特開2018-23326(P2018-23326A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2018023326-発酵物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-23326(P2018-23326A)
(43)【公開日】2018年2月15日
(54)【発明の名称】発酵物
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20180119BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20180119BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20180119BHJP
【FI】
   C12P21/00 A
   C07K14/78
   C07K1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-158100(P2016-158100)
(22)【出願日】2016年8月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔発行者〕 株式会社ヘルスビジネスマガジン 〔刊行物名〕 ヘルスライフビジネス 〔発行日〕 平成28年2月15日
(71)【出願人】
【識別番号】516046835
【氏名又は名称】株式会社ラビジェ
(71)【出願人】
【識別番号】591210622
【氏名又は名称】ヤヱガキ醗酵技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高垣 輝嘉
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】石原 伸治
(72)【発明者】
【氏名】平田 徹
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CB06
4B064CD20
4B064DA20
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA52
4H045EA15
4H045FA73
(57)【要約】
【課題】低分子化とは別の機能を合わせ持つコラーゲン原料を提供する。
【解決手段】本発明は、コラーゲンの乳酸菌による発酵物に関し、乳酸菌はラクトコッカス属微生物であることが好ましく、ラクトコッカス属微生物はラクトコッカス・ラクティスであることが好ましい。また、本発明は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、コラーゲンの低分子化方法に関する。また、本発明は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、アルギニン含量の低減方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンの乳酸菌による発酵物。
【請求項2】
乳酸菌がラクトコッカス属微生物である、請求項1に記載の発酵物。
【請求項3】
ラクトコッカス属微生物がラクトコッカス・ラクティスである、請求項2に記載の発酵物。
【請求項4】
コラーゲンが魚類由来のコラーゲンである、請求項1〜3のいずれかに記載の発酵物。
【請求項5】
発酵物において、コラーゲンの重量平均分子量が3200以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の発酵物。
【請求項6】
コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、コラーゲンの低分子化方法。
【請求項7】
コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、アルギニン含量の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵物に関し、特にコラーゲンの乳酸菌による発酵物に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは美容用途などに有用な素材として注目されており、なかでもコラーゲンを酵素によって低分子化したコラーゲンペプチドは、高分子のコラーゲンに比べて体内への吸収性が高まることが期待できることから、高機能のコラーゲン原料として知られている(特許文献1)。しかしながら、消費者の多様化するニーズに応えるためには、低分子化だけでは不充分であり、低分子化とは別の機能を合わせ持つコラーゲン原料を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−238365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低分子化とは別の機能を合わせ持つコラーゲン原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、コラーゲンを低分子化する方法について、種々検討したところ、コラーゲンを乳酸菌で発酵させると、コラーゲンが低分子化されるだけではなく、乳酸菌体の機能を合わせ持つことも期待でき、さらにアルギニン含量の低減も実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、コラーゲンの乳酸菌による発酵物に関する。
【0007】
乳酸菌はラクトコッカス属微生物であることが好ましい。
【0008】
ラクトコッカス属微生物はラクトコッカス・ラクティスであることが好ましい。
【0009】
コラーゲンは魚類由来のコラーゲンであることが好ましい。
【0010】
