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特開2018-2505硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法、及びバナジウムレドックス二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-2505(P2018-2505A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法、及びバナジウムレドックス二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20171208BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20171208BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20171208BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20171208BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171208BHJP
【FI】
   C01G31/00
   H01M4/58
   H01M4/02 A
   H01M4/04 A
   H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-128041(P2016-128041)
(22)【出願日】2016年6月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大田 卓
(72)【発明者】
【氏名】中西 智洋
(72)【発明者】
【氏名】山村 朝雄
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AC06
4G048AC08
4G048AE05
4G048AE06
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA01
5H050CB01
5H050DA09
5H050DA18
5H050EA08
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】容易に製造することができ、不純物の含有量が少なく、また、水和数を一定化することができ、使用時の硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確になる硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法、及び該硫酸バナジウム(III )水和物を用いて電極を製造するバナジウムレドックス二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】3価のバナジウムイオン及び硫酸イオンを含み、水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度と前記バナジウムイオンの濃度との差が6.7mol/L以下である反応水溶液を調製し、前記反応水溶液を撹拌し、生成した硫酸バナジウム(III )水和物を反応水溶液から回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価のバナジウムイオン及び硫酸イオンを含み、水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度と前記バナジウムイオンの濃度との差が6.7mol/L以下である反応水溶液を調製し、
前記反応水溶液を撹拌し、
生成した硫酸バナジウム(III )水和物を前記反応水溶液から回収することを特徴とする硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項2】
3価のバナジウムイオンを含む硫酸水溶液と、酸性水溶液とを混合して前記反応水溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項3】
3価のバナジウムイオンを含み、硫酸を含まない水溶液と、硫酸水溶液とを混合して前記反応水溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項4】
3価のバナジウムの硫酸塩以外の3価のバナジウム化合物を硫酸水溶液に溶解して前記反応水溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項5】
3価のバナジウムの硫酸塩を水、又は酸性水溶液に溶解して前記反応水溶液を調製することを特徴とする請求項1に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項6】
前記3価のバナジウムの硫酸塩は無水硫酸バナジウム(III )であることを特徴とする請求項5に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項7】
前記差は、6mol/L以下であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項8】
回収した硫酸バナジウム(III )水和物を100℃以上300℃未満で乾燥させることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項9】
