されている。
【0007】
一般に、中性子発生装置用のターゲットには、荷電粒子線が照射されて発熱するターゲット材を冷却するために冷却機構が備えられる。冷却機構としては、ターゲット材を保持する基板に水等の冷却材を循環させる方式が一般的である。例えば、特許文献1には、陽子の照射面とは反体側の面に複数のリブによって仕切られており、水等の冷却媒体が流される冷却通路を備えたターゲットについて開示されている。また、特許文献2には、複数の冷媒流入路から流入する各冷媒を合流させて荷電粒子照射ターゲットを冷却し、合流した冷媒を冷媒流出路から流出させる合流冷却空間を備えた荷電粒子照射ターゲット冷却装置について開示されている。
【0008】
また、従来、発熱体を効率的に除熱するための伝熱技術が検討されている。例えば、非特許文献1には、ガスタービンの動翼に、タービュレンスプロモータとして機能するリブを種々の形状で設け、空冷により除熱する冷却構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−047115号公報
【特許文献2】特開2014−044098号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】武石賢一郎、「高温ガスタービンにおける伝熱技術の進歩」、伝熱、社団法人日本伝熱学会、2000年1月、第39巻、第154号、p.2−12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ホウ素中性子捕捉療法では、1×10[n/cm/s]以上の熱外中性子束の使用が推奨されている。ターゲット材がリチウムやベリリウムである場合は、一般に、閾値に近い入射陽子エネルギで中性子を発生させるため、電流値は数十mA程度、ビームパワーとしては数十kW程度の陽子線を照射する必要がある。このような高いビームパワーの照射を行う場合、中性子発生装置用のターゲットには、数MW/mに及ぶ熱流束が生じるので、ターゲット材を冷却するための冷却機構は、高い冷却能力を備えていなければならない。
【0012】
しかしながら、従来の冷却機構は、伝熱の効率が悪く、高いビームパワーの照射を行う場合に、ターゲット材の温度上昇を十分に抑えることができなかった。特に、リチウムは、融点が約180℃と低く、熱伝導率もベリリウム等に劣っているため、ターゲット材がリチウムである場合に陽子線が照射され続けると、ターゲット材が溶融して漏出したり、基板とターゲット材とが合金化したりする等の虞があった。また、ターゲット材の温度上昇や基板の焼損を避けるために陽子線の電流値を低く設定せざるを得なくなり、低い入射陽子エネルギで高い熱外中性子束を得ることができないといった問題があった。
【0013】
一方、特許文献1においては、水等の冷却媒体が所定の冷却通路に流されることでターゲットの冷却が行われるものとされている。しかしながら、特許文献1のように、ターゲットにリブを設け、リブで仕切られる空間を冷却通路とする技術では、ターゲット材としてリチウムを用いる場合に、リチウムと冷却媒体の水とが反応してしまうという問題がある。これに対して、リチウムと冷却媒体とが接触しない冷却構造にすると、ターゲット側と冷却媒体との間の伝熱が悪化し、除熱の効率が低くなるという問題が生じる。
【0014】
また、特許文献2においては、水等の冷媒が合流冷却空間に流されることでターゲットの冷却が行われるものとされている。同じ冷媒の流量では、冷媒の流れる層の厚さを5mmとする方が、2.5mmとする場合と比較して高い除熱効果が得られるとされており、層の厚さが5mmの場合、凡そ45リットル/分の流量で50kW程度の排熱量が得られている。しかしながら、特許文献2のように、冷媒の層の厚さが5mm程度と厚くなると、ターゲットから出射される熱外中性子束が低下したり、冷媒が放射化したりする虞が高くなってしまう。そのため、冷媒が流される空間がより狭い構造であっても冷却対象を十分に除熱できる、除熱の効率が高い冷却構造が望まれる。
【0015】
また、非特許文献1においては、タービュレンスプロモータの設置により熱伝達率が増加するとされている。しかしながら、非特許文献1では、空冷において、熱伝達率の増加に伴って圧力損失も増加するとされており、中性子発生装置用のターゲットの除熱を期待できる冷却構造とはなっていない。ターゲット材の温度上昇を十分に抑え、且つ、ビームパワーについての制約も少なくするためには、数MW/m程度以上の冷却能力を発揮し得る除熱の効率が高い冷却構造が望まれる。
【0016】
そこで、本発明は、冷却材による除熱の効率が高い中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、本発明に係る中性子発生装置用のターゲットは、荷電粒子線が照射されて中性子を発生するターゲット材と、前記ターゲット材を保持する基板と、前記基板に設けられ、冷却材が流される冷却材流路と、を備え、前記冷却材流路は、壁面から突出したリブ列を有し、前記リブ列は、前記壁面の中心線よりも一方の側に、前記冷却材の流れ方向について間隔をあけて配列した第1リブと、前記壁面の中心線よりも他方の側に、前記冷却材の流れ方向について間隔をあけて配列した第2リブと、を含んでなり、前記第1リブ及び前記第2リブは、前記壁面の中心線側から外側に向かうにつれて前記冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、前記冷却材の流れ方向について互い違いに配置されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る冷却構造は、冷却対象である被冷却部材に設けられ、冷却材が流される冷却材流路を備え、前記冷却材流路は、壁面から突出したリブ列を有し、前記リブ列は、前記壁面の中心線よりも一方の側に、前記冷却材の流れ方向について間隔をあけて配列した第1リブと、前記壁面の中心線よりも他方の側に、前記冷却材の流れ方向について間隔をあけて配列した第2リブと、を含んでなり、前記第1リブ及び前記第2リブは、前記壁面の中心線側から外側に向かうにつれて前記冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜し、前記冷却材の流れ方向について互い違いに配置されていることを特徴とする。そして、前記第1リブ及び前記第2リブは、前記冷却材の流れ方向の上流側に位置する前縁と、前記冷却材の流れ方向の下流側に位置する後縁とが、前記中心線側において鋭角を成して隣接している。または、前記第1リブ及び前記第2リブが設けられた前記壁面は、間隔をあけて配列した前記第1リブ同士の間、及び、間隔をあけて配列した前記第2リブ同士の間に微細穴を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷却材による除熱の効率が高い中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】中性子発生装置の概略構成を示す図である。
図2A】中性子発生装置用のターゲットを示す斜視図である。
図2B】中性子発生装置用の保持基板を示す斜視図である。
図2C】中性子発生装置用のターゲットの構造を示す断面図である。
図3】中性子発生装置用のターゲットの冷却材流路の要部を示す斜視図である。