発酵物において、コラーゲンの重量平均分子量は3200以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、コラーゲンの低分子化方法に関する。
【0012】
また、本発明は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有する、アルギニン含量の低減方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コラーゲンを乳酸菌で発酵させることで、コラーゲンが低分子化され、得られた発酵物を摂取した場合において、体内への吸収性がより高まることが期待できる。また、本発明の発酵物には発酵工程で使用した乳酸菌も含まれるため、乳酸菌自体の機能を合わせ持つことも期待できる。さらに、該発酵により、アルギニン含量が原料コラーゲンに比べて低減されることも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた発酵物の分子量分布を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発酵物は、コラーゲンの乳酸菌による発酵物であることを特徴とする。
【0016】
コラーゲンとしては、特に限定されず、たとえば動物などから抽出したものが使用できる。由来する動物種についても特に限定されず、たとえばティラピア等の淡水魚類、タラ、鮭等の海水魚類、牛、豚等の哺乳動物、鶏等の鳥類が挙げられる。この中でも、魚類由来のものが好ましく、ティラピア由来のものがより好ましい。また、由来する部位についても特に限定されず、魚類を使用する場合には、たとえば鱗、皮、骨、軟骨、ひれ、臓器などが挙げられる。この中でも鱗が好ましい。
【0017】
また、コラーゲンとしては、前述したコラーゲンを酵素によって低分子化したコラーゲンペプチドを使用してもよい。コラーゲンペプチドを得るための酵素としては、特に限定されず、たとえばプロテアーゼ、ペプチダーゼ、コラーゲナーゼなどが挙げられる。これらの酵素は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。酵素反応の条件は特に限定されないが、温度は40℃以下が好ましく、35〜38℃がより好ましい。
【0018】
乳酸菌としては、コラーゲンを含む培地中で増殖するものであれば特に限定されず、たとえばラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属などに属する微生物が挙げられるが、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属が好ましい。ラクトコッカス属に属する乳酸菌としては、たとえばラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)などが挙げられるが、ラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズラクティスが好ましい。前述した属および種に該当する乳酸菌であれば市販品だけでなく、独自に分離した菌株でも使用することができる。
【0019】
発酵方法は、コラーゲンを含む培地を使用する限り、特に限定されず、たとえば静置培養、pHを一定にした中和培養や、回分培養、連続培養等、菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はない。
【0020】
必要に応じて発酵促進物質、例えば糖類、澱粉、デキストリンなどの炭素源、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源、ビタミン類、ミネラル類などを加えることができる。
【0021】
糖類としては、たとえばグルコース、アラビノース、ショ糖、乳糖、ソルビトール、フラクトース、トレハロースが挙げられる。なかでもグルコース、アラビノースを含有することが好ましい。
【0022】
培地中のコラーゲンの濃度は5〜40重量%が好ましく、15〜30重量%がより好ましい。糖類を使用する場合、使用量は培地中に0.1〜5重量%が好ましく、0.5〜2重量%がより好ましい。
【0023】
発酵温度は特に限定されないが、20〜42℃が好ましく、25〜37℃がより好ましい。42℃を超えると、培養できなくなる傾向があり、20℃未満では、培養時間が長くなる傾向がある。
【0024】
発酵時間は特に限定されないが、4〜120時間が好ましく、12〜48時間がより好ましく、18〜36時間がさらに好ましい。
【0025】
発酵時の雰囲気は限定されないが、好気条件下であることが好ましい。
【0026】
乳酸菌の増殖能および発酵能を活性化させるため、発酵工程前に乳酸菌を前培養することが好ましい。前培養は前述した発酵条件で行うことができる。
【0027】
前述の発酵工程終了後、得られた発酵物をそのまま用いることもできるが、必要に応じて、殺菌処理、濃縮処理を行ってもよい。また、発酵物の形態についても特に限定されず、液状、粉末状等の形態で用いることができる。
【0028】
前述の発酵工程によって、コラーゲンが低分子化される。本発明の発酵物は、低分子化されたコラーゲンとともに、発酵工程で使用した乳酸菌を含む点に特徴がある。また、原料コラーゲンに比べて、発酵物のアルギニン含量が低減する。ここで、発酵物のアルギニン含量とは、発酵物中の遊離アルギニン、および、低分子化されたコラーゲンの構成アルギニンの合計量をいう。アルギニン含量が低減する理由としては、コラーゲンが発酵により低分子化される際に遊離したアルギニンが、乳酸菌により代謝されることによるものと推測される。
【0029】