回収した硫酸バナジウム(III )水和物は、9水和物又は10水和物であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法により製造した硫酸バナジウム(III )水和物、炭素材料、及びバインダを用いて電極を製造することを特徴とするバナジウムレドックス二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法、及び該製造方法により製造された硫酸バナジウム水和物を用いて電極を製造するバナジウムレドックス二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、デジタル家電製品、電気自動車、ハイブリッド自動車及び太陽光発電設備等に広く用いられている。この電池として、リチウムイオン二次電池、バナジウムレドックス二次電池(特許文献1)等が挙げられる。バナジウムレドックス二次電池は、2組の酸化還元対を利用して、イオンの価数変化によって充放電を行う。活物質としては、バナジウムイオン又はバナジウムを含むイオンが用いられる。前記特許文献1においては、負極活物質として、V2 (SO4 3 水和物が用いられている。
【0003】
2 (SO4 3の製造方法は種々提案されている。
特許文献2、特許文献3には、V2 (SO4 3 無水物の製造方法が開示されている。しかし、無水物は水に溶解し難く、材料としては使用し難いという問題がある。そして、特許文献3の製造方法によれば、未反応の酸化物が残存するという問題があった。
【0004】
特許文献4、特許文献5には、V2 (SO4 3 水和物の製造方法が開示されている。特許文献4の場合、不純物が残存するという問題があり、特許文献5の場合、水和数が一定せず、V2 (SO4 3 の物質量の制御が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−69936号公報
【特許文献2】特開2001−57223号公報
【特許文献3】特許第3955130号公報
【特許文献4】特開2001−287913号公報
【特許文献5】特許第4185311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、容易に製造することができ、不純物の含有量が少なく、また、水和数を一定化することができ、使用時の硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確になる硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法、及び硫酸バナジウム(III )水和物を用いて電極を製造するバナジウムレドックス二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、3価のバナジウムイオン及び硫酸イオンを含み、水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度と前記バナジウムイオンの濃度との差が6.7mol/L以下である反応水溶液を調製し、前記反応水溶液を撹拌し、生成した硫酸バナジウム(III )水和物を前記反応水溶液から回収することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るバナジウムレドックス二次電池の製造方法は、上述の硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法により製造した硫酸バナジウム(III )水和物、炭素材料、及びバインダを用いて電極を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水に溶解し易い硫酸バナジウム(III )水和物を結晶化により容易に製造することができる。そして、硫酸バナジウム(III )水和物は反応水溶液から回収するので、生成物中の不純物の含有量が少ない。また、結晶化により取り込まれる水の数は一定しており、即ち水和数を一定化することができるので、硫酸バナジウム(III )水和物を使用するときの硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確になる。
【0010】
そして、本発明によれば、純度が高く、水和数が一定であり、硫酸バナジウム(III )の物質量を正確に求めることができ、物質量を制御することができる硫酸バナジウム(III )水和物を用いるので、容量等が正確に設計された電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るV2 (SO4 3 水和物の製造方法(1)を示すフローチャートである。
図2】実施の形態に係るV2 (SO4 3 水和物の製造方法(2)を示すフローチャートである。
図3】実施の形態に係るバナジウムレドックス二次電池の模式的平面図である。
図4図3のIV−IV線模式的断面図である。
図5】実施例7のXRD(X線回折:X‐ray diffraction)のチャートである。
図6】比較例4のXRDのチャートである。
図7】実施例7及び比較例4の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図8】生成物と、硫酸添加後の全硫酸イオン濃度と全バナジウムイオン濃度の差(S−V)との関係を示したグラフである。
図9】実施例14のXRDのチャートである。
図10】V2 (SO4 3 ・10H2Oを25℃、60℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、400℃夫々の温度で10分間保持した後のXRDのチャートである。
図11】示差熱分析を行った結果を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
1.硫酸バナジウム水和物(III )(以下、V2 (SO4 3 水和物という)の製造方法(1)
図1は、実施の形態に係るV2 (SO4 3 水和物の製造方法(1)を示すフローチャートである。
まず、3価のバナジウムイオン(以下、V3+という)を含む溶液(以下、V(III )溶液という)を準備する(S1)。V(III )溶液として、硫酸水溶液、硫酸を含まない水溶液が挙げられる。V3+の由来としては、V2 (SO4 3 、VМ(SO4 2 (M=H,NH4 ,アルカリ金属)等の無水物もしくは水和物、VCl3 、VOCl等のハロゲン化物、及びV2 3 等の酸化物、V(OH)3 、VOHSO4 、MV3 (SO4 (OH)(M=H3 O、アルカリ金属)等の水酸化物、バナジウム(V )もしくはバナジウム(IV)を水素、亜鉛、マグネシウム、硫黄等の還元剤もしくは電解還元によりバナジウム(III )まで還元した溶液等が挙げられる。