図4】冷却材流路の壁面に設けられるマイクロピットの構造を示す断面図である。
図5A】マイクロピットの配置の第1例を示す冷却材流路の平面図である。
図5B】マイクロピットの配置の第2例を示す冷却材流路の平面図である。
図5C】マイクロピットの配置の第3例を示す冷却材流路の平面図である。
図6A】流路幅の第1例を示す冷却材流路の斜視図である。
図6B】流路幅の第1例における二次流れの解析結果を示すベクトル図である。
図7A】流路幅の第2例を示す冷却材流路の斜視図である。
図7B】流路幅の第2例における二次流れの解析結果を示すベクトル図である。
図8A】リブ同士の間隔の第1例を示す冷却材流路の平面図である。
図8B】リブ同士の間隔の第1例における熱伝達率の解析結果を示す図である。
図9A】リブ同士の間隔の第2例を示す冷却材流路の平面図である。
図9B】リブ同士の間隔の第2例における熱伝達率の解析結果を示す図である。
図10A】リブの形状の一例を示す冷却材流路の平面図である。
図10B】リブの形状の一例における熱伝達率の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る中性子発生装置用のターゲット及び冷却構造について、図を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0022】
[中性子発生装置]
はじめに、中性子発生装置用のターゲットが備えられる中性子発生装置の概略構成について説明する。
【0023】
図1は、中性子発生装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、中性子発生装置100は、荷電粒子線発生装置1と、中性子減速照射部2と、導管4と、中性子発生装置用のターゲット5と、を備えている。中性子発生装置100は、加速器を利用する加速器型の中性子発生装置であり、ホウ素中性子捕捉療法における中性子線源として好適に用いられる。
【0024】
中性子発生装置100において、荷電粒子線発生装置1は、所定のエネルギの陽子線等(荷電粒子線6)を発生する。荷電粒子線6は、導管4を通じてターゲット5に到達し、ターゲット5は、荷電粒子線6を照射されて所定のエネルギ帯域の中性子線を発生させる。そして、中性子減速照射部2は、ターゲット5が出射した中性子線を減速し、照射野が整形された中性子線9を出射する。
【0025】
中性子発生装置100において、中性子減速照射部2から出射された中性子線9は、被照射体3に照射されて中性子捕獲反応を生じる。すなわち、ホウ素(10B)を含むホウ素化合物を集積させたがん細胞を被照射体3とし、中性子線9を照射することにより、10B(n,α)Liの核反応でα線やリチウム線を発生させることができる。これらα線やリチウム線が、がん細胞を選択的に損傷することにより、正常細胞の損傷少なく、がんの治療が行われる。
【0026】
[荷電粒子線発生装置]
荷電粒子線発生装置1は、例えば、荷電粒子線として陽子線を発生する。陽子線を発生する荷電粒子線発生装置1は、図1に示すように、陽子を発生させるイオン源1aと、陽子を加速する加速器1bと、を備えて構成される。
【0027】
イオン源1aとしては、例えば、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance;ECR)イオン源が用いられる。ECRイオン源は、強磁場下に水素ガスを導入し、高周波を印加して電子サイクロトロン共鳴を生じさせることにより、水素のプラズマを高密度に生成する。そして、生成した水素イオン()は、磁気ミラーによって集積されて加速器1bに引き出される。ECRイオン源は、無電極放電によるため長時間にわたって安定した運転が可能である。
【0028】
加速器1bとしては、例えば、静電型加速器が用いられる。静電型加速器は、電極間に直流高電圧を印加し、一定した静電界の下で荷電粒子を加速する。静電型加速器によると、連続した荷電粒子線6を発生させることが可能である。静電型加速器としては、例えば、ダイナミトロン型加速器(IBA社製等)を用いることができる。また、コッククロフトウォルトン型、バンデグラフ型等の静電型加速器や、サイクロトロン等の高周波型加速器、高周波四重極型加速器、ドリフトチューブ型加速器等を用いることもできる。
【0029】
[導管]
導管4は、荷電粒子線発生装置1とターゲット5との間を接続し、荷電粒子線発生装置1が出射した荷電粒子線6をターゲット5に導く経路を形成している。導管4には、荷電粒子線6が幅方向に発散するのを抑制する集束レンズ7が設置されている。集束レンズ7は、例えば、複数の四重極電磁石を荷電粒子線6の照射方向に沿って設置し、それぞれの極性を反転させた配置として構成される。なお、導管4は、図1に示すような直線状の形態に限定されるものでは無く、曲線部を有する任意形状の経路を形成してもよい。導管4の曲線部には、荷電粒子線6を偏向させる偏向電磁石等を設置することが可能である。
【0030】
[ターゲット]
ターゲット5は、中性子源として機能し、荷電粒子線6が照射されて中性子を発生するターゲット材54(図2A及び図2C参照)を保持している。ターゲット5は、不図示の冷却ジャケットが装着された状態で導管4の終端に配置されている。ターゲット5には、冷却ジャケットを介して循環的に冷却材が供給され、荷電粒子線6が照射されて発熱したターゲット材54の除熱が行われるようになっている。
【0031】
ターゲット材54としては、例えば、固体リチウムが用いられる。リチウムは、陽子線を照射されるとLi(p,n)Beの核反応により中性子線を発生する。この核反応に必要な入射陽子エネルギの閾値は、約1.88MeVである。そのため、荷電粒子線発生装置1においては、この閾値以上であり、且つ、エネルギが過大な高速中性子等が発生し難い、低いエネルギの陽子線が生成される。
【0032】
ターゲット材54に照射する陽子線のエネルギは、具体的には、4.0MeV以下、好ましくは3.0MeV以下、より好ましくは2.8MeV以下の範囲である。また、陽子線の電流値は、10mA以上100mA以下、ターゲット材54に対する熱負荷を少なくする等の観点からは、好ましくは10mA以上20mA以下の範囲とする。このようなビームパワーで照射を行う場合、ターゲット材54の表面における陽子線の照射領域を80mm角と仮定すると、熱流束は6.6M[W/m]程度が想定される。
【0033】
[中性子減速照射部]
中性子減速照射部2は、ターゲット5が発生した中性子線を減速し、減速されると共に照射野が整形された中性子線9を被照射体3に照射する。中性子減速照射部2は、導管4の終端側に位置しており、ターゲット5の側方及び後方を囲むように配置されている。図1に示すように、中性子減速照射部2は、減速材21と、反射材22と、遮蔽材23と、コリメータ24と、を備えている。
【0034】
ホウ素中性子捕捉療法において、被照射体3に照射される中性子線9の熱外中性子束は、治療を短時間に効果的に行う観点から、1×10[n/cm/s]以上が推奨される。また、中性子線9の高速中性子混入率は、正常細胞の損傷を避ける観点から、2×10−13[Gy/cm]以下が推奨される。また、高速中性子線やガンマ線の混入も防止する必要がある。そのため、中性子減速照射部2では、ターゲット5が発生した中性子線を熱外中性子線のエネルギ帯域まで減速させると共に、高速中性子線やガンマ線等の他成分を遮蔽する。