本発明の発酵物において、コラーゲンの重量平均分子量は3200以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の発酵物において、乳酸菌数は、固体基準で1.0×1010cfu/g以上が好ましく、1.5×1010cfu/g以上がより好ましく、2.5×1010cfu/g以上がさらに好ましい。
【0031】
本発明の発酵物において、アルギニン含量は5〜6g/100gが好ましく、5〜5.5g/100gがより好ましい。
【0032】
本発明の発酵物は、食品、飲料、医薬品、医薬部外品、化粧品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、栄養補助食品(サプリメント)、飼料などに適用可能である。これらの中でも食品、サプリメントが好ましい。食品の形態としては特に限定されず、たとえばゼリー、ドリンク、菓子、介護食などが挙げられる。サプリメントの形態としては、固形剤や液状剤などに適用可能であるが、錠剤、カプセル、顆粒等の固形剤が好ましい。このような食品やサプリメントを摂取することで、腸内環境改善作用、免疫賦活作用、美容・美肌作用などが期待できる。
【0033】
本発明のコラーゲンの低分子化方法は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有することを特徴とする。また、本発明のアルギニン含量の低減方法は、コラーゲンを乳酸菌で発酵させる工程を有することを特徴とする。発酵工程において、コラーゲン、乳酸菌は、前述のものを使用することができ、発酵は前述した条件で行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0035】
(比較例1)コラーゲンペプチドの作製
ティラピアの鱗を希塩酸中に1時間浸漬することで脱灰処理を行い、続いて苛性ソーダを用いて中和および水洗を行った。水洗後の鱗を熱水中に投入し、95℃で4時間以上かけてゼラチンを抽出した。得られたゼラチン溶液の固形分に対し、0.4〜0.8重量%のプロテアーゼを添加し38℃で酵素反応を行った。反応終了後、酵素反応液の固形分に対し1〜2重量%の活性炭を添加し、ろ過助剤として珪藻土を用いたフィルターろ過、減圧濃縮および加熱殺菌(85℃、15分)を行ったあと、スプレードライして粉末状のコラーゲンペプチドを得た。
【0036】
(実施例1)発酵物の作製
前培養として、比較例1で得られたコラーゲンペプチド25重量%、グルコース1重量%、残部を水とする培地100mlに、本発明者らが分離したラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズラクティス RT221株(Lactococcus lactis subsp.lactis RT221)を植菌し、30℃で24時間培養した。ついで、本培養として、比較例1で得られたコラーゲンペプチド25重量%、グルコース1重量%、残部を水とする培地に対して前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃で24時間培養した。培養終了後、加熱殺菌し、噴霧乾燥して、粉末状の発酵物を得た。
【0037】
(測定例1)乳酸菌数の測定
実施例1における、本培養終了後で加熱殺菌前の培養液に含まれる生菌数を、BCP寒天培地を用いて測定し、培養液の固形分と合わせて発酵物の重量当たりの菌数を算出した。
【0038】
実施例1で得られた発酵物の乳酸菌数は、1.6×1010cfu/gであった。
【0039】
(測定例2)重量平均分子量の測定
実施例1で得られた発酵物、および比較例1のコラーゲンペプチドの重量平均分子量を、下記の条件にてゲルろ過クロマトグラフィーによって測定した。分子量189〜12500の分子量マーカー(Gly−Gly−Gly:分子量189、Gly−Gly−Tyr−Arg:分子量451、AngiotensinII:分子量1046、Bacitracin:分子量1450、Aprotinin:分子量6512、Cytochrome C:分子量12500)の溶出時間から別途作成した検量線を用い、発酵物の溶出時間に基づき重量平均分子量を算出した。
【0040】
(ゲルろ過クロマトグラフィー試験溶液)
発酵物0.02gを採取し、45%アセトニトリル(0.1%トリフルオロ酢酸含有)10mlを加え、室温で一晩放置した後、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、得られた溶液を試験溶液とした。
【0041】
(ゲルろ過クロマトグラフィー分析条件)
機種:Shodex GPC−101(昭和電工株式会社製)
カラム:TSKgel G2500PWXL(東ソー株式会社製、300mm×7.8mm)
移動相:45%アセトニトリル(0.1%トリフルオロ酢酸含有)
流量:0.5ml/min
測定波長:220nm
【0042】
実施例1で得られた発酵物の重量平均分子量は2800であった。一方、比較例1のコラーゲンペプチドの重量平均分子量は3500であった。該コラーゲンペプチドを乳酸菌で発酵させることで、重量平均分子量が700低下することが分かった。なお、実施例1で得られた発酵物の重量平均分子量の分布を図1に示す。
【0043】
(測定例3)アミノ酸組成の測定
実施例1で得られた発酵物から乳酸菌をフィルターろ過したものを検体とし、該検体を常法で加水分解し、アミノ酸自動分析法でアミノ酸組成を測定した。同様の方法で、比較例1のコラーゲンペプチドのアミノ酸組成を測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
比較例1のアルギニン含量が8.36g/100gであるのに対し、実施例1のアルギニン含量は5.34g/100gに低減していた。アルギニン含量が低減した理由としては、コラーゲンペプチドが低分子化される際に遊離したアルギニンが、乳酸菌により代謝されたものと推測される。
図1