【0013】
次に、V(III )溶液に酸性水溶液を添加して、反応水溶液を調製する(S2)。
ここで、反応水溶液中の水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度と、V3+の濃度との差が6.7mol/L(以下、Mで示す)以下になるように、酸性水溶液を添加する。前記濃度の差は6M以下であるのがより好ましい。
【0014】
V(III )溶液が硫酸水溶液である場合、酸性水溶液として例えば硫酸水溶液、塩酸水溶液を用いる。S1で準備するV(III )溶液が硫酸水溶液であり、酸性水溶液として硫酸水溶液を用いる場合、V3+は酸濃度が高い硫酸水溶液には溶けにくいので、V(III )溶液の硫酸の濃度を低くし、S2で添加する酸性水溶液としての硫酸水溶液の硫酸の濃度を高くする。
S1で準備するV(III )溶液が硫酸を含まない水溶液である場合、酸性水溶液として硫酸水溶液を用いる。
【0015】
反応水溶液には有機溶媒を加えてもよい。有機溶媒としては、反応しないものを選択する。
反応水溶液には、必要に応じ、固相が存在してもよい。
【0016】
酸性水溶液を添加した後、1〜10時間程度、撹拌を行う(S3)。撹拌時間は、反応水溶液の液量、硫酸濃度、及びバナジウムの濃度等に基づいて決定する。
撹拌時の温度も特に限定されるものではないが、反応水溶液の流動性、並びにV2 (SO4 3 水和物が良好な収率で得られるという観点から、室温から120℃までの温度が好ましく、40℃から100℃までの温度がより好ましい。
【0017】
所定時間の撹拌後、反応水溶液中で析出したV2 (SO4 3 水和物を、反応水溶液を濾過することにより濾別する(S4)。
濾別したV2 (SO4 3 水和物をエタノール等により洗浄し(S5)、精製されたV2 (SO4 3 水和物を得る。得られた硫酸バナジウムの水和数として、例えば9、又10が挙げられる。
【0018】
以上の製造方法(1)によれば、水に溶解し易いV2 (SO4 3 水和物を結晶化により、容易に短時間に製造することができる。そして、V2 (SO4 3水和物は反応水溶液から回収するので、不純物の含有量が少ない。また、結晶化により取り込まれる水の数は一定しており、即ち水和数を例えば9又は10等に一定化することができるので、V2 (SO4 3 水和物を使用するときの硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確であり、物質量の制御が容易である。
本発明の製造方法(1)によれば、廃棄された負極電極からV2 (SO4 3 を回収してV(III )溶液を得、V2 (SO4 3 を精製することも可能である。
【0019】
2.V2 (SO4 3 水和物の製造方法(2)
図2は、本発明の実施の形態に係るV2 (SO4 3 水和物の製造方法(2)を示すフローチャートである。
3価のバナジウム化合物(以下、V(III )化合物という)の固体粉末を準備する(S11)。
V(III )化合物として、V2 (SO4 3 、VМ(SO42(M=H,NH4,アルカリ金属)等の無水物もしくは水和物、VCl3 、VOCl等のハロゲン化物、V2 3 等の酸化物、V(OH)3 、VOHSO4 、MV3 (SO4 (OH)(M=H3O、アルカリ金属)等の水酸化物、V(III)を含む溶液を乾燥により固化させたもの等が挙げられる。
【0020】
V(III )化合物を、硫酸水溶液、塩酸水溶液等の酸性水溶液、又は水を添加して反応水溶液を調製する(S12)。
ここで、反応水溶液中の水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度とV3+の濃度との差が6.7M以下になるように、酸性水溶液、又は水を添加する。前記濃度の差は6M以下であるのがより好ましい。
V(III )化合物が硫酸塩である場合、酸性水溶液、又は水を添加する。V(III )化合物がハロゲン化物、又は酸化物である場合、硫酸水溶液を添加する。
【0021】
反応水溶液には有機溶媒を加えてもよい。有機溶媒としては、反応しないものを選択する。
反応水溶液には、必要に応じ、固相が存在してもよい。
【0022】
酸性水溶液を添加した後、1日〜2日程度、撹拌を行う(S13)。撹拌時間は、反応水溶液の液量、硫酸濃度、及びバナジウムの濃度等に基づいて決定する。
撹拌時の温度も特に限定されるものではないが、反応水溶液の流動性、並びにV2 (SO4 3 水和物が良好な収率で得られるという観点から、室温から120℃までが好ましく、40℃から100℃までがより好ましい。
【0023】
所定時間の撹拌後、反応水溶液中で析出したV2 (SO4 3 水和物を、反応水溶液を濾過することにより濾別する(S14)。
濾別したV2 (SO4 3 水和物をエタノール等により洗浄し(S15)、精製された硫酸バナジウム水和物を得る。
【0024】
以上の製造方法(2)によれば、V2 (SO4 3 水和物を結晶化により、容易に短時間に製造することができる。そして、V2 (SO4 3 水和物は反応水溶液から回収するので、不純物の含有量が少ない。また、水和数を一定化することができるので、V2 (SO4 3 水和物を使用するときの硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確であり、物質量の制御が容易である。
【0025】
上述の製造方法(1)又は(2)で得られたV2 (SO4 3 水和物は、100℃以上300℃未満で乾燥させてもよい。
乾燥温度が300℃を超えた場合、V2 (SO4 3 水和物が三方晶のV2 (SO4 3無水物に変わるので、乾燥温度は300℃未満にする。
乾燥温度が150℃以上300℃未満である場合、アモルファス状になり、水和数が不定になり、また、吸湿し易くなるので、乾燥温度は150℃以下であるのが好ましい。乾燥温度は100℃以下であるのが好ましい。