【0035】
減速材21は、概略形状が柱状を呈しており、ターゲット5の前方に、荷電粒子線6の照射軸と略同心となるようにターゲット5の周囲を囲んで配置されている。荷電粒子線6を照射されてターゲット5が出射した中性子線は、減速材21に入射して減速された後、コリメータ24の中央の開口に入射するようになっている。
【0036】
減速材21の材質としては、例えば、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化リチウム(LiF)、ポリエチレン、重水(DO)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。減速材21は、一種の材質で形成されていてもよいし、複数種の材質が組み合わされて形成されていてもよい。
【0037】
減速材21の材質としては、特に、フッ化マグネシウムが好ましい。フッ化マグネシウムは、真密度に対するかため嵩密度(相対密度)が、95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上とされる。フッ化マグネシウムは、単結晶体、及び、単結晶同士が焼結している焼結体のうちのいずれであってもよい。フッ化マグネシウムは、熱外中性子域の吸収断面積が小さく、高速中性子域の散乱断面積が大きい。そのため、フッ化マグネシウムによると、高速中性子混入率を低減しつつ、コリメータ24の開口に入射する熱外中性子束を高めることができる。
【0038】
反射材22は、概略形状が筒状を呈しており、減速材21の側方から後方にかけて、減速材21の周囲を囲んで配置されている。減速材21によって減速され、減速材21の側方や後方に出射された中性子線は、反射材22によって反射されてコリメータ24の開口に入射する。
【0039】
反射材22の材質としては、例えば、鉄(Fe)、鉛(Pb)、黒鉛(C)、ベリリウム(Be)等が挙げられる。反射材22は、一種の材質で形成されていてもよいし、複数種の材質が組み合わされて形成されていてもよい。
【0040】
反射材22の材質としては、特に、鉛又は鉛−ビスマス合金等の鉛合金が好ましい。鉛は、中性子の散乱断面積が大きい一方、中性子の吸収断面積が小さく、ガンマ線の遮蔽能も高い。そのため、外部への放射線の漏洩を防止しつつ、コリメータ24の開口に入射する熱外中性子束を高めることができる。
【0041】
遮蔽材23は、減速材21の後方や、反射材22の周囲に配置されている。減速材21によって減速され、減速材21から出射された熱中性子線や高速中性子線、二次的に発生したガンマ線は、遮蔽材23によって吸収ないし反射され、外部への漏洩が防止される。
【0042】
遮蔽材23の材質としては、例えば、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、フッ化鉛(PbF)、炭化ホウ素をはじめとするホウ素化合物、パラフィン、水、フッ化リチウム−ポリエチレン、ホウ素−ポリエチレン等が挙げられる。遮蔽材23は、一種の材質で形成されていてもよいし、複数種の材質が組み合わされて形成されていてもよい。
【0043】
遮蔽材23の材質としては、特に、カドミウム、ビスマス及びフッ化リチウム−ポリエチレンが好ましい。カドミウムは、熱中性子の吸収断面積が大きく、ビスマスは、ガンマ線の遮蔽能が高く、フッ化リチウム−ポリエチレンは、中性子の吸収能が高い。そのため、これらを組み合わせて使用することにより、中性子減速照射部2の周囲の中性子線量やガンマ線量を効果的に低減することができる。
【0044】
コリメータ24は、後方に向かってテーパ状に縮径する開口を有しており、減速材21の後方に、荷電粒子線6の照射軸と開口とが略同心となるように配置されている。減速材21によって減速された中性子線は、コリメータ24の開口に入射して照射野が整形された後、被照射体3に照射される。
【0045】
コリメータ24の材質としては、反射材22や遮蔽材23と同様の材質を適宜組み合わせて用いることができる。コリメータ24は、鉛又は鉛合金の反射材と、フッ化リチウム−ポリエチレンの遮蔽材とを厚さ方向に積層して用いることが好ましい。このような材質の組み合わせであると、中性子線の直進性を高めて適正な照射野に整形しながら、被照射体3の周囲の高速中性子線量やガンマ線量等も効果的に低減することができる。
【0046】
次に、中性子発生装置用のターゲットが備える冷却構造について、ターゲットの具体的な構成と共に図面を参照しながら説明する。
【0047】
図2Aは、中性子発生装置用のターゲットの斜視図、図2Bは、中性子発生装置用のターゲットの保持基板の斜視図、図2Cは、中性子発生装置用のターゲットの構造を示す断面図である。
図2Aにおいては、中性子発生装置用のターゲット5の凹部110が、金属箔56とターゲット材54の一部を切り欠き、金属箔56の残部を透視して示されている。また、図2Bにおいては、保持基板50を構成する第2基板52のみを単独で斜め上方から視た状態が示されている。また、図2Cにおいては、図2AのI−I線における断面がターゲット5の一部(貫通孔132,134)を透視して示されている。
【0048】
図2A図2B及び図2Cに示すように、ターゲット5は、保持基板(基板)50と、ターゲット材54と、金属箔56と、冷却材流路160と、を備えている。ターゲット5は、概略形状が矩形平板状を呈しており、金属箔56に覆われたターゲット材54が荷電粒子線6の照射方向の上流側を向くように導管4(図1参照)の終端に固定される。ターゲット5の寸法は、例えば、長さが110mm、幅が110mm、厚さが10mmである。
【0049】
保持基板50は、凹部110が形成された第1基板51と、条溝120が形成された第2基板52と、が重ねられた構造を有している。保持基板50は、荷電粒子線6が照射されるターゲット材54を保持し、ターゲット材54を保持する保持基板50が、中性子発生装置用のターゲット5が備える冷却構造の冷却対象、すなわち被冷却部材に相当する。
【0050】
図2Aに示すように、第1基板51は、一方の主面に減肉された凹部110を有するエンボス構造が形成されており、他方の主面に第2基板52が接合されている。また、第2基板52は、一方の主面に複数の条溝120が形成されており、この主面に第1基板51が接合されている。第1基板51と第2基板52との接合は、例えば、熱間静水圧(等方加圧)プレス(Hot Isostatic Pressing;HIP)によって行われる。
【0051】
第1基板51は、図2Aに示すように、概略形状が矩形平板状を呈しており、一方の主面に、ターゲット材54を保持する凹部110と、凹部110を囲む縁枠部112と、縁枠部112の内側に位置する複数の島部114と、を有している。第1基板51の厚さは、例えば、0.3mm以上2.5mm以下、好ましくは2.0±0.2mmである。
【0052】
第1基板51の凹部110は、第1基板51の主面が略一様な深さに減肉されて設けられている。凹部110は、第1基板51の主面の外縁に縁枠部112を残し、縁枠部112よりも内側に複数の島部114を残して減肉されている。凹部110には、ターゲット材54が略隙間無く満たされ、凹部の深さに一致する厚さでターゲット材54が保持される。凹部110の深さは、例えば、50μm以上150μm以下、好ましくは140μm以上150μm以下である。
【0053】
第1基板51の島部114は、凹部110に離散的に配置されている。島部114は、凹部110の底面に対して、縁枠部112と略同じ高さに設けられている。縁枠部112の上面と島部114の上面には、ターゲット材54を凹部110に密封するための金属箔56が接合される。凹部110に複数の島部114が設けられることにより、金属箔56と保持基板50との接合強度が高められ、厚さ方向に熱変形した金属箔56が膨れや撓みを生じないようになっている。
【0054】
第1基板51の材質は、好ましくはタンタル又はその合金、より好ましくは純タンタルとされる。タンタルは、ブリスタリングに対する耐性が高く、加工性も良いため、形状が高精度なターゲット5を製造するのに適している。また、リチウムの濡れ性が良好であるため、ターゲット材54がリチウムである場合、凹部110への充填性が向上し、ターゲット5の製造工程や製造設備が簡易化される。第1基板51の加工は、例えば、フライス加工、放電加工、エッチング加工等の適宜の方法によって行われる。
【0055】
第2基板52は、図2A及び図2Bに示すように、概略形状が第1基板51と略同寸の矩形平板状を呈しており、一方の主面に、複数の条溝120を有している。条溝120は、第2基板52の表面が溝加工され、横断面視において矩形状に減肉されて設けられている。複数の条溝120は、互いに平行に所定間隔で並列しており、各条溝120の両端は、第2基板52の両端面のそれぞれに達している。第2基板52の厚さは、例えば、7.0mm以上13.0mm以下、好ましくは9.0±1.0mmである。
【0056】
第2基板52の材質は、好ましくは銅又はその合金、より好ましくは銅とされる。銅は、加工性が良く、熱伝導率も高いため、冷却材流路160となる条溝120を形成するのに適している。第2基板52の加工は、例えば、フライス加工、放電加工等の適宜の方法によって行われる。
【0057】
金属箔56は、保持基板50に保持されるターゲット材54を封止している。金属箔56は、全周縁が縁枠部112の上面に接合されると共に、中央側が島部114の上面に接合され、ターゲット材54が充填された凹部110を気密に密封する。金属箔56が備えられることにより、荷電粒子線6が照射されてターゲット材54が溶融したとしても、凹部110から漏出したり、凹部110内で偏ったりするのが防止される。また、ターゲット材54がリチウムである場合、リチウムが大気に暴露されて、水分、窒素等と反応することが防止される。金属箔56の厚さは、例えば、8.0μm以上12.0μm以下、好ましくは10.0±1.0μmである。
【0058】
金属箔56の材質としては、例えば、チタン、チタン合金、ベリリウム、ベリリウム合金、ステンレス鋼等が挙げられる。金属箔56の材質としては、特に、チタン又はチタン合金が好ましい。金属箔56がこのような材質であると、ターゲット材54との反応によって腐食し難く、また、荷電粒子線6のエネルギ損失が抑えられて発熱が抑制される。金属箔56と第1基板51との接合は、例えば、熱間静水圧(等方加圧)プレス、レーザ溶接、電子線溶接等によって行われる。熱間静水圧(等方加圧)プレスにおける接合温度は、第1基板51と第2基板52との接合温度よりも低温であることが好ましい。
【0059】
図2Aに示すように、第1基板51は、第1基板51を厚さ方向に貫通し、凹部110と第1基板51の反対側の主面側とを連通する第1貫通孔131と、第2貫通孔132と、を有している。第1貫通孔131は、凹部110の底面において、中央から離れた隅部付近に開口しており、第1基板51の反対側の主面の隅部付近に貫通している。一方、第2貫通孔132は、凹部110の底面において、第1貫通孔131の対角線上の隅部付近に開口しており、第1基板51の反対側の主面の隅部付近に貫通している。
【0060】
また、図2Bに示すように、第2基板52は、第2基板52を厚さ方向に貫通し、第2基板52の一方の主面側と他方の主面側とを連通する第3貫通孔133と、第4貫通孔134と、を有している。第3貫通孔133は、第2基板52の一方の主面において、条溝120と交差しない隅部付近に開口しており、第2基板52の他方の主面の隅部付近に貫通している。一方、第4貫通孔134は、第2基板52の一方の主面において、第3貫通孔133の対角線上の条溝120と交差しない隅部付近に開口しており、第2基板52の他方の主面の隅部付近に貫通している。第3貫通孔133及び第4貫通孔134は、第1基板51と第2基板52とが接合されたとき、第1貫通孔131及び第2貫通孔132のそれぞれと内周面が面一となる位置に開口している。
【0061】
図2Cに示すように、第1貫通孔131と第3貫通孔133は、第1基板51と第2基板52とが接合されたときに注入孔136を形成する。注入孔136は、例えば、第1基板51の材質とターゲット材54との濡れ性が良好である場合等に、予め金属箔56で密封した凹部110に、液体の状態のターゲット材54を注入するために用いられる。また、第2貫通孔132と第4貫通孔134は、第1基板51と第2基板52とが接合されたときに排出孔138を形成する。排出孔138は、予め金属箔56で密封されている凹部110に、注入孔136を通じてターゲット材54を充填するとき、凹部110に充填しきれなかった余剰のターゲット材54や凹部110内の気体を排出するために用いられる。
【0062】
ターゲット材54の凹部110への充填は、ターゲット材54がリチウムである場合、アルゴンガス等による不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気の下で行う。例えば、充填用の注入配管を注入孔136に接続し、保持基板50をリチウムの融点以上、且つ、保持基板50が軟化しない程度の温度域、例えば、400℃から500℃程度に加熱する。そして、凹部110内の気体を排出孔138を通じて排出しながら、注入孔136を通じて凹部110にリチウムの溶湯を注入し、毛細管現象によって隙間無く充填させる。注入孔136や排出孔138は、凹部110にターゲット材54を充填して凝固させた後、注入配管を切断してから、溶接、圧接等により封止する。
【0063】
注入孔136や排出孔138を用いた充填法によると、開放された凹部110にターゲット材54を充填し、凝固させた後に金属箔56で密封する場合と比較して、リチウム等のターゲット材54が大気に暴露されるのを容易に防止することができる。また、狭い凹部110の全体にターゲット材54が満たされ易いため、凹部110内に空隙が生じ難くなる。そのため、リチウムをターゲット材54としたターゲット5を、簡易な工程及び設備で製造することができる。なお、ターゲット材54の凹部110における充填状態については、例えば、X線、温度分布、超音波等で検知することが可能である。
【0064】
図2A図2B及び図2Cに示すように、冷却材流路160は、保持基板50に貫通孔として設けられている。冷却材流路160は、第2基板52に設けられた複数の条溝120の上部が第1基板51で塞がれることにより、平行に複数形成されている。図2Cに示すように、冷却材流路160の横断面視の形状は、矩形状であり、リブ列60(図3参照)が形成された第1基板51が上壁面、第2基板52が側壁面及び底壁面を成している。図2Bに示すように、複数の冷却材流路160は、互いに所定間隔をあけて並列しており、保持基板50の一端面から他端面まで貫通している。