【0026】
得られたV2 (SO4 3 水和物は、濃硫酸と共存させて脱水することにより、V2 (SO4 3 無水物にすることもできる。V2 (SO4 3 水和物が不純物を含まず、精製度が高いので、得られるV2 (SO4 3 無水物の精製度も高い。
【0027】
3.バナジウムレドックス二次電池
図3は実施の形態に係るバナジウムレドックス二次電池の模式的平面図、図4図3のIV−IV線模式的断面図である。
図3及び図4に示すように、実施の形態に係るバナジウムレドックス二次電池1(以下、電池1という)は、外装袋2と、外装袋2の周縁部の一部から突出した正極端子3及び負極端子4と、正極の電極材5と、負極の電極材6とを備える。正極端子3,負極端子4は、基端部側がシール材30,40に覆われた状態で、外装袋2の周縁部の一部から突出している。この電池1単体、又は該電池1と他の電池1とを組み合わせてケース(不図示)に収容してもよい。
【0028】
電極材5は、電極50、導電体51、保護層52、及びシーラント54を備える。
導電体51は角型平板状をなし、前記外装袋2の、図4における下側の半体22の上面に配されており、導電体51の上面は保護層52により覆われている。保護層52の上面の周縁部の内側には、活物質、導電助剤としての炭素材料、バインダ、及び水系電解液を有する角型平板状の電極50が設けられている。
シーラント54は縁部を有する枠状をなし、前記周縁部及び半体22に接着されており、半体22及び保護層52とにより導電体51を封止する。
【0029】
以下、電極材5の各部、及び外装袋2の半体22について詳述する。
半体22は電解液非透過性である。半体22は、合成樹脂層及び金属層を含有するラミネートシートからなるのが好ましい。
合成樹脂層の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド等が挙げられる。金属層の材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、鉄、ステンレス、チタン、チタン合金等が挙げられる。
【0030】
導電体51の平面面積は半体22の平面面積より小さい。
導電体51は、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属箔からなるのが好ましい。
導電体51は、周縁部の一部から突出したタブ(不図示)を有し、タブの先端部は正極端子3に接続されている。
【0031】
保護層52は、導電体51の一面に、グラファイトシートを例えば導電性の接着シートを介し設けてなる。
なお、保護層52の材質はグラファイトシートには限定されない。保護層52は導電性かつ電解液非透過性であればよく、導電性フィルム、シート状の導電性ゴムを用いることにしてもよい。また、導電体51の一面に黒鉛でコーティングすることにより、保護層52を形成することにしてもよい。また、水系電解液が酸性又はアルカリ性ではなく、導電体51が腐食等される虞がない場合は、保護層52を備えていなくてもよい。
【0032】
なお、本実施の形態において、以後、符号を付さずに単に「集電体」と記載するときは、「導電体51(又は61)及び保護層52(又は62)」、又は「導電体51(又は61)単体」、を意味する。
【0033】
電極50は、上述したように保護層52の上面の周縁部の内側に、即ち保護層52の上面の周縁部以外の部分に設けられている。
電極50は、炭素材料と、酸化還元反応によって、5価及び4価の間で酸化数が変化するバナジウム(V)イオン、又は5価及び4価の間で酸化数が変化するVを含むイオンを含有するバナジウム固体塩を正極活物質として含有する固体状の化合物を含む。
【0034】
5価及び4価の間で酸化数が変化する前記Vを含むイオンとしては、VO2+(IV)、VO2+(V )が例示される。
正極用の活物質であるバナジウム化合物としては、硫酸酸化バナジウム(IV)(VOSO4 ・nH2 O)、硫酸酸化バナジウム(V)((VO2 2 SO4 ・nH2 O)を挙げることができる。なお、nは0から6の整数を示す。
【0035】
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVDF/HFP)等が挙げられる。
【0036】
電極50の炭素材料としては、アセチレンブラック,ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック、及びグラファイト等が挙げられる。炭素材料は1種又は2種以上を用いることができる。
電極50に含まれる水系電解液は、硫酸水溶液であるのが好ましい。硫酸水溶液として、例えば濃度が90質量%未満の硫酸を用いることができる。電解液は、電池のSOCを0〜100%まで取り得るのに過不足のない量である。電解液の量は、例えばバナジウム化合物100gに対して、2Mの硫酸70mLである。
【0037】
シーラント54は上述したように枠状をなし、角筒状の枠本体の上端部に、内側に張り出した内側縁部54aを備え、枠本体の下端部に、外側に張り出した外側縁部54bを備える。即ち、シーラント54は平面視で、内側縁部54a(電極50の外側部分)の外側に、外側縁部54bが位置するように構成されている。
【0038】
シーラント54の内側縁部54aは保護層52の上面の周縁部に接着されており、内側縁部54aの内側面は電極50の側面に接着されている。
外側縁部54bは半体22の導電体51側の面の、導電体51の外側に接着されている。これにより、導電体51及び保護層52は、半体22とシーラント54とに挟着されている。即ち、半体22、保護層52、及びシーラント54により、導電体51は封止された状態で、導電体51は半体22に固定されている。なお、導電体51の側面はシーラント54に接着されていてもよく、接着されていなくてもよい。
【0039】
シーラント54の材料としては、例えばポリプロピレン又はポリエチレン等が挙げられる。ポロプロピレン又はポリエチレン等を用いることにより、熱溶着で容易に導電体51を封止することが可能となる。
【0040】
電極材6は電極材5と同様の構成を有し、電極60、導電体61、保護層62、及びシーラント64を備える。導電体61は角型平板状をなし、外装袋1の半体21の図4における下面に配されており、導電体61の下面は保護層62により覆われている。保護層62の下面の周縁部の内側には、活物質、炭素材料、バインダ、及び水系電解液を有する角型平板状の電極60が設けられている。シーラント64は枠状をなし、角筒状の枠本体の下端部に、内側に張り出した内側縁部64aを備え、枠本体の上端部に、外側に張り出した外側縁部64bを備える。内側縁部64aは前記周縁部に接着され、外側縁部64bは半体21に接着され、シーラント64は半体21及び保護層62とにより導電体61を封止する。
電極材6の導電体61は、周縁部の一部から突出したタブ(不図示)を有し、タブの先端部は負極端子4に接続されている。
電極材6の導電体61、保護層62、及びシーラント64は電極材5と同様の材料を用いてなる。
【0041】
電極60は、炭素材料と、酸化還元反応によって、2価及び3価の間で酸化数が変化するVイオンを含むバナジウム固体塩を負極活物質として含有する固体状の化合物を含む。2価及び3価の間で酸化数が変化する前記VイオンとしてV3+が挙げられ、負極用の活物質であるバナジウム化合物として、上述の製造方法(1)又は(2)により得られたV2 (SO4 3 ・nH2 Oを用いる。なお、nは1から10の整数を示す。
【0042】
前記イオン交換膜7はシーラント54の内側縁部54aの上面、及びシーラント64の内側縁部64aの下面に接着されている。
イオン交換膜7は陰イオン交換膜であり、低い膜抵抗値を維持しつつ、イオン選択性が良好であり、水素イオン(プロトン)又は硫酸イオンを通過させることができる。
【0043】
電極材5のバナジウム化合物としてVOSO4 ・nH2 Oを用い、電極材6のバナジウム化合物としてV2 (SO4 3 ・nH2 Oを用いた場合、電池1の電極材5の電極50と電極材6の電極60との間において、下記式(1)及び(2)の反応が生じる。
正極:2VOSO4 ・nH2 O⇔(VO2 2 SO4 ・(n−2)H2 O+H2 SO4 +2H+ +2e- …(1)
負極:V2 (SO4 3 ・nH2 O+2H+ +2e- ⇔2VSO4 ・nH2 O+H2 SO4 …(2)
【0044】
前記式(1)及び(2)の反応を利用して電池1の充放電が行われる。このとき、正極端子3,負極端子4を介して、外部の負荷又は充電器等との間で充放電が行われる。式(1)及び(2)の反応においてイオン交換膜7を介して、電極50,60間でプロトンが移動する。
【0045】
4.バナジウムレドックス二次電池の製造方法
以下、実施の形態に係る電池1の製造方法について説明する。
電池1は、正極の電極材5と負極の電極材6とを各別に作製してもよく、単一の電極材を作製した後、正極側及び負極側のいずれに用いるかを使い分けし、電池1の組立後の通電によって、正極の電極材5及び負極の電極材6を形成してもよい。
【0046】
まず、炭素材料に、3価のバナジウム化合物として、上述の製造方法(1)又は(2)により得られたV2 (SO4 3 ・nH2 O、4価のバナジウム化合物としてのVOSO4 ・nH2 O、及びバインダを配合し、攪拌機により混合することにより混合粉を得る。炭素材料、活物質、及びバインダの組成は、要求される容量、乾燥条件、及び外部環境(気温、湿度)等に応じて決定する。
【0047】
次に、前記混合粉に水系電解液を配合し、プラネタリーミキサ等を用いて混練することにより、混練物を得る。
【0048】
前記混練物はロールプレス等により圧延成形され、電極形状に打ち抜かれて集電体に配置される。ここで、集電体としては、上述の「導電体51(又は61)単体」、及び「導電体51(又は61)及び保護層52(又は62)」等が挙げられる。
上述したように、電極材を電極材5用,電極材6用に使い分ける。
【0049】
なお、電極材5及び6は夫々、活物質、炭素材料、バインダ及び非水系溶媒を含有する溶液、半固体状物又は固体状物等を成形し、非水系溶媒を揮発させた後、酸性の電解液を含ませることにより形成してもよい。非水系溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)等が例示される。
【0050】
電極材5の電極50と電極材6の電極60との間にイオン交換膜7を配し、シーラント54,64を電極50,60の周囲に配する。
電極材5の集電体側に外装袋2の半体22を、電極材6の集電体側に半体21を配し、熱プレス等により、半体22,電極材5,イオン交換膜7,電極材6、及び半体21を一体化する。
【0051】
そして、半体21,22の周縁部の一部から正極端子3及び負極端子4が突出する状態で、周縁部を圧接し、接着することにより外装袋2が形成され、電池1が得られる。なお、半体21,22は最初から一体化されていてもよい。
【0052】
電池の組み立て後の通電により、正極の電極材5のバナジウム化合物の価数が4価、負極の電極材6のバナジウム化合物の価数が3価になる。
【0053】
以上のような製造方法によれば、純度が高く、また、物質量を正確に求めることができる、本発明の製造方法により製造された硫酸バナジウム(III )水和物を用いるので、容量等が正確に設計された電池1を得ることができる。
【0054】
さらに、本発明の製造方法により製造された硫酸バナジウム(III)水和物は結晶性であり、吸湿、潮解を起こしにくく、これを電極に用いた場合、電極成形時に溶媒と過剰に融和することがないために、過剰な粘性の増加が抑えられ、良好な成形性を有する電極の製造が可能である。
【0055】
また、本実施の形態においては、導電体51は、シーラント54、保護層52、及び半体22により封止され、電極50はイオン交換膜7と、シーラント54aとにより包囲されているので、電極50に含まれる酸性の電解液が導電体51に接触することがなく、導電体51の腐食が防止されている。同様に、導電体61は、シーラント64、保護層62、及び半体21により封止され、電極60はイオン交換膜7と、シーラント64aとにより包囲されているので、電極60に含まれる酸性の電解液が導電体61と反応することがなく、導電体61の腐食が防止されている。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0057】