【0065】
冷却材流路160は、保持基板50の一端面側及び他端面側のそれぞれにおいて、不図示の冷却ジャケットが備える冷却材の供給路及び排出路と接続されるようになっている。複数の冷却材流路160には、荷電粒子線6が照射される間、並向流とした冷却材が流されてターゲット材54の除熱が行われる。冷却材としては、例えば、水が用いられる。冷却材の入口温度は、例えば、常温(20±15℃)である。また、冷却材流路160の横断面における冷却材の平均流速は、例えば、2m/s以上、好ましくは5m/s以上とする。
【0066】
図3は、中性子発生装置用のターゲットの冷却材流路の要部を示す斜視図である。
図3においては、ターゲット5が備える冷却材流路160の一部区間を、荷電粒子線6の照射方向の下流側、すなわち、ターゲット5の背面側から透視して視た斜視図が示されている。荷電粒子線6が照射されたときに発熱の中心となるターゲット材54は、図3の紙面の奥側に位置する。
【0067】
図3において、Wは、冷却材流路160の壁面(160c)に平行な流路横幅、Hは、冷却材流路160の壁面(160c)に垂直な流路縦幅を示す。また、Rは、冷却材の流れ方向(主流の方向)に沿ったリブ幅(リブ61,62の前縁60aと後縁60bとの間の最大長さ)、Pは、リブ列60におけるリブ同士の間隔(リブ61,62の後縁60bとその下流のリブ61,62の前縁60aとの間の距離)、Rは、冷却材の流れ方向についてのリブ傾斜距離(リブ61,62を斜辺とした対辺の長さ)、Rは、冷却材の流れ方向に垂直な方向に沿ったリブ長さ(リブ61,62を斜辺とした隣辺の長さ)、Rは、冷却材流路160の壁面(160c)に垂直なリブ高さを示す。
【0068】
図3に示すように、冷却材流路160は、壁面(160c)から突出したリブ列60を有している。リブ列60は、複数の突起状のリブ61,62によって構成されている。リブ列60は、第1基板51の表面であって、第2基板52に形成されている条溝120に臨む位置に設けられており(図2A等参照)、冷却材流路160の上壁面160c、すなわち、ターゲット材54が位置する側の壁面に配置されている。
【0069】
リブ列60は、冷却材流路160の壁面(160c)の中心線(図3に鎖線で示す。)よりも一方の側(右壁面160a側)に配列した第1リブ61と、冷却材流路160の壁面(160c)の中心線よりも他方の側(左壁面160b側)に配列した第2リブ62と、を含んでなる。第1リブ61及び第2リブ62は、いずれも冷却材の流れ方向(図3に白抜き矢印で示す主流の方向)に沿って間隔をあけて配列している。第1リブ61及び第2リブ62は、いずれも周期的に配列しており、第1リブ61同士の間隔と第2リブ62同士の間隔は、互いに略同幅とされている。
【0070】
第1リブ61及び第2リブ62は、図3において、冷却材の流れ方向の上流側に位置する前縁60aと、冷却材の流れ方向の下流側に位置する後縁60bとが平行に設けられている。第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材流路160の右壁面160a及び左壁面160bのそれぞれから上壁面160cの中心線付近まで延在しており、冷却材流路160の横断面視においては、上壁面160cの表面上に、左右にかけて略隙間無く設けられている(図2C参照)。
【0071】
第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材の流れの乱流化を促進し、冷却材による除熱の効率を高める作用を示す。冷却材の流れは、上壁面160cの側において、リブ61,62に衝突して剥離し、下流側に配置されているリブ61,62に再付着する。また、リブ61,62に衝突して上壁面160c側に潜り込み、リブ同士の間において、冷却材の主流の方向に沿った二次的な循環流を生じる。そのため、冷却材の流れは、強く乱流化されると共に、冷却材の流れが再付着する部位においては、冷却材流路160の壁面を覆う蒸気膜が迅速に破壊され、熱伝達率が大きく向上する効果が得られる。また、第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材流路160の表面積を拡張するので、冷却材による伝熱面積が増大する効果も得られる。
【0072】
図3に示すように、第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材流路160の壁面(160c)の中心線側から外側に向かうにつれて冷却材の流れ方向の下流側に位置するように傾斜して配置されている。具体的には、第1リブ61及び第2リブ62は、平面視の形状が平行四辺形を呈しており、冷却材流路160の上壁面160cの中心線側に位置する先端部よりも、冷却材流路160の右壁面160a側や左壁面160b側に位置する基端部が、冷却材の主流の方向の下流側に位置している。このように第1リブ61及び第2リブ62が傾斜していることにより、リブ61,62に衝突した冷却材の流れが、垂直な方向(左右方向)の流れに積極的に変換され、左右方向に流れる旋回流や剪断流の発達により、冷却材の流れの乱流化が大きく促進されるようになっている。
【0073】
また、図3に示すように、第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材の流れ方向に沿って互い違いに配置されている。第1リブ61と第2リブ62は、配列しているリブ同士の間の中間位置にずれて交互に並び、千鳥配列を形成している。傾斜した第1リブ61及び第2リブ62が互い違いに配置されることにより、冷却材の流れ方向に垂直な方向(左右方向)に変換された旋回流や剪断流が、間隔をあけて配列しているリブ毎に交互に逆方向に発達し、熱伝達率が均一性高い分布で高められるようになっている。
【0074】
また、図3に示すように、冷却材流路160の壁面(160c)は、間隔をあけて配列した第1リブ61同士の間、及び、間隔をあけて配列した第2リブ62同士の間のそれぞれに、微細な窪み状のマイクロピット(微細穴)80を有している。マイクロピット80は、図3において、リブ同士の間の壁面(160c)の上流側半部(リブ同士の間の中間位置よりも上流側)に、リブ61,62の後縁60bに沿って配置されている。
【0075】
図4は、冷却材流路の壁面に設けられるマイクロピットの構造を示す断面図である。
図4において、Dは、マイクロピット80の底面深さ、Dは、マイクロピット80のテーパ面深さ、φは、マイクロピット80の開口径、φは、マイクロピット80の底面内径、θは、テーパ角度を示す。
【0076】
図4に示すように、マイクロピット80は、冷却材流路の壁面(160c)に略逆円錐台状に窪んだテーパ穴として設けられる。マイクロピット80の底面180aは、所定の曲率のR底を形成しており、側面180bは、底面180aに向かって内径が縮径するテーパ面を形成している。マイクロピット80は、例えば、冷却材流路160の壁面となる第1基板51の表面にレーザ加工を施すことにより形成される。
【0077】
マイクロピット80の寸法は、例えば、底面深さ(D)が、75〜100μm、テーパ面深さ(D)が、75μm、開口径(φ)が、48μm、底面内径(φ)が、35μm、テーパ角度(θ)が、約5°である。
【0078】
マイクロピット80は、冷却材の沸騰核として機能する。ターゲット材54の発熱により生じた冷却材の蒸気は、マイクロピット80の内側に捕捉されて成長し、膨張した気泡が壁面から放出される。そのため、マイクロピット80を冷却材流路160の壁面に設けることにより、核沸騰型の冷却が促進され、冷却材による除熱の効率が大きく高められる。マイクロピット80は、図3に示す配置の他、冷却材流路160の側壁面160a,160bの近傍や、リブ61,62の近傍に、格子配列、千鳥配列等の適宜の配列で配置することが可能である。
【0079】
図5Aは、マイクロピットの配置の第1例を示す冷却材流路の平面図、図5Bは、マイクロピットの配置の第2例を示す冷却材流路の平面図、図5Cは、マイクロピットの配置の第3例を示す冷却材流路の平面図である。
図5A図5B及び図5Cにおいては、マイクロピット80を配置するのに適した領域の、リブ同士の間の壁面(160c)の上流側半部以外の例を破線(200)で示している。
【0080】
図5Aに示すように、マイクロピット80を配置する領域200は、リブ同士の間の壁面(160c)の下流側半部(リブ同士の間の中間位置よりも下流側)に、リブ61,62の前縁60aに沿って位置させることもできる。冷却材流路160の壁面のうち、リブ61,62の前縁60aの近傍は、冷却材の流れがリブ61,62に衝突して潜り込むため、リブ61,62の根本付近に滞留して局所的に循環する二次流れが生じ易く、熱伝達率が低下し易い領域である。このような領域にマイクロピット80を配置すると、図3に示す配置と同様、リブ61,62の根本付近の局所的な対流熱伝達の低下を、核沸騰を促進して補うことが可能である。
【0081】
また、図5Bに示すように、マイクロピット80を配置する領域200は、リブ同士の間の壁面(160c)の外側半部に、冷却材流路160の側壁面160a,160bに沿って位置させることもできる。冷却材流路160の壁面のうち、外側の隅部付近(側壁面160a,160bの付近)は、冷却材の流れ方向に垂直な方向(左右方向)に発達した旋回流が、逆方向に局所的に旋回して滞留する二次流れを生じ易く、熱伝達率が低下し易い領域である。このような領域にマイクロピット80を配置すると、隅部付近の局所的な対流熱伝達の低下を、核沸騰を促進して補うことが可能である。
【0082】
また、図5Cに示すように、マイクロピット80を配置する領域200は、リブ同士の間の壁面(160c)の、リブ61,62の基端と、その下流側に配置されているリブ61,62の先端とを結ぶ線よりも下流側且つ外側の半部に、リブ61,62の前縁60aや、冷却材流路160の側壁面160a,160bに沿って位置させることもできる。このようなヌセルト数が小さくなり易い領域にマイクロピット80を配置すると、図5A図5Bの配置よりも更に除熱の効率を高めることができる。
【0083】
図6Aは、流路幅の第1例を示す冷却材流路の斜視図、図6Bは、流路幅の第1例における二次流れの解析結果を示すベクトル図である。また、図7Aは、流路幅の第2例を示す冷却材流路の斜視図、図7Bは、流路幅の第2例における二次流れの解析結果を示すベクトル図である。
図6A及び図7Aにおいては、第1リブ61及び第2リブ62が設けられた壁面(160c)の流路幅の具体例を示している。また、図6B及び図7Bにおいては、図6A及び図7Aの任意横断面(II−II断面)について、解析された冷却材の二次流れの速度ベクトルを簡略化して示している。細線の矢印は、熱伝達率が相対的に低い流れ、太線の矢印は、熱伝達率が相対的に高い流れを表す。
【0084】
図6Aに示す冷却材流路160は、流路横幅(W)が、6.0mm、流路縦幅(H)が、5.0mmである。すなわち、流路縦幅(H)は、流路横幅(W)の1倍未満の長さである。なお、図6Aに示す冷却材流路160において、リブ幅(R)は、1.0mm、リブ同士の間隔(P)は、5.0mm、リブの傾斜距離(R)は、1.5mm、リブ長さ(R)は、3.0mm、リブ高さ(R)は、1.0mmが想定される。
【0085】
一方、図7Aに示す冷却材流路160は、流路横幅(W)が、6.0mm、流路縦幅(H)が、3.0mmに短縮されている。すなわち、流路縦幅(H)は、流路横幅(W)の0.5倍の長さであり、冷却材流路160の横断面視において、第1リブ61及び第2リブ62のそれぞれの直下(図における手前側)に、略正方形状の空間がそれぞれ確保されている。なお、図7Aに示す冷却材流路160において、リブ幅(R)、リブ同士の間隔(P)、リブの傾斜距離(R)、リブ長さ(R)及びリブ高さ(R)は、図6Aに示す冷却材流路160と同寸が想定される。
【0086】
図6Bに示すように、流路縦幅(H)が5.0mmの冷却材流路160では、冷却材流路160の横断面視において、第1リブ61及び第2リブ62のそれぞれの直下に、扁平な楕円軌道で旋回する旋回流がそれぞれ生じている。旋回流は、左右の対称性が必ずしも高くなく、一方側(左側)がやや大きい軌道を描いている。冷却材流路160の中央付近では昇降流が十分に発達して無く、上壁面付近や側壁面付近において、熱伝達率の分布にばらつきが生じている。また、冷却材流路160の下壁面側では、熱伝達率が低くなっており、冷却能力に大きな影響を与える程度の熱流束は生じていないことが分かる。
【0087】
これに対して、図7Bに示すように、流路縦幅(H)が3.0mmに短縮された冷却材流路160では、冷却材流路160の横断面視において、第1リブ61及び第2リブ62のそれぞれの直下に、左右の対称性が高く、真円に近い軌道で互いに逆方向に旋回する旋回流がそれぞれ生じている。冷却材流路160の中央付近や側壁面付近では昇降流による熱伝達が促進されており、上壁面付近や側壁面付近においては、熱伝達率が高い領域が均一性高く分布している。また、冷却材流路160の下壁面側では、熱伝達率が高くなっており、伝熱量が少なく、冷却能力への寄与が小さい領域が削減されていることが分かる。
【0088】
図6B及び図7Bが示すように、冷却材流路160の流路縦幅(H)が、流路横幅(W)に対して狭く設けられており、流路横幅(W)の凡そ1/2倍の長さであると、冷却材の流れ方向に垂直な方向(左右方向)について、第1リブ61及び第2リブ62のそれぞれの直下に生じる旋回流の対称性が高くなり、冷却材流路160の壁面(160c)に垂直な方向(上下方向)の対流熱伝達が促進されるといえる。また、流路縦幅(H)が流路横幅(W)に対して狭く設けられることにより、冷却材の流速が増大するため、冷却材による除熱の効率が一層高められるといえる。
【0089】
したがって、冷却材流路160は、第1リブ61及び第2リブ62が配列した壁面(160c)に対して垂直な流路幅(流路縦幅(H))が、当該壁面に対して平行な流路幅(流路横幅(W))の1倍未満の長さであることが好ましく、凡そ0.5倍の長さであることが特に好ましい。なお、凡そ0.5倍の長さには、同等の結果が見込まれる、0.4倍以上0.6倍以下の長さが含まれる。より好ましい長さは、0.45倍以上0.55倍以下の長さである。
【0090】