1.製造方法(1)によるV2 (SO4 3 水和物の製造
以下、製造方法(1)によりV2 (SO4 3 水和物を製造した場合について説明する。
【0058】
[実施例1]
2 (SO4 3 を0.5M硫酸に溶解して、1MのV(III )硫酸水溶液を得、V(III )硫酸水溶液40mLに濃硫酸(95%)を20g添加して、反応水溶液を調製した。
反応水溶液を100℃で5時間撹拌した後、反応水溶液を濾過した。濾別された析出物はエタノールで洗浄し、80℃に設定した真空下の乾燥炉内で乾燥し、生成物(V2 (SO4 3 水和物)を得た。
【0059】
[実施例2]
1MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を25g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の生成物を得た。
[実施例3]
1MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を30g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の生成物を得た。
[実施例4]
2MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を20g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の生成物を得た。
[実施例5]
2MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を25g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の生成物を得た。
[実施例6]
2MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を30g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例6の生成物を得た。
[実施例7]
3MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を20g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例7の生成物を得た。
[実施例8]
3MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を25g添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例8の生成物を得た。
【0060】
[比較例1]
1MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を35g添加したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の生成物を得た。
[比較例2]
2MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を35g添加したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の生成物を得た。
[比較例3]
3MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を30g添加したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の生成物を得た。
[比較例4]
3MのV(III )硫酸水溶液に濃硫酸を35g添加したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4の生成物を得た。
【0061】
硫酸添加前の1M、2M、3MのV(III )硫酸水溶液につき、ICP−AES(発光分光分析法:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)により、V、Sの濃度(M)を分析した結果を下記の表1に示す。濃度の測定は、V(III )硫酸水溶液を2500倍に希釈して行った。
【0062】
【表1】
【0063】
各実施例及び各比較例の硫酸添加後の反応水溶液につき、ICP−AESによりV、Sの濃度(M)を分析した結果、及び(S−V:Sの濃度−Vの濃度)を算出した結果を下記の表2に示す。濃度の測定は、反応水溶液を軽く混ぜた後、1mL採取して9mLの水を添加し、さらに500倍に希釈した上で行った。表2の横軸はV(III )硫酸水溶液のV3+の濃度[M]、縦軸は添加する濃硫酸の質量[g]である。
【0064】
【表2】
【0065】
各反応水溶液により得られた生成物につき、ICP−AESによりV[%:質量%]、S[%:質量%]、S/V[モル比]を求めた結果を下記の表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
2 (SO4 3 ・9H2O、及びVH(SO4 2 ・4H2OのV[%]、S[%]、S/V[モル比]の理論値は下記の通りである。
2 (SO4 3 ・9H2
V[%]:18.5%
S[%]:17.4%
S/V[モル比]:1.5
VH(SO4 2 ・4H2
V[%]:16.1%
S[%]:20.3%
S/V[モル比]:2.0
上記理論値より、実施例2、4、5、7の生成物はV2 (SO4 3 ・9H2 Oであり、比較例1〜4の生成物はVH(SO4 2 ・4H2Oであり、実施例3、6、8はV2 (SO4 3 ・9H2OとVH(SO4 2 ・4H2Oとの混合物であることが分かる。
【0068】
図5は、実施例7のXRDのチャートである。チャートの横軸は2θ[°]、縦軸は強度である。図5の下側のチャートは、V2 (SO4 3 ・10H2 Oの標準チャートである。実施例7の生成物は、上記表3の元素分析の結果によりV2 (SO4 3 ・9H2 Oであることが確認されている。
【0069】
図6は、比較例4のXRDのチャートを示す。図6の下側のチャートは、VH(SO4 2 ・4H2 Oの標準のチャートである。図6より、比較例4の生成物はVH(SO4 2 ・4H2 Oであることが分かる。
【0070】
図7は、実施例7及び比較例4の生成物を0.025MV(III)になるように2M硫酸に溶解して調製した溶液の紫外可視近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。図7より、生成物の溶解性が良好で生成物がV(III)であること分かる。
【0071】
以上のXRD等によって同定された各実施例及び各比較例の生成物の内容を下記の表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
図8は、表2及び表4の結果に基づいて、生成物と、硫酸添加後の全硫酸イオン濃度と全バナジウムイオン濃度の差(S−V)との関係を示したグラフである。
図8より、(S−V)が6.7M以下である実施例の場合、V2 (SO4 3 ・9H2Oが生成され、(S−V)が7M以上である比較例の場合、VH(SO4 2 ・4H2 Oが生成されることが分かる。そして、生成物中のV2 (SO4 3 ・9H2 Oの純度を高くするために、(S−V)は6M以下であるのが好ましいことが分かる。
【0074】
下記表5に、生成物回収量(上段)と収率(下段)を示す。
収率は、生成物のV(III )の量を原料のV(III )溶液に含まれるV(III )の量で除することにより算出した。表5より収率が良好であることが分かる。
【0075】
【表5】
【0076】
次に、撹拌時の温度を変えた場合の、温度と生成物及び収率との関係を調べた結果について説明する。
[実施例9]
3MのV(III )硫酸水溶液50mLに濃硫酸(95%)を25g添加して、反応水溶液を調製した。
反応水溶液を室温(25℃)で5時間撹拌した後、濾過した。濾別された析出物はエタノールで洗浄し、80℃に設定した真空下の乾燥炉内で乾燥し、生成物(水和物)を得た。
[実施例10]
撹拌時の温度を40℃にしたこと以外は、実施例9と同様にして、実施例10の生成物を得た。
[実施例11]
撹拌時の温度を80℃にしたこと以外は、実施例9と同様にして、実施例11の生成物を得た。
[実施例12]
撹拌時の温度を100℃にしたこと以外は、実施例9と同様にして、実施例12の生成物を得た。
[実施例13]
撹拌時の温度を120℃にしたこと以外は、実施例9と同様にして、実施例13の生成物を得た。
【0077】
表6に、撹拌温度と、生成物、収率との関係を示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6より、撹拌温度が25℃〜120℃の場合、V2 (SO4 3 ・9H2Oが収率良く得られることが分かる。撹拌温度の上限は100℃であるのが好ましい。
【0080】
次に、撹拌の有無を変えた場合の生成物の生成量の関係を調べた結果について説明する。
[実施例14]
撹拌時間以外は、実施例9と同様にして、実施例14の生成物を得た。
[実施例15]
撹拌しないこと以外は、実施例9と同様にして、実施例15の生成物を得た。
【0081】
実施例14では撹拌開始5時間ほどで析出物が確認でき、1日後にはほぼ完全に析出した。
【0082】
実施例15では溶液調製後10日でようやく微量の析出物が確認できたが、2か月後にも完全な析出は確認できなかった。このことから、撹拌操作により反応速度が速くなり短時間で目的物を得られることが分かる。
【0083】
2.製造方法(2)によるV2 (SO4 3 水和物の製造
以下、製造方法(2)によりV2 (SO4 3 水和物を製造した場合について説明する。
[実施例16]
2 (SO4 310gに1Mの硫酸10gを添加し、この反応水溶液を100℃で24時間撹拌した後、濾過した。濾別された析出物はエタノールで洗浄し、80℃に設定した真空下の乾燥炉内で乾燥し、実施例16の生成物を得た。
[実施例17]
2 (SO4 310gに水6.1gを添加したこと以外は実施例16と同様にして実施例17の生成物を得た。
【0084】
図9は、実施例14のXRDのチャートである。チャートの横軸は2θ(°)、縦軸は強度である。図9の下側のチャートは、V2 (SO4 3 ・10H2 Oの標準チャートである。標準のチャートと比較することにより、生成物がV2 (SO4 3 ・10H2 Oであることが確認された。
【0085】
3.V2 (SO4 3 ・10H2 Oの温度変化
以下に、V2 (SO4 3 ・10H2 Oの温度変化を調べた結果を示す。
図10に、V2 (SO4 3 ・10H2 Oを25℃、60℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、400℃夫々の温度で10分間保持した後のXRDのチャートを示す。
図10より、温度が150℃以下である場合、V2 (SO4 3 ・10H2 Oであり、温度が200〜250℃である場合、アモルファス状であり、温度が300℃以上である場合、三方晶のV2 (SO4 3 であることが分かる。
【0086】
図11に、示差熱分析を行った結果を示すグラフを示す。
測定条件は以下の通りである。
昇温速度:5℃/min
温度範囲:室温〜400℃
雰囲気:大気
【0087】
図11より、温度150℃以下では、V2 (SO4 3 ・10H2Oであり、乾燥温度が150℃以上300℃未満である場合、アモルファス状になり、乾燥温度が300℃以上である場合、V2 (SO4 3 になることが分かる。
以上より、V2 (SO4 3 は、100℃以上300℃未満で乾燥させることができることが分かる。V2 (SO4 3 無水物に変わるので、乾燥温度は300℃を超えないようにする。
乾燥温度が150℃以上300℃未満である場合、アモルファス状になるので、乾燥温度は150℃以下であるのが好ましい。
【0088】