図8Aは、リブ同士の間隔の第1例を示す冷却材流路の平面図、図8Bは、リブ同士の間隔の第1例における熱伝達率の解析結果を示す図である。また、図9Aは、リブ同士の間隔の第2例を示す冷却材流路の平面図、図9Bは、リブ同士の間隔の第2例における熱伝達率の解析結果を示す図である。
図8A及び図9Aにおいては、第1リブ61及び第2リブ62のリブ同士の間隔の具体例を示している。また、図8B及び図9Bにおいては、冷却材流路160の壁面と冷却材との熱伝達率(熱伝達係数)の高低をドットの疎密で示している。ドットの密度が中程度の領域は、乱流が促進されることにより熱伝達係数が大きく増大した領域、ドットの密度が高い領域は、熱伝達係数が80M[W/m・K]程度まで顕著に増大した領域を表す。
【0091】
熱伝達率の解析は、1本の冷却材流路160の長さ24mmの区間に周期境界条件を課して計算したものである。冷却材流路160が設けられた基板は、横幅が、9.0mm、縦幅が9.5mmであり、上面に6.6M[W/m]の等熱流束を印加し、上面と冷却材流路160との間の厚さは、1.5mmとしている。基板は、銅製として物性値を定数で与えている。冷却材は、水であり、冷却材流路160の入口において、断面平均温度は、25℃、断面平均流速は、2m/sである。水の静圧は、1MPa、物性値は、状態式:IAPWS−IF97を用いて求めている。乱流モデルは、2層型realizable k-εモデルを用いた定常RANS(Reynolds-Averaged Navier - Stokes equations)で解析している。
【0092】
図8Aに示す冷却材流路160は、リブ幅(R)が、1.0mm、リブ同士の間隔(P)が、5.0mmである。すなわち、リブ同士の間隔(P)は、リブ幅(R)の5倍の長さである。なお、図8Aに示す冷却材流路160において、流路横幅(W)は、6.0mm、流路縦幅(H)は、5.0mm、リブの傾斜距離(R)は、1.5mm、リブ長さ(R)は、3.0mm、リブ高さ(R)は、1.0mmである。
【0093】
一方、図9Aに示す冷却材流路160は、リブ幅(R)が、1.0mm、リブ同士の間隔(P)が、3.0mmに短縮されている。すなわち、リブ同士の間隔(P)は、リブ幅(R)の3倍の長さであり、単位区間当たりにおけるリブ61,62の数が増加している。なお、図9Aに示す冷却材流路160において、流路横幅(W)、流路縦幅(H)、リブの傾斜距離(R)、リブ長さ(R)及びリブ高さ(R)は、図8Aに示す冷却材流路160と同寸である。
【0094】
図8Bに示すように、リブ同士の間隔(P)が5.0mmの冷却材流路160では、熱伝達係数が大きく増大した領域が、主として、冷却材流路160の壁面(160c)の中心側に位置しており、リブ列60に沿って蛇行して分布している。一方、熱伝達係数が顕著に増大した領域は、第1リブ61や第2リブ62の先端部、すなわち、冷却材流路160の壁面(160c)の中心付近に分布しており、取り分け、前縁60aに近い上流側の表面に集中している。図8Bに示す冷却材流路160では、全壁面における平均熱伝達率が、3.92×10[W/m/K]となる。
【0095】
これに対して、図9Bに示すように、リブ同士の間隔(P)が3.0mmに短縮された冷却材流路160では、第1リブ61や第2リブ62の先端部の表面のみならず、リブ同士の間の壁面(160c)においても、中心付近で熱伝達係数が顕著に増大している。また、熱伝達係数が顕著に増大した領域は、冷却材流路160の側壁面160a,160bの近傍においても拡大している。図9Bに示す冷却材流路160では、冷却材流路160の壁面の表面積が増大することにより、全壁面における平均熱伝達率が、4.10×10[W/m/K]に増大している。
【0096】
図8B及び図9Bが示すように、冷却材の流れ方向に沿ってあけられたリブ同士の間隔(P)が、冷却材の流れ方向に沿ったリブ幅(R)に対して狭く設けられていると、冷却材による伝熱面積が増大するだけでなく、冷却材の流れの再付着による冷却や、冷却材流路160の壁面(160c)に垂直な方向の対流熱伝達等が促進されるといえる。具体的には、冷却材流路160の壁面における最高温度は、135℃から127℃に低下し、基板の上面の最高温度は、155℃から146℃に低下する結果が得られる。
【0097】
したがって、第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材の流れ方向に沿ってあけられたリブ同士の間隔(P)が、冷却材の流れ方向に沿ったリブ幅(R)の5倍未満の長さであることが好ましく、2倍以上4倍以下の長さがより好ましく、凡そ3倍の長さであることがより好ましい。なお、凡そ3倍の長さには、同等の結果が見込まれる、2.5倍以上3.5倍以下の長さが含まれる。
【0098】
図10Aは、リブの形状の一例を示す冷却材流路の平面図、図10Bは、リブの形状の一例における熱伝達率の解析結果を示す図である。
図10Aにおいては、第1リブ61及び第2リブ62の形状を変えた一例を示している。また、図10Bにおいては、冷却材流路160の壁面と冷却材との熱伝達率(熱伝達係数)の高低をドットの疎密で示している。ドットの密度が中程度の領域は、乱流が促進されることにより熱伝達係数が大きく増大した領域、ドットの密度が高い領域は、熱伝達係数が80M[W/m・K]程度まで顕著に増大した領域を表す。図10Bにおける熱伝達率は、定常RANSにより前記と同様の条件で解析した結果である。
【0099】
図10Aにおいて、rは、冷却材の流れ方向についてのリブの屈曲点までの傾斜距離(リブ61,62の基端から屈曲点fpまでの後縁60bを斜辺とした対辺の長さ)、rは、冷却材の流れ方向に垂直な方向に沿ったリブの屈曲点までの長さ(リブ61,62の基端から屈曲点fpまでの後縁60bを斜辺とした隣辺の長さ)を示す。
【0100】
図10Aに示す第1リブ61及び第2リブ62は、前縁60aが平面視で屈曲点や変曲点を有しない直線状である一方、後縁60bが屈曲点fpを有する折れ線状である。そして、後縁60bの屈曲点fpよりも中心線側が冷却材の流れ方向の上流側に位置するように傾斜して前縁60aに隣接し、リブ61,62の先端部に鋭角を形成している。
【0101】
図10Aに示す第1リブ61及び第2リブ62について、リブの屈曲点までの傾斜距離(r)は、0.75mm、リブの屈曲点までの長さ(r)は、1.5mmが想定される。なお、図10Aに示す第1リブ61及び第2リブ62について、流路横幅(W)、流路縦幅(H)、リブ幅(R)、リブ同士の間隔(P)、リブの傾斜距離(R)、リブ長さ(R)及びリブ高さ(R)は、図8Aに示す冷却材流路160と同寸が想定される。すなわち、リブの屈曲点fpは、図10Aにおいては、前縁60aに平行な後縁60bの中点に対応する。
【0102】
図10Aに示すように、リブ61,62の先端部が鋭角な冷却材流路160では、図9Aに示す冷却材流路160と比較して、冷却材流路160の壁面(160c)の中心線付近において、第1リブ61と第2リブ62との間隔が広くなっている。そして、図10Bに示すように、熱伝達係数が顕著に増大した領域は、第1リブ61や第2リブ62の先端部の表面、リブ同士の間の壁面(160c)の中心付近、及び、冷却材流路160の側壁面160a,160bの近傍のそれぞれにおいて分布が拡大している。冷却材の流れ方向に垂直な方向(左右方向)における熱伝達率分布の対称性は、図9Aに示す冷却材流路160と比較して高くなっている。
【0103】
図10Bが示すように、第1リブ61及び第2リブ62の前縁60aと後縁60bとが、冷却材流路160の壁面の中心線側において鋭角を成して隣接していると、第1リブ61と第2リブ62との間隔が広くなり、リブ61,62の先端部の側面が、冷却材の流れ方向に垂直な方向(左右方向)の流れに対して抵抗を及ぼし難くなる。そのため、左右方向に流れる旋回流や剪断流が、間隔をあけて配列しているリブ毎に均等な周期で交互に逆方向に発達し易くなるといえる。
【0104】
したがって、第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材の流れ方向の上流側に位置する前縁60aと、冷却材の流れ方向の下流側に位置する後縁60bとが、冷却材流路160の壁面(160c)の中心線側において鋭角を成して隣接していることが好ましい。なお、リブ61,62の先端部の角度や、屈曲点等の位置は、リブ61,62が機能する範囲で適宜の角度や位置とすることが可能である。
【0105】
以上の冷却材流路160の構成を有する冷却構造によると、冷却材による除熱の効率が高く、約1.1×10[W/m/K]以上の熱伝達率を備える中性子発生装置用のターゲットを提供することができる。冷却材流路160の厚さは、5.0mm未満、3.0mm程度に短縮しても高い冷却能力を実現することが可能であり、ターゲット5を薄肉に設けることが可能である。また、第1リブ61及び第2リブ62の形状や配置を調整することにより、ターゲット材としてリチウムを用いる場合に、20〜40kW程度の高いビームパワーの照射を行ったとしても、リチウムの温度上昇を融点以下の低温に抑えることができる。
【0106】
なお、以上の冷却構造、中性子発生装置用のターゲットは、本発明に趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形、構成の置換、構成の省略等を行うことが可能である。
【0107】
例えば、前記の冷却構造は、前記の中性子発生装置用のターゲット5の他、その他の任意の被冷却部材を冷却対象として適用することが可能である。冷却対象である被冷却部材は、リブ列60やマイクロピット(微細穴)80を有する冷却材流路160を形成可能である限り、形状、寸法、材質等は特に限定されない。このような冷却構造において、冷却材流路160は、複数本が形成されていてもよいし、単一本が形成されていてもよい。前記の冷却材流路160の構成が備えられることにより、冷却材による除熱の効率が高い冷却構造を提供することが可能である。
【0108】
また、冷却材流路160及びリブ61,62は、前縁60aや後縁60bの根本が曲面で構成されていてもよい。リブ61,62が冷却材流路160の壁面から所定の曲率の曲面で立ち上がる形状とされることにより、冷却材の流れがリブ61,62に衝突して潜り込むとき、リブ61,62の根本付近に局所的に循環する二次流れが生じ難くなり、受熱した高温の冷却材の滞留が防止される。前縁60aや後縁60bの根本の曲率半径は、冷却材流路160の壁面の表面積を確保する観点から、リブ高さ(R)の50%以下とすることが好ましい。
【0109】
また、冷却材流路160及びリブ61,62は、形状、寸法が前記の形態に限定されるものでは無く、同等の冷却能力を得れる適宜の形状、寸法に設けることができる。また、リブ61,62は、適宜の間隔に設けることができる。第1リブ61及び第2リブ62は、冷却材流路160の右壁面160a及び左壁面160bのそれぞれと密着せず、僅かに隙間をあけて設けられていてもよい。隙間の一例としては、流路横幅(W)6.0mmに対して、0.5mm以下程度が想定される。
【0110】
また、マイクロピット(微細穴)80は、冷却材流路160の壁面に適宜の配置で設けられていてもよいし、リブ61,62の表面に適宜の配置で設けられていてもよいし、或いは、冷却材流路160に設けられていなくてもよい。
【0111】
また、前記の中性子発生装置用のターゲット5において、保持基板50は、第1基板51と第2基板52とが重ねられた構造を有し、冷却材流路160は、第2基板52に設けられた条溝120の上部が第1基板51で塞がれることにより形成されている。しかしながら、保持基板50は、例えば、凹部110が形成された第1基板と、条溝120が形成された第2基板と、条溝120を塞ぐ面を有する第3基板とが重ねられた構造としてもよい。すなわち、条溝120が形成された第2基板52とリブ列60が設けられた面を有する第3基板とを重ね、条溝120の上部を第3基板で塞ぐことにより冷却材流路160を形成し、これらに対して、凹部110が形成された第1基板を接合してもよい。第3基板の材質は、好ましくは銅又はその合金、より好ましくは銅である。第3基板の接合は、例えば、熱間静水圧(等方加圧)プレス、ろう接等によって行うことが可能である。
【0112】
また、前記の中性子発生装置用のターゲット5において、第1基板51の島部114は、平面視の形状が矩形状とされている。しかしながら、島部114は、直線及び曲線のいずれで構成される形状であってもよく、例えば、平面視の形状が、正方形、台形、平行四辺形、菱形、三角形、5角形や6角形等の多角形、円形、楕円形等の適宜の形状であってよい。島部114の形状は、複数の島部114について、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0113】
また、前記の中性子発生装置用のターゲット5において、第1基板51の島部114は、二方向に並列して行列状に配置されている。しかしながら、島部114は、その他の規則的な配置とされていてもよいし、不規則的な配置とされていてもよい。例えば、隣接する行列間で互い違いに配置させて千鳥配列させてもよい。また、6角形の島部114と6角形や円形の凹部110とをハニカム状に交互に六方配置させてもよい。或いは、島部114は、凹部110の中央から放射状に離散させて点対称に配列させてもよい。
【0114】
また、前記の中性子発生装置用のターゲット5は、前記の中性子発生装置100の他、その他の任意の構成の中性子発生装置に備えることができる。例えば、中性子減速照射部2は、減速材21、反射材22、遮蔽材23及びコリメータ24のそれぞれを適宜の形状や配置として構成してよい。
【符号の説明】
【0115】
100 中性子発生装置
1 荷電粒子線発生装置
1a イオン源
1b 加速器
2 中性子減速照射部
4 導管
5 ターゲット
6 荷電粒子線
7 集束レンズ
9 中性子線
21 減速材
22 反射材
23 遮蔽材
24 コリメータ
50 保持基板(基板、被冷却部材)
51 第1基板
52 第2基板
54 ターゲット材
56 金属箔
60 リブ列
60a 前縁
60b 後縁
61 第1リブ
62 第2リブ
80 マイクロピット(微細穴)
110 凹部
112 縁枠部
114 島部
120 条溝
131 第1貫通孔
132 第2貫通孔
133 第3貫通孔
134 第4貫通孔
136 注入孔
138 排出孔
160 冷却材流路
160a 右壁面
160b 左壁面
160c 上壁面
180a 底面
180b 側面
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B