以上のように、本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、3価のバナジウムイオン及び硫酸イオンを含み、水酸化物イオンを除く陰イオンの濃度と前記バナジウムイオンの濃度との差が6.7mol/L以下である反応水溶液を調製し、前記反応水溶液を撹拌し、生成した硫酸バナジウム(III )水和物を前記反応水溶液から回収することを特徴とする。
【0089】
本発明においては、水に溶解し易い硫酸バナジウム(III )水和物を結晶化により容易に製造することができる。そして、硫酸バナジウム(III )水和物は反応水溶液から回収するので、不純物の含有量が少ない。また、結晶化により取り込まれる水の数は一定しており、即ち水和数を一定化することができるので、硫酸バナジウム(III )水和物を使用するときの硫酸バナジウム(III )の物質量の値が正確になる。
【0090】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、3価のバナジウムイオンを含む硫酸水溶液と、酸性水溶液とを混合して前記反応水溶液を調製することを特徴とする。
【0091】
濃度が高い硫酸水溶液にバナジウムイオンを溶解することは困難であるが、本発明においては、濃度が低い硫酸水溶液にバナジウムイオンを溶解した後、濃度が高い硫酸水溶液を混合して、容易にバナジウムイオンを含む反応水溶液を調製し、硫酸バナジウム(III )水和物を析出し易くすることができる。また、他の塩酸水溶液等の酸性水溶液を配合して反応水溶液を調製することができる。
【0092】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、3価のバナジウムイオンを含み、硫酸を含まない水溶液と、硫酸水溶液とを混合して前記反応水溶液を調製することを特徴とする。
【0093】
濃度が高い硫酸水溶液にバナジウムイオンを溶解することは困難であるが、本発明においては、バナジウムイオンを含み、硫酸を含まない水溶液に硫酸水溶液を混合するので、容易にバナジウムイオンを含む反応水溶液を調製することができる。
【0094】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、3価のバナジウムの硫酸塩以外の3価のバナジウム化合物を硫酸水溶液に溶解して前記反応水溶液を調製することを特徴とする。
【0095】
本発明においては、バナジウムイオンと硫酸との反応により硫酸バナジウム水和物が得られる。
【0096】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、3価のバナジウムの硫酸塩を水、又は酸性水溶液に溶解して前記反応水溶液を調製することを特徴とする。
【0097】
本発明においては、バナジウムの硫酸塩を結晶化させることで、容易に硫酸バナジウム水和物が得られる。
【0098】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、前記3価のバナジウム硫酸塩は無水硫酸バナジウム(III )であることを特徴とする。
【0099】
本発明においては、無水硫酸バナジウムを結晶化させることで、容易に硫酸バナジウム水和物が得られる。
【0100】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、前記差は、6mol/L以下であることを特徴とする。
【0101】
本発明においては、生成物中の硫酸バナジウム(III )水和物の収率が高くなる。
【0102】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、回収した硫酸バナジウム(III )水和物を100℃以上300℃未満で乾燥させることを特徴とする。
【0103】
本発明においては、硫酸バナジウムが無水物になることが防止された状態で、硫酸バナジウム水和物を精製することができる。
【0104】
本発明に係る硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法は、上述の製造方法において、回収した硫酸バナジウム(III )水和物は、9水和物又は10水和物であることを特徴とする。
【0105】
本発明の9水和物又は10水和物によれば、水に易溶であり、100℃以上で水和数が取れ得る。
【0106】
本発明に係るバナジウムレドックス二次電池の製造方法は、上述のいずれかの硫酸バナジウム(III )水和物の製造方法により製造した硫酸バナジウム(III )水和物、炭素材料、及びバインダを用いて電極を製造することを特徴とする。
【0107】
本発明においては、純度が高く、水和数が一定であり、硫酸バナジウム(III )の物質量を正確に求めることができる硫酸バナジウム(III )水和物を用いるので、容量等が正確に設計された電池を得ることができる。
【0108】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、3価のバナジウムイオンを含む硫酸水溶液に混合する酸性水溶液としては硫酸水溶液に限定されるものではなく、塩酸水溶液等の他の酸性水溶液を用いてもよい。例えば塩酸水溶液を用いる場合、硫酸イオンと塩化物イオンとの合計濃度と、バナジウムイオンの濃度との差が6.7mol /L以上になるように反応水溶液を調製する。
また、3価のバナジウム化合物としてV2 (SO4 3 を用いる場合に限定されるものではなく、VCl3 等のハロゲン化物、V2 3 等の酸化物を用いてもよい。
そして、バナジウムレドックス二次電池は、一対の電極材を備える場合に限定されず、複数対の電極材を備えることにしてもよい。また、シーラント54、64を備える場合に限定されない。
【符号の説明】
【0109】
1 バナジウムレドックス二次電池
2 外装袋
3 正極端子
4 負極端子
5、6 電極材
50 電極
60 電極
51、61 導電体
52、62 保護層
54、64 シーラント
7 イオン交換膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11